説明

導電性高分子用エッチング液および導電性高分子をパターニングする方法

【課題】導電性高分子に対し優れたエッチング処理能力を有する導電性高分子用エッチング液を提供すること、さらには前記導電性高分子用エッチング液を用いたパターニング方法を提供すること。
【解決手段】有効塩素濃度が0.06重量%以上であり、かつ、pHが3を超え8未満である次亜塩素酸塩水溶液であることを特徴とする導電性高分子用エッチング液。前記次亜塩素酸塩水溶液は、次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液であることが好ましい。また、導電性高分子は、ポリアニリン類またはポリチオフェン類であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子用エッチング液および導電性高分子をパターニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、透明導電膜としては、インジウム(In)を含むITO(酸化インジウムスズ)が主に使われているが、Inは可採埋蔵量が3千トンという希少元素で早ければ2011年〜2013年頃には可採埋蔵量を使い切ってしまう、といった予測もあり、Inを使わないITOの代替材料の開発が急務である。導電性高分子の導電率は目覚しく向上しており、ITOの代替材料として導電性高分子は有望である。
この導電性高分子は、導電性、光の透過性、発光性、製膜後もフレキシブルであるという特徴をもっており、透明導電膜、電解コンデンサー、帯電防止剤、電池、および有機EL素子等への応用が研究され、一部では実用化されている。
【0003】
電解コンデンサーの電解液よりも導電性が高く安定性も高い導電性高分子を使うことで、周波数特性が改善され、耐熱性にも優れた電解コンデンサーを得ることができる。
また、導電性高分子をポリマーフィルムの表面に薄く製膜することで透明性を保ったまま静電気を防止することができるため、このようなものは使い勝手の良い帯電防止フィルムや帯電防止容器として使用されている。
【0004】
導電性高分子は2次電池の正極として用いることができ、リチウムポリアニリン電池やリチウムイオンポリマー電池等に使われている。
発光層に導電性高分子を用いた高分子有機ELディスプレイがあり、基板にガラスではなくプラスチックを用いることで、フレキシブルなディスプレイが作製できる。また、正孔輸送層にも導電性高分子を用いることができる。高分子有機ELディスプレイを含む有機ELディスプレイは、自発光のディスプレイなので視野角が広く、薄型化しやすく、色の再現性に優れる。また、正孔と電子の再結合による発光なので応答速度が速い。有機ELディスプレイはこのような優れた特徴を持っているために、将来有望なディスプレイである。
また、導電性高分子を使用してダイオードやトランジスタなどの電子素子を作製することができ、性能の向上が研究されている。導電性高分子を白金の代わりに色素増感型太陽電池の二酸化チタンの対極として使用することにより、現在主流となっているシリコンを利用した太陽電池よりも安価な太陽電池の開発を目指し研究されている。
このように導電性高分子は将来のエレクトロニクス産業にとって有益な材料で、導電性高分子のパターニング方法は導電性高分子を使用するにあたって重要な技術である。
【0005】
導電性高分子をパターニングする方法には幾つかの種類がある。まず、インクジェット等の印刷法を使ったパターニングがある(例えば、特許文献1参照)。印刷法はパターニングと同時に製膜も行うため生産工程は簡便だが、導電性高分子をインク化する必要がある。しかし、導電性高分子は凝集しやすくインク化は困難である。また、印刷後の広がり防止や、インク乾燥後に液滴周辺部が中心部より厚くなる問題も存在する。
これに対し、パターニングに広く用いられているフォトエッチング方法は均一な膜を製膜後にパターニングを行うので、簡単な製膜方法を採用できる利点がある。
【0006】
導電性高分子をエッチングによってパターニングする方法については、例えば特許文献2および特許文献3に開示されている。
しかしながら、特許文献2には、導電性高分子のエッチングに使用するエッチング液については述べられていない。
特許文献3には、導電性高分子としてpolypyrrole(PPy)に対して、次亜塩素酸塩または(NH42Ce(SO43などを使用してエッチングすることが開示されている。ここで用いている次亜塩素酸塩は、市販の漂白剤(Clorox(商品名) bleach)で、その水溶液はアルカリ性であり、エッチングに欠かせないフォトレジストにダメージを与えてしまう問題がある。また、(NH42Ce(SO43を用いた実施例が記載されている。
