説明

導電性組成物およびその製造方法

【課題】電気伝導性、溶媒溶解性、熱安定性のいずれもが優れた導電性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の導電性組成物は、導電性高分子と、ポリアニオンからなるドーパントと、下記(a)と(b)または(b)のみからなる架橋点形成化合物とを含み、架橋点形成化合物の含有量がポリアニオンに対して2〜50モル当量である。(a)グリシジル基を有する化合物。(b)アリル基、ビニルエーテル基、メタクリル基、アクリル基、メタクリルアミド基、アクリルアミド基から選ばれる1種と、ヒドロキシ基とを有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリンなどの導電性高分子に電子供与性化合物や電子受容性化合物(ドーパント)を添加(ドーピング)した導電性高分子が開発されている。
ドーピングとしては、電子供与性化合物(酸化剤)をドーピングして導電性高分子内に正孔を多数発生させ、その正孔をキャリアとして導電化するp型ドーピングと、電子供与性化合物(還元剤)をドーピングして導電性高分子内に電子を多数発生させ、その電子をキャリアとして導電化するn型ドーピングの2種類がある。
【0003】
上記の導電性高分子は、通常、電解重合法または化学酸化重合法で製造される。
電解重合法では、ドーパントとなる電解質および導電性高分子を形成可能なモノマーの混合溶液を電極上で電解重合して電極上に導電性高分子をフィルム状に形成する方法である。この電解重合法では、電極上でモノマーを重合するので、大量に製造することが困難である上に、得られたフィルムは溶媒溶解性が低く、工業的に使用しにくいという問題があった。
【0004】
これに対して、化学酸化重合法では、電解重合法のような制約がない。すなわち、導電性高分子を形成可能なモノマーに適切な酸化剤および酸化重合触媒を添加することで、溶液中で大量の導電性高分子を得ることができる。しかし、化学酸化重合法では、導電性高分子主鎖の成長に伴い、溶媒に対する溶解性が乏しくなるため、不溶の固形粉末で得られる場合が多かった。溶媒に不溶では基材上に均一な導電膜を形成することが困難である。
そこで、導電性高分子への官能基導入による可溶化、バインダ樹脂への分散による可溶化、アニオン基含有高分子酸を用いた可溶化等が試みられている。しかし、これらの方法では、高い電気伝導性、バインダ樹脂への相溶性、熱安定性を確保することが困難であった。
【0005】
また、高分子成形体固体表面の基材に導電層を形成する方法として、酸化剤と塩化ビニル系共重合体と導電性高分子を形成するモノマーとを溶剤に溶解して基材に塗布し、溶剤により酸化電位を制御しながら、モノマーを重合して塩化ビニル系共重合体と導電性高分子の複合体の形成により基材表面に導電層を設ける方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、導電性高分子の水への分散性を向上させることを目的として、分子量が2000〜500,000のポリスチレンスルホン酸の存在下で、酸化剤を用いて、3,4−ジアルコキシチオフェンを化学酸化重合してポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)溶液を製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。
さらに、導電性高分子の熱安定性を高めることを目的として、酸化防止剤として使用可能なスルホン化された物質と類似の構造をもつ化合物をドーパントおよび熱安定剤としてモノマーに混合して電解重合する製造方法が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−186619号公報
【特許文献2】特許第2636968号公報
【特許文献3】特許第2546617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1記載の方法では、基材の種類によって溶剤が限定されることから酸化電位制御によるモノマーの重合が制限されるため、高い電気伝導性を確保できない。また、絶縁性樹脂である塩化ビニル系共重合体が含まれていることも、高い電気伝導性を確保できない原因となる。
また、特許文献2記載の方法では、導電性高分子を容易に水分散できるが、この方法では、導電性高分子の水分散性を向上させるために、アニオン基含有高分子酸をより多く含ませている。そのため高い電気伝導性が得られにくいという問題があった。
さらに、特許文献3記載の方法では、熱安定性は得られるものの溶媒溶解性が得られにくいという問題があった。
本発明は、電気伝導性、溶媒溶解性、熱安定性のいずれもが優れた導電性組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の導電性組成物は、導電性高分子と、ポリアニオンからなるドーパントと、下記(a)と(b)または(b)のみからなる架橋点形成化合物とを含み、架橋点形成化合物の含有量が前記ポリアニオンに対して2〜50モル当量であることを特徴とする。
本発明の導電性組成物の製造方法は、導電性高分子とポリアニオンからなるドーパントとを複合した複合体を形成した後に、下記(a)と(b)または(b)のみからなる架橋点形成化合物を前記ポリアニオンに対して2〜50モル当量添加することを特徴とする。
(a)グリシジル基を有する化合物。
