説明

定着部材およびその製造方法

【課題】搬送されるシートに圧接されて上記シートに画像を定着させる定着部材を作製する定着部材の製造方法であって、定着部材のゴム層から超微粒子が発生するのを抑制できるものを提供すること。
【解決手段】円筒状または環状の基材の外周面に、1次加硫としての射出成形によってゴム層を形成する(S1)。ゴム層にシートが圧接される領域の寸法を確保するための弾性をもたせるように、ゴム層に対する2次加硫を行う(S2)。その後、ゴム層の外周面に、シートの剥離を助けるための表層を設ける(S3,S4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は定着部材およびその製造方法に関し、より詳しくは、プリンタ、複写機、ファクシミリ装置などの電子写真方式の画像形成装置を構成する定着部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電子写真方式の画像形成装置では、作像時に数種類の化学物質が放出されることが知られている。放出される化学物質(化学エミッション)のうち代表的なものとしては、感光体の帯電時に発生するオゾンや、現像または定着時に発生するトナー粉塵などが挙げられる。従来は、これらの化学エミッションの発生源に対策を施して発生量自体を下げるか、発生したものを機外に放出させないようにフィルタを設けるなどの対策がなされてきた。例えば、特許文献1(特開平5−150605号公報)では、発生したオゾンをオゾン分解装置へ導くための仕切板が機内に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−150605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、最近、世界的な環境保護意識の高まりに伴って、電子写真方式の画像形成装置から、オゾンやトナー粉塵とは異なる超微粒子(Ultra Fine Particles;100nm以下の粒径をもつ。)が発生することが問題視されるようになってきた。これまでは、画像形成装置の機内において、そのような超微粒子がどこから発生しているのか不明であったため、効果的な対策がとられてこなかった。このため、上記超微粒子によって、機内や周囲の環境が汚染されてきたと考えられる。
【0005】
本願発明者が調査したところ、電子写真方式の画像形成装置では、そのような超微粒子が、主に定着装置で発生しており、より詳しくは、定着のためのニップ部を形成する定着部材(ローラやベルト)に含まれたゴム層から発生していることが分かった。
【0006】
そこで、この発明の課題は、定着部材のゴム層から超微粒子が発生するのを抑制できる定着部材の製造方法を提供することにある。
【0007】
また、この発明の課題は、そのような定着部材の製造方法によって作製され、ゴム層から超微粒子が発生するのを抑制できる定着部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで、図7(A)に例示するように、一般的な定着部材300は、円筒状の芯金(または環状の無端ベルト)からなる基材301と、この基材301の外周面を覆うように設けられたゴム層302と、このゴム層302の外周面を覆うように設けられた表層303との3層からなっている。この例では、基材301の内部空間に、定着部材300を所定の目標温度(180℃〜200℃の範囲内の定着温度)に加熱するためのヒータ305が設けられている。ゴム層302は、シリコーンゴム材料からなり、上記定着温度に対する耐熱性と、ニップ部の長さを確保するための弾性をもつ。表層303は、例えばPFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー)からなり、ニップ部を通過したシート(用紙などの記録材)の剥離を助ける。基材301の中心軸Cに沿った方向に関して、上記ゴム層302の端部302eと上記表層303の端部303eは、それぞれ上記基材301の端部301eよりも内側に位置している。
【0009】
本願発明者による調査では、図7(B)に示すように、基材301やゴム層302等がヒータ305によって加熱されると(熱線を符号Hで示す)、ゴム層302をなすシリコーンゴム材料から、超微粒子としてシロキサン(符号Gで示す)が発生することが分かった。通常は、PFAなどからなる表層303は超微粒子を透過しにくい性質(ガスバリア性)をもつので、シロキサンGはゴム層302の端部302eから噴出する。この噴出したシロキサンGが画像形成装置の機内や周囲の環境を汚染する。
【0010】
