説明

密封装置

【課題】回転側部材の回転トルクの効果的な低減化を図ると共と、シール対象空間からの空気の漏出を抑制することができる密封装置を提供する。
【解決手段】固定側部材7と、該固定側部材7に対して同軸的に軸回転可能に支持される回転側部材6とよりなる2部材間の環状のシール対象空間Sをシールする密封装置であって、前記2部材6,7のうちの一方の部材7に固着され、前記2部材のうちの他方の部材6に弾性的に摺接する複数の弾性体製シールリップ15a,15bを含み、前記シール対象空間Sより最も遠い位置の最遠側シールリップ15bに対応する前記他方の部材6の最遠側摺接面13baの表面粗さが、前記シール対象空間Sに最も近い位置の最近側シールリップ15aに対応する前記他方の部材6の最近側摺接面13aaの表面粗さより大とされていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定側部材と、該固定側部材に対して同軸的に軸回転可能に支持される回転側部材とよりなる2部材間の環状のシール対象空間をシールする密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記のような2部材としては、転がり軸受を構成する部材であって、転動体を介して相互に軸回転可能とされる内外の軌道輪(以下、内輪及び外輪と言う)が挙げられる。このような内外輪における各軌道面間には、ボールやころなどの転動体が転動可能に介在されている。この転動体が介在される部分が軸受空間とされ、当該軸受空間には、転動体の転動を円滑に行わせる為に、グリスなどの潤滑剤が充填される。その為、この軸受空間をシール対象空間とし、その両端部(軸方向に沿った両端部)には、潤滑剤の外部への漏出を防止すると共に外部からのダスト(塵埃、汚泥等を含む)の軸受空間内への侵入を防止する為の密封装置が設けられる。自動車の車輪懸架装置にもこのような転がり軸受が適用され、内外輪の一方を車体側に固定し、他方を車輪に一体とし、車輪を車体に対して回転自在に支持するようにしている。そして、前記密封装置は、車体側に固定される固定側部材に固着され、車輪と一体とされる回転側部材に弾性的に摺接する複数の弾性体製シールリップを含んでいる。
【0003】
特許文献1には、エンジン用ウォータポンプにおけるポンプシャフトの軸受部分に適用されるシールリングであって、ポンプシャフトに嵌合されたスリンガにおけるシールリップが摺接する面を多数のマイクロディンプルを備えた凹凸面とすることによって、摺接部の摩擦係数を小さくし、摩擦トルクを下げてポンプシャフトの回転時の鳴き音の発生の抑制を図ることが開示されている。近時、自動車の低燃費化の一環として、前記シールリップの摺接抵抗に起因する回転トルクを下げる試みがなされている。例えば、特許文献2には、車輪用軸受装置を構成するシールにおいて、回転側部材(車輪)の回転トルクの低減化等を図る為に、複数のシールリップが摺接するスリンガの表面に微小な凹凸を多数形成することによって、摺接面におけるリップ摺動抵抗を小さくする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−316795号公報
【特許文献2】特開2009−197883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車用車輪懸架装置の軸受においては、車輪の回転に伴い軸受空間内の温度が上昇し、内圧が高くなる。而して、特許文献2に示されるようにシールリップが摺接するスリンガの表面に微小な凹凸が多数形成されていると、車輪の回転時に、軸受空間に最も近い側(最近側)のシールリップとスリンガとの摺接界面から軸受空間内の空気が漏れ出し、車輪が減速或いは停止した時、軸受空間内の温度が低下し、これに伴い軸受空間内が負圧状態になる。この時、シールリップが、その弾性復元作用と軸受空間内の負圧状態とが相乗して、前記摺接面に貼り付くようになる。その為、その後の回転再開時には、この貼り付いたシールリップと摺接面との摩擦抵抗が大きくなる。これによって、特許文献2に示されるような密封装置では、回転側部材の回転トルクの低減化を目的としているにも拘わらず、むしろ回転トルクの増大をもたらすことにもなる。
特許文献1は、エンジン用ウォータポンプにおいて、シールリップの摺接部における摩擦トルクの低減化により、ポンプシャフトの回転時の鳴き音の発生の抑制を図ることを意図したものであるが、前記摩擦トルク(回転トルク)の低減化と軸受空間内の空気の漏出抑制とを両立させるという技術思想を開示するものではない。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、回転側部材の回転トルクの効果的な低減化を図ると共に、シール対象空間からの空気の漏出を抑制することができる密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る密封装置は、固定側部材と、該固定側部材に対して同軸的に軸回転可能に支持される回転側部材とよりなる2部材間の環状のシール対象空間をシールする密封装置であって、前記2部材のうちの一方の部材に固着され、前記2部材のうちの他方の部材に弾性的に摺接する複数の弾性体製シールリップを含み、前記シール対象空間より最も遠い位置の最遠側シールリップに対応する前記他方の部材の最遠側摺接面の表面粗さが、前記シール対象空間に最も近い位置の最近側シールリップに対応する前記他方の部材の最近側摺接面の表面粗さより大とされていることを特徴とする。
