説明

導電性高分子電極とその製造方法、導電性高分子層形成用塗布液、およびそれを備えた色素増感太陽電池

【課題】簡便に作製することができ、高い密着性と導電性を兼ね備えた導電性高分子電極とその製造方法、およびそれを形成するための塗布液、および導電性高分子電極を備えた色素増感太陽電池を提供すること。
【解決手段】導電性基体上に、導電性高分子と密着性向上剤を含んでなる導電性高分子層が担持された導電性高分子電極であって、該密着性向上剤が、少なくとも2つのカルボキシル基を有する化合物、および/または、そのエステル形成誘導体構造を有する化合物であることを特徴とする導電性高分子電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子電極とその製造方法、導電性高分子層形成用塗布液、および導電性高分子電極を備えた太陽電池に関する。さらに詳しくは、導電性基体に対する高い密着性と高い導電性が求められる優れた導電性高分子電極とその製造方法、導電性高分子層形成用塗布液、および該導電性高分子電極を備えた色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性高分子の多様な性質を利用して様々な材料やデバイスへの利用がなされており、例えば、帯電防止フィルムや固体電解コンデンサ、有機EL素子、太陽電池等に使用されている。
【0003】
導電性高分子はドープ量や重合量にて電導度を調整でき、また、樹脂との相溶性が高いため、帯電防止フィルムなど、電流を取り出す必要のない利用方法においては非常に優れていると言える。しかしながら、金属や炭素材料と比較して一般的に導電性が低く、高電導度が要求される電極基材などへの利用は導電性高分子のみでは困難である。そのため、電極材料として用いる場合には、抵抗値を下げるため他の導電性の基体に担持・接触させる手法が取られている。
【0004】
このとき、導電性高分子と電極基体との接触抵抗を下げ、かつハンドリング性を確保する上で、導電性高分子は導電性基体に強く密着していることが望ましい。特に、導電性高分子が液体と直接接触するデバイスや広い平面状の電極として使用する太陽電池などのデバイスでは、高電導度と高密着性の両立が求められる。
しかしながら、金属や金属酸化物などの高い導電性を示す材質に対して、導電性高分子の付着性は弱いという課題点があった(特許文献1)。
【0005】
従来、導電性高分子を導電性基体に担持する方法としては、樹脂バインダーを混合することで密着性を向上させる方法や、シランカップリング剤や、金属アルコキシドなどからなるゾルゲル液と混合させて塗布することで、金属や金属酸化物との密着性が高い無機材料にて固定する方法が挙げられる(特許文献2)。
また、自己組織化膜を導電性基体表面上に形成することで、基体の塗れ性・密着性を向上する方法などが挙げられる。
しかしながら、上記の方法は絶縁材料を内包することとなり、抵抗値が増大してしまうという課題点が残ったままである(特許文献3、特許文献4)。
【0006】
また、導電性高分子のみを金属や金属酸化物からなる基体に強く密着させる方法としては、導電性である基体を電極とし、導電性高分子のモノマーを溶解させた電解液中に浸漬させて電圧を印加することで、導電性基体表面に直接導電性高分子を重合させる方法が知られている。
しかし、電解重合法による導電性高分子の作製方法には、電解液中のモノマーや支持電解質が残留しやすいことや、特に大面積製膜時、導電性高分子の厚さが不均一になりやすく、精密な条件設定や制御が必要であるなど、さらなる量産性の改善が求められている(特許文献5)。
【0007】
ところで、これらの課題点を克服した、より簡便に作製することができ、高い密着性と導電性を両立させた導電性高分子電極が求められている用途として、具体的には色素増感太陽電池が挙げられる。
【0008】
色素増感太陽電池は、半導体層に可視光域を吸収させる増感色素を担持させた太陽電池であり、使用する材料が安価であること、比較的シンプルなプロセスで製造できること等の利点からその実用化が期待されている。
上記色素増感太陽電池では、可視光を吸収して励起した増感色素から半導体層に電子が注入され、集電体を通して外部に電流が取り出される(光電極)。一方、酸化した増感色素は、電解質中の酸化還元対にて還元されるとともに、酸化された酸化還元対は対極に備えられた触媒にて還元体に再生される。
【0009】
しかしながら、これらの太陽電池では電流は受光面積に比例するため、より広い面積が必要である一方、光照射により発生した起電力のみで駆動するため、高い導電性と密着性が必須である。電極の導電性基体と導電性高分子層の密着性を向上させるため、固着剤として金属−アルコキシ化合物を用いる方法があるが、電気伝導率が低下する欠点がある(特許文献6)。特に色素増感太陽電池では、一般的に液状もしくはゲル状の電解質が用いられているため、電解質の含浸に伴う膨潤や剥離を防止するため、より高い密着性が求められている。
【0010】
【特許文献1】特開2003−192994号公報
【特許文献2】特開2001−270999号公報
【特許文献3】特開2008−136684号公報
【特許文献4】特開2003−335969号公報
【特許文献5】特開2004−139951号公報
【特許文献6】特開2007−12297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、簡便に作製することができる、高い密着性と導電性を兼ね備えた導電性高分子電極とその製造方法、およびそれを形成するための塗布液、および導電性高分子電極を備えた色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記に示した手段によって高い密着性と導電性を兼ね備えた導電性高分子電極とその製造方法、およびそれを形成するための塗布液、および導電性高分子電極を備えた色素増感太陽電池が得られることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、
[1]導電性基体上に、導電性高分子と密着性向上剤を含んでなる導電性高分子層が担持された導電性高分子電極であって、該密着性向上剤が、少なくとも2つのカルボキシル基を有する化合物、および/または、そのエステル形成誘導体構造を有する化合物であることを特徴とする導電性高分子電極であり、
【0014】
[2]前記密着性向上剤が、少なくとも1つのスルホ基を有していることを特徴とする[1]に記載の導電性高分子電極であり、
【0015】
[3]前記密着性向上剤が、下記一般式(1)で表される化合物、および/または、そのエステル形成誘導体を有する化合物であることを特徴とする[1]または[2]に記載の導電性高分子電極であり、
【0016】
【化1】

