説明

対向ピストン型ディスクブレーキ

【課題】キャリパ5bに対しパッド11a、12aを支持すると共に、制動時にこれら両パッド11a、12aに加わる制動トルクを支承したり、これら両パッド11a、12aの脱落を防止する為の構造を簡略化する。
【解決手段】上記キャリパ5bに設けた1対の係止凹溝22、22に、上記両パッド11a、12aを構成するプレッシャプレート15a、15a側に設けた複数の係合凸部23、23を、ロータの軸方向の変位を可能に係合させる。上記両係止凹溝22、22と上記キャリパ5bを構成する両連結部6a、6aの外周面との間に形成した切り欠き24、24を通じて、上記各係止凸部23、23を上記両係止凹溝22、22に係脱可能とする。又、パッドクリップ25、25により上記各切り欠き24、24を塞ぎ、上記各係合凸部23、23が上記各切り欠き24、24から不用意に抜け出る事を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の制動に使用するディスクブレーキのうち、ロータの両側にピストンを、互いに対向する状態で設けた、対向ピストン型ディスクブレーキの改良に関する。具体的には、制動時に各パッドに加わるブレーキトルクを支承する為のトルク受ピンを省略可能にする事で、設計の自由度を向上させる事を意図したものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動を行なう為に、ディスクブレーキが広く使用されている。ディスクブレーキによる制動時には、車輪と共に回転するロータの軸方向両側に配置された1対のパッドを、ピストンによりこのロータの両側面に押し付ける。この様なディスクブレーキとして従来から各種構造のものが知られているが、ロータの両側にピストンを、互いに対向する状態で設けた、対向ピストン型ディスクブレーキは、安定した制動力を得られる事から、近年使用例が増えている。この様な対向ピストン型ディスクブレーキとして従来から、例えば特許文献1〜10に記載された構造のものが知られている。このうちの特許文献8の記載に基づいて、対向ピストン型ディスクブレーキの基本的構造を図13により、具体的構造を図14〜17により、それぞれ説明する。
【0003】
図13に示す様に対向ピストン型のディスクブレーキ1は、車輪と共に回転するロータ2を挟む位置に、アウタボディ部3及びインナボディ部4から成るキャリパ5を設けている。又、これら各ボディ部3、4内にアウタシリンダ及びインナシリンダを、それぞれの開口部を上記ロータ2を介して互いに対向させた状態で設けている。そして、これらアウタシリンダ及びインナシリンダ内にアウタピストン及びインナピストンを、液密に、且つ上記ロータ2の軸方向に関する変位を可能に嵌装している。又、上記アウタボディ部3にはアウタパッドを、上記インナボディ部4にはインナパッドを、それぞれ上記ロータ2の軸方向に関する変位を可能に支持している。制動時には、上記アウタシリンダ及びインナシリンダ内に圧油を送り込み、上記アウタピストン及びインナピストンにより、上記アウタパッド及びインナパッドを、上記ロータ2の内外両側面に押し付ける。
【0004】
又、図14〜17に示した、より具体的なディスクブレーキ1aも、ロータ2を跨ぐ状態で配置されたキャリパ5aを備える。このキャリパ5aは、アルミニウム合金製の素材により一体に造ったもので、上記ロータ2の軸方向(図14、16の表裏方向、図15の上下方向、図17の左右方向)両側に配置されたアウタボディ部3a及びインナボディ部4aと、これら両ボディ部3a、4aの周方向(図14〜16の左右方向、図17の表裏方向)両端部同士を連結する1対の連結部6、6とを備える。そして、図示の例の場合には、上記両ボディ部3a、4aにそれぞれ3個ずつ、合計6個のアウタ、インナ各シリンダ7、7(8、8)を設け、これら各シリンダ7、7(8、8)にアウタ、インナ各ピストン9、9(10、10)を嵌装している。そして、これら各ピストン9、9(10、10)により、上記ロータ2を挟んで上記両ボディ部3a、4aに支持されたアウタ、インナ両パッド11、12を、上記ロータ2に押圧する事で制動を行なう様に構成している。
【0005】
又、上記アウタボディ部3aとインナボディ部4aとの周方向中間部で上記両連結部6、6の間に位置する部分のうち、径方向外端部同士の間に、1対のトルク受ピン13、13と1本の中間結合ピン14とを、それぞれ上記両ボディ部3a、4a同士の間に掛け渡す状態で設けている。これら各ピン13、14のうち、両トルク受ピン13、13は、上記アウタ、インナ両パッド11、12のプレッシャプレート15、15を周方向両側から挟む位置で、ロータ2の外周縁よりも径方向外寄り部分に設けている。又、上記中間結合ピン14は、上記両パッド11、12よりも径方向外側で上記両トルク受ピン13、13の間部分に設けている。これら各ピン13、14は、上記アウタボディ部3aとインナボディ部4aとの間隔が、制動の為の加圧時の反力で拡がる方向に変形する事を極力阻止する役目を果たす。
【0006】
又、上記両トルク受ピン13、13は、上記アウタ、インナ両パッド11、12を構成するプレッシャプレート15、15の周方向両端縁に、当接若しくは近接対向させている。これに対して、残りの中間結合ピン14と、上記両パッド11、12のプレッシャプレート15、15の径方向外周縁との間に、パッドクリップ16を設けて、これら両プレッシャプレート15、15に、径方向内方に向く弾力と、互いに離れる方向の弾力とを付与している。
