説明

密封構造及び転がり軸受装置

【課題】オイルエアの漏れを抑制し、オイル回収率を高める密封構造及び転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】オイルシール8のシールリップが、密封される空間SPに向かって延びるように転がり軸受装置2に装着される。オイルエアが供給される空間SPの内圧によりシールリップは相手方の部材(ラビリンスリング7)に押し付けられ、シール性能が高められる。また、環状のオイルシール8は周方向において切断された箇所があり、その両端面が互いに圧接された状態で装着される。内圧が過大になれば、両端面は押し開かれて圧力を逃がすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば連続鋳造設備のロールを支持する転がり軸受装置に関し、特にそれに用いられる密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造設備のロールを回転自在に支持する転がり軸受装置として、内外輪間の転動体が存在する空間に、圧縮空気で極小量の潤滑油を搬送させるオイルエア潤滑を用いたものがある(例えば、特許文献1参照。)。当該空間を区画するシールには、オイルエアを送り込むためのノズルや、オイルエア中の空気を排出するためのエア抜き通路が形成されている。一方、同様な連続鋳造設備のロールを回転自在に支持する転がり軸受装置として、内外輪間の転動体が存在する空間をオイルシールで密封し、密封された空間へのオイルエア供給口・排出口を、転がり軸受装置のハウジング側に設けたものもある(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−342459号公報(図1)
【特許文献2】特開平8−54066号公報(図1,図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シールに設けたエア抜き通路からは、空気のみならずオイルも漏れ出る。また、オイルエア供給口・排出口をハウジングに設けていても、オイルシールのシールリップから空気やオイルが漏れ出る。漏れ出たオイルは回収されないので、オイル回収率が悪くなる。また、杵形の長いロールの場合は中央に転がり軸受装置が設けられており、漏れたオイルが垂れ落ちると、スラブ(鋳片)を誘導するダミーバーが滑りやすくなる。
【0005】
上記のような従来の問題点に鑑み、本発明は、オイルの漏れを抑制し、オイル回収率を高める密封構造及び転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、互いに相対回転可能な一方部材と他方部材との間に形成され環状のオイルシールで密封された空間にオイルエアが給排される密封構造であって、このオイルシールは、
先端が密封された空間の方に向かって延び、前記一方部材に摺接するシールリップを有するとともに、周方向において切断された箇所があり、当該箇所の周方向両側にそれぞれ形成された突起部を、前記他方部材に形成された穴に係止することで、当該箇所でその両端面を、前記空間の内圧が所定圧力に達すると互いに離反可能に圧接させていることを特徴とするものである。
このような密封構造では、先端が密封された空間の方に向かって延びているシールリップが、空間の内圧によりシールする一方部材に押し付けられ、シール性能が高められる。また、もし内圧が過大になれば、圧接させた両端面が押し開かれる。両端面が押し開かれ、内圧が下がると、突起部が他方部材に形成された穴に係止されているため、両端面は再び圧接される。
【0007】
また、本発明は、内輪と外輪との間の転動体の存在する空間が環状のオイルシールで密封され、密封された空間にオイルエアが給排される転がり軸受装置であって、このオイルシールは、
先端が密封された空間の方に向かって延び、前記内輪又は前記内輪に固定された部材、及び、前記外輪又は前記外輪に固定された部材、の一方部材に摺接するシールリップを有するとともに、周方向において切断された箇所があり、当該箇所の周方向両側にそれぞれ形成された突起部を、前記内輪又は前記内輪に固定された部材、及び、前記外輪又は前記外輪に固定された部材、の他方部材に形成された穴に係止することで、当該箇所でその両端面を、前記空間の内圧が所定圧力に達すると互いに離反可能に圧接させていることを特徴とするものである。