(式(1)中、(A)はベンゼン環、多環芳香環、アルカン、アルケンからなる群から選ばれる少なくとも一つを示し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルカリ金属からなる群から選ばれる少なくとも一つを示し、Xはカチオンを示す。)
【0017】
[4]前記密着性向上剤のアニオン成分が前記導電性高分子のドーパントであることを特徴とする[1]から[3]のいずれか一項に記載の導電性高分子電極であり、
【0018】
[5]前記導電性高分子が、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする[1]から[4]のいずれか一項に記載の導電性高分子電極であり、
【0019】
[6]導電性高分子と密着性向上剤と極性溶媒とを少なくとも含有する塗布液であって、該密着性向上剤が下記一般式(1)で表される化合物、および/または、そのエステル形成誘導体構造を有する化合物であることを特徴とする導電性高分子層形成用塗布液であり、
【0020】
【化2】

(式(1)中、(A)はベンゼン環、多環芳香環、アルカン、アルケンからなる群から選ばれる少なくとも一つを示し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルカリ金属からなる群から選ばれる少なくとも一つを示し、Xはカチオンを示す。)
【0021】
[7]前記密着性向上剤のアニオン成分が前記導電性高分子のドーパントであることを特徴とする[6]に記載の導電性高分子層形成用塗布液であり、
【0022】
[8]導電性基体と導電性高分子層形成用塗布液からなる導電性高分子電極の製造方法において、導電性基体上に[6]または[7]に記載の導電性高分子層形成用塗布液を塗布、乾燥する工程を有することを特徴とする導電性高分子電極の製造方法であり、
【0023】
[9]導電性被膜上に形成した半導体層に増感色素を担持させて形成した光電極と、酸化還元対となる化学種を含む電解質層と、該電解質層を介して該光電極に対向配置された対極とを少なくとも具備する色素増感太陽電池において、前記対極が[1]から[5]のいずれか一項に記載の導電性高分子電極であることを特徴とする色素増感太陽電池である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、導電性基体上に担持された導電性高分子が、少なくとも2つのカルボキシル基を有する化合物、および/または、そのエステル形成誘導体構造を有する化合物、好ましくはスルホ基を分子内に有する化合物である密着性向上剤のアニオンをドーパントとして含むことで、絶縁物を含有することなく簡便に生産することができる、高い密着性と導電性を兼ね備えた導電性高分子電極とその製造方法、およびそれを形成するための塗布液、および該導電性高分子電極を備えた色素増感太陽電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について適宜、図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明の導電性高分子電極の一例を示す断面模式図である。本発明の導電性高分子電極4は、導電性基体1の表面に、密着性向上剤2と導電性高分子3とが含有されてなる導電性高分子層が担持されている。
【0027】
図2は、本発明の色素増感太陽電池の一例を表す断面模式図である。その色素増感太陽電池において、透明基体5とその上に形成された透明導電膜6からなる電極基体7の表面に、多孔質金属酸化物半導体層8が形成され、さらに該多孔質金属酸化物半導体層8の表面には増感色素層9が吸着されることで光電極10が形成されている。そして、電解質層11を介して、本発明の導電性高分子電極が対極12として配置されている。
【0028】
以下、本発明の導電性高分子電極の各構成材料について、好適な形態を説明する。
[導電性基体]
基体は、電極の集電体として機能するため、電気伝導度が高いことが望ましい。このような電極基体の材質としては、例えば導電性を有する金属や金属酸化物、炭素材料などが用いられる。本発明においては、従来の技術に比し、金属および金属酸化物材料に対して高電導度を維持しながら大幅な密着性の向上を図ることができる。このため、特に、耐久性や電気伝導度に優れた金属材料が好適に用いることができる。具体的には、白金、アルミニウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、タンタル、ニオブ、およびステンレスなど、それらの合金が挙げられる。また、使用時の電気抵抗を低減するため、金や銀、銅など高電導度の金属材料を単独または併用することもできる。
【0029】
また、他の好適な材料としては、導電性金属酸化物が挙げられる。特に限定はされないが、例えばフッ素をドープした酸化スズ(以下、「FTO」と略記する。)や、酸化インジウム、酸化スズと酸化インジウムの混合体(以下、「ITO」と略記する。)、アンチモンをドープした酸化スズ、また、酸化亜鉛や酸化チタンなどが好適に用いることができる。
【0030】
また、炭素材料に対しては特に制限されず従来の技術と同様に使用することができる。具体的には、例えば黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブやフラーレンなどが挙げられる。
【0031】
上記導電性基体には、耐久性やハンドリング性を高めることなどを目的として支持体を兼備することができる。例えば、透明性を求める場合にはガラスや透明なプラスチック樹脂板を用いることができる。また、軽量性を求める場合にはプラスチック樹脂板、フレキシブル性を求める場合にはプラスチック樹脂フィルムなどを用いることができる。また、強度を高める場合には、金属板などを用いることもできる。
【0032】
支持体の配置方法は特には限定されないが、電極の作用部分として、導電性基体の表面に導電性高分子層が担持されているため、支持体は導電性高分子層が担持されない部分、特に導電性基体の裏面に配置することが好ましい。また、支持体表面に導電性材料の粉末やフィラーを埋め込むなどの方法で担持することにより、導電性基体と支持体を一体化することもできる。
【0033】
支持体の厚さは、導電性高分子電極の形状や使用条件により異なるため特に限定はされないが、例えばガラスやプラスチックなどを用いた場合では、実使用時の耐久性を考慮して1mm〜1cm程度であり、フレキシブル性が必要とされ、プラスチックフィルムなどを使用した場合は、1μm〜1mm程度である。また、必要に応じて耐候性を高めるハードコートなどの処理や、フィルム添付処理を用いても構わない。また、金属材料を支持体にした場合には、10μm〜1cm程度である。
【0034】