シロキサンとしては、ヘキサメチルジシロキサン(略語L2、分子式C18Si)、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(略語D3、分子式C18Si)、オクタメチルトリシロキサン(略語L3、分子式C24Si)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(略語D4、分子式C24Si)、デカメチルテトラシロキサン(略語L4、分子式C1030Si)、デカメチルシクロペンタシロキサン(略語D5、分子式C1030Si)、ドデカメチルペンタシロキサン(略語L5、分子式C1236Si)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(略語D6、分子式C1236Si)などが挙げられる。
【0011】
従来は、この種の定着部材300を作製する場合、図3(A)中のステップS101に示すように、まず、芯金からなる基材301の外周面にPFAからなる表層303をかぶせ、基材301と表層303との間の隙間にシリコーンゴムを流し込んで射出成形(この射出成形が1次加硫に相当する。)して、基材301、ゴム層302、表層303の3層構造を得る。その後、ステップS102に示すように、2次加硫を行って、ゴム層302の弾性や強度を確保するとともに、PFAからなる表層303をゴム層302に密着させている。
【0012】
このように、従来はPFAからなる表層303をかぶせた状態で2次加硫を行っているため、ゴム層302の中央部には、ゴム層302の端部に比して、シロキサンGが数倍多く残留した状態になっていると考えられる。
【0013】
そこで、上記課題を解決するため、この発明の定着部材の製造方法は、
搬送されるシートに圧接されて上記シートに画像を定着させる定着部材を作製する定着部材の製造方法であって、
円筒状または環状の基材の外周面に、1次加硫としての射出成形によってゴム層を形成し、
上記ゴム層に上記シートが圧接される領域の寸法を確保するための弾性をもたせるように、上記ゴム層に対する2次加硫を行った後、
上記ゴム層の外周面に、上記シートの剥離を助けるための表層を設けることを特徴とする。
【0014】
この発明の定着部材の製造方法では、上記ゴム層の外周面に上記表層を設ける前に、言い換えれば上記ゴム層の外周面が露出した状態で、上記ゴム層に対する2次加硫を行っている。したがって、上記2次加硫の工程で、上記ゴム層の外周面の全域から超微粒子としてのシロキサンが放出されて、上記ゴム層の全域における残留シロキサンが効果的に減少する。この結果、作製された定着部材では、上記ゴム層から超微粒子が発生するのが抑制される。したがって、シロキサンによって画像形成装置の機内や周囲の環境が汚染されるのを防止できる。
【0015】
一実施形態の定着部材の製造方法では、上記2次加硫を、200℃以上の温度で、かつ4時間以上の条件で行うことを特徴とする。
【0016】
この一実施形態の定着部材の製造方法では、上記2次加硫を、200℃以上の温度で、かつ4時間以上の条件で行うので、上記ゴム層の外周面の全域から超微粒子としてのシロキサンが容易に放出される。したがって、上記ゴム層の全域における残留シロキサンがさらに効果的に減少する。
【0017】
一実施形態の定着部材の製造方法では、上記2次加硫を、上記ゴム層が形成された上記基材をチャンバ内に収容した状態で、上記チャンバに接続された排気装置によって上記チャンバ内を減圧しながら行うことを特徴とする。
【0018】
この一実施形態の定着部材の製造方法では、上記2次加硫を、上記ゴム層が形成された上記基材をチャンバ内に収容した状態で、上記チャンバに接続された排気装置によって上記チャンバ内を減圧しながら行うので、上記ゴム層の外周面の全域から超微粒子としてのシロキサンが容易に放出される。したがって、上記ゴム層の全域における残留シロキサンがさらに効果的に減少する。
【0019】
一実施形態の定着部材の製造方法では、上記2次加硫を、上記チャンバ内の微粒子個数を粒子数計数器で観測しながら、上記チャンバ内の微粒子個数が1立方センチメートル当たり2000個以下になるまで行うことを特徴とする。
【0020】
この一実施形態の定着部材の製造方法では、上記2次加硫を、上記チャンバ内の微粒子個数を粒子数計数器で観測しながら、上記チャンバ内の微粒子個数が1立方センチメートル当たり2000個以下になるまで行う。具体的には、上記ゴム層から放出される超微粒子が尽きてきて、上記チャンバ内の微粒子個数がその値以下になるまで、上記2次加硫の条件(温度、圧力、時間)を設定する。そのようにした場合、上記ゴム層の全域における残留シロキサンがさらに効果的に減少する。
【0021】
この発明の定着部材は、
搬送されるシートに圧接されて上記シートに画像を定着させる定着部材であって、
円筒状または環状の基材と、この基材の外周面を覆うように設けられ、上記シートが圧接される領域の寸法を確保するための弾性をもつゴム層と、このゴム層の外周面を覆うように設けられ、上記シートの剥離を助ける表層との3層を含み、
