説明

定着部材、並びにこれを備えた定着装置及び画像形成装置

【課題】 トナー離型性、定着画像の高画質、及び高速立ち上がり性能を兼ね備えた定着部材の提供。
【解決手段】 電子写真方式の画像形成装置の定着装置に備えられた定着部材1であって、基材2表面に、空隙を有する炭素繊維含有フロロシリコーンゴムを含む弾性層3を備えたことを特徴とする定着部材1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着部材、並びにこれを備えた定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機やプリンタ等の電子写真方式の画像形成装置はフルカラー化の傾向にあり、その割合は徐々に高まりつつある。通常、電子写真方式のカラー画像形成装置は、記録媒体上に4色(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)のトナー像からなるカラー画像を形成する画像形成部と、形成されたトナー像を記録媒体上に定着させる定着装置とを備えている。定着装置は、記録媒体上のトナー像を加熱する加熱手段と、トナー像を記録媒体上に定着させる定着部材と、定着部材と定着ニップを形成する加圧部材とを備え、記録媒体が定着ニップを通過する際に、トナー像を加熱、加圧して記録媒体上に定着させる。
【0003】
定着部材としては、ベルト形状又はローラ形状のものが知られており、基体となる金属ローラ又は樹脂製のシームレスベルトの上に、耐熱性ゴムなどからなる弾性層を設けたもの、及び弾性層の上にさらに離型層を設けたものなどが用いられている。なお、一般に、ローラ形状の定着部材には、加熱手段をローラ内部に組み込んで一体化したもの(加熱定着ローラ)が使用されており、また、ベルト形状の定着部材にもベルトが掛け回されたローラ内部には加熱手段が組み込まれているものがよく知られている。
【0004】
定着部材は、フルカラーの多色トナー像(通常、4色のトナー像)を均一に加熱するため、トナー像に対して柔軟に密着し、効率よく熱を伝えることが必要となる。そこで、定着部材には、柔軟性と耐熱性を兼ね備えたシリコーンゴムを使用することが多い。しかし、シリコーンゴム自身は熱伝導性が低く、トナー像への熱伝導速度が遅くなる場合がある。トナー像への熱伝導が遅くなると、定着部材表面をトナー像の定着温度まで加熱するのに多くの時間が必要となり、高速機の場合には、熱の供給が間に合わなくなる。また、画像形成装置の立ち上がり速度が遅くなってしまうこともある。なお、定着装置の定着部材の温度上昇に対する立ち上がり速度が、電源投入時における画像形成装置全体の立ち上がりの律速になっていることが多い。
【0005】
上記の問題を解決する方法として、弾性層のシリコーンゴムに窒化アルミニウムや高密度炭素繊維などの高熱伝導率の充填剤を配合することで、シリコーンゴムの熱伝導率を向上させた定着部材(例えば特許文献1、2)が提案されている。しかし、熱の供給速度は向上できるものの、定着部材の比重が大きくなり、これに伴って熱容量が大きくなるため立ち上がり時間を短縮させることは困難であった。
【0006】
そこで、シリコーンゴムからなる弾性層に炭素繊維と空孔を含み、最表面にフッ素樹脂からなる離型層を設けたことを特徴とする定着部材(例えば特許文献3、4)が提案されている。しかしながら、フッ素樹脂は表面エネルギーが低く、非粘着性を有し、トナー離型性に優れてはいるが、硬度が高いために定着ニップにおいてトナーを熱と圧力によって記録媒体に定着させる際にトナー粒子を必要以上に押し潰して画像の解像度が低下したり、記録媒体表面の凹凸に追従しにくいために画質にムラが生じたりすることがある。
【0007】
上記の問題を解決する方法として、柔軟性を確保しながら、トナー離型性の優れたゴム離型層を有する定着用部材(例えば特許文献5)が提案されているが、熱伝導に関する問題は解決されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、定着部材におけるトナー離型性、定着画像の高画質、及び高速立ち上がり性能を兼ね備えた定着部材、並びにこれを用いた定着装置、及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、電子写真方式の画像形成装置の記録媒体上に担持されたトナー像を定着させるための定着部材であって、少なくとも基材と基材表面に積層された弾性層から構成され、該弾性層が少なくとも炭素繊維と空隙を含むシリコーンゴムから構成され、該シリコーンゴムがフロロシリコーンゴムである本発明の定着部材を見出した。本発明の定着部材は、画像形成装置の立ち上がり時間を短縮できることに加え、高画質な画像を出力できる。本発明の定着部材は、最外表面に炭素繊維と空隙を含まないフロロシリコーンゴムからなる離型層を設けることにより、さらに平滑で柔軟性に富み、記録媒体の種類によらず、高画質な画像を出力できる。なお、本発明における定着部材とは、ローラ、ベルト、シート等を指し、特に明記されない限り形状は限定されない。
