説明

射出成形用液晶性樹脂組成物、成形体及び耐ブリスター性を向上する方法

【課題】射出容量が大きい条件であっても、成形体表面に発生するブリスターを簡単に抑える技術を提供する。
【解決手段】液晶性ポリエステルアミド樹脂と、繊維状無機充填剤とガラスビーズとの混合物を含み、上記混合物中の繊維状無機充填剤とガラスビーズとの比率(繊維状無機充填剤の含有量:ガラスビーズの含有量)が、0.9:1.0から1.0:0.9になるように調整した射出成形用液晶性樹脂組成物を使用する。繊維状無機充填剤としては、ガラス繊維の使用が最も好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出容量が大きい条件で成形してもブリスターの発生を抑えることができる射出成形用液晶性樹脂組成物、当該樹脂組成物を成形してなる成形体及び成形体の耐ブリスター性を向上する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックと呼ばれる一群のプラスチックスは高い強度を有し、金属部品に置き替わりつつある。中でも液晶性樹脂と呼ばれる一群のプラスチックスは、結晶構造を保持しながら溶融するために、結晶構造に基づく高強度と、固化時に結晶構造が大きく変化しないことにより溶融時と固化時との体積変化が小さく、成形収縮が小さいという利点がある。
【0003】
上記のような液晶性樹脂は、成形性及び耐熱性に優れ小型電子部品の構成材料として好ましく使用されている。その中でも、液晶性樹脂は、ガスの発生が少なく、耐加水分解性に優れ、さらに電気的特性も良好であることから、コネクター等の電子部品に好適に使用される。特に、コネクター等の電子部品用材料として、液晶性樹脂を使用する場合、荷重たわみ温度を向上させるために、ガラス繊維を含有させる方法が知られている。
【0004】
特に、ガラス繊維を含有した液晶性ポリエステルアミド樹脂は、コネクター等の電子部品用材料として非常に好ましい材料である。しかしながら、電子部品の生産性を向上させようとして、射出容量を大きい条件に変更すると、成形時に溶融状態にある射出成形用液晶性樹脂組成物が空気や材料からの発生ガスを巻き込むことで、成形体内部に気泡が含まれる。成形体内部に気泡が含まれると、後の熱処理等で成形品が高温に曝されることにより、気泡内の空気やガスが膨張し、成形品表面が膨れる。この成形品表面の膨れはブリスターと呼ばれる成形不良であり、改善が求められる。
【0005】
上記のようなブリスターの発生を抑えるための対策として、射出成形用液晶性樹脂組成物の溶融押出時にベント孔から充分に脱気すること、成形の際に成形機に樹脂組成物を長く滞留させないこと等が挙げられる。しかしながら、このような成形時の条件等の変更のみでは充分にブリスターの発生を抑えることはできない。
【0006】
そこで、ブリスターの発生を抑えるために、射出成形用液晶性樹脂組成物を改良すること、射出成形用液晶性樹脂組成物を改良するとともに成形条件を改良すること等が行われている。例えば、特許文献1には、被混練材料から揮発分を除去する為の開放口と一対の2条スクリューとを有する混練機で、特定の量の無機充填剤を含む特定の射出成形用液晶性樹脂組成物を溶融混練して得られる荷重たわみ温度230℃以上の成形体の製造方法において、当該混練機のスクリュー噛合率を1.60以上に調整する成形体の製造方法が開示されている。この特許文献1に記載の技術によれば、射出成形用液晶性樹脂組成物の融点・荷重たわみ温度等の基本的耐熱性を保ちながら、耐ブリスター性に優れる射出成形用液晶性樹脂組成物を提供できるとされている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、成形体の製造条件が極めて複雑である。また、液晶性ポリエステルアミド樹脂は、全芳香族ポリエステル樹脂等と比較して、ブリスターを発生しやすい原料である。