説明

定量法

【課題】 本発明における課題は、既知量の目的成分を添加できない場合でも、既知量の目的成分を除去することによって検量線を作成し、試料中の定量対象成分を定量することが可能となる定量法を提供するものである。
【課題手段】 本発明は、測定目的成分を含有する金属試料の定量分析方法であって、金属試料から測定目的成分を除去することが可能な溶媒に金属試料を浸漬させる工程と、浸漬させた金属試料から測定目的成分を溶媒中に除去させる工程と、除去した測定目的成分量を求める工程と、浸漬させた金属試料と浸漬させていない金属試料との測定目的成分に起因するイオン量を求める工程と、検量線(X軸:測定目的成分除去量、Y軸:測定目的成分に起因するイオン量)を作成する工程と、該検量線をX軸に外挿する工程とからなり、該検量線とX軸との切片が測定目的成分量となることを特徴とする定量方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未知試料中の目的成分の定量分析に関し、より詳しくは、定量分析の際の検量線作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
未知試料中の目的成分を検量線法を用いて定量分析を行う場合、予め目的成分量が既知である複数試料を測定し、既知量と測定値を用いて絶対検量線を作成し、この絶対検量線を用いて、未知試料の測定値を目的成分量に換算する方法が、一般的に用いられる。
【0003】
しかし、未知試料中の目的成分以外のマトリックスが測定値に影響を与えるために、絶対検量線を用いて定量分析を行えない場合が存在する。この場合は、未知試料に対し、複数の既知量の目的成分を添付することで標準添加検量線を作成し、この検量線を外挿することで、未知試料中の目的成分の定量値に換算する(非特許文献1参照)。この標準添加法の概念図を図1に示す。
【非特許文献1】入門機器分析化学、三共出版株式会社、1988年10月10日 初版発行 しかしながら、絶対検量線が使用できず、かつ、既知量の目的成分あるいは内標準物質を未知試料に添加できない場合、未知試料中の目的成分の定量分析を行うことができないという問題がある。例えば、未知試料が固体試料である場合、液体である内標準物質を添加しても、固体試料のままでは内標準物質と混合することが不可能である。このような場合、固体試料を溶解させるという手段も考えることができるが、固体試料が金属など融点が非常に高いものである場合には、固体試料を溶解させるために、時間とコストが非常にかかってしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明における課題は前記の問題点を解決すべく、既知量の目的成分を添加できない金属試料の場合でも、既知量の目的成分を除去することによって検量線を作成し、金属試料中の定量目的成分を定量することが可能となる定量法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、測定目的成分を含有する金属試料の定量分析方法であって、金属試料から測定目的成分を除去することが可能な溶媒に金属試料を浸漬させる工程と、浸漬させた金属試料から測定目的成分を溶媒中に除去させる工程と、除去した測定目的成分量を求める工程と、浸漬させた金属試料と浸漬させていない金属試料との測定目的成分に起因するイオン量を求める工程と、検量線(X軸:測定目的成分除去量、Y軸:測定目的成分に起因するイオン量)を作成する工程と、該検量線をX軸に外挿する工程とからなり、該検量線とX軸との切片が測定目的成分量となることを特徴とする定量方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、未知試料中の目的成分以外のマトリックスが測定値に影響を与えるために、絶対検量線を用いて定量分析を行うことができず、かつ既知量の目的成分を未知試料に添加することができない場合でも、未知試料中の目的成分の定量分析を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、従来用いられている標準添加法の概念図の一例である。図2は、本発明の飛行時間型2次イオン質量分析装置による金属薄膜中のSプロファイルの一例を示す図である。図3は、本発明の検量線の一例を示す図である。
【0008】
未知試料として金属薄膜を用い、金属薄膜中の微量な測定目的成分の本発明による定量分析を以下に説明する。ここで、金属試料の形状は特に問われるものではなく、ここでは一例として薄膜状の金属を挙げる。
【0009】
まず、測定目的成分を溶出させることが可能な溶媒を用意する。溶媒は特に限定されるものではなく、溶出させるべき測定目的成分に合わせて適宜選択される。この溶媒中に金属薄膜を浸漬させる。浸漬させることによって、金属薄膜から溶媒中へある程度測定目的成分を除去することができる。(ここで、金属薄膜中に存在する測定目的成分の全量を抽出することは、極めて困難である。)このとき、浸漬させる時間を変化させることによって、除去量を変化させることができる。溶媒中に除去された測定目的成分を、イオンクロマトグラフィーを用いて定量する。浸漬時間を変化させ、それぞれの時間ごとに溶媒中に除去された測定目的成分量を定量する。
【0010】
次に、溶媒に浸漬させていない金属薄膜について、飛行時間型2次イオン質量分析装置でエッチングしながら深さ方向の分析を行った。同様に、前記工程において測定目的成分が除去された金属薄膜を浸漬時間ごとにそれぞれ用意し、飛行時間型2次イオン質量分析装置でエッチングしながら深さ方向の分析を行った。X軸にエッチング深さ、Y軸にその深さで分析した結果検出された、測定目的成分に起因するイオンの金属薄膜中全イオンに対する比率をプロットした一例を図2に示す。
【0011】
続いて、図2を用いて測定目的成分に起因するイオンプロファイルの面積値を、前記それぞれの金属薄膜ごとに求める。ここで、プロファイル面積値とは、プロファイルの曲線と、X軸、Y軸とに囲まれた部分の面積を指す。続いて、X軸に上述したイオンクロマトグラフィーを用いて定量した、金属薄膜から溶媒中へ除去された測定目的成分量、Y軸に求めた測定目的成分に起因するイオンプロファイルの面積値をプロットする。その結果、1次式でよく近似される検量線が得られる。その一例を図3に示す。
【0012】
得られた検量線を外挿し、X軸との切片を求める。すなわち、測定目的成分に起因するイオンプロファイルの面積値が0のときの、X軸の値を求める。イオンプロファイルの面積値が0とは、すなわち、金属薄膜から溶媒中に測定目的成分が全て除去された場合であるから、この検量線とX軸との切片の値は、イオンクロマトグラフィーを用いて金属薄膜中の測定目的成分の全量を測定した場合の値とすることができる。
【0013】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。本発明は、係る実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
未知試料としてガラス基板上に形成された金属薄膜を用い、測定目的成分として金属薄膜中の微量なSOを選定した場合に、本発明の定量方法によって定量分析を行った。
【0015】
測定目的成分であるSOは親水性であるため、純水に浸漬することで、金属薄膜中から純水中へとある程度SOを除去することができる。また、浸漬する純水の温度や時間を変化させることによって、除去できるSO量を変化させることができる。
【0016】
未知試料を純水に30分浸漬することによって、純水中に未知試料中の測定目的成分であるSOを除去し、純水中のSOをイオンクロマトグラフィーを用いて定量を行った。また同様に、未知試料を純水中に3時間浸漬することによって、未知試料中の測定目的成分であるSOを除去し、純水中のSOをイオンクロマトブラフィーを用いて定量を行った。この定量結果を表1に示す。浸漬していない未知試料、すなわち浸漬時間0分のSO除去量は0g/cmとする。
【0017】
【表1】