【0010】
本発明の定着部材においては、弾性層及び離型層に用いるフロロシリコーンゴム中には、ジメチルシリコーンなどのようなフロロシリコーン以外のゴム成分を含んでいてもよいが、離型性の観点からはフロロシリコーン以外のゴム成分を含まないことが好ましい。
【0011】
また、本発明における弾性層及び離型層に用いるフロロシリコーンゴムは、フロロオルガノシロキサン重合単位のみから構成される純粋な(狭義の)フロロシリコーンゴムでもよく、フロロオルガノシロキサン重合単位以外の重合単位を含んだ広義のフロロシリコーンゴムでもよい。空隙を有するフロロシリコーンゴムは、フッ素樹脂と同等の離型性を保持しつつ、柔軟性に富んだ定着部材を形成できるため、記録媒体の特性に依存しない高画質な画像を出力することができる。
【0012】
本発明の定着部材においては、弾性層に含まれる炭素繊維は、弾性層中の熱伝導の経路となり、さらに、弾性層に空隙を設けたことにより、弾性層全体としては低熱容量部材となって温度上昇が早まり、良好な温度立ち上がり特性を有する定着部材を提供できる。
【0013】
弾性層の上に炭素繊維と空隙を含まないフロロシリコーンゴムからなる離型層を設けることにより、柔軟性を保持しつつ、定着部材の外表面の平滑性がさらに向上して、良好な定着部材を形成でき、記録媒体の特性に依存しない、より高画質な画像を出力することができる。なお、弾性層と離型層にいずれもフロロシリコーンゴムを用いているので、容易に層間の接着性を発揮できる。
【0014】
本発明の定着部材においては、弾性層に炭素繊維を混入させることにより、弾性層中の空隙の周囲に該炭素繊維による高熱伝導性部を形成することができ、定着部材の熱伝導性を改善し、高速の定着動作においても定着部材の温度を保つことができる。さらに、定着装置の電源投入時の立ち上がり時間を短縮することもできる。また、熱伝導率の向上には、熱伝導率の高い充填剤すなわち炭素繊維間の接触状態を向上させることが非常に重要である。本発明では、定着部材のニップ部における加圧圧縮時の変形により、炭素繊維間の熱的接触性が向上することを利用して、熱伝導率の可変性(加圧圧縮時に熱伝導率が変化して高くなること)を実現したものである。炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維等どのようなものでもよいが、ピッチ系炭素繊維が好ましい。
【0015】
本発明における弾性層の空隙率は、15〜85%とすることが好ましい。空隙率が小さすぎると弾性層の熱容量が大きくなって定着装置の立ち上がり速度が遅くなったり、十分な柔軟性を確保できなかったりする。一方、空隙率を大きくしすぎると、十分な強度や弾性を保てなくなることがある。また、空隙率を大きくしすぎると、弾性層表面に空隙が形成されやすくなり、弾性層の表面が平滑になり難く、高画質の画像が得られ難い。なお、本発明における空隙率ε(%)とは、空隙を含む材料全体の比重をρ1、空隙を含まないマトリックス部分の比重をρ2とした場合、下記数式(1)、
ε={(ρ2−ρ1)/ρ2}×100 ・・・数式(1)
で表される値である。
【0016】
本発明の定着部材における、定着操作中に記録媒体と接する面(最外表面)の十点平均粗さRz(μm)は、使用されるトナーの体積平均粒径(μm)、よりも小さいことが好ましい。十点平均粗さRzがトナーの体積平均粒径よりも小さければ、トナーが凹部に入り込んでしまうようなこともなく、画質に及ぼす影響が抑えられるためである。なお、定着部材の最外表面の十点平均粗さRzは、JIS B0601;1994によって測定すればよい。
【0017】
本発明における弾性層や離型層などの、定着操作中に記録媒体と接する面(最外表面)の十点平均粗さRzは、5μm以下であることが好ましい。最外表面の十点平均粗さRzが5μmを超えると、トナーの種類によっては定着画像に光沢ムラが発生しやすくなる傾向がある。最外表面の十点平均粗さRzは、弾性層の表面に前記の離型層を形成することにより、改善することができる。
【0018】