また、特許文献3にはエッチングせずにフォトレジストで覆われなかった部分に薬液(例えばtetramethylammonium hydroxide(TMAH)、またはNH4OH)を接触させ、電気抵抗を増加させたり、別の薬液(例えばHCl、HNO3、HClO4、およびH2SO4)を接触させ電気抵抗を減少させたりすることでパターニングする方法が開示されている。しかし、このような電気抵抗を増減させてパターニングする方法は絶縁が不十分であり現実的ではない。特に有機ELディスプレイ等のディスプレイ用途には素子間の絶縁性が重要である。
【0007】
【特許文献1】特開2005−109435号公報
【特許文献2】特開平5−335718号公報
【特許文献3】国際公開第97/18944号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、導電性高分子に対し優れたエッチング処理能力を有する導電性高分子用エッチング液を提供することであり、さらには前記導電性高分子用エッチング液を用いたパターニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は、以下の<1>および<5>に記載の手段により達成された。好ましい実施態様である<2>〜<4>と共に以下に記載する。
<1> 有効塩素濃度が0.06重量%以上であり、かつ、pHが3を超え8未満である次亜塩素酸塩水溶液であることを特徴とする導電性高分子用エッチング液、
<2> 前記次亜塩素酸塩水溶液が次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液である<1>に記載の導電性高分子用エッチング液、
<3> 導電性高分子がポリアニリン類またはポリチオフェン類である<1>または<2>に記載の導電性高分子用エッチング液、
<4> 導電性高分子がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)である<1>〜<3>いずれか1つに記載の導電性高分子用エッチング液、
<5> <1>〜<4>いずれか1つに記載の導電性高分子用エッチング液を用いて導電性高分子をパターニングする方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、導電性高分子に対し優れたエッチング処理能力を有するエッチング液を提供することができる。さらには前記エッチング液を用いたパターニング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の導電性高分子用エッチング液(以下、単に「エッチング液」ともいう。)は、有効塩素濃度が0.06重量%以上であり、pHが3を超え8未満である次亜塩素酸塩水溶液であることを特徴とする。
また、前記次亜塩素酸塩水溶液は、次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液であることが好ましい。
さらに、本発明の導電性高分子をパターニングする方法(以下、単に「パターニング方法」ともいう。)は、前記エッチング液を用いることを特徴とする。
なお、「%」は特に断らない限り「重量%」を示す。
【0012】
導電性高分子のパターニング方法の一例について、図1を参照して説明する。
図1A〜図1Gは、本発明のエッチング液を用いて導電性高分子をエッチングして、導電性高分子の回路パターンを得る一例の概略工程図である。
本発明のエッチング液の使用例として、透明基板1(図1A)上に導電性高分子2(図1B)をコーティングし、この透明基板1(図1B)上にレジスト3(図1C)を塗布し(図1C)、回路図に従って露光する(図1D)。そして露光した部分のレジスト4を現像液で除去し導電性高分子膜を露出させる(図1E)。現像した基板に本発明のエッチング液を用いてエッチングし(図1F)、導電性高分子膜をパターニングする。その後、洗浄し、残存するレジスト部を除去して導電性高分子部がパターニングされた基板を得ることができる(図1G)。
尚、図1ではレジスト3として、ポジ型レジストを使用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ネガ型のレジストを使用することもできる。
【0013】
導電性高分子はπ電子が移動して導電性を示す。このような導電性高分子は多数報告されている。
