説明

導電性を有するコーティング剤

【課題】透明性及びハードコート特性を有する高分子組成物を提供する。
【解決手段】
(a)以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす);及び
(b)HBO及びBからなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物:
を、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率で反応させて得られる反応生成物を含む、高分子物質と、
(c)カーボンナノチューブ及び高分子有機半導体からなる群から選択される少なくとも1種の成分と、
を含む、高分子組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性及びハードコート特性を有する高分子組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明性及びハードコート特性を有する無機コーティング組成物は、いろいろと知られている。有機シラン化合物とホウ素化合物とを含むケイ素系物質は、両化合物を水分中で加水分解反応させて高分子化して得られるものか、あるいは、両化合物が反応せず高分子化していないものであった。この加水分解反応は、通常、ゾル・ゲル法で実施されるが、複雑な工程を要し、製造に長時間要するという欠点が存在する。
【0003】
たとえば、非特許文献1には、金属アルコシキドの1つとしてシリコンエトキシド(Si(OC)や追加の原料である他の金属アルコキシドとしてトリメトキシホウ素(B(OCH)を原料に用い、アルコール溶媒および水に溶解させて、溶液のpHや使用する触媒をコントロールしながら、ゾル・ゲル法によりガラスを製造する方法が記載されている。この方法は、金属アルコキシドを加水分解・縮重合させてゾルを形成し、反応条件をコントロールしながらゲル化させ、その後、乾燥及び焼結してガラスを得るものである。
【0004】
また、非特許文献2には、金属アルコシキドの1つとしてシリコンエトキシド(Si(OC)を水と反応させ加水分解させてゾルを形成し、その後、水の量、触媒の種類、pH、プロセス条件などをコントロールしながらゲル状態を経て、有機無機複合体を製造する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献1には、加水分解性シリル基を含有する硬化性樹脂(A)と、三フッ化ホウ素やそのアミン錯体などのルイス酸(B)と、分子内にアミノ基を有するアミノシラン化合物(C)と、加水分解性シリル基及びメルカプト基を含むメルカプトシラン化合物(D)とを含有する、硬化速度の速い硬化性樹脂組成物が記載されている。
【0006】
特許文献2には、グリシドキシプロピル基含有アルコキシシランとアミノプロピル基含有アルコキシシランを混合、反応させてなる物質を含む常温硬化性組成物が記載されている。しかし、膜形成用塗布液を得るには、上記常温硬化性組成物に対して、希釈溶媒、硬化触媒及び紫外線吸収剤を含有させる必要がある。
【0007】
特許文献3には、オルガノハロゲンシランとしてジクロロジフェニルシランと、三塩化ホウ素との混合物をトルエン溶媒中で、0℃以下の温度で混合してアンモニアガスで共アンモノリシスすることにより得られる、特定の骨格構造を有するホウ素含有オルガノシラザンポリマーの製造方法が記載されている。
【0008】
また、従来、各種電子部品、例えば、IC、コンデンサー、トランジスタ、LSIなどは、帯電した静電気のスパークによって破壊され易い為に、これらの電子部品は導電性(帯電防止性)のキャリアテープやキャリアトレイなどと称される容器に封入されて保管及び輸送されている。これら電子部品の容器は、導電性樹脂シートから成形するか、あるいは絶縁性樹脂から成形した容器の表面に導電性塗料を塗布して容器が静電気を帯電しない程度の導電性を有するようにして使用されている。これらの導電剤としては導電性カーボンブラックや各種高分子有機半導体、例えばポリピロール、ポリチオフェン及びポリアニリンなどを挙げることができる。特許文献4には、樹脂シートの少なくとも一方の面に、樹脂バインダー中に分子状に近いポリピロール及び/又はポリアニリンが含まれている導電層が形成されていることを特徴とする導電性樹脂シートが提供されている。即ち、樹脂シートの少なくとも一方の面に、ピロール及び/又はアリニンと樹脂バインダーとを含む塗料を塗布および乾燥して塗膜を形成し、該塗膜に酸化剤を作用させて塗膜中にポリピロール及び/又はポリアニリンを生成させることを特徴にしている。特許文献4によれば、塗膜中においてポリピロール及び/又はポリアニリンが生成されるので、これらの導電性物質は分子状に近い状態(粒径0.01μm以下)で存在しており、少量であっても優れた導電性を与えるとしている。
