説明

射出成形用金型及び射出成形方法

【課題】貫通穴を有する射出成形品の成形において、ウエルドラインを発生させることなく、生産性が良好で、精度良く貫通穴を形成できる射出成形用金型の提供。
【解決手段】射出成形用金型1は上型2内にキャビティ4の貫通穴部分に突出可能に設けられた摺動ピン5A,5Bと、その支持板6A,6Bにおいて突出方向に付勢するコイルスプリング7A,7Bと、摺動ピン5A,5Bに微振動を付与する微振動付与手段として支持板6A,6Bに取付けられた電気振動子及び振動子駆動電源10と、摺動ピン5A,5Bを停止させておくストッパー8A,8Bとストッパー駆動用エアシリンダ9が設けられ、制御装置11からの信号線11Bを介しての制御信号によって、射出成形スクリューがキャビティ4内に溶融樹脂を充填し終わる直前にストッパー8A,8Bを解除して摺動ピン5A,5Bをキャビティ4内に突出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通穴を有する射出成形品の射出成形において、ウエルドラインを形成することなく良好な射出成形品を得ることができる射出成形用金型及び射出成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貫通穴を有する射出成形品、例えば燃料電池用セパレータ等においては、貫通穴を形成するためにキャビティ内に設置される中子によって分離された溶融樹脂の流れが中子を越えた部分で再び合流することによって発生するウエルドラインが、製品強度を低下させる原因となっていた。そこで、ウエルドラインを発生させないために、まず貫通穴を有しない射出成形品を成形して、その後ドリル等で貫通穴を開けていたため生産性が悪く、製品コストが高くなっていた。
【0003】
これに対して、特許文献1,2に示されるように、ウエルドラインを発生させずにしかも後加工の必要がない貫通穴を有する射出成形品の射出成形技術が開発されている。
【0004】
特許文献1に示される射出成形品の孔形成方法においては、キャビティを形成する1対の金型内の貫通穴形成部分に向かい合った1対の前後移動可能なピンを設けておき、射出成形された溶融樹脂が完全には固化しない状態で、一方のピンを後退させて溶融樹脂を押し出すための空間を作ると同時に、もう一方のピンをキャビティ内に前進させて貫通穴分の溶融樹脂を途中まで前記空間内に押し出す。そして、溶融樹脂が完全に固化した後に1対のピンを元の位置に戻すことによって、押し出された樹脂が製品から切断されて形成された貫通穴の中に収容される。これによって、ウエルド部の発生を防止して成形品の外観を向上しつつ、ピンの円滑な作動を可能とすることができるとしている。
【0005】
また、特許文献2に示される射出成形方法においては、キャビティ内に溶融樹脂を射出してその流動が停止した後に、油圧シリンダによって押し抜きピンをキャビティ内に押し込み貫通穴を形成する。溶融樹脂が硬化した後に押し抜きピンをキャビティから退避させて型開き・脱型を行うことによって、溶融樹脂の射出時にはキャビティ内に溶融樹脂の流れを分岐させるような突起が存在しないので、ウエルドラインが成形品表面に表れることがなく、精度良く貫通穴を備えた射出成形品が得られるとしている。
【特許文献1】特開2001−225357号公報
【特許文献2】特開2003−053784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術においては、溶融樹脂の流動停止後にこのような手段で樹脂を移動させる場合、形成された貫通穴の内面の仕上がり状態が良くない。したがって、後加工が必要となってコスト高となり、肉厚にも制限が生ずる。