説明

封止用ガラス

【課題】本発明の目的は、SnO−P25系ガラスからなり、金属製被封止物の封止を行なっても、長期間にわたって気密性が損なわれることがない信頼性の高い封止用ガラスを提供することである。
【解決手段】本発明の封止用ガラスは、金属製被封止物を封止するために用いられるSnO−P25系ガラスからなる封止用ガラスであって、該ガラスがモル%表示で、SnO 30〜60%、P25 18〜45%、MoO3 0.1〜5%含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、魔法瓶(水筒・ランチジャー)に使用される金属製真空二重容器のような金属製品を封止するために用いられる封止用ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2に示すように金属製真空二重容器10は、外容器11と内容器12からなり、外容器11と内容器12とが重ね合わされ、外容器11と内容器12との間の中空部13が真空に保たれた容器である。この容器は保温性が高く、しかも割れないため魔法瓶等に広く使用されている。
【0003】
金属製真空二重容器を製造する方法の1つとして、外容器か内容器のいずれかに設けられた排気口に低融点ガラスを用いて真空封止する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
金属製真空二重容器の排気口を封止するために、従来からPbO−B23系の低融点封止用ガラスが使用されている(例えば、特許文献2参照。)が、最近では環境問題の観点から、鉛を含有しない低融点封止用ガラスが求められている。
【0005】
鉛を含有しない低融点封止用ガラスとして、SnO−P25系ガラスが提案されている(例えば、特許文献3及び4参照。)。
【特許文献1】特許第2774748号公報
【特許文献2】特開2002−125866号公報
【特許文献3】特開平7−69672号公報
【特許文献4】特開2004−67406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SnO−P25系ガラスを用いて、金属製被封止物、例えば金属製真空二重容器を真空封止する場合、ガラス中に多くの気泡が発生するため、長期間にわたって使用すると気泡からリークして封止部の気密性が損なわれる可能性が高い。
【0007】
本発明の目的は、SnO−P25系ガラスからなり、金属製被封止物の封止を行なっても、長期間にわたって気密性が損なわれることがない信頼性の高い封止用ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は種々の実験を行ったところ、SnO−P25系ガラスを加熱軟化して金属製二重容器の排気口を真空封止すると、ガラス中に含まれる成分と二重容器の金属(ステンレス鋼)とが反応して、それらの界面に多くの気泡が発生することと、SnO−P25系ガラスにMoO3を添加すると前記の発泡を抑制できることを見出し、本発明を提案するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の封止用ガラスは、金属製被封止物を封止するために用いられるSnO−P25系ガラスからなる封止用ガラスであって、該ガラスがモル%表示で、SnO 30〜60%、P25 18〜45%、MoO3 0.1〜5%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の封止用ガラスを金属製二重容器の真空封止に用いると、400〜600℃の温度において封着できるとともに、封止ガラスがステンレス鋼と反応して発生する気泡を少なくできる。また、上記組成の封止用ガラスは、真空封止後、表面が結晶化したり、変色したりすることがない。それゆえ、長期間使用してもリークする事のない信頼性の高い気密封止を行なうことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下にSnO−P25系ガラスの組成範囲を上記のように限定した理由を説明する。
【0012】
SnOは、ガラスの融点を低くする成分である。SnOが30%より少ないとガラスの粘性が高くなって封止温度が高くなりやすく、60%を超えるとガラス化しにくくなる。なお、SnOが多いと封止時に失透しやすくなるので、57%以下であることが好ましい。また、40%以上であれば、流動性に優れ、高い気密性が得られるため好ましい。
【0013】
25は、ガラス形成酸化物である。P25が18%よりも少ないと、ガラスの安定性が充分に得られにくい。18〜45%の範囲では、ガラスに充分な安定性が得られるが、45%を超えると耐湿性が悪くなりやすい。また、P25が20%以上であれば、ガラスがより安定化するが、35%を超えると封止用ガラスの耐候性がやや悪くなる傾向が現れるので、20〜35%であることが好ましい。
【0014】
