説明

密封構造

【課題】シール部材のより長期の使用を可能にする密封構造を提供する。
【解決手段】シール部材3は、環状溝21に収容されるシール本体30と、シール本体30から軸1に向かって軸方向一方側に傾いて延びて、軸1に摺動接触するリップ状の第1シール部31と、第1リップ31よりも軸方向他方側において、軸1に摺動接触する第2シール部32と、ハウジング2に密着する第3シール部33と、を有し、ハウジング2は、第1シール部31の軸1に対する密着度合いが高まるような変形をシール部材3に生ぜしめるべく、径方向の位置が互いに異なりかつ軸方向に相対する力が作用するようにシール部材3を押圧可能、かつ、該押圧力を調整可能に構成された押圧部を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、建設機械等に用いられる油圧シリンダのロッド部を密封するための密封装置として、ロッドシーリングシステムが知られている(例えば特許文献1参照)。図5及び図6を参照して従来例に係るロッドシーリングシステムについて説明する。図5は、油圧シリンダの断面構成を示す模式的斜視図である。図6は、ロッドシーリングシステムの模式的断面図である。
【0003】
図5に示すように、油圧シリンダ101は、シリンダ102と、シリンダ102内部に摺動自在に挿嵌されるピストン103と、ピストン103に連結されるロッド104と、を備えている。シリンダ102には、ピストン103を挟む位置に2つの油圧導入孔105、106が設けられている。この油圧導入孔105、106に選択的に作動油の油圧をかけることでピストン103を軸方向に移動させ、シリンダ102及びロッド104の取付部107、108の相対位置を変更する。ロッドシーリングシステムは、シリンダ102の端部に設けられ、シリンダ102とロッド104との隙間をシールする。
【0004】
図6に示すように、ロッドシーリングシステムは、ロッドパッキンRと、バッファリングBと、ダストシールDと、を備える。ロッドパッキンRは、主として、外部(A)側への作動油の漏れを防止する。ロッドパッキンRよりも内部(O)側(油圧側)に装着されるバッファリングBは、高負荷時の衝撃圧や変動圧を緩衝したり高温の作動油のロッドパッキンR側への流入をカットしてロッドパッキンRの耐久性を向上させる。ダストシールDは、ロッドパッキンRの外部側に装着され、主として、外部からのダストや異物の侵入を防止する。
【0005】
各シール部材は、シリンダ内部から僅かに漏れ出る作動油によってロッド表面との間に油膜が形成され、潤滑性を得ている。しかし、使用条件によっては、十分な潤滑性を得ることができず、摩耗によってシール部材が破損することがある。ロッド部におけるシール部材の破損は、直接シリンダ外部へのオイル漏れにつながることから、最も避けなければならない事態である。しかしながら、十分な潤滑を得にくい条件下で使用されるケースも多く、摩耗を生じてからも継続使用が可能であることを要請されることも多い。
【0006】
摩耗を生じても継続使用が可能なシール部材として、Vパッキンが従来から知られている。Vパッキンは、シムやバネでしめ代を調整することにより、摩耗を生じてからも継続使用ができるように構成されている。しかしながら、Vパッキンは、おすアダプタとめすアダプタを用いて取り付ける構成となっており、内部のオイルと外部のダストを同時にシールするために用いる場合には、装着溝幅を大きく確保する必要がある。そのため、省スペース・両側シールの要求がある場合は、Vパッキンでの対応には限界がある。
【0007】
一方、図6に示すようなダストシールの場合、単体での装着使用が可能であり、省スペースで対応することができる。しかし、従来のダストシールでは、しめ代の調整ができないため、摩耗が生じると継続使用が困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−029518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の従来技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、シール部材のより長期の使用を可能にする密封構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明における密封構造は、
軸と、
前記軸が相対運動可能に挿入される軸孔を有するハウジングと、
