説明

定着部材の製造方法

【課題】不完全な定着の発生を抑制しうる定着部材を提供する。
【解決手段】基材110を得る工程と、基材110の外面の周りに外側スリーブ130を配置する工程と、基材110の外面と外側スリーブ130の内面の間に中間層120を注入し、定着部材を形成する工程と、定着部材100を硬化させる工程と、定着部材100を、外側スリーブ130の融点より約30℃低い温度と外側スリーブ130の融点より約50℃高い温度との間の第1の温度で約1から約20分間調整する工程と、を含む、定着部材100の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、デジタル、イメージオンイメージなどを含む電子写真画像形成装置において有用な定着部材に関する。本発明はまた、定着部材の製造および使用プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、市販の電子写真マーキングまたは再生(reproduction)装置(例えば、コピー機/複写機、プリンタ、多機能システムなど)においては、潜像電荷パターンが均一に帯電された光導電性部材上または誘電性部材上に形成される。着色されたマーキング粒子(トナー)は潜像電荷パターンに引きつけられ、この像が光導電性部材上または誘電性部材上で現像される。受容部材(例えば、紙)がその後、誘電性部材または光導電性部材と接触させられ、電場が印加され、マーキング粒子で現像された画像が光導電性部材または誘電性部材から受容部材に転写される。転写後、転写された画像を有する受容部材が誘電性部材から定着ステーションに輸送され、画像が熱および/または圧力により受容部材に固定または定着され、その上に永久再生物が形成される。受容部材は加圧ロールと加熱定着ロールまたは加熱定着要素の間を通過する。
【0003】
時として、電子写真マーキングシステムまたは静電マーキングシステムにおいて作製されるコピーは、マーキング材料の不完全な定着または定着部材そのものにより引き起こされる欠陥を有する。不完全な定着は、トナー加圧または定着ロールの欠陥などの多くの要因の結果であり得る。定着ロールの欠陥は、製造中の定着基材の延長使用または不適切なコーティングに起因する不適切な圧縮変形(compression set)特性により引き起こされる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0022897号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不完全な定着の発生を抑制しうる定着部材を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの実施形態によれば、定着部材を製造するための方法が提供される。基材を得て、フルオロポリマースリーブを基材の外面の周りに配置する。エラストマーを基材の外面とスリーブの内面との間に注入し、定着部材を形成する。定着部材を、フルオロポリマーの融点より約30℃低い温度と前記フルオロポリマーの融点より約50℃高い温度との間の第1の温度で約1から約20分間調整する。
【0007】
一つの実施形態によれば、定着部材を製造するための方法が提供される。該方法は、その上にエラストマーが配置されている基材を得る工程を含む。フルオロポリマースリーブを、エラストマーを有する基材上方に配置し、スリーブを熱収縮させ、定着部材を形成する。定着部材を、該フルオロポリマースリーブの融点より約30℃低い温度と前記フルオロポリマースリーブの融点より約50℃高い温度との間の第1の温度で約1から約20分間調整する。
【0008】
一つの実施形態によれば、定着部材を再生するための方法が提供される。方法は、基材と、基材上に配置されたエラストマー層と、エラストマー層上に配置されたフッ素樹脂(fluoroplastic)スリーブとを有する定着部材を得る工程を含む。定着部材を、該フルオロポリマースリーブの融点より約30℃低い温度と前記フルオロポリマースリーブの融点より約50℃高い温度との間の第1の温度で約1から約20分間調整し、その後、約220℃から約260℃の第2の温度で約4時間から約20時間の間加熱する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】定着部材の一つの実施形態の概略図である。
【図2】300,000画像を加工した後の定着ローラの写真である。
【図3】300,000画像を加工した後、本明細書で記載した実施形態を用いて処理した定着ローラの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は定着部材100の概略図であり、様々な可能な層を示している。図1に示されるように、基材110はその上に中間または緩衝層120を有する。中間層120は、例えば、シリコーンゴムとすることができる。中間層120上には、外側スリーブ130、例えば、フッ素樹脂が存在する。
