説明

導電性部材、プロセスカートリッジおよび画像形成装置

【課題】 環境変動に伴う像担持体との間の空隙の変動を小さく抑えることができる導電性部材を提供する。
【解決手段】 導電性支持体10上に高分子型イオン導電性材料を主材料として形成された抵抗調整層11と、この抵抗調整層11の両端部上に設けられ、抵抗調整層11に対して近接配置される感光体ドラム2の両端側に絶縁性を有する表面を当接して、抵抗調整層11と感光体ドラム2との間に所定の空隙Cを形成するための空隙保持部13a,13bと、を備えた帯電ローラ(導電性部材)3において、抵抗調整層11の厚さを100〜500μmに形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光体ドラム等の像担持体に対して近接配置される導電性部材(帯電部材、現像剤担持体、転写部材等)、前記導電性部材と像担持体とを少なくとも一体のユニット構成として備えたプロセスカートリッジ、およびこのプロセスカートリッジを備えた複写機、プリンタ、ファクシミリ等の電子写真方式の画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリ等の電子写真方式の画像形成装置には、像担持体としての感光体ドラムの表面を均一に帯電する帯電装置として、近年、コロナ放電方式の帯電装置に代わって、帯電ローラを感光体ドラムの表面に当接させる、いわゆる接触帯電方式の帯電装置が広く用いられている。
【0003】
接触帯電方式の帯電装置は、コロナ放電方式の帯電装置に対して、オゾンの発生が少なくかつ低電圧で帯電が可能であるが、帯電ローラを構成している物質が染み出して、当接している感光体ドラムの表面に付着移行する、いわゆる「帯電ローラ跡」が発生したり、また、帯電ローラに交流電圧を重畳して印加する方式では、感光体ドラムに当接しているこの帯電ローラが交流電圧の印加によって振動する、いわゆる「帯電音」が発生し易くなる問題があった。さらに、接触帯電方式の帯電装置では、トナー像の記録紙への転写後に感光体ドラムの表面に残った転写残トナーが帯電ローラ側に転移することによって、この帯電ローラの表面が汚れて帯電性能が低下したり、また、感光体ドラムの回転を長期間停止した状況では、帯電ローラの感光体ドラムとの当接部分が永久変形した状態になるなどの問題があった。
【0004】
そこで、上記したような問題を解決するために、帯電ローラを感光体ドラムの表面に近接させて、非接触状態で感光体ドラムを帯電させる、いわゆる近接帯電方式の帯電装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
前記特許文献1の帯電ローラは、帯電ローラの軸棒である導電性芯棒の表面周囲に、カーボン等で所要に抵抗を落とした弾性体であるEPDM等の外層を設け、この外層の両端側にスペーサリングを設けて、帯電ローラと感光体ドラムとの間に一定間隔の空隙を保持するようにしている。
【特許文献1】特開平3−240076号公報(第1図、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1のような帯電ローラは、EPDM等の弾性体からなる外層(抵抗調整層)の厚さが非常に厚く形成されている。このため、環境変動(特に、高温高湿環境)に伴ってこの外層の厚さが大きく変動することにより、帯電ローラの外層(抵抗調整層)と感光体ドラムとの間の空隙が大きく変動して均一な帯電ができなくなり、帯電ムラ等が生じる場合がある。
【0007】
そこで本発明は、環境変動に伴う像担持体との間の空隙の変動を小さく抑えることができる導電性部材、この導電性部材を備えたプロセスカートリッジおよび画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、導電性支持体と、前記導電性支持体上に高分子型イオン導電性材料を主材料として形成された電気抵抗調整層と、前記電気抵抗調整層の両端部上、または前記電気抵抗調整層の両端部に接する前記導電性支持体上に設けられ、前記電気抵抗調整層に対して近接配置される像担持体の両端側に絶縁性を有する表面を当接して、前記電気抵抗調整層と前記像担持体との間に所定の空隙を形成するための空隙保持部と、を備えた導電性部材であって、前記電気抵抗調整層の厚さを100〜500μmとしたことを特徴としている。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記電気抵抗調整層の表面粗さRzが4μm以下であることを特徴としている。