説明

導波路型光回路

【課題】PDLが低減された導波路型光回路を提供すること。
【解決手段】導波路コア同士が近接して配置されて構成された光分岐結合器である光カプラと、前記光カプラの前記導波路コアの両側に沿って形成され、該導波路コアの光学主軸が傾くのを抑制するダミーパターンと、を備える。好ましくは、前記ダミーパターンの長さは、前記光カプラの結合に寄与する結合部の長さと同等、或いはそれ以上である。好ましくは、前記ダミーパターンと前記光カプラの導波路コアとの間隔は、前記光カプラの前記導波路コア間のギャップサイズと同じ大きさか、或いはそれ以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性結合器などの光カプラを備えた導波路型光回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の方向性結合器(Directional Coupler、DC)において、特許文献1に記載されているように、導波路近接部の2つの導波路コアに挟まれた領域(ギャップ部)では、導波路パターンが近接していることが原因で上部クラッド形成時にガラス微粒子の供給が少なくなり、ガラス微粒子密度が疎になる。一方、2つの導波路コアに挟まれていない領域(非ギャップ部)ではガラス微粒子の供給は十分である。このため、ギャップ部と非ギャップ部においてガラス微粒子密度が異なることになり、上部クラッド形成後に2つの導波路コアにギャップ部の内側へ傾ける応力が発生する。その結果、2つの導波路コアの光学主軸が傾き、偏波モード結合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2006/075702号公報(段落0024)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、DC或いはDCを用いたマッハツェンダ干渉計(Mach-Zehnder Interferometer、MZI)回路では、DCでの偏波モード結合起因の偏波依存損失(Polarization Dependent Loss、PDL)が発生する。DCなどの光分岐結合器として例えば平面光導波路(Planar Lightwave Circuit、PLC)型2x2カプラなどのPLC型光カプラがある。また、DCを用いたMZI回路としてPLC型可変光減衰器などがある。しかし、PDLが大きいことがPLC型光カプラやPLC型可変光減衰器などの普及を妨げているという問題があった。また、導波路コアが近接した構造を持つ多モード干渉(Multi-Mode Interference、MMI)カプラやY分岐器などの光分岐結合器においてもDCと同じ現象が起きるため、MMIカプラやY分岐器などの光分岐結合器を用いたMZI回路でも、偏波モード結合起因のPDLが発生する。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、PDLが低減された導波路型光回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る導波路型光回路は、導波路コア同士が近接して配置されて構成された光分岐結合器である光カプラと、前記光カプラの前記導波路コアの両側に沿って形成され、該導波路コアの光学主軸が傾くのを抑制するダミーパターンと、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る導波路型光回路は、上記の発明において、前記ダミーパターンの長さは、前記光カプラの結合に寄与する結合部の長さと同等、或いはそれ以上であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る導波路型光回路は、上記の発明において、前記ダミーパターンと前記光カプラの導波路コアとの間隔は、前記光カプラの前記導波路コア間のギャップサイズと同じ大きさか、或いはそれ以上であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る導波路型光回路は、上記の発明において、前記ダミーパターンの幅は、前記光カプラの導波路伝播光の基底モードが結合しない幅、或いはそれ以上であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る導波路型光回路は、上記の発明において、前記光カプラが、方向性結合器であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る導波路型光回路は、上記の発明において、前記ダミーパターンの長さは、結合部の長さL1と同等、或いはそれ以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