【特許文献1】特開2005−54174号公報
【特許文献2】特開2000−319512号公報
【特許文献3】特開平7−11001号公報
【特許文献4】特開2002−220484号公報
【特許文献5】特開平8−295826号公報
【非特許文献1】ガラス工学ハンドブック、朝倉書店発行、初版、47〜49頁、1999年7月5日
【非特許文献2】ガラス工学ハンドブック、朝倉書店発行、初版、432〜438頁、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜3に示される発明は、いわゆるゾル・ゲル法によって、塗膜を形成する方式であり水を加えて加水分解などの複雑な工程を必要とし、その分だけ、コストアップにつながっていた。また特許文献4においては樹脂バインダーを採用していることから、耐候性や光学特性に問題点を有し、ハードコート特性という面から見れば、充分なる物性は有していない。
【0010】
本発明は、ゾル・ゲル法などで必要とされる加水分解などの複雑な工程を要せず、しかも耐候性や透明性などの光学特性も優れ、ハードコート特性を有するとともに導電特性をも有する高分子組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記の課題を解決したものであり、
(a)以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす);及び
(b)HBO及びBからなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物:
を、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率で反応させて得られる反応生成物を含む、高分子物質と、
(c)カーボンナノチューブ及び高分子有機半導体からなる群から選択される少なくとも1種の成分と、
を含む、高分子組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
ゾル・ゲル法などで必要とされる加水分解などの複雑な工程を必要とせず、しかも耐熱性が高く、透明性など優れた光学特性と、かつハードコート特性及び導電特性を有する高分子組成物が得られる。本発明の高分子組成物は、コーティング剤として、樹脂フィルム、シート及び樹脂成形品の少なくとも一方の面に塗布することにより、樹脂製品に高機能を付与することができる。また、防食塗膜としても利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(詳細な説明)
本発明における(a)成分と(b)成分とを反応させて得られる反応生成物を含む高分子物質に関しては、本発明者らにより、すでに、2005年5月31日に日本特許出願がなされ(特願2005−159037)、また、2006年5月31日にPCT国際出願がなされた(PCT/JP2006/310859)。本件出願は、これらの日本特許出願及びPCT国際出願の内容を参照することにより、本出願に取り込む。
【0014】
(a)成分(アミノ基を含むシラン化合物)と(b)成分(ホウ素化合物)を混合すると、反応し、数分から数十分で透明で粘稠な液体となり、固化する。これは、ホウ素化合物が、(a)成分中のアミノ基を介して架橋剤として働き、これらの成分を高分子化させて、その結果、粘稠な液体となり、固化するからであると考えられる。なお、(a)成分は液体である。本発明では、上記(a)成分と(b)成分との反応に際し、水を使用しない。
【0015】
(a)成分は、以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物である。
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす。)
【0016】
ここで、Rはアミノ基含有の有機基を表わすが、たとえば、モノアミノメチル、ジアミノメチル、トリアミノメチル、モノアミノエチル、ジアミノエチル、トリアミノエチル、テトラアミノエチル、モノアミノプロピル、ジアミノプロピル、トリアミノプロピル、テトラアミノプロピル、モノアミノブチル、ジアミノブチル、トリアミノブチル、テトラアミノブチル、及び、これらよりも炭素数の多いアルキル基またはアリール基を有する有機基を挙げることができるが、それらに限定されない。γ−アミノプロピルや、アミノエチルアミノプロピルが特に好ましく、γ−アミノプロピルが最も好ましい。
【0017】
(a)成分中のR’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わす。その中でも、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0018】