【0007】
更に、前記アウタボディ部3a及びインナボディ部4aの径方向内寄り部分に、これら両ボディ部3a、4a毎に独立した係止ピン17、17を、これら両ボディ部3a、4a毎に2本ずつ設けている。これら各係止ピン17、17はそれぞれ、これら両ボディ部3a、4aの径方向内端部で周方向両端部近傍位置に、それぞれ固定している。この状態で上記各係止ピン17、17の一部外周面に、上記両パッド11、12のプレッシャプレート15、15の径方向内端縁が、上記パッドクリップ16の弾力に基づいて押し付けられる。上記各係止ピン17、17は、上記両パッド11、12が前記キャリパ5aから、前記ロータ2の径方向内方に抜け出る事を防止すると共に、非制動時に上記両パッド11、12ががたつく事を防止する。
【0008】
上述の様に構成する対向ピストン型ディスクブレーキによる制動時には、前記各アウタシリンダ7、7及びインナシリンダ8、8に圧油を送り込む。そして、前記アウタピストン9、9及びインナピストン10、10を押し出して、上記アウタ、インナ両パッド11、12を前記ロータ2の両側面に押圧する。この結果、これら両パッド11、12を構成するライニング18、18と上記ロータ2の両側面との摩擦により、制動が行なわれる。尚、この摩擦に基づいて上記両パッド11、12に加わる制動トルクは、前記両トルク受ピン13、13のうちのアンカ側(ロータ2の回出側)のトルク受ピン13により支承する。
【0009】
上述の図14〜17に示した従来構造は、上記各ピン13、14を上記キャリパ5aから取り外す事により、上記両パッド11、12をこのキャリパ5aの上部から脱着でき、且つ、安定した制動力を得られる。但し、トルク受ピン13、13及び係止ピン17、17を設ける事に伴って設計の自由度が低く、より高性能の対向ピストン型ディスクブレーキを得る為には、改良が望まれる。この理由に就いて、以下に説明する。
第一に、上記各ピン13、17を前記キャリパ5aに、それぞれボルト19a、19bにより支持固定している。そして、これら各ボルト19a、19bは、レイアウト上、車輪のホイールに近く、それぞれの頭部20a、20b、又は、上記キャリパ5aの表面でこれら各ボルト19a、19bを固定する為の部分と車輪のホイールの内面との間には、これら両面同士の干渉を確実に防止する為の隙間を介在させる必要がある。この為、上記各ボルト19a、19bは、できれば省略する事が望まれる。
第二に、1対の連結部6、6と上記両パッド11、12の両端縁との間に上記両トルク受ピン13、13を設ける分、上記両連結部6、6同士の間隔を同じとした場合に、上記両パッド11、12の長さ寸法が短くなる。この結果、上記両ライニング18、18の摩擦面積が狭くなり、制動力を確保する面からは不利になる。
第三に、部品点数が多くなり、部品製作、部品管理、組立作業が何れも煩雑になり、コストが嵩む事が避けられない。
【0010】
【特許文献1】特開平5−106662号公報
【特許文献2】特開平7−127674号公報
【特許文献3】特開平8−159185号公報
【特許文献4】特開平8−254228号公報
【特許文献5】特開平9−257063号公報
【特許文献6】特開2003−120724号公報
【特許文献7】特開2004−183904号公報
【特許文献8】特開2005−121174号公報
【特許文献9】特開2005−299930号公報
【特許文献10】特表2005−517877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、キャリパに対しパッドを支持すると共に、制動時にこのパッドに加わる制動トルクを支承したり、このパッドの脱落を防止する為の、トルク受ピン及び係止ピンを省略できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の対向ピストン型ディスクブレーキは、キャリパと、複数のシリンダと、複数のピストンと、2枚のパッドと、複数のパッド支持構造部とを備える。
このうちのキャリパは、車輪と共に回転するロータを挟んで設けられたアウタ、インナ両ボディ部、及び、このロータの回転方向に関しこれら両ボディ部の両端部同士を上記ロータの外周縁よりも径方向外方位置で連結する1対の連結部を一体としている。
又、上記各シリンダは、上記両ボディ部に、互いに対向して設けられている。
又、上記各ピストンは、上記各シリンダ内に、液密に、且つ、上記ロータの軸方向に関する変位を可能に嵌装されている。
又、上記両パッドは、上記ロータの軸方向に関する変位を可能として上記両ボディ部に、これら両ボディ部毎に1枚ずつ支持されている。
又、上記各パッド支持構造部は、上記両パッドが上記ロータの径方向に変位するのを阻止するものである。
【0013】
特に、本発明の対向ピストン型ディスクブレーキに於いては、上記各パッド支持構造部は、上記キャリパ側に設けた1対の係止凹溝に、上記両パッドを構成するプレッシャプレート側に設けられた複数の係合凸部を、上記ロータの軸方向の変位を可能に係合させて成る。
このうちの1対の係止凹溝は、上記両連結部の互いに対向する面に、それぞれがこの面に開口する状態で、上記ロータの軸方向に形成している。