導電性基体の形態や厚みについては、電極として用いる際の形状や使用条件、また、用いる材料により導電性が異なるため特には限定されず、任意の形態を選択することができる。例えば、上記支持体を用いることで実用上の強度が保持される場合、電極として使用する上で必要な電導度が確保できていれば、100nm程度の厚みでも構わない。また、支持体を用いず、導電性基体のみにて強度を確保する場合などは、1mm程度以上の厚さが好ましい。
【0035】
また、必要とされる導電性は、使用する電極の面積により異なり、大面積電極ほど低抵抗であることが求められるが、一般的に100Ω/□以下、好ましくは5Ω/□以下、より好ましくは1Ω/□以下である。100Ω/□を超えると導電性高分子電極としての電流効率など低下や、用いるデバイスの内部抵抗が増大するため、好ましくない。
【0036】
[導電性高分子]
本発明における導電性高分子層は導電性高分子と密着性向上剤を含有し、前記導電性基体の表面上に担持されている。導電性高分子層の形成方法としては、塗布、化学重合、電解重合が挙げられる。塗布する方法は、導電性高分子を溶解させた溶液を導電性基体に接触させて成膜する方法である。化学重合する法は、導電性基体上で導電性高分子モノマーを酸化剤で重合させる方法である。電解重合する方法は、導電性高分子と支持電解質塩を含有させた電解液中に導電性基体を陽極として重合させる方法である。
【0037】
本発明における導電性高分子層の形成方法としては、特には限定されないが、望ましい形成方法としては、塗布する方法が挙げられる。本発明における導電性高分子は、導電性高分子電極の作用部分として機能するため、電極として作用する部分については導電性基体を均一に被覆していることが望ましい。塗布する方法としては特には限定されず、例えば、スピンコート、キャスト法、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、ダイコート、ビードコート、ブレードコート、バーコート等といった公知の塗布方法により行なうことができる。また、塗布後必要に応じて加熱および減圧することで溶媒を除去することにより導電性高分子を均一に形成することができる。
【0038】
塗布に用いる溶媒としては導電性高分子化合物を溶解できるものであれば特に制限はされないが、例えばトルエン、キシレン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル、水などが挙げられ、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記する。)が好適に利用できる。またこれらは単独、もしくは2種以上の混合溶媒として用いることもできる。
【0039】
導電性高分子含有溶液を調製する方法としては、導電性高分子のモノマーを含有する溶液中に酸化剤を添加することで重合を進行させ(化学重合法)、かつ重合度を調整することで直接溶解状態とする方法が挙げられる。
【0040】
また、前記化学重合法は導電性高分子の粒子を簡便に得ることができる。次いで一旦粒子で得られた導電性高分子を分取後、改めて溶媒に溶解させる方法などが挙げられる。このような化学重合法を用いた製造方法は、簡便で生産性が高いため好適に利用できる。
【0041】
また、上述の方法で得られた導電性高分子の粒子の溶解に関し、沈殿が生じない微小粒子であれば必ずしも溶解せずに分散状態、および溶液と分散の混合状態であっても構わない。
【0042】
導電性高分子は、導電性基体へキャリアを効率よく輸送させるため電気伝導度が高いことが望ましい。本発明では、導電性基体へ高い密着性を持ちながら担持することができるため、抵抗の上昇を抑制することができる。したがって、本発明の優位性を保持するためには、導電性基体と比較して導電性高分子の抵抗値が高くなりすぎないことが好ましい。具体的には、電極の用途や導電性基体の種類、および、導電性高分子の種類により最適値が異なるため、導電性高分子の厚さは特には限定されないが、一般に、導電性高分子電極の最外層での表面抵抗値として、電極基体の表面抵抗値に対して100倍以下の表面抵抗値であることが望ましい。より好ましくは、電極基体の表面抵抗値と10倍以下、より好ましくは同程度であることが望ましい。
【0043】
本発明における導電性高分子として、1種以上のホモポリマー、1種以上のコポリマー、又はそれらの混合体であってよい。導電性高分子層および他の導電性高分子層を構成するモノマーは、互いに同じであってもよく、また別であっても構わない。このような導電性高分子を形成するモノマーとして、例えば下記一般式(2)又は(3)で表される芳香族アミン化合物、下記一般式(4)で表されるチオフェン化合物、及び下記一般式(5)で表されるピロール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーが挙げられる。
【0044】
【化2】

【0045】
【化3】

(式(2)又は(3)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R〜R及びR〜R12はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基又はアルコキシ基、炭素原子数6〜12のアリール基、炭素原子数6〜12のアラルキル基(例えばベンジル基)を示し、式(2)中、RとR、又はRとRはそれぞれ連結して環を形成していてもよく、式(3)中、R11とR12はそれぞれ連結して環を形成していてもよい。)
【0046】
【化4】

(式(4)中、R13、R14はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基又はアルコキシ基、炭素原子数6〜12のアリール基を示し、R13とR14は連結して環を形成していてもよい。)
【0047】
【化5】

(式(5)中、R15、R16はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜8のアルキル基又はアルコキシ基6炭素原子数6〜12のアリール基を示し、R15とR16は連結して環を形成していてもよい。)
【0048】
上記芳香族アミン化合物の例として、アニリン及びアニリン誘導体がある。さらに具体的にアニリン、アニシジン、フェネチジン、トルイジン、フェニレンジアミン、ヒドロキシアニリン、N−メチルアニリンなどが挙げられる。中でもアニシジン、トルイジン、フェニレンジアミン、アニリンが好ましく使用される。
【0049】
上記チオフェン化合物の例として、チオフェン及びチオフェン誘導体が挙げられ、さらに具体的にチオフェン、3−メチルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、テトラデシルチオフェン、などのアルキルチオフェン類、イソチアナフテン、3−フェニルチオフェン、及び3,4−エチレンジオキシチオフェンなどがある。ホモポリマーとして用いる場合、3,4−エチレンジオキシチオフェンを好ましく使用することができる。チオフェン化合物を1種又は2種以上用いて導電性高分子を形成してもよい。