上記基材上で周方向に対して垂直な幅方向に関して、上記ゴム層の中央部におけるシロキサン含有量が、上記ゴム層の端部におけるシロキサン含有量の2倍未満になっていることを特徴とする。
【0022】
この発明の定着部材では、上記基材上で周方向に対して垂直な幅方向に関して、上記ゴム層の中央部におけるシロキサン含有量が、上記ゴム層の端部におけるシロキサン含有量の2倍未満になっている。したがって、この定着部材では、従来の定着部材(ゴム層の中央部にシロキサンが数倍多く残留した状態になっている)に比して、ゴム層から超微粒子が発生するのを抑制できる。
【0023】
一実施形態の定着部材では、
上記基材上で周方向に対して垂直な幅方向に関して、上記ゴム層の中央部におけるシロキサン含有量と上記ゴム層の端部におけるシロキサン含有量とが実質的に等しく、
上記ゴム層の内径をミリメートル単位でa、上記ゴム層の外径をミリメートル単位でb、上記ゴム層の上記中央部と上記端部のシロキサン含有量をピー・ピー・エム単位でDとそれぞれ表すとき、
D<100×((2×b)/(b−a))−2.5×2
なる関係式が満たされていることを特徴とする。
【0024】
この一実施形態の定着部材では、上記関係式が満たされているので、上記ゴム層から超微粒子が発生するのを効果的に抑制できる。
【0025】
一実施形態の定着部材では、上記ゴム層と上記表層とがフッ素系接着剤を介して接着されていることを特徴とする。
【0026】
この一実施形態の定着部材では、上記ゴム層と上記表層とを接着しているフッ素系接着剤はシロキサンフリーであるから、このフッ素系接着剤がシロキサンの発生源となることがなく、望ましい。
【0027】
一実施形態の定着部材では、上記ゴム層に対して上記表層が周方向に回転するのを止める回転係止部を有していることを特徴とする。
【0028】
この一実施形態の定着部材では、上記ゴム層に対して上記表層が周方向に回転するのを止める回転係止部を有している。この回転係止部のお蔭で、定着部材による定着動作時に、搬送されるシートが上記定着部材に圧接されたとしても、上記ゴム層に対して上記表層が周方向に回転するのが禁止される。結果として、上記ゴム層と上記表層との接着剤による接着力をより弱いものとすることができる。あるいは、接着剤によって接着する必要性を無くすことができる。したがって、定着ローラの構成および製造方法を簡素化して、コストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の一実施形態としての定着ローラを備えた画像形成装置の全体構成を示す図である。
【図2】(A)は、上記定着ローラを中心軸に対して垂直に切断したときの断面構造を示す図である。(B)は、上記定着ローラを中心軸に沿って切断したときの断面構造を示す図である。
【図3】(A)は、定着ローラを作製するための従来のフローを示す図である。(B)は、この発明の一実施形態としての定着ローラの製造方法のフローを示す図である。(C)は、上記製造方法のフローにおいて2次加硫を行う装置の構成を示す図である。
【図4】図3(B)の製造方法によって作製された定着ローラのゴム層における残留シロキサン量を、上記定着ローラの軸方向位置に関して示す図である。
【図5】上記定着ローラのゴム層における残留シロキサン量と上記ゴム層の形状との関係を示す図である。
【図6】(A)は、変形例の定着ローラを中心軸に対して垂直に切断したときの断面構造を示す図であり、次の(B)におけるVIA−VIA線断面に相当する。(B)は、その定着ローラを中心軸に対して垂直な方向から見たところを示す図である。(C)は、その定着ローラの一部を中心軸に沿って切断したときの断面構造を示す図であり、(B)におけるVIC−VIC線断面に相当する。
【図7】(A)は定着ローラの一般的な構成を示す断面図、(B)は定着ローラのゴム層の端部から超微粒子としてのシロキサンが噴出する態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明の一実施形態の定着ローラを備えたカラータンデム方式の画像形成装置100の概略構成を示している。この画像形成装置は、スキャナ、コピー、プリンタなどの機能を備えた複合機であって、MFP(Multi Function Peripheral)と呼ばれるものである。
【0031】
この画像形成装置100は、本体ケーシング101内の略中央に、2個のローラ102、106に巻回された周方向に移動する環状の中間転写体としての中間転写ベルト108を備えている。2個のローラ102、106のうち、一方のローラ102は図において左側に配置され、他方のローラ106は図において右側に配置されている。中間転写ベルト108はこれらのローラ102、106によって支持されて矢印X方向に回転駆動される。
【0032】