(b)アリル基、ビニルエーテル基、メタクリル基、アクリル基、メタクリルアミド基、アクリルアミド基から選ばれる1種と、ヒドロキシ基とを有する化合物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性組成物は、電気伝導性、溶媒溶解性、熱安定性のいずれもが優れる上に、成膜性、耐摩耗性も優れる。
本発明の導電性組成物の製造方法によれば、電気伝導性、溶媒溶解性、熱安定性のいずれもが優れる上に、成膜性、耐摩耗性も優れる導電性組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[導電性高分子]
本発明における導電性高分子としては、置換あるいは無置換のポリピロール、置換あるいは無置換のポリチオフェン、およびこれらから選ばれる1種または2種からなる(共)重合体が挙げられる。特にポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、これらから選ばれる1種または2種からなる(共)重合体が挙げられる。
【0011】
[ドーパント]
この導電性組成物は、分子内にアニオン基を有するポリアニオンをドーパントとして含有する。以下、ポリアニオンからなるドーパントのことをポリアニオンドーパントいう。このポリアニオンドーパントは、導電性高分子に化学酸化ドープして塩を形成して複合体を形成する。なお、導電性高分子と塩を形成しなかった残存アニオン基の少なくとも一部は、後述のように架橋点形成化合物と反応する。
【0012】
ポリアニオンドーパントのアニオン基としては、導電性高分子への化学酸化ドープが起こり、かつアニオン基のプロトン酸がビニル基、グリシジル基、ヒドロキシ基のいずれかと結合可能な官能基であることが好ましい。具体的には、硫酸基、リン酸基、スルホ基、カルボキシ基、ホスホ基等が好ましく、さらに、化学酸化ドープの観点から、スルホ基、カルボキシ基がより好ましい。
【0013】
スルホ基を有するポリアニオンドーパントとしては、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
【0014】
カルボキシ基を有するポリアニオンドーパントとしては、例えば、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
【0015】
導電性組成物は、電気伝導性と熱安定性をより向上させるためにポリアニオンドーパント以外のドーパントを含有してもよい。そのドーパントとしては、ハロゲン化合物、ルイス酸、プロトン酸などが挙げられ、具体的には、有機カルボン酸、有機スルホン酸等の有機酸、有機シアノ化合物、フラーレン、水素化フラーレン、水酸化フラーレン、カルボン酸化フラーレン、スルホン酸化フラーレンなどが挙げられる。
【0016】
ハロゲン化合物としては、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、塩化ヨウ素、臭化ヨウ、フッ化ヨウ素等が挙げられる。
プロトン酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウフッ化水素酸、フッ化水素酸、過塩素酸等の無機酸や、有機カルボン酸、フェノール類、有機スルホン酸等が挙げられる。
【0017】
さらに、有機カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、ショウ酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ニトロ酢酸、トリフェニル酢酸等が挙げられる。
有機スルホン酸としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン重縮合物、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、ジナフチルメタンジスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アントラキノンジスルホン酸、アントラセンスルホン酸、ピレンスルホン酸などが挙げられる。また、これらの金属塩も使用できる。
有機シアノ化合物としては、例えば、ジクロロジシアノベンゾキノン(DDQ)、テトラシアノキノジメタン、テトラシアノアザナフタレンなどが挙げられる。
【0018】
[架橋点形成化合物]
架橋点形成化合物は下記(a),(b)から選ばれる少なくとも1種である。
(a)グリシジル基を有する化合物(以下、化合物(a)という。)。
(b)アリル基、ビニルエーテル基、メタクリル基、アクリル基、メタクリルアミド基、アクリルアミド基から選ばれる1種と、ヒドロキシ基とを有する化合物(以下、化合物(b)という。)。
【0019】
さらに、化合物(a)としては、下記(a−1)〜(a−3)の化合物が挙げられる。
(a−1):グリシジル基と、アリル基、ビニルエーテル基、メタクリル基、アクリル基、メタクリルアミド基、アクリルアミド基から選ばれる1種とを有する化合物(以下、化合物(a−1)という。)。
(a−2):グリシジル基を2つ以上有する化合物(以下、化合物(a−2)という。)。
(a−3):グリシジル基を1つ有する化合物であって、化合物(a−1)以外の化合物(以下、化合物(a−3)という。)。
【0020】
化合物(a−1)のうち、グリシジル基とアクリル(メタクリル)基を有する化合物として、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
グリシジル基とアリル基を有する化合物として、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、アリルフェノールグリシジルエーテル等が挙げられる。