る導波路型光回路は、上記の発明において、前記光カプラが、多モード干渉カプラであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る導波路型光回路は、上記の発明において、前記光カプラの偏波モード結合量が−25dB以下となるように、前記ダミーパターンと前記光カプラの導波路コアとの間隔、前記ダミーパターンの長さおよび前記ダミーパターンの幅の少なくとも一つを設定したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る導波路型光回路は、上記の発明において、2つの前記光カプラと、該2つの光カプラ間に接続された2本のアーム導波路とで構成されるマッハツェンダ干渉計回路を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る導波路型光回路は、上記の発明において、火炎堆積法でオーバークラッドを形成した平面光波回路であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る導波路型光回路は、上記の発明において、前記平面光波回路は、PLC型光カプラであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る導波路型光回路は、上記の発明において、前記平面光波回路は、PLC型スターカプラであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る導波路型光回路は、上記の発明において、前記平面光波回路は、2つの前記光カプラと該2つの光カプラ間に接続された2本のアーム導波路とで構成されるマッハツェンダ干渉計回路と、前記2本のアーム導波路の少なくとも一方の上部に形成された薄膜ヒータとを備え、前記薄膜ヒータを位相シフタとして機能させるPLC型可変光減衰器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、PDLが低減された導波路型光回路を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る導波路型光回路の概略構成を示す平面図である。
【図2】図2は、図1のX−X線に沿った断面図である。
【図3】図3は、図1でのダミーパターンの長さを説明する図である。
【図4】図4は、ダミーパターンの無い従来の導波路型光回路を示す平面図である。
【図5】図5は、図4のY−Y線に沿った断面図である。
【図6】図6は、コアにかかる応力とコアが傾く様子を説明するための図である。
【図7】図7は、本発明の第2実施形態に係る導波路型光回路の概略構成を示す平面図である。
【図8】図8は、図7に示す導波路型光回路の結合効率を示すグラフである。
【図9】図9は、図7に示す導波路型光回路のPDLを示すグラフである。
【図10】図10は、図7に示す導波路型光回路の過剰損失を示すグラフである。
【図11】図11は、図7に示す導波路型光回路の変形例を示す平面図である。
【図12】図12は、図7に示す導波路型光回路の別の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明に係る導波路型光回路の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各層の厚みと幅との関係、各層の比率などは、現実のものとは異なる場合がことに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0022】
(第1実施形態)
はじめに、本発明の第1実施形態に係る導波路型光回路について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る導波路型光回路の概略構成を示す平面図である。図2は、図1のX−X線に沿った断面図である。図3は、図1でのダミーパターンの長さを説明する図である。
【0023】
本第1実施形態に係る導波路型光回路10は、一つの方向性結合器11を備えている。方向性結合器11は、導波路コア11a,11b同士が近接して対向するように配置されて構成された光カプラ(光分岐結合器)である。導波路コア11a,11bの両側に沿って、導波路コア11a,11bの光学主軸が傾くのを抑制するダミーパターン21,21がそれぞれ形成されている。つまり、ダミーパターン21,21は、導波路コア11a,11bの近接した部分を挟むように、該導波路コア11a,11bの両側に形成されている。また、図2に示すように、導波路コア11a,11bおよびダミーパターン21,21は、下部クラッド層32、側部クラッド層33、および上部クラッド層34によりその周囲を囲まれている。
【0024】