本発明の定着部材を備えた定着装置、さらに、この定着装置を備えた画像形成装置は、上述の本発明の定着部材の特性を有することができ、定着装置におけるトナーの離型性の向上、画像の光沢ムラ等の品質劣化の防止、電源投入時からの立ち上がり時間の短縮など、好適な画像形成を可能とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、トナー離型性、定着画像の高画質、及び高速立ち上がり性能を兼ね備えた定着部材、並びにこれを用いた定着装置、及び画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の定着部材の断面図である。 (a)は基材と弾性層のみを有する定着部材、(b)は基材と弾性層の間に中間層を有する定着部材である。
【図2】図1(a)の定着部材における伝熱の説明図である。 (a)は表面に炭素繊維が露出している例、(b)は表面に炭素繊維の露出がない例である。
【図3】本発明の離型層を有する定着部材の断面図である。 (a)は基材と弾性層と離型層のみを有する定着部材、(b)は基材と弾性層と離型層を有し、基材と弾性層の間に中間層を有する定着部材である。
【図4】図3(a)の定着部材における伝熱の説明図である。
【図5】本発明の定着装置の断面図である。
【図6】本発明の画像形成装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を、図面を参照にして具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で、変更、改良などをすることができる。
【0022】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1の定着部材の構成を示す断面図である。図1(a)は基材と弾性層のみを有する定着部材である。なお、実施形態1の定着部材は、ローラ状の形状をしているが、本発明における定着部材は、ローラ、ベルト、シート等どのような形状でもよい。図1(a)に示す定着部材1は、基材2の表面に、図示しないプライマー層を介して、空隙を有する炭素繊維含有フロロシリコーンゴムで構成された弾性層3を備えている。ここで、弾性層3の厚さは、好ましくは0.1〜4mm、さらに好ましくは0.5〜2mmである。厚さが0.1mm未満では十分な定着ニップ幅を形成できない場合があり、厚さが4mmを超えると熱伝導性の低下や、熱容量の増大を招き、画像形成装置の高速化や立ち上がりの迅速性に影響することがある。
【0023】
図1(b)は、基材2と弾性層3の間に中間層4を有する定着部材である。定着部材は、トナー像の接する面(記録媒体の接する面でもある。)が炭素繊維と空隙を含むフロロシリコーンゴムで構成されていれば、例えば、図1(b)のように、本発明における弾性層3とは異なる材料からなる中間層4を備えていてもよい。この場合は、中間層4が適度な弾性を有していれば、炭素繊維と空隙を含むフロロシリコーンゴムからなる弾性層は、上記の図1(a)における厚さよりも薄くすることができる。中間層4は、従来から知られている弾性層を利用することができる。この場合、中間層4は、熱伝導が良好で熱容量の小さい材料で形成することが好ましい。具体的な中間層4の素材としては、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等が挙げられ、弾性層3との密着性の観点からフロロシリコーンゴムが好適に用いられる。
【0024】
図2は、図1(a)における定着部材の微細構造と伝熱の様子を表す説明図である。この定着部材10では、基材16の上部に弾性層11が形成されている。弾性層11は、フロロシリコーンゴム12中に炭素繊維13を含ませた炭素繊維含有フロロシリコーンゴム12からなっており、炭素繊維含有フロロシリコーンゴムに多数の空隙14を形成して弾性層としている。空隙14は、独立気泡でも、連続気泡でもよい。なお、定着部材10の外径を調整するために弾性層11を研磨すると、図2(a)に示すように弾性層11の最外表面には炭素繊維13や空隙14が露出しやすい。最外表面が平滑になり定着画像におけるムラを軽減しやすいという観点からは、図2(b)に示すように炭素繊維13や空隙14が弾性層11'の最表面に露出していない構造とすることがより好ましい。一般に、弾性層11の表面を研削しなければ、弾性層11は図2(b)に示すような構造になっている場合が多いので、シリコーンゴムの発泡成形時に外径を考慮して弾性層11を形成するとよい。
【0025】