【0008】
本発明の密封装置において、前記一方の部材を固定側部材とし、前記他方の部材を回転側部材としても良い。この場合、前記回転側部材が、スリンガを一体に備え、少なくとも前記最遠側シールリップが当該スリンガに弾性的に摺接するものとしても良い。この場合、前記スリンガにおける前記シールリップが摺接する側とは反対側の面に、回転検出用の磁気エンコーダが固着されているものとしても良い。
【0009】
本発明の密封装置において、前記最遠側及び最近側シールリップの間に少なくとも1個の中間シールリップを有し、該中間シールリップに対応する回転側部材の中間摺接面の表面粗さを、前記最遠側摺接面の表面粗さより小さいものとすることが望ましい。また、前記中間摺接面の表面粗さを、前記最近側摺接面の表面粗さより大きいものとしても良い。
【0010】
本発明の密封装置において、前記最近側摺接面の表面粗さ(Ra)が、0.4以下であり、前記最遠側摺接面の表面粗さ(Ra)が、0.4より大きいものとしても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明の密封装置が適用される2部材において、回転側部材は、固定側部材に対してシール対象空間を介し同軸的に軸回転可能に支持される。この時、前記2部材のうちの一方の部材には、他方の部材に弾性的に摺接する複数の弾性体製シールリップが固着されているから、前記シール対象空間は、これによってシールされる。そして、前記シール対象空間より最も遠い位置の最遠側シールリップに対応する他方の部材の最遠側摺接面の表面粗さが、前記シール対象空間に最も近い位置の最近側シールリップに対応する他方の部材の最近側摺接面の表面粗さより大とされているから、最遠側摺接面でのシールリップの摺接抵抗が小さくなり、他方の部材の回転トルクが低減化される。一方、前記最近側摺接面の表面粗さは、最遠側摺接面の表面粗さより小さいから、シールリップの最近側摺接面に対する密接性が良く、シール対象空間の内圧が高くなってもこの部分からの空気の漏出が抑制される。従って、他方の部材が低速化し或いは停止してもシール対象空間内が負圧状態になりにくく、シールリップが摺接面に貼り付きにくくなり、これによる回転トルクの増大の懸念が生じない。
【0012】
前記一方の部材を固定側部材とし、前記他方の部材を回転側部材として、前記回転側部材が、スリンガを一体に備え、少なくとも前記最遠側シールリップが当該スリンガに弾性的に摺接するものとした場合、スリンガにおける最遠側シールリップが摺接する部分を粗面化処理することによって、前記最遠側摺接面とすることができるから、前記摺接面の部位によって表面粗さを異ならせることが簡易になし得る。そして、前記スリンガにおける前記シールリップが摺接する側とは反対側の面に、回転検出用の磁気エンコーダを固着するようにすれば、スリンガの前記表面粗さを異ならせることと共に回転側部材の回転検出システムの構築が簡易になされる。
【0013】
前記最遠側及び最近側シールリップの間に少なくとも1個の中間シールリップを有している場合、シール対象空間に対するシール機能がより的確に発揮される。この場合、該中間シールリップに対応する回転側部材の中間摺接面の表面粗さを、前記最遠側摺接面の表面粗さより小さいものとし、加えて、前記最近側摺接面の表面粗さより大きいものとすることにより、シールリップの数が増えても、回転トルクの低減化と回転時のシール対象空間内からの空気漏出防止との両立が図られる。
【0014】
本発明の密封装置において、前記最近側摺接面の表面粗さ(Ra)が、0.4以下であり、前記最遠側摺接面の表面粗さ(Ra)が、0.4より大きいものとすることにより、回転トルクの低減化機能と前記空気漏出防止機能との両立が確実に達成される。因みに、最近側摺接面の表面粗さ(Ra)が0.4より大きい場合、回転側部材の回転時においてシール対象空間の内圧が高くなることにより最近側シールリップと最近側摺接面との界面から空気が漏出し易くなる。また、最遠側摺接面の表面粗さ(Ra)が、0.4以下の場合、最遠側シールリップと最遠側摺接面との摺接抵抗が大きくなり、回転側部材の回転トルクの低減効果が減退する傾向となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る密封装置を備えた自動車用車輪懸架装置における軸受装置の一例を示す縦断面図である。
【図2】同密封装置の第一の実施形態であって、図1におけるX部に対応する部分の拡大図である。
【図3】同密封装置の第二の実施形態を示す図2と同様図である。
【図4】同密封装置の第三の実施形態を示す図2と同様図である。
【図5】第一の実施形態の変形例を示す図2と同様図である。
【図6】第一の実施形態の別の変形例を示す図2と同様図である。
【図7】第二の実施例の変形例を示す図2と同様図である。
【図8】同密封装置の第四の実施形態であって、図1におけるY部に対応する部分の拡大図である。