なお、ダミーパターン21,21は、偏波保持性を高めるために、それ自身に付与される複屈折率が1x10−4以上となる材質を用いることが望ましく、たとえば、導波路コア11a,11bと同じ材質を用いることができる。
【0025】
各ダミーパターン21,21の長さL(図1参照)は、方向性結合器11の結合に寄与する結合部の長さL1(図3参照)と同等、或いはそれ以上であっても良い。ここで、結合部とは結合効率が0%より大きい領域を指す。
【0026】
図1および図2に示すように、ダミーパターン21と導波路コア11aとの間隔B及びダミーパターン21と導波路コア11bとの間隔Bは、方向性結合器11の近接した導波路コア11a,11b間のギャップサイズAと同じか、或いはそれ以上であっても良い。
【0027】
間隔Bについては、方向性結合器11での偏波モード結合起因のPDLを低減するためには、間隔BをギャップサイズAと同じ大きさにするのが一番よい。また、各ダミーパターン21を方向性結合器11の導波路コア11a,11bに近づけ過ぎると、ダミーパターン21と導波路コア11a,11bとの間で微小な光結合が生じてしまうので、間隔BをギャップサイズA×1.0より大きくすることで、微小な光結合が生じるのを抑制して、損失を抑えつつ、偏波モード結合起因のPDLを低減することができる。
【0028】
各ダミーパターン21,21の最小幅W(図1、図2参照)は、方向性結合器11の導波路伝播光の基底モード(導波路コア11a,11bを導波することができる単一のモード)が結合しない幅、或いはそれ以上であっても良い。なお、ここで「導波路伝播光の基底モードが結合しない」とは結合効率がほぼ0%であることを意味する。
【0029】
ダミーパターン21の幅Wが、方向性結合器11の導波路伝播光の基底モードが結合する幅であると、方向性結合器11の導波路コア11a,11bを導波する基底モードの光がダミーパターン21に結合し、出力側導波路には光が結合せず、クラッドモードの光となって過剰損失になる。ダミーパターン21の幅Wを、導波路伝播光の基底モードが結合しない幅、或いはそれ以上に広くすると、導波路コア11a,11bとダミーパターン21とで伝播定数が違うので、導波路コア11a,11bを導波する基底モードの光がダミーパターン21には結合しなくなり、過剰損失が生じない。これにより、過剰損失を抑制することができる。
【0030】
また、導波路型光回路10では、方向性結合器11の偏波モード結合量が−25dB以下となるように、ダミーパターン21の長さL、上記間隔Bおよびダミーパターン21の幅Wの少なくとも一つを設定するのが好ましい。
【0031】
(第1実施形態の作製方法)
以上の構成を有する導波路型光回路10の作製方法(以下の工程(1)〜(3))を図2に基づいて説明する。
【0032】
(1)火炎堆積(Flame Hydrolysis Deposition、FHD)法により、シリコン(Si)基板31上に、下部クラッド層32および導波路およびダミーパターンを形成するための不図示のコア層となるシリカ材料(SiO2系のガラス微粒子)を堆積し、加熱してガラス膜を溶融透明化する。
【0033】
(2)この後、フォトリソグラフィと反応性イオンエッチングでコア層から所望の導波路およびダミーパターンを形成する。ここでは、方向性結合器11の導波路コア11a,11bと、導波路コア11a,11bに沿ったダミーパターン21、21とを形成する。ここで、ダミーパターン21、21を導波路コア11a,11bと同じ材質で形成するものとする。フォトリソグラフィで用いる導波路パターンが描かれたフォトマスクに、ダミーパターン21,21を描いておけば、作製工程の追加をすることなく、コア層に導波路コア11a,11bとダミーパターン21,21とを同時に形成できる。
【0034】
(3)この後、FHD法により、側部クラッド層33および上部クラッド層34となるシリカ材料(SiO2系のガラス微粒子)を堆積して各導波路コア11a,11bおよびダミーパターン21,21を側部クラッド層33および上部クラッド層34で埋め込み、高温で加熱してガラス膜を溶融透明化(ガラス化)する。
【0035】
このようにして、図1に示す導波路型光回路10が作製される。ところで、上記工程(3)で、側部クラッド層33および上部クラッド層34となるガラス微粒子を堆積し、ガラス化して側部クラッド層33および上部クラッド層34を形成する際に、導波路コア11a,11bの間隔Bの間隔Bが数μmと狭く、ガラス微粒子が導波路コア11a,11b間にあまり入っていかない。このため、導波路コア11a,11b間のガラス微粒子密度がそれぞれ疎になる。
【0036】