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、前記電気抵抗調整層の体積固有抵抗値が106〜109Ωcmであることを特徴としている。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、前記高分子型イオン導電性材料が、ポリエーテルエステルアミド含有高分子化合物であることを特徴としている。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、前記高分子型イオン導電性材料を溶解させた溶液、または前記高分子型イオン導電性材料を微粒子化して溶液中に分散したエマルジョン溶液を塗布方法により、前記電気抵抗調整層を前記導電性支持体上に形成したことを特徴としている。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、前記電気抵抗調整層および前記空隙保持部は、前記導電性支持体を中心軸とする円筒形状であることを特徴としている。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、前記電気抵抗調整層と前記像担持体との間の空隙が100μm以下であることを特徴としている。
【0015】
また、請求項8に記載の発明は、前記電気抵抗調整層の上に、トナー非付着性を有する材料からなる表面層を形成し、前記表面層の電気抵抗を前記電気抵抗調整層の電気抵抗よりも大きくしたことを特徴としている。
【0016】
また、請求項9に記載の発明は、前記電気抵抗調整層の両端部上に、塗布方法により前記空隙保持部としての空隙保持層を所定の厚さに形成したことを特徴としている。
【0017】
また、請求項10に記載の発明は、前記電気抵抗調整層の両端部に接するようにして前記導電性支持体上に、前記空隙保持部としての空隙保持部材を配置し、前記空隙保持部材の表面を加工して所定の厚みに形成したことを特徴としている。
【0018】
また、請求項11に記載の発明は、前記導電性部材が、近接配置された像担持体を帯電する帯電ローラであることを特徴としている。
【0019】
また、請求項12に記載のプロセスカートリッジは、請求項11に記載の帯電ローラと、前記帯電ローラによって帯電される像担持体とを、少なくとも一体のユニット構成として備えたことを特徴としている。
【0020】
また、請求項13に記載の画像形成装置は、請求項12に記載のプロセスカートリッジを着脱自在に備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明によれば、電気抵抗調整層の厚さを100〜500μmの薄層としたことにより、環境が変動した場合でも電気抵抗調整層の厚さ変動を低減することができるので、像担持体との間に形成される空隙の変動を小さくすることができる。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、電気抵抗調整層の表面粗さRzを4μm以下としたことにより、トナー等の付着物の付着を低減することができ、また、この電気抵抗調整層の上に表面層を形成する場合でも、表面層の表面粗さを良好にすることができる。
【0023】
請求項3に記載の発明によれば、電気抵抗調整層の体積固有抵抗値が106〜109Ωcmとしたことにより、像担持体への異常放電を防止することができる。
【0024】
請求項4に記載の発明によれば、導電性部材として必要な電気抵抗値を得ることができる。
【0025】
請求項5に記載の発明によれば、厚さが100〜500μmの電気抵抗調整層を精度よく形成することができる。
【0026】
請求項6に記載の発明によれば、電気抵抗調整層および空隙保持部を前記導電性支持体を中心軸とする円筒形状としたことにより、導電性部材を回転させることによって同一箇所からの連続放電を防止して、長寿命化を図ることができる。
【0027】
請求項7に記載の発明によれば、像担持体への異常放電を防止することができる。
【0028】
請求項8に記載の発明によれば、電気抵抗調整層へのトナー等の付着を防止することができ、かつ像担持体への異常放電を防止することができる。
【0029】
請求項9に記載の発明によれば、厚さ100〜500μmの電気抵抗調整層を精度よく形成することができ、さらに、電気抵抗調整層が環境変動によってその厚さが変動した場合でもそれに追従して空隙保持層所定の厚さも変動することにより、像担持体との間に形成される空隙の変動を小さくすることができる。
【0030】
請求項10に記載の発明によれば、像担持体との間に形成される空隙を精度よく形成することができる。
【0031】