これら2部材間の環状隙間を密封するシール部材と、
を備える密封構造であって、
前記シール部材は、
前記2部材のうちの一方の部材に設けられた環状溝に収容されるシール本体と、
前記シール本体から前記2部材のうちの他方の部材に向かって軸方向一方側に傾いて延びて、前記他方の部材に摺動接触するリップ状の第1シール部と、
前記シール本体の前記第1リップよりも軸方向他方側において、前記他方の部材に摺動接触する第2シール部と、
前記シール本体における前記環状溝の溝底側に設けられ、前記一方の部材に密着する第3シール部と、
を有し、
前記一方の部材は、前記第1シール部の前記他方の部材に対する密着度合いが高まるような変形を前記シール部材に生ぜしめるべく、径方向の位置が互いに異なりかつ軸方向に相対する力が作用するように前記シール部材を押圧可能、かつ、該押圧力を調整可能に構成された押圧部を有することを特徴とする。
【0011】
本発明よれば、他方の部材との摺動によってリップ状の第1シール部に摩耗が生じ、第1シール部と他方の部材との密着度合い(しめ代)が低下した場合でも、シール部材に押圧力を付与することで、低下した密着度合いを高めることができる。また、摩耗の進行度合いに応じて押圧力を調整してシール部材の変形度合を大きくすることで、摩耗がさらに進行してからも密着度合いを維持することができる。これにより、第1シール部に摩耗が生じてからも使用を継続することができる。
【0012】
前記押圧部は、
前記シール本体を軸方向一方側から軸方向他方側に向かって押圧する第1押圧部と、
径方向における記第1押圧部の押圧位置よりも前記環状溝の溝底側の位置において、前記シール部材を軸方向他方側から軸方向一方側に向かって押圧する第2押圧部と、
を含むとよい。
【0013】
かかる構成によれば、各押圧部による押圧により、断面(判断面)においてシール部材が回転するかのような、すなわち、シール部材の内周側と外周側とを裏返すかのような力のモーメントがシール部材に発生する。これにより、第1押圧部の押圧位置を境目に、シール部材の内周側と外周側、すなわち、第2押圧部によって押圧される側と、その反対側の第1シール部が設けられた側と、が互いに相反する方向へ変位するようにシール部材が変形する。シール本体から軸方向一方側に傾いて他方の部材に向かって延びるリップ状の第1シール部は、かかる変形によって根元側が軸方向他方側かつ他方の部材側に変位し、先端側がより他方の部材に押し付けられる状態となる。これにより、他方の部材に対する第1シール部の密着度合いを高めることができる。
【0014】
前記環状溝は、溝側面間の間隔を変更可能に構成されており、
前記第1押圧部は、前記溝側面のうちのいずれか一方に設けられ、
前記第2押圧部は、前記溝側面のうちのいずれか他方に設けられるとよい。
【0015】
環状溝の溝側面間の間隔を変更することにより、第1押圧部と第2押圧部の軸方向の相対位置が変化し、シール部材に作用する押圧力を調整することができる。
【0016】
前記第2シール部は、前記シール本体から前記他方の部材に向かって軸方向他方側に傾いて延びて、前記他方の部材に密着するリップ状のシール部であり、
前記一方の部材は、前記他方の部材とは反対側から前記第2シール部の根元部分に当接する当接部を有するとよい。
【0017】
押圧部による変形によって、リップ状の第2シール部の根元部分におけるシール本体の部位は、他方の部材から離れる方向へ変位しようとする。当接部が第2シール部の根本部分を押さえることにより、第2シール部が他方の部材から離れてしまうのを抑制することができる。これにより、上記変形による第2シール部の他方の部材に対する密着度合いの低下を抑制し、第2シール部のシール性を維持することができる。
【0018】
前記第1シール部は、リップ根元側に、他方の部材に向かって突出するリップ状部を備えるとよい。
【0019】
シール部材の上記変形によって第1シール部のリップ先端側が他方の部材に押し付けられると、第1シール部のリップ根元側に位置するリップ状部の突出方向は軸方向他方側に傾く。これにより、第1シール部のリップ先端側よりも軸方向他方側に、軸方向他方側に傾いて延びるリップ状のシール部が形成され、第1シール部のシール性がさらに高められる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シール部材のより長期の使用を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1に係る密封構造の模式的断面図。
