説明

密封型転がり軸受

【課題】軸受空間内の負圧を解消するとともに、軸受内部への水分等の侵入を防止する。
【解決手段】内輪1と、外輪3と、これらの軌道間に介在する保持器6により保持された転動体とを備え、外輪3の端部に軸受空間を密封する密封装置7が設けられる。密封装置7は、外輪3の端部に嵌合したシールケース9a,9bと、その内部に保持されたオイルシール11とからなる。シールケース9a,9b内に軸受外部から軸受空間への気体の流入のみを許容する逆止弁20が設けられ、その逆止弁20の気体が通る流路に気体の通過を許容し、液体および固体の通過を遮断するフィルタが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧延機に設けられるロールのロールネック部等を回転自在に支持する密封型転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、圧延機に設けられる製鉄圧延ロール用軸受のような、圧延油、水分、スケール等の異物が多く存在する環境下で使用される転がり軸受としては、その潤滑性やシール性を確保し、異物の侵入を防止するため、内輪と外輪との間の軸受空間を密封する密封装置を備えた密封型転がり軸受が使用されている。
【0003】
この密封型転がり軸受としては、4列円すいころ軸受が適用され、内輪および外輪と、内輪と外輪の間に介在する円すいころと、この円すいころを周方向に間隔をおいて保持する保持器と、密封装置とを備えたものである。
【0004】
この密封装置は外輪の両端部に嵌合した環状のシールケースと、シールケースの内部に保持されたシールとからなり、このシールにより、軸受空間内部の潤滑剤の漏出を防止するとともに、軸受外部から軸受空間内への圧延油、水、スケール等の異物の浸入を防止している。
【0005】
しかし、上記の密封型転がり軸受の使用環境によって、軸受の温度が昇降する場合、以下の理由により、外部からの水分等の異物の侵入への対策が十分ではなかった。
【0006】
すなわち、軸受の温度上昇により密封された軸受内部の空気が膨張し、軸受空間内の気圧が外部の気圧よりも高くなる(正圧となる)ため、密封装置のわずかなすき間から空気が外部に漏出する。その後、軸受の温度が低下すると軸受空間内の空気が収縮し、軸受空間内の気圧が、外部の気圧よりも低くなる(負圧となる)ため、空気とともに水分等の異物が軸受空間内に侵入する。これにより、潤滑剤が劣化し、軸受の寿命が短くなるという問題がある。
【0007】
この問題に対する解決手段として、外輪と内輪との間に形成された軸受空間にころを配置し、その軸受空間の軸方向両端部にシールホルダに保持されたオイルシールを配置して軸受空間を密封し、そのオイルシールにベント手段を設けた密封型転がり軸受が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−062996号公報
【0009】
この特許文献1に記載の軸受は、オイルシールに設けたベント手段により、軸受空間内の気圧が外部の気圧よりも低くなったときに、軸受空間内と外部とを連通させて、軸受空間内の気圧を外部の気圧に近づけることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載の密封型転がり軸受は、ベント手段により軸受空間内と外部を連通させた際、水分等の通過を遮断することが難しく、空気とともに水分等が侵入するおそれがあり、このベント手段は水分等の軸受空間内への侵入に対して十分な対策とはいえない。
【0011】
そこで、この発明の課題は、軸受空間内の負圧を解消するとともに、軸受内部への異物の侵入を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題を解決するために、この発明は、内輪および外輪と、前記内輪と外輪の間に介在する転動体と、前記内輪と外輪の間の軸受空間を密封する密封装置とを有する密封型転がり軸受において、前記密封装置が、軸受外部から前記軸受空間への気体の流入を許容し、前記軸受空間から軸受外部への気体の流出を遮断する逆止弁を有し、その逆止弁の気体が通る流路に気体の通過を許容し、液体および固体の通過を遮断するフィルタを設けた構成を採用したのである。
【0013】