しかしながら、本第1実施形態に係る導波路型光回路10では、方向性結合器11の両側にダミーパターン21,21が設けられ、ダミーパターン21と導波路コア11a,11bとの間隔Bを上記ギャップサイズAと同じか、或いはそれ以上にしている。このため、導波路コア11a,11b間のガラス微粒子密度は疎になるが、その周囲もガラス微粒子密度が疎になるので、導波路コア11a,11bがそれぞれ内側に傾く等の不具合は発生しない。
【0037】
つまり、導波路コア11a,11b間のガラス微粒子密度が、各ダミーパターン21,21と各導波路コア間のガラス微粒子密度に近づくので、両導波路コア11a,11bを内側へ傾けようとする応力の発生が抑制される。このため、両導波路コアコア11a,11bの光学主軸が傾くことが抑制され、方向性結合器11において偏波クロストーク光の発生が抑制され、偏波モード結合が抑えられる。これにより、偏波モード結合起因のPDLを低減することができる。
【0038】
(ダミーパターンの無い導波路型光回路)
次に、上記第1実施形態の比較例として、ダミーパターンの無い従来の導波路型光回路の作製方法(以下の工程(1a)〜(3a))を、図4〜図6に基づいて説明する。
【0039】
図4は、方向性結合器110を備えた従来の導波路型光回路を示す平面図である。この導波路型光回路は次のようにして作製する。図5、図6は、図4のY−Y線に沿った断面図である。特に、図6(A),(B)は、コアにかかる応力とコアが傾く様子を説明するための図である。
【0040】
(1a)FHD法により、シリコン(Si)基板310上に、下部クラッド層320および導波路を形成するための不図示のコア層となるシリカ材料(SiO2系のガラス微粒子)を堆積し(図5参照)、加熱してガラス膜を溶融透明化する。
【0041】
(2a)この後、フォトリソグラフィと反応性イオンエッチングでコア層から所望の導波路を形成する。ここでは、方向性結合器110の導波路コア110a,110b等の導波路を形成する。
【0042】
(3a)この後、FHD法により、側部クラッド層330および上部クラッド層340となるシリカ材料を堆積して各導波路コア110a,110bを側部クラッド層330および上部クラッド層340で埋め込み、高温で加熱してガラス膜を溶融透明化(ガラス化)する。
このようにして、方向性結合器110を含む導波路型光回路が作製される。
【0043】
ところで、上記工程(3a)で、側部クラッド層330および上部クラッド層340となるガラス微粒子を堆積し、ガラス化して側部クラッド層330および上部クラッド層340を形成する際に、導波路コア110a,110bの間隔が1μmと狭く、ガラス微粒子が導波路コア110a,110b間にあまり入っていかない。このため、導波路コア110a,110b間のガラス微粒子密度がそれぞれ疎になる。このとき、両導波路コア110a,110bを内側へ傾ける力F(図6(A)参照)が働いてガラス化される。これにより、非常に極端な場合で言えば、両導波路コア110a,110bが若干変形した状態で内側へ傾き、導波路コア110a,110bの光学主軸が傾く(図6(B)参照)。
【0044】
このような比較例の状態では異なる偏波の光同士での結合(偏波モード結合)が起き、光回路の偏波依存性が大きくなるため、偏波モード結合起因のPDLが発生する。
【0045】
以上のように構成された第1実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0046】
(1)方向性結合器11の導波路コア11a,11bの両側に沿ってダミーパターン21,21を形成し、非ギャップ部(2つの導波路コアに挟まれていない領域)にダミーパターン21と導波路コア11aまたは導波路コア11bとに挟まれた構造を設けている。これにより、2つの導波路コア11a,11b間(ギャップ部)においてガラス微粒子密度が疎になるのと同じように、上記非ギャップ部におけるガラス微粒子密度を疎にすることができる。従って、ダミーパターン21の形成により、非ギャップ部のガラス微粒子密度をギャップ部のガラス微粒子密度に近づけることができる。このとき各導波路コア11a,11bの両側(非ギャップ部とギャップ部)におけるガラス微粒子密度が近くなるため、上部クラッド層形成過程においてガラス微粒子密度の差によって生じる導波路コア11a,11bをギャップ内側へ傾けようとする応力の発生を抑制することができる。すなわち、ダミーパターン21を設けることで、前記応力により両導波路コア11a,11bの光学主軸が傾き方向性結合器11において異なる偏波同士の光で結合が起きる偏波モード結合を抑制でき、偏波モード結合起因のPDLを低減することができる。
【0047】
(2)各ダミーパターン21,21の長さLを、方向性結合器11の結合に寄与する結合部の長さL1と同等、或いはそれ以上にしている。これにより、結合に寄与している全領域(結合部の長さL1)において、導波路コア11a,11bの光学主軸が傾くことが抑制されるため、偏波モード結合を抑制でき、偏波モード結合起因のPDLを低減することができるという効果がより適切にあらわれる。上記偏波モード結合起因のPDLをより効果的に低減することができる。