中間転写ベルト108の下方には、図において左側から順に、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色トナーに対応する印字部としての作像ユニット110Y、110M、110C、110Kが並べて配置されている。
【0033】
各作像ユニット110Y、110M、110C、110Kは、それらが取り扱うトナー色の違いを除いて全く同様に構成されている。具体的には、例えばイエローの作像ユニット110Yは、感光体ドラム190と、帯電装置191と、露光装置192と、トナーを用いて現像を行う現像装置193と、クリーナ装置195とを一体にして構成されている。中間転写ベルト108を挟んで感光体ドラム190と対向する位置に、1次転写ローラ194が設けられている。画像形成時には、まず帯電装置191によって感光体ドラム190の表面が一様に帯電され、続いて、露光装置192によって、図示されない外部装置から入力された画像信号に応じて感光体ドラム190の表面が露光されて、そこに潜像が形成される。次に、現像装置193によって、感光体ドラム190の表面上の潜像が現像されてトナー画像となる。このトナー画像は、感光体ドラム190と1次転写ローラ194との間の電圧印加によって、中間転写ベルト108に転写される。感光体ドラム190の表面上の転写残トナーは、クリーナ装置195によってクリーニングされる。
【0034】
中間転写ベルト108が矢印X方向に移動するに伴って、各作像ユニット110Y、110M、110C、110Kによって中間転写ベルト108上に出力画像として4色のトナー画像が重ねて形成される。
【0035】
中間転写ベルト108の左側には、中間転写ベルト108の表面から残留トナーを取り除くクリーニング装置125と、このクリーニング装置125によって取り除かれたトナーを回収するトナー回収ボックス126とが設けられている。中間転写ベルト108の右側には、用紙のための搬送路124を挟んで2次転写部材としての2次転写ローラ112が設けられている。搬送路124のうち2次転写ローラ112の上流側に相当する位置に搬送ローラ120が設けられている。中間転写ベルト108上のトナーパターンを検出するためのトナー濃度センサとしての光学式濃度センサ115が設けられている。
【0036】
本体ケーシング101内の右上部には、トナーを用紙に定着させる定着部としての定着装置130が設けられている。定着装置130は、図1において紙面に対して垂直に延在する定着部材としての加熱ローラ132と加圧用部材としての加圧ローラ131とを備えている。加熱ローラ132は、加熱源としてのヒータ133によって所定の目標温度(この例では180℃〜200℃の範囲内の定着温度)に加熱される。加圧ローラ131は、図示しないばねによって加熱ローラ132へ向かって付勢されている。これにより、加圧ローラ131と加熱ローラ132とは定着のためのニップ部を形成している。トナー像が転写された用紙90がこのニップ部を通ることにより、その用紙90にトナー画像が定着される。加圧ローラ131と加熱ローラ132の温度は、それぞれこの例ではサーミスタからなる温度センサ135,136によって検出される。
【0037】
また、本体ケーシング101の下部には、出力画像が形成されるべき印字媒体としての用紙90を収容した給紙口としての給紙カセット116A,116Bが2段に設けられている。給紙カセット116A,116Bにはそれぞれ、用紙を送り出すための給紙ローラ118と、送り出された用紙を検出する給紙センサ117とが設けられている。なお、簡単のため、給紙カセット116Aにのみ用紙90が収容された状態を示している。
【0038】
本体ケーシング101内には、この画像形成装置全体の動作を制御するCPU(中央演算処理装置)からなる制御部200が設けられている。
【0039】
画像形成時には、制御部200による制御によって、用紙90は給紙ローラ118によって例えば給紙カセット116Aから搬送路124へ1枚ずつ送り出される。搬送路124に送り出された用紙90は、レジストセンサ114によってタイミングをとって、搬送ローラ120によって中間転写ベルト108と2次転写ローラ112との間のトナー転写位置へ送り込まれる。一方、既述のように、各作像ユニット110Y、110M、110C、110Kによって中間転写ベルト108上に4色のトナー画像が重ねて形成されている。上述のトナー転写位置に送り込まれた用紙90に、この中間転写ベルト108上の4色のトナー画像が、2次転写ローラ112によって転写される。トナー像が転写された用紙90は、定着装置130の加圧ローラ131と加熱ローラ132とが作るニップ部を通して搬送され、加熱および加圧を受ける。これにより、その用紙90にトナー画像が定着される。そして、トナー画像が定着された用紙90は、排紙ローラ121によって、排紙路127を通して本体ケーシング101の上面に設けられた排紙トレイ部122へ排出される。なお、この例では、両面印刷の場合に用紙90を再びトナー転写位置へ送り込むためのスイッチバック搬送路128が設けられている。