この密封型転がり軸受は、その使用に伴って軸受空間内が負圧となったとき、密封装置の逆止弁により軸受外部から前記軸受空間へ空気を流入させて、軸受空間内の負圧を解消させることができる。また、外部から前記軸受空間へ空気が流入する際、フィルタにより、軸受外部から圧延油、水分、スケールなどの異物の侵入が遮断されるので、軸受空間内への異物の侵入を防止することができる。
【0014】
ところで、上述したシール部材にベント手段を設けた密封型転がり軸受では、軸受の回転により軸受空間内から飛散するグリースなどの潤滑剤がベント手段に付着することがある。潤滑剤が付着したベント手段では、空気の通過が妨げられ、負圧の解消能力が低下する。
【0015】
これに対して、前記構成の密封型転がり軸受において、前記密封装置が、前記外輪の端部に嵌合したシールケースと、前記シールケースの内部に保持されたシールとからなり、前記シールケース内に前記逆止弁を設け、その逆止弁が前記流路を形成する筒状の弁本体と、前記弁本体内を移動してその流路を開閉する弁体と、前記流路に設けた前記フィルタとを備えた構成を採用したのである。
【0016】
この構成では、逆止弁がシールケースの内部に設けられているため、逆止弁への潤滑剤の付着を防止することができる。したがって、空気の通過が妨げられることによる、負圧の解消能力の低下を防止することができる。
【0017】
逆止弁のフィルタとしては、フィルタを気体の通過を許容し、液体および固体の通過を遮断するシート材により形成し、そのフィルタを前記流路内の前記弁体よりも軸受外部側に設けた構成を採用することができる。このようにすると、フィルタが逆止弁の弁本体の流路の形状(断面形状)に応じて加工が容易となる。また、軸受外部側に設けたフィルタによって異物が除去され、異物による流路内での弁体の移動が妨げられない。よって、弁体による流路の開閉が円滑に行われ、逆止弁の機能が損なわれない。
【0018】
前記構成において、フィルタの表面積を増やして、異物の除去能力を向上させるために、前記フィルタを筒状に形成し、前記弁体に前記フィルタをその一端部が閉塞する状態で設け、前記弁体の移動に伴い、前記弁本体の一端部に形成された径方向内向きの段部の内周部に前記フィルタの外周部の全周を摺接させるようにした構成を採用することができる。
【0019】
この構成において、前記筒状のフィルタを複数の筒状のフィルタを相互に嵌合した積層状態に形成した構成を採用すると、フィルタの厚みが増すため、異物の除去能力が向上する。
【0020】
フィルタの表面積を増やして、異物や水の除去能力を向上させるために、前記フィルタを筒状体の一端部が閉塞したカップ状に形成し、その閉塞端を前記弁体側に配置した状態で前記弁本体内に嵌合した構成を採用することができる。
【0021】
さらに、フィルタの異物の除去能力を向上させるために、フィルタに対して異物が接触する機会を増やすことが考えられる。具体的な手段としては、前記フィルタを前記流路に前記弁本体の長さ方向に間隔をおいて複数設けた構成を採用することができる。
【0022】
ところで、軸受の使用に伴う軸受空間内の気圧の変化、または軸受の回転停止に伴う軸受温度の低下により、フィルタと弁体との間の流路内において、軸受空間内の水蒸気が液化し水滴となることがある。水滴を軸受外部に排水させるために、前記逆止弁が流路を形成する筒状の弁本体と、前記流路内を移動して流路を開閉する弁体と、前記流路に設けた前記フィルタとを備えた構成を採用する場合、前記弁本体に排水孔を設け、その排水孔は前記フィルタと前記弁体との間の前記流路と軸受外部とを連通し、その流路に水が生じた場合、前記排水孔を通して毛細管作用により前記流路から軸受外部へ排水させるようにした構成を採用することができる。
【0023】
前記弁本体に排水孔を設けた構成を採用した場合、前記弁本体が軸受外部側の端部に嵌合する蓋部材を有し、前記蓋部材は前記流路に通じる開口孔を有し、その蓋部材により前記フィルタを前記弁本体から抜け止めし、前記排水孔を前記弁本体の端部における前記蓋部材との嵌合部に設け、前記水を毛細管作用により前記嵌合部を介して、前記蓋部材の開口孔に導くようにした構成を採用することができる。
【0024】
このようにすると、フィルタと弁体との間の流路に水が生じた場合、その水は排水孔から弁本体の端部と蓋部材との嵌合部を通して、蓋部材の開口孔へ導かれ、軸受外部へと流出させることができる。