【0050】
上記ピロール化合物として、ピロール及びピロール誘導体が挙げられ、ピロール誘導体としては特に3位に炭素原子数1〜8のアルキル基を有するものが挙げられる。ピロール化合物の具体例として、ピロール、3−メチルピロール、3−ブチルピロール及び3−オクチルピロールなどがある。ピロール化合物を1種又は2種以上用いて導電性高分子を形成してもよい。
【0051】
上記芳香族アミン化合物、チオフェン化合物、ピロール化合物を1種又は2種以上用いて、1種以上のコポリマー、又はそれらの混合体であってよい。
【0052】
上記導電性高分子のうち、特に導電性高分子には有機溶媒に溶解させて使用できることが望ましい。このような導電性高分子としては、具体的には、ポリアニリンやポリ(アルキルチオフェン)、ポリ(アルキルピロール)が好適に利用できる。
【0053】
また、沈殿が生じない微小粒子であれば必ずしも溶解せずに分散状態、および溶液と分散の混合状態であっても構わない。
【0054】
特に、ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリアニリンなどの、より電気伝導度が高い導電性高分子が好適に利用できる。
【0055】
これらの導電性高分子は、その電気伝導度を高めるため、ドーパントがドープされていることが望ましい。
【0056】
このようなドーパントは公知の材料、例えば、ヘキサフロロリン、ヘキサフロロヒ素、ヘキサフロロアンチモン、テトラフロロホウ素、過塩素酸等のハロゲン化物アニオン、ヨウ素、臭素、塩素等のハロゲンアニオン、ヘキサフロロリン、ヘキサフロロヒ素、ヘキサフロロアンチモン、テトラフロロホウ素、過塩素酸等のハロゲン化物アニオン、メタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等のアルキル基置換有機スルホン酸アニオン、カンファースルホン酸等の環状スルホン酸アニオン、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸等のアルキル基置換または無置換のベンゼンモノまたはジスルホン酸アニオン、2−ナフタレンスルホン酸、1,7−ナフタレンジスルホン酸等の1〜3個のスルホン酸基を有する、アルキル基置換または無置換ナフタレンスルホン酸アニオン、アントラセンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アルキルビフェニルスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸等のアルキル基置換または無置換のビフェニルスルホン酸アニオン、カンファースルホン酸アニオン、ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリエーテル、スルホン化ポリイミド、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合体等の高分子スルホン酸アニオン、置換または無置換の芳香族スルホン酸アニオン、ビスサルチレートホウ素、ビスカテコレートホウ素等のホウ素化合物アニオン、あるいはモリブドリン酸、タングストリン酸、タングストモリブドリン酸等のヘテロポリ酸アニオン等が挙げられる。これらのドーパントは単独でも2種以上を併用してもよい。
【0057】
これらのドーパントは導電性高分子層を形成する際に、適宜の段階でドープし使用することができ、例えば導電性高分子を形成する際にドープさせることや、導電性高分子層を形成後に、該導電性高分子層をドーパント溶液に含浸させるなどの方法により、ドープさせることもできる。しかし、作業性の観点からは、ドープに伴う析出が起きない限りは導電性高分子を溶解または分散させた溶液の状態でドープすることが望ましい。
【0058】
また、本発明においては、後述する密着性向上剤のアニオンをドーパントとしてドープされていることが望ましい。導電性高分子のドーパントとして機能しうることで、導電性を低下させることなく、導電性高分子そのものを基体に対して密着させることができる。
【0059】
さらに、本発明の導電性高分子層には、密着性や導電性が不十分にならない限り、必要に応じて、顔料、可塑剤、導電助剤、着色剤等の各種公知の添加剤を添加してもよい。
【0060】
[密着性向上剤]
密着性向上剤とは基体と導電性高分子層の密着性を向上させるものである。
【0061】
本発明における密着性向上剤は、導電性高分子3とともに導電性高分子層4を形成する材料であり、その構造として、少なくとも2つのカルボキシル基を有する化合物、および/または、そのエステル形成誘導体構造を有する化合物であることが望ましい。さらに、少なくとも1つのスルホ基を有していることが望ましい。
このような密着性向上剤として、例えば下記一般式(1)で表される化合物、および/または、それらのエステル形成誘導体からなる化合物群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0062】
【化6】

(式(1)中、(A)はベンゼン環、多環芳香環、アルカン、アルケンからなる群から選ばれる少なくとも一つを示し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルカリ金属からなる群から選ばれる少なくとも一つを示し、Xはカチオンを示す。)
【0063】
前記一般式(1)に表される化合物おいて、Xのカチオンは、好ましくは、プロトン、アンモニウムカチオン、有機アンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオンが挙げられる。R、Rのアルカリ金属として好ましくは、Li、Na、Kが挙げられる。
【0064】
このような少なくとも2つのカルボキシル基を有する化合物、および/または、そのエステル形成誘導体構造を有する化合物は、従来公知の材料を用いることができる。例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸などの芳香族化合物、
また、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸などの脂肪族化合物、
および/または、そのエステル形成誘導体構造を有する化合物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
前記エステル形成誘導体としては、例えば、前記カルボキシル基を有する化合物と炭素数1〜14までの脂肪族アルコールとのエステル化合物が挙げられる。また、該脂肪族に芳香族置換基が導入されていても構わない。さらに、該エステル形成誘導体において、前記少なくとも2つのカルボキシル基を有する化合物のうち一部のみエステル化されていても、全てのカルボン酸がエステル化されていても構わない。