炭素繊維13は、フロロシリコーン12や空隙14に比べて熱伝導性がよいので、弾性層11は、全体として熱伝導性が良好である。特に、弾性層11中に空隙14を形成することにより、炭素繊維13が空隙14の周囲に沿って配向するため、短い炭素繊維13同士が接触して熱の伝導路となる。この熱の伝導路を通って、基材16側から弾性層11外表面に熱が移動しやすくなる。図2における符号15として示す曲線の矢印でこの熱の流れを模式的に表している。このように炭素繊維13により熱伝導性をよくするためには、弾性層11中の炭素繊維13の割合を、好ましくはフロロシリコーンゴム100重量部に対して炭素繊維1〜50重量部、特に好ましくは5〜40重量部とすればよい。なお、炭素繊維13の割合が1重量部より少ないと、熱伝導性の向上が見込めないので好ましくない。炭素繊維13の割合が50重量部を超えると、空隙14の形成による弾性の発揮が不十分になったり、高価になったりするので好ましくない。なお、さらに、弾性率の高い炭素繊維13により弾性層11が補強されることにより、弾性層11の圧縮永久歪みが低減され、弾性層11の寿命延長効果も得られる。なお、炭素繊維としては、PAN系炭素繊維よりもピッチ系炭素繊維の方が熱伝導性に優れるため好ましい。
【0026】
弾性体11中の空隙14は、炭素繊維含有フロロシリコーンゴムに十分な弾性を付与するとともに、弾性層11の熱容量を低下させている。空隙14は、通常は空気や窒素などの気体を含む空間であり、フロロシリコーン12や炭素繊維13に比べ非常に熱容量が小さい。この為、弾性体11中の空隙14の比率を大きくしてやれば、弾性体11の熱容量は小さくなり、定着装置の立ち上がり時間(定着装置が電源停止して放置されていた状態から、電源投入され加熱手段が定着部材を加熱して、定着部材が使用可能な温度になるまでの時間)が短くなる。
【0027】
弾性体41中の空隙44の割合は、弾性体41の空隙率15〜85%とすることが好ましい。空隙率が15%未満になると、弾性体41の熱容量を十分小さくできなかったり、弾性を確保できなかったりすることがある。一方、空隙率が85%を超えると、弾性体41の強度や剛性を保持できなくなったりすることがある。
【0028】
本発明におけるフロロシリコーンゴムは、フロロオルガノシロキサン構造(重合単位)、特に下記一般式(1)で表される構造(重合単位)を有するフロロオルガノシロキサン構造(重合単位)を主成分とする組成物が好ましく、その中には本発明の効果を損なわない範囲であれば、目的に応じて充填剤、老化防止剤、着色剤、可塑剤、ワックス、オイル等の添加剤を任意に添加することができる。なお、オルガノシロキサン構造(重合単位)は一般式(1)以外の重合単位、例えば一般式(2)または一般式(3)で表される構造(重合単位)などを有していても構わない。
【0029】
【化1】


(式中、nは0〜20の整数を表す。)。
【0030】
【化2】


(式中、R1、R2は、それぞれ脂肪族不飽和結合を有さない非置換または置換の一価炭化水素基であるが、互いに同一の基であっても、異なる基であってもよい。特に炭素数1〜8のものが好ましく、具体的にはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基などが挙げられ、特にメチル基、エチル基、フェニル基が好ましい。)。
【0031】
【化3】


(式中、R1は一般式(2)におけるR1と同じであり、R3は一価の脂肪族不飽和炭化水素基であり、具体的にはビニル基、アリル基、エチニル基などの炭素数2〜3のアルケニル基が挙げられ、特にビニル基が好ましい。)。
【0032】
フロロシリコーンゴム製造用の前記重合単位を有するポリオルガノシロキサンの性状としては、ミラブルでも、液状でも用いることができるが、部材の成型という観点からは、液状タイプが好適に用いられる。
【0033】
本発明における炭素繊維は、プリカーサー(炭素繊維の原料を繊維化したもの)を炭素化して得られるものであり、製法の条件によって様々な弾性率や強度、熱伝導率が得られる。その一例として、ピッチ系の炭素繊維としては、例えばGRANOC(R)ミルドXN−100−05M(50μm)、XN−100−15M(150μm)(日本グラファイトファイバー社製)等が挙げられる。PAN系の炭素繊維としては、例えば、トレカ(R)ミルドファイバーMLD−30、MLD−300、MLD−1000(東レ社製)、パイロフィルチョップドファイバー(三菱レイヨン社製)などが挙げられる。ピッチ系の炭素繊維は、熱伝導率500W/mK程度とされているが、PAN系の炭素繊維の熱伝導率は、最大でも50W/mK程度である。PAN系の炭素繊維に比べて1桁以上高い熱伝導率をもつピッチ系の炭素繊維を用いることにより、本発明の構成に必要な熱伝導率を良好に確保することができる。
【0034】
本発明における空隙は、弾性層中において気体が存在する部分を指し、発泡剤によって形成された気泡である場合や、熱可塑性のシェルで低沸点物質をコアとして封じ込めたマイクロカプセル構造の微粒子(発泡粒子)を膨張させた場合、樹脂やガラス等のバルーンのように予め大きさの決まった粒子を配合した場合も含む。