このため、ブリスターの発生を抑制する効果についてもさらなる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−211443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、射出容量が大きい条件であっても、ブリスターの発生を簡単に抑える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記のような課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、液晶性ポリエステルアミド樹脂と、繊維状無機充填剤とガラスビーズとの混合物とを含み、この混合物中の上記繊維状無機充填剤と上記ガラスビーズとの比率が、0.9:1.0から1.0:0.9の射出成形用液晶性樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」という場合がある)であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 液晶性ポリエステルアミド樹脂と、繊維状無機充填剤とガラスビーズとの混合物を含み、前記混合物中の前記繊維状無機充填剤と前記ガラスビーズとの比率が、0.9:1.0から1.0:0.9である射出成形用液晶性樹脂組成物。
【0012】
(2) 前記繊維状無機充填剤がガラス繊維である(1)に記載の射出成形用液晶性樹脂組成物。
【0013】
(3) 前記繊維状無機充填剤の繊維長が200μm以上である(1)又は(2)に記載の射出成形用液晶性樹脂組成物。
【0014】
(4) 前記液晶性ポリエステルアミド樹脂100質量部に対して、前記混合物を39質量部以上69質量部以下含む(1)から(3)のいずれかに記載の射出成形用液晶性樹脂組成物。
【0015】
(5) 前記液晶性ポリエステルアミド樹脂の融点が320℃以上であり、(1)から(4)のいずれかに記載の射出成形用液晶性樹脂組成物を成形してなり、ISO75−1,2に準拠する方法で測定した1.8MPaにおける荷重たわみ温度が260℃以上である成形体。
【0016】
(6) (1)から(4)のいずれかに記載の射出成形用液晶性樹脂組成物を成形してなり、成形品表層部(成形品表面から0.2mmまで)と成形品中央部(成形品中央0.2mm)の線膨張率の差が、0.7以下である成形体。
【0017】
(7) 液晶性樹脂組成物中に、繊維状無機充填剤とガラスビーズとを含有させ、前記繊維状無機充填剤の含有量と、前記ガラスビーズの含有量とを実質的に等しくすることによって、樹脂成形体の耐ブリスター性を向上する方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、繊維状無機充填剤と、上記繊維状無機充填剤と実質的に同量のガラスビーズと、を含む射出成形用液晶性樹脂組成物を射出成形することで、射出容量が大きい条件であっても、得られる成形体表面のブリスター発生を抑えることができる。即ち、本発明によれば、高品質な成形体を高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ISO1/32’’に基づいて作製した試験片の断面を示す図である。
【図2】ランナー、スプルー及びノズルが接続された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
<射出成形用液晶性樹脂組成物>
本発明の射出成形用液晶性樹脂組成物には、液晶性ポリエステルアミド樹脂、繊維状無機充填剤、ガラスビーズを含むことが特徴である。先ず、これらの材料について以下に説明する。
【0022】
[液晶性ポリエステルアミド樹脂]
液晶性樹脂の中でも液晶性ポリエステルアミド樹脂を使用した場合には、成形体にブリスターが生じやすい。本発明の特徴の一つは、ブリスターが発生しやすい液晶性ポリエステルアミド樹脂を用いても、充分にブリスターの発生を抑えることができる点にある。以下に例示する好ましい液晶性ポリエステルアミド樹脂は、得られる成形体の物性を高めることができる点で好ましい樹脂である。本発明は、下記のような好ましい樹脂を用いた場合に、射出容量が大きい条件で成形しても、成形体の物性を維持しつつ(ほとんど低下させないで)、ブリスターの発生を抑制できる点も特徴である。
【0023】
本発明に用いる液晶性ポリエステルアミド樹脂は、特に限定されず従来公知のものを使用することができるが、270〜370℃の範囲に融点を有し、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリエステルアミドが好ましい。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリエステルアミド樹脂は直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0024】