グリシジル基とヒドロキシ基とを有する化合物として、1,4−ジヒドロキシメチルベンゼンジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル等が挙げられる。
グリシジル基とヒドロキシ基とアリル基とを有する化合物として、3−アリル−1,4−ジヒドロキシメチルベンゼンジグリシジルエーテル等が挙げられる。
なお、グリシジル基とヒドロキシ基とを有する化合物、グリシジル基とヒドロキシ基とアリル基とを有する化合物は化合物(b)でもある。
【0021】
化合物(a−2)としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ダイマー酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジル、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ジグリシジルテトラフタレート等が挙げられ1種類または2種類以上の混合として用いることができる。
【0022】
化合物(a−3)としては、例えば、アルキルグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0023】
化合物(b)のうち、例えば、ヒドロキシ基とビニルエーテル基とを有する化合物として、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられる。
ヒドロキシ基とアクリル(メタクリル)基を有する化合物として、2−ヒドロキシエチルアクリレート(メタクリレート)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(メタクリレート)、4−ヒドロキシブチルアクリレート(メタクリレート)、エチル−α−ヒドロキシメチルアクリレート、ジペンタエリストリトールモノヒドロキシペンタアクリレート等が挙げられる。
ヒドロキシ基とアクリルアミド(メタクリルアミド)基を有する化合物として、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルメタクリルアミドが挙げられる。
【0024】
上記化合物(a)では、そのグリシジル基がポリアニオンドーパントの残存アニオン基(例えば、スルホ基、カルボキシ基など)と反応して、エステル(例えば、スルホン酸エステル、カルボン酸エステルなど)を形成する。その反応の際には、塩基性触媒、加圧、加熱によって反応を促進させてもよい。エステル形成の際、グリシジル基は開環してヒドロキシ基を形成する。このヒドロキシ基が、導電性高分子との塩もしくはエステルを形成しなかった残存アニオン基と脱水反応を起して、新たにエステル(例えば、スルホン酸エステル、カルボン酸エステルなど)を形成する。このようなエステルの形成によって、ポリアニオンドーパントと導電性高分子との複合体同士が架橋する。
さらに、化合物(a−1)においては、ポリアニオンドーパントの残存アニオン基と、化合物(a−1)のグリシジル基とが結合した後、化合物(a−1)のアリル基、ビニルエーテル基、メタクリル基、アクリル基、メタクリルアミド基、アクリルアミド基同士が重合して複合体同士がさらに架橋する。
【0025】
また、上記化合物(b)では、そのヒドロキシ基がポリアニオンドーパントの残存アニオン基と脱水反応して、エステルを形成する。その脱水反応の際には、酸性触媒によって反応を促進させてもよい。その後、化合物(b)のアリル基、ビニルエーテル基、メタクリル基、アクリル基、メタクリルアミド基、アクリルアミド基同士が重合する。この重合によって、ポリアニオンドーパントと導電性高分子との複合体同士が架橋する。
【0026】
化合物(a−1)および化合物(b)におけるメタクリレート基、アクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、アリル基の重合では、ラジカル重合法、熱重合法、光ラジカル重合法、プラズマ重合法を適用できる。
ラジカル重合法では、重合開始剤として、例えばアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、ジアシルペルオキシド類、ペルオキシエステル類、ヒドロペルオキシド類等の過酸化物などを用いて重合する。
光ラジカル重合法では、重合開始剤として、カルボニル化合物、イオウ化合物、有機過酸化物、アゾ化合物などを用いて重合する。具体的には、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、キサントン、チオキサントン、2−エチルアントラキノン、アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル-プロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエーテル、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンジル、メチルベンゾイルホルメート、1−フェニルー1,2−プロパンジオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、テトラメチルチウラム、ジチオカーバメート、過酸化ベンゾイル、N−ラウリルピリジウムアジド、ポリメチルフェニルシランなどが挙げられる。
プラズマ重合では、プラズマを短時間照射し、プラズマの電子衝撃によるエネルギーを受けて、フラグメンテーションとリアレンジメントをしたのち、ラジカルの再結合により重合体を生成する。
【0027】