(a)成分中のnは1〜3から選択される整数を表わす。その中でも、nは2〜3であるのが好ましく、nは3であるのが特に好ましい。
すなわち、(a)成分としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0019】
(b)成分は、HBO及びBからなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物である。(b)成分は、好ましくは、HBOである。
【0020】
(a)成分と(b)成分との反応における両成分の使用量は、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率であり、好ましくは、0.02モル〜8モルの比率、より好ましくは、0.02モル〜5モルの比率である。
(a)成分1モルに対し、(b)成分が0.02モル未満では、固化に要する時間が長くなったり、充分に固化しなかったりすることがある。また、(b)成分が8モルを越すと、(b)成分が(a)成分に溶解せず残ってしまうことがある。
【0021】
本発明の高分子物質(a)成分と(b)成分との混合条件(温度、混合時間、混合方法など)は、適宜選択することができる。通常の室温条件では、数分から数十分で透明で粘稠な液体となり、その後、固化する。固化する時間や得られる反応生成物の粘度や剛性はホウ素化合物の割合でも異なる。
【0022】
前記ホウ素化合物(b)は、好ましくは、炭素数1〜7のアルコールに溶解したホウ素化合物アルコール溶液である。炭素数1〜7のアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、各種プロピルアルコール、各種ブチルアルコール、及びグリセリンなどが挙げられるが、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。当該アルコール溶液を使用することにより、(b)成分を(a)成分に溶解する時間を短縮できる。なお、取り扱い上アルコール中のホウ素化合物の濃度は高いほうが好ましい。
【0023】
前記反応生成物は、好ましくは、水を添加して加水分解する工程を経ないで(a)成分と(b)成分を反応させて得られる反応生成物である。
【0024】
(c)成分は、カーボンナノチューブ及び高分子有機半導体からなる群から選択される少なくとも1種の成分である。(c)成分を配合することにより、本発明の高分子組成物には、導電性が付与される。
【0025】
(c)成分のカーボンナノチューブは、強度や電気伝導性熱伝導性及び高摺動性などを有する新材料として期待され、本発明において極めて重要なものである。
【0026】
(c)成分のカーボンナノチューブ(以下「CNT」という)は炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層あるいは多層の同軸管状になった物質の総称である。単層のものをシングルウォールナノチューブ(SWNT)、複層のものをマルチウォールナノチューブ(MWNT)という。特に二層のものはダブルウォールナノチューブ(DWNT)とも呼ばれている。
【0027】
本発明においては、各種のCNTが使用可能であるが、これらCNTをアルコール中に分子レベルで分散したものが配合する際に好ましく、特に導電性や透明性を維持するためにはシングルウォールナノチューブ(SWNT)が最も好ましい。
【0028】
本発明におけるCNTの六員環の配列、五員環や七員環の存在割合、直径、長さ、及び分子量などは特に限定されないが、例えば、直径0.4〜10nm、長さ10nm〜1000nmが好ましい。
【0029】
本発明において、これら各種のCNTの配合量は限定されるものではないが、本発明の高分子組成物に導電性(帯電防止性能)を付与できる量を配合すれば十分である。具体的には本発明の高分子組成物(固型分)中において、(c)成分を除く他の成分100重量部に対し、好ましくは1〜10重量部、より好ましくは2〜7重量部添加すれば良い。
【0030】
(c)成分の高分子有機半導体は導電性高分子ともいわれる。従来、一般の高分子物質は電気を通さないという性質であるが、最近に至って、ポリアセチレンの物性の研究から各種高分子有機半導体が開発され、その応用についてもいろいろと検討されるようになってきた。通常高分子有機半導体は溶剤に不溶のものが多かったが、最近に至り、高分子有機半導体のうち数種類は各種の溶剤に溶解するものも開発されつつある。また高分子有機半導体の導電性能も著しく向上し、電子部品を中心とし、利用分野が拡大している。
【0031】