【0025】
この構成において、前記蓋部材と前記弁本体の端部との間に、前記嵌合部と前記蓋部材の開口孔とを連通する通路を形成すると、その通路を通じて毛細管作用により、水をより効率的に蓋部材の開口孔に導くことができる。
【0026】
前記フィルタを前記流路に前記弁本体の長さ方向に間隔をおいて複数設けた構成を採用した場合、軸受の使用に伴って複数のフィルタの外周面から、弁本体の内周部との間のすき間に水蒸気が流入し、軸受空間内の気圧の変化等で水蒸気が液化し水滴となることがある。
【0027】
そこで、前記すき間に生じた水滴を軸受外部に排出させるために、前記弁本体が軸受外部側の端部に嵌合する蓋部材を有し、前記蓋部材は前記流路に通じる開口孔を有し、その蓋部材により前記フィルタを前記弁本体から抜け止めし、前記複数のフィルタのうち、軸受外部寄りのフィルタを前記弁本体の内周部に対してすき間をおいて設け、前記蓋部材と前記弁本体の端部とにより、前記すき間と軸受外部とを連通する通路を形成し、そのすき間に水が生じた場合、前記通路を通して毛細管作用により前記すき間から軸受外部へ排水させるようにした構成としたのである。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、この発明は、密封装置に設けた逆止弁により、軸受空間内の負圧が解消され、フィルタが軸受内部への異物の通過を遮断するので、異物の侵入による潤滑剤の劣化を抑え、軸受の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明に係る密封型転がり軸受の実施例1を示す断面図
【図2】同上の密封装置を示す斜視図
【図3】同上の逆止弁を示す断面図
【図4】(a)同上の逆止弁の一端部を示す分解斜視図、(b)同上の逆止弁の他端部を示す分解斜視図
【図5】実施例1の逆止弁の一端部の変形例1を示す断面図
【図6】同上の逆止弁の一端部の変形例1を示す分解斜視図
【図7】実施例1の逆止弁の変形例2を示す断面図
【図8】同上の逆止弁の変形例2を示す分解斜視図
【図9】実施例2の逆止弁の一端部を示す断面図
【図10】同上の逆止弁の一端部を示す分解斜視図
【図11】実施例3の逆止弁の要部を示す断面図
【図12】同上の逆止弁の要部を示す分解斜視図
【図13】同上の逆止弁の要部の変形例1を示す断面図
【図14】同上の逆止弁の変形例1を示す分解斜視図
【図15】同上の逆止弁の変形例2を示す断面図
【図16】同上の逆止弁の変形例2を示す分解斜視図
【図17】実施例4の逆止弁の要部を示す断面図
【図18】同上の逆止弁の要部を示す分解斜視図
【図19】実施例5の逆止弁の要部を示す断面図
【図20】同上の逆止弁の要部を示す分解斜視図
【図21】同上の逆止弁の要部の変形例を示す断面図
【図22】同上の逆止弁の変形例を示す分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、この発明に係る密封型転がり軸受の実施例を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0031】
この実施例1での密封型転がり軸受は、例えば、圧延機のロールネックの支持装置に適用され、圧延機のロールを回転可能に支持するものであり、図1に示すように、密封型の4列円すいころ軸受が適用可能である。なお、密封型転がり軸受は、図示するように4列円すいころ軸受に限定されるものではなく、例えば、複列円筒ころ軸受や多列円筒ころ軸受、あるいは、単列円筒ころ軸受であってもよい。
【0032】
この密封型転がり軸受は、2列の軌道2a、2b、2c、2dを有する一対の内輪1と、単列の軌道4a、4dを有する一対の外輪3a、3bおよび2列の軌道4b、4cを有する一つの外輪3cと、各内輪1の軌道2a、2d、2b、2cと外輪3a、3b、3cの軌道4a、4d、4b、4cとの間に転動自在に介在した4列の円すいころ5と、円すいころ5を円周方向で所定間隔に保持する保持器6とを備え、両側の外輪3a、3bの両端部に密封装置7を装着している。各内輪1の中央部には大つば8が設けられ、軸受使用時に円すいころ5は、大つば8に案内されながら各軌道2上を転動する。
【0033】