請求項11に記載の発明によれば、前記した導電性部材を帯電ローラとすることにより、環境変動等が生じた場合でも像担持体の表面を均一に帯電することができる。
【0032】
請求項12に記載の発明によれば、環境変動等が生じた場合でも像担持体の表面を均一に帯電することができる帯電ローラを備えたプロセスカートリッジを提供することができる。
【0033】
請求項13に記載の発明によれば、環境変動等が生じた場合でも像担持体の表面を均一に帯電して、良好な画像を得ることができる画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る電子写真方式の画像形成装置の要部を示す概略構成図であり、本発明に係る導電性部材を、この画像形成装置の帯電ローラに適用した一例である。
【0035】
図1に示すように、この画像形成装置(例えば、複写機、プリンタ、ファクシミリなど)1は、回転自在に支持された像担持体としての感光体ドラム2と、感光体ドラム2の周囲に配置された、感光体ドラム2に対して帯電処理を行う帯電ローラ3と、帯電ローラ3に電圧を印加するための電源4と、感光体ドラム2の表面電位を測定する表面電位計5と、露光装置(不図示)からのレーザ光Lによる露光によって感光体ドラム2表面に形成された静電潜像にトナーを付着させる現像ローラ6と、感光体ドラム2表面に形成されたトナー像を記録紙Sに転写する転写ローラ7と、転写後の感光体ドラム2表面をクリーニングするクリーニング装置8とを、主構成部材として備えている。なお、この画像形成装置1では、帯電ローラ3は、感光体ドラム2に対して近接して非接触状態に設置されている(本発明の特徴である帯電ローラ3の詳細な説明は後述する)。
【0036】
この画像形成装置1による画像形成動作時には、まず、所定の電圧が印加された帯電ローラ3により、矢印A 方向に回転している感光体ドラム2の表面を負極性の高電位に均一に帯電処理する。そして、露光装置(不図示)からのレーザ光Lによる露光によって、感光体ドラム2表面に入力した画像情報に対応する静電潜像が形成される。そして、この静電潜像に対して現像ローラ6によりトナーを付着させてトナー像として現像(可視像化)した後、所定のタイミングで感光体ドラム2と転写ローラ7間に搬送される記録紙Sに対して、転写バイアスが印加された転写ローラ7により前記トナー像を転写する。
【0037】
トナー像が転写された記録紙Sは、定着装置(不図示)に搬送されて定着処理された後に排出される。一方、トナー像転写後の感光体ドラム2表面に残留している転写残トナー等は、クリーニング装置8により除去されてクリーニングされる。
【0038】
また、図2に示すように、前記した感光体ドラム2、帯電ローラ3、転写ローラ7及びクリーニング装置8を、プロセスカートリッジ9内に設置してユニット化し、このプロセスカートリッジ9を画像形成装置1に対して着脱自在に装着する構成にしてもよい。
【0039】
次に、前記帯電ローラ(導電性部材)3の構成について説明する。図3(a)は、本実施形態に係る帯電ローラを示す概略縦断面図、図3(b)は、図3(a)のA−A線断面図、図4は、帯電ローラと感光体ドラムとの位置関係を示す図である。
【0040】
図3(a)、(b)に示すように、この帯電ローラ3は、円柱状の導電性支持体10の表面周囲に、電気抵抗を調整する電気抵抗調整層(以下、「抵抗調整層」という)11と、その上に表面層12を有している。また、抵抗調整層11の両端部の表面周囲には、帯電ローラ3の表面層12と感光体ドラム2との間に空隙(ギャップ)を形成するための空隙保持層13a,13bがそれぞれ設けられている。なお、帯電ローラ3には回転駆動系(不図示)が連結されており、モータ(不図示)の駆動によって回転する感光体ドラム2の回転方向に対して、帯電ローラ3が逆方向に回転するように構成されている。
【0041】
図4に示すように、帯電ローラ3の表面層12は、感光体ドラム2の画像形成領域B1の少し外側まで位置しており、帯電ローラ3の空隙保持層13a,13bは、感光体ドラム2の両端部の非画像形成領域B2に当接している。これにより、帯電ローラ3の表面層12と感光体ドラム2との間に所定の空隙Cが形成される。このように、空隙保持層13a,13bによって、帯電ローラ3の表面層12と感光体ドラム2との間に所定の空隙Cが形成されることにより、帯電ローラ3に電圧を印加すると、帯電ローラ3の表面層12と感光体ドラム2との間で放電が生じ、感光体ドラム2の表面が帯電される。本実施形態では、この空隙Cが100μm以下となるように、抵抗調整層11と空隙保持層13a,13bの厚さを調整している。この空隙Cが100μm以上の場合には、高電圧を帯電ローラ3に印加する必要があり、感光体ドラム2の電気的劣化や異常放電が発生しやすくなるためである。