【図9】(A)(B)は、本発明の密封装置に用いられるスリンガに部分的に粗面化処理を施す方法の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は本発明の密封装置を備えた自動車用車輪懸架装置における軸受装置の一例を示し、図2は同密封装置の第一の実施形態であって、図1におけるX部に対応する部分の拡大図で示している。図1に示す軸受装置1において、等速ジョイント2を介して自動車のドライブシャフト3が連結され、ドライブシャフト3の外周には、円筒形ハブ輪4a及び該ハブ輪4aの一端部に連成されたハブフランジ4bからなるハブ4が一体にスプライン嵌合され、ナット3aによってハブ4の抜け止めがなされている。前記ハブフランジ4bにはボルト40を介して不図示の車輪(車輪)が取付けられる。また、ハブ輪4aの外径面には内輪部材5が一体に嵌装され、ハブ4と内輪部材5とにより内輪6が構成される。内輪6とドライブシャフト3とは一体関係で、両者によって回転側部材が構成される。回転側部材としての内輪6は、固定側部材としての外輪7に対して同軸的に軸回転可能に支持される。外輪7は、車体(不図示)に一体化され、この外輪7と内輪6との間に2列の転動体(玉)8…がリテーナ8aで保持された状態で介装されている。また、前記ドライブシャフト3の軸方向に沿った内外輪6,7間の両端部には、潤滑用グリスの漏出や泥水・塵埃等の浸入を防止する為の密封装置としてのベアリングシール9,10が介装されており、これらによりアンギュラ型の軸受装置(ハブベアリング)1が構成される。内外輪6,7間と両端のベアリングシール9,10とにより区画された空間が、転動体8…の軌道面を含む軸受空間Sとされる。即ち、固定側部材としての外輪7と、回転側部材としてのドライブシャフト3及び内輪6とにより、本発明に係る密封装置による2部材が構成され、前記軸受空間Sがシール対象空間とされる。
【0017】
車体側ベアリングシール9は、後記するようにパックシールタイプに構成され、その外端面(車体側の面)には、磁気エンコーダ11が一体に添装されており、磁気エンコーダ11と、これに対向して車体側に設置された磁気センサー12とにより車輪の回転検出装置が構成される。磁気エンコーダ11は、ゴム材料に磁性粉末を混入させて成型したゴムリング体からなる多極磁性環であり、その周方向にS極、N極が交互に着磁形成されている。
【0018】
車体側ベアリングシール9の構造について図2を参照して説明する。図例のベアリングシール9は、前記内輪部材5の外径面に嵌合一体とされる円筒部13a及びこの円筒部13aの一端部に連成された外向鍔部13bとよりなるスリンガ13と、前記外輪7の内径面に嵌合一体とされる円筒部14a及びこの円筒部14aの一端部に連成された内向鍔部14bとよりなる芯金14と、この芯金14に固着一体とされ前記スリンガ13の内面(前記軸受空間S側に向く面)に弾性的に接する2個のシールリップ15a,15bを備える弾性体製シールリップ部材15とにより構成される。前記スリンガ13及び芯金14は、いずれも、その径方向に沿った断面形状がL形とされている。スリンガ13と、シールリップ部材15を一体に備える芯金14とは、図のようにそのL形屈曲部の内側が互いに向き合うように組合せられてパックシールタイプのベアリングシール9が構成され、前記内輪部材5と外輪7との間に嵌装されている。この嵌装状態では、前記2個のシールリップ15a,15bが、図のように弾性変形した状態で、その先端部のそれぞれがスリンガ13の円筒部13aの外径面及び外向鍔部13bの前記軸受空間S側の面に弾性的に接している。スリンガ13における外向鍔部13bの車体側の面(反軸受空間S側の面)にはゴムリング体からなる前記磁気エンコーダ11が加硫接着によって固着一体に形成されている。磁気エンコーダ11のスリンガ13に対する形成方法については後記する。
【0019】
前記のとおり、前記シールリップ15a,15bは、それぞれがスリンガ13の円筒部13a及び外向鍔部13bに弾性的に接する。この場合、シールリップ15aが軸受空間(シール対象空間)Sに近い側に位置し、シールリップ15bが軸受空間Sから遠い側に位置する。従って、実質的に、前者15aが最近側シールリップ、後者15bが最遠側シールリップとされ、これらが接するスリンガ13の面がそれぞれ最近側摺接面13aa、最遠側摺接面13baとされる。ここで、図2に示すようなパックシールタイプのベアリングシール9においては、その構造上、軸受空間Sに対するシール経路は、図2の2点鎖線で示す矢印Pによって概念的に表すことができる。従って、軸受空間Sに近い側(最近側)、軸受空間Sから遠い側(最遠側)とは、それぞれ、このシール経路Pに沿って軸受空間Sに近い側、軸受空間Sから遠い側と言うことができる。本発明においては、同様の概念で、近い側、遠い側、最近側、最遠側なる用語を用いており、図3〜図8においては、このシール経路Pの図示を省略している。また、例示のような2つのシールリップ15a,15bの場合、最近側シールリップ15aは、主に軸受空間S内に充填された潤滑剤の漏出を防止すべく機能するものであり、そのため、先端部がシール経路Pに沿った軸受空間S側に向くような湾曲した形状とされる。また、最遠側シールリップ15bは、主に外部から塵埃等の侵入を防止すべく機能するものであり、そのため、先端部がシール経路Pに沿った反軸受空間S側(本実施形態では遠心側)に向くような湾曲した形状とされる。