また、外輪3a、3bの端部に装着された密着装置7は、内輪1の外径面にそれぞれ摺接して内輪1と外輪3との間の軸受内部をシールしている。この密着装置7は、両側の外輪3a、3bの端部に装着される環状のシールケース9a、9bと、このシールケース9a、9bの径方向内周部に嵌合して保持される接触型のオイルシール11とからなる。
【0034】
シールケース9a、9bは、図2に示すように、軸方向内端面の径方向内側に軸方向外向きに凹む段部12が全周にわたって形成され、軸方向に貫通孔13が設けられている。貫通孔13は軸方向内側の開口部の一部が、段部12に位置している。このため、密着装置7を外輪3に装着した状態において、貫通孔13が外輪3a(一点鎖線参照)の端面と段部12とにより形成される空間に通じている。
【0035】
オイルシール11は、芯金14と、弾性体で形成されたシールリップ15とOリング16とで構成され、芯金14がシールケース9の内周部に嵌合固定されて、芯金14に一体成形された弾性材からなるシールリップ15が、Oリング16で内輪1の外周面に押圧される。
【0036】
芯金14の外周部を覆う弾性材の軸方向内端部に切り欠き17が設けられており、切り欠き17はシールケース9の貫通孔13の径方向内側に配置されている(図2参照)。密封装置7が外輪3に装着された状態で、切り欠き17と貫通孔13とによって、軸受外部と軸受空間とが外輪3の端面と段部12とにより形成される空間を介して連通している。
【0037】
密着装置7のシールケース9は、貫通孔13に逆止弁20が嵌合され、貫通孔13内において、逆止弁20の一端部が軸受外部側(軸方向外側)に、他端部が軸受空間側(軸方向内側)に向く状態で配置されている。
【0038】
逆止弁20は、図3に示すように、気体の通る流路Aを形成する円筒状の弁本体21と、弁本体21内に形成された弁座23に接離する弁体22と、弁体22を弁座23に押し付ける向きに付勢するコイルばね24を備えている。
【0039】
弁本体21の一端部の外周部は、弁本体21の外周部よりも外径が小さく形成され、蓋部材26がねじ結合により嵌合する。弁本体21の他端部の内周部は円筒状に形成された蓋固定部材25がねじ結合により嵌合する。蓋固定部材25の先端部(軸方向内側の端部)の外周部に蓋部材27がねじ結合により嵌合している。これらの蓋部材26、27と、弁本体21との外径は、同径に形成されており、貫通孔13へ容易に嵌合することができる。
【0040】
弁体22は、一方の端面が閉塞する円筒状に形成され、その閉塞部22aが弁本体21の一端側に向く状態に、弁本体21内をその軸方向に移動可能に配置されている。閉塞部22aの外周部に、弁座23に対して接離するシールリング28が装着されている。弁体22の材質は、ステンレス系材料が適用され、弁体22の表面には防錆被膜処理、例えば、リン酸塩皮膜処理、亜鉛メッキ等が施されている。
【0041】
弁体22の外周部にフランジ22bが形成され、弁体22の外周部に装着されたコイルばね24が、フランジ22bと蓋固定部材25の端面との間に圧縮状態となっている。圧縮状態のコイルばね24に弾性復元力より、弁体22は、弁本体21の一端側に移動するように付勢され、そのシールリング28が弁座23に接して流路Aを閉塞する。
【0042】
これに対して、軸受の使用に伴い、軸受空間内が負圧となったとき、弁体22に作用する空気の圧力差により、コイルばね24の付勢力に抗して、弁体22が他端側に移動し、弁座23から離れて流路Aを開放する。
【0043】
弁本体21の両端部に嵌合する蓋部材26、27は、一方の端部が閉塞する筒状に形成され、その閉塞部に弁本体21内の流路Aに通じる開口孔26a、27aを有している。図4(a)に示すように、弁本体21の一端部にその開口を覆うようにシート状のフィルタ29が設けられている。フィルタ29は蓋部材26の閉塞部内面と、弁本体21の一端部端面との間に挟まれた状態で弁本体21から抜け止めされている。
【0044】
一方、弁本体21の他端部において、蓋固定部材25の先端部にその開口を覆うようにシート状のフィルタ30が設けられている。フィルタ30は蓋部材27の閉塞部内面と、蓋固定部材25の先端部端面との間に挟まれた状態で弁本体21から抜け止めされている。
【0045】