本発明に用いることができる導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、ポリビチオフェン、ポリイソチオフェン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリイソチアナフテン、ポリイソナフトチオフェン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチアジル、ポリエチレンビニレン、ポリパラフェニレン、ポリドデシルチオフェン、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリフェニレンスルフィド等やその誘導体が例示できる。これらのうち、ポリアニリン類およびポリチオフェン類が好ましく、ポリチオフェン類がより好ましく、電気伝導度、空気中での安定性および耐熱性に優れたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェンが)最も好ましい。
また、導電性高分子を用いる際により高い電気伝導度を発現する目的で、ドーパントと呼ばれるドーピング剤を併用することができる。前記導電性高分子に用いることができるドーパントとしては、公知のドーパントを用いることができ、導電性高分子の種類に応じ、ハロゲン類(臭素、ヨウ素、塩素等)、ルイス酸(BF3、PF5等)、プロトン酸(HNO3、H2SO4等)、遷移金属ハライド(FeCl3、MoCl5等)、アルカリ金属(Li、Na等)、有機物質(アミノ酸、核酸、界面活性剤、色素、アルキルアンモニウムイオン、クロラニル、テトラシアノエチレン(TCNE)、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)等)等が例示できる。導電性高分子自体にドーピング効果を持つ自己ドープ型の導電性高分子であってもよい。また、導電性高分子としてポリチオフェン類を用いる場合、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸を用いることが好ましい。
【0014】
本発明に用いることができる導電性高分子の導電率は、導電性を示す値の範囲であれば特に制限はないが、10-6〜104S/cmであることが好ましく、10-5.5〜103S/cmであることがより好ましく、10-5〜5×102S/cmであることが更に好ましい。本発明において用いる導電性高分子の導電率が上記範囲内であると、接続部分のパターニング等において好適であるので好ましい。
【0015】
また、本発明において、製膜後の導電性高分子は、使用時において、可視光域における透過率が高いものが好ましい。なお、透過率は、波長550nmにおいて60〜98%であることが好ましく、70〜95%であることがより好ましく、80〜93%であることが更に好ましい。導電性高分子自体の透過率が上記範囲内であると、ディスプレイ等に好適に使用できる。
ここで、本発明において、可視光域とは波長400〜700nmである。なお、透過率は、分光光度計により測定することができる。
【0016】
各種の導電性高分子が市販されている。Panipol社により製造され「Panipol」の商品名で市販されているポリアニリンは、機能性スルホン酸でドープした有機溶媒可溶型ポリアニリンである。Ormecon社により製造され「Ormecon」の商品名で市販されたポリアニリンは、有機酸をドーパントに用いた溶媒分散型ポリアニリンである。Bayer社により製造され「Baytron」の商品名で市販されているポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)はポリスチレンスルホン酸をドーパントとしている。その他に、アキレス(株)から商品名「STポリ」で市販されるポリピロール、東洋紡績(株)から商品名「PETMAX」で市販されるスルホン化ポリアニリン、マルアイ(株)から商品名「SCS−NEO」で市販されるポリアニリンも本発明に使用できる。
【0017】
特許流通促進事業として特許流通支援チャートの平成13年度 化学6「有機導電性ポリマー」に記載されている導電性高分子も本発明に使用できる。
【0018】
本発明のエッチング液は、次亜塩素酸塩の水溶液を用いるものであり、当該塩としては、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩が例示でき、好ましくはアルカリ金属塩である。当該アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩またはカリウム塩が好ましく、より好ましくはナトリウム塩である。当該アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩が好ましい。
なお、本発明のエッチング液の溶媒としては、エッチング処理に影響のない媒体であれば、特に制限はないが、水であることが好ましい。
【0019】