【0048】
(3)上記間隔Bを上記ギャップサイズAと同じか、或いはそれ以上にしている。これにより、数μm程度のギャップ構造ではギャップサイズAに依存してガラス微粒子密度が疎になるため、間隔BとギャップサイズAを一致させることにより、各導波路コア11a,11bの両側(非ギャップ部とギャップ部)におけるガラス微粒子密度を一致させることができ、前記応力発生を最も効果的に抑制することができる。このため、両導波路コア11a,11bの光学主軸が傾くことが抑制され、方向性結合器11での偏波モード結合が抑えられ、偏波モード結合起因のPDLを低減することができる。上記間隔Bは上記ギャップサイズAと同じ大きさが一番よい。しかし、ダミーパターン21を導波路コア11a,11bに近づけ過ぎると、ダミーパターン21と導波路コア11a,11bとの間で微小な光結合が生じてしまうので、間隔BをギャップサイズA以上にすることで、微小な光結合が生じるのを抑制して、損失を抑えることができる。さらに、ダミーパターン21を設けることで、前記応力により両導波路コア11a,11bの光学主軸が傾き方向性結合器11において偏波同士で結合が起きる偏波モード結合を抑制でき、偏波モード結合起因のPDLを低減することができる。このように、損失を抑えることができると共に、偏波モード結合起因のPDLを低減することができる。
【0049】
(4)ダミーパターン21の幅Wを、方向性結合器11の導波路伝播光の基底モードが結合しない幅、或いはそれ以上にしている。ダミーパターン21の幅Wが、方向性結合器11の導波路伝播光の基底モードがダミーパターン21に結合する幅であると、方向性結合器11の導波路コアを導波する基底モードの光がダミーパターン21に結合し、出力側導波路には光が結合せず、クラッドモードの光となって過剰損失になる。ダミーパターン21の幅Wを、導波路伝播光の基底モードが結合しない幅、或いはそれ以上に広くすると、導波路コア11a,11bとダミーパターン21とで伝播定数が違うことになる。その結果、導波路コア11a,11bを導波する基底モードの光がダミーパターン21には結合しなくなり、過剰損失が生じない。これにより、過剰損失を抑制することができる。
【0050】
(5)方向性結合器11の偏波モード結合量が−25dB以下となるように、ダミーパターン21の長さL、上記間隔Bおよびダミーパターン21の幅Wの少なくとも一つを設定している。これにより、方向性結合器11において過剰損失を抑制しつつ、偏波モード結合を−25dB以下という十分に小さい値にすることができ、PDL低減効果が得られる。
【0051】
(6)上述した導波路型光回路10の作製方法によれば、その製法は従来とほぼ同じであり、特段の作製工程の追加をすることなく導波路型光回路10を作製することができる。
【0052】
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態に係る導波路型光回路10Aの概略構成を示す平面図である。図7に示す第2実施形態に係る導波路型光回路は、PLC型可変光減衰器(PLC-VOA)10Aとして構成されている。
【0053】
PLC-VOA10Aは、2つの方向性結合器11,12と、2つの方向性結合器11,12間に接続された2本のアーム導波路13,14と、アーム導波路14上部に設けた薄膜ヒータ15とで構成されるマッハツェンダ干渉計(MZI)回路20を備える。なお、ここでは1つのMZI回路から構成されるPLC-VOAについて説明するが、本発明はMZI回路中の光カプラに適用するものであるため、MZI回路を多段に接続して構成されるPLC-VOAにも本発明は適用可能である。
【0054】
PLC-VOA10Aでは、薄膜ヒータ15に外部から電力を印加することにより、アーム導波路14を加熱し、発熱量に応じた熱光学効果を介して、アーム導波路14の実効屈折率を変化させることができる。アーム導波路14の実効屈折率の変化は、伝播する信号光にとって光路長が変化することに対応する。すなわち、薄膜ヒータ15への印加電圧を変えることによりアーム導波路13、14間の光路長差を設定することが可能である。
【0055】
PLC-VOA10Aでは、MZI回路20の入力ポートP1から入力された信号光は入力側の方向性結合器11で分岐され、2本のアーム導波路13、14を独立に伝播した後、所望の光路長差をもって出力側の方向性結合器12で再結合され、出力ポートP3から出力される。このとき、MZI回路20の結合効率は、アーム導波路13、14間の光路長差が0のとき最大(1)となり、光路長差が信号光波長の2分の1に等しいとき最小(0)となる。また光路長差がこれらの間のとき結合効率は1から0まで連続的に変化する。すなわち、光路長差を適時設定することにより所望の結合効率を得ることができ、可変光減衰器として動作させることができる。
