説明

射出成形方法

【課題】射出成形品が型開き方向と略平行な垂直壁を有するものであっても、固定金型と可動金型とを型開きする際に、この型開きを容易にすると共に前記成形品の垂直壁表面を傷付けないようにし、更には成形品の型内塗装が容易に行えるようにすること。
【解決手段】可動金型部26の熱膨張を見込んで固定金型部6と可動金型部26との間に予め形成された隙間36を前記可動金型部26を加熱することにより熱膨張させて前記隙間36を無くし、この隙間36を無くした状態で溶融した合成樹脂をキャビティS内に注入充填し、その後、前記可動金型部26を冷却して熱収縮させると共に合成樹脂も熱収縮させて、合成樹脂成形品Jの外表面と固定金型部6との間に空間Gを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定金型と可動金型とを閉じた状態で、キャビティ内に溶融した合成樹脂を射出充填して成形する射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の射出成形方法は、例えば特許文献1などに開示されているように、溶融した合成樹脂を射出する前に成形品の表面側を成形する表面側キャビティ形成面を加熱し、転写性の向上を図る技術が提案されている。
【特許文献1】特開平6−254924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、合成樹脂成形品が型開き方向と略平行な垂直壁を有するものにあっては、固定金型によって前記垂直壁の意匠面(表面)を傷付け易くなり、特にこの垂直壁にシボ加工を施す場合にはシボ加工面が損傷し、また成形品に塗装を施す場合には垂直壁表面に型内塗装を施すことが困難となるという問題があった。
【0004】
そこで本発明は、上記の点に鑑み、射出成形品が型開き方向と略平行な垂直壁を有するものであっても、固定金型と可動金型とを型開きする際に、この型開きを容易にすると共に前記成形品の垂直壁表面を傷付けないようにし、更には成形品の型内塗装が容易に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため第1の発明は、固定金型と可動金型とを閉じた状態で、キャビティ内に溶融した合成樹脂を射出充填して成形する射出成形方法において、
前記可動金型の熱膨張を見込んで前記固定金型と可動金型との間に予め形成された隙間を前記可動金型を加熱することにより熱膨張させて前記隙間を無くし、
この隙間を無くした状態で溶融した合成樹脂をキャビティ内に注入充填し、
その後、前記可動金型を冷却して熱収縮させると共に合成樹脂も熱収縮させて、合成樹脂成形品の外表面と固定金型との間に空間を形成することを特徴とする。
【0006】
また第2の発明は、固定金型と可動金型とを閉じた状態で、キャビティ内に溶融した合成樹脂を射出充填して成形する射出成形方法において、
前記可動金型の熱膨張を見込んで前記固定金型と可動金型との間に予め形成された隙間を前記可動金型を加熱することにより熱膨張させて前記隙間を無くし、
この隙間を無くした状態で溶融した合成樹脂をキャビティ内に注入充填し、
その後、前記可動金型を冷却して熱収縮させると共に合成樹脂も熱収縮させて、合成樹脂成形品の外表面と固定金型との間に空間を形成し、
この空間内に塗料を注入する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、固定金型と可動金型とを型開きする際に、キャビティ内の射出成形品表面と固定金型との間に空間が形成されるので、型開きが容易になるばかりでなく、固定金型によって射出成形品の垂直壁の意匠面を傷付けることがなくなる。従って、射出成形品の垂直壁の意匠面に施されるシボ加工を綺麗に仕上げることができる。また、前記空間を利用して、射出成形品に型内塗装を容易に行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】射出成形装置の縦断正面図である。
【図2】射出成型方法の第1段階を説明するための要部断面図である。
【図3】同じく第2段階を説明するための要部断面図である。
【図4】同じく第3段階を説明するための要部断面図である。
【図5】同じく第4段階を説明するための要部断面図である。
【図6】射出成形品にシボ加工を施す場合の第3段階を説明するための要部断面図である。