【0066】
これらの中では、スルホイソフタル酸、スルホフタル酸、スルホコハク酸、スルホン化ナフタレンジカルボン酸が好適に用いることができる。
【0067】
また、これら少なくとも2つのカルボキシル基を有する化合物、および/または、そのエステル形成誘導体構造を有する化合物は、上記のように、アニオンの状態で導電性高分子のドーパントとしてドープされていることが望ましい。導電性高分子のドーパントとして機能しうることで、導電性を低下させることなく、導電性高分子そのものを基体に対して密着させることができる。
【0068】
密着性向上剤の添加量としては、電極として用いる際の形状や使用条件、また、用いる材料により分子量が異なるため特には限定されず、任意の濃度を取ることができる。ただし、電極として使用する上で必要な電導度および密着性が確保できることが望ましく、導電性高分子に対して5〜150%が好ましく、さらには、20〜50%であることが好ましい。
【0069】
導電性高分子と密着性向上剤の混合方法としては特には限定されないが、導電性高分子の溶解液もしくは分散溶液中に、密着性向上剤を直接溶解もしくは分散させる方法が挙げられる。この際、密着性向上剤の添加により溶解もしくは分散している導電性高分子の凝集や析出が起きないことが望ましい。
【0070】
続いて本発明の導電性高分子層形成用塗布液について、好適な形態を説明する。
本発明における導電性高分子層形成用塗布液は、上記導電性高分子および密着性向上剤を含有し、導電性基体上にこれを塗布することで上記導電性高分子電極を形成するものである。したがって、該塗布液に含有される密着性向上剤および導電性高分子は上記の密着性向上剤2および導電性高分子3と同様である。
【0071】
このとき、密着性向上剤はアニオンの状態で導電性高分子のドーパントとしてドープされていることが望ましい。
また、密着性向上剤もしくは導電性高分子は、それぞれ、溶解状態、もしくは、沈殿が生じない微小粒子であれば必ずしも溶解せずに分散状態、および溶液と分散の混合状態であっても構わない。
【0072】
本発明の導電性高分子層形成用塗布液に含まれる導電性高分子および密着性向上剤の含有率は、用いる電極の形態やその厚みにより特には限定されないが、乾燥固形分比率として10%以下、好ましくは0.1〜5%、であることが好ましい。
【0073】
さらに、本発明の色素増感太陽電池の各構成材料について、好適な形態を説明する。
[透明基体]
電極基体7を構成する透明基体5は、可視光を透過するものが使用でき、透明なガラスが好適に利用できる。また、ガラス表面を加工して入射光を散乱させるようにしたもの、半透明なすりガラス状のものも使用できる。また、ガラスに限らず、光を透過するものであればプラスチック板やプラスチックフィルム等も使用できる。
【0074】
透明基体5の厚さは、太陽電池の形状や使用条件により異なるため特に限定はされないが、例えばガラスやプラスチックなどを用いた場合では、実使用時の耐久性を考慮して1mm〜1cm程度であり、フレキシブル性が必要とされ、プラスチックフィルムなどを使用した場合は、1μm〜1mm程度である。また、必要に応じて耐候性を高めるハードコートなどの処理を用いても構わない。
【0075】
[透明導電膜]
透明導電膜6としては、可視光を透過して、かつ導電性を有するものが使用でき、このような材料としては、例えば金属酸化物が挙げられる。特に限定はされないが、例えばフッ素をドープした酸化スズ(以下、「FTO」と略記する。)や、酸化インジウム、酸化スズと酸化インジウムの混合体(以下、「ITO」と略記する。)、酸化亜鉛などが好適に用いることができる。また、分散させるなどの処理により可視光が透過すれば、不透明な導電性材料を用いることもできる。このような材料としては炭素材料や金属が挙げられる。炭素材料としては、特に限定はされないが、例えば黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブやフラーレンなどが挙げられる。また、金属としては、特に限定はされないが、例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、クロム、鉄、モリブデン、チタン、およびそれらの合金などが挙げられる。したがって、透明導電膜6としては、上記の導電性材料のうち少なくとも1種類以上からなるものを、透明基体5の表面に設けて形成することができる。あるいは透明基体2を構成する材料の中へ上記導電性材料を組み込んで、透明基体と透明導電膜を一体化して電極基体1とすることも可能である。
【0076】
透明基体5上に透明導電膜6を形成する方法として、金属酸化物を形成する場合は、ゾルゲル法や、スパッタやCVDなどの気相法、分散ペーストのコーティングなどがある。また、不透明な導電性材料を使用する場合は、粉体などを、透明なバインダーなどとともに固着させる方法が挙げられる。
【0077】
透明基体と透明導電膜を一体化させるには、透明基体の成型時に導電性のフィラーとして上記導電膜材料を混合させるなどがある。
【0078】
透明導電膜7の厚さは、用いる材料により導電性が異なるため特には限定されないが、一般的に使用されるFTO被膜付ガラスでは、0.01〜5μmであり、好ましくは0.1〜1μmである。また、必要とされる導電性は、使用する電極の面積により異なり、大面積電極ほど低抵抗であることが求められるが、一般的に100Ω/□以下、好ましくは10Ω/□以下、より好ましくは5Ω/□以下である。100Ω/□を超えると太陽電池の内部抵抗が上がり、好ましくない。
【0079】
透明基体及び透明導電膜から構成される電極基体7、又は透明基体と透明導電膜とを一体化した電極基体7の厚さは、上記のように太陽電池の形状や使用条件により異なるため特に限定はされないが、一般的に1μm〜1cm程度である。
【0080】
[多孔質金属酸化物半導体]
多孔質金属酸化物半導体8としては、特に限定はされないが、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズなどが挙げられ、特に二酸化チタン、さらにはアナターゼ型二酸化チタンが好適である。また、電気抵抗値を下げるため、金属酸化物の粒界は少ないことが望ましい。また、増感色素をより多く吸着させるために、当該半導体層は多孔質になっていることが望ましく、具体的には比表面積が10〜200m/gであることが望ましい。また、増感色素の吸光量を増加させるため、使用する酸化物の粒径に幅を持たせて光を散乱させることが望ましい。
【0081】