【0020】
スリンガ13は、ステンレスやSPCC等の鋼板を前記形状にプレス加工して得られたものであり、最近側摺接面13aa及び最遠側摺接面13baは、後記するような方法によって、それぞれの表面粗さ(Ra)が、前者13aaが0.4以下、後者13baが0.4より大きくなるように調製されている。シールリップ部材を構成する弾性体としてはエラストマーが用いられ、具体的には、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム(ACM)、水素化アクリロニトリルブタジエンゴム(HNBR)、シリコーンゴム(VMQ)、フロロシリコーンゴム(FVMQ)、フッ素ゴム(FKM)、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンジェン共重合ゴム(EPDM)等のゴム材、熱可塑性エラストマー(オレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、スチレン系等)等が好ましく採用される。
【0021】
前記構成のベアリングシール9が組み込まれた軸受装置1において、ドライブシャフト3及び内輪6が軸回転すると、外輪7及び内輪6のそれぞれの軌道面間に介装された転動体8…の転動によりこの回転が円滑になされる。そして、前記最近側シールリップ15a及び最遠側シールリップ15bの先端部は、それぞれスリンガ13の前記最近側摺接面13aa及び最遠側摺接面13baに弾性的に接し、この状態で最近側摺接面13aa及び最遠側摺接面13baに摺接する。この場合、最近側シールリップ15a及び最遠側シールリップ15bは、固定側部材である外輪7に一体とされているから、その先端部は、回転するスリンガ13の最近側摺接面13aa及び最遠側摺接面13baに対して見かけ上相対的に摺接することになる。このような最近側シールリップ15a及び最遠側シールリップ15bの最近側摺接面13aa及び最遠側摺接面13baに対する相対的摺接状態によって、軸受空間S内に充填された潤滑剤の外部漏出が防止されると共に、外部からの汚泥や塵埃等の軸受空間S内への侵入が防止される。
【0022】
前記回転の継続に伴い、軸受空間S内の温度が上昇し、その内圧が高くなるが、最近側摺接面13aaの表面粗さ(Ra)が0.4以下とされているから、最近側シールリップ15aの先端部と最近側摺接面13aaとの接触面積が大きく確保され、これによって、両者の接触界面部分からの空気の漏出が抑制される。従って、その後回転速度が下がり或いは回転停止して軸受空間S内の温度が下がっても、軸受空間S内が負圧になりにくく、最遠側シールリップ15bが最遠側摺接面13baに貼り付くような現象が生じない。また、最遠側摺接面13baの表面粗さ(Ra)が0.4より大とされているから、最遠側シールリップ15bと最遠側摺接面13baとの摺接抵抗は小さく、この摺接部分における外部からの汚泥や塵埃の侵入の防止を維持しながら、前記回転側部材(ドライブシャフト3及び内輪6)の回転トルクの低減化が図られる。これによって、自動車の低燃費化に寄与する。
【0023】
図3は、本発明の密封装置の第二の実施形態を示している。本実施形態では、シールリップ部材15が、前記と同様の最近側シールリップ15aと最遠側シールリップ15bとの間に更に1個の中間シールリップ15cを有している。この中間シールリップ15cは、その先端部が、最近側シールリップ15aに対して反対側(反軸受空間S側)に向くよう形成されると共に、最近側シールリップ15aと同様にスリンガ13の円筒部13aの外径面に弾性的に接するよう構成されている。従って、例示の中間シールリップ15cは、主に外部からの塵埃等の侵入を防止すべく機能する。そして、該中間シールリップ15cが接する円筒部13aの外径面における中間摺接面13abの表面粗さは、最近側摺接面13aaの表面粗さより大きく、且つ、最遠側摺接面13baの表面粗さより小さくなるよう設定されている。
【0024】
この実施形態においても、回転側部材(ドライブシャフト3及び内輪6)の回転に伴い、最近側シールリップ15a及び最遠側シールリップ15bの、最近側摺接面13aa及び最遠側摺接面13baのそれぞれに対する弾性的摺接による機能が、前記と同様に発現される。加えて、中間シールリップ15cの中間摺接面13abに対する弾性的摺接によって、回転トルクの上昇を抑えながらも、軸受空間S内に充填された潤滑剤の外部漏出及び内圧の上昇に伴う空気の漏出防止効果、特に、外部からの汚泥や塵埃等の軸受空間S内への侵入防止効果が、より助長される。因みに、中間摺接面13abの表面粗さが、最近側摺接面13aaの表面粗さより小さい場合は、回転トルクが大きくなる。
その他の構成は、第一の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0025】
