説明

容量型検出装置

【課題】簡易な回路構成により、的確に物理量を検出することができる容量型検出装置を提供する。
【解決手段】加速度センサCS2は、容量変換部20、増幅部40、検出素子部50、信号制御部60を備えている。容量変換部20は、オペアンプ21、スイッチ22及びコンデンサ23から構成され、固定電極(51、52)と可動電極53からなる差動容量の変化を電圧に変換する。本実施形態では、オペアンプ21の非反転入力端子には、参照電圧として〔(V1+V2)/2〕が入力される。信号制御部60は、検出素子部50の固定電極(51、52)に印加する電圧を供給する。更に、信号制御部60は、バイアス供給部61を備える。このバイアス供給部61は、このテストモードにおいては、固定電極(51、52)に対して、所定のバイアス電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度、角速度、圧力等の物理量を検出する容量型検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、加速度センサや圧力センサ、角速度センサ等において容量式の検出装置が用いられている。特に半導体微細加工技術(Micro Electro Mechanical Systems:MEMS)等を用いて、微細な構造を有する検出装置が実現されている。このような容量式検出装置においては、可動電極と固定電極を対向配置し、可動電極と固定電極間の容量に基づいて物理量を検出する。図4に従来の加速度センサCS1の構成を示す。この加速度センサCS1は、検出素子部10、容量変換部20、信号制御部30、増幅部40を備えている。
【0003】
この検出素子部10は、固定電極(11、12)に対して、梁構造の可動電極13が対向配置されている。このような構成において、可動電極13は印加された物理量(例えば、加速度)に応じて変位する。そして、固定電極11と可動電極13、及び固定電極12と可動電極13とは差動容量を構成しており、可動電極13の変位に応じて各容量が変化する。
【0004】
容量変換部20は、固定電極(11、12)と可動電極13からなる差動容量の変化を電圧に変換する。この容量変換部20は、オペアンプ21、スイッチ22及びコンデンサ23から構成されている。オペアンプ21の反転入力端子は可動電極13に接続されており、反転入力端子と出力端子との間には、スイッチ22及びコンデンサ23が並列に接続されている。また、オペアンプ21の非反転入力端子には、参照電圧V5が入力される。
【0005】
増幅部40は、増幅回路、ローパスフィルタ、サンプルホールド回路から構成されている。増幅回路は、容量変換部20の出力電圧を所定の感度まで増幅する。ローパスフィルタは、増幅回路の出力電圧から所定の周波数帯域の成分のみを取り出す。サンプルホールド回路は、ローパスフィルタの出力電圧をサンプリングして一定期間保持して、加速度検出信号を出力する。また、サンプルホールド回路の後段にAD変換器を設けることも可能である。
【0006】
ここで、信号制御部30は、リセット期間とオペレーション期間とから構成された矩形波を生成し、固定電極(11、12)に印加する。これにより、固定電極11と可動電極13との容量C1、固定電極12と可動電極13との容量C2によって蓄積された電荷の変化から、可動電極13の変位を測定する。
【0007】
ここで、加速度センサCS1の機能を確認するために最も簡単な方法は、実際に物理量(例えば、加速度)を加速度センサCS1に印加し、出力を測定することである。しかしながら、製品に、このような加速度を印加して測定することは、コストや手続の煩雑さから実際的ではない。そこで、可動電極と固定電極間に静電気力を発生させ、擬似的に物理量が発生したような状態にして自己診断(セルフテスト)を行なうことがある。図4に示す加速度センサCS1においても、可動電極13に対してテスト電極15が設けられている。そして、このテスト電極15に電圧を印加することにより、テスト電極15と可動電極13との間に静電気力を発生させ、擬似的に物理量が発生したような状態にしてセルフテストを行なうことができる。
【0008】
また、固定電極にテスト電圧を印加するようにしたセンサも提案されている(例えば、