【図2】実施例1に係る密封構造の模式的断面図。
【図3】実施例1に係る密封構造のダストシール近傍の模式的断面図。
【図4】実施例2に係る密封構造のダストシール近傍の模式的断面図。
【図5】油圧シリンダの断面構成を示す模式的斜視図。
【図6】ロッドシーリングシステムの構成を示す模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0023】
(実施例1)
図1〜図3を参照して本発明の実施例1に係る密封構造について説明する。図1は、本実施例に係る密封構造の模式的断面図である。図2は、本実施例に係る密封構造の模式的断面図であって押圧力を付与したときの様子を示している。図3は、本実施例に係る密封構造のダストシール近傍の模式的断面図である。
【0024】
<密封構造の概略構成>
図1に示すように、本実施例に係る密封構造は、軸1と、ハウジング2と、ダストシール3と、を備える。ハウジング2は、軸1が挿入される軸孔20を有する。ダストシール3は、軸1とハウジング2の軸孔20との間の環状隙間4を密封する環状のシール部材である。ダストシール3は、軸孔20に設けられた環状溝21に装着され、ハウジング2に対して軸方向に往復運動する軸に摺動接触する。
【0025】
本実施例に係る密封構造は、例えば、図5及び図6に示すような油圧シリンダのロッドシーリングシステムにおいて、外部からのダスト等の侵入を防止するためのダストシールの組み付け構造に適用することができる。この場合、ダストシール3は、外部(A)側から内部(O)側へのダスト等の侵入の防止が主たる役目ではあるが、内部(O)側からの作動油等の外部(A)側への漏れの防止も機能として要求される。
【0026】
<ダストシール>
ダストシール3は、シール本体30と、軸1に摺動自在に接触する第1シール部としての第1リップ31と、第1リップ31よりも内部(O)側において軸1に摺動自在に接触する第2シール部としての第2リップ32と、ハウジング2(環状溝21の溝底面22)に密着する第3シール部としての第3リップ33と、を備える。ダストシール3は、各リップが軸1及びハウジング2に密着することにより環状隙間4を密封する。
【0027】
第1リップ31は、シール本体30の内周側かつ外部(A)側に設けられており、軸1に向かって外部(A)側に傾いて延びている。第1リップ31は、主として外部(A)からのダスト等の侵入を防止するためのダストリップとして機能する。
【0028】
第2リップ32は、シール本体30の内周側かつ内部(O)側に設けられており、軸1に向かって内部(O)側に傾いて延びている。第2リップ32は、主として内部(O)からのオイルの漏出を防止するためのオイルリップとして機能する。
【0029】
第3リップ33は、シール本体30の外周側かつ内部(O)側に設けられており、環状溝20の溝底面22に向かって内部(O)側に傾いて延びている。第3リップ33は、ハウジング2に密着するシール部として機能する。
【0030】
<ハウジング>
本実施例に係る密封構造では、ハウジング2の軸孔20の開口部がステップ状に拡径する構成となっている。ダストシール3は、開口部の拡径部に装着され、その外側に押え板23が取り付けられることでハウジング2に取り付けられる。すなわち、ダストシール3は、押え板23と、軸孔20の拡径部における押え板23との対向面とに挟まれた状態となる。そして、ダストシール3が取り付けられた軸孔20に軸1が挿入されることで密封構造が形成される。
【0031】
押え板23は、拡径部(溝底面22)よりも小径の内径を有する環状部材であり、押え板23が軸孔20の開口端面に取り付けられることにより、ダストシール3を収容するための略環状の装着空間(環状溝21)が軸孔20に形成される。
【0032】
押え板23は、ハウジング2に対する取付位置を軸方向に変更可能に構成されている。本実施例では、図1に示すように、シム等のスペーサ25を挟んでボルト等の締結具26によりハウジング2に取り付けられるようにしている。厚みの異なるスペーサ25に取り換えることで押え板23の取付位置を軸方向に調整可能に構成している。
【0033】
なお、押え板23のハウジング2に位置調整可能に取り付ける構成としては、本実施例の構成に限られるものではなく、従来周知の他の構成も適宜採用することができる。また
、ハウジング2の構成としては、上記のような押え板23による構成に限られるものではない。ハウジング2がダストシール3を装着するための環状溝21において分割可能に構成されていれば、従来周知の種々の構成を採用することができる。