【0011】
電子写真マーキングシステムにおいて使用される定着ロールは一般に、シリコーンなどの1つ以上の中間層120を有するコアシリンダとして、本明細書で示される基材110を備える。中間層120は、室温加硫(RTV)シリコーンゴム類、高温加硫(HTV)シリコーンゴム類、低温加硫(LTV)シリコーンゴム類および液状シリコーンゴム類(LSR)などのシリコーンゴム類を含むことができる。これらのゴム類は公知であり、容易に市場で入手可能であり、例えば、シラスティック(SILASTIC(登録商標))735ブラックRTVおよびシラスティック732RTV(どちらもダウコーニング社製)、ならびに106RTVシリコーンラバーおよび90RTVシリコーンラバー(どちらもジェネラルエレクトリック社製)である。他の適したシリコーン材料としては、シロキサン類(例えば、ポリジメチルシロキサン類)、フルオロシリコーン類、例えば、バージニア州リッチモンドのサンプソンコーティングズ(Sampson Coatings)から入手可能なシリコーンラバー552、液状シリコーンゴム類、例えば、ビニル架橋熱硬化性ゴム類またはシラノール室温硬化材料、などが挙げられる。他の特定の例はダウコーニングシルガード(Sylgard)182である。
【0012】
場合により、任意の公知の、入手可能な適切な接着層を、中間層と、外側スリーブと基材との間に配置してもよい。適した接着剤の例としては、シラン類、例えばアミノシラン類(例えば、ダウコーニング社製のHVプライマー10)、チタネート類、ジルコネート類、アルミネート類など、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0013】
外側スリーブ130の例示的な実施形態はフルオロポリマー類を含む。これらのフルオロポリマー類としては、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルキルビニルエーテル、およびそれらの混合物からなる群より選択されるモノマー繰り返しユニットを含むフルオロポリマー類が挙げられる。フルオロポリマー類としては、直鎖または分枝ポリマー類、および架橋フルオロエラストマー類が挙げられる。フルオロポリマー類の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン(TFE)およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)のコポリマー、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびフッ化ビニリデン(VDFまたはVF2)のコポリマー類、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VDF)、およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)の2つのコポリマー類、またはターポリマー類、およびそれらの混合物、ならびに、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VDF)、およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびキュアサイトモノマーのターポリマー類が挙げられる。フルオロポリマー類は化学および熱安定性を提供し、低表面エネルギーを有する。フルオロポリマー粒子は、約255℃から約360℃、または約280℃から約330℃の融点を有する。実施形態では、これらのフルオロポリマースリーブは、導電率、摩耗および離型要求によって、少なくとも70体積%のフルオロポリマー類を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、中間層はシリコーンを含む。また、中間層はシリコーン以外の成分を含んでもよい。実施形態では、中間層は、熱伝導率要求によって、少なくとも約30体積%、もしくは少なくとも約50体積%のシリコーン、または少なくとも70体積%のシリコーンを含む。
【0015】
本明細書における定着部材の外側フッ素樹脂スリーブの厚さは約10μmから約350μm、または約15μmから約100μm、または約20から約80μmである。
【0016】
適した基材110の材料の例としては、ローラ基材の場合、金属類、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルなどが挙げられる。実施形態では、基材材料として、ポリマー類、例えば、ポリイミド類、ポリアミドイミド類、ポリエーテルイミド類、ポリエーテルエーテルケトン類およびポリフェニレンスルフィド類を挙げることができる。