又、上記両係止凹溝のうちの少なくとも一方の係止凹溝と、当該係止凹溝を形成した連結部の外周面との間に切り欠きを、上記係止凹溝の内側と上記連結部の外周面とを連通させる状態で形成している。この切り欠きは、上記プレッシャプレートの厚さ寸法以上の幅寸法を有する。
又、上記各係合凸部は、上記両パッドを構成するプレッシャプレートのうち、上記ロータの回転方向両端縁部で径方向外端部に、この回転方向に突出する状態で形成している。そして、上記各係合凸部の、上記ロータの径方向に関する幅寸法を、上記係止凹溝の同方向に関する幅寸法よりも小さくしている。
更に、上記両パッドを、それぞれのプレッシャプレート毎に1対ずつ設けた上記各係止凸部のうち、少なくともこのプレッシャプレートの長さ方向一端側の係止凸部を、上記切り欠きを通じて上記係止凹溝内に進入させる事によりこの係止凹溝に、上記ロータの軸方向の変位を可能に係合させている。
【0014】
上述の様な本発明を実施する場合に、例えば請求項2に記載した様に、上記両ボディ部同士を連結するブリッジ部を上記両連結部同士の間に存在させない。即ち、これら両ボディ部とこれら両連結部とにより四周を囲まれた、上記両パッドを収納する空間部分全体を、上記ロータの径方向外方に開放させた構造を採用する。
この様な構造を採用した場合には、上記両係止凹溝と上記両連結部の外周面との間に切り欠きを、これら両係止凹溝同士の間で上記ロータの軸方向に関する位相を互いに一致させた状態で形成する。そして、上記両パッドを、それぞれのプレッシャプレート毎に1対ずつ設けた上記各係止凸部を、上記各切り欠きを通じて上記両係止凹溝内に進入させる事によりこれら両係止凹溝に、上記ロータの軸方向の変位を可能に係合させる。
【0015】
或いは、請求項3に記載した様に、上記両ボディ部同士を、これら両ボディ部よりも上記ロータの径方向外側部分で連結するブリッジ部が、上記両連結部同士の間に存在する構造を採用する。
この様な構造を採用した場合には、上記両係止凹溝のうちの一方の係止凹溝と上記両連結部のうちの一方の連結部の外周面との間にのみ、上記各係止凸部を通過させる為の切り欠きを形成する。そして、上記両パッドを、それぞれのプレッシャプレート毎に1対ずつ設けた上記各係止凸部のうち、上記ロータの回転方向に関して片側の係止凸部を他方の係止凹溝に進入させてから他側の係止凸部を、上記切り欠きを通じて上記一方の係止凹溝内に進入させる事によりこれら両係止凹溝に、上記ロータの軸方向の変位を可能に係合させる。
この様な請求項3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した様に、上記両ボディ部同士を連結するブリッジ部を、上記ロータの回転方向に関して、上記両連結部同士の中央位置よりも偏った位置に設ける。そして、上記一方の係止凹溝を、上記ブリッジ部から遠い側の連結部に設けられた係止凹溝とする。
【0016】
又、上述の様な各発明を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した様に、上記両係止凹溝の内面と上記各係止凸部との間に、それぞれが耐食性を有する弾性金属板製である、1対のパッドクリップを介在させる。
又、この様な請求項5に記載した発明を実施する場合に、更に好ましくは、請求項6に記載した様に、上記両パッドクリップのうち、切り欠きを設けた係止凹溝内に設置するパッドクリップの端部に舌片を、同じく中間部に係止片を、それぞれ設ける。このうちの舌片は、上記キャリパの外側面との係合に基づいて当該パッドクリップの上記両係止凹溝内への進入量を規制する。又、上記係止片は、当該パッドクリップの中間部でこの舌片と上記キャリパの外側面とが係合した状態で上記切り欠きと整合する部分に、この切り欠きとの係合に基づいて、当該パッドクリップが当該係止凹溝から抜け出る方向に変位する事を阻止する。
【0017】
更に、以上に述べた各発明を実施する場合に好ましくは、請求項7に記載した様に、上記切り欠きを、この切り欠きを設けた上記係止凹溝に関して2個所設ける。又、上記ロータの軸方向に関するこれら各切り欠きの位置を、上記両パッドを構成するライニングが摩耗していない状態で、このライニングを上記ロータに妨げられず(ライニングの内周縁とロータの外周縁とがぶつからず)に、上記両パッドをこのロータの径方向内方に変位させつつ、上記各係合凸部を進入させられる位置とする。
【発明の効果】
【0018】
上述の様に本発明の対向ピストン型ディスクブレーキの場合、アウタ、インナ両パッドを構成するプレッシャプレートに設けた各係合凸部と、キャリパを構成する1対の連結部に設けた係止凹溝とが係合する。そして、この係合により、このキャリパに対し上記両パッドを、ロータの軸方向の変位を可能にしつつ、このロータの径方向への変位を阻止した状態で支持できる。又、制動時に上記パッドに加わる制動トルクを、上記両連結部のうちの、上記ロータの回出側に存在する連結部で支承できる。前述の図14〜17に示した従来構造の様に、キャリパに対しパッドを支持すると共に、制動時にこのパッドに加わる制動トルクを支承したり、このパッドの脱落を防止する為の、トルク受ピン及び係止ピンを設ける必要はない。
【0019】
この為、これら各ピンをキャリパに支持固定する為のボルトの頭部や、ボルトを設置する為に増肉した、このキャリパの表面が、車輪のホイールの内面と干渉するのを防止する為の設計が容易になる。又、上記トルク受ピンを省略できる分、上記両連結部同士の間隔を同じとした場合に、上記両パッドの長さ寸法を確保して、これら両パッドを構成するライニングの摩擦面積を広くし、制動力を確保し易くなる。これに対して、得るべき制動力を同じとした場合には、キャリパの小型・軽量化により、ばね下荷重の低減を図り、乗り心地、走行安定性等の走行性能の向上を図れる。更に、部品点数の削減による低廉化も図れる。