このような転がり軸受装置では、先端が密封された空間の方に向かって延びているシールリップが、空間の内圧によりシールする一方部材に押し付けられ、シール性能が高められる。また、もし内圧が過大になれば、圧接させた両端面が押し開かれる。両端面が押し開かれ、内圧が下がると、突起部が他方部材に形成された穴に係止されているため、両端面は再び圧接される。
【0008】
また、上記転がり軸受装置において、オイルシールは前記内輪に係止され、シールリップを前記外輪に固定された部材に摺接させることができる。
この場合、径方向が鉛直成分を有する方向に取り付けられた場合のオイルシールの下方でシールリップが最も低い位置にあるので、外輪係止で内輪側に摺接の場合よりも、オイルエアから分離したオイルが漏れやすいが、密封された空間の方に向かって延びるシールリップが内圧によって一方部材に押し付けられることにより、漏れを抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の密封構造又は転がり軸受装置によれば、シールリップが、空間の内圧によりシールする相手方に押し付けられ、シール性能が高められるので、オイルの漏れを抑制することができ、回収率を高めることができる。また、もし内圧が過大になれば、圧接させた両端面が押し開かれて圧力を逃がすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、連続鋳造設備に用いられる杵形(中央が小径)のロール1に、本発明の一実施形態による分割構造の転がり軸受装置2(密封構造を含む。)が取り付けられた状態の断面図である。図において、ロール1の小径部1aにおける直径d2は、それ以外の部分の直径d1より小さい。
【0011】
転がり軸受装置2は、小径部1aに外嵌される2分割構造の内輪3と、内輪3の外周側に形成された軌道3aに装着された転動体(円筒ころの総ころ形)4と、下側ハーフリングの外輪5と、内輪3及び転動体4の外側にあって、これらを保持するハウジング6と、ハウジング6の内周側に嵌合された一対の円筒形のラビリンスリング7と、内輪3の外周側に形成された左右一対の周溝3bにそれぞれ装着され、ラビリンスリング7に摺接するオイルシール8と、内輪3の軸端近傍の外周側に形成された周溝3cに装着され、ラビリンスリング7と摺接するパッキン9とを備えている。ハウジング6は2分割構造であり、本実施形態では上下2分割構造であるが、上部のハウジング6は、外輪の役割も担っている。上記一対のオイルシール8は、内外輪間の転動体4が存在する空間SPを密封している。上記小径部1aの両壁となるロール1の両端面の各々には、ラビリンス溝1bが円形に形成され、ここに、ラビリンスリング7が一部入り込んでラビリンスシールを構成している。
【0012】
図2は、転がり軸受装置2のみ(ロール1なし)を正面から見た図であり、右半分は内部断面図である。図3は、転がり軸受装置2の平面図の概略を示す図である。図2,3において、ハウジング6には、オイルエアの供給口6a及び排出口6eが設けられている。供給口6aは、軸方向に延びる通路6bと連通している。この通路6bは、斜め上に延びる通路6cと連通し、さらに、通路6cの先端から上に延びる通路6dが形成されている。そして、通路6dの上端は、外輪5の軸方向略中央に形成された、外輪5の径方向外部と外輪5の内周の軌道5aとを連通する第1の貫通孔5bを介して、空間SP(図1)に開口している。
【0013】
一方、排出口6eは、軸方向に延びる通路6fと連通している。この通路6fは、斜め上に延びる2本の通路6gと連通し、さらに、通路6gの先端から上に延びる通路6hが形成されている。そして、通路6hの上端は、外輪5の軸方向中央を挟んで2箇所に形成された外輪5の径方向外部と外輪5の内周の軌道5aとを連通する2箇所の第2の貫通孔5cを介して、空間SPに開口している。供給口6aにはオイルエア供給装置10が接続され、排出口6eには回収装置11が接続される。供給口6aに供給されたオイルエアは、通路6b,6c,6d及び第1の貫通孔5bを経て空間SPに入り、転動体4及びこれに接する内輪3の軌道3a、鍔部3e、外輪5の軌道5a及びハウジング6の軌道6jを潤滑する。また、空気及び分離されたオイルは、第2の貫通孔5cから通路6h,6g,6fを経て排出口6eから排出され、回収装置11に回収される。
【0014】
図4は、図1の左側のオイルシール8を単体で軸方向左側(図1の左側)から見た図、若しくは、図1の右側のオイルシール8を単体で軸方向右側(図1の右側)から見た図である。また、図5は、図4のV部の拡大図、図6は、図4のVI−VI線断面図である。
【0015】