蓋固定部材25の端面には、図4(b)に示すように、径方向のスリット25aが設けられている。ここで、軸受の回転停止に伴う軸受温度の低下により、フィルタ30と弁体22との間の流路A内の水蒸気が液化し水滴が生じることがある。この場合、水滴を毛細管作用によりスリット25aから蓋部材27と蓋固定部材25との嵌合部を経て、弁本体21の外周部に沿って弁本体21の一端部へ導くことが可能となる。
【0046】
フィルタ29、30は、空気(気体)は通過させるが液体、固体は通過させないもの、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の乳化重合膜に、ポリウレタン樹脂を複合化したシート状に形成したものを適用することができる。
【0047】
このように構成された密封型転がり軸受は、その使用に伴って、軸受空間内が負圧となったとき、密封装置7の逆止弁20は、弁体22が弁本体21の他端側に移動し、流路Aが開放され、軸受外部から軸受空間へ空気が流入する。空気の流入により軸受空間内の負圧が解消される。
【0048】
また、軸受外部から軸受空間へ空気が流入する際、弁本体21の一端部に設けられたフィルタ29により、気体である空気が通過し、軸受外部からの圧延油、水分、スケールなどの異物の侵入が遮断されるので、軸受空間内への異物の侵入を防止することができる。
【0049】
さらに、軸受の回転停止に伴う軸受温度の低下や軸受内部の気圧の変化により、フィルタ30と弁体22との間の流路A内の水蒸気が液化し水滴となることがある。この水滴をフィルタ30により軸受空間内への侵入を防ぐこともできる。
【0050】
この実施例1では、逆止弁20により軸受空間内の負圧が解消され、フィルタ29、30により、軸受空間内への異物の侵入を防止することができる。よって、軸受空間内の潤滑剤の劣化が抑制され、軸受の長寿命化が図られる。
【0051】
次に、この実施例1の逆止弁20の変形例1を図5、6に示す。
この変形例は、逆止弁20の一端部のフィルタ29の外側にカバー板31が設けられたものである。その他の構成は実施例1と同様の構成である。カバー板31は、図5に示すように、弁本体21の一端部の開口部を覆うように配置され、弁本体21の一端部と蓋部材26との間にフィルタ29とともに挟まれている。
【0052】
カバー板31の中央部分は軸方向外向きに切り起こされ、その切り起こし片31bがカバー板31の外周部に対して平行に折り曲げられている(図6参照)。切り起こし片31bとカバー板31の外周部との間に、弁本体21内の流路Aに通じるスリット31aが形成されている。
【0053】
カバー板31は、プレス加工により製造可能であり、その材質は、ステンレス系材料が適用される。カバー板31の表面には、例えば、リン酸塩皮膜処理、亜鉛メッキ等の防錆被膜処理が施されている。
【0054】
カバー板31により、軸受外部に対して露出する逆止弁20の一端部から、フィルタ29に向かって水、圧延油、スケールなどの異物が侵入することが防止され、スリット31aから空気を通過させることができる。
【0055】
このカバー板31を設ける代わりに、実施例1の逆止弁20の変形例2として、弁本体21の一端部の開口部を覆うように金網32を配置するようにしてもよい。この変形例2においても、金網32を弁本体21の一端部と蓋部材26との間にフィルタ29とともに挟むようにする(図7、図8参照)。
【0056】
金網32のメッシュ数は、主としてスケールなど固体の異物の侵入を防止できる大きさに設定され、軸受の使用環境、逆止弁20のサイズに基づいて、実操業、実験等により設定される。また、金網32の材質は、ステンレス系材料が適用され、金網32の表面には防錆被膜処理、例えば、リン酸塩皮膜処理、亜鉛メッキ等が施されている。
【0057】
この変形例2も、変形例1の場合と同様、軸受外部に対して露出する逆止弁20の一端部から、フィルタ29に向かって水、圧延油、スケールなどの異物が侵入することが防止され、網目から空気を通過させることができる。
【0058】
上記逆止弁20の弁本体21の一端部、蓋部材26およびフィルタ29の構造は、軸受内部への異物の侵入を防止することが可能な限り、適宜に変更することができる。一例として、この発明の実施例2を図9、10に示す。なお、以下においては、上記実施例1との相違点を中心に述べ、同一に考えられる構成に同符号を用いる。
【実施例2】
【0059】