本発明に使用する液晶性ポリエステルアミド樹脂は、上記のような光学異方性溶融相を形成し得る性質を有しており、さらに、ある特定の構成単位を有していることが好ましい。
【0025】
液晶性ポリエステルアミド樹脂を構成するモノマーとして、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族カルボン酸、芳香族ジオール等が挙げられる。これらのモノマーに加えて4−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン、4−アミノ安息香酸及びこれらの誘導体の1種又は2種以上を含むものが好ましい。そして、アミド成分が全結合中に2〜35モル%の割合で含まれるものであることさらに好ましい。また、アミド成分が全結合中に4〜25モル%の割合で含まれるものがさらに好ましい。
【0026】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等が挙げられる。また、芳香族カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。また、芳香族ジオールとしては、2,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン等が挙げられる。なお、これらの化合物の誘導体もモノマーとして挙げられる。
【0027】
アミド成分を2〜35モル%の割合で含めるためのモノマーとしては、前述の4−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン、4−アミノ安息香酸及びこれらの誘導体、例えば4−アセトキシ−アミノフェノール等が挙げられる。
【0028】
具体的には、液晶性ポリエステルアミド樹脂が、下記(i)〜(iii)のモノマーを下記記載の範囲で共重合して得られる全芳香族ポリエステルアミドが好ましい。
(i)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸;30〜90モル%
(ii)4−アミノフェノール;15〜35モル%
(iii)テレフタル酸;15〜35モル%
また、液晶性ポリエステルアミド樹脂が、下記(i)〜(v)のモノマーを下記記載の範囲で共重合して得られる全芳香族ポリエステルアミドも好ましい。
(i)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸
(iv)4−ヒドロキシ安息香酸
(i)+(iv)の量が30〜90モル%
(ii)4−アミノフェノール;2〜35モル%
(iii)テレフタル酸;5〜35モル%
(v)ビスフェノール;2〜35モル%
【0029】
[繊維状無機充填剤]
本発明に使用できる繊維状無機充填剤は、特に限定されず従来公知のものを使用することができる。繊維状無機充填剤を含有させる大きな目的の一つは、後述するガラスビーズとの組み合わせでブリスターの発生を抑えることである。また、他の目的は、最終製品になる成形体に充分な荷重たわみ温度等の物性を与えることである。
【0030】
使用可能な繊維状無機充填剤としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、ウォラストナイト、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等が挙げられる。これらの中でもガラス繊維の使用が特に好ましい。
【0031】
繊維状無機充填剤の繊維長は特に限定されないが、成形体に充分な荷重たわみ温度等の物性を付与し且つ良好な流動性を確保するためには、200μm以上700μm以下が好ましく、特に400μm以上650μm以下が好ましい。ここで、繊維長とは射出成形する前の液晶性樹脂組成物の混練ペレット中の繊維長を指す。なお、繊維長は以下の方法で測定した繊維長を採用する。
(測定方法)
測定には、画像処理解析装置LUZEX AP(株式会社ニレコ社製)を使用した。測定は以下の(1)から(6)の手順で行った。
(1)液晶性樹脂組成物の混練ペレット約2gを600℃で3時間加熱し灰化させる。
(2)液晶性樹脂組成物の混練ペレットの灰分を3mg秤量し、ポリエチレングリコール5%水溶液に分散させる。
(3)分散液5mlを採取し、シャーレに均一に注ぎ入れる。