本発明における(c)成分の高分子有機半導体、即ち導電性高分子は、特に限定されるものではないが、好ましくは、ポリアニリン、ポリパラフェニリン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリイミダゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリチオフェン、ポリベンズチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロールおよびこれらの骨格に置換基を導入したポリマーよりなる群から選ばれた、一種もしくは二種類以上の混合物及び/又は共重合物である。
【0032】
本発明における(c)成分の高分子有機半導体がポリアセチレンの場合は、共役2重結合が空気酸化を受けやすく不安定なことがあり、本発明においては特に好ましいものではない。
【0033】
本発明における(c)成分としてより好ましい高分子有機半導体としては、例えばポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、これらの誘導体、及び、これらにドーパントを導入したものが挙げられる。これらは単独で使用しても良い。(c)成分の高分子有機半導体として特に好ましくは、ポリアニリン及び/又はその導電体にドーパントを導入したものである。
【0034】
上記ドーパントは、特に限定されるものではないが、好ましくは、塩酸、硫酸、硝酸、可塩素酸などの無機酸;ベンゼンスルホン酸、P−トルエンスルホン酸、m−ニトロ安息香酸、トリクロロ酢酸などの有機酸;ポリスチレンスルホン酸、ポリビニール硫酸などのポリマー酸;などのプロトン酸ドーパントが挙げられる。これらは単独で使用しても2種類以上を混合して使用しても良い。これらのドーパントのドーピング量は特に限定されるものではないが、例えば、1〜50%が好ましい。
【0035】
本発明における(c)成分である高分子有機半導体、即ち導電性高分子、の配合量は特に限定されないが、本発明のうち透明でハードコート特性を有し、帯電防止領域の導電性を特に付与するためには、本発明の高分子組成物中において、(c)成分を除く他の成分100重量部に対し、好ましくは1〜10重量部、より好ましくは2〜7重量部配合すれば良い。また、透明性を期待せず、より優れた導電性を特に付与する場合には、本発明の高分子組成物中において、(c)成分を除く他の成分100重量部に対し、好ましくは10〜70重量、より好ましくは15〜50重量部配合すれば良い。
【0036】
本発明の高分子組成物は、(d)成分として、金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの縮合物を更に含むことができる。すなわち、前記(a)成分と(b)成分との反応に際して、あるいは、反応後、(d)成分を添加させることができる。(d)成分を添加することにより、得られる反応生成物中の金属塩の含有率を高めることができ、電気特性や化学特性をより向上させることができるとともに、(d)成分を用いない場合と同様の粘稠な液体の状態となるので、繊維やフィルム状に加工することができる。
【0037】
(d)成分の金属アルコキシドの金属としては、Si、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sb、などを挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、Si、Ti、Zr、Alであり、より好ましくは、Si、Ti、Zrであり、また、(d)成分の金属アルコキシドは液体であることが好ましいため、Si、Tiが特に好ましい。(d)成分の金属アルコキシドのアルコキシド(アルコキシ基)としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、及びそれ以上の炭素数を有するアルコキシ基を挙げることができる。メトキシ、エトキシ、プロポキシ、及びブトキシが好ましく、メトキシ及びエトキシがより好ましい。
【0038】
(d)成分の金属アルコキシドの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、メチルトリメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、プロピルトリプロポキシチタン、ブチルトリブトキシチタン、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、メチルトリメトキシジルコニウム、エチルトリエトキシジルコニウム、プロピルトリプロポキシジルコニウム、及びブチルトリブトキシジルコニウムなどを挙げることができる。その中でも、好ましいものとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、及びメチルトリメトキシシランを挙げることができ、より好ましいものとしては、テトラエトキシシラン及びテトラメトキシシランを挙げることができる。
【0039】