MoO3は本発明の必須成分である。封止用ガラスが真空封止時に金属製被封止物と反応するのを抑制し、反応による発泡を減少させる効果がある。この反応は、金属製被封止物とガラス成分との間で酸化還元反応が起こっているものと考えられる。MoO3が0.1%未満であると、その効果はほとんど無い。一方、5%を越えると、ガラス溶融時の粘度が高くなるため、流し出しが困難となる上に、金属封止時に充分な流動性が得られにくい。また、失透しやすくなる。好ましいMoO3の組成範囲は0.3〜4.8%である。
【0015】
また、本発明の封止用ガラスは、上記成分に加えてさらに種々の成分を添加することができる。
【0016】
ZnOは、中間酸化物である。ZnOは必須成分ではないが、ガラスを安定化させる効果が大きいため、4%以上であることが望ましい。しかし、ZnOが20%を超えると封止時にガラス表面に失透が発生しやすくなる。ZnOの含有量は5〜15%であることが望ましい。
【0017】
Al23は、中間酸化物である。Al23は必須成分ではないが、ガラスを安定化させる効果があり、また熱膨張係数を低下させる効果もあるので含有させることが望ましい。但し、10%を超えると軟化温度が上昇し、封止温度が高くなりすぎる。なお、ガラスの安定性や熱膨張係数および流動性など考慮した場合、0.5〜5%の範囲がより好ましい。
【0018】
SiO2は、ガラス形成酸化物である。SiO2は必須成分ではないが、失透を抑制する効果があるので含有させることが望ましい。なお、15%を超えると軟化温度が上昇し、封止温度が高くなりやすい。
【0019】
23は、ガラス形成酸化物である。B23は必須成分ではないが、ガラスを安定させる効果がある。但し、30%より多いとガラスの粘性が高くなりすぎ、封止時の流動性が著しく悪くなり、封止部の気密性が損なわれる傾向にある。B23の好適な範囲は0〜25%である。なお、B23はガラスの粘性を高くする傾向が強いため、非常に高い流動性が要求され、軟化点を大幅に下げる必要がある場合は含有しないほうがよい。
【0020】
2O(RはLi、Na、K、Cs)は、必須成分ではないが、R2O成分のうち、少なくとも1種類が組成中に加わることによりステンレスSUS304などの金属との接着力が向上する傾向がある。しかし、合量で20%を超えると封止時に失透しやすくなる。なお、表面失透や流動性を考慮した場合、R2Oの合量で10%以下であることが望ましい。また、R2Oのなかでも、Li2Oは、ステンレスSUS304などの金属との接着力を最も向上させやすい。
【0021】
ランタノイド酸化物、例えばLa23、CeO2は、網目修飾酸化物である。ランタノイド酸化物をガラス成分中に合量で0.1%以上含むことで、ガラスの耐候性が向上しやすい。一方、ランタノイド酸化物が25%を超えると、封止温度が高くなりやすい。なお、耐候性の向上と、封止温度のバランスを考慮すると、ランタノイド酸化物の含有量は合量で2〜15%、特に4〜15%であることが望ましい。
【0022】
なお、ランタノイド酸化物に加えて、他の希土類、例えば、Y23を使用するとガラスの耐候性向上により効果的である。ランタノイド酸化物を除く希土類の添加量は0〜5%であることが好ましい。
【0023】
R'O(R'はMg、Ca、Sr、Ba)は、必須成分ではないが、ガラスを安定化させる成分として有用である。R'Oの合量が15%を越えると、失透しやすい。そのため、R'Oの含有量は15%以下、さらに好ましくは10%以下であることが望ましい。
【0024】
また、例えば、Nb25、TiO2、ZrO2、CuO、MnO、In23等のガラスを安定化させる成分を合量で20%まで含有させることができる。なお、これら安定化成分の含有量が20%を超えると、ガラスが不安定になって製造しにくくなる。より安定なガラスを得るには15%以下であることが好ましい。
【0025】
Nb25、TiO2、およびZrO2の含有量は何れも0〜15%、特に各々0〜10%であることが好ましい。これらの成分が各々15%を超えるとガラスが不安定になりやすい。
【0026】
CuOおよびMnOの含有量は何れも0〜10%、特に各々0〜5%が好ましい。これらの成分が各々10%を超えるとガラスが不安定になりやすい。
【0027】
In23は、コストを度外視した場合、高度な耐候性を得る目的で使用することができる。In23の含有量は0〜5%であることが好ましい。
【0028】
以上の組成範囲にあれば、約270〜330℃のガラス転移点、約360〜410℃の軟化点を有し、400〜600℃の温度範囲で良好な封止性を示す封止用ガラスを得ることができる。また、30〜250℃において約100〜130×10-7/℃の熱膨張係数を有することが可能である。
【0029】
本発明の封止用ガラスは、金属二重容器の内容器と外容器のいずれか一方に形成された凹部内に安定して配置出来るならばその形状は問わない。例えば、直方体、円柱、球、半球、楕円球、扁平球、卵型、あるいは前記に類似した形状の塊であればよい。
【0030】
本発明の封止用ガラスは、熱膨張係数の調整のためにフィラーを0〜20体積%含有しても良い。
【0031】
