説明

射出成形機の異常検出装置

【課題】給脂が行われて負荷が変動した場合でも最適な許容範囲が使用される射出成形機の異常検出装置を提供すること。
【解決手段】許容範囲をb1に設定し、射出成形サイクルの1サイクルを実行し、連続運転終了か否かを判断し、連続運転終了の場合に処理を終了し、連続運転終了ではない場合には、給脂が行われたか判断する(SB1〜SB4)。給脂が行われた場合には許容範囲をb2に設定し、給脂が行われなかった場合には、許容範囲がb2であるか否か判断し、許容範囲がb2でない場合にはステップSB2に戻り処理を継続し、許容範囲がb2の場合には許容範囲切換判定処理を行う(SB5〜SB7)。ステップSB7の処理の結果、切換判定はYESか否か判断し、切換判定がYESの場合にはステップSB1に戻り許容範囲をb2からb1に切り換え、サイクル処理を継続し、切換判定がYESではない場合にはステップSB2に戻り処理を継続する(SB8)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形機に関し、特に、射出成形機の異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機を用いて成形品を製造する射出成形サイクルにおける型開閉動作や成形品突き出し動作では、時間または可動部の位置に対応して前記駆動部を駆動するモータの負荷を基準負荷として記憶しておき、さらに、記憶された前記基準負荷と実際のモータ負荷を時間または可動部の位置に対応させて順次比較して、その偏差が予め設定された許容範囲内か否かで開閉動作や突き出し動作の異常を検出し、射出成形機を瞬時に停止させることで、機構部や金型の破損を防止している。
【0003】
例えば、特許文献1や特許文献2には上述した破損防止のための異常検出技術が開示されているが、正常な型開閉動作や突き出し動作が行われた少なくとも過去1回分の負荷或いは複数回の動作の移動平均値を算出することにより得られた負荷を、基準負荷として設定している。また、射出成形機を連続運転する時、射出成形機が設置されている環境の温度変化(例えば、昼夜の温度変化)で負荷(トルク)の大きさが変動することがある。この負荷(トルク)変動への対策として、特許文献3には、ショット回数が設定値に対する毎に閾値を変化させる型締制御技術が開示されている。また、特許文献4には、閾値を過去に検出されたモータ電流の平均値や分散から求める射出成形機の制御技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−30326号公報
【特許文献2】特開2001−38775号公報
【特許文献3】特開2004−330527号公報
【特許文献4】特開2005−280015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
射出成形機では、機構部の磨耗やかじりなどの障害を防止するために給脂装置が設けられており、所定時間あるいは所定ショット数毎に適量の給脂が行なわれるのが一般的である。給脂動作は射出成形機を長期間安定して動作させるために必要不可欠なものである。
【0006】
給脂動作を行うと、射出成形機の機構部の動作抵抗が変化し、正常な射出成形サイクルの動作であっても、閾値として設定した基準となる負荷に対し許容範囲外の負荷が発生する。さらに、給脂動作が行なわれた際の実際の負荷は、給脂後間もなく急激に基準負荷との偏差が増大するとともに、その後は徐々に変化する。このように、給脂動作を行った場合の負荷変動は、急激な変動と緩やかな変動が混在するものとなっている。
【0007】
給脂により急激な負荷変動が生じると背景技術で説明した技術では、動作異常が発生したと判断し射出成形機を停止するという問題がある。そこで給脂動作による負荷変動の問題に対処するためには、給脂動作を行った時には異常判別のための許容範囲を一旦広げる。そして、許容範囲を広げたままの状態では本当に可動部の動作異常が発生した場合には検出できないため、いずれかのタイミングで許容範囲を元の許容範囲に戻す必要がある。しかしながら、許容範囲を元の範囲の許容範囲に戻すタイミングは、サイクル時間や型開閉動作の速度により変化するために、一律にタイミングを決めることが困難であった。
【0008】
