説明

導電性ローラ及び導電性ローラの製造方法

【課題】 導電性ローラの被覆層を得るための浸漬塗工工程において、塗工液の粘度変動が及ぼす膜厚の変化を軽減すること、更には通常入手可能な粘度調節機能を持った循環塗工機において、塗工液の物性を長期間に亘って安定させ、膜厚の変化が小さく均一な被覆層を有する導電性ローラ及び該導電性ローラの製造方法を提供することである。
【解決手段】 通電性軸芯体上に少なくとも1層の導電性弾性層及び被覆層を順次積層する導電性ローラにおいて、
該被覆層は浸漬塗工法によって得られ、浸漬させる塗工液は、主材樹脂に、有機溶剤、導電剤及び樹脂粒子を添加したものを基本構成材料とし、該塗工液の粘度を7〜12mPa・sとしたものであり、且つ該塗工液中からローラを引き上げる際の上昇速度が5mm/sec.以上である導電性ローラ及び該導電性ローラの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置に用いる導電性ローラ及び導電性ローラの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真部品に用いられる導電性ローラには、感光体と均一な圧接幅を確保すること、更に電圧を印加してトナー像を感光体上に形成するために、均一な導電性や耐リーク性を有することが求められる。そこで、例えば導電性支持体(芯金)上に電子導電剤やイオン導電剤を分散し、所望の抵抗値に調整した弾性層を形成し、その外周に耐磨耗性やトナー帯電性、トナー搬送性を得るためにポリアミドやウレタン等の樹脂に、適宣表面粗さを確保するための粗し粒子や、導電性を確保するための導電剤を添加した表面層を設ける場合が多い。また、現像剤担持部材の抵抗安定化のために弾性層と表面層の間に抵抗調整層(中間層)を設ける場合もある。
【0003】
塗工液を用いて被覆層を形成する場合、均一な塗膜を得ることに優れているディップ塗工が用いられることが多い。一般的な塗工方法としては、適切な粘度及び比重に調整した塗工液中にローラを浸漬させた後に、一定速度又は逐次変化する速度で引き上げることで被覆層を得る方法である。この際、粘度は高くする方向、浸漬後の引き上げ速度は速くする方向で、通常、塗膜の高膜厚化が達成される。
【0004】
導電性ローラの被覆層を形成するために用いられる塗工液には、前述したように樹脂材料溶液中に導電剤や絶縁性粒子といったフィラーを含んでいる。塗工液(スラリー)は、粘度を比較的高く調整したほうが安定であるとされており、浸漬塗工用の塗工液は粘度を比較的高めに調整しておき、ローラを引き上げる速度を遅めにすることで塗膜の膜厚をコントロールしてきたが、高粘度の塗工液は、粘度が微妙に変化した際に、膜厚がそれに敏感に反応し易く、特に浸漬塗工時の下側で顕著であった。つまり塗工液の粘度制御は、非常に厳密に行う必要があった。更には循環塗工機で高粘度の塗工液を使用する場合、配管中でフィラーの堆積が生じ易いこと、塗工液中の異物や凝集物を除去するために組み込まれたフィルタにかかる抵抗が増大すること等により、塗工液の経時安定性が低下するという課題があった。また、高粘度塗工液の循環は圧送ポンプに負荷をかけ、ダイヤフラムの寿命を短くするという懸念もあった。
【0005】
これらに対して、粘度を低くすることで上記の課題を解決しようとした場合、塗工液中の導電剤や絶縁性粒子といったフィラーの分散状態が不安定になり、長時間放置することで、フィラー成分が沈降してしまうという課題があった。これを防ぐために循環塗工機の塗工液の循環速度を速くするという方法もあるが、浸漬塗工時の塗工液の流速が速くなることで、導電性ローラの導電性弾性層上に形成される塗膜にムラが発生し易く、品質トラブルが多くなるという課題があった。これは、塗工液の循環流路中にローラが侵入してくることによって、浸漬したローラの下端では塗工液の流路が急激に狭くなるため、塗工液の流量が多い場合にはこの地点で流速の変化が大きくなるため乱流が発生し、この乱流が塗膜ムラを生じさせるためである。このような塗工液の流速の変化を低減させるために、浸漬槽の断面積を広く取り、浸漬したローラ下端での流速の変化量を小さくするという方法もあるが、これは塗工装置に供給しなければならない塗工液の量が増大するため効率が悪い。