【0017】
フッ素樹脂スリーブを使用して定着ローラを製造する場合、使用することができるいくつかの方法がある。第1の方法は、基材を得る工程と、フルオロポリマースリーブを基材の外面の周りに配置する工程を含む。エラストマーを基材の外面とスリーブの内面との間に注入し、定着部材を形成させる。シリコーンを鋳型中で硬化させ、その後、離型させる。場合により、定着部材を後硬化させ、シリコーン特性を改善させる。定着部材をその後、フルオロポリマースリーブの融点より約30℃低い温度から該フルオロポリマースリーブの融点より約50℃高い温度の間の温度まで加熱する。実施形態では、定着部材を、フルオロポリマースリーブの融点より約20℃低い温度から該フルオロポリマースリーブの融点より約30℃高い温度の間の温度まで加熱し、または、フルオロポリマースリーブの融点より約10℃低い温度から該フルオロポリマースリーブの融点より約20℃高い温度の間の温度まで加熱する。
【0018】
第2の方法は、その上にエラストマー層を有する基材の周りにフッ素樹脂スリーブを配置する工程を含む。スリーブおよび基材を、フッ素樹脂の融点より高い温度まで加熱し、スリーブの収縮を引き起こし、これにより、定着部材を形成させる。実施形態では、エラストマー上にプライマー層を含む。
【0019】
上記定着部材を製造する方法では、フルオロポリマースリーブの内面は、接着性を増加させるためにエッチングすることができる。さらに、基材の外面はエラストマーおよび/またはプライマー層との接着性を増加させるために粗化させることができる。
【0020】
定着ローラの製造に関連する問題は、シリコーンが高温、約260℃超で劣化し、一方、フッ素樹脂スリーブは320℃から400℃の範囲で焼成させると改善された特性を示すことである。テフロン(登録商標)様材料の硬化不足(摩耗不足構成要素となり得る)またはシリコーンの過加熱とその損傷の間には微妙なバランスが存在する。後者の条件では、加圧ロール、ストリッパフィンガーまたは他の構成要素と接触させた場合、容易に硬化が引き起こされ、しわなどの品質欠陥が引き起こされる。
【0021】
改善された特性を、上記で記載した方法により形成させた定着ローラに提供するために、定着ロールを、フルオロポリマースリーブの融点より約30℃低い温度と、前記フルオロポリマースリーブの融点より約50℃高い温度の間の温度まで加熱することにより調整する。実施形態では、温度範囲は、フルオロポリマースリーブの融点より約20℃低い温度から前記フルオロポリマースリーブの融点より約30℃高い温度、またはフルオロポリマースリーブの融点より約10℃低い温度から該フルオロポリマースリーブの融点より約20℃高い温度としてもよい。この最初の加熱期間は、約1から約20分、または約1分から約10分、または約1分から約5分である。この最初の加熱後、シリコーンの物理特性を改善するために、定着部材を、米国特許公開第2009/0022897号において記載されているようにさらに処理してもよい。追加の処理は、定着部材を約175℃から約275℃、または約220℃から約260℃、または約230℃から約240℃の温度まで加熱し、その温度で約4時間から約20時間の期間、保持する工程を含む。実施形態では、第2の温度の加熱期間は約4時間から約15時間、または約10時間から約12時間である。
【0022】
フルオロポリマースリーブまたはエラストマー層中に含ませることができる導電性粒子またはフィラーの例としては、カーボンナノチューブ類(CNT)、カーボンブラック類(例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、グラファイト、グラフェン、フッ素化カーボンブラックなど)、金属、金属酸化物類およびドープ金属酸化物類、例えば、酸化スズ、二酸化アンチモン、アンチモンドープ酸化スズ、二酸化チタン、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、インジウムドープ三酸化スズ、炭化ケイ素、金属炭化物など、ならびにそれらの混合物が挙げられる。導電性粒子は、フルオロポリマースリーブのいずれかの総固体の約0.1重量%から約30重量%、または約0.5重量%から約20重量%、または約1重量%から約10重量%の量で存在してもよい。中間層は典型的には、約20体積%から約50体積%の導電性粒子またはフィラーを有する。
【0023】