そこで本発明の目的は、射出成形機の機構部への給脂動作が行なわれた際に、異常負荷の誤検出による射出成形機の停止を防止するとともに、機構部や金型の破損を防止することが可能な射出成形機の異常検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、サーボモータを駆動制御して可動部を駆動する手段と、前記サーボモータに加わる負荷を検出する手段と、前記負荷を可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて成形サイクル毎に記憶する手段と、前記記憶された少なくとも過去1回の動作で検出された負荷あるいは過去複数回分の動作で検出された負荷の移動平均値を異常検出用基準負荷として記憶する手段と、前記記憶された異常検出用基準負荷と現在の負荷を可動部が動作する経過時間あるいは可動部の動作位置に対応させて順次比較し前記記憶された異常検出用基準負荷と現在の負荷との偏差が許容範囲を超えた場合に前記可動部を駆動制御するサーボモータを停止させる停止手段を有する射出成形機の異常検出装置であって、前記許容範囲のうち可動部の動作異常を検出するための許容範囲を第1の許容範囲として設定する第1許容範囲設定手段と前記許容範囲のうち少なくとも第1の許容範囲より広い許容範囲を第2の許容範囲として設定する第2許容範囲設定手段と、前記可動部に給脂が行われたことを検出する給脂検出手段と、給脂が行われた際には第1の許容範囲から第2の許容範囲に切り換える切換手段と、可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて検出された少なくとも過去1回の可動部の動作における可動部の負荷あるいは過去複数回部分の可動部の動作において検出された可動部の負荷の移動平均値を許容範囲切換用基準負荷として記憶する許容範囲切換用基準負荷記憶手段と、前記記憶された許容範囲切換用基準負荷と現在の負荷を可動部が動作する経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて順次比較し前記記憶された許容範囲切換用基準負荷と現在の負荷との偏差が第1の許容範囲内になった場合に、許容範囲を第2の許容範囲から第1の許容範囲に切り換えることを特徴とする射出成形機の異常検出装置である。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記第2の許容範囲から第1の許容範囲への切換は検出された可動部の負荷あるいは過去の複数回の可動部の動作において検出された可動部の負荷の移動平均値と現在の負荷との偏差が第1の許容範囲内になった状態が予め設定した回数の成形サイクルにわたって継続した場合に行われることを特徴とする請求項1に記載の射出成形機の異常検出装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、給脂が行われて負荷が変動した場合でも最適な許容範囲が使用されることで、誤検出が行われることなく連続運転を継続することができる。さらに、本発明では、広げられた許容範囲は適切なタイミングで元の範囲に戻されることで、射出成形機の可動部や金型の破損を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の射出成形機の実施形態の要部システムブロック図である。固定プラテン1とリアプラテン2は複数のタイバー4によって連結されている。固定プラテン1とリアプラテン2の間には可動プラテン3がタイバー4に沿って移動自在に配設されている。また、固定プラテン1には固定側金型5aが取り付けられ、可動プラテン3には可動側金型5bが取り付けられている。
【0013】
リアプラテン2と可動プラテン3間にはトグル機構6が配設され、トグル機構6のクロスヘッド6aに設けられたナットが、リアプラテン2に回動自在で軸方向移動不能に取り付けられたボールネジ7と螺合している。ボールネジ7に設けられたプーリ10と型締用サーボモータ8の出力軸に設けられたプーリ11間にはベルト(タイミングベルト)9がかけられている。
【0014】
型締用サーボモータ8の駆動により、プーリ11、ベルト9、プーリ10の動力伝達手段を介してボールネジ7を駆動し、トグル機構6のクロスヘッド6aを前後進(図1において左右方向)させてトグル機構6を駆動し、可動プラテン3を固定プラテン1方向に前進、後退させて金型5a,5bの開閉、型締を行う。
【0015】
型締用サーボモータ8にはパルスエンコーダなどのサーボモータ8の回転位置・速度を検出する位置・速度検出器12が取り付けられている。この位置・速度検出器12からの位置フィードバック信号により、クロスヘッド6aの位置、可動プラテン3(可動側金型5b)の位置を検出するように構成されている。
【0016】
符号13はエジェクタであり、エジェクタ13は可動プラテン3に設けられた金型内から成型品を突き出すためのエジェクト装置である。エジェクタ13は、エジェクタ用サーボモータ13aの回転力をプーリ、ベルト(タイミングベルト)からなる動力伝達手段13c、ボールネジ/ナット機構13dを介して、エジェクトピンに伝達し、該エジェクトピンを金型内に突出させて成型品を金型から突き出すものである。なお、符号13bはエジェクタ13のサーボモータ13aに取り付けられた位置・速度検出器であり、このエジェクタ13のサーボモータ13aの回転位置・速度を検出することによって、エジェクタピンの位置、速度を検出するものである。