(d)成分の金属アルコキシドの使用量は、(a)成分1モルに対して10モル以下の比率が好ましい。より好ましくは、0.1モル〜5モルの比率である。(a)成分1モルに対し、(d)成分が0.1モル未満では、前述したような(d)成分を添加する効果が得られにくくなることがあり、また、(d)成分が5モルを越すと、白濁してしまうことがある。
【0040】
(d)成分の金属アルコキシドの縮合物としては、以下の式(d1)及び(d2)からなる群から選択される少なくとも1種の式で表わされる金属アルコキシドの縮合物(d)を挙げることができる。
【化1】


(式中、Rは、アルキル基を表わし、その一部は水素であってもよく、Rは、夫々独立に同一であっても異なっていてもよく、mは2〜20から選択される整数を表わし、Mは、Si、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の金属を表わす。)
【0041】
すなわち、前記(a)成分と(b)成分との反応に際して、あるいは、反応後、(d)成分を添加することができる。(d)成分を添加することにより、硬度を高めることができ、電気特性や化学特性をより向上させることができるとともに、粘稠な液体の状態となるので、繊維やフィルム状に加工することができる。
【0042】
(d)成分である前記金属アルコキシドの縮合物の添加量は、前記(a)成分1モルに対し、金属アルコキシドモノマー重量換算で、2〜50モルであるのが好ましく、4モル以上であるのが、より好ましい。すなわち、(d)成分の添加量が多すぎる場合には、硬度が低下する傾向があり、逆に、少なすぎる場合には、Si含有量が少なくなるので用途によっては硬度が低下したり化学的耐久性の問題が発生することがある。また、(d)成分の添加量が多すぎる場合には、本発明の高分子組成物を得るための硬化時間が長くなる傾向がある。
【0043】
(d)成分中のRはアルキル基を表わし、その一部は水素であってもよく、Rは、夫々独立に同一であっても異なっていてもよいが、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びそれ以上の炭素数を有するアルキル基であり、メチル基あるいはエチル基であるのが好ましい。
【0044】
(d)成分中のmは、2〜20から選択される整数を表わすが、3〜10であるのが好ましく、5であるのが最も好ましい。
【0045】
(d)成分中のMは、Si、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の金属を表わすが、SiまたはTiであるのが好ましく、Siが最も好ましい。
【0046】
(d)成分を構成する金属アルコキシドモノマー単位としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、メチルトリメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、プロピルトリプロポキシチタン、ブチルトリブトキシチタン、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、メチルトリメトキシジルコニウム、エチルトリエトキシジルコニウム、プロピルトリプロポキシジルコニウム、及びブチルトリブトキシジルコニウムなどを挙げることができる。
【0047】
(d)成分が前記式(d1)で表わされる場合には、テトラエトキシシランの縮合物(5量体)又はテトラメトキシシランの縮合物(5量体)であるのが好ましく、前記式(d2)で表わされる場合には、エチルトリエトキシシランの縮合物(5量体)又はメチルトリメトキシシランの縮合物(5量体)であるのが好ましい。
【0048】
本発明の高分子組成物は、上記のように、(d)成分として、金属アルコキシド(モノマー)及び/又は金属アルコキシドの縮合物を含むことができるが、金属アルコキシドモノマーの粘性は、同縮合物に比べて低いため、金属アルコキシドモノマーを更に含有させることにより、得られる高分子組成物の基材への密着性が向上することがあるという優位点があるが、金属アルコキシドモノマーの含有量を、同縮合物と同量以上など多くすると、塗膜を厚くした時の被膜性が低下してしまうことがある。
【0049】
本発明の高分子組成物は、前記(d)成分の代わりにあるいは(d)成分に加えて、合成樹脂((e)成分)を更に含むことができる。すなわち、前記(a)成分と(b)成分との反応に際して、あるいは、反応後、(d)成分の代わりにあるいは(d)成分に加えて、(e)成分を添加させることができる。(e)成分を加えることで、得られる反応生成物にクラック防止性を付与することができ、(e)成分を含む高分子組成物は、樹脂ハードコート剤として使用できる。
【0050】