特許文献1、2を参照。)。特許文献1には、加速度センサの故障,性能低下,経時変化の自己診断を行なってセンサやシステムのフェイルセーフ機能を高める技術が開示されている。この文献においては、診断モードになると、信号印加部に設けた診断用電源から診断信号が発生し、これが検出用の電圧に加算器により加算されてセンサの固定電極に印加される。これにより、固定電極・可動電極間に加速度相当の静電気力が生じ、健全の場合には質量部が適正に変位する。
【0009】
また、特許文献2においては、容量変化を検出するための期間と可動電極を変位させるための期間とを周期的に設けた信号を、固定電極と可動電極の間に印加する。そして、容量変化を検出する期間においては、C−V変換回路により固定電極と可動電極からなる差動容量の変化に応じた電圧を出力するようにして加速度検出を行なう。可動電極を変位させる期間においては、自己診断時に、C−V変換回路におけるオペアンプの非反転入力端子に印加する電圧をV/2からV1に切り換えて、固定電極に擬似的な加速度を与える。
【特許文献1】特開平5−322921号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2000−81449号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載の技術では、一方の固定電極に対して大きな電圧を印加して、可動電極を強制的に変位させている。このため、二つの可動電極間の電圧関係は、通常モードとセルフテストモードとで異なる。
【0011】
一方、特許文献2に記載の技術では、可動電極に対して、異なる電圧を印加している。すなわち、通常モードにおける可動電極への印加電圧とセルフテストモードにける印加電圧とが異なる。従って、通常モードとセルフテストモードとは利用環境が異なる。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、簡易な回路構成により、的確に物理量を検出することができる容量型検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の容量型検出装置では、物理量の変化に応じて変位する可動電極と、前記可動電極に対向して配置された第1、第2固定電極と、前記第1固定電極に対して第1電圧、前
記第2固定電極に対して第2電圧を印加する第1期間と、前記第1固定電極に対して第2電圧、前記第2固定電極に対して第1電圧を印加する第2期間を周期的に印加する信号制御部と、前記第1期間における前記可動電極の蓄積電荷に対して、前記第2期間において蓄積電荷の変化量を測定して算出される容量の変化に応じた電圧を出力する容量変換部と、前記第1、第2固定電極に共通した直流電圧を供給するバイアス供給部とを設けたことを要旨とする。このバイアスにより、可動電極を変位させることができる。
【0014】
本発明の容量型検出装置では、前記第2期間は、前記可動電極の共振周波数の逆数よりも短いことを要旨とする。これにより、物理量の測定中における可動電極の変位を無視することができる。
【0015】
本発明の容量型検出装置では、前記バイアス供給部は、所定の物理量を整合させるための直流電圧を、物理量の測定時に供給することを要旨とする。これにより、可動電極や固定電極のミスフィットを整合させることができる。
【0016】
本発明の容量型検出装置では、前記バイアス供給部は、テスト信号を取得した場合に直流電圧を供給することを要旨とする。これにより、容量型検出装置の機能を、一時的に確認することができる。
【0017】
本発明の容量型検出装置では、前記物理量は加速度であることを要旨とする。これにより、加速度を測定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡易な回路構成により、的確に物理量を検出することができる容量型検出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した容量型検出装置としての加速度センサ及び制御方法の一実施形態を図1〜図3に従って説明する。図1に示すように、本実施形態の加速度センサCS2は、容量変換部20、増幅部40、検出素子部50、信号制御部60を備えている。
【0020】
検出素子部50は、固定電極(51、52)と可動電極53とが対向配置されて、固定電極(51、52)は基板上に固定されている。この可動電極53は加速度に応じて変位する。第1固定電極としての固定電極51と可動電極53との構成、及び第2固定電極としての固定電極52と可動電極53との構成は、差動容量を構成しており、可動電極53の変位に応じて各容量が変化する。
【0021】
