説明

家畜尿からのアンモニア回収方法

【課題】 家畜尿から不純物の少ないアンモニアを回収する方法を提供する。
【解決手段】 家畜尿を260〜300℃の温度で、15分以上水熱処理したうえ、加熱MAPと接触させてアンモニアを吸収させる。アンモニアを吸収させたMAPを固液分離し、次いで洗浄して付着しているC分とS分を除去し、その後に100℃前後に加熱してアンモニアを回収する。これによりCOガスやSOガスの生成を効果的に抑制し、不純物の少ないアンモニアを回収することができる。アンモニアが回収されたMAPは循環使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜尿から不純物の少ないアンモニアを回収することができる家畜尿からのアンモニア回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
畜舎から排出される家畜尿には高濃度の有機物、アンモニア及び尿素が含有されている。一方、アンモニアなどの窒素成分は、湖沼・海域等の閉鎖性水域に流入すると富栄養化を引き起こす事から、濃度規制及び総量規制(濃度×排水量)が既に実施されている。
窒素分を処理する方法としては、従来から硝化・脱窒処理と呼ばれる生物処理が利用されている。これは、排水中のアンモニアを好気条件下で硝酸へと酸化し(硝化反応)、嫌気条件下で硝酸を窒素へと還元する(脱窒反応)方法である。しかし、硝化処理は、排水中の有機物濃度が高いと進行しにくい為、家畜糞尿やメタン発酵消化液等の窒素分だけでなく高濃度の有機物も同時に含む廃液にそのまま適用すると、窒素を処理する前に、有機物の処理も必要となり多大なエネルギーとコストが必要となる。
【0003】
また、特許文献1には、家畜糞尿などの処理方法として先ず強酸性物質を添加して酸性としたうえ、強アルカリ性物質を添加してアルカリ性とし、含有される有機分及び無機分を沈殿分離させ、肥料などとして利用する方法が開示されている。しかし強酸や強アルカリを使用するうえ、大規模な設備を必要とするので、設備コストが高くなるという問題がある。
【0004】
このほか特許文献2には、家畜糞尿などを発酵槽内で強力に撹拌曝気し、高温発酵を促進させる処理方法が開示されている。しかしこの方法はやはり大規模な設備を必要とするので、設備コストが高くなるという問題がある。なお何れの特許文献にも、家畜糞尿から有用物質であるアンモニアを回収することについては記載されていない。
【特許文献1】特開2003−251400号公報
【特許文献2】特開平2−207896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した従来の問題点を解決して、家畜尿を強酸や強アルカリを使用せず、有用物質であるアンモニアを不純物の少ない状態で回収することができる家畜尿からのアンモニア回収方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、家畜尿を水熱処理したうえ、加熱MAPと接触させてアンモニアを吸収させ、アンモニアを吸収させたMAPを固液分離し、分離されたMAPを洗浄して付着しているC分とS分を除去し、その後に加熱してアンモニアを回収することを特徴とするものである。ここでMAPとは、MgNH4PO4・6H2O(リン酸マグネシウムアンモニウム)を意味する。水熱処理を260〜300℃の温度で、15〜60分間行うことが好ましく、加熱によりアンモニアを回収したMAPを循環使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、強酸や強アルカリを使用することなく、家畜尿から不純物の少ないアンモニアを回収することができ、河川の富栄養化を防止することができる。またMAPは加熱すればアンモニアを放出してMHP(リン酸マグネシウム:Mg4PO4・3H2O)となるので、何度も繰り返して使用することができ、経済性にも優れる。しかも本発明では、C分とS分を除去した状態でMAPを加熱するので、有害なCOやSOガスなどが加熱時に発生してアンモニアガス中に混入することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1は本発明のフローを示すもので、先ず畜舎などから回収された家畜尿を水熱処理する。水熱処理は家畜尿中の尿素をアンモニアに変換するために行われる操作であり、260〜300℃の温度で15分以上行うことが好ましい。しかし後述するように、この水熱処理は不純物を除去するうえでも大きな効果がある。温度が260℃未満であると効果が不十分であり、300℃を越えても効果の向上は少ない。水熱処理は少なくとも15分間行うが長時間行っても効果の向上は少なく、3時間以上行う意味はない。
【0009】