図4〜6において、オイルシール8は、フッ素ゴム製のシールゴム81と、鉄製の芯金82とを備えている。シールゴム81は、一体に形成された一対の突起部81cを有している。シールゴム81の外周側には、前記空間SPを密封するためのシールリップ81dが形成されている。
シールゴム81は、周方向の一箇所Sで切断されており、その両端面81a,81bを互いに突き合わせることにより、全体として環状の形態を成している。端面81aは図10に示す端面形状を備え、端面81bは図10を左右反転させた端面形状を備えている。一対の芯金82は、表面のみ露出した状態となるようにシールゴム81に埋設され、かつ、シールゴム81に沿って円弧状に設けられている。
【0016】
上記箇所Sを、オイルシール8の幾何的中心(円の中心)から見て0度の位置であるとすると、芯金82は、0度を中心としたその周方向の前後の範囲である分割部A(図4)には存在せず、上記箇所Sの周方向両側に、芯金82の一対の端部82aが互いに近接して配置されている。図5において、一対の突起部81cは、例えば内径135mmのオイルシール8の場合、−5度及び+5度の位置にあり、その角度間隔は10度である。また、芯金82は、180度を中心としたその周方向の前後の範囲を除くように設けられている。この範囲は、分割部Aの範囲より大きく、オイルシール8を開く際の屈曲部B(図4)となる。
【0017】
図7は、内輪3の周溝3bの一箇所について、図1のオイルシール8が周溝3bに装着されていない状態でのVII−VII線断面を示す図である。図において、周溝3bには一対の穴3dが形成されている。この穴3dは、オイルシール8における突起部81cを、ほぼ緊密に収めることができる形状及び寸法となっている。また、一対の穴3dの角度間隔は、突起部81cの角度間隔(10度)に対応するが、若干小さくしてオイルシール8の端面同士を圧接させるべく、例えば9.5度とされている。この周溝3bにオイルシール8を装着し、突起部81cを穴3dに嵌合させることにより、オイルシール8の端面81a,81bが互いに圧接する。
【0018】
図8は、図1の右側(右上)に表されているオイルシール8の拡大図である。図1の左側(左上)に表されているオイルシール8の拡大図は、図8と左右対称である。
図において、オイルシール8は、空間SPに面し、シールリップ81dが内向き、すなわち、空間SPに向かって延びるように装着されている。シールリップ81dはラビリンスリング7に押し付けられて変形し、オイルエアに対するシールを構成する。この接触圧は、例えば0.1〜0.3MPaの範囲が好ましい。オイルエアが空間SPに供給されることにより、その内圧を受けるシールリップ81dはラビリンスリング7に強く押し付けられ、シール性能が高められる。このように、密封される空間に向かって(すなわち内側へ)シールリップ81dの先端が延びていることにより、シールリップの先端が外向きの場合に比べて、優れたシール性能を得ることができる。従って、オイルエアの漏れが抑制され、オイルの回収率を高めることができる。
【0019】
また、もし内圧が所定圧力以上の過大な値になれば、圧接させたオイルシール8の両端面81a,81bが押し開かれて互いに離反し、圧力を逃がすことができる。圧力が逃がされると、両端面81a,81bは、元の圧接状態に戻る。すなわち、互いに圧接された両端面81a,81bは、リリーフ弁のように動作する。
【0020】
なお、上記転がり軸受装置2においては、オイルシール8は内輪3に係止され、シールリップ81dは外輪側の部材であるラビリンスリング7に摺接するが、オイルシールの内周側・外周側の形状を逆にすれば(シールリップが内周側)、外輪側に係止させ、内輪側にシールリップを摺接させることができる。
但し、本実施形態の図1のように鉛直に取り付けられたオイルシール8の下方では、シールリップが最も低い位置にあるので、外輪係止で内輪側に摺接の場合よりも、オイルエアから分離したオイルが漏れやすい。しかしながら、かかる条件下でも、密封された空間SPの方に向かって先端が延びるシールリップ81dにより、漏れを抑制することができる。
【0021】
なお、上記所定圧力すなわちリリーフ圧は、シールリップ81dの厚みを変えることにより、所望の値に調整することができる。また例えば、分割部Aのみ他の部分と異なる材質で形成して(他の部分と接合する。)、リリーフ圧を調整することも可能である。