次亜塩素酸塩は、水酸化アルカリ金属または水酸化アルカリ土類金属に塩素を吸収させて製造するので、未反応の水酸化アルカリ金属または水酸化アルカリ土類金属の影響でその水溶液は強アルカリ性を示す。このように強アルカリ性を示す導電性高分子用エッチング液は、レジストに悪影響を与えるので、本発明のエッチング液のpHは、3を超え8未満であり、pH4〜7.5が好ましく、pH4.5〜7がより好ましく、更に好ましくはpHが5〜6である。
エッチング液のpHが8以上であると、レジストに悪影響を与える。また、pHが3以下であると、塩素ガスの発生によりエッチング液中の有効塩素濃度が低下することによりエッチング所要時間が延長するとともに、発生した塩素ガスによりエッチング装置や近くにある機器などに障害を与える。また、エッチング液のpHが4.0以上であると塩素ガスの発生ほとんどないことから好ましく、pHが4.5以上であると塩素ガスの発生が無いことから特に好ましい。
【0020】
本発明において、エッチング液のpHを上記範囲内とするためには、酸を添加する。添加する酸としては無機酸および有機酸のいずれも使用することができる。
具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、酢酸、クエン酸等が好ましく例示でき、これらの中でも硫酸および硝酸がより好ましい。
本発明のエッチング液のpHは、市販されているpHメーターを用いて測定することができる。
【0021】
本発明の導電性高分子のエッチング液は、次亜塩素酸の有効塩素濃度が0.06重量%以上である。エッチング液の有効塩素濃度が0.06重量%未満であると、十分なエッチング処理能力が得られない。
有効塩素濃度は、より好ましくは0.1%以上であり、更に好ましくは0.2%以上であり、3%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下が更に好ましい。本発明のエッチング液において、有効塩素濃度がこの範囲内であると導電性高分子のエッチングが効率よくできるので好ましい。
【0022】
本発明において、有効塩素濃度は、Na2SO3での滴定法により測定する。即ち、測定する試料をWグラム採取し、イオン交換水で250mlにメスアップする。この試料液10mlを分取し、ヨウ化カリウム10%水溶液10mlを加える。そして、酢酸(1:2)10mlを加えpHを酸性にし、0.1規定濃度チオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定する(滴定の途中で終点を判定しやすくするため可溶性でんぷんを加える)。0.1規定濃度Na2SO3の滴定量および試料採取量Wと次式から有効塩素濃度を求める。
有効塩素濃度(%)=
0.003546×(Na2SO3滴定量:ml)×100/W/(10/250)
【0023】
本発明のエッチング液においてエッチング液温は、10〜70℃であることが好ましく、20〜60℃であることがより好ましい。本発明のエッチング液において、液温が上記範囲内であるとエッチングの処理能力が良いので好ましい。
【0024】
本発明のエッチング液を使用する際のエッチング時間は、0.2〜30分間が好ましく、0.3〜15分間がより好ましく、0.4〜5分間が更に好ましい。本発明のエッチング液において、エッチング時間が上記範囲内であるとエッチング処理において基板等に与えるダメージが少ないので好ましい。また、十分なエッチング処理能力を発揮できるので好ましい。
本発明においてエッチング方法は特に限定されず、浸漬法とスプレー法のいずれも使用可能である。
本発明のエッチング液において、次亜塩素酸塩の濃度の制御は、酸化還元電位、pH、電気伝導度または比重、あるいはこれらを組み合わせることで可能である。
【0025】
本発明のエッチング液を使用して、導電性高分子をパターニングするには、エッチング液で導電性高分子が溶解しない部分を保護する、フォトレジストが必要になる。当該フォトレジストは紫外線を照射した部分が現像液に溶解するポジ型と紫外線を照射した部分が現像液に不溶化するネガ型がある。
ポジ型は液体のレジストが多く、ディスプレイでは、LCD(液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display))等の線幅が数μmオーダーのエッチングに用いられる。
ネガ型はドライフィルムレジストが多く、ディスプレイでは、PDP(プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel))等の線幅が数十μmオーダーのエッチングに用いられる。ポジ型とネガ型どちらのレジストも本発明において使用可能なので、目的とするパターンの精細度によってポジ型とネガ型を適宜選択すればよい。
