説明

射出成形品

【課題】インテグラルヒンジの折り曲げ性や意匠部側の外観及び製品品質が良好で、しかも車両のサイドマッドガード用として好適な射出成形品の提供を目的とする。
【解決手段】略製品全長に亘って薄肉のインテグラルヒンジ11を有し、前記インテグラルヒンジ11を介して意匠部側21と裏部側31が一連に形成された射出成形品10において、前記インテグラルヒンジ11を、長さ方向の途中で前記意匠部側21と前記裏部側31との境界位置に形成された孔13によって分断し、前記インテグラルヒンジ11を分断する前記孔13の縁には前記インテグラルヒンジ11から離れた意匠部側21に射出成形用ゲートの位置15を設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品に関し、特には薄肉のインテグラルヒンジを介して意匠部側と裏部側が一連に形成された射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形品は、加熱により流動状態としたプラスチックを、金型の射出成形用ゲートから金型内に充填して硬化させ、その後に脱型して成形品を得る、公知の射出成形法によって得られるものである。前記射出成形品は、自動車の内装部品や外装部品、あるいは容器等、種々の用途において使用されている。また、射出成形品には、射出成形時に形成された薄肉のインテグラルヒンジを介して部材が連結され、前記インテグラルヒンジによって折り曲げ可能としたものがある。
【0003】
例えば、図6に示す車両のサイドマッドガード50用の射出成形品として、特許文献1には、長尺の本体の下端にインテグラルヒンジを介して取り付け板を形成し、前記インテグラルヒンジによって取り付け板を折り曲げるようにしたものが示されている。また、容器等の射出成形品として、特許文献2には、蓋をインテグラルヒンジで開閉可能としたものが示されている。
【0004】
従来のインテグラルヒンジを有する射出成形品は、インテグラルヒンジで連結されている一方の部材において、前記インテグラルヒンジとは反対側の端部(インテグラルヒンジから離れた側の端部)に射出成形用ゲートの位置が設定されている。そのため、前記射出成形用ゲートから射出された樹脂は、射出成形用ゲート側の部材に充填された後に前記インテグラルヒンジ部分に到達し、その後他方の部材に充填される。その際、インテグラルヒンジが射出成形用ゲートから遠く、かつインテグラルヒンジが薄肉とされていて樹脂の通過抵抗が大であるため、インテグラルヒンジや他方の部材に樹脂の充填不良による欠肉等の不具合を生じ易く、さらに他方の部材には樹脂の流れに起因する縞模様(ウエルドライン)が生じ易い問題がある。
【0005】
一方、インテグラルヒンジの位置に射出成形用ゲートの位置を設定し、インテグラルヒンジの位置から両側の部材に向けて樹脂を充填することも考えられるが、その場合には、射出初期の圧力の高い樹脂が最初にインテグラルヒンジの部位を通過することになるため、インテグラルヒンジが設定値よりも厚肉に形成されたり、インテグラルヒンジのみならず両側の部材に外観や品質にバラツキを生じたり、インテグラルヒンジの折り曲げ性が劣ったりするようになる。
【0006】
【特許文献1】特開2005−59811号公報
【特許文献2】実開昭57−5523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、インテグラルヒンジの折り曲げ性や意匠部側の外観及び製品品質が良好で、しかも車両のサイドマッドガード用として好適な射出成形品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、略製品全長に亘って薄肉のインテグラルヒンジが形成され、前記インテグラルヒンジを介して意匠部側と裏部側が一連に形成された射出成形品において、前記インテグラルヒンジは長さ方向の途中で前記意匠部側と前記裏部側との境界位置に形成された孔によって分断され、前記インテグラルヒンジを分断する前記孔の縁には前記インテグラルヒンジから離れた意匠部側に射出成形用ゲートの位置が設定されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、前記射出成形品が車