(4)実体顕微鏡(10倍)を用いて画像を取り込む(n=9)
(5)取り込んだ各々の画像を2値化し、上記画像処理解析装置を用いて充填剤のサイズを測定する。その際、ガラスビーズのサイズの影響を受けないように、100μm以下の値はカットする。
(6)測定された値の重量平均を繊維状無機充填剤の繊維長とする。
【0032】
特にコネクター等の電子部品を成形する場合には、充分な荷重たわみ温度を成形体に付与する必要がある。この場合には、繊維状無機充填剤として、上記の好ましい範囲の繊維長を有するガラス繊維を使用し、ガラス繊維の含有量が液晶性ポリエステルアミド樹脂100質量部に対して10質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
【0033】
[ガラスビーズ]
本発明に使用できるガラスビーズは、特に限定されず従来公知のものを使用することができる。例えば、平均粒径が5μm以上50μm以下程度のガラスビーズを好ましく使用することができる。
【0034】
本願発明の樹脂組成物中に含まれるガラスビーズの好ましい含有量は、上記繊維状無機充填剤の好ましい含有量と、後述する繊維状無機充填剤とガラスビーズの含有比率とから決まる。
【0035】
[混合物]
混合物とは、上記繊維状無機充填剤と上記ガラスビーズとの混合物である。本願発明は、繊維状無機充填剤とガラスビーズとの混合物を含む射出成形用樹脂組成物にすることに大きな特徴がある。
【0036】
本願明細書では、本発明の射出成形用液晶性樹脂組成物の説明において、液晶性ポリエステルアミド樹脂と、繊維状無機充填剤及びガラスビーズの混合物とに分けて説明しているが、この説明は、予め繊維状無機充填剤とガラスビーズとを混合してなる混合物を得て、さらにこの混合物に液晶性ポリエステルアミド樹脂を混合して得られる樹脂組成物に本発明の樹脂組成物が限定されることを意図するものではない。即ち、本願発明の樹脂組成物には、液晶性ポリエステルアミド樹脂と、繊維状無機充填剤と、ガラスビーズとを含み、繊維状無機充填剤と、ガラスビーズとの含有量比が特定の範囲にあるもの全てが含まれる。
【0037】
混合物に含まれる繊維状無機充填剤とガラスビーズの含有比率(繊維状無機充填剤:ガラスビーズ)は、0.9:1.0から1.0:0.9である。なお、比率とは、質量比のことを指す。
【0038】
混合物中の繊維状無機充填剤とガラスビーズの含有比率を上記の範囲に調整し、液晶性ポリエステルアミド樹脂と組み合わせて樹脂組成物にして、成形体を製造するとブリスターの発生が抑えられる。これは、混合物中の繊維状無機充填剤とガラスビーズの含有比率を上記の範囲に調整することで、スキン層の線膨張率とコア層の線膨張率との差を小さくできるからである。本願発明は、繊維状無機充填剤、ガラスビーズという無機充填剤に着目し、さらに、これらの含有量比を特定の範囲に調整し、上記線膨張率の差を小さくしたことに大きな特徴がある。即ち、特定の充填剤を選択し、さらに、その特定の充填剤の含有量比を、特定の範囲に調整することで、上記線膨張率の差を小さくできることを見出した点に特徴がある。
【0039】
ガラスビーズは、等方性の無機充填剤であるため、混合物中のガラスビーズの含有量が多くなるほど、コア層の線膨張率とスキン層の線膨張率との差が小さくなるように予測される。しかしながら、繊維状無機充填剤とガラスビーズとの含有比率が1に近い上記範囲にある方が、上記線膨張率の差は小さくなる。この点を見出したことも本発明の特徴の一つである。
【0040】
「コア層の線膨張率とスキン層の線膨張率との差が小さい」とは、実施例に記載した方法で測定した線膨張率の差が0.7以下であることを指す。
【0041】
繊維状無機充填剤としてガラス繊維を使用することが好ましい。ガラス繊維とガラスビーズの組み合わせは、ブリスターの発生を抑える効果が高いからである。即ち、ガラス繊維とガラスビーズの組み合わせであれば、上記線膨張率の差が小さくなりやすい傾向にあるからである。
【0042】
本発明の射出成形用液晶性樹脂組成物中の混合物の含有量は、上記液晶性ポリエステルアミド樹脂100質量部に対して、39質量部以上69質量部以下であることが好ましい。本発明の樹脂組成物に充分な量の充填剤を含有させることで、成形体に充分な物性を付与することができる。
【0043】
[その他の成分]