【0006】
例えば先行技術においては、粘度を調整した塗液中に、その塗液により膨潤するゴム又はウレタンにより形成されたローラ本体を有する被塗工物を長さ方向を鉛直にして完全に浸漬し、塗液中で所定の時間停止させたのち、その後被塗工物を所定速度で引き上げることにより該ローラ本体の表面に塗工膜を形成する浸漬塗工において、該ローラ本体の浸漬時に下になる部分の浸漬時間が、上になる部分の浸漬時間の5倍以下となるように、該被塗工物の降下速度、塗液中での停止時間及び塗工物の引き上げ速度を設定することで、従来の方法に比べて簡易かつ高精度に塗工する方法がある(特許文献1)。しかしながら上下の時間差を5倍以下とするには、ローラが完全に浸漬してから引き上げを開始するまでの停止時間を長くするか、もしくはローラの浸漬速度と引き上げ速度を速くする必要がある。前者の長い停止時間は生産性の面からは不利である。また後者はローラが液面に高速で進入した場合には泡を噛み易くなり、表面欠陥が発生する確率が高くなり、高速で引き上げる場合には塗液の循環量を大きくするか浸漬槽の断面積を広くしなければ塗液のオーバーフローが切れてしまうため、塗液の高流量化によって塗膜表面に渦状のムラが発生し、膜厚が不均一となる。従って、浸漬槽の断面積の大型化を必要とするが、そうすると塗工装置が大型になり非効率である。言うまでも無く、オーバーフローさせずに浸漬塗工を行うと、自身の引き上げによる液の流れが渦流を作り出し、塗膜に渦状のムラが発生し、膜厚が不均一となる。
【0007】
また、少なくとも2種類の溶剤を含有する塗工液を用いた浸漬塗布法で導電性基体上に塗膜を形成する電子写真感光体の製造方法であって、該塗工液がシリコーンオイルを含有し、該塗工液の粘度を20mPa・s以下とすることで、比較的低粘度の混合溶剤を含有する塗工液を用いた浸漬塗布法によって、基体下端部に液上がりを発生することなくかつ生産性を低下することなく塗膜を形成して感光体を作製し、該感光体を用いて高い画像品質を得るとある(特許文献2)。シリコーンオイルを添加することで、塗液中の各粒子間の摩擦を低減して、凝集系におけるチクソ性を抑制することが出来ると考えられるが、しかしながらこの技術を導電性ローラの被覆層形成に展開しようとした場合、例えば粘度18mPa・sでは、所望の表面粗さ及び膜厚を得るためにはローラ浸漬後の引き上げ速度を遅くする必要があり、生産性の面で不利となるばかりでなく、僅かな粘度の変動が膜厚に大きく寄与してしまうため、品質も安定しない。
【特許文献1】特許第2757128号公報
【特許文献2】特開2001−312078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決するものであり、導電性ローラの被覆層を得るための浸漬塗工工程において、塗工液の粘度変動が及ぼす膜厚の変化を軽減すること、更には通常入手可能な粘度調節機能を持った循環塗工機において、塗工液の物性を長期間に亘って安定させ、膜厚の変化が小さく均一な被覆層を有する導電性ローラ及び該導電性ローラの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に従って、通電性軸芯体上に少なくとも1層の導電性弾性層及び被覆層を順次積層する導電性ローラにおいて、
該被覆層は浸漬塗工法によって得られ、浸漬させる塗工液は、主材樹脂に、有機溶剤、導電剤及び樹脂粒子を添加したものを基本構成材料とし、該塗工液の粘度を7〜12mPa・sとしたものであり、且つ該塗工液中からローラを引き上げる際の上昇速度が5mm/sec.以上であることを特徴とする導電性ローラが提供される。
【0010】
また、本発明に従って、通電性軸芯体上に少なくとも1層の導電性弾性層及び被覆層を順次積層する導電性ローラの製造方法において、
該通電性軸芯体の外周面上に該弾性層を形成する工程と、
主材樹脂と有機溶剤、導電剤及び樹脂粒子を分散し、塗工液の粘度を7〜12mPa・sに調整する工程と、
5mm/sec.以上の速度で該塗工液中からローラを引き上げることで該弾性層の外周面上に該被覆層を形成する浸漬塗工工程と、