また、特許文献2に記載の技術においては、油圧シリンダで押し抜きピンを駆動しており、かかる油圧シリンダ制御においてはピンを駆動させる際の速度を精度良くコントロールできないため、貫通穴の精度を確保することができないという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、貫通穴を有する射出成形品の成形においてウエルドラインを発生させることなく、生産性が良好で、肉厚に制限がなく、精度良く貫通穴を形成することができる射出成形用金型及び射出成形方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明にかかる射出成形用金型は、1または2以上の貫通穴を有する射出成形品を成形するための射出成形用金型であって、前記射出成形品を成形するためのキャビティを形成する一方の金型及び他方の金型と、前記キャビティの前記貫通穴部分に突出可能に前記一方の金型または前記他方の金型に摺動自在に設けられた摺動ピンと、該摺動ピンを突出方向に付勢するばねと、前記摺動ピンに微振動を付与する微振動付与手段と、前記ばねの付勢力を受け止めて前記摺動ピンを前記キャビティ内に突出しないように停止させておくストッパーと、射出成形スクリューの位置を検知して前記射出成形スクリューが前記キャビティ内に溶融樹脂を充填し終わる直前に前記ストッパーを解除して前記摺動ピンを前記キャビティ内に突出させるストッパー解除手段とを具備するものである。
【0009】
請求項2の発明にかかる射出成形方法は、1または2以上の貫通穴を有する射出成形品を成形するための射出成形方法であって、前記射出成形品を成形するためのキャビティを形成する一方の金型または他方の金型に摺動自在に設けられた前記貫通穴を形成するための摺動ピンを前記キャビティ方向に付勢するばねの付勢力をストッパーで受け止めて前記摺動ピンを前記キャビティ内に突出しないように停止させる工程と、前記摺動ピンに微振動を付与する工程と、射出成形スクリューを前進させて前記キャビティ内に溶融樹脂を流入させる工程と、前記射出成形スクリューの位置を検知して前記射出成形スクリューが前記キャビティ内に溶融樹脂を充填し終わる直前に前記ストッパーを解除して前記摺動ピンを前記キャビティ内に突出させる工程と、前記摺動ピンが前記キャビティ内を貫通した時点で前記摺動ピンに付与されていた前記微振動を停止させる工程と、前記キャビティ内に充填された前記溶融樹脂を冷却固化させる工程と、前記一方の金型及び前記他方の金型を開いて射出成形品を取り出す工程とを具備するものである。
【0010】
請求項3の発明にかかる射出成形用金型または射出成形方法は、請求項1または請求項2の構成において、前記摺動ピンに付与される前記微振動の振動数は1kHz〜1MHzの範囲内であるものである。
【0011】
請求項4の発明にかかる射出成形用金型または射出成形方法は、請求項1または請求項2若しくは請求項3の構成において、前記ストッパーを解除するタイミングは前記射出成形スクリューが前記キャビティ内に前記溶融樹脂を85%〜95%の範囲内で充填した時点であるものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明にかかる射出成形用金型は、射出成形品を成形するためのキャビティを形成する一方の金型及び他方の金型と、キャビティの貫通穴部分に突出可能に一方の金型または他方の金型に摺動自在に設けられた摺動ピンと、摺動ピンを突出方向に付勢するばねと、摺動ピンに微振動を付与する微振動付与手段と、ばねの付勢力を受け止めて摺動ピンをキャビティ内に突出しないように停止させておくストッパーと、射出成形スクリューの位置を検知して射出成形スクリューがキャビティ内に溶融樹脂を充填し終わる直前にストッパーを解除して摺動ピンをキャビティ内に突出させるストッパー解除手段とを具備する。
【0013】
ここで、「ばね」としては、コイルスプリング、板ばね、ぜんまい、等を用いることができる。
【0014】
上記特許文献1及び特許文献2においては、いずれも充填された溶融樹脂に過大な力を掛けて貫通穴を形成しているために、貫通穴の内面の仕上がりが悪かったり、貫通穴の精度が出なかったりという不都合を生じている。そこで、本発明者は鋭意実験研究の結果、貫通穴を形成する際にキャビティ内に溶融樹脂が充填され終わる直前に摺動ピンに微振動を付与しながら低圧で押し込むことによって、貫通穴の内面の仕上がりが良好になり、貫通穴の精度が出るようになることを見出し、これらの知見に基いて本発明を完成したものである。
【0015】