【0017】
符号14は、リアプラテン2に設けられた型締力調整機構であり、型締力調整用モータ14aを駆動し、伝動機構を介してタイバー4に設けられたネジに螺合するナットを回転させてタイバー4に対するリアプラテン2の位置を変えることによって型締力の調整を行うものである。上述した、型締装置、エジェクタ機構などは従来の射出成形機に備えられたものと同じである。
【0018】
射出シリンダ20の先端にはノズル部21が取り付けられ、射出シリンダ20内には射出スクリュ22が挿通されている。射出スクリュ22には、射出スクリュにかかる圧力により樹脂にかかる圧力を検出するロードセル等の圧力センサ(図示省略)が設けられている。射出スクリュ22は、スクリュ回転用サーボモータ23により、プーリ、タイミングベルト等で構成される伝動手段24を介して回転させられる。また、射出スクリュ22は、射出用サーボモータ25によって、プーリ、ベルト、ボールねじ/ナット機構などの回転運動を直線運動に変換する機構を含む伝動手段26を介して駆動される。射出シリンダ20内に樹脂材料を供給するために、ホッパ27が射出シリンダ20の側部に設けられている。
【0019】
なお、スクリュ回転用サーボモータ23には図示を省略したパルスコーダが取り付けられており、射出スクリュ22の回転位置や回転速度を検出する。また、射出用サーボモータ25には図示を省略したパルスコーダが取り付けられており、射出スクリュ22の軸方向の位置や速度を検出する。
【0020】
符号30は射出成形機を制御する制御装置である。本実施形態では後述するように、制御装置30は、制御装置30内に突き出し制御用のソフトウェアを格納し、該突き出し制御用のソフトウェアによりエジェクタ機構を駆動制御するものである。
制御装置30は、プロセッサ(CPU)35,RAM34a,ROM34b等からなるメモリ34、バス33、表示装置用のインタフェース36を備えバス33でこれらの要素が接続されている。表示装置用のインタフェース36には、液晶表示装置37が接続されている。また、サーボインタフェース32には、射出成形機の各可動部を駆動しサーボモータの位置、速度を制御するサーボアンプ31が接続される。そして、各可動部を駆動するサーボモータに取り付けられた位置・速度検出器がサーボアンプ31に接続されている。なお、表示装置用のインタフェース36には図示を省略した手動入力による入力手段が接続されている。
【0021】
図1では、型締用サーボモータ8用とエジェクタ13用サーボモータ13aのサーボアンプ31のみを示している。そして、サーボアンプ31はそれぞれのサーボモータ8、13aの位置・速度検出器12,13bと接続され、位置・速度検出信号がそれぞれのサーボアンプ31にフィードバックされる。なお、スクリュ回転用サーボモータ23及び射出用サーボモータ25のサーボアンプ、並びに、それぞれのサーボモータ23,25に取り付けられている位置・速度検出器は図示を省略している。
【0022】
プロセッサ(CPU)35は、予めメモリ34のROM34bに格納されているプログラム、成形条件などに基づいてプログラムを実行し、射出成形機の各可動部への移動指令を、サーボインタフェース32を介してサーボアンプ31に出力する。各サーボアンプ31は、この移動指令、それぞれの位置・速度検出器(12,13b)からの位置、速度フィードバック信号に基づいて位置、速度のフィードバック制御、さらには電流フィードバック制御を行い、各サーボモータ(8、13a)を駆動制御する。なお、各サーボアンプ31は、従来技術と同様に、プロセッサとメモリ等で構成されており、この位置、速度のフィードバック制御等の処理をソフトウェアの処理によって実行するものである。
【0023】
また、メモリ34を構成するデータ保存用のRAM34aには、後述する、図2、図3、及び図4に示される、データを記憶するテーブルが用意されている。また、本発明の実施形態では、メモリ34のROM34bに格納されている異常負荷を検出する基準負荷の算出処理、許容範囲切換用処理、許容範囲切換判定処理のプログラムを実行する。
【0024】
上述した射出成形機には、摺動部や回転部等の相対移動部が多数存在し、これら相対移動部に給脂装置39を用いて所定時間毎、又は所定射出成形サイクル(ショット)毎に自動的に給脂されている。給脂装置39には、圧力計や流量計を備えることによって、給脂量や給脂装置の異常検出を行える。この給脂装置39へ給脂指令を射出成形機の制御装置のPMC(プログラマブルマシンコントローラ)38で行う。後述(図7参照)する給脂が行われたか否かは、射出成形機から給脂装置への給脂指令の有無、あるいは、給脂装置39に備えられる流量計、あるいは、圧力センサからの出力信号に基づいて、給脂の有無を判断することができる。