該被覆層を乾燥又は熱硬化する工程と、
を有することを特徴とする導電性ローラの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、浸漬塗工法によって導電性ローラの被覆層を得る際に、通常入手可能な粘度調節機能を持った循環塗工機を採用すること、低粘度の塗工液を用いること、更には膜厚変化を軽減するような塗工速度条件とすることで、高精度な塗膜を長期間に亘って安定して得ることができる導電性ローラ及び該導電性ローラの製造方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
導電性ローラは、図1と図2に示すような形状であり、通電性軸芯体1上に、導電性弾性層2及び被覆層3を順次積層した構成となっている。この導電性弾性層及び被覆層はそれぞれ1層であってもよいし、2層以上の多層構造であってもよい。
【0014】
以下に、導電性ローラとして現像ローラを例にして本発明に関して詳述するが、現像ローラ以外の、帯電ローラ、転写ローラ、クリーニングローラ及び除電ローラ等、被覆層を浸漬塗工法によって得るその他のローラについても同様の考え方を適用することが出来る。
【0015】
(a)通電性軸芯体について
本発明に用いられる通電性軸芯体1は、鉄、銅及びステンレス等の金属材料の丸棒を用いることができる。更に、これらの金属表面に防錆や耐傷性付与を目的としてメッキ処理を施しても構わない。
【0016】
(b)導電性弾性層について
導電性弾性層2の具体的な材料としては、例えば天然ゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)及びクロロプレンゴム(CR)等の合成ゴム、更にはポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂及びシリコーン樹脂等も挙げられる。なかでもセット性に優れたシリコーンゴムが好ましい。これにカーボンブラック、グラファイト及び導電性金属酸化物等の電子伝導機構を有する導電剤及びアルカリ金属塩や四級アンモニウム塩等のイオン伝導機構を有する導電剤を適宣添加し所望の抵抗に調整することができる。
【0017】
(c)被覆層について
被覆層2(表面層)となる主材樹脂には、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、スチレン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(SEBC)及びオレフィン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(CEBC)等が挙げられる。中でも圧縮永久歪みの性質からポリウレタン系樹脂が好ましい。これらの主材樹脂に静摩擦係数を小さくする目的でグラファイト、雲母、二硫化モリブデン及びフッ素樹脂粉末等の固体潤滑材、或いはフッ素系界面活性剤、ワックス又はシリコーンオイル等を添加する場合もある。こうすることで塗工液中での粒子間の摩擦を小さくし、流動性を高めるので、凝集系塗料に特徴的なチクソ性を抑制することが可能になると考えられる。
【0018】
[塗工液中の導電材について]
被覆層に導電性を持たせるために、導電剤としてカーボンブラックが用いられる。カーボンブラックは、必要な抵抗値に応じて種類と添加量を選定する必要があるが、添加量は塗工液中に含まれる主材樹脂固形分100質量部に対して30質量部以下にすることが好ましい。30質量部を超えて添加すると、塗工液の動的粘性と静的粘性の差が大きくなり、粘度の微妙な変化が塗膜の物性に影響し易くなる。
【0019】
[塗料中の絶縁性粒子について]