【0020】
又、本発明を実施する場合に、請求項2に記載した様に、上記両パッドを収納する空間部分全体を上記ロータの径方向外方に開放させた構造は、比較的発生する制動力が小さい対向ピストン型ディスクブレーキとして適切である。この様な構造の場合、請求項2に記載した構成を採用する事で、上記両パッドの着脱作業をより容易に行なえる。
これに対して、請求項3、4に記載した様に、上記ロータの径方向に関して上記両パッドを収納する空間部分の外方にブリッジ部を設けた構造は、大きな制動力を発生する対向ピストン型ディスクブレーキとして適切である。この様な構造でも、請求項3、4に記載した構成を採用する事で、上記両パッドの着脱作業を行なえる。
【0021】
又、請求項5に記載した様なパッドクリップを介在させれば、何れも比較的嵩張る部材である、キャリパやプレッシャプレートを構成する金属材料の選択の自由度を高められる。即ち、上記パッドクリップを設ける事で、前記各係合凸部と前記両係止凹溝との係合部が錆び付いたり摩耗したりする事を防止できる。この為、上記キャリパを、剛性は高いが錆び易い鋳鉄により、或いは、軽量ではあるが摩耗し易いアルミニウム合金により造れる。又、上記プレッシャプレートを、剛性は高いが錆び易い鋼板により造れる。又、上記パッドクリップを設ける事で、上記両連結部に設けた各切り欠きの開口部を塞ぎ、上記各係合凸部が上記両係止凹溝から抜け出る事を確実に防止できる。
上述の様な1対のパッドクリップを設ける場合に、請求項6に記載した構造を採用すれば、上記両係止凹溝内へのこれら両パッドクリップの組み付け作業の容易化を図れる。即ち、これら両係止凹溝内にこれら両パッドクリップを押し込むのみで(ねじ止めや接着等の結合作業を不要にして)、これら両パッドクリップを上記両係止凹溝の内側に装着できる。
【0022】
更に、請求項7に記載した構成を採用すれば、アウタ、インナ両ボディ部同士の間にロータが入り込んでいる状態、即ち、車載状態でも、上記両係止凹溝と各係合凸部とを係脱させる事ができる。この為、ライニングが摩耗した古いパッドを上記キャリパから取り外す作業、及び、未使用の新しいパッドをこのキャリパに組み付ける作業を、このキャリパを懸架装置から取り外す事なく行なえる。即ち、キャリパ単体の状態(アウタ、インナ両ボディ部同士の間にロータが存在しない状態)であれば、請求項2に記載した構造の場合でも、1対の連結部にそれぞれ1個ずつ、合計1対の切り欠き(請求項3、4に記載した構造の場合には、何れかの連結部に1個の切り欠き)を、前記ロータの軸方向に関する位相を互いに一致させた状態で設けさえすれば、上記キャリパへの、上記アウタ、インナ両パッドの着脱を行なえる。但し、この場合には、摩耗したパッドを新しいパッドに交換する作業の度に、上記キャリパを懸架装置から取り外す必要があり、面倒である。これに対して上記請求項7に記載した構成を採用すれば、この様な面倒をなくせる。
【0023】
逆に言えば、この面倒を許容できるのであれば、上記切り欠きを1対(或いは1個)のみ設ければ足りる。この場合に、この1対(或いは1個)の切り欠きを、上記ロータの軸方向に関して、上記両連結部の中央部(このロータの周囲部分)に設ける事が考えられる。この様な構成を採用すれば、使用状態に於いて、上記各係合凸部が上記両切り欠き部分に位置する可能性はなくなる。この為、これら各係合凸部が上記両係止凹溝から抜け出る事を防止する面からは、前記両パッドクリップは不要になる。従って、上記キャリパ及び上記両パッドのプレッシャプレートの材質の工夫により、錆び付きや摩耗を抑えられるのであれば、上記両パッドクリップを省略する事もできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[実施の形態の第1例]
図1〜9は、請求項1、2、5〜7に対応する本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例のディスクブレーキ1bの特徴は、キャリパ5bに対しアウタ、インナ両パッド11a、12aのプレッシャプレート15a、15aを、ロータ2(図15〜17参照)の径方向の変位を阻止した状態で、このロータ2の軸方向の変位を可能に支持する為の、パッド支持構造部21、21部分の構造にある。この他の部分の構成及び作用は、前述の図14〜17に示した従来構造と同様であるから、同等部分に関する説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分である、上記各パッド支持構造部21、21部分の構造及び作用を中心に説明する。
【0025】
上記キャリパ5bを構成する、アウタ、インナ両ボディ部3b、4bの両端部同士を連結する1対の連結部6a、6aは、上記ロータ2の径方向に関して、これら両ボディ部3b、4bの外周面よりも径方向外方に突出した状態で設けられている。そして、上記両連結部6a、6aの互いに対向する面に形成した1対の係止凹溝22、22と、上記両プレッシャプレート15a、15aに、それぞれ1対ずつ形成した係合凸部23、23とを係合させる事で、上記各パッド支持構造部21、21を構成している。