本願発明の射出成形用液晶性樹脂組成物は、本発明の効果を害さない範囲で他の熱可塑性樹脂とポリマーブレンドをしたものであってもよい。また、熱可塑性樹脂は2種以上混合して使用することができる。また、これらの樹脂には、機械的、電気的、化学的性質や難燃性等の諸性質を改善するため、必要に応じて種々の添加剤、強化剤を添加することが可能である。
【0044】
本発明に用いる液晶性樹脂組成物には、本発明の効果を害さない範囲で、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、ガラスビーズ等の上記で説明した充填剤以外の充填剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した組成物も本発明に用いる液晶性樹脂組成物に含まれる。
【0045】
上記の通り他の成分は、本発明の効果を害さない範囲で添加することができるが、他の成分の含有量は、液晶性ポリエステルアミド樹脂100質量部に対して、10質量部以内であることが好ましい。
【0046】
<成形体>
本発明の成形体は、本発明の射出成形用液晶性樹脂組成物を、射出成形法により成形した成形体である。本発明の特徴の一つは非常に大きい射出容量で成形してもブリスターの発生を抑制できることである。先ず、成形体の成形条件について説明し、次いで、成形体について説明する。
【0047】
[成形体の成形条件]
本発明の成形体は、上記の通り、本発明の射出成形用液晶性樹脂組成物を用いて成形された成形体であり、成形条件は特に限定されない。成形条件は、製造する成形体の形状や使用する樹脂等の原料に応じて適宜好ましい条件を決定できる。ただし、本願発明は上記の通り射出容量が大きい条件で製造できることに特徴がある。そこで、以下、射出容量の大きい条件について説明する。
【0048】
通常、射出容量が大きい条件で成形すると、成形体表面にはブリスターが発生する傾向にある。しかし、本発明では、繊維状無機充填剤とガラスビーズとを特定の比率で液晶性ポリエステルアミド樹脂に含有させることで、スキン層の線膨張率とコア層の線膨張率との差を0.7以内に調整する。その結果、大きい射出容量の条件で成形しても成形体表面に生じるブリスターの発生を抑えることができる。したがって、本発明によれば、ブリスターの発生を抑えた高品質な成形体を高い生産性で製造することができる。
【0049】
従来の技術で成形体表面にブリスターが生じてしまうような「大きい射出容量」とは、150cm/sec以上である。
【0050】
本発明で問題としているブリスターの発生は、金型内を流れる溶融した樹脂組成物の流速が問題となる。射出容量を上げれば金型内での溶融した樹脂組成物の流速も速まる。金型内を流れる樹脂組成物の流速が7000mm/secを超えると、従来の技術では成形体表面にブリスターが発生しやすい傾向にあり、金型内を流れる樹脂組成物の流速が12000mm/secを超えるとさらに成形体表面にブリスターが生じやすくなる。通常、射出容量を150cm/sec以上の条件にすることは、上記流速が少なくとも7000mm/secを超えることを意味する。本発明の成形体は上記通り、繊維状無機充填剤とガラスビーズとを特定の比率で液晶性ポリエステルアミド樹脂に含有させ、スキン層の線膨張率とコア層の線膨張率との差を0.7以内になるように調整する。このように、コア層の線膨張率とスキン層の線膨張率との差が小さくなるように調整できることで、上記のように金型内での溶融した樹脂組成物の流速が速くなっても成形体表面にブリスターが生じることを抑えることができる。
【0051】
[成形体]
上述の通り、本発明の成形体は、射出容量が大きい条件で製造しても、スキン層の線膨張率とコア層の線膨張率との差が0.7以内であることが特徴である。上記線膨張率の差は、繊維状無機充填剤とガラスビーズとの含有比、等によって調整することができる。
【0052】
コア層の線膨張率とスキン層の線膨張率について説明する。これらの線膨張率を測定する対象及び方法について説明する。線膨張率を測定する試験片としては、ISO1/32’’に基づいて作製した試験片を用いる。図1には、上記試験片の断面図を示す。表面がスキン層で、内部がコア層である。スキン層の線膨張率の測定においては、スキン層の表面から0.2mmの範囲(図1に示す範囲)を切削して試料を切り出す。コア層の線膨張率の測定においては、コア層の中央の幅0.2mmの範囲(図1に示す範囲)を切削して試料を切り出す。これらの試料を250℃、1時間熱処理したものについて、30℃における寸法を基準値としたときの240℃における膨張率を線膨張率とする。