耐磨耗性やトナー搬送性を得るために樹脂粒子が加えられる。この樹脂粒子には平均粒径が3〜30μmの、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン等の材質によって構成された球形状樹脂粒子が用いられることが多いが、なかでも溶剤により膨潤や溶解が起こらないこと、更に粒子自体の硬さが適度な球形ポリウレタン粒子が好ましい。溶剤により形状が変化してしまうような樹脂粒子では、所望の表面形状が形成できないことは言うまでもない。また樹脂粒子の硬さが柔らか過ぎる場合には、樹脂粒子による凸部での磨耗が速くなってしまうため十分な耐久性が得られず、逆に硬過ぎる場合には、電子写真画像に斑点模様が現れる問題がある。粒径に関しては、粗し粒子の平均粒径が3μmより小さい場合には、粒子の凝集によりチクソ性低減効果が少なくなり、また、粗し粒子の平均粒径が30μmより大きい場合には、所望しない突発的な凸部が形成され、均一な膜厚化が適正になされない可能性が出るばかりか、電子写真画像に斑点模様が現れる問題がある。このように流動性の高い球形状粒子を用いることにより、現像ローラとしての性能の寄与だけでなく、凝集系塗料に特徴的なチクソ性を抑制する効果が得られる。
【0020】
[塗料中の溶媒について]
上記材料を塗工できる状態とするため、各種有機溶剤が加わる。本塗工液に使用できる有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノンのケトン類、トルエンやキシレン等の芳香族類、酢酸エチルやn−酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、エチルセロソルブ及びテトラヒドロピラン等のエーテル類が挙げられ、これらから1種類もしくは複数の有機溶剤を加える。このとき有機溶剤として、少なくとも樹脂成分の溶解性に優れるケトン類溶剤を含むことが好ましい。更には塗料全量のうち40質量%以上がケトン類溶剤であることが好ましい。ケトン類溶剤が40質量%未満の場合には、樹脂成分の溶解が十分でなく、また溶解したとしてもチクソ性が現れることが多く、本発明が解決しようとする課題である、塗工液の粘度変動が及ぼす膜厚の変化の軽減を達成することは困難である。
【0021】
これらの材料を分散し、塗工に適した粘度に調整する。一般的には、浸漬塗工により被覆層を形成する場合、塗工液の粘度を5〜50mPa・sにすることが好ましいと言われている。しかし、樹脂成分やフィラーを含む塗工液の場合、粘度が低いということは塗料固形分が低いということであるから、薄膜を要求される場合には問題はないが、各種導電性ローラの被覆層を形成するものとすれば、1回だけの浸漬塗工ではローラとしての耐久性をクリアするだけの十分な膜厚が得られない。膜厚を厚くするため浸漬の回数を増やす方法もあるが、工程の時間が長くなり、また複数回の塗工は塗面に欠陥を生じるリスクが高まる。また粘度が高い場合には、チクソ性を有する凝集系塗料ではこの特性が高粘度側でより顕著となるため、引き上げ速度を調整したとしてもローラの上下で均一な膜厚を得ることは困難となる。以上の理由から、塗工液の粘度は7〜12mPa・sの範囲であることが必須である。
【0022】
また、塗工液の比重は、0.87g/cm〜0.93g/cmであることが好ましい。0.87g/cmより小さいことは、本発明においては、塗工液の粘度が低いことを意味しており、0.93g/cmより大きいことは塗工液の粘度が高いことを意味しているので、範囲を超えた場合の不具合の理由は、上記の粘度の説明と同様である。
【0023】
浸漬塗工の際の、ローラを引き上げる速度は常に5mm/sec.以上であることが必須である。凝集系塗料の各粒子を分断するような多量の溶媒を加えることで低粘度とし、且つ引き上げ速度を上記の通りとすることで、塗工液粘度の微妙な変化や塗工装置の振動等、数々の変動要因に対して繊細に反応することを防ぎ、安定した塗膜を得ることを可能とする。引き上げ速度が速過ぎる場合には、ローラ上に過剰に塗膜が形成され、引き上げ工程中もしくは後の乾燥工程において液が垂れ、塗面が崩れてしまう問題が発生するが、塗膜の保持性は塗工液によって異なるためここでは規定しない。なお、ローラを塗工液中に沈める際の速度は特に限定されないが、高速で沈めるとローラが液面に触れた瞬間に泡を噛み易いので、少なくともローラが浸漬を開始するときには沈降速度を遅くすることが好ましい。また、ローラの浸漬が完了してからその後引き上げを開始するまでの停止時間も特に限定されないが、ローラ上端の膜厚を得るにはある程度の停止時間があるほうが好ましく、具体的には2〜20秒間の停止時間が好ましい。