【0026】
上記両係止凹溝22、22は、上記ロータ2の外周縁よりも径方向外側で、上記両連結部6a、6aの互いに対向する面に、それぞれがこの面に開口する状態で、上記ロータ2の軸方向に形成している。本例の場合には、このロータ2の軸方向に見た場合に於ける、上記両係止凹溝22、22の形状を、それぞれ「コ」字形としている。
又、これら両係止凹溝22、22と上記両連結部6a、6aの外周面との間に、これら両係止凹溝22、22毎に1対ずつ、合計4個所の切り欠き24、24を設けている。これら各切り欠き24、24は、上記両係止凹溝22、22の内側と上記両連結部6a、6aの外周側面とを連通させる状態で形成している。これら各切り欠き24、24の上記ロータ2の軸方向に関する幅寸法W24(図3参照)は、それぞれが上記両プレッシャプレート15a、15aの厚さ寸法T15(図3参照)以上(W24≧T15)としている。上記各切り欠き24、24の上記ロータ2の軸方向に関する位相は、上記両係止凹溝22、22同士の間で互いに一致している。
【0027】
本例の場合、上記各切り欠き24、24を形成する位置を、次の様に規制している。即ち、前記両パッド11a、12aを構成するライニング18、18が摩耗していない(新品の)状態で、これら両ライニング18、18を上記ロータ2に妨げられずに、上記両パッド11a、12aをこのロータ2の径方向内方に変位させつつ、上記各係合凸部23、23を進入させられる位置とする。言い換えれば、上記ロータ2の側面と上記両ライニング18、18の摩擦面とを同一平面上に位置させた(これら両面を当接させた)状態で、上記各係合凸部23、23が位置する部分よりも、前記アウタ、インナ両ボディ部3b、4bに寄った部分に、上記各切り欠き24、24を形成している。
【0028】
又、上記各係合凸部23、23は、上記両パッド11a、12aを構成するプレッシャプレート15a、15aのうち、上記ロータ2の回転方向両端縁部で径方向外端部に、この回転方向に突出する状態で形成している。上記各係合凸部23、23の、上記ロータ2の径方向に関する幅寸法W23(図4参照)は、上記両係止凹溝22、22の同方向に関する幅寸法W22(図4参照)よりも小さく(W23<W22)している。具体的には、上記各係合凸部23、23の幅寸法W23を、上記両係止凹溝22、22の幅寸法W22から、次述するパッドクリップ25を構成する弾性金属板の厚さT25(図9参照)の2倍分を減じた値よりも小さく(W23<「W22−2T25」)している。
【0029】
上記両係止凹溝22、22の内側にはそれぞれパッドクリップ25、25を装着し、上記各係合凸部23、23をこれら両係止凹溝22、22に、これら両パッドクリップ25、25を介して、上記ロータ2の軸方向の変位のみを可能に係合させている。これら両パッドクリップ25、25はそれぞれ、ステンレスのばね鋼の如き、耐食性を有する弾性金属板を、図9に示す様に「コ」字形に曲げ形成して成る。又、上記両パッドクリップ25、25のアウタ側端部に舌片26を、同じく中間部アウタ寄り部分に係止片27を、それぞれ設けている。このうちの舌片26は、上記両パッドクリップ25、25の本体部分のアウタ側端縁部から上記両係止凹溝22、22と反対側に折れ曲がった状態で形成されている。この様な舌片26は、上記両パッドクリップ25、25を上記両係止凹溝22、22内に押し込んだ状態で、前記キャリパ5bを構成する前記両連結部6a、6aのアウタ側面に当接する。そして、上記両パッドクリップ25、25が、それ以上上記両係止凹溝22、22内に進入しない様に(インナ側に変位しない様に)規制する。
【0030】
一方、上記係止片27は、上記両パッドクリップ25、25の中間部アウタ寄り部分で、上記舌片26が上記両連結部6a、6aのアウタ側側面の外側面に当接した状態で、上記各切り欠き24、24のうちのアウタ寄り(インナ寄りでも良い)の切り欠き24、24と整合する部分に設ける。図示の例では、上記両パッドクリップ25、25の本体部分のうちで前記ロータ2の径方向外寄り部分の板部に形成した、アウタ側が開いた「コ」字形の切れ目の内側をこの径方向外側に曲げ起こして、上記係止片27としている。この様な係止片27は、上記アウタ寄りの切り欠き24、24と係合し、上記両パッドクリップ25、25が上記両係止凹溝22、22から抜け出る方向に変位する事を阻止する。要するに、上記両パッドクリップ25、25を上記両係止凹溝22、22内に押し込んだ状態で、上記両連結部6a、6aのうちのアウタ寄り部分を、上記舌片26と上記係止片27とにより挟持し、上記両パッドクリップ25、25が上記ロータ2の軸方向に変位する事を阻止する。
【0031】
更に、本例の場合には、図4〜6に示す様に、前記アウタ、インナ両ボディ部3b、4bの互いに対向する側面の内径寄り部分に、それぞれアンカ凸部28、28を形成している。又、前記両パッド11a、12aを構成するプレッシャプレート15a、15aのうち、上記ロータ2の回転方向両端縁部で径方向内寄り部分に突出部29、29(図4参照)を、この回転方向に突出する状態で形成している。そして、上記両プレッシャプレート15a、15aの両端外径側端部に形成した前記各係合凸部23、23を上記両係止凹溝22、22に係合させた状態で、上記各アンカ凸部28、28と上記各突出部29、29とが、当接若しくは近接対向する様にしている。尚、図示の例では、上記両プレッシャプレート15a、15aの外周縁の中央部に、ウェアインジケータを装着する為の係止切り欠き32を設けている。