この実施例2は、図9に示すように、弁本体21の一端部にフィルタ29が弁本体の長さ方向に間隔をおいてスペーサ33を介して複数枚設けられたものである。このようにすると、フィルタ29に対して異物が接触する機会が増え、フィルタ29による異物の除去能力が向上する。
【0060】
この実施例では、軸受の使用に伴って複数枚のフィルタ29の外周面から、弁本体21の一端部の内周部との間のすき間に水蒸気が流入し、軸受の回転停止によって軸受温度の低下、軸受空間内の気圧の変化により、水蒸気が液化し水滴となることがある。
【0061】
このすき間に生じた水滴を軸受外部に排出させるために、この実施例では以下の構成を採用することができる。すなわち、図9に示すように、複数枚のフィルタ29のうち、軸方向外側寄り(軸受外部寄り)のフィルタ29bが弁本体21の内周部に対してすき間Bをおいて設けられている。また、弁本体21の一端部端面に径方向のスリット21aが設けられ、蓋部材26の筒状部分に排水孔26bが設けられている(図10参照)。
【0062】
弁本体21の一端部に蓋部材26を嵌合することにより、弁本体21の一端部と蓋部材26とで、すき間Bと弁本体21の外部とを連通する通路(スリット21a、排水孔26b)が形成される。
【0063】
実施例2において、すき間Bに水滴が生じた場合、通路を通して毛細管作用によりすき間Bから弁本体21の外部へ排水させ、水を弁本体21と密封装置7のシールケース9との間から軸受外部へ導くことができる。
なお、この実施例2の弁本体21の一端部において、上述した実施例1の変形例1のカバー板31、変形例2の金網32を設けることができる。
【0064】
この発明の実施例3を図11、12に示す。
【実施例3】
【0065】
この実施例3は、フィルタ29が筒状に形成され、弁体22の閉塞部22aにフィルタ29がその一方の端部を閉塞する状態で設けられ、弁体22の移動に伴い弁本体21の一端部の内周部にフィルタ29の外周部の全周が摺接されるようにしたものである。
【0066】
すなわち、図11に示すように、弁体22の閉塞部22aの外周部に軸方向のフランジ22bが設けられ、フランジ22b内に筒状のフィルタ29が嵌合することで、フィルタ29の一方の端部が閉塞される。
【0067】
弁本体21の一端部の内周部には、径方向内向きの段部21cが形成され、段部21cの内周部にフィルタ29の外周部の全周が摺接するように嵌合されている。これにより、フィルタ29の表面積が増大し、異物の除去能力を向上させることが可能となる。
【0068】
この実施例では、図11に示すフィルタ29と弁体22との間で形成された流路A内の空間Cにおいて、軸受の回転停止に伴う軸受温度の低下、軸受空間内の気圧の変化により、水蒸気が液化し水滴となることがある。
【0069】
この水滴を軸受外部に排出させるために、必要に応じて、流路Aの空間Cと弁本体21の外部とを連通する排水孔21bを設けてもよい(図12参照)。この排水孔21bにより、その流路A内の空間Cに水が生じた場合、排水孔21bを通して毛細管作用により空間Cから排水させて、弁本体21の一端部と蓋部材26の嵌合部を経て、軸受外部側の蓋部材26の開口孔26aへと導くことができる。
【0070】
また、この実施例3の変形例1として、弁本体21の一端部において、上述した実施例1の変形例1と同様のカバー板31(図13、14参照)を設けることができる。さらに、実施例3の変形例2として、実施例1の変形例2と同様の金網32(図15、16)を設けることができる。
【0071】
この発明の実施例4を図17、18に示す。
【実施例4】
【0072】
この実施例4は、筒状に形成されたフィルタ29を複数の筒状のフィルタを相互に嵌合した積層状態に形成したものである。その他の構成は、実施例3と同様の構成である。このフィルタ29により、フィルタの厚みが増すため、異物の除去能力を向上させることが可能となる。
【0073】
実施例4において、弁本体21の一端部に、上述した実施例1の変形例1と同様のカバー板31を設けることができる。さらに、実施例1の変形例2と同様の金網32を設けてもよい。
【0074】
この発明の実施例5を図19、20に示す。
【実施例5】
【0075】
この実施例5は、図19に示すように、フィルタ29を筒状体の一方の端部が閉塞したカップ状に形成し、その閉塞端を弁体22側に配置した状態で弁本体21の一端部内に嵌合したものである。
【0076】