フォトレジストとしては、アルカリを用いて除去することの可能なレジストであることが好ましく、液体のレジストであることがより好ましい。
【0026】
基板としては、特に制限はなく、使用用途に応じて選択することができ、具体的には、ガラス、石英、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)、ポリイミド、ポリアクリレート、メタクリレート等が挙げられる。
【0027】
本発明の導電性高分子のエッチング液およびパターニング方法は、電解コンデンサー、電池、タッチパネル、液晶パネル、および有機EL素子等に用いる導電性高分子のエッチングに適用することができる。
従って、高分子有機ELディスプレイに代表されるディスプレイの表示画素部分の導電性高分子および周辺回路と導電性高分子の接続部分のパターニング、タッチパネルの検出部分の導電性高分子および周辺回路と導電性高分子の接続部分のパターニング、コンデンサー製造時に不要部分に付着した導電性高分子の除去などといったエッチングの必要な用途において導電性高分子の利用を促進することが期待できる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、これらの実施例で本発明が限定されるものではない。
【0029】
(実施例1〜14、比較例1〜8)
ポリエチレンテレフタレート(PET)シートの表面に導電性高分子としてBAYTRON F E(商品名、スタルク(株)製、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)含有)を用いて薄膜(50nm程度)を作製したものをテスト基板(B)とした。
ドライフィルムレジスト(製品名:ORDYL LF525(東京応化工業(株)製)を、ラミネーターを用いてテスト基板(B)に貼り付け、テスト基板(C)とした。
ドライフィルムレジストを貼り付けた前述のテスト基板(C)に、型枠式真空露光機を用いてマスターパターンを密着させながら紫外線を照射して露光し、テスト基板(D)を得た。1%Na2CO3水溶液を現像液として、30℃に調節しながら露光済みのテスト基板(D)にスプレー圧力1MPaで噴霧し、現像し、テスト基板(E)を得た。
【0030】
現像済みのテスト基板(E)を水洗後、次亜塩素酸ソーダの水溶液に浸漬してエッチングを行った(F)。次亜塩素酸ソーダの水溶液の有効塩素濃度およびpHは、以下の表1に示す通りである。また、実施例14では、CaCl(ClO)(さらし粉)の水溶液(有効塩素濃度が0.32%、pH5.25)を使用した。
なお、このエッチングは、最長30分間行った。
また、pHの調整には35%塩酸を適宜イオン交換水で希釈して使用した。
3%NaOH水溶液を液温30℃に調節しながらエッチング済みのテスト基板(F)を2分間浸漬しドライフィルムレジストを剥離した(G)。
ドライフィルムレジストを剥離したテスト基板(G)を水洗し、エアーを吹き付けてテスト基板を乾燥した。
【0031】
乾燥後のテスト基板を走査型電子顕微鏡で観察し、被エッチング部分に導電性高分子のエッチング残りが無く、基板のPETが露出しているかどうかを確認した。
ここで、エッチング所要時間を次のように定義し、エッチング所要時間を評価した。即ち、基板上の導電性高分子のエッチング残りが無くなるのに必要なエッチング液への浸漬時間をエッチング所要時間とした。この結果を表1に記載した。なお、ドライフィルムレジストで覆われていた導電性高分子の表面は、エッチングによる変化が認められなかった。また、エッチングによる基板の変化も認められなかった。
また、現像後のテスト基板を長時間エッチング液に浸漬し、ドライフィルムレジストの剥がれを観察した。
【0032】
有効塩素濃度の測定方法は、Na2SO3での滴定法により測定した。即ち、測定する試料をWグラム採取しイオン交換水で250mlにメスアップした。この試料液10mlを分取し、ヨウ化カリウム10%水溶液10mlを加えた。そして、酢酸(1:2)10mlを加えpHを酸性にし、0.1規定濃度チオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定した(滴定の途中で終点を判定しやすくするため可溶性でんぷんを加えた)。0.1規定濃度Na2SO3の滴定量および試料採取量Wと次式から有効塩素濃度を求めた。
有効塩素濃度(%)=
0.003546×(Na2SO3滴定量:ml)×100/W/(10/250)
【0033】
【表1】

【0034】