【0032】
上述の様な本例の構造の組み立て作業は、次の様にして行なう。尚、本例の構造を、対向ピストン型ディスクブレーキの製造工場で組み立てる場合、或いは、修理工場等でライニング18、18が摩耗した両パッド11a、12aを交換する場合、特に後者の場合の様に、上記アウタ、インナ両ボディ部3b、4b同士の間に上記ロータ2が存在する状態では、構成各部品を所定の順番で組み立てる必要がある。そこで、以下の説明は、上記アウタ、インナ両ボディ部3b、4b同士の間に上記ロータ2が存在する状態で上記両パッド11a、12aの着脱を行なう場合に就いて説明する。
【0033】
前記キャリパ5bに上記両パッド11a、12aを組み付ける作業は、上記両係止凹溝22、22に上記両パッドクリップ25、25を組み付ける以前の状態で行なう。即ち、上記両パッド11a、12aの内径寄り部分を上記キャリパ5bを構成する1対の連結部6a、6a同士の間部分に挿入し、更に、前記各係合凸部23、23を上記両係止凹溝22、22内に、前記各切り欠き24、24を通じて挿入する。その後、上記両パッドクリップ25、25を、上記各係合凸部23、23と上記両係止凹溝22、22との間の隙間に、上記キャリパ5bのアウタ側(インナ側からでも可)から押し込む。この押し込み作業の際、前記係止片27は弾性的に押し潰されて、この押し込みを許容する。そして、この係止片27は、前記舌片26が前記両連結部6a、6aのアウタ側面に当接した状態で弾性的に復元し、上記各切り欠き24、24のうちのアウタ側の切り欠き24、24内に入り込む。この結果、上記両パッドクリップ25、25が上記両係止凹溝22、22から抜け出る事がなくなる。又、上記各切り欠き24、24がこれら両パッドクリップ25、25により塞がれるので、これら各切り欠き24、24と上記各係合凸部23、23との位相が合致した状態でも、これら各係合凸部23、23が上記両係止凹溝22、22から抜け出る事がなくなる。この結果、上記両パッド11a、12aが上記キャリパ5bに、上記ロータ2の軸方向の変位のみを可能に支持される。
【0034】
前記ライニング18が摩耗した、古いパッド11a、12aを取り外す際には、上記係止片27が係合した切り欠き24を通じて挿入したドライバ等の工具で、この係止片27を押し潰しつつ、上記パッドクリップ25をアウタ側に引き抜く。そして、上記両係止凹溝22、22より上記両パッドクリップ25、25を引き抜いてから、上記各切り欠き24、24と上記各係合凸部23、23との位相を合致させ、更に、上記両パッド11a、12aを上記ロータ2の径方向外側に引き抜く。この作業により、上記古いパッド11a、12aを上記キャリパ5bから取り外せる。そこで、上述した組み付け作業手順で、このキャリパ5bに新しいパッド11a、12aを組み付ける。
【0035】
前述の様な構造を有し、上述の様に組み立てられる本例の対向ピストン型ディスクブレーキの制動時には、上記パッド11a、12aに加わる制動トルクを、前記両連結部6a、6aのうちの、上記ロータ2の回出側に存在する連結部6aで支承する。即ち、上記両係止凹溝22、22と上記各係合凸部23、23との係合部である、前記各パッド支持構造部21、21のうちの回出側に存在するパッド支持構造部21、21が、上記制動トルクの一部を支承する。又、この制動トルクの残部を、前記各アンカ凸部28、28と前記各突出部29、29とのうち、回出側の各アンカ凸部28、28と各突出部29、29との突き合わせ部で支承する。これらにより、前述した様な、本発明特有の優れた作用・効果を奏する事ができる。
【0036】
[実施の形態の第2例]
図10〜12は、請求項1、3〜7に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。上述した実施の形態の第1例は、要求される制動力が比較的小さい、後輪用の構造に本発明を適用した場合に就いて示している。これに対して本発明は、要求される制動力が大きい、前輪用の構造にも適用可能である。但し、前輪用の対向ピストン型ディスクブレーキの場合には、キャリパ5cの剛性を、アウタ側、インナ側両ボディ部3b、4b同士の間隔が拡がるのを阻止する方向に関して向上させる必要がある。この為には、図10〜11に示す様に、上記両ボディ部3b、4b同士の間に、例えば門型のブリッジ部30を掛け渡す。本例の場合、ライニングの円周方向の偏摩耗を是正する為に、各シリンダの直径を、回出側で大きく、回入側で小さくする事により、回出側の押圧力を回入側の押圧力よりも大きくしている。この場合にこのブリッジ部30を、上記両ボディ部3b、4bの外周面のうち、ロータの回転方向に関して中央位置よりも(前進状態での)回出側に片寄せた位置に設ける。そして、制動時に上記拡がる方向に大きな力が加わるこの回出側部分に関しても、上記両ボディ部3b、4b同士の間隔が拡がらない様にする。尚、各シリンダの直径や設置位置が、回出側と回入側とで対称の場合には、ブリッジ部を何れの側に(回出側に限らず回入側に)偏らせて設置しても良い。
【0037】