【0035】
発泡剤の一例としては、例えば重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム等の無機発泡剤、p、p'−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等の有機発泡剤が挙げられる。なお、水も発泡剤として用いることができる。発泡粒子の一例としては、例えば液状低沸点炭化水素をアクリロニトリル系樹脂のシェルで封じ込めたADVANCELL EMシリーズ(積水化学工業社製)、マツモトマイクロスフェアー(R)Fシリーズ(松本油脂製薬社製)等が挙げられる。バルーンの一例としては、例えばソーダ石灰硼珪酸ガラスからなる3M(TM)グラスバブルズ(住友スリーエム社製)、天然の火山ガラス質堆積物を原料とするシラスバルーン、アクリロニトリル系樹脂からなるマツモトマイクロスフェアー(R)F−DEシリーズ、MFLシリーズ(松本油脂製薬社製)、等が挙げられる。
【0036】
(実施形態2)
本発明の実施形態2の定着部材を図3に示す。図3は、図1と同様に、本発明の定着部材である定着ローラの断面図である。図3(a)の定着部材1は、図示しないプライマー層を介して、炭素繊維と空隙を含むフロロシリコーンゴムで構成された弾性層3の表層に、炭素繊維及び空隙を含まないフロロシリコーンゴムで構成された離型層5を設けてある。ここで、離型層5の厚さは、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは10〜100μmである。厚さが1μm未満では離型層5の耐久性が劣り、また定着部材1表面を十分平滑にすることが難しくなる。一方、厚さが100μmを超えると伝熱抵抗が大きくなってしまうため好ましくない。なお、離型層5を設けることにより、定着ローラ1の弾性層3の表面の十点平均粗さRzを5μm以下とすることが容易となる。
【0037】
なお、図3(a)は、弾性層3が単層の空隙を有する炭素繊維含有フロロシリコーンゴムから構成された定着部材の一例だが、弾性層3の一部には、例えば図3(b)のように異なる材料からなる中間層4が設けられていても構わない。
【0038】
実施形態2においても、弾性層3の厚さ、材質、中間層4の材質などは、実施形態1における定着部材と同じようにすればよい。
【0039】
図4は、図2と同じように、本実施形態の定着部材10'の一部を拡大して熱伝導の状態を説明する図である。定着部材10'は、図2における定着部材10と同じ基体16上の弾性層11の表面に、フロロシリコーンゴム12のみからなる(実質的に炭素繊維13と空隙14を含まないという意味)離型層17を備えている。それゆえ、本実施形態の定着部材10'は、実施形態1で説明したような、良伝熱性や、定着装置の立ち上がりの良さを備えている。そして、離型層17は、弾性層11の表面を覆い、炭素繊維13や空隙14をトナー像と直接触れさせないようにして、定着部材表面を滑らかにして、トナーの離型性(耐オフセット性)を向上させている。また、弾性層11の上に離型層17を設けたことで、トナー像との接触面の平滑性や記録媒体への追従性が向上することで、定着画像の画質も向上させることが可能となる。
【0040】
(実施形態3)
本発明の実施形態3は、本発明の定着部材を備えたローラ定着装置である。図5は、実施形態3の定着装置の断面図を表している。ローラ定着装置20は、本発明の定着部材である定着ローラ21の内部に、加熱手段であるハロゲンヒータ22を内蔵している。定着ローラ21には、温度センサー23が配置されている。加圧ローラ24は、定着ローラ21に圧接されており、記録媒体Pが通過してトナー像Tが定着されるニップ部を形成している。定着ローラ21は、基材である芯金25の表面に弾性層26が形成されており、実施形態1における定着部材と同じ構造である。加圧ローラ24は、芯金27の表面に耐熱性ゴムで形成された弾性層28と離型層29を順次設けてある。
【0041】
このローラ定着装置20は、図2を用いて説明したように、実施形態1に示すような本発明に係る定着部材21を採用しているので、定着部材21は、トナーの離型性が良く、高画質の定着画像が得られる。また、定着部材21は、ハロゲンヒータ22から弾性層26表面までの熱伝導がよく、定着ローラ21の熱容量も小さいので、定着装置起動時の立ち上がりが速く、高速の定着操作においても効果的に追随して、定着を行うことができる。さらに、このローラ定着装置20は、加圧ローラ26にも離型層29を設けており、加圧ローラ29側へのトナーオフセットも防止している。
【0042】
(実施形態4)