【0056】
PLC-VOA10Aでは、方向性結合器11の両側にその導波路コア11a,11bの光学主軸が傾くのを抑制するダミーパターン21が形成されていると共に、方向性結合器12の両側にその導波路コア12a,12bの光学主軸が傾くのを抑制するダミーパターン22が形成されている。なお、図2に示すPLC-VOA10Aにおける間隔B,ギャップサイズA,ダミーパターン21,22の長さL、およびダミーパターン21,22の幅Wなどの各パラメータは、図1に示す導波路型光回路10における各パラメータと同じである。また、PLC-VOA10Aでは、方向性結合器11,12の偏波モード結合量が−25dB以下となるように、ダミーパターン21,22の長さL、上記間隔Bおよびダミーパターン21,22の幅Wの少なくとも一つを設定するのが好ましい。
【0057】
(第2実施形態の作製方法)
このような構成を有するPLC-VOA10Aの作製方法(以下の工程(1)〜(4))を、上述した第1実施形態の作製方法および図7に基づいて説明する。
【0058】
(1)FHD法により、シリコン(Si)基板上に、下部クラッド層および導波路コアおよびダミーパターンを形成するためのコア層となるシリカ材料(SiO2系のガラス微粒子)を堆積し、加熱してガラス膜を溶融透明化する。
【0059】
(2)この後、フォトリソグラフィと反応性イオンエッチングでコア層から所望の導波路およびダミーパターンを形成する。ここでは、方向性結合器11の導波路コア11a,11b、2本のアーム導波路13,14、および方向性結合器12の導波路コア12a,12b等の導波路と、導波路コア11a,11b,12a,12bに沿ったダミーパターン21,22とを形成する。ここで、フォトリソグラフィで用いる導波路パターンが描かれたフォトマスクに、ダミーパターンを描いておけば、作製工程の追加をすることなく、コア層に導波路とダミーパターンを同時に形成できる。
【0060】
(3)この後、FHD法により、側部クラッド層および上部クラッド層となるシリカ材料(SiO2系のガラス微粒子)を堆積して各導波路およびダミーパターンを側部クラッド層および上部クラッド層で埋め込み、高温で加熱してガラス膜を溶融透明化(ガラス化)する。
【0061】
(4)続いて上部クラッド層上にヒータと配線電極を形成する。
【0062】
このようにして、PLC-VOA10Aが作製される。ところで、上記工程(3)で、側部クラッド層および上部クラッド層となるガラス微粒子を堆積し、ガラス化して側部クラッド層および上部クラッド層を形成する際に、導波路コア11a,11bの間隔B及び導波路コア12a,12bの間隔Bが数μmと狭く、ガラス微粒子が導波路コア11a,11b間および導波路コア12a,12b間にあまり入っていかない。このため、導波路コア11a,11b間及び導波路コア12a,12b間のガラス微粒子密度がそれぞれ疎になる。
【0063】
しかしながら、本実施形態に係るPLC-VOA10Aでは、方向性結合器11,12の両側にダミーパターン21,22がそれぞれ設けられ、ダミーパターン21と導波路コア11a,11bとの間隔B及びダミーパターン22と導波路コア12a,12bとの間隔Bを上記ギャップサイズAと同じか、或いはそれ以上にしている。このため、導波路コア11a,11b間及び導波路コア12a,12b間のガラス微粒子密度は疎になるが、その周囲もガラス微粒子密度が疎になるので、導波路コア11a,11b及び導波路コア12a,12bがそれぞれ内側に傾く等の不具合は発生しない。
【0064】
つまり、導波路コア11a,11b間及び導波路コア12a,12b間のガラス微粒子密度が、各ダミーパターン21,22と各導波路コア間のガラス微粒子密度に近づくので、両導波路コア11a,11b及び12a,12bを内側へ傾けようとする応力の発生が抑制される。このため、両導波路コア11a,11b及び12a,12bの光学主軸が傾くことが抑制され、各方向性結合器11,12において異なる偏波の光同士で結合が起きる偏波モード結合が抑えられ、偏波モード結合起因のPDLを低減することができる。
【0065】
以上のように構成された第2実施形態によれば、以下のように、上記第2実施形態と同様の作用効果およびこれに加えてさらなる作用効果を奏する。
【0066】
(1)方向性結合器11,12の両側にダミーパターン21,22がそれぞれ設けられているので、上記第1実施形態の場合と同様に、方向性結合器11,12において偏波モード結合が抑えられ、偏波モード結合起因のPDLを低減することができる。
【0067】