【図7】射出成形品にシボ加工を施す場合の第4段階を説明するための要部断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下図1乃至図7に基づき、本発明の実施の形態について説明する。先ず、図1に基づいて、本発明の第1の実施の形態の射出成形装置の全体構成について説明する。1は図示しない固定プラテンにボルトによって取り付けられた固定側組立体であり、この固定側組立体1は固定側第1ベースプレート2と、この固定側第1ベースプレート2にボルトによって固定された固定側第2ベースプレート3と、この固定側第2ベースプレート3にボルトによって固定された固定側第3ベースプレート4と、この固定側第3ベースプレート4の凹部内に配設されてこの固定側第3ベースプレート4にボルトにより固定される縦断面がコ字形状を呈する固定金型部6と、前記固定側第1ベースプレート2の前記固定プラテン寄りに設けられ固定側第1ベースプレート2を固定プラテンに対して位置決めするロケートリング7と、このロケートリング7に隣設して配設されたスプルーブッシュ8等から成る。
【0010】
そして、前記スプルーブッシュ8の中心には図示しない射出ノズルから射出される溶融した合成樹脂を通すための第1スプルー9が形成され、その下端部には第1ランナー10が形成され、このランナー10の出口たる第2スプルー11が形成され、更にこの第2スプルー11の下端部には第2ランナー12が形成され、この第2ランナー12の出口たるゲート(サイドゲート)13が形成される。このゲート13は前記固定金型部6のキャビティS端部においてこのキャビティS端部に開設された開口部に側方から連通する。
【0011】
一方、20は図示しない可動プラテンにボルトによって取り付けられた可動側組立体であり、この可動側組立体20は可動側第1ベースプレート21と、この可動側第1ベースプレート21にボルトによって固定された可動側第2ベースプレート22(エジェクタプレート)と、この可動側第2ベースプレート22を囲むように前記可動側第1ベースプレート21にボルトによって固定された可動側第3ベースプレート23と、この可動側第3ベースプレート23にボルトによって固定された可動側第4ベースプレート24と、この可動側第4ベースプレート24の凹部内に嵌合してこの第4プレート24に固定される可動金型部26等から成る。
【0012】
そして、前記可動側第3ベースプレート23に立設されたガイド棒(図示せず)を、固定側第3ベースプレート4に設けられたガイド孔に挿入して、このガイド孔に前記ガイド棒が案内されて可動側組立体20が上下可能となる。
【0013】
この可動金型部26上面と前記固定金型部6の下面に形成された凹部下面とでキャビティSが形成され、このキャビティS内に溶融した合成樹脂が注入され、成形品が作製される。このキャビティSは縦断面がコ字形状を呈しており、水平方向に延びる空間とこの空間に連通した垂直方向に延びる筒状の空間とから構成され、成形品は型開き方向と略平行な4つの垂直壁と一つの水平壁とから成り、一面が開口する箱形状を呈する。
【0014】
29は固定金型部6寄りの前記固定側第3ベースプレート4に形成された熱媒体通路で、30は可動金型部26寄りの可動側第4ベースプレート24に形成された熱媒体通路で、これらの熱媒体通路29、30にはキャビティS内に注入される合成樹脂に適した温度に応じて記固定側第3ベースプレート4、固定金型部6、可動側第4ベースプレート24及び可動金型部26が所定温度に維持されるように、常時熱媒体が供給される。
【0015】
31は前記固定金型部6のキャビティSに近い部位にこのキャビティSに沿って形成された熱媒体通路で、この熱媒体通路31内に加熱用媒体である熱い蒸気又は加熱水や、冷却用媒体である冷気や冷却水を流して、固定金型部6のキャビティ形成面側を加熱又は冷却する。
【0016】
また、32は前記可動金型部26内全体に形成された水平方向に延びた通路とこれに連通する垂直方向に延びた通路とから構成される熱媒体通路で、この熱媒体通路32内に熱媒体入口33から流入した加熱用媒体である蒸気又は加熱水や、冷却用媒体である冷気又は冷却水を流して可動金型部26全体を加熱又は冷却する。縦方向に延びた前記熱媒体通路32内には流路を形成する区画板34が設けられ、熱媒体入口33から熱媒体通路32に流入した熱媒体は熱媒体出口35から流出する。
【0017】