【0025】
図2は、負荷を記憶したメモリの説明図である。ここで、負荷について具体的に説明する。図2の縦軸はショットに関する指標を示し、横軸の時間の指標は各ショットにおける型開閉動作や成形品突き出し動作中の時間経過(より、具体的に説明すると、サンプリング時間の経過)の指標を示している。図2に示される負荷を記憶するメモリは、図1に示される本発明の実施形態の射出成形機においてはRAM34aを用いる。なお、ショットに関する指標が実際のショットの何回目かを表す数値とずれるのは、メモリの配列を0番地から規定しているからである。また、図2では、時間を指標として、負荷をメモリに記憶したが、このように負荷を稼動時間に対応させて記憶する構成としてもよいし、負荷を可動部が所定の距離移動する毎に位置に対応させて記憶する構成としてもよい。
【0026】
図3は、現在のショットがnショット目の場合の異常検出用基準負荷として、過去5ショット分の負荷の移動平均値を基準負荷として算出する例を示している。図3の横軸の時間の指標は図2に示される時間の指標と同じである。ここで、現在のショットが6ショット目(ショットの指標5)における時間の指標0の時の異常検出用基準負荷を例として説明する。加算する負荷は、図2に示されるメモリに格納されている負荷のデータから、時間の指標0の列のL(0,4)、L(0,3)、L(0,2)、L(0,1)、L(0,0)の過去5ショット分を読み出す。そして、この過去5ショット分の負荷のデータを加算し、加算して得たデータをデータ数である5で除算し、6ショット目の時間の指標0(ゼロ)での異常検出用基準負荷を求める。6ショット目の時間の指標1では、過去5回分の時間の指標1における負荷のデータを用いて同様の演算により異常検出用基準負荷を求める。その他の時間においても同様の演算により異常検出用基準負荷を求める。
【0027】
図4は、現在のショットがjショット目の場合の許容範囲切換用基準負荷として、過去3ショット分の負荷の移動平均値を基準負荷として算出する例を示している。算出方法は算出に用いる負荷のデータ(図3と同様に図2に示される負荷のデータを用いる)として過去3回分の負荷のデータを用い、図3について説明した異常検出用基準負荷と同様の演算を行う。そして、演算して求めた許容範囲切換用基準負荷は、負荷と同様に図2に示されるようにメモリ(図1に示されるRAM34a)に記憶される。
【0028】
図5は、現在のショットであるn番目のショットにおける負荷、異常検出用基準負荷、異常検出用基準負荷上限値、及び、異常検出用基準負荷下限値の関係を示すグラフである。図5では、現在の負荷は時間のサンプル点0〜4で異常検出用基準負荷より小さく、時間のサンプル点5〜9で異常検出用基準負荷より大きくなっている。また、現在の負荷は時間のサンプル点0〜9のいずれの時間のサンプル点においても、異常検出用基準負荷の上限値及び下限値を超えていない。
【0029】
図6は、本発明の異常負荷検出のためのアルゴリズムのフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。このフローチャートでは、サンプル数10点、可動部の動作がn回目の場合である。なお、図6に示されるフローチャートでは、図1について説明したように、負荷を可動部の位置に対応させて記憶させたデータを用いて、異常負荷検出を行う例である。
【0030】
まず、サンプル数の指標であるiを初期値である0(ゼロ)に設定し(ステップSA1)、可動部を動作させる(ステップSA2)。射出成形サイクルにおいて、可動部の動作としては、型開閉動作や成形品突き出し動作がある。本発明における異常負荷検出の処理をどの動作に行うかは、射出成形機のオペレータが任意に設定してよい。または、1つの成形サイクルにおいて可動部が移動するいずれのタイミングにおいても異常負荷検出を実行するように設定してもよい。
【0031】
次に、サンプル数の指標iがサンプル数10より小さいか否かを判断し(ステップSA3)、サンプル数10より小さくなければ(つまり、10以上)、ステップSA7へ移行し、一方、サンプル数10より小さければ、現在の負荷を検出しメモリにL(i、n)として記憶する(ステップSA4)。ここで、現在の負荷を検出する点について補足して説明する。可動部の動作時の負荷の検出は、モータ電流を検出する検出手段、外乱負荷オブザーバで負荷を推定する負荷推定手段、あるいは、歪センサなどを使用して直接負荷を測定する負荷検出手段を用いて行うことができる。
【0032】
次に、メモリに記憶されている、異常検出用基準負荷LRを読み込む(ステップSA5)。なお、異常検出用基準負荷LRの算出方法は、前述の図3に関する説明で行った。ステップSA5で読み込んだ異常検出用基準負荷LRからb1またはb2を減算した値と、LRにb1またはb2を加算した値と、ステップSA4で記憶した現在の負荷L(i、n)と比較する。つまり、L(i、n)は、(LR−b1(またはb2))より大きく、かつ、(LR+b1(またはb2))より小さいか否かを判断する(ステップSA6)。