両のサイドマッドガード用であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の射出成形品によれば、インテグラルヒンジは長さ方向の途中で前記意匠部側と前記裏部側との境界位置に形成された孔によって分断され、前記インテグラルヒンジを分断する前記孔の縁には前記インテグラルヒンジから離れた意匠部側に射出成形用ゲートの位置が設定されているため、射出成形時、前記射出成形用ゲートからの樹脂は、インテグラルヒンジを分断する前記孔によって直接インテグラルヒンジへ流れるのが妨げられて最初に意匠部側へ充填され、その後にインテグラルヒンジを通って裏部側に充填されることになる。そのため、意匠部側は、射出成形用ゲートからの圧力の高い樹脂の充填によって形成されており、製品の美観に悪影響を与える充填不良や、樹脂の流れに起因する縞模様などの発生を生じ難い。しかも、射出成形用ゲートからの圧力の高い樹脂は、意匠部側に充填された後にインテグラルヒンジを通って裏部側へ流れるため、射出直後の圧力が高い樹脂でインテグラルヒンジ部分が充填されず、インテグラルヒンジが設定値よりも厚肉になって折り曲げ性が低下したり、品質にバラツキを生じたりするのを防ぐことができる。しかも、前記インテグラルヒンジが孔によって分断されているため、折り曲げ性が一層良好となる。
【0011】
特に、車両用サイドマッドガードは、製品全長が長いためにインテグラルヒンジの厚みのバラツキにより折り曲げ性に影響が出やすく、しかも意匠部側は車体外面側を構成する部位であるため、厳しい美観が要求される。したがって、インテグラルヒンジの折り曲げ性や意匠部側の外観及び製品品質が良好な本発明の射出成形品は、車両用サイドマッドガードとして好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の一実施形態に係る射出成形品の斜視図、図2は同実施形態に係る射出成形品の背面図、図3は図2の3A−3A断面図及び3B−3B断面図、図4は射出成形用ゲートからの樹脂の流れを図2の4部分について示す図、図5は同実施形態に係る射出成形品の使用状態を示す断面図である。
【0013】
図1〜図3に示す射出成形品10は、図6に示した車両用サイドマッドガード50として使用されるものであり、ドアの下方の前輪と後輪間において車体パネルに装着される。
【0014】
前記射出成形品10は、射出成形によって成形されたものであり、略製品全長に亘って薄肉のインテグラルヒンジ11が形成され、前記インテグラルヒンジ11を介して意匠部側21と裏部側31が一連に形成されている。
【0015】
前記インテグラルヒンジ11は、前記意匠部側21の下端に形成され、かつ長さ方向の途中で前記意匠部側21と前記裏部側31との境界位置に形成された孔13によって、一側インテグラルヒンジ部11aと他側インテグラルヒンジ部11bとに分断されている。
【0016】
前記インテグラルヒンジ11を分断する前記孔13の縁には、図2及び図4に示すように、前記インテグラルヒンジ11から離れた意匠部側21に、射出成形用ゲートの位置15が設定されている。図示の例では、前記インテグラルヒンジ11は裏側に略V字状の溝が形成された薄肉のものとされ、一方、前記インテグラルヒンジ11を分断する前記孔13は、前記射出成形品10の長さ方向中央に、略長方形で形成されている。さらに、前記射出成形用ゲートの位置15は、前記孔13の縁において前記意匠部側21の裏側21aとされ、かつ前記インテグラルヒンジ11と接触しない意匠部側の辺13aにおける前記孔13の長さ方向中間位置に設定されている。
【0017】
前記意匠部側21は、車体の外面側を構成する部分であり、図示の例では上下間が外方へ膨らんだ断面略円弧状の板状体部22と、その長さ方向端部に形成された端板部23とからなり、裏側21aには、取り付け用クリップ座部25が所定間隔で複数形成されている。前記取り付け用クリップ座部25の側部には、クリップ嵌着用穴26が形成されている。前記クリップ嵌着用穴26には、図5に示すように、取り付け用クリップ65が嵌着され、前記取り付け用クリップ65を介して車両におけるドア下方の車体パネル61の外面側に前記意匠部側21が固定される。
【0018】