【0034】
押え板23は、環状溝22の外部(A)側の側壁面を形成する側面23aに、第1押圧部としての突起23bが設けられている。突起23bは、内部(O)側に向かって略軸方向に突出している。突起23bは、シール本体30の第1リップ31の根元部分を押圧するように構成されている。
【0035】
環状溝22の内部(O)側の側壁面、すなわち、軸孔20の拡径部における押え板23との対向面は、環状溝22の開口部側の端面24aと、環状溝22の溝底側の第2押圧部としての端面24bと、端面24aと端面24bとの間の当接部としての突起24cと、で構成されている。突起24cは、外部(A)側に向かって略軸方向に突出している。
【0036】
端面24bは、ダストシール3の第3リップ33の先端に当接し、ダストシール3を内部(O)側に押し込める力に対する反力として、外部(A)側に向かう押圧力が第3リップ33を介してシール本体30に作用させることができるように構成されている。図2に示すように、径方向において、端面24bが第3リップ33の先端に当接する位置P2は、突起23bがシール本体30を押圧する位置P1よりも径方向外側である。
【0037】
ダストシール3の第2リップ32と第3リップ33との間は、断面略U字状の内部(O)側に開口する溝のように窪んだ形状となっている。突起24cは、かかる窪みに嵌り込むように構成されている。
【0038】
<本実施例の優れた点>
本実施例に係る密封構造は、軸1との摺動によって第1リップ31に摩耗が生じ、第1リップ31の軸1に対する密着度合い(しめ代)が低下したときに、かかる密着度合いを復活させることができるように構成されている。すなわち、ダストシール3を、第1リップ31の軸1に対する密着度合いが高まるように変形させる。押圧部(突起23b、端面24b)は、径方向の位置が互いに異なりかつ軸方向に相対する力がダストシール3に作用するように、ダストシール3を押圧可能に構成されている。
【0039】
また、ダストシール3に対する押圧力を調整可能に構成されている。すなわち、押え板23を増し締めすることにより、突起23bの位置を内部(O)側に軸方向に移動させ、端面24bとの間隔を狭く(軸方向の相対距離を短く)することで、ダストシール3に加わる押圧力を高め、変形度合を大きくすることができる。
【0040】
図1に示すように、例えば使用初期のように、第1リップ31に摩耗が生じていない段階では、第1リップ31のしめ代も十分に確保できているので、突起23bによって第1リップ31の根元が若干押圧される装着状態となる。なお、このとき、端面24bは第3リップ33の先端に当接していなくてもよい。すなわち、ダストシール3に摩耗が生じていない段階なので、第1リップ31の密着力を大きくする変形をシール本体30に生じさせる程の押圧力を積極的に作用させる必要性は低い。
【0041】
図2に示すように、第1リップ31に摩耗が生じて第1リップ31のしめ代が減少してきたら、押え板23の締め付けを増して突起23bの位置を内部(O)側に移動させる。これにより、ダストシール3が内部(O)側に押し込まれ、第3リップ33の先端がハウジング2の端面24bに当接する。押え板23の増し締めによるダストシール3の内部(O)側への押し込みにより、シール本体30には、端面24bから第3リップ33を介して、外部(A)側に向かう反力(押圧力)が作用する。
【0042】
このような押圧力がダストシール3に作用することにより、断面(判断面)においてダストシール3が回転するかのような、すなわち、ダストシール3の内周側と外周側とを裏返すかのような力のモーメントがダストシール3に発生する。これにより、突起23bの押圧位置を境目として、ダストシール3の内周側と外周側、すなわち、端面24bによって押圧される側と、その反対側の第1リップ31が設けられた側と、が互いに相反する方向へ変位するようにダストシール3が変形する。シール本体30から外部(A)側に傾いて軸1に向かって延びる第1リップ31は、かかる変形によって根元側が内部(O)側かつ軸1側に変位し、先端側がより軸1に押し付けられる状態となる。これにより、軸1に対する第1リップ31の密着度合いを高めることができる。
【0043】