図4は、本発明の密封装置の第三の実施形態を示している。本実施形態では、シールリップ部材15が、第二の実施形態と同様に中間シールリップ15dを有しているが、この中間シールリップ15dは、最遠側シールリップ15bと同様にスリンガ13の外向鍔部13bの軸受空間S側に向く面に弾性的に接するよう構成される。そして、その先端部が、最遠側シールリップ15bと同様にシール経路Pに沿った反軸受空間S側(本実施形態では遠心側)に向くよう形成されている。従って、例示の中間シールリップ15dも、主に外部からの塵埃等の侵入を防止すべく機能する。更に、第二の実施形態と同様に、該中間シールリップ15dが接するスリンガ13における中間摺接面13bbの表面粗さは、最近側摺接面13aaの表面粗さより大きく、且つ、最遠側摺接面13baの表面粗さより小さくなるよう設定されている。
【0026】
この実施形態においても、回転側部材(ドライブシャフト3及び内輪6)の回転に伴い、最近側シールリップ15a及び最遠側シールリップ15bの、最近側摺接面13aa及び最遠側摺接面13baのそれぞれに対する弾性的摺接による機能が、前記と同様に発現される。加えて、中間シールリップ15dの中間摺接面13bbに対する弾性的摺接によって、回転トルクの上昇を抑えながらも、軸受空間S内に充填された潤滑剤の外部漏出及び内圧の上昇に伴う空気の漏出防止効果、特に、外部からの汚泥や塵埃等の軸受空間S内への侵入防止効果が、より助長される。同様に、中間摺接面13bbの表面粗さが、最近側摺接面13aaの表面粗さより小さい場合は、回転トルクが大きくなる。
その他の構成は、第一の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0027】
尚、第二及び第三の実施形態では、いずれも中間シールリップが1個である例を示したが、例えば、中間シールリップを2個とし、両実施形態が合わさったような形態としても良く、或いは3個以上とすることも可能である。この場合、各中間シールリップに対応するスリンガの中間摺接面の表面粗さは、最近側摺接面の表面粗さより粗く、最遠側摺接面の表面粗さより粗くならない範囲で、軸受空間Sから遠くなるほど粗くすることが望ましい。また、第二の実施形態における中間摺接面13ab及び最遠側摺接面13baの表面粗さを同じに設定し、或いは第三の実施形態における中間摺接面13bb及び最遠側摺接面13baの表面粗さを同じに設定しても良い。また、最遠側摺接面13baの表面粗さが最近側摺接面13aaの表面粗さより大である条件を満足するものであれば、第二の実施形態、或いは第三の実施形態における中間摺接面13ab,13bbの表面粗さを最近側摺接面13aaの表面粗さと同じに設定しても良い。
【0028】
図5は、第一の実施形態の変形例を示している。この例では、スリンガ13の円筒部13aの外径面であって、最近側シールリップ15aが弾性的に接する部分が研磨されて段差状に形成されている。この研磨処理は表面粗さ(Ra)が0.4以下となるようになされ、これによる研磨面が最近側摺接面13acとされる。最遠側シールリップ15bは、前記と同様に、表面粗さ(Ra)が0.4より大きくなるよう粗面化処理が施されたスリンガ13における最遠側摺接面13baに弾性的に接するよう形成されている。この例は、スリンガ13として使用する鋼板の表面粗さ(Ra)が0.4以下でない場合、或いは、後記するように磁気エンコーダ11を一体化する為の下地処理の際に不可避的に0.4より大きくなってしまう場合等に採用される。従って、回転側部材(ドライブシャフト3及び内輪6)の回転に伴い、最近側シールリップ15a及び最遠側シールリップ15bの、最近側摺接面13ac及び最遠側摺接面13baのそれぞれに対する弾性的摺接による機能が、前記と同様に発現される。
その他の構成は図2に示す例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、ここでもその説明を割愛する。
【0029】
図6は、第一の実施形態の別の変形例を示している。この例では、スリンガ13の円筒部13aに金属製円環16が外嵌一体とされている。該円環16の外周面は、表面粗さ(Ra)が0.4以下に研磨加工されており、前記と同様の最近側シールリップ15aの先端部が弾性的に接するように構成され、この円環16の外周面が実質的に最近側摺接面16aとされている。最遠側シールリップ15bは、前記と同様に、表面粗さ(Ra)が0.4より大きくなるよう粗面化処理が施されたスリンガ13における最遠側摺接面13baに弾性的に接するよう形成されている。この例も、スリンガ13として使用する鋼板の表面粗さ(Ra)が0.4以下でない場合、或いは、後記するように磁気エンコーダ11を一体化する為の下地処理の際に不可避的に0.4より大きくなってしまう場合等に採用される。そして、この例では、図5の例のように当該鋼板を研磨加工することに代えて、このような円環16を外嵌一体とすることによって、最近側摺接面16aの形成が簡易になし得る。従って、回転側部材(ドライブシャフト3及び内輪6)の回転に伴い、最近側シールリップ15a及び最遠側シールリップ15bの、最近側摺接面16a及び最遠側摺接面13baのそれぞれに対する弾性的摺接による機能が、前記と同様に発現される。