フィルタ29の筒状体の他方の端部には径方向外向きのフランジ29aが形成され、フランジ29aが弁本体21の一端部と蓋部材26との間に挟まれている。これにより、フィルタ29の表面積が増大し、異物の除去能力を向上させることが可能となる。
【0077】
実施例5では、図19に示すフィルタ29と弁体22との間の流路Aにおいて、軸受の回転停止に伴う軸受温度の低下、軸受空間内の気圧の変化により、水蒸気が液化し水滴となることがある。
【0078】
前記流路Aに生じた水滴を軸受外部に排出させるために、必要に応じて、前記流路Aと弁本体21と弁体22の外部を連通する排水孔21bを設けてもよい(図20参照)。この排水孔21bにより、前記流路A内に水が生じた場合、排水孔21bを通して毛細管作用によりその流路Aから排水させ、弁本体21の一端部と蓋部材26の嵌合部を経て、軸受外部側の蓋部材26の開口孔26aへと導くことができる。
【0079】
また、弁体22とフィルタ29の間の流路から排水され、排水孔21bから弁本体21の一端部と蓋部材26の嵌合部に達した水を、より効果的に軸受外部側の蓋部材26の開口孔26aへと導くために、弁本体21の一端部端面に径方向のスリット21aを設けることができる(図20参照)。
【0080】
弁本体21の一端部に蓋部材26を嵌合することにより、弁本体21の一端部と蓋部材26とで、その嵌合部と蓋部材26の開口孔26aとを連通する通路を形成される。この通路を通じて、毛細管作用により、水をより効果的に蓋部材26の開口孔26aに導くことができる。
【0081】
また、弁体22のフィルタ29を望む表面に、軸方向に凹む漏斗状の凹部34を設けてもよい。流路A内の水滴が生じた場合、その水滴を凹部34の内面に付着させ、その内面に沿って中央部分に集めることができる。
【0082】
実施例5において、弁本体21の一端部に、上述した実施例1の変形例1と同様のカバー板31を設けることができる。さらに、実施例1の変形例2と同様の金網32を設けてもよい。
【0083】
この実施例5の変形例を図21、22に示す。
この変形例は、フィルタ29を筒状体の一方の端部が閉塞したカップ状に形成し、フランジ29aを形成せずに、他方の端部を蓋部材26の付き当て、弁本体21に対して抜け止めしたものである。その他の構成は実施例4の場合と同様の構成である。
【符号の説明】
【0084】
1 内輪
2a、2b、2c、2d 軌道
3 外輪
4a、4b、4c、4d 軌道
5 円すいころ
6 保持器
7 密封装置
8 大つば
9 シールケース
11 オイルシール
12 段部
13 貫通孔
14 芯金
15 シールリップ
16 Oリング
17 切り欠き
20 逆止弁
21 弁本体
21a スリット
21b 排水孔
21c 段部
22 弁体
22a 閉塞部
22b フランジ
23 弁座
24 コイルばね
25 蓋固定部材
25a スリット
26 蓋部材
26a 開口孔
26b 排水孔
26c スリット
27 蓋部材
27a 開口孔
28 シールリング
29 フィルタ
29a フランジ
30 フィルタ
31 カバー板
31a スリット
31b 切り起こし片
32 金網
33 スペーサ
34 凹部
A 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪(1)および外輪(3)と、前記内輪(1)と外輪(3)の間に介在する転動体(5)と、前記内輪(1)と外輪(3)の間の軸受空間を密封する密封装置(7)とを有する密封型転がり軸受において、
前記密封装置(7)が、軸受外部から前記軸受空間への気体の流入を許容し、前記軸受空間から軸受外部への気体の流出を遮断する逆止弁(20)を有し、その逆止弁(20)の気体が通る流路に気体の通過を許容し、液体および固体の通過を遮断するフィルタ(29)を設けたことを特徴とする密封型転がり軸受。
【請求項2】
前記密封装置(7)が、前記外輪(3)の端部に嵌合したシールケース(9)と、前記シールケース(9)の内部に保持されたシール(11)とからなり、前記シールケース(9)内に前記逆止弁(20)を設け、その逆止弁(20)が前記流路を形成する筒状の弁本体(21)と、前記弁本体(21)内を移動してその流路を開閉する弁体(22)と、前記流路に設けた前記フィルタ(29)とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の密封型転がり軸受。