すなわち、本実施例よれば、第1リップ31に摩耗が生じて第1リップ31の軸1に対する密着度合いが低下しても、押圧力を調整してダストシール3の変形度合を大きくして、第1リップ31の軸1対する密着度合いを復活させることができる。また、摩耗の進行度合いに応じて押圧力を調整してダストシール3の変形度合を大きくすることで、摩耗がさらに進行してからも軸1との密着度合いを維持することができる。これにより、第1リップ31に摩耗が生じてからも使用を継続することができる。
【0044】
特に、図5及び図6に示すようなロッドシーリングシステムにおいて、ダストシール(特に、外側のダストリップ)は、最も外部側に配置され、潤滑不足による摩耗が生じやすい。このようなダストシールの組み付け構成として、本実施例に係る密封構造を適用することで、シーリングシステムの長寿命化を図ることができる。すなわち、ダストシールが潤滑不足によって摩耗を生じても、押圧力を調整してダストリップの密着度合いを増大させてシール性を維持することができる。ダストシールにおいて求められる機能は主に外部からのダスト等の侵入であり、ダストリップの密着度合いを長期に維持可能とすることで、摩耗を生じてからの継続使用を可能にすることができる。
【0045】
また、図1に示すように、ダストシール3(第1リップ31)に摩耗が生じていない使用初期の段階では、突起24cは、ダストシール3の窪みに対して隙間を有して嵌るように構成されている。その後、図2に示すように、ダストシール3に摩耗が生じて押え板23の締め付けを増した段階では、ダストシール3が内部(O)側に押し込まれることにより、突起24cの先端が第2リップ32の根元に当接する状態となる(図3参照)。
【0046】
押え板23を増し締めすることによって生じるシール本体30の変形により、シール本体30における第2リップ32の根元部分は軸1から離れる方向へ変位する。このとき、突起24cが第2リップ32の根元を外周側から押えることにより、第2リップ32がシール本体30の変形につられて軸1から離れてしまうのが抑制される。これにより、シール本体30の上記変形による第2リップ32の軸1に対する密着度合いの低下を抑制し、第2リップ32のシール性を維持することができる。
【0047】
したがって、本実施例によれば、ダストシール3のより長期の使用を可能にすることができる。
【0048】
<その他>
本実施例では、ダストシール3がハウジング2に取り付けられる構成となっているが、ダストシール3を取り付けるための構成はこれに限られない。例えば、軸1が複数の部材に分割可能に構成され、それらの部材間にダストシール3が装着されるような構成であってもよい。
【0049】
押圧部を構成する突起23bは環状の突起に限られない。例えば、複数の突起を環状に
配置するような構成でもよい。また、端面24bも環状の端面に限られず、例えば、周方向に断続的に設けられるような複数の端面で構成されていてもよい。すなわち、ダストシール3に上記変形を生じさせて長期の使用を可能にすることができるのであれば、上記実施例の構成に限定されるものではない。
【0050】
押圧力の調整は、押え板の取付位置を軸方向に変えることにより行っているが、これに限られない。例えば、突起の突出量が異なる別の押え板に取り換えたり、突出量だけでなく幅や形状を変更して、押圧位置の軸方向の変更だけでなく、押圧面や径方向の押圧位置の変更によって押圧力を調整してもよい。すなわち、ダストシール3に上記変形を生じさせて長期の使用を可能にすることができるのであれば、上記実施例の構成に限定されるものではない。
【0051】
本実施例では、本実施例に係る密封構造の具体的な適用例として、図5及び図6に示すような、油圧シリンダにおける往復動ロッドシーリングシステムのダストシールの装着構成を挙げたが、本実施例が適用可能な構成はこれに限定されるものではなく、他のピストンシーリングシステムに適用することも可能である。
【0052】
本実施例では、ハウジング2の端面24bを端面24aよりも外部(A)側に位置させ、また、ダストシール3の第3リップ33を第2リップ32よりも内部(O)側への突出量が大きくなるように構成している。この構成は、押え板23の増し締めによってダストシール3が内部(O)側に押し込まれたときに、他の部位よりもまず先に端面24bが第3リップ33の先端に当接し、端面24bによる押圧力を確実に発生させるための構成の一例である。すなわち、ダストシール3に上記変形を生じさせて長期の使用を可能にすることができるのであれば、上記実施例の構成に限定されるものではない。
【0053】
(実施例2)