即ち、過大な力を掛けないためにばねによって摺動ピンを付勢して突出力を与えて溶融樹脂に低圧で摺動ピンを押し込むようにし、また摺動ピンを押し込むタイミングを射出成形スクリューの位置を検知して射出成形スクリューがキャビティ内に溶融樹脂を充填し終わる直前とすることによって、上記特許文献1及び特許文献2におけるよりも溶融樹脂がより軟らかい状態で押し込まれる。さらに、低圧でも容易に半分固化しかかった溶融樹脂に穴を開けるために、摺動ピンに微振動を付与しながら半分固化しかかった溶融樹脂に押し込むことによって、溶融樹脂の摺動ピンに接触する部分が流動状態になって、容易に押し込むことができるものである。
【0016】
そして、このように摺動ピンに微振動を付与しながら半分固化しかかった溶融樹脂に押し込むことによって、溶融樹脂の摺動ピンに接触する部分が流動状態になるため、従来よりもずっと厚い射出成形体にも貫通穴を開けることができ、厚さの限界が大きく広がることとなる。
【0017】
このようにして、貫通穴を有する射出成形品の成形においてウエルドラインを発生させることなく、生産性が良好で、肉厚に制限がなく、精度良く貫通穴を形成することができる射出成形用金型となる。
【0018】
請求項2の発明にかかる射出成形方法は、射出成形品を成形するためのキャビティを形成する一方の金型または他方の金型に摺動自在に設けられた貫通穴を形成するための摺動ピンをキャビティ方向に付勢するばねの付勢力をストッパーで受け止めて摺動ピンをキャビティ内に突出しないように停止させる工程と、摺動ピンに微振動を付与する工程と、射出成形スクリューを前進させてキャビティ内に溶融樹脂を流入させる工程と、射出成形スクリューの位置を検知して射出成形スクリューがキャビティ内に溶融樹脂を充填し終わる直前にストッパーを解除して摺動ピンをキャビティ内に突出させる工程と、摺動ピンがキャビティ内を貫通した時点で摺動ピンに付与されていた微振動を停止させる工程と、キャビティ内に充填された溶融樹脂を冷却固化させる工程と、一方の金型及び他方の金型を開いて射出成形品を取り出す工程とを具備する。
【0019】
ここで、「ばね」としては、コイルスプリング、板ばね、ぜんまい、等を用いることができる。
【0020】
上記特許文献1及び特許文献2においては、いずれも充填された溶融樹脂に過大な力を掛けて貫通穴を形成しているために、貫通穴の内面の仕上がりが悪かったり、貫通穴の精度が出なかったりという不都合を生じている。そこで、本発明者は鋭意実験研究の結果、貫通穴を形成する際にキャビティ内に溶融樹脂が充填され終わる直前に摺動ピンに微振動を付与しながら低圧で押し込むことによって、貫通穴の内面の仕上がりが良好になり、貫通穴の精度が出るようになることを見出し、これらの知見に基いて本発明を完成したものである。
【0021】
即ち、低圧で摺動ピンを押し込むためにばねでキャビティ方向に付勢し、その付勢力をストッパーで受け止めて摺動ピンをキャビティ内に突出しないように停止させておき、摺動ピンに微振動を付与してから、射出成形スクリューを前進させてキャビティ内に溶融樹脂を流入させて、射出成形スクリューがキャビティ内に溶融樹脂を充填し終わる直前にストッパーを解除して摺動ピンをキャビティ内に突出させる。これによって、溶融樹脂がより軟らかい状態で摺動ピンがばねの付勢力で押し込まれるとともに、摺動ピンに微振動が付与されているために摺動ピンに接触した溶融樹脂が流動状態となって、より容易に貫通穴が形成される。
【0022】
摺動ピンがキャビティ内を貫通した時点で、摺動ピンに微振動を付与するのを停止して、溶融樹脂の冷却固化を促進する。そして、キャビティ内に充填された溶融樹脂が冷却固化したら、一方の金型及び他方の金型を開いて射出成形品を取り出す。この時、一方の金型または他方の金型とともに、摺動ピンも突出した状態で射出成形品の貫通穴から引き抜かれる。その後、再びばねの付勢力をストッパーで受け止めて摺動ピンをキャビティ内に突出しないように停止させて、摺動ピンに微振動を付与してから、次の射出成形が同様に実施される。
【0023】
このようにして、貫通穴を有する射出成形品の成形においてウエルドラインを発生させることなく、生産性が良好で、肉厚に制限がなく、精度良く貫通穴を形成することができる射出成形方法となる。
【0024】