なお、27は前記可動金型部26と可動側第4ベースプレート24との間に設けられた断熱体であり、前記可動金型部26と可動側第4ベースプレート24とを断熱する。
【0018】
次に、特に図2乃至図5に基づいて説明すると、図2に示すように、固定金型部6及び可動金型部26の熱膨張を許容する隙間36が固定金型部6と可動金型部26との間に予め形成され、可動金型部26の熱膨張を許容する隙間37が第4プレート24と可動金型部26との間にも同様に形成されている。即ち、可動金型部26の熱膨張を見込んで、予め隙間36、37が形成される。この隙間37は可動金型部26の形状に応じてその垂直面の外周に形成するものであり、図示の位置に限定されるものではない。
【0019】
まず、熱媒体通路29、30には常時熱媒体が供給されて、所定温度に維持されている固定金型部6と可動金型部26とを型閉めした図2の状態において、熱媒体通路31に合成樹脂の軟化点以上の温度の加熱用媒体を流すと共に熱媒体通路32に合成樹脂の軟化点以上の温度の加熱用媒体を流して、両金型部6、26を昇温すると、例えば時効硬化鋼の鋼材(例えば、膨張係数0.0000125)で作られた固定金型部6と例えば膨張係数が大きいアルミニウム合金(例えば、膨張係数0.0000236)で作られた可動金型部26とが熱膨張するため、断熱体27を境として上方の180度の範囲内(上方向及び横方向)で膨出するので、その膨張係数の差によって採用した隙間36、37がなくなる。この場合、両金型部6、26を昇温することにより、合成樹脂の転写性の向上が図れて、射出成形品Jの意匠面を綺麗に仕上げることができる。
【0020】
即ち、キャビティS底面を可動金型部26の段差部26Aの上面で形成しており、段差部26Aの外側面と固定金型部6のキャビティ形成面の下端部と当接すると共にこの段差部26A下端部に連通する外上面26Bと固定金型部6の下面とが当接し、且つ可動金型部26の周側面と可動側第4ベースプレート24とが当接して、固定金型部6と可動金型部26の間には、図3に示すようにキャビティSのみが残ることになる。
【0021】
なお、型閉めする前に、熱媒体通路31、32に加熱用媒体を流し始めて、その後に型閉めを開始してもよい。
【0022】
図3の状態で、射出ノズルをスプルーブッシュ8に通して、溶融した合成樹脂を第1スプルー9、第1ランナー10、第2スプルー11、第2ランナー12及びゲート13を介して可動金型部26と固定金型部6との間のキャビティS内に射出注入して、合成樹脂の圧縮密度を高めるべく注入圧力を維持して保圧する。
【0023】
この保圧した後に、前記合成樹脂の収縮が始まり、硬化し始める。その後、熱媒体通路31及び32内の加熱用媒体を排出させ、熱媒体通路31及び32にそれぞれ合成樹脂の軟化点未満の温度の冷却用媒体を供給し、固定金型部6及び可動金型部26を急冷する。すると、可動金型部26が熱収縮する方向と同方向に合成樹脂も収縮しながら硬化して、合成樹脂の射出成形品Jとなる。この場合、急冷による合成樹脂の収縮に要する時間は、通常の樹脂成形時の合成樹脂の収縮に要する時間より短い。
【0024】
即ち、射出成形品Jに抱え込まれた状態で可動金型部26が熱収縮し、固定金型部6のキャビティS形成面に押圧していた合成樹脂が固定金型部6表面より剥離され、図5に示すように、固定金型部6(固定金型部6のキャビティS形成表面)と射出成形品J表面との間に空間(隙間)Gが発生し、キャビティS以外の固定金型部6と可動金型部26との間、第4プレート24と可動金型部26との間に隙間36、37が形成されるようになる。
【0025】
このため、射出成形品JをキャビティSから取り出すために、固定金型部6と可動金型部26とを型開きする際に、射出成形品J表面と固定金型部6とが密着しておらず、射出成形品J表面と固定金型部6との間、特に射出成形品Jの垂直壁が固定金型部6の垂直面との間が離れているので、型開きをスムーズに行えるばかりでなく、射出成形品Jの垂直壁が固定金型部6の垂直面に接触しないようにして射出成形品Jの垂直壁表面(意匠面)の傷付きを防止できる。
【0026】