前記裏部側31は、前記インテグラルヒンジ11を介して前記意匠部側21と連結されている。前記裏部側31は、上下間が外方へ膨らんだ断面略円弧状の板状体部32と、その長さ方向端部に形成された端板部33とからなる。前記裏部側31は、図5に示すように、前記意匠部側21の裏側21aへ前記インテグラルヒンジ11で折り曲げられ、前記車体パネル61のヘム62を隠蔽して前記車体パネル61の裏側に係止される。そのため、前記車体パネル61のヘム62を隠蔽するために別部材を前記意匠部側21の裏側にボルト等で取り付ける必要がなく、部品コストの低減及び作業性の向上を図ることができる。前記裏部側31の裏側31a、すなわち前記インテグラルヒンジ11による折り曲げによって前記意匠部側21を向く側には、前記インテグラルヒンジ11とは反対側の端部31bに前記車体パネル61への係止用片35が、前記裏部側31の長さ方向に所定間隔で複数形成されている。
【0019】
前記射出成形品10は、前記射出成形用ゲートの位置15が、前記孔13における前記インテグラルヒンジ11から離れた意匠部側の縁に設定されているため、射出成形時に、前記射出成形ゲートの位置15から金型内(図示せず)に射出された樹脂が、前記孔13で邪魔されて直接インテグラルヒンジ11側へ流れるのが妨げられ、図4に示す鎖線Pのように意匠部側21へ広がって充填される。このように、前記意匠部側21は、射出直後の圧力の高い樹脂の充填により形成されているため、製品の美観に悪影響を与える充填不良や、樹脂の流れに起因する縞模様(ウェルド)などの発生を生じ難く、良好なものである。また、前記射出成形用ゲートの位置15から射出された圧力の高い樹脂が、前記意匠部側21へ充填された後に前記インテグラルヒンジ11を通って裏部側31へ充填されることにより、前記インテグラルヒンジ11及び前記裏部側31が形成されているため、前記インテグラルヒンジ11は、射出直後の高い圧力の樹脂で充填されることによる厚肉化や、縞模様(ウェルド)、それらによる折り曲げ性の低下が無い、あるいは少ないものとなっており、品質のバラツキが少ないものである。また、たとえ、前記裏部側31に樹脂の流れによる縞模様(ウェルド)を生じても、前記裏部側31は車体の外面から隠れる部分であるため、製品の美観を妨げるおそれがない。
【0020】
なお、本発明は、車両のサイドマッドガードとして好適なものであるが、蓋と本体からなる箱状の容器や、その他の製品にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る射出成形品の斜視図である。
【図2】同実施形態に係る射出成形品の背面図である。
【図3】図2の3A−3A断面図及び3B−3B断面図である。
【図4】射出成形用ゲートからの樹脂の流れを図2の4部分について示す図である。
【図5】同実施形態に係る射出成形品の使用状態を示す断面図である。
【図6】サイドマッドガードが装着された車両の側面図である。
【符号の説明】
【0022】
10 射出成形品
11 インテグラルヒンジ
13 孔
15 射出成形用ゲートの位置
21 意匠部側
31 裏部側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略製品全長に亘って薄肉のインテグラルヒンジが形成され、前記インテグラルヒンジを介して意匠部側と裏部側が一連に形成された射出成形品において、
前記インテグラルヒンジは長さ方向の途中で前記意匠部側と前記裏部側との境界位置に形成された孔によって分断され、
前記インテグラルヒンジを分断する前記孔の縁には前記インテグラルヒンジから離れた意匠部側に射出成形用ゲートの位置が設定されていることを特徴とする射出成形品。
【請求項2】
前記射出成形品が車両のサイドマッドガード用であることを特徴とする請求項1に記載の射出成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−307809(P2007−307809A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139742(P2006−139742)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】