請求項3の発明にかかる射出成形用金型または射出成形方法においては、摺動ピンに付与される微振動の振動数が1kHz〜1MHzの範囲内、より好ましくは10kHz〜100kHzの範囲内である。
【0025】
本発明者が鋭意実験研究を積み重ねた結果、摺動ピンに付与される微振動の振動数が1kHz〜1MHzの範囲内、より好ましくは10kHz〜100kHzの範囲内である場合により良好で高精度の貫通穴が形成されることが判明した。摺動ピンに付与される微振動の振動数が1kHz未満であると摺動ピンが押し込まれ易くなる効果が得られず、逆に微振動の振動数が1MHzを超えると溶融樹脂の摺動ピンに接触する部分が軟らかくなり過ぎて貫通穴の精度が得られなくなる。本発明者は、これらの知見に基いて本発明を完成したものである。
【0026】
このようにして、貫通穴を有する射出成形品の成形においてウエルドラインを発生させることなく、生産性が良好で、肉厚に制限がなく、精度良く貫通穴を形成することができる射出成形用金型または射出成形方法となる。
【0027】
請求項4の発明にかかる射出成形用金型または射出成形方法においては、ストッパーを解除するタイミングが射出成形スクリューがキャビティ内に溶融樹脂を85%〜95%の範囲内で充填した時点である。
【0028】
本発明者が鋭意実験研究を積み重ねた結果、以下の事実が判明した。即ち、ストッパーを解除するタイミング、即ち摺動ピンをキャビティ内に前進させるタイミングは、射出成形スクリューがキャビティ内に溶融樹脂を85%充填する以前であると、溶融樹脂が軟らか過ぎて貫通穴の精度が出ず、また貫通穴がキャビティの先端近傍に設けられている場合には、溶融樹脂が到達する以前に摺動ピンがキャビティ内を貫通してしまうためウエルドラインが発生してしまう。
【0029】
また、逆に摺動ピンをキャビティ内に前進させるタイミングが、射出成形スクリューがキャビティ内に溶融樹脂が95%を超えて充填された時点であると、溶融樹脂が固化し始めているため、低圧で摺動ピンを押し込むことが困難になってくる。したがって、ストッパーを解除するタイミングは、射出成形スクリューがキャビティ内に溶融樹脂を85%〜95%の範囲内で充填した時点であることが好ましい。本発明者は、これらの知見に基いて本発明を完成したものである。
【0030】
このようにして、貫通穴を有する射出成形品の成形においてウエルドラインを発生させることなく、生産性が良好で、肉厚に制限がなく、精度良く貫通穴を形成することができる射出成形用金型または射出成形方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型及び射出成形方法について、図1乃至図4を参照して説明する。
【0032】
図1(a)は本発明の実施の形態にかかる射出成形方法によって成形される射出成形品の全体構造を示す斜視図、(b)は射出成形品の従来の射出成形方法におけるウエルドラインの発生を説明する説明図である。図2(a)は本発明の実施の形態にかかる射出成形方法において摺動ピンが突出する前の状態を示す模式図であり、(b)は摺動ピンが突出した後の状態を示す模式図である。図3は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の全体構造を示す縦断面図である。図4は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型及び射出成形方法における摺動ピンの微振動及び前進・後退のタイミングを示す説明図である。
【0033】
図1(a)に示されるように、本実施の形態にかかる射出成形品Wは、燃料電池用セパレータであり、PPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂からなり、平板部W1の三方が枠部W2で囲まれ、平板部W1の表面と裏面にはそれぞれ16本ずつのリブW3が設けられている。そして、平板部W1の四隅には、円形の貫通穴Hが4個設けられている。図1(b)に示されるように、従来の射出成形方法においては、円形の貫通穴Hの部分には円形の中子N1、三角形の貫通穴(燃料電池用セパレータの種類によっては設けられる場合がある。)の部分には三角形の中子N2がキャビティ4内に設置されるため、ゲートGから注入された溶融樹脂MPは矢印で示されるように分岐して充填される結果、ウエルドラインL1,L2が生じていた。