【0040】
図2(A),(B)は、上記画像形成装置100に含まれた定着部材としての定着ローラ132の一態様(符号10で表す)の断面構成を示している。より詳しくは、図2(A)は、定着ローラ10を中心軸Cに対して垂直に切断したときの断面構造を示し、図2(B)は、定着ローラ10を中心軸Cに沿って切断したときの断面構造を示している。
【0041】
この定着ローラ10は、円筒状の基材としての芯金11と、接着剤17を介してこの芯金11の外周面11aを覆うように設けられたゴム層12と、接着剤18を介してこのゴム層12の外周面12aを覆うように設けられた表層13との3層からなっている。芯金11の内部空間には、定着ローラ10を所定の目標温度(この例では、180℃〜200℃の範囲内の定着温度)に加熱する加熱源としてのヒータ(図1中のヒータ133に相当)が設けられている。
【0042】
芯金11は、アルミニウムまたは鉄等の金属材料からなる。芯金11の厚さは、この例では厚さが0.1mm〜5mm程度であるが、軽量化及びウォームアップ時間を考慮すると、0.1mm〜1.5mm程度であるのがより望ましい。芯金11の外径は、この例では10mm〜50mm程度に設定されている。
【0043】
ゴム層12は、シリコーンゴム材料からなり、上記定着温度に対する耐熱性と、用紙90が圧接される領域の寸法(ニップ部の長さ)を確保するための弾性をもつ。ゴム層12の厚さは、0.05mm〜2mmの範囲内であるのが望ましく、この例では0.2mm〜0.4mm程度である。
【0044】
表層13は、この例ではPFA(テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(エチレンテトラフルオロエチレン)等のフッ素系樹脂からなり、上記定着温度に対する耐熱性と、ニップ部を通過した用紙90の剥離を助ける離型性と、さらにゴム層12から発生した超微粒子を透過しにくい性質(ガスバリア性)とをもつ。表層13の厚さは、5μm〜100μmの範囲内であるのが望ましく、この例では30μm〜40μm程度に設定されている。
【0045】
芯金11の中心軸Cに沿った方向Y、すなわちこの定着ローラ10に圧接されるべき用紙90の幅方向Yに関して、ゴム層12の端部12eと表層13の端部13eは、それぞれ芯金11の端部11eよりも内側で、互いに同じ位置に位置している。
【0046】
この定着ローラ10を備えた画像形成装置では、定着ローラ10がヒータ133によって180℃〜200℃の範囲内の定着温度に加熱される。搬送される用紙90が定着ローラ10の外周面13aに圧接されて用紙90に画像が定着される。
【0047】
上記定着ローラ10は、図3(B)に示す製造方法のフローに従って作製されている。
【0048】
i) まず、図3(B)中のステップS1にて、円筒状の芯金11の外周面に、接着剤となるプライマ(この例では、安価なシリコーン系接着剤とする。例えばXP81−405(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社))17を塗布し、その上にゴム層12を射出成形によって形成する(この射出成形が1次加硫に相当する。)。
【0049】
ii) 次に、ステップS2にて、ゴム層12に用紙90が圧接される領域の寸法を確保するための弾性をもたせるように、ゴム層12に対する2次加硫を行う。
【0050】
この2次加硫は、ゴム層12が形成された芯金11を、図3(C)中に示す加硫装置のチャンバ31に収容した状態で行う。チャンバ31にはヒータ32が内蔵されており、このヒータ32によってチャンバ31内を加熱して昇温できるようになっている。チャンバ31内の温度は温度センサ35によって観測される。また、チャンバ31には排気装置としての排気ポンプ33が接続されており、この排気ポンプ33によって、チャンバ31内を排気して圧力を減圧できるようになっている。チャンバ31内の圧力(雰囲気圧力)は、圧力センサ36によって観測される。さらに、この例では、チャンバ31に、チャンバ内の微粒子個数を観測する市販の粒子数計数器(例えば東京ダイレック株式会社製の超微小粒子モニター(UFP)/3031)34が併設されている。粒子数計数器34は、チャンバ内の微粒子個数を計数する。温度センサ35によって観測されたチャンバ内の温度、圧力センサ36によって観測されたチャンバ内の圧力、粒子数計数器34によって観測されたチャンバ内の微粒子個数は、いずれもコントローラ30に入力される。
【0051】