続いて、浸漬時間0分間の未知試料、および30分間浸漬することによりSOを67.3ng/cm除去した未知試料、および3時間浸漬することによりSOを122.3ng/cm除去した未知試料の3検体を、飛行時間型2次イオン質量分析装置でエッチングをしながら、深さ方向の分析を行った。このとき、金属薄膜の深さ方向全範囲において、エッチングを行った。その結果、測定目的成分SOに起因するSの未知試料中の全イオンに対する比率をエッチング深さに対してプロットした結果を図2に示す。
【0018】
続いて、図2をもとに、各検体のSプロファイルの面積値を求めた。
【0019】
次に、X軸にイオンクロマトグラフィーによるSOの定量値を、Y軸にSプロファイルの面積値をプロットすると、1次式でよく近似される検量線が得られた。これを図3に示す。この検量線を外挿し、X軸との切片を求めると、164ng/cmとなり、この値が未知試料中の定量値となる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明を用いることにより、これまで定量分析を行うことが困難であった金属試料中の不純物の定量値を知ることが可能となり、金属部分を有する製品のより質の高い品質管理を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来用いられている標準添加法の一例を説明する図である。
【図2】本発明の飛行時間型2次イオン質量分析装置による金属薄膜中のSプロファイルの一例を示す図である。
【図3】本発明の検量線の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 未知試料中のSプロファイル
2 67.3ng/cmのSOが除去された未知試料のSプロファイル
3 122.3ng/cmのSOが除去された未知試料のSプロファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属試料中に含有される測定目的成分の定量分析方法であって、金属試料から測定目的成分を除去することが可能な溶媒に金属試料を浸漬させる工程と、浸漬させた金属試料から測定目的成分を溶媒中に除去させる工程と、除去した測定目的成分量を求める工程と、浸漬させた金属試料と浸漬させていない金属試料との測定目的成分に起因するイオン量を求める工程と、検量線(X軸:測定目的成分除去量、Y軸:測定目的成分に起因するイオン量)を作成する工程と、該検量線をX軸に外挿する工程とからなり、該検量線とX軸との切片が測定目的成分量となることを特徴とする定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−58057(P2006−58057A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238049(P2004−238049)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】