また、化合物(a−1)および化合物(b)におけるビニルエーテル基の重合は、カチオン重合法が採られる。カチオン重合においては、反応促進のため、ハロゲン化金属、有機金属化合物等のルイス酸、その他、ハロゲン、強酸塩、カルボニウムイオン塩等の光または熱でカチオンを生成する求電子試薬などを使用してもよい。
【0028】
架橋点形成化合物は、ポリアニオンドーパントに対して、0.1モル当量から100モル当量含まれることが好ましく、2モル当量から50モル当量含まれることがより好ましい。架橋点形成化合物の含有量がポリアニオンドーパントに対して100モル当量を超える場合には、架橋点形成化合物が過剰になり、電気伝導性を低下させるおそれがある。また、ポリアニオンドーパントに対して0.1モル当量未満では、電気伝導性、熱安定性、成膜性、耐磨耗性、基材密着性を向上させることが困難になる傾向にある。
【0029】
以上説明した導電性組成物では、導電性高分子にポリアニオンドーパントがドープして塩を形成し、塩の形成に使用されなかったポリアニオンドーパントの残存アニオン基が架橋点形成化合物と反応する。そして、その反応により形成された架橋点を介したエステル形成または重合により、ポリアニオンドーパントと導電性高分子との複合体同士が架橋する。この架橋により複合体同士の分子間距離が縮まり集束するため、導電性高分子間の電子移動におけるホッピングにかかる活性化エネルギーが小さくてすみ、電気伝導性が高くなる(具体的には、電気伝導度で100S/cm以上を実現し得る。)と考えられる。したがって、電気伝導性を高めるためにポリアニオン量を少なくしなくてもよいから、溶媒溶解性を高くできる。さらに、架橋によって分子密度が高まるため、熱安定性、成膜性、耐磨耗性が向上すると考えられる。
【0030】
次に、本発明の導電性組成物の製造方法について説明する。
本発明の導電性組成物の製造方法では、まず、導電性高分子とポリアニオンドーパントとを複合した複合体を形成する。複合体の形成の際には、導電性高分子の主鎖の成長と共にポリアニオンドーパントのアニオン基が導電性高分子と塩を形成するため、導電性高分子の主鎖はポリアニオンドーパントに沿って成長する。よって、得られた導電性高分子とポリアニオンドーパントは無数に塩を形成した複合体になる。この複合体においては、導電性高分子のモノマー3ユニットに対して1ユニットのアニオン基が塩を形成し、短く成長した導電性高分子の数本が長いポリアニオンドーパントに沿って塩を形成しているものと推定されている。
【0031】
導電性高分子とポリアニオンドーパントとを複合した複合体を形成する方法としては、例えば、ポリアニオンドーパントの存在下、導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合する方法などが挙げられる。
化学酸化重合においてモノマーを重合するために使用される酸化剤としては、例えば、塩化第二鉄、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウムなどの金属ハロゲン化合物、過酸化水素、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、オゾン、酸素、硫酸セリウムなどが挙げられる。
【0032】
また、化学酸化重合は溶媒中で行われてもよい。その際に使用される溶媒としては、ポリアニオンドーパントおよび導電性高分子を溶解するものであれば特に制限されず、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピレンカーボネート、クレゾール、フェノール、キシレノール、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、ベンゾニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジン、ジメチルイミダゾリン、酢酸エチル、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジフェニルスルホン等が挙げられる。これら溶媒は必要に応じて、1種類もしくは2種類以上の混合溶媒で用いることができる。
【0033】
次いで、複合体に架橋点形成化合物を添加して、導電性高分子と塩を形成していない残存アニオン基と架橋点形成化合物のグリシジル基またはヒドロキシ基とがエステルを形成する。その後、グリシジル基から形成されたヒドロキシ基とポリアニオンドーパントの残存アニオン基とが反応してエステルを形成し、あるいは、架橋点形成化合物のアリル基、ビニルエーテル基、メタクリル基、アクリル基、メタクリルアミド基、アクリルアミド基同士が重合する。このエステル化および重合によって架橋構造が形成して分子間の密度が高まり、導電性高分子とポリアニオンドーパントの複合体同士の分子間距離が短くなる。複合体同士の分子間距離が短くなった結果、電子移動におけるホッピングエネルギーが低下して、電気伝導度が高くなると同時に熱安定性が高くなる上に、成膜性、耐磨耗性も高くなる。
【0034】
なお、本発明の導電性組成物は、上記製造方法以外の方法でも製造できる。例えば、複合体の形成前あるいは途中に架橋点形成化合物を添加することで本発明の導電性組成物を得ることもできる。ただし、本発明の導電性組成物の製造方法によれば、電気伝導性をより高くできる。
【実施例】
【0035】
[導電性高分子とポリアニオンドーパントとの複合体の調製]
(調製例1)ポリ(エチレンジオキシチオフェン)とポリアリルスルホン酸との複合体溶液(導電性高分子溶液1)の調製