また、図6及び図7に示すように、固定金型部6にシボ加工溝6Aを形成して、射出成形品Jの垂直壁の側面にシボ加工を施す場合でも、キャビティS内に合成樹脂を充填し(図6参照)、熱媒体通路31及び32内の加熱用媒体を排出させ、熱媒体通路31及び32に冷却用媒体を供給して固定金型部6及び可動金型部26を急冷し、その後の型開きの際には、射出成形品J表面と固定金型部6との間、特に射出成形品Jのシボ加工面38と固定金型部6の垂直面との間に空間G(隙間)が形成されているため、射出成形品Jのシボ加工面38を損傷させることなく、型開きを行うことができる。従って、射出成形品Jの垂直壁の意匠面に施されるシボ加工を綺麗に仕上げることができる。
【0027】
なお、前述したように、隙間36、37を無くすために、また空間Gを作るために、両金型部6、26を加熱又は冷却するようにしたが、これに限らず、可動金型部26のみを加熱又は冷却するようにしてもよい。
【0028】
そして、型開きする前に、射出成形品Jの表面に型内塗装を施す場合には、図5又は図7に示す状態において、射出成形品Jの外周に形成された隙間Gに熱硬化性の塗料を適量注入する。この場合、熱媒体通路31と32とに、又は熱媒体通路32のみに加熱用媒体を流して、固定金型部6と可動金型部26とを、又は可動金型部26のみを熱膨張させて成形品Jをプレス(押圧)すると共にこの塗料を硬化させ、射出成形品Jの表面に塗料を圧着させる。この場合、前述したように、両金型部6、26を昇温することにより、合成樹脂の転写性の向上が図れて、既に射出成形品Jの意匠面を綺麗に仕上げることができているので、塗料の膜厚が薄くとも、塗装面の品質の向上が図れる。
【0029】
然る後、熱媒体通路31と32とから、又は熱媒体通路32から加熱媒体を排出して、今度は前記両通路31と32、又は前記通路32のみに冷却用媒体を流すことにより、射出成形品J表面と固定金型部6との間、特に射出成形品Jの垂直壁と固定金型部6の垂直面との間に空間(隙間)を生じさせて、型開きをスムーズすると共に射出成形品Jの垂直壁表面(意匠面)の傷付きを防止できる。
【0030】
以上のように、本発明の実施態様について説明したが、上述の説明に基づいて当業者にとって種々の代替例、修正又は変形が可能であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で前述の種々の代替例、修正又は変形を包含するものである。
【符号の説明】
【0031】
6 固定金型部
26 可動金型部
31 熱媒体通路
32 熱媒体通路
36、37 隙間
38 シボ加工面
G 隙間
J 射出成形品
S キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型と可動金型とを閉じた状態で、キャビティ内に溶融した合成樹脂を射出充填して成形する射出成形方法において、
前記可動金型の熱膨張を見込んで前記固定金型と可動金型との間に予め形成された隙間を前記可動金型を加熱することにより熱膨張させて前記隙間を無くし、
この隙間を無くした状態で溶融した合成樹脂をキャビティ内に注入充填し、
その後、前記可動金型を冷却して熱収縮させると共に合成樹脂も熱収縮させて、合成樹脂成形品の外表面と固定金型との間に空間を形成することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
固定金型と可動金型とを閉じた状態で、キャビティ内に溶融した合成樹脂を射出充填して成形する射出成形方法において、
前記可動金型の熱膨張を見込んで前記固定金型と可動金型との間に予め形成された隙間を前記可動金型を加熱することにより熱膨張させて前記隙間を無くし、
この隙間を無くした状態で溶融した合成樹脂をキャビティ内に注入充填し、
その後、前記可動金型を冷却して熱収縮させると共に合成樹脂も熱収縮させて、合成樹脂成形品の外表面と固定金型との間に空間を形成し、
この空間内に熱硬化性の塗料を注入した後に、少なくとも可動金型を加熱して熱膨張させて前記注入された塗料を前記合成樹脂成形品にプレスすると共に硬化させ、
この塗料を硬化した後に、少なくとも可動金型を冷却する
ことを特徴とする射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−121322(P2011−121322A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282301(P2009−282301)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(300045558)株式会社富士精工 (14)
【Fターム(参考)】