【0053】
本発明の射出成形用液晶性樹脂組成物を成形して成形体を作製すると、射出容量が大きい条件で製造しても、上記のようにして測定したコア層の線膨張率とスキン層の線膨張率との差が、0.7以下になるため、ブリスターが発生しない。
【0054】
従来公知の樹脂組成物を用い、大きい射出容量の条件で成形体を作製すると、スキン層の線膨張率とコア層の線膨張率との差が大きくなり、ブリスターが発生してしまう。しかしながら、本発明の樹脂組成物を用いることで、射出容量を大きい条件に設定しても線膨張率の差が大きくなることを抑えることができる。その結果、射出容量が大きい条件で成形体を製造してもブリスターの発生を抑えることができる。
【0055】
<耐ブリスター性を向上する方法>
本発明の耐ブリスター性を向上する方法は、液晶性ポリエステルアミド樹脂を含む液晶性樹脂組成物中に、繊維状無機充填剤とガラスビーズとを含有させ、繊維状無機充填剤の含有量と、前記ガラスビーズの含有量とを実質的に等しくすることによって、樹脂成形体の耐ブリスター性を向上する方法である。
【0056】
「実質的に等しくする」とは、コア層の線膨張率とスキン層の線膨張率との差が0.7以下になるように、樹脂組成物中の繊維状無機充填剤の含有量とガラスビーズの含有量とを近づけることを指す。
【0057】
本願発明の大きな特徴の一つは、繊維状無機充填剤(特にガラス繊維)とガラスビーズとを液晶性ポリエステルアミド樹脂に含有させ、繊維状無機充填剤とガラスビーズとの含有量比率(質量比)を1に近づけることで、射出容量が大きい条件で成形体を製造してもスキン層の線膨張率とコア層の線膨張率との差が大きくならないことを見出した点にある。本発明の方法によれば、高い生産性で高品質な成形体を製造することができる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0059】
<材料>
液晶性ポリエステルアミド樹脂(液晶性樹脂):ベクトラE950i(ポリプラスチックス社製)溶融粘度20Pa・secチョップドストランドガラス繊維(ガラス繊維):ECS03T−786H(日本電気硝子社製)、繊維径10μm、繊維長3mm(なお、混練ペレット中での繊維長について、上述の方法で測定した結果を表1に示した)ガラスビーズ:EGB731(ポッターズバロティーニ社製)、平均粒径18μm
【0060】
上に示す材料を表1に示す割合でドライブレンドした後、二軸押出機(「TEX30α型」日本製鋼所製)を用いて混練ペレットを作製した。この実施例及び比較例の液晶性樹脂組成物(混練ペレット)を用いて、荷重たわみ温度の測定、線膨張率の測定、耐ブリスター射出容量の測定を以下のようにして行った。
【0061】
[荷重たわみ温度の測定]
実施例及び比較例の混練ペレット、射出成形機(住友重機械工業社製、「SE100DU(スクリュー径 Φ36)」)を用いて、以下の成形条件で測定用試験片(4mm×10mm×80mm)を成形した。その後、ISO 75−1,2に準拠した方法で荷重たわみ温度を測定した。荷重たわみ温度の測定結果を表1に示した。(成形条件)シリンダー温度:350℃金型温度:90℃背圧:1.0MPa射出速度:33m/sec
【0062】
[線膨張率の測定]
実施例及び比較例の混練ペレット、射出成形機(ファナック社製、「ROBOSHOT α50C成形機(スクリュー径 Φ26)」)を用い、下記の成形条件で、ISO1/32”燃焼試験片を成形した。(成形条件)シリンダー温度:340℃金型温度:80℃射出速度:300mm/sec
【0063】
得られた試験片の、表面から0.2mmの部分、中央部0.2mmの部分をそれぞれ切削し試料を取り出した。TAインスツルメント社製線膨張測定器(TMA2940)を用い、切削して得た試料各々の線膨張率の測定を行った。試料は250℃で1時間の加熱処理を施したものを用い、30℃における寸法を基準値としたときの240℃における膨張率を、線膨張率とした。線膨張率、線膨張率の差(スキン層の線膨張率−コア層の線膨張率)の結果は表1に示した。
【0064】
[耐ブリスター射出容量の測定]