水熱処理された家畜尿は、加熱MAPと接触させる。前記したようにMAPはMgNH4PO4・6H2O(リン酸マグネシウムアンモニウム)を意味するが、加熱によりアンモニア吸収能を持つMHP(リン酸マグネシウム:Mg4PO4・3H2O)となる。このMHPは粒状体であり、常温において家畜尿中のアンモニアを分子構造中に取り込み、MAPとなる。このアンモニアの吸収は、図2のグラフに示すようにアンモニア濃度に関係なく、理論値とほぼ同量が吸収される。
【0010】
図3のグラフに示すように、pHが弱アルカリのときアンモニア吸着量が最大となるので、アンモニアを吸着させる際にはpHを8.5〜12程度にコントロールしておくことが望ましい。
【0011】
アンモニアを吸収したMAPは固液分離され回収される。固液分離は重力沈降法やろ過法など、任意の手段により行えばよい。アンモニアが除去され窒素負荷が軽減された排液は、通常の活性汚泥処理でBODを除去したうえ、河川等に放流される。
【0012】
一方、アンモニアを吸収したMAPは50〜120℃程度に加熱して吸着したアンモニアを放出させるが、そのまま加熱するとMAPの表面に付着しているC分やS分が有害なCOガスやSOガスとなってアンモニア中に混入する。この問題を解決するために本発明では回収されたMAPを水で洗浄するのであるが、図4のグラフに示すように予め水熱処理を行わない場合には、洗浄を行ってもCOの発生を十分に防止できない。
【0013】
これに対して水熱処理を行った場合には、1回の洗浄を行うだけでCOの発生を十分に抑制することができる。しかし水熱処理を行っても、洗浄を行わない場合には洗浄回数0として示すように、少量のCOが発生する。このように、水熱処理とMAP洗浄との組み合せによってCOガスやSOガスの生成を効果的に抑制し、不純物の少ないアンモニアを回収することが初めて可能となる。このアンモニアは例えば水素転換触媒により水素に転換し、燃料電池などに利用することができるが、燃料電池の触媒活性を阻害するCOガスやSOガスの発生は本方法により抑制することができる。
【0014】
加熱によりアンモニアを放出したMAPはMHPに戻るので、これを循環させて再びアンモニア吸収に用いることができる。
次に本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0015】
厩舎から回収された家畜尿1L(アンモニアと尿素を合わせた窒素分を7800ppm含有)を反応容器に入れ、300℃で1時間の水熱処理を行った。次にpHを9.8に調整し、加熱MAP(MHP)9.8グラムを投入して常温で撹拌し、アンモニアを吸着させた。MAPを取り出した液中のアンモニアと尿素を合わせた窒素分は3500ppmまで減少した。取り出したMAPを2回にわたり水で洗浄して付着している不純物を取り除いたうえ、105℃に加熱してアンモニアを回収した。回収されたアンモニアガス中にCOは検出されなかった。
【0016】
次に反応容器に投入する加熱MAPをおよそ10倍の101グラムに増加し、同様の処理を行った。図5は窒素収率を示すグラフであり、何れの場合にも水熱処理された家畜尿中の窒素(アンモニア)が加熱MAPにより効率よく吸収されたことが確認できた。
【0017】
これに対して、その他の条件を一定としたまま水熱処理を省略した場合には、回収されたアンモニアガス中のCO濃度が9500ppmに達し、水素転換触媒によるアンモニアから水素への転換には不適当であった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】アンモニア濃度とアンモニア吸着量との関係を示すグラフである。
【図3】pHとアンモニア吸着量との関係を示すグラフである。
【図4】洗浄回数とアンモニアガス中のC濃度との関係を示すグラフである。
【図5】加熱MAPの量と窒素収率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜尿を水熱処理したうえ、加熱MAPと接触させてアンモニアを吸収させ、アンモニアを吸収させたMAPを固液分離し、分離されたMAPを洗浄して付着しているC分とS分を除去し、その後に加熱してアンモニアを回収することを特徴とする家畜尿からのアンモニア回収方法。
【請求項2】
水熱処理を260〜300℃の温度で、15分以上行うことを特徴とする請求項1記載の家畜尿からのアンモニア回収方法。
【請求項3】
加熱によりアンモニアが回収されたMAPを循環使用することを特徴とする請求項1記載の家畜尿からのアンモニア回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−70193(P2007−70193A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261462(P2005−261462)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】