容量変換部20は、固定電極(51、52)と可動電極53からなる差動容量の変化を電圧に変換する。本実施形態では、オペアンプ21の非反転入力端子には、参照電圧V5として〔(V1+V2)/2〕が入力される。
【0022】
増幅部40は、サンプルホールド回路、増幅回路、ローパスフィルタから構成されており、容量変換部20の出力電圧を増幅する。
信号制御部60は、検出素子部50の固定電極(51、52)に印加する電圧を供給する。更に、信号制御部60は、バイアス供給部61を備える。このバイアス供給部61は、固定電極(51、52)に対して、所定のバイアス電圧V3を印加する。
【0023】
そして、固定電極51と可動電極53との容量を「C1」、固定電極52と可動電極53との容量を「C2」とする。
まず、通常モードの動作について説明する。
【0024】
ここで、リセット期間(第1期間)においては、スイッチ22を閉じる。この場合、コンデンサ23の電荷は放電され、可動電極53には参照電圧V5(=〔(V1+V2)/2〕)が印加される。そして、信号制御部60は、図2に示すように、固定電極51には第1電圧(電圧V1)、固定電極52には第2電圧(電圧V2)を供給する。この場合、固定電極51と可動電極53間に蓄積される電荷Q11、固定電極52と可動電極53間に蓄積される電荷Q12は以下のようになる。
Q11=C1・(V1−V5)=C1・(V1−V2)/2
Q12=C2・(V2−V5)=C2・(V2−V1)/2
一方、オペレーション期間(第2期間)においては、スイッチ22を開く。そして、信号制御部60は、各電極に供給していた電圧(V1、V2)を反転させる。この場合、固定電極51と可動電極53間に蓄積される電荷Q21、固定電極52と可動電極53間に蓄積される電荷Q22は以下のようになる。
Q21=C1・(V2−V1)/2
Q22=C2・(V1−V2)/2
リセット期間において可動電極53と固定電極(51、52)間に蓄積されていた電荷の和(Q11+Q12)と、オペレーション期間において可動電極53と固定電極(51、52)間に蓄積されていた電荷の和(Q21+Q22)の差分ΔQは、以下のようにな
る。
ΔQ=(Q11+Q12)−(Q21+Q22)
=(C1−C2)・(V1−V2)=ΔC・(V1−V2)
ここで、容量(C1、C2)が一致する場合には、差分ΔQ=0となる。
【0025】
一方、容量(C1、C2)が異なっている場合には、差分ΔQが生じるが、オペアンプ21の作用によって可動電極53の電圧はV5=(V1+V2)/2に保持されるため、差動容量ΔC(=C1−C2)に応じた電圧が容量変換部20から出力される。
【0026】
従って、通常モードにおいては、このようなリセット期間〜オペレーション期間の作動を繰り返され、可動電極53が加速度を受けて変位すると、それに応じて加速度検出信号が増幅部40から出力される。
【0027】
次に、テストモードの動作について説明する。このテストモードにおいては、信号制御部60にテストモード信号が入力される。そして、信号制御部60は、バイアス供給部61から、固定電極(51、52)に印加する電圧にバイアス電圧V3を供給する。ここで、バイアス電圧V3は、固定電極(51、52)の双方に加えられるために、固定電極(51、52)の容量(C1、C2)によって可動電極53と固定電極(51、52)間に蓄積される総電荷量は通常モードにおいてもテストモードにおいても変化はない。そして、リセット期間においては、このバイアス電圧V3によって、固定電極51と固定電極52との間の電位分布が変化する。すなわち、可動電極53に参照電圧V5を維持した状態で、両方の固定電極(51、52)にバイアス電圧V3を印加した場合、可動電極53に加わる静電引力のバランスが崩れる。そして、可動電極53は、参照電圧V5を維持した状態のまま、可動電極53に加わる静電引力のバランスがつりあう位置へ移動する。
【0028】
もし、オペレーション期間が可動電極53の共振周波数の逆数に比べて十分に短い場合には、オペレーション期間における可動電極53の変位を無視することができる。この可動電極53の変位により、容量(C1、C2)が変化し、この結果、容量変換部20は、差動容量ΔC(=C1−C2)を出力電圧として増幅部40に供給する。
【0029】
上記実施形態の加速度センサによれば、以下のような効果を得ることができる。