実施例の混練ペレット、射出成形機(「α−50−C」ファナック社製)を用い、ISO 1/32’’燃焼試験片を成形した。その際、ノズルの出口径を1.5mmに固定し、スプルー出口径とノズル出口径の比(スプルー出口径/ノズル出口径)を2、その他の成形条件は下記に示す成形条件で、射出成形を行った。ノズルの位置、スプルーの位置は、図2に示す通りである。また、ノズル出口径は図2に示すようにノズル先端出口のノズル内径であり、スプルー出口径はスプルー先端出口の内径である。また、射出容量については、26.5(cm/sec)、39.8(cm/sec)、53.1(cm/sec)、66.3(cm/sec)79.6(cm/sec)、92.9(cm/sec)、106.1(cm/sec)、119.4(cm/sec)、132.7(cm/sec)145.9(cm/sec)、159.2(cm/sec)で、低いものから順に各射出容量の条件について5ショットの成形を行った後、ピーク温度280℃のリフロー処理(詳細な条件は後述する)を施し、5個の成形品の中で、目視観察にてブリスターが発生するものが確認できなければ、さらに大きい射出容量の条件で5ショットの成形を行い、同様のリフロー処理を施し、ブリスターが発生するまで目視にて評価して、ブリスターが発生しない(目視にて全く観察されない)最大の射出容量(耐ブリスター射出容量)を求めた。
(成形条件)
スクリュー径:φ26mm
スクリュー回転数:100rpm
背圧:3MPa
保圧力:50MPa
保圧時間:1秒
冷却時間:5秒
サックバック:3mm
サイクル時間:15秒
シリンダー温度:340℃−340℃−330℃−320℃
金型温度:80℃
(リフロー条件)
装置:赤外線リフロー炉(「RE−300」、日本パルス技術研究所製)
プレヒートゾーン温度設定:150℃×3分
ヒートゾーン温度設定:218℃×2分
加熱炉通過時間:5分
成形品表面ピーク温度:280℃
(成形品表面ピーク温度は、リフロー加熱条件で成形品表面に熱伝対を取り付けて測定した最も高い温度である)
【0065】
【表1】

【0066】
表1から明らかなように、ガラス繊維の含有量とガラスビーズの含有量が同じ場合には、スキン層の線膨張率とコア層の線膨張率との差が0.7以下になり、耐ブリスター射出容量が150cm/secを超える。
【0067】
実施例2、比較例3の結果から明らかなように、ガラスビーズの含有量が多い比較例3より、ガラスビーズの含有量とガラス繊維の含有量とが同じ実施例2の方がコア層の線膨張率とスキン層の線膨張率との差が小さくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性ポリエステルアミド樹脂と、繊維状無機充填剤とガラスビーズとの混合物を含み、
前記混合物中の前記繊維状無機充填剤と前記ガラスビーズとの比率が、0.9:1.0から1.0:0.9であることを特徴とする射出成形用液晶性樹脂組成物。
【請求項2】
前記繊維状無機充填剤がガラス繊維である請求項1に記載の射出成形用液晶性樹脂組成物。
【請求項3】
前記繊維状無機充填剤の繊維長が200μm以上である請求項1又は2に記載の射出成形用液晶性樹脂組成物。
【請求項4】
前記液晶性ポリエステルアミド樹脂100質量部に対して、前記混合物を39質量部以上69質量部以下含む請求項1から3のいずれかに記載の射出成形用液晶性樹脂組成物。
【請求項5】
前記液晶性ポリエステルアミド樹脂の融点が320℃以上であり、
請求項1から4のいずれかに記載の射出成形用液晶性樹脂組成物を成形してなり、
ISO75−1,2に準拠する方法で測定した1.8MPaにおける荷重たわみ温度が260℃以上である成形体。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の射出成形用液晶性樹脂組成物を成形してなり、スキン層の線膨張率とコア層の線膨張率との差が、0.7以下である成形体。
【請求項7】
液晶性樹脂組成物中に、繊維状無機充填剤とガラスビーズとを含有させ、
前記繊維状無機充填剤の含有量と、前記ガラスビーズの含有量とを実質的に等しくすることによって、樹脂成形体の耐ブリスター性を向上する方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−157472(P2011−157472A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20314(P2010−20314)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】