【0034】
これに対して、本実施の形態にかかる射出成形方法においては、図2(a)に示されるように、キャビティ4内に突出する摺動ピン5を設けて、溶融樹脂MPがキャビティ4内に充填される間は摺動ピン5を後退させておき、図2(b)に示されるように、溶融樹脂MPがキャビティ4内に充填される直前に摺動ピン5をキャビティ4内に突出させて貫通穴Hを形成するので、ウエルドラインが形成される恐れがない。
【0035】
次に、本実施の形態にかかる射出成形用金型の具体的な構造について、図3を参照して説明する。図3に示されるように、本実施の形態にかかる射出成形用金型1は、キャビティ4を形成する一方の金型としての上型2と他方の金型としての下型3とを具備し、固定型である上型2内にはキャビティ4の貫通穴H部分に突出可能に摺動自在に設けられた摺動ピン5A,5Bと、摺動ピン5A,5Bをその支持板6A,6Bにおいて突出方向に付勢するばねとしてのコイルスプリング7A,7Bとを具備している。
【0036】
実際には、図1(a)に示されるように、本実施の形態にかかる射出成形品Wには、4個の貫通穴Hが設けられるため、射出成形用金型1の別の縦断面において、もう1対の摺動ピンとその支持板及びコイルスプリングが設けられている。
【0037】
さらに、摺動ピン5A,5Bに微振動を付与する微振動付与手段として、摺動ピン5A,5Bの支持板6A,6Bに取付けられた図示しない電気振動子と、それらの電気振動子に所定の電力を供給する振動子駆動電源10及び電力線10A,10Bが設けられている。また、コイルスプリング7A,7Bの付勢力を受け止めて摺動ピン5A,5Bをキャビティ4内に突出しないように停止させておくストッパー8A,8Bと、ストッパー8A,8Bを持ち上げた状態に保持するストッパー駆動用エアシリンダ9が設けられている。
【0038】
そして、図示しない射出成形スクリューの位置を信号線11Aを介して検知する制御装置11と、制御装置11からの信号線11Bを介しての制御信号によって、射出成形スクリューがキャビティ4内に溶融樹脂MPを充填し終わる直前にストッパー8A,8Bを解除して摺動ピン5A,5Bをキャビティ4内に突出させるストッパー駆動用エアシリンダ9とによって、ストッパー解除手段が構成されている。さらに、制御装置11からの信号線11Cを介しての制御信号によって、振動子駆動電源10から支持板6A,6Bに取付けられた図示しない電気振動子に所定の電力が供給される。
【0039】
なお、図3においては説明の便宜のため、摺動ピン5Aについては、ストッパー8Aがストッパー駆動用エアシリンダ9によって持ち上げられて、支持板6Aがコイルスプリング7Aの付勢力に抗して上昇位置にあり、摺動ピン5Aが後退した状態を示しており、摺動ピン5Bについては、ストッパー8Bが解除されて支持板6Bがコイルスプリング7Bの付勢力によって下降位置にあり、摺動ピン5Bがキャビティ4内に突出した状態を示しているが、実際には同時にこのような状態になることはなく、ストッパー8A,8Bはストッパー駆動用エアシリンダ9によって一体に駆動され、摺動ピン5A,5Bは同時に前進・後退する。
【0040】
かかる構造を有する本実施の形態の射出成形用金型1における射出成形の手順について、図3及び図4を参照して説明する。まず、図示しない射出成形機に射出成形用金型1が固定され、可動型である下型3を下降させてキャビティ4を開き、離型剤を塗布する。続いて、下型3を上昇させ固定型である上型2と合わせてキャビティ4を形成するとともに、ストッパー駆動用エアシリンダ9によってストッパー8A,8Bを持ち上げて、摺動ピン5A,5Bを後退させておく。
【0041】
この状態で図示しない射出成形シリンダを下降させて先端を射出成形用金型1のスプルーブッシュ2aに密着させ、射出成形スクリューを前進させて射出成形シリンダ内の溶融樹脂を図示しないゲートを通して、キャビティ4内に流入させる。この時、図4に示されるように、射出圧力は一気に上昇してキャビティ4内に溶融樹脂が完全に充填された時に最大圧力となる。
【0042】