その他の構成は図2に示す例と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、ここでもその説明を割愛する。
【0030】
図7は、第二の実施形態の変形例を示す。この例では、スリンガ13の円筒部13aが前記各例より端寸とされ、最近側シールリップ15aが、内輪部材5の外径面に弾性的に接するよう形成されている。内輪部材5の外径面は、その表面粗さ(Ra)が0.4以下となるよう研磨処理がなされ、この研磨処理面が最近側摺接面5aとされている。また、図3の例と同様に、中間シールリップ15cが弾性的に接するスリンガ13における中間摺接面13abの表面粗さは、最近側摺接面5aの表面粗さより大きく、且つ、最遠側摺接面13baの表面粗さより小さくなるよう設定されている。
【0031】
この実施形態においても、回転側部材(ドライブシャフト3及び内輪6)の回転に伴い、最近側シールリップ15a及び最遠側シールリップ15bの、最近側摺接面5a及び最遠側摺接面13baのそれぞれに対する弾性的摺接による機能が、前記と同様に発現される。加えて、中間シールリップ15cの中間摺接面13abに対する弾性的摺接によって、回転トルクの上昇を抑えながらも、軸受空間S内に充填された潤滑剤の外部漏出及び内圧の上昇に伴う空気の漏出防止効果、特に、外部からの汚泥や塵埃等の軸受空間S内への侵入防止効果が、より助長される。
その他の構成は、第一の実施形態と同様であるから、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0032】
図8は、本発明の密封装置の第四の実施形態であって、図1における車輪側ベアリングシール10に適用した例を示している。図例のベアリングシール10は、前記ハブ4における前記ハブ輪4aからハブフランジ4bが凹曲状に立ち上がる部分と、外輪7の車体側端部との間に介装される。このベアリングシール10は、前記例のようなスリンガを有さず、外輪7の内径面に嵌合一体とされる円筒部17a及びこの円筒部17aの一端部に連成された内向鍔部17bとよりなる断面形状がL形の芯金17と、この芯金17に固着一体とされ、ハブ輪4aからハブフランジ4bにかけての軸受空間S側の面に弾性的に接する3個のシールリップ18a,18b,18cを備える弾性体製シールリップ部材18とにより構成される。
【0033】
前記3個のシールリップ18a,18b,18cの内、シールリップ18aはハブ輪4aの外径面に弾性的に接して最近側シールリップとされ、また、シールリップ18bはハブフランジ4bの軸受空間S側の面に弾性的に接して最遠側シールリップとされる。更に、シールリップ18cは、最近側シールリップ18aと最遠側シールリップ18bとの間に位置し、ハブフランジ4bの凹曲状立上り基部に弾性的に接して中間シールリップとされる。そして、ハブ4におけるこれらシールリップ18a,18b,18cが弾性的に接する面が、それぞれ最近側摺接面4aa、最遠側摺接面4ba及び中間摺接面4bbとされる。前記最近側摺接面4aaの表面粗さ(Ra)は0.4以下であり、最遠側摺接面4baの表面粗さ(Ra)は0.4より大きく設定される。そして、中間摺接面の表面粗さは、最近側摺接面4aaの表面粗さより大きく、且つ、最遠側摺接面4baの表面粗さより小さく設定される。
【0034】
この実施形態において、回転側部材(ドライブシャフト3及び内輪6)の回転に伴い、最近側シールリップ18a及び最遠側シールリップ18bの、最近側摺接面4aa及び最遠側摺接面4baのそれぞれに対する弾性的摺接による機能が、前記と同様に発現される。加えて、中間シールリップ18cの中間摺接面4bbに対する弾性的摺接によって、回転トルクの上昇を抑えながらも、軸受空間S内に充填された潤滑剤の外部漏出及び内圧の上昇に伴う空気の漏出防止効果、特に、外部からの汚泥や塵埃等の軸受空間S内への侵入防止効果が、より助長される。因みに、中間摺接面4bbの表面粗さが、最近側摺接面4aaの表面粗さより小さい場合は、回転トルクが大きくなる。
【0035】
尚、この実施形態において、図例ではシールリップが3個である例を示したが、最近側シールリップ18a及び最遠側シールリップ18bの2個であっても良い。また、中間シールリップ18cは、前記立上り基部に接するものに限らず、ハブ輪4aまたはハブフランジ4bに接するものであっても良く、更に、1個に限らず2個以上であっても良い。また、前記各実施形態において、摺接部の粗面化が、ゴム製のシールリップ部材5ではなく、金属製のスリンガやハブに施されていることにより、相互の回転摺接によっても、所期の粗面化状態が磨耗等によって経時的に変化することがなく、前記効果の持続性が保証される。
【0036】
図9(A)(B)は、本発明の密封装置に用いられるスリンガに部分的に粗面化処理を施す方法の例を模式的に示している。図9(A)に示す方法おいて、ろくろ状の回転治具19上に、スリンガ13を外向鍔部13bが水平状態となるように置き、円筒部13aの外径面をマスキング部材20で覆う。次いで、回転治具19を矢印のように軸回転させながら、外向鍔部13bの外周縁部付近の上方に設置された乾式のショットブラスト装置21から、外向鍔部13bの板面に向け粒状の投射材21aを噴射させて衝突させ、外向鍔部13bの表面に微小な凹凸を形成させる。この微小な凹凸が形成された表面が前記の最遠側摺接面とされるが、その表面粗さの調整は、投射材21aの粒径の選択や、回転治具19の回転速度の設定等によってなされる。また、外向鍔部13bや円筒部13aに前記の中間摺接面を形成する場合は、マスキング部材20の形状と、投射材21aの粒径の選択及び回転治具19の回転速度の設定等により、所定の部位に、所定の表面粗さの粗面化処理を行うことができる。