【0024】
浸漬塗工を行うための装置は、オーバーフロー方式の循環塗工機であることが好ましい。更にはローラの浸漬時及び引き上げ時いずれにおいても常に塗工槽上部より塗工液がオーバーフローしている状態であることが好ましい。ローラの引き上げによって、塗工槽内では渦流が発生しようとするが、塗工槽下方から上方に向かう塗工液の流れが存在すれば、すなわち塗工液が常にオーバーフローすることによって渦流の発生を抑えることができる。ローラの浸漬中に塗工液がオーバーフローしていないと、渦流によって塗膜上に縞状のムラが発生する。図3に一般的なオーバーフロー方式の循環塗工機の構造を示す。
【0025】
このようにして得た塗膜を乾燥、硬化させて被覆層を得る。なお、被覆層は1層であってもよいし、2層以上の多層構造であってもよい。
【実施例】
【0026】
以下に、具体的な実施例を用いて本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例中の「部」は質量部を意味する。
【0027】
(実施例1)
下記の要領で現像ローラを作製した。
【0028】
「導電性弾性層の作製」
外径φ8mmの鉄製軸芯体(通電性軸芯体)を内径φ16mmの円筒状金型内に同心となるように設置し、液状導電性シリコーンゴム(東レダウコーニング社製 体積固有抵抗10Ω・cm品)を注型後、130℃のオーブンに入れ20分間加熱成型し、脱型後、200℃のオーブンで4時間二次硬化を行い、通電性軸芯体上に厚み4mm、長さ240mmの導電性弾性層を有するローラを得た。
【0029】
「被覆層用塗工液の調製」
ウレタン塗料(商品名:ニッポランN5033、日本ポリウレタン社製)を、固形分濃度10%となるようにメチルエチルケトンで希釈し、導電剤としてカーボンブラック(商品名:MA77、三菱化学製)をウレタン塗料固形分100部に対し20部、絶縁性粒子として平均粒径14μmの架橋ウレタン粒子(商品名:アートパールC400透明、根上工業製)をウレタン塗料固形分100部に対し15部添加した後、十分に分散したものに硬化剤(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製)をウレタン塗料固形分100部に対し10部添加し、更に攪拌して塗工液を得た。この塗工液に更にメチルエチルケトンを加え、測定温度23±1℃にて、回転式粘度計(VISMETRON VDA;芝浦システム製)、No.1ロータ、回転速度60rpmにて10mPa・sになるよう粘度を調整した。なおこの塗工液の比重は0.90g/cm、塗工液全量に占めるケトン系溶剤の割合は45質量%となった。
【0030】
「被覆層の形成」
調製した塗工液を、通常入手可能な粘度調節機能を備えた循環式塗工機に装入して、粘度が10mPa・sであることを確認し、更に粘度制御の安定性を確認するため約1時間循環させた。それから塗工液の液面に対してローラの通電性軸芯体の中心線が垂直になるように保持し、液面に向かって垂直に降下し10mm/sの速度で浸漬してゆき最下点まで降下後、10秒間停止させてから、引き上げ開始直後で7mm/s、導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点で6mm/sとなるよう一次関数のプログラムを組んで調速した。このようにして形成した塗膜を室温にて30分間風乾し、150℃のオーブンに入れ1時間加熱硬化して被覆層を形成、現像ローラを得た。
【0031】
更には、この塗工液を1週間塗工機で循環放置した後に、再度上記と同じ浸漬条件でローラを塗工し、現像ローラを得た。
【0032】
(実施例2)