1000mlのイオン交換水に145g(1mol)のアリルスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14g(0.005mol)の過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、さらに12時間攪拌を継続した。
得られた溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml加え、限外ろ過法を用いて約1000ml溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形分を得た。
続いて、14.2g(0.1mol)のエチレンジオキシチオフェンと21.8g(0.15mol)のポリアリルスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶解した溶液とを混合させた。
この混合液を20℃に保ち、掻き混ぜながら200mlのイオン交換水に溶解した29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムを8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液をゆっくり加え、5時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に200mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この操作を5回繰り返し、約1.5質量%の青色ポリアリルスルホン酸ドープポリ(エチレンジオキシチオフェン)溶液を得た。これを導電性高分子溶液1とした。
【0036】
(調製例2)ポリ(3−メトキシチオフェン)とポリアリルカルボン酸との複合体溶液(導電性高分子溶液2)の調製
1000mlのイオン交換水に108g(1mol)のアリルカルボン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14g(0.005mol)の過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られた溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml加え、限外ろ過法を用いて約1000mlの溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形分を得た。
続いて、11.4g(0.1mol)の3−メトキシチオフェンと16.2g(0.15mol)のポリアリルカルボン酸を2000mlのイオン交換水に溶解した溶液とを混合させた。
この混合液を20℃に保ち、掻き混ぜながら200mlのイオン交換水に溶解した29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムを8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液をゆっくり加え、12時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に200mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この操作を5回繰り返し、約1.5質量%の青色ポリアリルカルボン酸ドープポリ(3−メトキシチオフェン)溶液を得た。これを導電性高分子溶液2とした。
【0037】
(調製例3)ポリピロールとポリスチレンスルホン酸との複合体溶液(導電性高分子溶液3)の調製
1000mlのイオン交換水に185g(1mol)のスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14g(0.005mol)の過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られた溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml加え、限外ろ過法を用いて約1000mlの溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形分を得た。
続いて、6.6g(0.1mol)のピロールと18.5g(0.15mol)のポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶解した溶液とを混合させた。
この混合液を20℃に保ち、掻き混ぜながら200mlのイオン交換水に溶解した29.64g(0.13mol)の過硫酸アンモニウムを8.0g(0.02mol)の硫酸第二鉄の酸化触媒溶液をゆっくり加え、2時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に200mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この操作を5回繰り返し、約1.5質量%の青色ポリスチレンスルホン酸ドープポリピロール溶液を得た。これを導電性高分子溶液3とした。
【0038】
(実施例1)
100mlの導電性高分子溶液1に3.7g(ポリアリルスルホン酸に対して5モル当量)のヒドロキシメチルアクリレートを添加し、均一に分散させて導電性組成物溶液を得た。得られた導電性組成物溶液をガラス上に塗布し、150℃のオーブン中で乾燥させて塗布膜を形成した。その塗布膜の電気特性を以下のように評価した。その結果を表1に示す。
【0039】