表1において、有効塩素濃度が0.06%以上であり、pHが3を超え8未満である次亜塩素酸塩水溶液をエッチング液として使用した実施例1〜14では、エッチング所要時間およびレジスト剥がれのいずれにおいても良好な結果が得られた。
これに対し、有効塩素濃度またはpHが上記範囲から外れるエッチング液を使用した比較例1〜8では、エッチング所要時間および/またはレジスト剥がれに問題があった。また、比較例5および比較例6では、測定時には有効塩素濃度はそれぞれ0.27%および0.33%であったが、経時による有効塩素濃度の減少により、エッチング時の有効塩素濃度が減少していたと考えられる。
【0035】
なお、表1において、エッチング所要時間およびレジスト剥がれは、以下の基準に従い評価した。
<エッチング所要時間の判定基準>
×:30分より長時間
△:5分より長く、30分以内
〇:1分より長く、5分以内
◎:1分以内
<レジスト剥がれの判定基準>
×:15分未満にレジスト剥がれが発生した
△:15分以上20分未満の間でレジスト剥がれが発生した
○:20以上30分未満の間でレジスト剥がれが発生した
◎:30分経過してもレジスト剥がれが発生しなかった
【0036】
(実施例15)
表2に記載のエッチング液を使用し、表2に記載の導電性高分子を使用した以外は、実施例1と同様にして、エッチング所要時間を測定した。
結果を以下の表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
(実施例16、比較例9〜12)
有効塩素濃度を0.99重量%とし、pHを表2に記載のpHとした以外は実施例1と同様にしてエッチング所要時間およびレジスト剥がれを評価した。結果を以下の表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
(実施例17〜20)
実施例1において、導電性高分子用エッチング液のpHを以下に示す酸を用いて行い、エッチング所要時間およびレジスト剥がれを評価した。尚、pH調整に用いた酸は、実施例1と同様に、水で適宜希釈してpH調製に使用した。
結果を以下の表4に示す。
【0041】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のエッチング液を用いることで、高分子有機ELディスプレイに代表されるパターニングが必要なディスプレイ用途等に導電性高分子を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のエッチング剤を用いて導電性高分子をエッチングして導電性高分子の回路パターンを得る概略工程図の一例である。
【符号の説明】
【0044】
A 透明基板のみの概念図
B 透明基板に導電性高分子膜を取付けた概念図
C 導電性高分子膜の上にレジストを塗布したものの概念図
D 回路パターンに従ってレジストを露光した概念図
E 露光したレジストを除去した後の概念図
F 本発明のエッチング剤を用いて導電性高分子膜をエッチングした後の概念図
G レジストを除去して導電性高分子を用いた回路図が完成した概念図
1 透明基板
2 導電性高分子膜
3 レジスト
4 露光したレジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効塩素濃度が0.06重量%以上であり、かつ、pHが3を超え8未満である次亜塩素酸塩水溶液であることを特徴とする
導電性高分子用エッチング液。
【請求項2】
前記次亜塩素酸塩水溶液が次亜塩素酸アルカリ金属塩水溶液である請求項1に記載の導電性高分子用エッチング液。
【請求項3】
導電性高分子がポリアニリン類またはポリチオフェン類である請求項1または2に記載の導電性高分子用エッチング液。
【請求項4】
導電性高分子がポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)である請求項1〜3いずれか1つに記載の導電性高分子用エッチング液。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1つに記載の導電性高分子用エッチング液を用いて導電性高分子をパターニングする方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−88231(P2008−88231A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268737(P2006−268737)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000215615)鶴見曹達株式会社 (49)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】