・ 上記実施形態では、バイアス電圧V3は固定電極(51、52)に印加されるために、テスト電極を設けることなく、加速度センサCS2の機能のテストを行なうことができる。図3の実線で示すように、通常モードにおいては加速度に対応する差動容量ΔC0が計測されている。一方、可動電極53が固定電極51又は固定電極52に近づくようにバイアス電圧V3を印加したテストモードにおいては、バイアス電圧V3を変化させることにより、図3の点線で示すように差動容量ΔC1を変えることで、擬似的に所望の加速度を双方向どちらにでも加えることができる。
【0030】
・ 上記実施形態では、特許文献1に記載の技術とは異なり、昇圧回路を必要とせず、通常モードにおいてもバイアス電圧V3を印加しながら利用することができる。また、両固定電極(51、52)にバイアス電圧V3を印加するので可動電極の変位量を大きく取ることができる。
【0031】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 上記実施形態では、容量型検出装置として加速度センサに適用したが、これに限定されるものではない。例えば、圧力センサや流量センサ、角速度センサにも適用することも可能である。
【0032】
○ 上記実施形態では、加速度センサの動作を確認するためにバイアス電圧V3を印す
る。このバイアス電圧V3の印加の目的は、加速度センサの動作確認に限定されるものではない。例えば、容量変換部20におけるCV特性における直流バイアスポイントの変更はなく、加速度センサCS2のミスマッチの整合にも利用することができる。この場合には、実際に加速度を印加してこの場合の出力を測定し、ミスマッチがある場合には、バイアス電圧V3を用いて補正する。そして、通常モードにおいても、このバイアス電圧V3を常時印加しておく。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態の加速度センサの全体構成の説明図。
【図2】通常モードのタイミングチャートであり、(a)は第1固定電極に印加される電圧、(b)は第2固定電極に印加される電圧の説明図。
【図3】通常モードにおける差動容量とテストモードにおける差動容量の説明図。
【図4】従来の加速度センサの説明図。
【符号の説明】
【0034】
CS2…加速度センサ、20…容量変換部、21…オペアンプ、22…スイッチ、23…コンデンサ、40…増幅部、50…検出素子部、51,52…固定電極、53…可動電極、60…信号制御部、61…バイアス供給部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量の変化に応じて変位する可動電極と、
前記可動電極に対向して配置された第1、第2固定電極と、
前記第1固定電極に対して第1電圧を印加し、前記第2固定電極に対して第2電圧を印加する第1期間と、前記第1固定電極に対して前記第2電圧を印加し、前記第2固定電極に対して前記第1電圧を印加する第2期間を周期的に印加する信号制御部と、
前記第1期間における前記可動電極の蓄積電荷に対して、前記第2期間において蓄積電荷の変化量を測定して算出される容量の変化に応じた電圧を出力する容量変換部と、
前記第1、第2固定電極に共通した直流電圧を供給するバイアス供給部と
を設けたことを特徴とする物理量を測定するための容量型検出装置。
【請求項2】
前記第2期間は、前記可動電極の共振周波数の逆数よりも短いことを特徴とする請求項1に記載の容量型検出装置。
【請求項3】
前記バイアス供給部は、所定の物理量を整合させるための直流電圧を、物理量の測定時に供給することを特徴とする請求項1又は2に記載の容量型検出装置。
【請求項4】
前記バイアス供給部は、テスト信号を取得した場合に直流電圧を供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の容量型検出装置。
【請求項5】
前記物理量は加速度であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の容量型検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−97932(P2009−97932A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268309(P2007−268309)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(504199127)フリースケール セミコンダクター インコーポレイテッド (806)
【Fターム(参考)】