フィラーとしては、シリカガラス、石英、コージェライト、ユークリプタイト、ムライト、ジルコン、リン酸ジルコニウム、ウイレマイト、アルミナ等が使用できる。
【0032】
以下に、本発明の封止用ガラスの製造方法について説明する。
【0033】
まず、所望の組成となるように調製した原料を800〜900℃で溶融する。
【0034】
次に、溶融ガラスを所望の形状に成形する。例えば、溶融ガラスを棒状に引き出して所定長に切断する。または、溶融ガラスを滴下する、または溶融ガラスを塊状に固化した後、所定の大きさに切り出す。このようにして本発明の封止用ガラスを得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の封止用ガラスを実施例および比較例に基づいて詳細に説明する。
【0036】
表1は、本発明の実施例(試料a〜d)、表2は、比較例(試料e〜h)を示すものである。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
封止用ガラスは次のようにして調製した。
【0040】
各試料は、表1または2に記載の組成となるように調合したガラス原料を石英ルツボに入れ、窒素雰囲気において電気炉で常温から昇温し、850℃で2時間溶融し、ルツボより板状になるように流し出しアニール処理をして作製した。
【0041】
ガラス転移点および熱膨張係数は、各試料を20×5mmφに成形した後、押し棒式の熱膨張計(リガク製 TMA)により測定した。
【0042】
軟化点は、マクロ型示差熱分析(DTA)装置(リガク製)により測定した。
【0043】
発泡は以下の様にして評価した。
【0044】
図1に示すように、まず、金属製真空二重容器Mの排気口5に封止用ガラス6を配置した。ここで、金属製真空二重容器Mは外容器1に直径10mm、深さ2mmの凹部4が形成されており、凹部4の中央には直径1.5mmの排気口5が設けられている。封止用ガラス6は、各試料から3×3×3mmの大きさに切り出したものである。
【0045】
次に、金属製二重容器Mを真空環境(0.1Torr)下で、500℃まで昇温して30分間保持して排気口5を封止した。なお、金属製二重容器Mの材質は、ステンレス鋼SUS304を使用した。
【0046】
封止後、光学顕微鏡を用いない目視および光学顕微鏡50倍にて金属とガラスの界面の発泡状態を目視により評価した。目視で発泡が確認できる場合を「×」、50倍の光学顕微鏡で確認できる場合を「△」、50倍の光学顕微鏡でも発泡が確認できないものを「○」とした。
【0047】
表1から明らかなように、試料a〜dは、熱膨張係数が98.5〜123×10-7/℃、軟化点が383〜455℃、発泡等が無く、金属製真空二重容器の排気口は良好に封止されていた。また、封止後の状態を観察したところ結晶の析出や変色は見られなかった。
【0048】
一方、表2から明らかなように試料e〜gは、封止ガラスの発泡を評価したところ、ガラスとステンレス鋼との界面に多くの発泡が確認された。また、試料hは、溶融時の粘度が高く、溶融ガラスを成形する際に失透して、封止用ガラスとして使用することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の封止用ガラスは、加熱軟化させても結晶化せず、また、被封止物との界面に気泡が発生しないため、金属製品の封止、特に、金属製真空二重容器の排気口の封止用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】金属製真空二重容器の封止方法を示す説明図である。
【図2】真空二重容器を示す説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1、11 外容器
2、12 内容器
3 真空断熱層
4 凹部
5 排気口
6 封止用ガラス
M 金属製真空二重容器
10 真空二重容器
13 中空部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製被封止物を封止するために用いられるSnO−P25系ガラスからなる封止用ガラスであって、該ガラスがモル%表示で、SnO 30〜60%、P25 18〜45%、MoO3 0.1〜5%含有することを特徴とする封止用ガラス。
【請求項2】
金属製被封止物が金属製真空二重容器であることを特徴とする請求項1に記載の封止用ガラス。
【請求項3】
直方体、円柱、球、楕円球、半球、扁平球、または卵型の形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の封止用ガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−52103(P2006−52103A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233763(P2004−233763)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】