【0042】
抵抗調整層11は、高分子型イオン導電材料が分散された熱可塑性樹脂組成物により形成されている。前記熱可塑性樹脂組成物としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)およびその共重合体(AS、ABS)等の汎用樹脂等が挙げられる。また、前記高分子型イオン導電材料としては、ポリエーテルエステルアミド成分を含有する高分子化合物が好ましい。ポリエーテルエステルアミドは、イオン導電性の高分子材料であり、マトリックスポリマー中に分子レベルで均一に分散、固定化される。これにより、金属酸化物、カーボンブラック等の電子伝導系導電剤を分散した組成物に見られるような分散不良に伴う抵抗値のばらつきが生じない。また、高分子材料であるため、ブリードアウトが生じにくい。
【0043】
抵抗調整層11の厚さは、本実施形態では100〜500μmに形成されている。この理由は、抵抗調整層11の厚さが500μm以上の場合は、高温高湿環境下では抵抗調整層11の吸湿によって膨張してその厚み変動が大きくなってしまう。また、抵抗調整層11の厚さが100μm程度以下であると、帯電ローラ3に電圧印加して感光体ドラム2を帯電するときにこの抵抗調整層11に絶縁破壊が生じる可能性があるためである。
【0044】
また、抵抗調整層11の体積固有抵抗値が、106〜109Ωcmであることが好ましい。即ち、抵抗調整層11の体積固有抵抗が109Ωcm以上の場合は、帯電能力が不足してしまい、抵抗調整層11の体積固有抵抗が106Ωcm以下の場合は、感光体ドラム2に対して電圧集中による異常放電(リーク)が生じてしまう。
【0045】
また、抵抗調整層11の表面粗さは小さいほうが好ましく、Rz(JIS82)4μm以下が好ましい。抵抗調整層11の表面粗さが小さいほうが良い理由は、下地であるこの抵抗調整層11の上に形成する表面層12の表面粗さを良好にするためである。なお、抵抗調整層11の上に表面層を形成しない場合でも、電気抵抗調整層の表面粗さRzを4μm以下することによってトナー等の付着物の付着を低減することができる。
【0046】
表面層12を形成する材料としては、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等が非粘着性に優れ、トナー固着防止の面で好ましい。なお、樹脂材料は電気的に絶縁性であるため、樹脂に対して各種導電材料を分散することによって、表面層12の抵抗を調整する。
【0047】
表面層12は、その抵抗値が抵抗調整層11の抵抗値よりも大きくなるように形成されており、これによって、感光体ドラム2の表面欠陥部への電圧集中、異常放電(リーク)を回避することができる。ただし、表面層12の抵抗値を高くしすぎると帯電能力が不足してしまうため、表面層12と抵抗調整層11との抵抗値の差を103Ωcm以下にすることが好ましい。
【0048】
表面層12の抵抗調整層11上への形成は、前記材料(フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂等)を有機溶液に溶解して塗料を作製し、スプレー塗装、ディッピング、ロールコート等の湿式塗布方法で行うことができる。表面層12の膜厚については、5〜30μm程度が好ましい。
【0049】
また、帯電ローラ3は、電気特性(抵抗値)が重要であるため、表面層12を導電性にする必要がある。表面層12を導電性には、樹脂材料中に導電剤を分散することにより可能である。導電性としては、特に制約を受けるものではなく、ケッチェンブラックEC、アセチレンブラック等の導電性カーボン、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT等のゴム用カーボン、酸化処理等を施したカラー用カーボン、熱分解カーボン、インジウムドープ酸化スズ(ITO)、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、銅、銀、ゲルマニウム等の金属、及び金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマー等が挙げられる。
【0050】
また、導電性付与材として、イオン導電性物質もあり、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸カルシウム、塩化リチウム等の無機イオン性導電物質、更に、変性脂肪酸ジメチルアンミニウムエトサルファート、ステアリン酸アンモニウムアセテート、ラウリルアンモニウムアセテート等の有機イオン性導電性物質がある。
【0051】