(e)成分の合成樹脂としては、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、及び紫外線硬化性樹脂などを挙げることができ、具体的には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、シリコーン樹脂を挙げることができ、様々な重合度(分子量)を有する合成樹脂を使用することができる。その中でもエポキシ樹脂、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エポキシアクリレート、ビニルエステル樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF、オリゴビニルエステル、オリゴエステルアクリレートなどが好ましい。
【0051】
(e)成分の使用量は、組成物全体に対して50重量%以下の比率が好ましい。より好ましくは、1重量%〜40重量%の比率である。(e)成分が1重量%未満では、前述したような(e)成分を添加する効果が得られにくくなることがあり、また、(e)成分が40重量%を越すと、樹脂硬化剤を添加する必要があることがあり、また、高い硬度が得られないことがある。
【0052】
本発明の高分子組成物に(e)成分を含有させしかも(d)成分として金属アルコキシドの縮合物を含有させる時は、(d)成分の金属アルコキシドの縮合物の含有量を少なめにすることが好ましい。すなわち、(e)成分を含有して(d)成分の含有量が多い場合には、本発明の高分子組成物を得るための硬化時間が長くなる傾向があり、湿気硬化時間が長くなる問題が発生することがある。この場合、具体的には、(d)成分の添加量は、前記(a)成分1モルに対し、金属アルコキシドモノマー重量換算で、2〜20モルであるのが好ましい。
【0053】
本発明の組成物は、前記(e)成分の代わりにあるいは(e)成分に加えて、ジオール系化合物を更に含むことができる。ジオール系化合物を加えることで、前述したような(e)成分を添加する効果と同様の効果が得られることがある。
【0054】
当該ジオール系化合物としては、特に限定されないが、ポリカプトラクトンジオール、1,6ヘキサンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオールを挙げることができる。その中でもポリエステルジオールが特に好ましい
【0055】
当該ジオール系化合物は、組成物全体に対して50重量%以下の比率が好ましい。より好ましくは、1重量%〜40重量%の比率である。1重量%未満では、前述したようなジオール系化合物を添加する効果が得られにくくなることがあり、また、40重量%を越すと、樹脂硬化剤を添加する必要があることがあり、また、高い硬度が得られないことがある。
【0056】
本発明の高分子組成物は、上記で列挙した成分以外にも、その用途に応じて、着色剤、防黴剤、光触媒材料、防錆剤、防食剤、防藻剤、撥水剤、などを含ませることができる。
【0057】
本発明の高分子組成物を主成分として含ませることにより、コーティング剤または接着剤を得ることができる。
【0058】
本発明の高分子組成物を、無機基材または有機基材に塗布することにより、機能材料を得ることができる。無機基材または有機基材としては、木材、石材、プラスチック、繊維製品等あらゆるものを挙げることができる。このように、本発明のコーティング組成物は、その粘度を1ポイズ以下でも塗工できるため基材の内部に含浸させることにより、その基材材料の素材を活かしながら改質することも可能である。
更に光触媒を含有させてバインダーとして使用しても、通常の有機物バインダーに比べ、経時的に分解することは少ない。また、基材に塗布することにより、基材表面に耐熱性や電気絶縁性を付与することができる。
【0059】
本発明の高分子組成物としての用途は、光表示材及び装置のハードコート用が有用である。例えば、液晶用(具体的には、AG・ARフィルム、TACフィルム、偏光膜、セパレートフィルム、透明電極、カラーフィルター、配向膜、位相差フィルム、プリズムシート、拡散板、導光板、反射板など)のハードコート用として、また、プラズマディスプレーについてもPC、PPコートのハードコート用として有用である。
【0060】
本発明の高分子組成物は、無機物質(Si)を骨格とするため、光触媒を添加してコーティング剤などとして使用しても、有機物(炭素骨格の)接着剤に比べ、分解、劣化しにくい傾向にある。
【実施例】
【0061】
以下に実施例をあげて説明する。
試料の調製は、以下に示す重量比で調合したが、ホウ素化合物((b)成分)にシラン化合物((a)成分)を室温で十分に反応させた後、他の成分((c)成分、(d)成分、(e)成分など)を順次添加配合し変性して高分子組成物を調製した。なお、(b)成分と(c)成分はイソプロパノールに分散して10重量%の分散液にしてから配合した。
【0062】
実施例1
(a)成分としてγ−アミノプロピルトリエトキシシランを221重量部
(b)成分としてホウ酸を61.8重量部