(2)PLC-VOA10Aでは、結合効率が0と100の間の領域を使って光を消光させるが消光比が大きい(すなわち結合効率が小さい)ほど偏波依存性の影響が出やすくなりPDLが大きくなるので、低PDL化が重要なデバイスである。本実施形態によれば、偏波モード結合起因のPDLを低減したPLC-VOA10Aを実現することができる。
【0068】
(3)図7に示すPLC-VOA10AにおいてMZI回路20のポートP1(入力ポート)からポートP3(出力ポート)への結合効率を4%程度に設定した場合において、上記間隔BをそれぞれギャップサイズAと同じ大きさである1(μm),あるいはギャップサイズAより大きい3(μm),5(μm)及び10(μm)とした場合と、比較のためダミーパターンが無い場合について、実測した結合効率、PDL、過剰損失をそれぞれ図8、図9、図10に示している。
【0069】
図8より、上記間隔Bをそれぞれ1(μm),3(μm),5(μmm)及び10(μm)とした場合に、ダミーパターンが無い場合と同程度の上記結合効率が得られることが分かる。
【0070】
図9において、PDLは、間隔B=1(μm)のときに最も小さく、間隔B=1,3,5(μm)の順に増加し、B=5(μm)以上のB=10(μm)ではほとんど変わらない。また間隔B=1,3,5,10(μm)のいずれもダミーパターン無しの場合に比べてPDLは小さい。したがって、ダミーパターンを形成することによりPDLが小さくなり本発明の効果が得られていることがわかる。さらにB≦5(μm)の範囲ではPDLはギャップ幅に依存して小さくなり、間隔BをギャップサイズAと同じ大きさである1(μm)にした場合に、PDLが最も小さくなる。すなわち間隔BをギャップサイズAと同じ大きさとした場合に本発明のPDL低減効果が最も高く得られていることが分かる。またB≧5(μm)において、PDLはB=5(μm)の場合とほぼ同じ値であり、PDLの間隔B依存性はほとんどない上に、PDLはダミーパターン無しよりも小さい。すなわち間隔B≧5(μm)を用いれば、Bの作製誤差に影響を受けず一定のPDL低減効果を得ることができる。
【0071】
一方、図10より、B=1(μm)のときのみ過剰損失が高いことがわかる。これは各ダミーパターン21,22を各方向性結合器11,12の導波路コアに近づけ過ぎると、微小な光結合が生じてしまうためである。すなわち、B=1(μm)ではPDL低減効果は最も高いが過剰損失が生じてしまう。そこで、間隔BをギャップサイズAより大きくして、たとえばB=3,5,10(μm)を用いれば、その過剰損失を抑えつつPDL低減効果を得ることができる。なお、図10に示す過剰損失には、結合損失も含まれている。
【0072】
(4)上述したPLC-VOA10Aの作製方法によれば、その製法は従来とほぼ同じであり、特段の作製工程の追加をすることなくPLC-VOA10Aを作製することができる。
【0073】
なお、この発明は以下のように変更して具体化することもできる。
上記第2実施形態に係るPLC-VOA10Aにおいて、導波路コア同士が近接した光カプラ(光分岐結合器)の一例として説明した方向性結合器11,12に代えて、図11に示すようなMMIカプラ40を2つ用い、これら2つのMMIカプラ40と、2つのMMIカプラ40間に接続された2本のアーム導波路でそれぞれ構成される複数のMZI回路を備えたPLC-VOA等の導波路型光回路にも本発明は適用可能である。MMIカプラ40は、互いに近接した入力側の2つの導波路コア41a,41bと、互いに近接した出力側の2つの導波路コア42a,42bと、を備えている。導波路コア41a,41bの両側にダミーパターン43,43が、導波路コア42a,42bの両側にダミーパターン44,44がそれぞれ形成されている。なお、図11において符号「45」はマルチモード光干渉を発生させるためのスラブ導波路である。
【0074】
また、上記第2実施形態に係るPLC-VOA10Aにおいて、導波路コア同士が近接した光カプラの一例として説明した方向性結合器11,12に代えて、図11と同様のMMIカプラ40を2つ用いる場合、図12に示すようにMMIカプラ40の両側にダミーパターン46,46を形成しても良い。ダミーパターン46、46は、導波路コア41a,42aの外側および導波路コア41b,42bの外側にそれぞれ位置するダミーパターン43,44がMMIカプラ40の外側で接続されてそれぞれ1つのダミーパターンとなっているものである。
【0075】
また、上記第2実施形態に係るPLC-VOA10Aにおいて方向性結合器11,12に代えて、非対称X型分岐器など、導波路コアが近接する領域において偏波モード結合が発生する光カプラ(光分岐結合器)を用いたPLC-VOA等の導波路型光回路にも本発明は適用可能である。
【0076】