コントローラ30は、加硫装置全体の制御を行う。具体的には、コントローラ30は、温度センサ35の出力に基づいて、チャンバ31内の温度が目標の加硫温度(この例では200℃以上)になるようにヒータ32を制御する。また、コントローラ30は、圧力センサ36の出力に基づいて、チャンバ31内の圧力が目標の圧力(この例では大気圧以下)になるように排気ポンプ33を制御する。さらに、コントローラ30は、図示しないタイマを内蔵しており、チャンバ内での処理時間が所定の時間(この例では4時間以上)になるように制御する。
【0052】
一つの例では、この2次加硫の条件は、通常のゴム製品の2次加硫条件と同様に、温度を200℃、圧力を大気圧、処理時間を4時間に設定して行う。
【0053】
iii) この後、図3(B)中のステップS3にて、2次加硫を経たゴム層12の外周面12aに、接着剤となるプライマ(この例ではフッ素系接着剤とする。例えばGLP−103SR(ダイキン工業株式会社))18を塗布し、その上に例えばPFAからなる表層13をかぶせる。
【0054】
ここで、フッ素系接着剤18はシロキサンフリーであるから、このフッ素系接着剤18がシロキサンの発生源となることがなく、望ましい。
【0055】
iv) 最後に、ステップS4にて、表層13に対する再加熱を行って、PFAからなる表層13を熱収縮させるとともに、接着剤18を介してゴム層12に密着させる。
【0056】
このようにして定着ローラ10を作製する。
【0057】
この定着ローラ10の製造方法では、ゴム層12の外周面12aに表層13を設けるステップS3の前に、言い換えればゴム層12の外周面12aが露出した状態で、ゴム層12に対する2次加硫を行っている。したがって、2次加硫の工程(ステップS2)で、ゴム層12の外周面12aの全域から超微粒子としてのシロキサンが放出されて、ゴム層12の全域における残留シロキサンが効果的に減少する。この結果、作製された定着ローラ10では、ゴム層12から超微粒子が発生するのが抑制される。したがって、シロキサンによって画像形成装置の機内や周囲の環境が汚染されるのを防止できる。
【0058】
また、2次加硫を、200℃以上の温度で、大気圧以下の圧力で、かつ4時間以上の条件で行えば、ゴム層12の外周面12aの全域から超微粒子としてのシロキサンが容易に放出されて、尽きてくる。この結果、ゴム層12の全域における残留シロキサンがさらに効果的に減少するので、望ましい。
【0059】
2次加硫の条件は、チャンバ31内の微粒子個数を粒子数計数器34で観測しながら処理を行ったとき、ゴム層12から放出される超微粒子としてのシロキサンが尽きてきて、チャンバ31内の微粒子個数が1立方センチメートル当たり2000個(つまり2000個/cc)以下になるような条件である。逆に言えば、チャンバ内の微粒子個数がその値(2000個/cc)以下になるように、粒子数計数器34で観測結果をコントローラ30へフィードバックして、2次加硫の条件(温度、圧力、時間)を設定するのが望ましい。これにより、作製された定着ローラ10の品質を安定化することができる。
【0060】
図4は、上述の製造方法によって作製された定着ローラ10のゴム層12について、定着ローラ10の中心軸Cに沿った方向Yに関する位置(軸方向位置)毎に測定した残留シロキサン量のデータD1を示している。図4の横軸(軸方向位置)は、中心軸Cに沿った方向Yに関して定着ローラ10のうちゴム層12が設けられている領域を10個に区画して定められている(参考のために、図2中にゴム層12の端部12eを含む区画Eを示している。)。図4の縦軸はゴム層12のシロキサン含有量(残留シロキサン量)を任意単位で表している。ゴム層12の残留シロキサン量は、成形ゴム試料を溶媒抽出法で調整して得た溶液をガスクロマトグラフによって分析し、低分子シロキサンを定量することにより求めた。なお、比較のために、図4中には、従来例の製造方法によって作製された定着ローラ300のゴム層302についてのデータD300を併せて示している。
【0061】
図4から分かるように、従来例の製造方法によって作製された定着ローラ300では、軸方向に関して端部の区画E,Fではゴム層の残留シロキサン量D300e,D300fが少ないが、内部Aの区画ではゴム層の残留シロキサン量D300aが多くなっている(中央部では端部に比して数倍以上多くなっている。)。これに対して、上述の製造方法によって作製された定着ローラ10では、軸方向に関して端部の区画E,F、内部Aの区画ともに、ゴム層の残留シロキサン量D10e,D10f,D10aが少なく、略一定になっている。
【0062】
このように、上述の製造方法によって作製された定着ローラ10では、ゴム層12の全域における残留シロキサンを効果的に減少させることができた。実際に、上述の製造方法によって作製された定着ローラ10では、ゴム層12の中央部におけるシロキサン含有量が、ゴム層12の端部におけるシロキサン含有量と実質的に等しく、バラツキを考慮してもゴム層12の端部におけるシロキサン含有量の2倍未満になっている、と言える。
【0063】