実施例1と同様に塗工液を分散した後に、同粘度計、同測定条件で7mPa・sになるようメチルエチルケトンを添加し粘度を調整した。この塗工液を実施例1と同様に循環式塗工機に装入、粘度制御の安定性を確認した後、塗工液の液面に対してローラの通電性軸芯体の中心線が垂直になるように保持し、液面に向かって垂直に降下し10mm/sの速度で浸漬してゆき最下点まで降下後、10秒間停止させてから、引き上げ開始直後で12mm/s、導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点で8mm/sとなるよう一次関数のプログラムを組んで調速した。このようにして形成した塗膜を室温にて30分間風乾し、150℃のオーブンに入れ1時間加熱硬化して被覆層を形成、現像ローラを得た。更には、この塗工液を1週間塗工機で循環放置した後に、再度上記と同じ浸漬条件でローラを塗工し、現像ローラを得た。
【0033】
(実施例3)
実施例1と同様に塗工液を分散した後に、同粘度計、同測定条件で12mPa・sになるようメチルエチルケトンを添加し粘度を調整した。この塗工液を実施例1と同様に循環式塗工機に装入、粘度制御の安定性を確認した後、塗工液の液面に対してローラの通電性軸芯体の中心線が垂直になるように保持し、液面に向かって垂直に降下し10mm/sの速度で浸漬してゆき最下点まで降下後、10秒間停止させてから、引き上げ開始直後で6mm/s、導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点で5mm/sとなるよう一次関数のプログラムを組んで調速した。このようにして形成した塗膜を室温にて30分間風乾し、150℃のオーブンに入れ1時間加熱硬化して被覆層を形成、現像ローラを得た。更には、この塗工液を1週間塗工機で循環放置した後に、再度上記と同じ浸漬条件でローラを塗工し、現像ローラを得た。
【0034】
(実施例4)
塗工液の分散過程は実施例1と同様であるが、導電剤のカーボンブラックの添加量を実施例1の20部から30部に増量して塗工液の分散を行った。この塗工液にメチルエチルケトンを添加し、同粘度計、同測定条件で10mPa・sになるよう粘度を調整した。こうして出来た塗工液を実施例1と同様に循環式塗工機に装入、粘度制御の安定性を確認した後、塗工液の液面に対してローラの通電性軸芯体の中心線が垂直になるように保持し、液面に向かって垂直に降下し10mm/sの速度で浸漬してゆき最下点まで降下後、10秒間停止させてから、引き上げ開始直後で7mm/s、導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点で5mm/sとなるよう一次関数のプログラムを組んで調速した。このようにして形成した塗膜を室温にて30分間風乾し、150℃のオーブンに入れ1時間加熱硬化して被覆層を形成、現像ローラを得た。更には、この塗工液を1週間塗工機で循環放置した後に、再度上記と同じ浸漬条件でローラを塗工し、現像ローラを得た。
【0035】
(比較例1)
実施例1と同様に塗工液を分散した後に、同粘度計、同測定条件で6mPa・sになるようメチルエチルケトンを添加し粘度を調整した。この塗工液を実施例1と同様に循環式塗工機に装入、粘度制御の安定性を確認した後、塗工液の液面に対してローラの通電性軸芯体の中心線が垂直になるように保持し、液面に向かって垂直に降下し10mm/sの速度で浸漬してゆき最下点まで降下後、10秒間停止させてから、引き上げ開始直後で15mm/s、導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点で10mm/sとなるよう一次関数のプログラムを組んで調速した。このようにして形成した塗膜を室温にて30分間風乾し、150℃のオーブンに入れ1時間加熱硬化して被覆層を形成、現像ローラを得た。更には、この塗工液を1週間塗工機で循環放置した後に、再度上記と同じ浸漬条件でローラを塗工し、現像ローラを得た。
【0036】
(比較例2)
比較例1で用いた循環式塗工機の塗工液をそのまま使用し、浸漬後の引き上げ条件を、引き上げ開始直後で12mm/s、導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点で10mm/sとなるよう一次関数のプログラムを組んで調速した。このようにして形成した塗膜を室温にて30分間風乾し、150℃のオーブンに入れ1時間加熱硬化して被覆層を形成、現像ローラを得た。更には、この塗工液を1週間塗工機で循環放置した後に、再度上記と同じ浸漬条件でローラを塗工し、現像ローラを得た。