この様なブリッジ部30を設けた構造の場合に、パッド31(インナパッド及びアウタパッド)の着脱作業は、図12の(b)に示す様に、上記ブリッジ部30と回入側(図12の右側)の連結部6aとの間の隙間を通じて行なう。この様な隙間を通じての着脱作業は、前述した実施の形態の第1例と同様の方法では行なえない。即ち、上記ブリッジ部30に妨げられて、このパッド31をロータの径方向に平行移動させつつ、このパッド31のプレッシャプレート15bの両端部に設けた係合凸部23a、23bを上記キャリパ5cに設けた係止凹溝22a、22bに係合させる事はできない。
【0038】
この為本例の場合には、図12の(b)に示す様に、上記プレッシャプレート15bを上記隙間を通じて上記両ボディ部3b、4b同士の間に進入させる。そして、このプレッシャプレート15bの両端部に設けた係合凸部23a、23bのうち、先ず上記回出側の係合凸部23aを回出側の係止凹溝22aに直接(パッドクリップ25を介する事なく)係合させた後、この係合部を中心として、上記プレッシャプレート15bを図12の時計方向に揺動させる。そして、回入側の係合凸部23bを、切り欠き24を通じて回入側に係止凹溝22b内に進入させて、この係止凹溝22bと係合させる。その後、これら両係止凹溝22a、22bの内面と上記両係合凸部23a、23bとの間に、前述の図9に示す様なパッドクリップ25を押し込んで装着する。但し、回出側の係止凹溝22a内に押し込んだパッドクリップに関しては、ねじ止め等、係止片27(図9参照)以外の手段により、上記係止凹溝22aからの抜け止めを図る。この理由は、上記回出側の係止凹溝22aには、上記係止片27と係合すべき切り欠きが設けられていない為である。尚、この回出側の係止凹溝22aに関して、着脱用の為ではなく、上記係止片27と係合させるべき切り欠きを形成して、上記パッドクリップの抜け止めを図る事もできる。
【0039】
更に、上記プレッシャプレート15bの両端部には、回出側端部にのみ、上記両ボディ部3b、4bに形成したアンカ凸部28、28と係合する突出部29を設けている。回入側端部に関しては、上記両ボディ部3b、4b側のアンカ凸部に関しても、プレッシャプレート15b側の突出部に関しても省略している。この理由は、上記図12の(b)に示す様に上記プレッシャプレート15bを前記キャリパ5cに出し入れする際に、上記回入側でアンカ凸部と突出部とが干渉し、着脱作業の妨げになる事を防止する為である。従って本例の場合に、後退時に前記パッド31に加わる制動トルクは、上記回入側(後退時には回出側)の係止凹溝22bと係合凸部23bとの係合部のみで支承する。後退時に上記パッド31に加わる制動トルクは、前進時に加わる制動トルクに比べて小さいので、トルクの支承面積が狭くても、特に問題とはならない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、図示の構造に限らず、特許請求の範囲のうちの請求項1に記載した要件を満たす、各種構造で実施できる。例えば、図1〜6に示したブリッジ部を持たない構造で、回入側、回出側の一方又は双方のアンカ凸部28を省略し、切り欠き24を何れか一方の連結部にのみ形成する事もできる。或いは、図10〜12に示したブリッジ部30を設けた構造で、両方の連結部に切り欠き24を形成した構造を採用する事もできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、パッドを支持したキャリパをアウタ寄り外径側から見た斜視図。
【図2】同じくアウタ側から見た正投影図。
【図3】同じく外径側から見た正投影図。
【図4】図3のA−A断面図。
【図5】キャリパ単体を図1と同方向から見た斜視図。
【図6】同じく内径側から見た正投影図。
【図7】図1の左上部拡大図。
【図8】図7のB矢視図。
【図9】パッドクリップの斜視図。
【図10】本発明の実施の形態の第2例を示す、キャリパ単体をアウタ寄り外径側から見た斜視図。
【図11】同じくインナ側から見た正投影図。
【図12】(a)はキャリパにパッドを組み付けた状態を示す、図10のC−C断面に相当する図、(b)はこのキャリパにパッドを着脱する状態を示す、(a)と同様の図。
【図13】従来から知られているディスクブレーキの第1例を示す斜視図。
【図14】同第2例を示す、インナ側から見た正投影図。
【図15】図14の上方である、径方向外方から見た図。
【図16】図15のD−D断面図。
【図17】図16のE−E断面図。
【符号の説明】
【0042】
1、1a、1b ディスクブレーキ
2 ロータ
3、3a、3b アウタボディ部
4、4a、4b インナボディ部
5、5a、5b、5c キャリパ
6、6a 連結部
7 アウタシリンダ
8 インナシリンダ
9 アウタピストン
10 インナピストン
11、11a アウタパッド
12、12a インナパッド
13 トルク受ピン
14 中間結合ピン
15、15a、15b プレッシャプレート
16 パッドクリップ
17 係止ピン
18 ライニング
19a、19b ボルト
20a、20b 頭部
21 パッド支持構造部
22、22a、22b 係止凹溝
23、23a、23b 係合凸部
24 切り欠き
25 パッドクリップ
26 舌片
27 係止片
28 アンカ凸部
29 突出部
30 ブリッジ部
31 パッド