空隙保持層13a,13bの必要な特性としては、帯電ローラ3の表面層12と感光体ドラム2との間に形成される空隙C(図4参照)を、環境変動や長期の使用等に対して安定して精度よく保持することであり、そのためには、吸湿性が小さく、かつ耐摩耗性が良好な材料が好ましい。また、トナーやトナー添加剤が付着しにくいことや、感光体ドラム2と当接して摺動する際に感光体ドラム2を磨耗させないことも重要であり、これらの条件に満たす材料を選択する。
【0052】
具体的な材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)およびその共重合体(AS、ABS)等の汎用樹脂、PC、ウレタン、フッ素等が挙げられる。また、空隙保持層13a,13bは、絶縁性を有することが好ましく、体積固有抵抗で1013Ωcm以上であることが好ましい。空隙保持層13a,13bに絶縁性が必要な理由は、感光体ドラム2との間でリーク電流が発生するのを防止するためである。
【0053】
空隙保持層13a,13bは、前記した樹脂材料を微粒子化してエマルジョンにしたもの、あるいは溶剤可溶な樹脂材料を溶剤に溶解した液等を湿式塗布方法によって形成することができる。
【0054】
図3(a)、(b)に示した帯電ローラ3の製造方法の一例としては、導電性支持体10の表面に、公知の湿式塗布方法により前記抵抗調整層11を薄層形成し、その後、この抵抗調整層11の両端部に湿式塗布方法により前記空隙保持層13a,13bを薄層形成する。そして、前記抵抗調整層11と空隙保持層13a,13bの表面をそれぞれ個別に切削加工、研削加工、テープ研磨加工などのいずれか加工を施し、後工程で形成する表面層12の厚さ(5〜30μm程度)を考慮して、抵抗調整層11の厚さを100〜500μmに精度よく調整する共に、空隙C(図4参照)が100μm以下となるように空隙保持層13a,13bの厚さを調整する。そして、空隙保持層13a,13bをマスキングして、前記抵抗調整層11の表面に湿式塗布方法により表面層12を薄層形成する。
【実施例】
【0055】
次に、前記した構成の帯電ローラ3を評価するために、以下に示す実施例1〜4および比較例1〜3の帯電ローラ(導電性部材)を作製した。
〈実施例1〉
【0056】
図5(a)は、実施例1における帯電ローラを示す図である。本実施例では、ポリエーテルエステルアミド(IRGASTAT P18、チバスペシャリティケミカルズ社製)をm−クレゾールに溶解させた樹脂溶液を、SUM(Niメッキ)からなる外径12mmの導電性支持体(芯軸)10上にスプレー塗布により、膜厚約500μmの抵抗調整層11を形成した。
【0057】
そして、この抵抗調整層11の表面に、アクリルシリコーン樹脂(3000VH−P、川上塗料製)、イソシアネート系硬化剤(川上塗料製)、およびカーボンブラック(全固形分に対して25重量%)からなる混合物をスプレー塗布することにより、膜厚約10μmの表面層12を形成した。
【0058】
そして、表面層12の両端部に、カーボンブラックを含有していない表面層12と同じ塗料をスプレー塗布することにより、膜厚約40μmの空隙保持層13a,13bを形成し、その後、オーブンで1時間、80℃の条件で塗料樹脂を加熱硬化させ、帯電ローラを得た。
〈実施例2〉
【0059】
図5(b)は、実施例2における帯電ローラを示す図である。本実施例では、PTFE粒子をキシレンに分散した溶液(KD−200AF、喜多村社製)を、SUM(Niメッキ)からなる外径12mmの導電性支持体(芯軸)10の両端部(外径12.52mm)10a,10b上だけにスプレー塗布を行い、その後、オーブンで1時間、約370℃の条件で塗料樹脂を加熱硬化することにより、膜厚約100μmの空隙保持層13a,13bを形成した。
【0060】
そして、この空隙保持層13a,13bの内側の導電性支持体10上に、ポリエーテルエステルアミド(T−PAE H-151、富士化成工業社製)をトルエン/イソプロピルアルコール(=1/1)に溶解させた樹脂溶液をスプレー塗布することにより、膜厚約300μmの抵抗調整層11を形成した。そして、前記実施例1と同様の表面層12を膜厚約10μmで形成し、帯電ローラを得た。
〈実施例3〉
【0061】
実施例3における帯電ローラの外観は、前記図5(b)とほぼ同様である。本実施例では、高密度ポリエチレン樹脂粒子(サンファインLH−411、旭化成ケミカルズ社製)のエマルジョン溶液を、SUM(Niメッキ)からなる外径12mmの導電性支持体(芯軸)10の両端部(外径12.52mm)10a,10b上だけにスプレー塗布を行い、その後、オーブンで30分、約130℃の条件で塗料樹脂を加熱硬化することにより、膜厚約100μmの空隙保持層13a,13bを形成した。