(c)成分としてマルチウォールカーボンナノチューブ(韓国CNT社製)を9重量部
実施例2
(a)成分としてγ−アミノプロピルトリエトキシシランを221重量部
(b)成分としてホウ酸を61.8重量部
(c)成分としてマルチウォールカーボンナノチューブ(韓国CNT社製)を30重量部
(d)成分としてテトラエトキシシランを832重量部
実施例3
(a)成分としてγ−アミノプロピルトリエトキシシランを221重量部
(b)成分としてホウ酸を61.8重量部
(c)成分としてマルチウォールカーボンナノチューブ(韓国CNT社製)を30重量部
(d)成分としてテトラエトキシシランの5量体を600重量部
実施例4
実施例2の高分子組成物に、更に(e)成分としてビスフェノールFを50重量部
実施例5
実施例3の高分子組成物に、更に(e)成分として(e)成分としてビスフェノールFを50重量部
実施例6
(a)成分としてN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランを190重量部
(b)成分としてホウ酸を61.8重量部
(c)成分としてポリピロール(日本カーリット社製)を40重量部
(d)成分としてテトラエトキシシランを832重量部
(e)成分としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを100重量部
実施例7
(a)成分としてN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランを190重量部
(b)成分としてホウ酸を61.8重量部
(c)成分としてポリピロール(日本カーリット社製)を40重量部
(d)成分としてテトラエトキシシランの5量体を600重量部
(e)成分としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを100重量部
実施例8
実施例2の高分子組成物に、更に(c)成分としてプロトン酸ドープポリアニリンを3重量部と、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWNT)を2重量部
【0063】
各実施例の高分子組成物の配合量を表1に示す。
【0064】
実施例1〜8で得られた高分子組成物をPETフィルム(125μm 表面処理グレード、帝人(株)製)に5μm程度塗布し、30分間湿気硬化して、透明で、ハードコート特性を有する導電性塗膜付きPETフィルムを得て、3日後にその物性(全光線透過率、ヘイズ、表面抵抗値、鉛筆硬度)を評価した。評価結果を表1に示す。なお、この物性はJISに準拠して評価した。
【0065】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の高分子組成物は、樹脂フィルム又はシート及び樹脂成形品の少なくとも一方の面に塗布することにより、樹脂フィルム又はシート及び樹脂成形品などの基材に耐熱性、ハードコート特性、更には導電性を付与することが出来る。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす);及び
(b)HBO及びBからなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物:
を、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率で反応させて得られる反応生成物を含む、高分子物質と、
(c)カーボンナノチューブ及び高分子有機半導体からなる群から選択される少なくとも1種の成分と、
を含む、高分子組成物。
【請求項2】
前記ホウ素化合物(b)が、炭素数1〜7のアルコールに溶解したホウ素化合物アルコール溶液である、請求項1に記載の高分子組成物。
【請求項3】
(d)金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの縮合物を更に含む、請求項1又は請求項2に記載の高分子組成物。
【請求項4】
(d)成分中の金属が、Si、Ti及びZrから成る群から選択される少なくとも1つの元素である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子組成物。
【請求項5】
(e)合成樹脂を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の高分子組成物を含む、コーティング剤。

【公開番号】特開2008−120960(P2008−120960A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308739(P2006−308739)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】