なお、ここで許容範囲がb1に設定されている場合はb1を用い、許容範囲がb2に設定されている場合はb2を用いるという意味である。
【0033】
ステップSA6の条件を満たさない場合、可動部の動作を中断し(ステップSA8)、異常検出処理を終了し、条件を満たす場合、可動部が目標位置まで動作したか否か判断し(ステップSA7)、目標位置まで動作していない場合、サンプリングの指標iに1つ加算し(ステップSA9)し、ステップSA2へ戻り、処理を継続する。一方、可動部が目標位置まで動作した場合には、終了する。
図6に示されるフローチャートの処理は、例えば型閉動作開始から終了の間で実行する。
【0034】
図7は、射出成形機を連続運転している時に、許容範囲b1と許容範囲b2とを切り換える許容範囲切換のアルゴリズムを示すフローチャートである。以下、各ステップに従って説明する。許容範囲をb1に設定し(ステップSB1)、射出成形サイクルの1サイクルを実行し(ステップSB2)、連続運転終了か否かを判断し(ステップSB3)、連続運転終了の場合に処理を終了し、連続運転終了ではない場合には、給脂が行われたか判断する(ステップSB4)。給脂が行われた否かは、射出成形機に備わっている給脂装置(図示省略)に対する射出成形機からの給脂指令を検知することにより行う。または、給脂装置からのグリースの流量または圧力検知などを行うことにより行う。給脂が行われた場合には、許容範囲をb2に設定し(スッテップSB5)、ステップSB2に戻り処理を継続し次の回の射出成形サイクルを実行する。
【0035】
一方、給脂が行われなかった場合には、許容範囲がb2であるか否か判断し(ステップSB6)、許容範囲がb2でない場合には、ステップSB2に戻り処理を継続し、許容範囲がb2の場合には、許容範囲切換判定処理を行う(ステップSB7)。この許容範囲切換判定処理については図8に示すフローチャートを用いて後述する。
【0036】
そして、ステップSB7の処理の結果、切換判定がYESか否か判断し(ステップSB8)、切換判定がYESの場合にはステップSB1に戻り処理を継続し、切換判定がYESではない場合にはステップSB2に戻り処理を継続する。つまり、切換判定がYESでは、許容範囲b2を許容範囲b1に切り換える。一方、切換判定がYESではない、つまり、切換しないということであるから、許容範囲b2のまま、次の回の成形サイクルを実行することになる。
【0037】
ここで、図7のフローチャートのステップSB2で処理される1サイクル実行の中で図6に示される異常負荷検出処理が実行される。図6のステップSA8で可動部の動作中断の処理がなされた場合は、図7のステップSB3で連続運転終了かの判断がなされ、処理が終了する。
【0038】
次に、図7のフローチャートのステップSB7で処理される許容範囲切換判定処理について図8のフローチャートを用いて説明する。以下、各ステップに従って説明する。まず、サンプリングの指標iを0(ゼロ)に初期設定するとともに、切換判定をYESに設定する(ステップSC1)。
【0039】
そして、サンプリング指標iは10より小さいか否か判断し(ステップSC2)、iが10より小さくない場合には処理を終了し、iが小さい場合には現在の負荷L(i、n)と、許容範囲切換用基準負荷をメモリから読み込む(ステップSC3)。許容範囲切換用基準負荷については図4を用いて説明したとおりである。
【0040】
ステップSC3で読み込まれた、現在の負荷L(i、n)と許容範囲切換用基準負荷との差の絶対値が許容範囲b1より大きいか否か判断し(ステップSC4)、絶対値の差がb1より大きければ切換判定をNOに設定し(ステップSC5)、許容範囲切換判定処理を終了する。一方、絶対値の差がb1より大きくなければサンプリングの指標iに1加算し(ステップSC6)、ステップSC2へ戻り、処理を継続する。
【0041】
図9は、本発明での、給脂動作のタイミングで許容範囲を第1と第2の許容範囲に切り換えることを説明する図である。図10は、ショットの指標2(ショット回数3番目)の時に給脂開始し、ショットの指標4(ショット回数5番目)の時に給脂終了した時の、負荷の変化と異常検出用基準負荷の変化を示している。
【0042】
図9に示されるようにショットの指標2(ショット回数3番目)の時に、給脂を検知したことで、第1の許容範囲(b1)から第2の許容範囲(b2)に許容範囲が変更されている。変更されたことにより、異常検出用基準負荷と現在の負荷との偏差の絶対値が第1の許容範囲(b1)以上となっても、第2の許容範囲(b2)に変更されることにより、負荷異常とは判断されない。
【0043】