【0037】
(比較例3)
実施例1と同様に塗工液を分散した後に、同粘度計、同測定条件で13mPa・sになるようメチルエチルケトンを添加し粘度を調整した。この塗工液を実施例1と同様に循環式塗工機に装入、粘度制御の安定性を確認した後、塗工液の液面に対してローラの通電性軸芯体の中心線が垂直になるように保持し、液面に向かって垂直に降下し10mm/sの速度で浸漬してゆき最下点まで降下後、10秒間停止させてから、引き上げ開始直後で6mm/s、導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点で3mm/sとなるよう一次関数のプログラムを組んで調速した。このようにして形成した塗膜を室温にて30分間風乾し、150℃のオーブンに入れ1時間加熱硬化して被覆層を形成、現像ローラを得た。更には、この塗工液を1週間塗工機で循環放置した後に、再度上記と同じ浸漬条件でローラを塗工し、現像ローラを得た。
【0038】
(比較例4)
比較例3で用いた循環式塗工機の塗工液をそのまま使用し、浸漬後の引き上げ条件を、引き上げ開始直後で6mm/s、導電性弾性層下端が塗工液液面から出た時点で5mm/sとなるよう一次関数のプログラムを組んで調速した。このようにして形成した塗膜を室温にて30分間風乾し、150℃のオーブンに入れ1時間加熱硬化して被覆層を形成、現像ローラを得た。更には、この塗工液を1週間塗工機で循環放置した後に、再度上記と同じ浸漬条件でローラを塗工し、現像ローラを得た。
【0039】
このようにして得たローラの膜厚及び表面粗さRaを測定し、更に被覆層表面の外観を確認した。なお膜厚の測定は、ローラの両端から20mmの位置で弾性層と被覆層が積層しているように見えるようローラ表面に対して垂直にカッターを入れて切り出し、その断面を倍率1000倍の顕微鏡で観察し、膜厚を測定した。表面粗さは、表面粗さ測定機(サーフコーダSE3500;(株)小坂研究所製)を用い、送り速さ0.1mm/sec、測定長さ2.5mmにてローラの両端から20mmの位置をローラの鉛直方向に測定した。表面粗さのデータは、ローラ10本の平均値を用いた。以下に、各条件の塗工液を1週間循環させた後にローラを作製したときの、そのローラの測定データを示す。
【0040】
評価方法として、膜厚変化で上下膜厚差は、3μm以内であれば良好な現像像が得られる現像ローラである。表面粗さRa上部下部差は、0.2μm以内であれば良好な現像像が得られる現像ローラである。外観は、目視にて欠陥が見当たらないものを良好とした。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1〜4は本発明に基づいた現像ローラの作製方法であり、1週間循環させておいた塗工液を用いて被覆層を作製しても、良好な品質の現像ローラを得ることができた。勿論、塗工機に装入して間もない塗工液のときにも、表1のデータとほぼ同じ値を示し、良好な現像ローラを得た。
【0043】
これに対し、比較例1では塗工液の粘度を6mPa・sに調整し、浸漬塗工時のローラの引き上げ速度を膜厚分布が最適となる初速15mm/s、終速10mm/sにて塗工したが、引き上げ速度が速過ぎたために浸漬塗工時に上部になる側で塗膜のずれ落ちによる液ダレが発生した。この条件では、塗工機に装入して間もない塗工液のときにも同様の問題が発生していた。
【0044】
比較例2は、比較例1の塗工液を用いても被覆層の外観欠陥が発生しないよう、引き上げ速度を遅くすることで解決を図ったが、今度は浸漬塗工時の下部の膜厚が十分に得られず、上部・下部の膜厚差が大きくなり、表面粗さのローラ長手方向のムラが大きくなってしまった。この条件も、塗工機に装入して間もない塗工液のときに同様の問題が発生していた。ちなみに膜厚及び表面粗さのムラは、現像ローラとしてはセット性、トナー搬送性が不均一になるため重大な欠陥である。
【0045】