【0062】
そして、この空隙保持層13a,13bの内側の導電性支持体10上に、ポリエーテルエステルアミド樹脂(サンコノールTBX−65、三光化学工業社製)を微粒子化したエマルジョン溶液をスプレー塗布することにより、膜厚約200μmの抵抗調整層11を形成した。
【0063】
そして、この抵抗調整層11の表面に、アクリルシリコーン樹脂(ネオポリナール800s、大橋化学社製)、硬化剤(硬化剤E、大橋化学社製)からなる膜厚約10μmの絶縁層(不図示)を形成し、さらにその上に、アクリルシリコーン樹脂(ネオポリナール800s、大橋化学社製)、硬化剤(硬化剤E、大橋化学社製)、およびカーボンブラック(全固形分に対して30重量%)からなる混合物を塗布することにより、膜厚約10μmの表面層12を形成した。その後、オーブンで1時間、約80℃の条件で塗料樹脂を加熱硬化することにより、帯電ローラを得た。
〈実施例4〉
【0064】
図5(c)は、実施例4における帯電ローラを示す図である。本実施例では、SUM(Niメッキ)からなる外径12mmの導電性支持体(芯軸)10の両端部に、高密度ポリエチレン樹脂(ノバテックPP HY540、日本ポリケム社製)からなる直径13mmのリング状の空隙保持部材13c,13dを圧入接着配置し、この空隙保持部材13c,13dの外径を切削加工により12.22mmに調整する。
【0065】
そして、この空隙保持部材13c,13dの内側の導電性支持体10上に、ポリエーテルエステルアミド(IRGASTAT P18、チバスペシャリティケミカルズ社製)をm−クレゾールに溶解させた樹脂溶液をスプレー塗布により、膜厚約400μmの抵抗調整層11を形成した。
【0066】
そして、この抵抗調整層11の表面に、シリコーン系樹脂(スリップコーティング剤HS−3、東芝シリコーン社製)、硬化剤(XC9603、東芝シリコーン社製)、触媒(YC6831、東芝シリコーン社製)、およびカーボンブラック(全固形分に対して30重量%)からなる混合物を塗布することにより、膜厚約10μmの表面層12を形成し、帯電ローラを得た。
〈比較例1〉
【0067】
ステンレスからなる外径10mmの導電性支持体(芯軸)上に、ABS樹脂(デンカABS GR−0500、電気化学工業社製)50重量%、ポリエーテルエステルアミド樹脂(IRGASTAT P16、チバスペシャリティケミカルズ社製)50重量%からなる樹脂組成物(体積固有抵抗:2×108Ωcm)を、混合の後、溶融混練した樹脂組成物を射出成形によって、抵抗調整層を成形した。
【0068】
そして、この抵抗調整層を切削加工によって外径11.2mmに形成し、その後、この抵抗調整層の表面に、ウレタン樹脂(アデカボンタイターAM36、旭電化社製)、イソシアンネート系硬化剤、およびカーボンブラック(全固形分に対して30重量%)からなる混合物により、膜厚約10μmの表面層を形成した。そして、前記抵抗調整層の両端部に、空隙保持部材として、ポリアセタール樹脂(SF20、ポリプラスチック社製)のリング状の成形品(外径12.85mm)を圧入接着し、帯電ローラを得た。
〈比較例2〉
【0069】
SUM(Niメッキ)からなる外径10mmの導電性支持体(芯軸)上に、、ABS樹脂60重量%、導電剤(ペレスタットNC6321、三洋化成社製)40重量%からなる樹脂組成物を射出成形によって、抵抗調整層を成形した。
【0070】
そして、この抵抗調整層を切削加工によって外径11.2mmに形成し、その後、この抵抗調整層の表面に、ポリビニルブチラール樹脂(デンカブチラール3000−K、電気化学工業社製)、イソシアネート系硬化剤、および酸化スズ(全固形分に対して25重量%)からなる混合物により、膜厚約10μmの表面層を形成した。そして、前記抵抗調整層の両端部に、空隙保持部材として、低密度ポリエチレン樹脂(NC524A、日本ポリオレフィン社製)からなるリング状の成形品(外径11.46mm)を圧入接着し、帯電ローラを得た。
〈比較例3〉
【0071】
ステンレスからなる外径10mmの導電性支持体(芯軸)上に、エピクロルヒドリンゴム(エピクロマーCG、ダイソー社製)100重量部に過塩素酸アンモニウム3重量部を配合したゴム組成物を押出成形、加硫工程を経て、抵抗調整層を成形した。
【0072】
そして、この抵抗調整層を研磨加工によって外径12.5mmに形成し、その後、この抵抗調整層の表面に、ポリビニルブチラール樹脂(デンカブチラール3000−K、電気化学工業社製)、イソシアネート系硬化剤、および酸化スズ(全固形分に対して25重量%)からなる混合物により、膜厚約10μmの表面層を形成した。そして、前記抵抗調整層の両端部に、空隙保持部材として、厚さ110μm(粘着層込み)のテープ状部材(材質:PET、ダイタック、PF025−H、大日本インキ社製)を貼り付け、帯電ローラを得た。