そして、図9に示されるよう偏差が第1の許容範囲内になったタイミングで許容範囲を第2の許容範囲から第1の許容範囲に戻す切換を行う。この変更の処理は、図8に示されるフローチャートにおいて、ステップSC4の判断処理に基づいて行われる。このように、一度広げられた許容範囲を適切なタイミングで元の第1の許容範囲に戻すことができ、射出成形機の機構部や金型の破損防止の本来の目的を損なわない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】射出成形機の要部ブロック図である。
【図2】負荷を記憶したメモリの説明図である。
【図3】現在のショットがnショット目の場合の異常検出用基準負荷(過去5ショット分の負荷の移動平均値を基準負荷とする場合)を説明する図である。
【図4】現在のショットがjショット目の場合の許容範囲切換用基準負荷(過去3ショット分の負荷の移動平均値を基準負荷とする場合)を説明する図である。
【図5】現在の負荷、異常負荷検出用基準負荷、許容範囲の関係を示す図である。
【図6】本発明の異常負荷検出のためのアルゴリズムのフローチャートである。
【図7】本発明における許容範囲切換のアルゴリズムを示すフローチャートの例である。
【図8】本発明における許容範囲切換判定のアルゴリズムを示すフローチャートの例である。
【図9】本発明での、給脂動作のタイミングで許容範囲を第1と第2の許容範囲に切り換えることを説明する図である。
【図10】本発明での、可動部が動作中の任意のタイミングmにおける現在負荷の変動と移動平均の関係を説明する図である。
【符号の説明】
【0045】
30 制御装置
31 サーボアンプ
32 サーボインタフェース
33 バス
34 メモリ
34a RAM
34b ROM
35 プロセッサ(CPU)
36 表示装置インタフェース
37 LCD(液晶表示装置)
38 PMC(プログラマブルマシンコントローラ)
39 給脂装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータを駆動制御して可動部を駆動する手段と、前記サーボモータに加わる負荷を検出する手段と、前記負荷を可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて成形サイクル毎に記憶する手段と、前記記憶された少なくとも過去1回の動作で検出された負荷あるいは過去複数回分の動作で検出された負荷の移動平均値を異常検出用基準負荷として記憶する手段と、前記記憶された異常検出用基準負荷と現在の負荷を可動部が動作する経過時間あるいは可動部の動作位置に対応させて順次比較し前記記憶された異常検出用基準負荷と現在の負荷との偏差が許容範囲を超えた場合に前記可動部を駆動制御するサーボモータを停止させる停止手段を有する射出成形機の異常検出装置であって、
前記許容範囲のうち可動部の動作異常を検出するための許容範囲を第1の許容範囲として設定する第1許容範囲設定手段と前記許容範囲のうち少なくとも第1の許容範囲より広い許容範囲を第2の許容範囲として設定する第2許容範囲設定手段と、
前記可動部に給脂が行われたことを検出する給脂検出手段と、
給脂が行われた際には第1の許容範囲から第2の許容範囲に切り換える切換手段と、
可動部の動作中の経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて検出された少なくとも過去1回の可動部の動作における可動部の負荷あるいは過去複数回部分の可動部の動作において検出された可動部の負荷の移動平均値を許容範囲切換用基準負荷として記憶する許容範囲切換用基準負荷記憶手段と、
前記記憶された許容範囲切換用基準負荷と現在の負荷を可動部が動作する経過時間あるいは可動部の動作中の位置に対応させて順次比較し前記記憶された許容範囲切換用基準負荷と現在の負荷との偏差が第1の許容範囲内になった場合に、許容範囲を第2の許容範囲から第1の許容範囲に切り換えることを特徴とする射出成形機の異常検出装置。
【請求項2】
前記第2の許容範囲から第1の許容範囲への切換は検出された可動部の負荷あるいは過去の複数回の可動部の動作において検出された可動部の負荷の移動平均値と現在の負荷との偏差が第1の許容範囲内になった状態が予め設定した回数の成形サイクルにわたって継続した場合に行われることを特徴とする請求項1に記載の射出成形機の異常検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−279891(P2009−279891A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136503(P2008−136503)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】