場合により、任意の公知の、入手可能な適切な接着またはプライマー層を、エラストマー層、フルオロポリマースリーブおよび基材の間に配置してもよい。適した接着剤の例としては、シラン類、例えば、アミノシラン類(例えば、ダウコーニング社製のHVプライマー10など)、チタネート類、ジルコネート類、アルミネート類など、およびそれらの混合物が挙げられる。1つの実施形態では、約0.001%から約10%溶液中の接着剤を基材に適用することができる。接着層は、シラン接着剤では、基材上に、または外層上に、約2nmから約2,000nm、または約2nmから約500nmの厚さまでコートすることができる。市販の接着剤は、エラストマーを高濃度で含有する(エラストマーリッチな)溶液中に上記作用物質を有することができる。配置される場合、接着層の厚さは約2μmから約10μm、または約2μmから約5μmとなる。接着剤は、任意の適した公知の技術、例えば噴霧コーティングまたはワイピングによりコートすることができる。
【0024】
フルオロポリマースリーブのヤング率は約50kpsiから約100kpsi、または約70kpsiから約95kpsi、または約85kpsiから約95kpsiである(1psiは約6895パスカル)。外層における引張応力は約1000psiから約5000psi、または約2000psiから約4000psi、または約2700psiから約3300psiである。本明細書で記載したこの定着部材は約10Ω/square(オームパースクエア)未満の表面導電率を示す。しかしながら、非導電性スリーブが使用され、表面導電率が約1014Ω/squareを超える適用がある。
【実施例】
【0025】
ペルフルオロアルコキシポリマー樹脂(PFA)スリーブをシリコーンと共に定位置で成形、硬化、離型させ、200℃で4時間、後硬化させた。フルオロポリマースリーブの厚さは約30μmであり、中間シリコーン層は約570μmの厚さであった。基材は約3mmの厚さを有するアルミニウムチューブとした。定着ローラをオリンピア・ドキュカラー(Olympia Docucolor)250機に組込み、300,000画像をこの機械を通して印刷した。図2はこの試験後の定着ローラの写真を示す。定着ロールの縁に沿って顕著なしわが存在する。これらのしわにより、欠陥のある基材画像となり、顧客の満足が得られない。典型的には、定着ローラは、しわ欠陥が現れると交換される。
【0026】
上記第2の定着ローラを300℃まで20分間加熱し、その後、240℃で11時間加熱した。得られた定着ローラをオリンピア・ドキュカラー250機に組込み、300,000画像をこの機械を通して印刷した。図3はこの試験後の定着ローラの写真を示す。定着ローラにはしわはない。このローラにより生成された画像は顧客に許容される。このように、記載した処理により、未処理の定着ローラよりも長く持続する定着ローラが提供される。
【符号の説明】
【0027】
100 定着部材、110 基材、120 中間層、130 外側スリーブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を得る工程と、
前記基材の外面の周りにフルオロポリマースリーブを配置する工程と、
前記基材の外面と前記スリーブの内面の間にエラストマーを注入し、定着部材を形成する工程と、
前記定着部材を硬化させる工程と、
前記定着部材を、前記フルオロポリマースリーブの融点より約30℃低い温度と前記フルオロポリマースリーブの融点より約50℃高い温度との間の第1の温度で約1から約20分間調整する工程と、
を含む、定着部材を製造するための方法。
【請求項2】
基材であって、その上にエラストマーが配置されている基材を得る工程と、
前記基材の上方にフルオロポリマースリーブを配置し、該スリーブを熱収縮させて定着部材を形成する工程と、
前記定着部材を、前記フルオロポリマースリーブの融点より約30℃低い温度と前記フルオロポリマースリーブの融点より約50℃高い温度の間の第1の温度で約1から約20分間調整する工程と、
を含む、定着部材を製造するための方法。
【請求項3】
基材と、前記基材の上に配置されたエラストマー層と、前記エラストマー層の上に配置されたフッ素樹脂スリーブとを有する定着部材を得る工程と、
前記定着部材を、該フルオロポリマースリーブの融点より約30℃低い温度と前記フルオロポリマースリーブの融点より約50℃高い温度の間の第1の温度で約1から約20分間調整する工程と、
前記定着部材を約220℃から約260℃の第2の温度で約4時間から約20時間の間加熱する工程と、
を含む、定着部材を再生するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−209724(P2011−209724A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64568(P2011−64568)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】