【請求項3】
前記フィルタ(29)を気体の通過を許容し、液体および固体の通過を遮断するシート材により形成し、そのフィルタ(29)を前記流路内の前記弁体(22)よりも軸受外部側に設けたことを特徴とした請求項2に記載の密封型転がり軸受。
【請求項4】
前記フィルタ(29)を筒状に形成し、前記弁体(22)に前記フィルタ(29)をその一端部が閉塞する状態で設け、前記弁体(22)の移動に伴い、前記弁本体(21)の一端部に形成された径方向内向きの段部(21c)の内周部に前記フィルタ(29)の外周部の全周を摺接させるようにした請求項2または3に記載の密封型転がり軸受。
【請求項5】
前記筒状のフィルタ(29)を複数の筒状のフィルタを相互に嵌合して形成したことを特徴とする請求項4に記載の密封型転がり軸受。
【請求項6】
前記フィルタ(29)を筒状体の一端部が閉塞したカップ状に形成し、その閉塞端を前記弁体(22)側に配置した状態で前記弁本体(21)内に嵌合したことを特徴とする請求項2または3に記載の密封型転がり軸受。
【請求項7】
前記フィルタ(29)を前記流路に前記弁本体(21)の長さ方向に間隔をおいて複数設けたことを特徴とする請求項2または3に記載の密封型転がり軸受。
【請求項8】
前記弁本体(21)に排水孔(21b)を設け、その排水孔(21b)は前記フィルタ(29)と前記弁体(22)との間の前記流路と、軸受外部とを連通し、その流路に生じる水を、前記排水孔(21b)を通して毛細管作用により前記流路から軸受外部へ排出させるようにしたことを特徴とする請求項4から6のいずれか1つに記載の密封型転がり軸受。
【請求項9】
前記弁本体(21)が軸受外部側の端部に嵌合する蓋部材(26)を有し、前記蓋部材(26)は前記流路に通じる開口孔(26a)を有し、その蓋部材(26)により前記フィルタ(29)を前記弁本体(21)から抜け止めし、前記排水孔(21b)を前記弁本体(21)の端部における前記蓋部材(26)との嵌合部に設け、前記水を毛細管作用により前記嵌合部を介して、前記蓋部材(26)の開口孔(26a)に導くようにしたことを特徴とする請求項8に記載の密封型転がり軸受。
【請求項10】
前記蓋部材(26)と前記弁本体(21)の端部との間に、前記嵌合部と前記蓋部材(26)の開口孔(26a)とを連通する通路(21a)を形成し、その通路(21a)を通して毛細管作用により、前記水を前記蓋部材(26)の開口孔(26a)に導くようにしたことを特徴とする請求項9に記載の密封型転がり軸受。
【請求項11】
前記弁本体(21)が軸受外部側の端部に嵌合する蓋部材(26)を有し、前記蓋部材(21)は前記流路に通じる開口孔(26a)を有し、その蓋部材(26)により前記複数のフィルタ(29)を前記弁本体(21)から抜け止めし、前記複数のフィルタ(29)のうち、軸受外部寄りのフィルタ(29)を前記弁本体(21)の内周部に対してすき間をおいて設け、前記蓋部材(26)と前記弁本体(21)の端部とにより、前記すき間と軸受外部とを連通する通路(21a)を形成し、そのすき間に生じる水を、前記通路(21a)を通して毛細管作用により前記すき間から軸受外部へ排出させるようにしたことを特徴とする請求項7に記載の密封型転がり軸受。
【請求項12】
前記弁体(22)の前記フィルタ(29)を望む表面に軸方向に凹む円すい状の凹部(34)を有することを特徴とする請求項6に記載の密封型転がり軸受。
【請求項13】
前記弁本体(21)が軸受外部側の端部の開口部を覆うカバー板(31)を有し、そのカバー板(31)に前記流路に通じるスリット(31a)を形成したことを特徴とする請求項2から12のいずれか1つに記載の密封型転がり軸受。
【請求項14】
前記弁本体(21)が軸受外部側の端部の開口部を覆う金網(32)を有することを特徴とする請求項2から12のいずれか1つに記載の密封型転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−74945(P2011−74945A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224493(P2009−224493)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】