電気伝導度(S/cm):ローレスタ(三菱化学製)を用いて塗布膜の電気伝導度を測定した。
電気伝導度熱維持率(%):温度25℃における塗布膜の電気伝導度R25Bを測定し、測定後の塗布膜を温度125℃の環境下に300時間放置した後、該塗布膜を温度25℃に戻し、電気伝導度R25Aを測定した。そして、下記式より算出した。
電気伝導度熱維持率(%)=100×R25A/R25B
【0040】
【表1】

【0041】
(参考例2)
100mlの導電性高分子溶液2に5.5g(ポリアリルカルボン酸に対して5モル当量)のエチレングリコールジグリシジルエーテルを添加し、均一に分散させて導電性組成物溶液を得た。そして、実施例1と同様にして電気特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0042】
(実施例3)
100mlの導電性高分子溶液3に2.1g(ポリスチレンスルホン酸に対して5モル当量)の2−ヒドロキシエチルビニルエーテルを添加し、均一に分散させて導電性組成物溶液を得た。そして、実施例1と同様にして電気特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0043】
(比較例1〜3)
導電性高分子溶液1〜3について、実施例1と同様にして電気特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0044】
(比較例4)
実施例1のヒドロキシエチルアクリレートの代わりに2.1g(ポリアリルスルホン酸に対して5モル当量)のジエチレンアミンを添加したこと以外は実施例1と同様にして導電性組成物溶液を得た。そして、実施例1と同様にして電気特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0045】
(比較例5)
実施例2のエチレングリコールジグリシジルエーテルの代わりに2.5g(ポリアリルカルボン酸に対して5モル当量)のイソプロピルアルコールを添加したこと以外は実施例1と同様にして導電性組成物溶液を得た。そして、実施例1と同様にして電気特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0046】
(比較例6)
実施例3の2−ヒドロキシエチルビニルエーテルの代わりに4.3g(ポリスチレンスルホン酸に対して5モル当量)のグルコースを添加したこと以外は実施例1と同様にして導電性組成物溶液を得た。そして、実施例1と同様にして電気特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0047】
架橋点形成化合物を含む実施例1〜3の導電性組成物は、電気伝導性が高く、電気伝導度維持率の低下が防止されていた。
これに対し、架橋点形成化合物を含まない比較例1〜3は、電気伝導度が高くなっておらず、電気伝導度維持率が低かった。
また、比較例4においては、アミノ基を有する化合物を添加したものの、アミノ基とポリアニオンドーパントとでは架橋効果が発揮されず、電気伝導度が高くならず、電気伝導度維持率も低かった。
架橋点形成化合物の代わりにヒドロキシ基が分子内に一つしか含まれていない化合物を含有させた比較例5においては、電気伝導度が高くならず、電気伝導度維持率も低かった。
比較例6においては、ヒドロキシ基を4つ有する化合物を添加したものの、その化合物は還元末端を有しているため、導電性高分子とポリアニオンドーパントによって形成されている塩を脱ドープする作用を及ぼしたと思われる。そのため、電気伝導性および電気伝導度維持率が低かったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、導電性塗料、帯電防止剤、電磁波遮蔽剤、透明性を必要とする導電材料、電池材料、コンデンサ材料、導電性接着剤、センサ、電子デバイス材料、半導体材料、半導電材料、静電式複写部材、プリント等の感光部材、転写体、中間点転写体、搬送部材、電子写真材料、導電性を必要とする各種分野への利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子と、ポリアニオンからなるドーパントと、下記(a)と(b)または(b)のみからなる架橋点形成化合物とを含み、架橋点形成化合物の含有量が前記ポリアニオンに対して2〜50モル当量であることを特徴とする導電性組成物。
(a)グリシジル基を有する化合物。
(b)アリル基、ビニルエーテル基、メタクリル基、アクリル基、メタクリルアミド基、アクリルアミド基から選ばれる1種と、ヒドロキシ基とを有する化合物。
【請求項2】
導電性高分子とポリアニオンからなるドーパントとを複合した複合体を形成した後に、下記(a)と(b)または(b)のみからなる架橋点形成化合物を前記ポリアニオンに対して2〜50モル当量添加することを特徴とする導電性組成物の製造方法。
(a)グリシジル基を有する化合物。
(b)ヒドロキシ基と、アリル基、ビニルエーテル基、メタクリル基、アクリル基、メタクリルアミド基、アクリルアミド基から選ばれる1種とを有する化合物。

【公開番号】特開2011−63820(P2011−63820A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193(P2011−193)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【分割の表示】特願2004−274992(P2004−274992)の分割
【原出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】