比較例3では塗工液の粘度を13mPa・sに調整し、浸漬塗工時のローラの引き上げ速度を膜厚分布が最適となる初速6mm/s、終速3mm/sにて塗工したが、少数のローラを測定した結果からは膜厚及び表面粗さの均一な良好なローラが出来たと思われたものの、約1時間連続で塗工したローラで、時間軸とローラ物性値の相関を見たところ、周期的に上部・下部の膜厚差が大きいローラが発生していることが分かった。表1には、この膜厚差が大きくなっていたときのデータを記載している。これは粘度調整機能が付いていても塗工液の粘度は多少変動するために、粘度が低めに振れた際に浸漬塗工時に下部になる側で膜厚が薄くなり、このとき上部・下部の膜厚差が大きくなるという問題が発生したものと考えられる。なおこのような傾向は、塗工機に装入して間もない塗工液のときより、1週間循環させた塗工液のほうが若干顕著であった。
【0046】
比較例4は、比較例3の問題に対処するため、浸漬塗工時のローラの引き上げ速度を初速6mm/s、終速5mm/sとしたが、変動幅は小さくなったものの、浸漬塗工時に下部になる側の膜厚が厚くなり、上部・下部の膜厚差が大きくなってしまった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】導電性ローラの概念的断面図である。
【図2】導電性ローラの概念的側面断面図である。
【図3】オーバーフロー方式の循環塗工機の構造を示す模式図(断面図)である。
【符号の説明】
【0048】
1 通電性軸芯体
2 導電性弾性層
3 被覆層
11 塗工槽
12 昇降機
13 希釈用溶剤タンク
14 攪拌タンク
15 攪拌羽根
16 循環ポンプ
17 エアーチャンバー
18 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電性軸芯体上に少なくとも1層の導電性弾性層及び被覆層を順次積層する導電性ローラにおいて、
該被覆層は浸漬塗工法によって得られ、浸漬させる塗工液は、主材樹脂に、有機溶剤、導電剤及び樹脂粒子を添加したものを基本構成材料とし、該塗工液の粘度を7〜12mPa・sとしたものであり、且つ該塗工液中からローラを引き上げる際の上昇速度が5mm/sec.以上であることを特徴とする導電性ローラ。
【請求項2】
前記塗工液中に含まれる導電剤がカーボンブラックであり、カーボンブラックの添加量が該主材樹脂100質量部に対して30質量部以下である請求項1に記載の導電性ローラ。
【請求項3】
前記主材樹脂がウレタン系樹脂である請求項1又は2に記載の導電性ローラ。
【請求項4】
前記塗工液中に含まれる樹脂粒子が球形ポリウレタン粒子である請求項1〜3のいずれかに記載の導電性ローラ。
【請求項5】
前記有機溶剤に少なくともケトン類溶剤を含み、該塗工液全量に占めるケトン系溶剤の割合が40質量%以上である請求項1〜4のいずれかに記載の導電性ローラ。
【請求項6】
前記塗工液の比重が0.87g/cm〜0.93g/cmである請求項1〜5のいずれかに記載の導電性ローラ。
【請求項7】
前記浸漬塗工を行うための装置がオーバーフロー式の循環塗工機である請求項1〜6のいずれかに記載の導電性ローラ。
【請求項8】
通電性軸芯体上に少なくとも1層の導電性弾性層及び被覆層を順次積層する導電性ローラにおいて、該導電性弾性層がシリコーンゴムを主材としている請求項1〜7のいずれかに記載の導電性ローラ。
【請求項9】
通電性軸芯体上に少なくとも1層の導電性弾性層及び被覆層を順次積層する導電性ローラの製造方法において、
該通電性軸芯体の外周面上に該弾性層を形成する工程と、
主材樹脂と有機溶剤、導電剤及び樹脂粒子を分散し、塗工液の粘度を7〜12mPa・sに調整する工程と、
5mm/sec.以上の速度で該塗工液中からローラを引き上げることで該弾性層の外周面上に該被覆層を形成する浸漬塗工工程と、
該被覆層を乾燥又は熱硬化する工程と、
を有することを特徴とする導電性ローラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−47386(P2007−47386A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230739(P2005−230739)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】