このような多孔質金属酸化物半導体は、金属酸化物半導体微粒子を積層することにより形成されるが、該積層方法は特に限定されず既知の方法で透明導電膜6上に設けることができる。例えば、前記金属酸化物半導体微粒子を分散させた溶液を従来公知の方法で塗布することにより形成することができる。このような塗布方法としては、スピンコート法やディッピング法、また、スプレーコート法やインクジェット法、また、スクリーン印刷法やブレードコート法、バーコート法、ディスペンサーによる形成法、泳導電着させる方法などが挙げられる。さらに、前記金属酸化物半導体微粒子を分散させた溶液中に透明電極基体を沈め、金属酸化物半導体微粒子を沈降・堆積させたのち、上澄み液を除去する方法や、用いる金属酸化物のゾルゲル液を作成して塗布する方法などを選択することもできる。
【0082】
このような半導体層の厚さは、用いる酸化物およびその性状により最適値が異なるため特には限定されないが、0.1〜50μm、好ましくは5〜30μmである。
【0083】
[増感色素]
増感色素層9としては、太陽光により励起されて前記金属酸化物半導体層8に電子注入できるものであればよく、一般的に色素増感太陽電池に用いられている色素を用いることができるが、変換効率を向上させるためには、その吸収スペクトルが太陽光スペクトルと広波長域で重なっていて、耐光性が高いことが望ましい。特に限定はされないが、ルテニウム錯体、特にルテニウムポリピリジン系錯体が望ましく、さらに望ましいのは、Ru(L)(X)で表されるルテニウム錯体が望ましい。ここでLは4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン、もしくはその4級アンモニウム塩、およびカルボキシル基が導入されたポリピリジン系配位子であり、また、XはSCN、Cl、CNである。例えばビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ジイソチオシアネートルテニウム錯体などが挙げられる。
【0084】
他の色素としては、ルテニウム以外の金属錯体色素、例えば鉄錯体、銅錯体などが挙げられる。さらに、シアン系色素、ポルフィリン系色素、ポリエン系色素、クマリン系色素、シアニン系色素、スクアリン酸系色素、スチリル系色素、エオシン系色素などの有機色素が挙げられ、具体的には三菱製紙株式会社製色素(商品名:D149色素)などが挙げられる。これらの色素には、該金属酸化物半導体層への電子注入効率を向上させるため、該金属酸化物半導体層との結合基を有していることが望ましい。該結合基としては、特に限定はされないが、カルボキシル基、スルホン酸基などが望ましい。
【0085】
本発明においては、増感色素は、前記多孔質金属酸化物半導体8を形成する前に、予め金属酸化物半導体微粒子表面へ吸着させておくことが望ましい。増感色素を吸着させる方法は、特には限定されるものではなく、例としては、室温条件、大気圧下において、色素を溶解させた溶液中に金属酸化物半導体微粒子を浸漬する方法が挙げられる。浸漬時間は、使用する半導体、色素、溶媒の種類、色素の濃度により、半導体層に均一に色素の単分子膜が形成されるよう、適宜調整することが望ましい。なお、吸着を効果的に行なうには加熱下での浸漬を行なえばよい。
【0086】
増感色素を溶解するために用いる溶媒の例としては、エタノールなどのアルコール類、アセトニトリルなどの窒素化合物、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、クロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。溶液中の色素濃度は、使用する色素及び溶媒の種類により適宜調整することが望ましい。例えば、5×10−5mol/L以上の濃度が望ましい。
【0087】
[電解質層]
電解質層11は、支持電解質、酸化された増感色素を還元することのできる酸化還元対、およびそれらを溶解させる溶媒からなる。この溶媒としては、特に限定はされないが、非水性有機溶媒、常温溶融塩、水やプロトン性有機溶媒などから任意に選択でき、例えばアセトニトリルやジメチルホルムアミド、エチルメチルイミダゾリウムビストリフルオロメチルイミド、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、炭酸プロピレンなどが挙げられ、中でもメトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、炭酸プロピレンなどを好適に用いることができる。また、溶媒をゲル化して用いることもできる。
【0088】
支持電解質として、リチウム塩やイミダゾリウム塩、4級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0089】
酸化還元対としては、一般的に電池や太陽電池などにおいて使用することのできるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ハロゲン二原子分子とハロゲン化物塩との組み合わせ、チオシアン酸アニオンとチオシアン酸二分子の組み合わせ、ポリピリジルコバルト錯体や、ハイドロキノンなどの有機レドックスなどが挙げられる。この中では、特にヨウ素分子とヨウ化物との組み合わせが好適である。
【0090】
支持電解質、酸化還元対などは、其々用いる溶媒、光電極および色素などにより最適な濃度が異なるため、特には限定されないが、1mmol/L〜5mol/L程度である。
【0091】
電解質層にはさらに添加剤として、t−ブチルピリジン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、水などを添加することができる。
【0092】
[対極]
対極12は、本発明における上記導電性高分子電極を用いる。この際、太陽電池の内部抵抗を小さくするため導電性基体は電気伝導度が高いことが望ましい。また、上記のように電解質中に含まれる酸化還元対として、一般的にヨウ素/ヨウ化物が用いられている。したがって、導電性基対にはヨウ素電解液に対する耐食性が高いことが望ましい。
このような導電性基体の材質としては、具体的には、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、タンタル、ニオブ、およびそれらの合金であるステンレスや、表面に酸化皮膜を形成し、耐食性を高めたアルミニウムなどが挙げられる。
【0093】
また、他の好適な材料としては、導電性金属酸化物が挙げられる。特に限定はされないが、例えばフッ素をドープした酸化スズ(以下、「FTO」と略記する。)や、酸化インジウム、酸化スズと酸化インジウムの混合体(以下、「ITO」と略記する。)、アンチモンをドープした酸化スズ、また、酸化亜鉛や酸化チタンなどが好適に用いることができる。
【0094】
また、炭素材料に対しては特に制限されず従来の技術と同様に使用することができる。具体的には、例えば黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブやフラーレンなどが挙げられる。