本発明に係る画像形成装置を実施形態4として説明する。図6は、本発明に係る定着装置を組み込んだ本発明の実施形態4に係る画像形成装置の概略図である。図6において、画像形成装置30は、トナー像を形成して記録媒体に転写する画像形成部と、記録媒体に転写された画像を定着させる定着装置とを有している。画像形成部は、静電潜像が形成される像担持体31、像担持体31に接触して帯電処理を行う帯電ローラ32、レーザービーム等の露光装置33、像担持体31上に形成された静電潜像にトナーを付着させる現像ローラ34、帯電ローラ32にDC電圧を印加するための電源35、像担持体31上のトナー像を記録媒体Pに転写処理する転写ローラ36、転写処理後の像担持体31をクリーニングするためのクリーニング装置37、像担持体31の表面電位を測定する表面電位計38等を備えている。定着装置39は、本発明に係る定着装置であり、加熱手段を含む定着ローラ40及び加圧ローラ41から構成されている。
【0043】
この実施形態の画像形成装置30では、回転する像担持体31の感光層を帯電ローラ32を用いて、一様に帯電させた後にレーザービーム等の露光装置33で露光して静電潜像を形成し、この静電潜像に現像ローラ34によってトナーを付着させて現像し、トナー像として記録媒体P上に転写する。そして、転写されたトナー像を有する記録媒体Pを定着ローラ40及び加圧ローラ41からなる定着装置39のニップ部で圧接し、記録媒体P上に付着しているトナー像を定着ローラ40の熱により軟化させつつ加圧して記録媒体P上に定着させ、排紙部へと排紙するように構成されている。この場合は、定着ローラ39として、本発明の定着部材が好適に用いられる。なお、図6の構成概略図では、定着部材はローラ形状であるが、ベルト形状でもよい。
【0044】
[実施例]
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例1]
(定着ローラの作製)
2液の付加硬化型フロロシリコーンゴム100重量部(以下、重量部を部と表記する。)に対して、ピッチ系炭素繊維XN−100−05M(日本グラファイトファイバー社製)を40部、弾性層の空隙率を任意に調整するために樹脂バルーンF−80DE(松本油脂製薬社製)を適宜配合したゴム組成物を調製した。次いで、アルミニウム製で内面に環状のリブを設けて補強した厚さ0.4mmの芯金(基材ローラ)の表面にシリコーンゴム用プライマーを厚さが0.5μmとなるように塗工した。プライマー処理した芯金をマンドレルに固定し、弾性層の厚さが2mmとなるように前記ゴム組成物を金型との間隙に注入した。その状態で175℃×10分間の1次加硫を行ない、その後200℃×4時間の2次加硫を経て、弾性層の空隙率が33%である定着ローラ(1)を得た。なお、定着ローラ(1)の弾性層の表面の十点平均粗さRz(JIS B0601:1994)は、4.6μmであった。
【0045】
(トナーに対する離型性と定着画像の画質の評価)
得られた定着ローラ(1)を、下記の代表的な市販の画像形成装置の定着ユニットの定着ローラと交換して、定着ローラ(1)のトナーに対する離型性(耐オフセット性)と定着画質の評価を行った。
評価条件は以下の通りである。
トナー画像形成装置:RICOH imagio MP C4500((株)リコー製)
トナーの体積平均粒径:6.0μm
画像形成原稿:ベタ画像(ブラック、600dpi、100%)
記録媒体:再生紙、マイリサイクルペーパーGP、A4サイズ((株)リコー製)
定着装置:RICOH imagio MF4570の定着ユニット((株)リコー製)
定着枚数:10,000枚。
【0046】
(トナーオフセット)
定着ローラ(1)の離型性の評価は、下記の基準で行った。定着装置における定着枚数が10、000枚に達した時点で、定着ローラ(1)の表面を目視で観察してトナーオフセットの有無を確認し、また、定着装置に白紙を通紙して、定着ローラ(1)表面から白紙に転写されたトナーの有無を目視により確認した。
トナーオフセット、白紙上のトナー、ともになし : ◎
トナーオフセット、白紙上のトナー、いずれかに微量あり : ○
トナーオフセット、白紙上のトナー、ともにあり : ×
定着ローラ(1)の評価結果は○であった。
【0047】
(定着ローラの立ち上がり時間の評価)
トナーに対する離型性と定着画像の画質の評価に用いた定着ユニットと同じ定着ユニットを用いて、定着ローラを定着ローラ(1)に代えて、定着ユニットの立ち上がり時間を測定した。定着ユニットの立ち上がり時間測定は、室温で一晩、電源OFFにしておいた定着ユニットに電源を投入して、定着ローラ表面が160℃に到達するまでの時間(秒)を測定した。なお、この定着ユニットの加熱源は、1,000Wのハロゲンヒータである。定着ローラ(1)の立ち上がり時間(温度上昇時間)は、26秒であった。