【0073】
前記実施例1〜4および比較例1〜3で得られた各帯電ローラ(導電性部材)の抵抗調整層の厚さ、表面粗さ、抵抗、表面層の抵抗、および空隙量は、表1に示すような値であった。なお、前記抵抗調整層の抵抗、および表面層の抵抗は、下記の評価開始前の値である。また、前記空隙量は、前記空隙保持層13a,13b(空隙保持部材13c,13d)の外径寸法から前記表面層12の外径寸法を引き、その値の二分の一の値であり、図4に示した帯電ローラ3の表面層12と感光体ドラム2との間に形成される空隙Cの値に対応している。
【0074】
【表1】

【0075】
そして、前記実施例1〜4および比較例1〜3で得られた各帯電ローラ(導電性部材)を、常温常湿(23℃、50%RH)、高温高湿(30℃、90%RH)の各環境下にそれぞれ24時間放置し、この環境変動に伴う前記空隙量の変動量(空隙変動量)を評価した。この空隙変動量の評価を、前記表1に示す。
【0076】
さらに、前記実施例1〜4および比較例1〜3で得られた各帯電ローラ(導電性部材)を、図6に示す画像形成装置20に搭載し、記録紙(A4横サイズ)を30万枚給紙して画像出力したときにおける帯電ムラ(異常放電)による画像不良発生の有無、および空隙保持層(空隙保持部材)へのトナー付着の有無を評価した。これらの評価を、前記表1に示す。なお、このときの帯電ローラへの印加電圧は、DC=−800V、AC=2.4kVpp(周波数:2kHz)であり、評価環境は、温度23℃、湿度60%RHである。
【0077】
図6に示す画像形成装置(例えば、デジタル複写機)20は、原稿読取部21により原稿(不図示)の画像情報を読み取り、読み取った画像情報は書込みユニット(露光装置)22に送られる。そして、矢印方向に回転している感光体ドラム2に対して近接配置した帯電ローラ(実施例1〜4および比較例1〜3の各帯電ローラに相当)3 により一様(均一)に帯電処理を行い、帯電処理された感光体ドラム2の表面に、書込みユニット22から画像情報に応じて光量制御したレーザ光Lを照射して静電潜像を形成した後、この静電潜像に現像ローラ6によりトナーが付着されトナー像が形成される。
【0078】
そして、トレイ23または24、もしくは手差しトレイ25から所定のタイミングで、感光ドラム2と転写搬送ベルト26との間に搬送される記録紙Sに対して、転写バイアスが印加された転写搬送ベルト26により前記トナー像を転写する。そして、搬送される記録紙S上に、定着ローラ27によりトナー像を定着させた後、排紙トレイ28もしくはビントレイ29に排出する。
【0079】
表1に示す評価結果から明らかなように、実施例1〜4の帯電ローラにおいては、空隙変動量が小さく、帯電ムラによる画像不良の発生も無く、また、空隙保持層(空隙保持部材)へのトナー固着も無く、良好な画像が得られた(総合判定:○)。
【0080】
一方、比較例1〜3の帯電ローラにおいては、空隙変動量が大きく、帯電ムラによる画像不良の発生が有り、また、空隙保持層(空隙保持部材)へのトナー固着も有り、良好な画像が得られなかった(総合判定:×)。
【0081】
このように、本発明に係る導電性部材を帯電ローラとして使用した画像形成装置(少なくとも感光体ドラムと帯電ローラとをユニット化したプロセスカートリッジとして装着した画像形成装置も含む)では、高温高湿環境下においても、帯電ローラ3の表面層12と感光体ドラム2との間に形成される空隙Cの変動を小さく抑えることができるので、長期にわたって良好な画像を得ることができる。
【0082】
また、前記した実施形態では、本発明に係る導電性部材を、感光体ドラムを帯電する帯電ローラに用いた例であったが、電子写真方式の画像形成装置に備えられる現像ローラや転写ローラなどにも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施形態に係る導電性部材としての帯電ローラを備えた画像形成装置の要部を示す概略図。
【図2】本発明の実施形態に係る導電性部材としての帯電ローラを含む画像形成部をプロセスカートリッジとした構成の画像形成装置の要部を示す図。
【図3】(a)は、本発明の実施形態に係る導電性部材としての帯電ローラを示す縦断面図、(b)は、そのA−A線断面図。
【図4】本発明の実施形態に係る導電性部材としての帯電ローラと感光体ドラムとの位置関係を示す図。