制御装置11は、信号線11Aを介して射出成形スクリューの位置を検知し、射出成形スクリューが前進を開始するとともに信号線11Cを介して振動子駆動電源10を作動させ、振動子駆動電源10から電力線10A,10Bを通じて支持板6A,6Bに取付けられた図示しない電気振動子に所定の電力が供給されて、支持板6A,6Bが約100kHzの振動数で微振動し、これによって摺動ピン5A,5Bも約100kHzの振動数で微振動する。
【0043】
そして、図4に示されるように、キャビティ4内に溶融樹脂が約90%充填された時点で、ストッパー駆動用エアシリンダ9によってストッパー8A,8Bを下降させて解除し、この結果コイルスプリング7A,7Bの付勢力で摺動ピン5A,5Bが前進して、約100kHzの振動数で微振動しながらキャビティ4内に突出する。
【0044】
これによってキャビティ4内に溶融樹脂が約90%充填された比較的軟らかい状態で摺動ピン5A,5Bが押し込まれるので、コイルスプリング7A,7Bの付勢力による低圧でも容易に貫通穴Hを開けることができる。さらに、摺動ピン5A,5Bが約100kHzの振動数で微振動しながら押し込まれるので、固化しかかった溶融樹脂の摺動ピン5A,5Bに接触した部分が流動状態となり、極めて精度良く摺動ピン5A,5Bを前進させて貫通穴Hを形成させることができる。
【0045】
その後、図4に示されるように、摺動ピン5A,5Bがキャビティ4を貫通した時点で制御装置11によって信号線11Cを介して振動子駆動電源10による電力の供給が停止され、摺動ピン5A,5Bの微振動が停止する。保圧・冷却の期間内も摺動ピン5A,5Bは前進してキャビティ4を貫通した状態に保たれ、所定の冷却時間が経過したら下型3を下降させてキャビティ4を開き、エジェクタ板3aを上昇させて、図示しない複数のエジェクタピンで射出成形品Wを押し上げて射出成形品Wの取出しが行われる。
【0046】
この時、下型3の下降に伴って、上型2とともに摺動ピン5A,5Bも突出した状態で射出成形品Wの貫通穴Hから引き抜かれる。その後、再びコイルスプリング7A,7Bの付勢力をストッパー駆動用エアシリンダ9によってストッパー8A,8Bを持ち上げて受け止め、摺動ピン5A,5Bを後退させてキャビティ4内に突出しないように停止させてから、下型3を上昇させてキャビティ4を閉じて次の射出成形が同様に実施される。
【0047】
このようにして、本実施の形態にかかる射出成形用金型1及び射出成形方法においては、貫通穴Hを有する射出成形品Wの成形において、ウエルドラインを発生させることなく、生産性が良好で、射出成形品Wの肉厚に制限がなく、精度良く貫通穴Hを形成することができる。
【0048】
本実施の形態においては、貫通穴として円形の貫通穴Hを4個形成する例について説明しているが、貫通穴の形状は円形に限られるものではなく、矩形・三角形・多角形・楕円形等、あらゆる形状の貫通穴を必要な数だけ精度良く形成することができる。
【0049】
また、本実施の形態においては、射出成形材料としてPPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂を用いて、射出成形品として燃料電池用セパレータを成形する例について説明しているが、射出成形材料としてはこの他にも熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を始めとするあらゆる射出成形材料を用いることができ、また射出成形品としては燃料電池用セパレータよりも肉厚のずっと厚い成形品であっても良好に貫通穴を形成することができる。
【0050】
さらに、本実施の形態においては、射出成形スクリューが前進を開始するとともに摺動ピン5A,5Bに微振動を付与するように制御しているが、もっと以前から、例えば射出成形用金型1が閉じられた時点から摺動ピン5A,5Bに微振動を付与するように制御しても良い。
【0051】
射出成形用金型のその他の構造、形状、材質、大きさ、数量、接続関係等についても、射出成形方法のその他の工程についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1(a)は本発明の実施の形態にかかる射出成形方法によって成形される射出成形品の全体構造を示す斜視図、(b)は射出成形品の従来の射出成形方法におけるウエルドラインの発生を説明する説明図である。