図5は、定着ローラのゴム層12における残留シロキサン量とゴム層12の形状との関係を示している。図5の縦軸はゴム層12のシロキサン含有量(残留シロキサン量)を表している。図5の横軸は形状因子S/V(mm−1)を表している。ここで、Sはゴム層12の表面積を意味し、Vはゴム層12の体積を意味する(定着ローラ10の中心軸Cに沿った方向Yに関する単位長当たりの量である。)。すなわち、ゴム層12の内径をミリメートル単位でa(mm)、ゴム層12の外径をミリメートル単位でb(mm)と表すとき、S=2π×bと表され、V=π×(b−a)と表される。
【0064】
上述の2次加硫の条件(温度は200℃、圧力は大気圧、処理時間は4時間)下では、ゴム層12(の例えば中央部)のシロキサン含有量をピー・ピー・エム単位でD(ppm)と表すとき、実験結果に対する曲線フィッティング(図5中に○印で表す測定データに対する曲線Dyのフィッティング)の手法により、
D=100×(S/V)−2.5
=100×((2×b)/(b−a))−2.5
という関係になっていることが分かった。つまり、バラツキを2倍として考慮しても、
D<100×((2×b)/(b−a))−2.5×2
なる関係式が満たされている、と言える。なお、この結果は、定性的には、表面積Sが多く、かつ体積Vが小さいほど、残留シロキサン量Dが少なくなることを意味している。
【0065】
図6(A),(B),(C)は、既述の定着ローラ10を変形した変形例の定着ローラ(符号10′で表す)を示している。図6(B)は、その定着ローラ10′を中心軸Cに対して垂直な方向から見たところを示している。図6(A)は、定着ローラ10′を図6(B)におけるVIA−VIA線に沿って中心軸Cに対して垂直に切断したときの断面構造を示している。図6(C)は、その定着ローラ10′の一部(図6(B)に示されている手前側の部分)をVIC−VIC線に沿って切断したときの断面構造を示している。図6(A),(B),(C)において、図2(A),(B)中の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して、個々の説明を省略する。
【0066】
この定着ローラ10′では、図2(A),(B)の例とは異なり、芯金11の中心軸Cに沿った方向、すなわちこの定着ローラ11に圧接されるべき用紙90の幅方向に関して、ゴム層12の端部12eが表層13の端部13eよりも芯金11の端部11eに近い位置にある。そして、ゴム層12に対して表層13が周方向Θ(図6(A)中に示す)に回転(空回り)するのを止める回転係止部を有している。詳しくは、図6(B)によって良く分かるように、表層13の端部13e近傍部分は、軸方向Yに関して凹凸に形成されて、−Y方向に対して突起した部分13gを有している。一方、ゴム層12の端部12e近傍部分は、軸方向Yに関して凹凸に形成されて、+Y方向に対して突起した部分12gを有している。この部分12gは、図6(C)によって良く分かるように、表層13の外周面13aの高さレベルまで盛り上がっている。そして、ゴム層12の端部12e近傍の突起部分12gと、表層13の端部13e近傍の突起部分13gとが歯車のように噛み合って、回転係止部を構成している。この構成により、ゴム層12に対して表層13が周方向Θ(図6(A)中に示す)に回転するのが禁止される。
【0067】
この定着ローラ10′を用いた定着動作時には、搬送される用紙90が定着ローラ10′に圧接されたとしても、ゴム層12の突起部分12gと表層13の突起部分13gとが互いに嵌合しているので、ゴム層12に対して表層13が周方向に回転することがない。結果として、ゴム層12と表層13との接着剤による接着力をより弱いものとすることができる。あるいは、接着剤によって接着する必要性を無くすことができる。
【0068】
この定着ローラ10′を作製する場合、図3(B)に示した製造方法のフローにおけるステップS3において接着剤を省略することができる(その場合を「接着剤なし/回転止め」と表している。)。
【0069】
このように、この定着ローラ10′では、定着ローラの構成および製造方法を簡素化して、コストダウンを図ることができる。
【0070】
なお、芯金11に対してゴム層12が周方向に回転(空回り)するのを止めるもう一つの回転係止部を設けても良い。この回転係止部としては、例えば、ゴム層12の突起部分12gと表層13の突起部分13gとの嵌合と同様に、芯金11の突起部分とゴム層12の突起部分とを噛み合わせても良い。また、芯金11の外周面11aに小孔や軸方向Yに沿って延びる溝を設けて、ゴム層12の一部がその小孔や溝に入り込んだ構成としても良い。また、芯金11の外周面11aに針状突起を設けて、この針状突起がゴム層12にくい込んだ構成としても良い。このようにした場合、芯金11とゴム層12とを接着剤によって接着する必要性を無くすことができる。その結果、定着ローラの構成および製造方法をさらに簡素化して、さらにコストダウンを図ることができる。