【0037】
図9(B)に示す方法は、マスキング部材20を使用しない場合であって、この場合は、円筒部13aの上方部に前記ショットブラスト装置21を設置し、外向鍔部13bの板面に向け粒状の投射材21aを噴射させて衝突させることによって、同様に外向鍔部13bの表面に微小な凹凸による最遠側摺接面を形成させる。
図9(A)(B)は、鋼板をプレス加工して形成したスリンガに直接粗面化処理を施す例を示しており、これによって得たスリンガは、図2〜図7に示すような磁気エンコーダ11を有さないベアリングシールにそのまま使用される。図2〜図7に示すように磁気エンコーダ11を有するベアリングシール9に使用されるスリンガ13の場合、前記粗面化処理の前に、磁気エンコーダ11を形成する為の下地処理がなされる。
【0038】
図2〜図7に示すように、磁気エンコーダを有し且つ粗面化処理面を備えるスリンガの形成方法として、以下の(a)〜(h)の方法を例示することができる。
(a):スリンガ用鋼板をプレス加工して所定のスリンガ形状のワークとなし、このワークの全面を湿式のショットブラスト法により粗面化する。接着剤槽にワークを浸漬して、接着剤を全面に塗布する。次いで、接着剤が全面に塗布されたワークを所定形状のキャビティを有する金型内に配置し、事前に磁性粉が所定配合で混練調製された未加硫のゴム材をキャビティ内に注入して加硫成型する。この加硫成型によって、図2〜図7に示すような磁気エンコーダ用のゴムの成型体が所定の位置に硬化した接着剤を介して一体に固着形成される。その後、図9(A)或いは(B)に示す乾式のショットブラスト法によって、ワークの所定部位に粗面化処理が施される。このショットブラスト法による粗面化処理の際には前記硬化した接着剤の塗布層も除去される。そして、前記ゴムの成型体に周方向に沿ってS極及びN極が交互に繰返す着磁処理を施すことによって、多極の磁気エンコーダを有し且つ粗面化処理面を備えるスリンガが得られる。前記湿式のショットブラスト法による粗面化は、前記接着剤の定着性を高め、接着剤を介した磁気エンコーダの固着を強固にする為になされる。
(b):前記(a)の方法において、接着剤の全面塗布後、先に図9(A)或いは(B)に示す乾式のショットブラスト法によって、ワークの所定部位に粗面化処理を施し、その後、前記と同様に磁性粉を含むゴムの成型体の形成及び着磁処理を行う。
【0039】
(c):スリンガ用鋼板の片面を前記と同様の湿式のショットブラスト法により粗面化し、これを粗面化処理がされていない側に屈曲するようプレス加工して所定のスリンガ形状のワークとなす。接着剤槽にこのワークを浸漬して、接着剤を全面に塗布する。次いで、接着剤が全面に塗布されたワークを、前記と同様に所定形状のキャビティを有する金型内に配置し、前記未加硫のゴム材をキャビティ内に注入して加硫成型する。その後、(a)の方法と同様に乾式のショットブラスト法によって、ワークの所定部位に粗面化処理を施すと共に、ゴムの成型体に前記と同様の着磁処理を施す。
(d):前記(c)の方法において、接着剤の全面塗布後、先に前記乾式のショットブラスト法によって、ワークの所定部位に粗面化処理を施し、その後、前記と同様に磁性粉を含むゴムの成型体の形成及び着磁処理を行う。
【0040】
(e):スリンガ用鋼板をプレス加工して所定のスリンガ形状のワークとなし、このワークの片面(外向鍔部の磁気エンコーダが固着される側の面及び円筒部の内径面)を乾式のショットブラスト法により粗面化し、このワークを接着剤槽に浸漬して全面に接着剤を塗布する。次いで、接着剤が全面に塗布されたワークを、前記と同様に所定形状のキャビティを有する金型内に配置し、前記未加硫のゴム材をキャビティ内に注入して加硫成型する。その後、(a)の方法と同様に乾式のショットブラスト法によって、ワークの所定部位に粗面化処理を施し、ゴムの成型体に着磁処理を施す。この場合において、接着剤槽にワークを浸漬する前に行う乾式のショットブラスト処理は、前記と同様に、接着剤の定着性を高め、接着剤を介した磁気エンコーダの固着を強固にする為になされる。
(f):前記(e)の方法において、接着剤の全面塗布後、先に前記乾式のショットブラスト法によって、ワークの所定部位に粗面化処理を施し、その後、前記と同様に磁性粉を含むゴムの成型体の形成及び着磁処理を行う。
【0041】
(g):前記(a)〜(f)の方法によって得たスリンガにおいて、最近側摺接面に相当する円筒部の外径面には接着剤層が残っている。この接着剤層の表面状態が最近側摺接面としての適性を欠く場合(所定の粗さを充足しない場合)、或いは、前記(a)〜(f)の方法において乾式のショットブラスト処理を円筒部の外径面にも施した場合、円筒部の外径面における最近側摺接面に相当する部位を、図5に示すように段差状に研磨加工して所定の表面状態とする。