【図5】(a)は、本実施形態の実施例1における、導電性部材としての帯電ローラを示す図、(b)は、本実施形態の実施例2、3における、導電性部材としての帯電ローラを示す図、(c)は、本実施形態の実施例4における、導電性部材としての帯電ローラを示す図。
【図6】本実施形態の実施形態1〜4および比較例1〜3における導電性部材としての帯電ローラを備えた画像形成装置を示す概略図。
【符号の説明】
【0084】
1、20 画像形成装置
2 感光体ドラム(像担持体)
3 帯電ローラ(導電性部材)
6 現像ローラ
7 転写ローラ
9 プロセスカートリッジ
10 導電性支持体
11 抵抗調整層(電気抵抗調整層)
12 表面層
13a,13b 空隙保持層(空隙保持部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体と、前記導電性支持体上に高分子型イオン導電性材料を主材料として形成された電気抵抗調整層と、前記電気抵抗調整層の両端部上、または前記電気抵抗調整層の両端部に接する前記導電性支持体上に設けられ、前記電気抵抗調整層に対して近接配置される像担持体の両端側に絶縁性を有する表面を当接して、前記電気抵抗調整層と前記像担持体との間に所定の空隙を形成するための空隙保持部と、を備えた導電性部材であって、
前記電気抵抗調整層の厚さを100〜500μmとした、
ことを特徴とする導電性部材。
【請求項2】
前記電気抵抗調整層の表面粗さRzが4μm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の導電性部材。
【請求項3】
前記電気抵抗調整層の体積固有抵抗値が106〜109Ωcmである、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の導電性部材。
【請求項4】
前記高分子型イオン導電性材料が、ポリエーテルエステルアミド含有高分子化合物である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項5】
前記高分子型イオン導電性材料を溶解させた溶液、または前記高分子型イオン導電性材料を微粒子化して溶液中に分散したエマルジョン溶液を塗布方法により、前記電気抵抗調整層を前記導電性支持体上に形成した、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項6】
前記電気抵抗調整層および前記空隙保持部は、前記導電性支持体を中心軸とする円筒形状である、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項7】
前記電気抵抗調整層と前記像担持体との間の空隙が100μm以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項8】
前記電気抵抗調整層の上に、トナー非付着を有する材料からなる表面層を形成し、前記表面層の電気抵抗を前記電気抵抗調整層の電気抵抗よりも大きくした、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項9】
前記電気抵抗調整層の両端部上に、塗布方法により前記空隙保持部としての空隙保持層を所定の厚さに形成した、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項10】
前記電気抵抗調整層の両端部に接するようにして前記導電性支持体上に、前記空隙保持部としての空隙保持部材を配置し、前記空隙保持部材の表面を加工して所定の厚みに形成した、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項11】
前記導電性部材は、近接配置された像担持体を帯電する帯電ローラである、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項12】
請求項11に記載の帯電ローラと、前記帯電ローラによって帯電される像担持体とを、少なくとも一体のユニット構成として備えた、
ことを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項13】
請求項12に記載のプロセスカートリッジを着脱自在に備えた、
ことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−52168(P2007−52168A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236399(P2005−236399)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】