【0071】
上述の実施形態では、定着部材は円筒状の定着ローラであるものとした。当然ながら、これに限られるものではなく、本発明は、定着部材が環状の定着ベルトである場合にも好ましく適用される。
【0072】
また、上述の実施形態における加圧ローラも、定着部材として考えることもできる。定着ローラだけでなく、加圧ローラにもヒータを内蔵しても良い。
【0073】
また、この実施形態では、タンデム型のカラー画像形成装置に対して本発明を適用したが、これに限られるものではない。感光体、帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、定着手段の構成や配置は、本実施形態に限定されず、他の構成や配置であっても良い。本発明は、ロータリー配置型、直接転写方式など、他の方式の画像形成装置にも、広く適用することができる。
【0074】
また、本発明は、プリンタ、複写機、FAX、およびこれらの複合機や、データを加工・編集して印刷するハードコピーシステムにも適用できる。
【符号の説明】
【0075】
10、10′、132 定着ローラ
11 芯金
12 ゴム層
13 表層
131 加圧ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されるシートに圧接されて上記シートに画像を定着させる定着部材であって、
円筒状または環状の基材と、この基材の外周面を覆うように設けられ、上記シートが圧接される領域の寸法を確保するための弾性をもつゴム層と、このゴム層の外周面を覆うように設けられ、上記シートの剥離を助ける表層との3層を含み、
上記基材上で周方向に対して垂直な幅方向に関して、上記ゴム層の中央部におけるシロキサン含有量が、上記ゴム層の端部におけるシロキサン含有量の2倍未満になっていることを特徴とする定着部材。
【請求項2】
請求項1に記載の定着部材において、
上記基材上で周方向に対して垂直な幅方向に関して、上記ゴム層の中央部におけるシロキサン含有量と上記ゴム層の端部におけるシロキサン含有量とが実質的に等しく、
上記ゴム層の内径をミリメートル単位でa、上記ゴム層の外径をミリメートル単位でb、上記ゴム層の上記中央部と上記端部のシロキサン含有量をピー・ピー・エム単位でDとそれぞれ表すとき、
D<100×((2×b)/(b−a))−2.5×2
なる関係式が満たされていることを特徴とする定着部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の定着部材において、
上記ゴム層と上記表層とがフッ素系接着剤を介して接着されていることを特徴とする定着部材。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の定着部材において、
上記ゴム層に対して上記表層が周方向に回転するのを止める回転係止部を有していることを特徴とする定着部材。
【請求項5】
搬送されるシートに圧接されて上記シートに画像を定着させる定着部材を作製する定着部材の製造方法であって、
円筒状または環状の基材の外周面に、1次加硫としての射出成形によってゴム層を形成し、
上記ゴム層に上記シートが圧接される領域の寸法を確保するための弾性をもたせるように、上記ゴム層に対する2次加硫を行った後、
上記ゴム層の外周面に、上記シートの剥離を助けるための表層を設けることを特徴とする定着部材の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の定着部材の製造方法において、
上記2次加硫を、200℃以上の温度で、かつ4時間以上の条件で行うことを特徴とする定着部材の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の定着部材の製造方法において、
上記2次加硫を、上記ゴム層が形成された上記基材をチャンバ内に収容した状態で、上記チャンバに接続された排気装置によって上記チャンバ内を減圧しながら行うことを特徴とする定着部材の製造方法。
【請求項8】
請求項5、6または7に記載の定着部材の製造方法において、
上記2次加硫を、上記チャンバ内の微粒子個数を粒子数計数器で観測しながら、上記チャンバ内の微粒子個数が1立方センチメートル当たり2000個以下になるまで行うことを特徴とする定着部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−169968(P2011−169968A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31386(P2010−31386)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】