【図2】図2(a)は本発明の実施の形態にかかる射出成形方法において摺動ピンが突出する前の状態を示す模式図であり、(b)は摺動ピンが突出した後の状態を示す模式図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型の全体構造を示す縦断面図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態にかかる射出成形用金型及び射出成形方法における摺動ピンの微振動及び前進・後退のタイミングを示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1 射出成形用金型
2 上型(一方の金型)
3 下型(他方の金型)
4 キャビティ
5,5A,5B 摺動ピン
7A,7B コイルスプリング(ばね)
8A,8B ストッパー
9,11 ストッパー解除手段
10 微振動付与手段
H 貫通穴
MP 溶融樹脂
W 射出成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または2以上の貫通穴を有する射出成形品を成形するための射出成形用金型であって、
前記射出成形品を成形するためのキャビティを形成する一方の金型及び他方の金型と、
前記キャビティの前記貫通穴部分に突出可能に前記一方の金型または前記他方の金型に摺動自在に設けられた摺動ピンと、
該摺動ピンを突出方向に付勢するばねと、
前記摺動ピンに微振動を付与する微振動付与手段と、
前記ばねの付勢力を受け止めて前記摺動ピンを前記キャビティ内に突出しないように停止させておくストッパーと、
射出成形スクリューの位置を検知して前記射出成形スクリューが前記キャビティ内に溶融樹脂を充填し終わる直前に前記ストッパーを解除して前記摺動ピンを前記キャビティ内に突出させるストッパー解除手段と
を具備することを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
1または2以上の貫通穴を有する射出成形品を成形するための射出成形方法であって、
前記射出成形品を成形するためのキャビティを形成する一方の金型または他方の金型に摺動自在に設けられた前記貫通穴を形成するための摺動ピンを前記キャビティ方向に付勢するばねの付勢力をストッパーで受け止めて前記摺動ピンを前記キャビティ内に突出しないように停止させる工程と、
前記摺動ピンに微振動を付与する工程と、
射出成形スクリューを前進させて前記キャビティ内に溶融樹脂を流入させる工程と、
前記射出成形スクリューの位置を検知して前記射出成形スクリューが前記キャビティ内に溶融樹脂を充填し終わる直前に前記ストッパーを解除して前記摺動ピンを前記キャビティ内に突出させる工程と、
前記摺動ピンが前記キャビティ内を貫通した時点で前記摺動ピンに付与されていた前記微振動を停止させる工程と、
前記キャビティ内に充填された前記溶融樹脂を冷却固化させる工程と、
前記一方の金型及び前記他方の金型を開いて射出成形品を取り出す工程と
を具備することを特徴とする射出成形方法。
【請求項3】
前記摺動ピンに付与される前記微振動の振動数は1kHz〜1MHzの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型または請求項2に記載の射出成形方法。
【請求項4】
前記ストッパーを解除するタイミングは前記射出成形スクリューが前記キャビティ内に前記溶融樹脂を85%〜95%の範囲内で充填した時点であることを特徴とする請求項1または請求項3に記載の射出成形用金型若しくは請求項2または請求項3に記載の射出成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−297738(P2006−297738A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122276(P2005−122276)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】