【0095】
本発明における導電性高分子電極を対極として用いた色素増感太陽電池が従来の導電性高分子を用いた対極に比して優れている理由については、以下のように考察している。すなわち、従来は密着性が低いため、電解液の浸透により導電性高分子層と導電性基体界面の剥離が起きやすく、また、逆に剥離しないようバインダーを添加すると導電性高分子の電気特性が大幅に低下してしまう問題点があった。一方、本発明においては、導電性高分子電極に担持され、酸化還元対の酸化体を還元する触媒となる導電性高分子が、バインダーを添加することなく従来品より大幅に優れた密着性を有して、集電体である導電性基体に直接担持されるため、導電性高分子と導電性基体界面の電気抵抗を増大することなく安定的に継続して電流を取り出すことができる。さらに、本発明では密着性向上剤が導電性高分子のドーパントとして機能するため、導電性高分子自体が高い電導度を保持することができ、太陽電池として素子の内部抵抗を低減できるためと考えられる。
【0096】
したがって、本発明における導電性高分子電極は、特に導電性基体に金属材料、もしくは導電性酸化物を用いた場合に有用である。
【0097】
さらに、導電性高分子の種類としては、ヨウ素酸化還元対の酸化体を還元する触媒能が高い種類が望ましく、特に、ポリアニリンが望ましい。
【0098】
以上に説明したような各構成要素材料を組み上げることで、導電性高分子電極、およびそれを用いた色素増感太陽電池を完成させる。
【0099】
以下、本発明を実施例に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0100】
〔実施例1〜6、比較例1〜5〕
【0101】
氷浴させたアニリン濃度0.1mol/Lの硫酸水溶液に過硫酸アンモニウムを滴下してアニリンを重合させ、ポリアニリン粒子を得た。得られたポリアニリン粒子にアンモニア水を作用させた後、NMPにポリアニリンが2重量%となるよう溶解させ、ポリアニリン/NMP溶液を得た。
【0102】
得られたポリアニリン/NMP溶液に、密着性向上剤および対照となる化合物を添加して、導電性高分子層形成用塗布液を調製した。なお、密着性向上剤として、実施例1ではスルホイソフタル酸、実施例2ではスルホフタル酸、実施例3ではスルホこはく酸、実施例4ではスルホイソフタル酸ジメチル、実施例5ではスルホこはく酸ジオクチル、実施例6ではイソフタル酸、比較例1ではドデシルベンゼンスルホン酸、比較例2では、スルホサリチル酸、比較例3ではサリチル酸、比較例4ではオクタン酸、比較例5ではビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いた。
【0103】
導電性基体としてITOフィルム(株式会社トービ製30mm×30mm)を用いた。アセトン中で超音波洗浄、次いで純水中で超音波洗浄し、105℃で10分間送風乾燥した。その後、洗浄済みの該導電性基体上に前記導電性高分子層形成用塗布液をスピンコートしたのち、120℃10分間送風乾燥させることで、導電性高分子電極を完成させた。
【0104】
〔実施例7、比較例6、7〕
導電性高分子層形成用塗布液として、上記ポリアニリン/NMP溶液に換え、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(Aldrich製)をトルエン・γ―ブチルラクトン混合溶液に溶解させた溶液を用いた他は、同様の方法にて調製を行なった。導電性基体としてITOガラス(倉元製作所製)を用いた。該導電性基体への塗布方法は上記ポリアニリン/NMP溶液と同様に実施した。なお、密着性向上剤として、実施例7ではテトラエチルアンモニウムスルホこはく酸ジオクチル、比較例6ではスルホ安息香酸ナトリウム、比較例7ではテトラエチルアンモニウムp−トルエンスルホン酸を用いた。
【0105】
〔実施例8、比較例8〕
実施例1のアニリンと同様の手法で3−オクチルピロールを重合し、アンモニアを作用させて脱ドープさせたポリ(3−オクチルピロール)粒子を得た。得られた粒子は実施例7と同様に塗布して導電性高分子電極を作成した。なお、密着性向上剤として、実施例8ではテトラエチルアンモニウムスルホこはく酸ジオクチル、比較例8としてドデシル硫酸ナトリウムを用いた。
【0106】
[密着性の評価]
得られた導電性高分子電極の密着性を、JIS K5600−5−6(塗膜の機械的性質―付着性(クロスカット法)に則り付着性を評価した。なお、付着テープとしてニチバン製セロテープ(登録商標)CT−24を用いた。
【0107】
以下の表1、および表2に各種導電性高分子電極の密着性評価結果を示す。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
〔実施例9〕
[多孔質金属酸化物半導体]
透明導電膜付きの透明基体としてFTOガラス(日本板ガラス製25mm×50mm)を用い、その表面に酸化チタンペースト(触媒化成工業株式会社製チタニアペースト PST−18NR)をスクリーン印刷し、100℃で1時間乾燥後、大気雰囲気下550℃で120分間焼成してそのまま室温となるまで放置し、幅1cmで20μmの厚さの多孔質酸化チタン半導体層を形成させた。さらに、前記多孔質酸化チタン半導体層の上に、酸化チタンペースト(触媒化成工業株式会社製チタニアペースト PST−400C)をスクリーン印刷で重ね塗りしたのち同様に焼成を行なって、15μm厚とした多孔質金属酸化物半導体層を完成させた。
【0111】
[増感色素の吸着]
増感色素として、一般にN3dyeと呼ばれるビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ジイソチオシアネートルテニウム錯体を使用した。一旦150℃まで加熱した前記多孔質酸化チタン半導体電極を色素濃度0.5mmol/Lのエタノール溶液中に浸漬し、遮光下1晩静置した。その後エタノールにて余分な色素を洗浄してから風乾することで、太陽電池の光電極を完成させた。さらに、得られた光電極の酸化チタン投影面積が5.5mm角になるよう、半導体層を研削した。
【0112】
[対極]
導電性基体をFTOガラス(AGCファブリテックガラス製)とした以外は、実施例1と同様に作製した導電性高分子電極を対極として用いた。
【0113】
[太陽電池セルの組み立て]
前記のように作製した光電極と対極を対向するよう設置し、電解質を毛管現象にて両電極間に含浸させた。電解質としては、溶媒をメトキシアセトニル、還元剤としてヨウ化リチウム、酸化剤としてヨウ素、添加剤としてt−ブチルピリジン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドを含む溶液を用いた。
【0114】
[太陽電池セルの光電変換特性の測定]