【0048】
(画像の光沢ムラ)
画質の評価については、定着枚数10,000枚目のベタ定着画像の光沢ムラを目視により確認し、下記の基準で評価した。
光沢ムラなし : ◎
光沢ムラわずかにあり : ○
光沢ムラあり : ×
定着ローラ(1)の評価結果は◎であった。
【0049】
以上の評価結果を、定着ローラ(1)の製造条件等とともに表1に示した。
【0050】
[実施例2]
実施例1において、ゴム組成物中の樹脂バルーンF−80DEの配合量を変化させて、弾性層の空隙率を33%から17%に変更した以外は、実施例1と同様にして定着ローラ(2)を作製した。作製した定着ローラ(2)の表面の十点平均粗さRz、トナーに対する離型性、定着画像の画質、及び立ち上がり時間を評価した。
【0051】
[実施例3]
実施例1において、1次加硫条件を175℃×10分に代えて130℃×5分とした後、実施例1で使用したフロロシリコーンゴムを、1次加硫したゴム組成物の表面に20μm塗布してから、実施例1と同様にして2次加硫した以外は、実施例1と同様にして定着ローラ(3)を作製した。作製した定着ローラ(3)の表面の十点平均粗さRz、トナーに対する離型性、定着画像の画質、及び立ち上がり時間を評価した。
【0052】
[実施例4]
実施例3において、ゴム組成物中の樹脂バルーンF−80DEの配合量を変化させて、弾性層の空隙率を33%から50%に変更した以外は、実施例3と同様にして定着ローラ(4)を作製した。作製した定着ローラ(4)の表面の十点平均粗さRz、トナーに対する離型性、定着画像の画質、及び立ち上がり時間を評価した。
【0053】
[実施例5]
実施例3において、ゴム組成物中の樹脂バルーンF−80DEの配合量を変化させて、弾性層の空隙率を33%から67%に変更した以外は、実施例3と同様にして定着ローラ(5)を作製した。作製した定着ローラ(5)の表面の十点平均粗さRz、トナーに対する離型性、定着画像の画質、及び立ち上がり時間を評価した。
【0054】
[実施例6]
実施例3において、ゴム組成物中の樹脂バルーンF−80DEの配合量を変化させて、弾性層の空隙率を33%から75%に変更した以外は、実施例3と同様にして定着ローラ(6)を作製した。作製した定着ローラ(6)の表面の十点平均粗さRz、トナーに対する離型性、定着画像の画質、及び立ち上がり時間を評価した。
【0055】
[実施例7]
実施例3において、ゴム組成物中の炭素繊維をピッチ系炭素繊維の代わりにPAN系炭素繊維トレカ(R)ミルドファイバーMLD−30(東レ社製)に変更した以外は、実施例3と同様にして定着ローラ(7)を作製した。作製した定着ローラ(7)の表面の十点平均粗さRz、トナーに対する離型性、定着画像の画質、及び立ち上がり時間を評価した。
【0056】
[比較例1]
実施例1において、ゴム組成物中の2液の付加硬化型フロロシリコーンゴムに代えて、2液の付加硬化型シリコーンゴムDY35−2083(東レ・ダウコーニング社製)とした以外は、実施例1と同様にして定着ローラ(7)を作製した。作製した定着ローラ(7)の表面の十点平均粗さRz、トナーに対する離型性、定着画像の画質、及び立ち上がり時間を評価した。
【0057】
[比較例2]
実施例1と同様に加硫まで行い、その後で弾性層表面にプライマーをスプレーで塗布し、30分の自然乾燥を経てPFAチューブ(膜厚30μm)を被せた。この成形体を200℃のオーブンで4時間加熱することで定着ローラ(6)を得た。得られた定着ローラ(8)の表面の十点平均粗さRz、トナーに対する離型性、定着画像の画質、及び立ち上がり時間を評価した。
【0058】
以上の評価結果を表1に纏めて示した。
【0059】
【表1】

【0060】
[結果の考察]
離型性については、フロロシリコーンゴムの離型層を有する実施例3〜7が特に優れている。フロロシリコーンゴムの離型層をもたない実施例1、2においては、微量のトナーオフセットが見られたが、実使用上は問題とならないレベルであった。しかし、シリコーンゴムの種類が異なり、炭素繊維や空隙が表面に露出しやすい比較例1では、著しいトナーオフセットが発生した。これにより、フロロシリコーンゴムの離型性向上効果、特にフロロシリコーンゴムの離型層による離型性向上の効果が確認できた。なお、PFAからなる離型層を設けた比較例2も、トナー離型性については問題が見られなかった。
【0061】