32 係止切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータを挟んで設けられたアウタ、インナ両ボディ部、及び、このロータの回転方向に関しこれら両ボディ部の両端部同士を上記ロータの外周縁よりも径方向外方位置で連結する1対の連結部を一体としたキャリパと、上記両ボディ部に、互いに対向して設けられた複数のシリンダと、これら各シリンダ内に液密に且つ上記ロータの軸方向に関する変位を可能に嵌装された複数のピストンと、この軸方向に関する変位を可能として上記両ボディ部に支持された、これら両ボディ部毎に1枚ずつ、合計2枚のパッドと、これら両パッドが上記ロータの径方向に変位するのを阻止する複数のパッド支持構造部とを備えている対向ピストン型ディスクブレーキに於いて、
これら各パッド支持構造部は、上記キャリパ側に設けた1対の係止凹溝に、上記両パッドを構成するプレッシャプレート側に設けられた複数の係合凸部を、上記ロータの軸方向の変位を可能に係合させたものであり、
このうちの1対の係止凹溝は、上記両連結部の互いに対向する面に、それぞれがこの面に開口する状態で、上記ロータの軸方向に形成されたものであり、
上記両係止凹溝のうちの少なくとも一方の係止凹溝と、当該係止凹溝を形成した連結部の外周面との間に、上記プレッシャプレートの厚さ寸法以上の幅寸法を有する切り欠きが、上記係止凹溝の内側と上記連結部の外周面とを連通させる状態で形成されており、
上記各係合凸部は、上記両パッドを構成するプレッシャプレートのうち、上記ロータの回転方向両端縁部で径方向外端部に、この回転方向に突出する状態で形成されたものであって、上記ロータの径方向に関する幅寸法が上記係止凹溝の同方向に関する幅寸法よりも小さいものであり、
上記両パッドは、それぞれのプレッシャプレート毎に1対ずつ設けた上記各係止凸部のうち、少なくともこのプレッシャプレートの長さ方向一端側の係止凸部を、上記切り欠きを通じて上記係止凹溝内に進入させる事によりこの係止凹溝に、上記ロータの軸方向の変位を可能に係合させている事を特徴とする対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項2】
上記両ボディ部同士を連結するブリッジ部が上記両連結部同士の間に存在せず、上記両係止凹溝とこれら両連結部の外周面との間に切り欠きを、これら両係止凹溝同士の間で上記ロータの軸方向に関する位相を互いに一致させた状態で形成しており、上記両パッドのプレッシャプレート毎に1対ずつ設けた上記各係止凸部を、上記各切り欠きを通じて上記両係止凹溝内に進入させる事によりこれら両係止凹溝に、上記ロータの軸方向の変位を可能に係合させている、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項3】
上記両ボディ部同士を、これら両ボディ部よりも上記ロータの径方向外側部分で連結するブリッジ部が上記両連結部同士の間に存在し、上記両係止凹溝のうちの一方の係止凹溝と上記両連結部のうちの一方の連結部の外周面との間にのみ、上記各係止凸部を通過させる為の切り欠きを形成しており、上記両パッドを、それぞれのプレッシャプレート毎に1対ずつ設けた上記各係止凸部のうち、上記ロータの回転方向に関して片側の係止凸部を他方の係止凹溝に進入させてから他側の係止凸部を上記切り欠きを通じて上記一方の係止凹溝内に進入させる事によりこれら両係止凹溝に、上記ロータの軸方向の変位を可能に係合させている、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項4】
上記両ボディ部同士を連結するブリッジ部が、上記ロータの回転方向に関して、上記両連結部同士の中央位置よりも偏った位置に設けられており、上記一方の係止凹溝が、上記ブリッジ部から遠い側の連結部に設けられた係止凹溝である、請求項3に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項5】
上記両係止凹溝の内面と上記各係止凸部との間に、それぞれが耐食性を有する弾性金属板製である、1対のパッドクリップを介在させている、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項6】
上記両パッドクリップのうち、切り欠きを設けた係止凹溝内に設置するパッドクリップの端部に、上記キャリパの外側面との係合に基づいて当該パッドクリップの当該係止凹溝内への進入量を規制する舌片を、当該パッドクリップの中間部でこの舌片と上記キャリパの外側面とが係合した状態で上記切り欠きと整合する部分に、この切り欠きとの係合に基づいて、当該パッドクリップが当該係止凹溝から抜け出る方向に変位する事を阻止する係止片を、それぞれ設けた、請求項5に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。
【請求項7】
上記切り欠きが、この切り欠きを設けた上記係止凹溝に関して2個所設けられており、上記ロータの軸方向に関するこれら各切り欠きの位置は、上記両パッドを構成するライニングが摩耗していない状態で、このライニングを上記ロータに妨げられずに、上記両パッドをこのロータの径方向内方に変位させつつ、上記各係合凸部を進入させられる位置である、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2008−304026(P2008−304026A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153797(P2007−153797)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】