上記の太陽電池セルについて、5mm角の窓をつけた光照射面積規定用マスクを装着させた上で、光量100mW/cmの擬似太陽光を照射して開放電圧(以下、「Voc」と略記する。)、短絡電流密度(以下、「Jsc」と略記する。)、形状因子(以下、「FF」と略記する。)、および光電変換効率を評価した。評価結果を表3に併せて示す。
【0115】
「Voc」、「Jsc」、「FF」及び光電変換効率の各測定値については、より大きい値が太陽電池セルの性能として好ましいことを表す。
【0116】
[実施例10]
対極の作製方法以外は実施例9と同様に太陽電池セルを作製し、評価した。対極作製方法は、導電性基体をFTOガラス(AGCファブリテックガラス製)とした以外は、実施例2と同様に作製した導電性高分子電極を対極として用いた。
【0117】
[実施例11]
対極の作製方法以外は実施例9と同様に太陽電池セルを作製し、評価した。対極作製方法は、導電性基体をFTOガラス(AGCファブリテックガラス製)とした以外は、実施例3と同様に作製した導電性高分子電極を対極として用いた。
【0118】
[比較例9]
対極の作製方法以外は実施例9と同様に太陽電池セルを作製し、評価した。対極作製方法は、導電性基体をFTOガラス(AGCファブリテックガラス製)とした以外は、比較例1と同様に作製した導電性高分子電極を対極として用いた。
【0119】
[比較例10]
対極の作製方法以外は実施例9と同様に太陽電池セルを作製し、評価した。対極作製方法は、導電性基体をFTOガラス(AGCファブリテックガラス製)とした以外は、比較例2と同様に作製した導電性高分子電極を対極として用いた。
【0120】
【表3】

【0121】
上記測定結果から、密着性の評価が良好であり、また、太陽電池セルのFFとJscが向上することがわかった。これは導電性基体と導電性高分子層との密着性が向上したため抵抗が低減し、導電性が向上したためであると考えられる。
本発明による導電性高分子電極は密着性と導電性に優れ、該導電性高分子電極を用いた色素増感太陽電池が優れた光電変換効率を有していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は上記した実情に鑑み、導電性基体上に担持された導電性高分子が、ジカルボン酸アニオン構造およびまたはその塩、およびまたはそのエステル形成誘導体構造、およびスルホ基を分子内に有する密着性向上剤のアニオンをドーパントとして含むことで、絶縁物を含有することなく簡便に生産することができる、高い密着性と導電性を兼ね備えた導電性高分子電極とその製造方法、およびそれを形成するための塗布液、および該導電性高分子電極を備えた色素増感太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の導電性高分子電極の構成の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明における色素増感太陽電池の一例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0124】
1 導電性基体
2 密着性向上剤
3 導電性高分子
4 導電性高分子層
5 透明基体
6 透明導電膜
7 電極基体
8 多孔質金属酸化物半導体層
9 増感色素層
10 光電極
11 電解質層
12 対極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体上に、導電性高分子と密着性向上剤を含んでなる導電性高分子層が担持された導電性高分子電極であって、該密着性向上剤が、少なくとも2つのカルボキシル基を有する化合物、および/または、そのエステル形成誘導体構造を有する化合物であることを特徴とする導電性高分子電極。
【請求項2】
前記密着性向上剤が、少なくとも1つのスルホ基を有していることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子電極。
【請求項3】
前記密着性向上剤が、下記一般式(1)で表される化合物、および/または、そのエステル形成誘導体を有する化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の導電性高分子電極。
【化1】

(式(1)中、(A)はベンゼン環、多環芳香環、アルカン、アルケンからなる群から選ばれる少なくとも一つを示し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルカリ金属からなる群から選ばれる少なくとも一つを示し、Xはカチオンを示す。)
【請求項4】
前記密着性向上剤のアニオン成分が前記導電性高分子のドーパントであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の導電性高分子電極。
【請求項5】
前記導電性高分子が、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の導電性高分子電極。
【請求項6】
導電性高分子と密着性向上剤と極性溶媒とを少なくとも含有する塗布液であって、該密着性向上剤が下記一般式(1)で表される化合物、および/または、そのエステル形成誘導体構造を有する化合物であることを特徴とする導電性高分子層形成用塗布液。
【化2】

(式(1)中、(A)はベンゼン環、多環芳香環、アルカン、アルケンからなる群から選ばれる少なくとも一つを示し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルカリ金属からなる群から選ばれる少なくとも一つを示し、Xはカチオンを示す。)
【請求項7】
前記密着性向上剤のアニオン成分が前記導電性高分子のドーパントであることを特徴とする請求項6に記載の導電性高分子層形成用塗布液。
【請求項8】
導電性基体と導電性高分子層形成用塗布液からなる導電性高分子電極の製造方法において、導電性基体上に請求項6または請求項7に記載の導電性高分子層形成用塗布液を塗布、乾燥する工程を有することを特徴とする導電性高分子電極の製造方法。
【請求項9】
導電性被膜上に形成した半導体層に増感色素を担持させて形成した光電極と、酸化還元対となる化学種を含む電解質層と、該電解質層を介して該光電極に対向配置された対極とを少なくとも具備する色素増感太陽電池において、前記対極が請求項1から5のいずれか一項に記載の導電性高分子電極であることを特徴とする色素増感太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−20976(P2010−20976A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179107(P2008−179107)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】