さらには、シールリップ81dの形態に工夫を施して調節することも可能である。図9の(a)、(b)は、シールリップ81dの形態に工夫を施してリリーフ圧を調整する構成例を示す図であり、分割部Aにおける図8のIX-IX線断面図に相当する。(a)は、両端面81a,81bにそれぞれ斜めの切り込み81eを入れて、圧力(空間SPの内圧)により開きやすくした例である。(b)は、V字状にテーパ81fを付けて、圧力により開きやすくした例である。
【0022】
なお、上記実施形態では、一つのシールゴム81を周方向の一箇所で切断し、その両端面81a,81bを互いに突き合わせる構成としたが、複数のシールゴムを周方向に並べる構成であってもよい。この場合、互いに突き合わせる箇所は、シールゴムの数と同じだけ形成される。この場合においても、上記実施形態と同様の作用効果が得られることはもちろんである。
なお、上記実施形態では、突起部81cをシールゴム81と一体に形成したが、突起部は別部材で形成して、シールゴムに固定してもよい。
【0023】
なお、上記実施形態では転がり軸受装置について説明したが、オイルエア潤滑する他の密封構造であっても、同様のオイルシールを適用することができる。例えば、軸を往復させるガイド装置にも上記のようなオイルシールを適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】連続鋳造設備に用いられる杵形のロールに、本発明の一実施形態による転がり軸受装置が取り付けられた状態の断面図である。
【図2】転がり軸受装置のみを正面から見た図であり、右半分は内部断面図である。
【図3】転がり軸受装置の平面図の概略を示す図である。
【図4】図1の左側のオイルシールを単体で軸方向左側(図1の左側)から見た図、若しくは、図1の右側のオイルシールを単体で軸方向右側(図1の右側)から見た図である。
【図5】図4のV部の拡大図である。
【図6】図4のVI−VI線断面図である。
【図7】内輪の周溝の一箇所について、図1のVII−VII線断面を示す図である。
【図8】図1の右側(右上)に表されているオイルシールの拡大図である。
【図9】オイルシールのシールリップについて他の例を示す図である。
【図10】オイルシールの端面形状を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
2 転がり軸受
3 内輪
4 転動体
5 外輪
6 ハウジング
7 ラビリンスリング
8 オイルシール
81d シールリップ
S 切断された箇所
SP 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対回転可能な一方部材と他方部材との間に形成され環状のオイルシールで密封された空間にオイルエアが給排される密封構造であって、このオイルシールは、
先端が密封された空間の方に向かって延び、前記一方部材に摺接するシールリップを有するとともに、周方向において切断された箇所があり、当該箇所の周方向両側にそれぞれ形成された突起部を、前記他方部材に形成された穴に係止することで、当該箇所でその両端面を、前記空間の内圧が所定圧力に達すると互いに離反可能に圧接させていることを特徴とする密封構造。
【請求項2】
内輪と外輪との間の転動体の存在する空間が環状のオイルシールで密封され、密封された空間にオイルエアが給排される転がり軸受装置であって、このオイルシールは、
先端が密封された空間の方に向かって延び、前記内輪又は前記内輪に固定された部材、及び、前記外輪又は前記外輪に固定された部材、の一方部材に摺接するシールリップを有するとともに、周方向において切断された箇所があり、当該箇所の周方向両側にそれぞれ形成された突起部を、前記内輪又は前記内輪に固定された部材、及び、前記外輪又は前記外輪に固定された部材、の他方部材に形成された穴に係止することで、当該箇所でその両端面を、前記空間の内圧が所定圧力に達すると互いに離反可能に圧接させていることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項3】
前記オイルシールは前記内輪に係止され、前記シールリップを前記外輪に固定された部材に摺接させる請求項2記載の転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−180310(P2009−180310A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20524(P2008−20524)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000252207)六菱ゴム株式会社 (41)
【Fターム(参考)】