表面粗さRzは、炭素繊維や空隙が露出していると大きくなる傾向があり、フロロシリコーンゴムの離型層を設けることで小さくすることができた。しかし、実施例6のように空隙率が大きくなると離型層では相殺できないレベルの表面粗さとなり、結果として定着画像にも光沢ムラが生じてしまった。なお、実施例2、5においても若干の光沢ムラが見られたが、実使用上は問題とならないレベルであった。一方、比較例1ではトナーオフセットによる画質の劣化が認められ、比較例2では柚子肌のような光沢ムラが観察された。この光沢ムラは、PFAからなる離型層が紙表面の凹凸に追従できないために、定着時の圧力に差が生じたことに起因していると考えられる。
【0062】
立ち上がり時間(定着ローラの温度上昇時間)に関しては、実施例1〜6については、160℃まで到達する昇温時間が40秒以内に収まった。これにより、空隙率が15%以上である場合が、立ち上がり時間の短縮に有効であることが確認できた。これに対し、空隙率が15%未満であると、昇温にかかる時間がさらに長くなってくる。なお、PAN系の炭素繊維を配合した実施例7では、空隙率が33%でも、昇温時間が長かった。これは、PAN系の炭素繊維は熱伝導率を向上させる効果が少なかったことが原因と考えられる。
【0063】
上記の結果から分かるように、本発明の定着部材は、トナーとの離型性に優れており、且つ光沢ムラの無い高画質な定着画像が得られ、定着装置の立ち上がり時間を短くすることができ、特にこれらの性能のバランスを取りながら最適な定着部材とすることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 定着部材
2 基材
3 弾性層
4 中間層
10、10' 定着部材
11、11' 弾性層
12 フロロシリコーンゴム
13 炭素繊維
14 空隙
15 熱の流れ
16 基材
20 ローラ定着装置
21 定着ローラ(定着部材)
22 ハロゲンヒータ(加熱手段)
23 温度センサー
24 加圧ローラ
25 芯金(基体)
26 弾性層
27 芯金(基体)
28 弾性層
29 離型層
30 画像形成装置
31 像担持体
32 帯電ローラ
33 露光装置
34 現像ローラ
35 電源
36 転写ローラ
37 転写媒体
38 クリーニング装置
39 定着装置
40 定着ローラ
41 加圧ローラ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】
【特許文献1】特開2005−292218号公報
【特許文献2】特開2006−133576号公報
【特許文献3】特開2008−191557号公報
【特許文献4】特開2008−197585号公報
【特許文献5】特開2006−18173号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真方式の画像形成装置の定着装置に備えられた定着部材であって、
基材表面に、空隙を有する炭素繊維含有フロロシリコーンゴムを含む弾性層を備えたことを特徴とする定着部材。
【請求項2】
前記弾性層表面に、前記空隙および炭素繊維が露出していないことを特徴とする請求項1に記載の定着部材。
【請求項3】
前記弾性層の表面に、フロロシリコーンゴムを含む離型層を備えたことを特徴とする請求項1〜2に記載の定着部材。
【請求項4】
前記弾性層は、フロロシリコーンゴム以外のゴム成分を含まないことを特徴とする請求項1〜3に記載の定着部材。
【請求項5】
前記炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜4に記載の定着部材。
【請求項6】
前記弾性層は、空隙率が15〜85%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の定着部材。
【請求項7】
前記定着装置の記録媒体と接する面の十点平均粗さRzが、使用されるトナーの体積平均粒径よりも小さいことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の定着部材。
【請求項8】
前記定着装置の記録媒体と接する面の表面粗さが、十点平均粗さRzで5μm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の定着部材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の定着部材を備えたことを特徴とする定着装置。
【請求項10】
請求項9に記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−152303(P2010−152303A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122424(P2009−122424)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】