(h):前記(g)の方法において、前記円筒部の研磨加工に代え、最近側摺接面に相当する部位に、図6に示すような外周面が所定の表面粗さに研磨加工された金属製円環を外嵌一体とする。
ここに、前記(g)及び(h)の方法は、磁気エンコーダを有さないスリンガにおいて、前記乾式のショットブラスト処理を円筒部の外径面に施した場合にも適用することができる。
【0042】
尚、実施形態では、本発明の密封装置を自動車用車輪の軸受装置に適用した例を示したが、これに限らず、前記のような固定側部材と、該固定側部材に対してシール対象空間を介し同軸的に軸回転可能に支持される回転側部材とよりなるその他の2部材において、回転側部材の回転トルクの効果的な低減化と、シール対象空間からの空気の漏出の抑制が求められる場合に好ましく適用される。また、シールリップが弾性的に摺接する対象が実施形態のようなスリンガやハブに限らず、例えば、直接ドライブシャフトに摺接する場合であっても良い。この場合は、各シールリップに対応するドライブシャフトの各部位の表面状態が適宜調製される。更に、実施形態において、内輪を回転側部材、外輪を固定側部材としたが、内輪を固定側部材、外輪を回転側部材としても良い。この場合、スリンガは外輪の内径面に嵌合一体とされ、芯金は内輪の外径面に嵌合一体とされ、それぞれの鍔部の向きが逆となる。加えて、固定側部材にシールリップが一体化されている例について述べたが、回転側部材にシールリップが一体化されている場合にも本発明を適用することは可能である。また、最近側摺接面の表面粗さ(Ra)は、0.4以下のものに限らず、最遠側摺接面の表面粗さより小である条件を満足するものであれば、0.4より大きくても良い。一方、最遠側摺接面の表面粗さ(Ra)は、0.4より大きいものに限らず、最近側摺接面の表面粗さより大である条件を満足するものであれば、0.4以下であっても良い。
【符号の説明】
【0043】
6 内輪(2部材の回転側部材)
7 外輪(2部材の固定側部材)
9 ベアリングシール(密封装置)
10 ベアリングシール(密封装置)
11 磁気エンコーダ
13 スリンガ(回転側部材)
13aa,13ac,4aa,16a 最近側摺接面
13ba,4ba 最遠側摺接面
13ab,13bb,4bb 中間摺接面
15a 最近側シールリップ
15b 最遠側シールリップ
15c,15d 中間シールリップ
S 軸受空間(シール対象空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側部材と、該固定側部材に対して同軸的に軸回転可能に支持される回転側部材とよりなる2部材間の環状のシール対象空間をシールする密封装置であって、
前記2部材のうちの一方の部材に固着され、前記2部材のうちの他方の部材に弾性的に摺接する複数の弾性体製シールリップを含み、前記シール対象空間より最も遠い位置の最遠側シールリップに対応する前記他方の部材の最遠側摺接面の表面粗さが、前記シール対象空間に最も近い位置の最近側シールリップに対応する前記他方の部材の最近側摺接面の表面粗さより大とされていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1に記載の密封装置において、
前記一方の部材が固定側部材であり、前記他方の部材が回転側部材であることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項2に記載の密封装置において、
前記回転側部材が、スリンガを一体に備え、少なくとも前記最遠側シールリップが当該スリンガに弾性的に摺接することを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項3に記載の密封装置において、
前記スリンガにおける前記シールリップが摺接する側とは反対側の面に、回転検出用の磁気エンコーダが固着されていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の密封装置において、
前記最遠側及び最近側シールリップの間に少なくとも1個の中間シールリップを有し、該中間シールリップに対応する回転側部材の中間摺接面の表面粗さが、前記最遠側摺接面の表面粗さより小さいことを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項5に記載の密封装置において、
前記中間摺接面の表面粗さが、前記最近側摺接面の表面粗さより大きいことを特徴とする密封装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の密封装置において、
前記最近側摺接面の表面粗さ(Ra)が、0.4以下であり、前記最遠側摺接面の表面粗さ(Ra)が、0.4より大きいことを特徴とする密封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−21616(P2012−21616A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161241(P2010−161241)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】