また、上記第2実施形態では、導波路型光回路の一例としてPLC型可変光減衰器(PLC-VOA)について説明したが、PLC型スターカプラやPLC型2×2カプラなどのPLC型光カプラとして構成された導波路型光回路にも本発明は適用可能である。
【0077】
また、本発明は、導波路コアを近接した構造をそれぞれ持つ2つの光カプラと、2つの光カプラ間に接続された2本のアーム導波路で構成されるMZI回路を備える導波路型光回路で、DQPSK(Differential Quadrature Phase Shift Keying)方式を用いた光伝送システムに用いる遅延復調デバイスにも適用可能である。このような遅延復調デバイスに、上記PLC-VOA10Aと同様に、本発明を適用することにより、偏波モード結合起因のPDLを低減した遅延復調デバイスを実現することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 導波路型光回路
10A PLC-VOA
11,12 方向性結合器
11a,11b,12a,12b 導波路コア
13,14 アーム導波路
15 薄膜ヒータ
20 MZI回路
21,22 ダミーパターン
A ギャップサイズ
B 間隔
L,L1 長さ
P1 入力ポート
P3 出力ポート
W 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路コア同士が近接して配置されて構成された光分岐結合器である光カプラと、
前記光カプラの前記導波路コアの両側に沿って形成され、該導波路コアの光学主軸が傾くのを抑制するダミーパターンと、
を備えることを特徴とする導波路型光回路。
【請求項2】
前記ダミーパターンの長さは、前記光カプラの結合に寄与する結合部の長さと同等、或いはそれ以上であることを特徴とする請求項1に記載の導波路型光回路。
【請求項3】
前記ダミーパターンと前記光カプラの導波路コアとの間隔は、前記光カプラの前記導波路コア間のギャップサイズと同じ大きさか、或いはそれ以上であることを特徴とする請求項1に記載の導波路型光回路。
【請求項4】
前記ダミーパターンの幅は、前記光カプラの導波路伝播光の基底モードが結合しない幅、或いはそれ以上であることを特徴とする請求項1に記載の導波路型光回路。
【請求項5】
前記光カプラが、方向性結合器であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の導波路型光回路。
【請求項6】
前記ダミーパターンの長さは、結合部の長さL1と同等、或いはそれ以上であることを特徴とする請求項5に記載の導波路型光回路。
【請求項7】
前記光カプラが、多モード干渉カプラであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の導波路型光回路。
【請求項8】
前記光カプラの偏波モード結合量が−25dB以下となるように、前記ダミーパターンと前記光カプラの導波路コアとの間隔、前記ダミーパターンの長さおよび前記ダミーパターンの幅の少なくとも一つを設定したことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の導波路型光回路。
【請求項9】
2つの前記光カプラと、該2つの光カプラ間に接続された2本のアーム導波路とで構成されるマッハツェンダ干渉計回路を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の導波路型光回路。
【請求項10】
火炎堆積法でオーバークラッドを形成した平面光波回路であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の導波路型光回路。
【請求項11】
前記平面光波回路は、PLC型光カプラであることを特徴とする請求項10に記載の導波路型光回路。
【請求項12】
前記平面光波回路は、PLC型スターカプラであることを特徴とする請求項10に記載の導波路型光回路。
【請求項13】
前記平面光波回路は、2つの前記光カプラと該2つの光カプラ間に接続された2本のアーム導波路とで構成されるマッハツェンダ干渉計回路と、前記2本のアーム導波路の少なくとも一方の上部に形成された薄膜ヒータとを備え、前記薄膜ヒータを位相シフタとして機能させるPLC型可変光減衰器であることを特徴とする請求項10に記載の導波路型光回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−22273(P2012−22273A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162186(P2010−162186)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】