図4を参照して、本発明の実施例2に係る密封構造について説明する。図4は、本実施例に係る密封構造のダストシール近傍の模式的断面図である。なお、ここで特に説明をしない構成については、実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0054】
本実施例に係る密封構造は、ダストシール3の第1リップ31の根元側に、軸1に向かって内径方向に突出する副リップ(リップ状部)31aを設けたことを特徴としている。
【0055】
押え板23の増し締めによってダストシール3に上記変形が生じると、第1リップ31のリップ先端側が軸1に押し付けられる。このとき、第1リップ31のリップ根元側に位置する副リップ31aの突出方向は内部(O)側に傾く。これにより、第1リップ31のリップ先端側よりも内部(O)側に、内部(O)側に傾いて延びるリップ状のシール部が形成される。
【0056】
このように構成されたシール部は、作動油を内部(O)側へ向けて掻き出す機能を発揮する。すなわち、オイルリップである第2リップ32の外部側(O)にさらに別のオイルリップが形成されたような構成となる。したがって、内部(O)から外部(A)への作動油の漏れに対するシール性が高められることになる。
【符号の説明】
【0057】
1 軸
2 ハウジング
20 軸孔
21 環状溝
22 溝底
23 押え板
23a 側面
23b 突起(第1押圧部)
24a 端面
24b 端面(第2押圧部)
24c 突起
3 シール部材
30 シール本体
31 第1リップ
32 第2リップ
33 第3リップ
4 環状隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、
前記軸が相対運動可能に挿入される軸孔を有するハウジングと、
これら2部材間の環状隙間を密封するシール部材と、
を備える密封構造であって、
前記シール部材は、
前記2部材のうちの一方の部材に設けられた環状溝に収容されるシール本体と、
前記シール本体から前記2部材のうちの他方の部材に向かって軸方向一方側に傾いて延びて、前記他方の部材に摺動接触するリップ状の第1シール部と、
前記シール本体の前記第1リップよりも軸方向他方側において、前記他方の部材に摺動接触する第2シール部と、
前記シール本体における前記環状溝の溝底側に設けられ、前記一方の部材に密着する第3シール部と、
を有し、
前記一方の部材は、前記第1シール部の前記他方の部材に対する密着度合いが高まるような変形を前記シール部材に生ぜしめるべく、径方向の位置が互いに異なりかつ軸方向に相対する力が作用するように前記シール部材を押圧可能、かつ、該押圧力を調整可能に構成された押圧部を有することを特徴とする密封構造。
【請求項2】
前記押圧部は、
前記シール本体を軸方向一方側から軸方向他方側に向かって押圧する第1押圧部と、
径方向における記第1押圧部の押圧位置よりも前記環状溝の溝底側の位置において、前記シール部材を軸方向他方側から軸方向一方側に向かって押圧する第2押圧部と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の密封構造。
【請求項3】
前記環状溝は、溝側面間の間隔を変更可能に構成されており、
前記第1押圧部は、前記溝側面のうちのいずれか一方に設けられ、
前記第2押圧部は、前記溝側面のうちのいずれか他方に設けられることを特徴とする請求項2に記載の密封構造。
【請求項4】
前記第2シール部は、前記シール本体から前記他方の部材に向かって軸方向他方側に傾いて延びて、前記他方の部材に密着するリップ状のシール部であり、
前記一方の部材は、前記他方の部材とは反対側から前記第2シール部の根元部分に当接する当接部を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の密封構造。
【請求項5】
前記第1シール部は、リップ根元側に、他方の部材に向かって突出するリップ状部を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の密封構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−215188(P2012−215188A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79323(P2011−79323)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】