説明

導電粉末の高分散性水分散液と水系透明導電性塗料、および塗膜と塗料の製造方法

【課題】 導電粉末が、高分子分散剤を必要とせずに、水中において優れた分散性を示す水分散液と、この水分散液を用いた透明性および導電性に優れた水系透明導電性塗料を提供する。
【手段】 分散前の導電粉末の粒子径が10〜300nmであって、分散剤を必要とせずに導電粉末が沈降せず、導電粉末の分散前と分散後のBET比表面積の比が0.50〜0.85であることを特徴とし、または分散前の導電粉末の粒子径が10〜300nmであって、分散剤を必要とせずに、分散前の導電粉末の平均一次粒子径(DT50)に対する分散後の累積重量50%粒子径(D50)の比〔D50/DT50〕が1.1〜9.0であることを特徴とする導電粉末の高分散性水分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い分散性を有する導電粉末の水分散液と、この水分散液を用いることによって高い膜強度と導電性および透明性に優れた塗膜を形成することができる水系透明導電性塗料、およびその塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
基材に導電性を付与するために導電粉を含有した導電性塗料を基材表面に塗布して導電膜を形成することが広く行われている。従来、導電粉として、酸化スズ粉末やSbドープ酸化スズ(ATO)粉末、Inドープ酸化スズ(ITO)粉末など用いて透明導電膜を形成しているが、導電粉の粒径が大きいと塗膜に曇り(ヘーズ)を生じて透明性が低下する。そこで、透明性の高い塗膜を得るために、粒径が可視光波長域よりも格段に小さいÅレベルの超微細な導電粉末を用いた導電性塗料(特許文献1)や、酸化スズコロイドの水性ゾルを利用した導電性塗料(特許文献2)などが従来知られている。
【0003】
しかし、導電粉末が微細過ぎると凝集を生じやすくなり、粉末相互の接触が不均一になるので導電性が低下し、透明性も向上しない。従って、超微細な導電粉末を用いるだけでは不十分である。また、酸化スズコロイドの水性ゾルを利用するものは、通常は水性ゾルの脱酸処理や脱アルカリ処理を必要とするので、塗料の製造工程が煩わしい。
【0004】
また、従来の導電性塗料の多くは、塗料成分の樹脂と馴染み易いように、導電粉末を有機溶剤に分散させた有機系分散液を用いた有機系塗料であるが、最近、有機溶剤による環境汚染が懸念されており、有機溶剤を主に用いない水系塗料が見直されている。さらに、有機系塗料では分散性の向上や分散安定性を高めるために分散剤を用いているが、成膜したときに経時的に分散剤が表面に浮き出すブリートアウトを生じる問題があった。
【0005】
また、従来の導電性塗料は、導電粉末の量が導電粉末と樹脂の量比60/40より少ないと、導電性塗料を成膜したときに十分低い表面抵抗が得られないため、導電性塗料を調製する際に多量の導電粉末を配合する必要があり、塗膜の透明度や膜強度が低下し、かつ塗料がコスト高になるという問題があった。一方、塗膜の表面抵抗を低くしつつ、導電粉末の配合量を減らす手段として、針状導電粒子を一部添加することが知られているが、この場合には針状導電粒子によって塗膜のヘーズが上がるという欠点がある(特許文献3)。
【特許文献1】特開平08−20734号公報
【特許文献2】特開平06−76636号公報
【特許文献3】特開平08−231222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の透明導電性塗料における従来の上記問題を解決したものであり、高分子分散剤を必要とせずに、水中において優れた分散性を示す水分散液と、この水分散液を用いた透明性および導電性に優れた水系透明導電性塗料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す導電性粉末の高分散性水分散液、および水系透明導電性塗料とその製造方法と塗膜に関する。
(1)導電粉末を分散させた水分散液であり、分散前の導電粉末の粒子径が10〜300nmであって、分散剤を必要とせずに導電粉末が沈降せず、導電粉末の分散前と分散後のBET比表面積の比が0.50〜0.85であることを特徴とする導電粉末の高分散性水分散液。
(2)導電粉末を分散させた水分散液であり、分散前の導電粉末の粒子径が10〜300nmであって、分散剤を必要とせずに、分散前の導電粉末の平均一次粒子径(DT50)に対する分散後の累積重量50%粒子径(D50)の比〔D50/DT50〕が1.1〜9.0であることを特徴とする導電粉末の高分散性水分散液。
(3)上記(1)または上記(2)に記載する導電粉末の水分散液と水性樹脂とを含み、分散剤を必要とせずに、分散前の導電粉末の平均一次粒子径(DT50)に対する塗料中の累積重量50%粒子径(D50)の比〔D50/DT50〕が1.1〜9.0であることを特徴とする水系透明塗料。
(4)5000rpmの遠心分離下において、分散剤を必要とせずに、導電粉末が沈降しない上記(3)に記載する水系透明導電性塗料。
(5)膜厚5μmに成膜したときの塗膜と基材とを通過した全光透過率[E1]と、基材のみの全光透過率[E0]との比(比全光透過率=[E1]/[E0])が80%以上であって、ヘーズ値が5.0%以下である上記(3)または上記(4)に記載する水系透明導電性塗料。
(6)導電粉末と樹脂の量比が60/40〜50/50の範囲で、膜厚5μmに成膜したときの表面抵抗が1×105〜1×108Ω/□である上記(3)〜上記(5)の何れかに記載する水系透明導電性塗料。
(7)導電粉末と樹脂の量比が50/50〜30/70の範囲で、膜厚5μmに成膜したときの表面抵抗が1×107〜1×1010Ω/□である上記(3)〜上記(5)の何れかに記載する水系透明導電性塗料。
(8)導電粉末と樹脂の量比が30/70〜10/90の範囲で、膜厚5μmに成膜したときの表面抵抗が1×108〜1×1011Ω/□である上記(3)〜上記(5)の何れかに記載する水系透明導電性塗料。
(9)膜厚5μmに成膜したときの膜強度がH以上である上記(3)〜上記(8)の何れかに記載する水系透明導電性塗料。
(10)水性塗料成分の樹脂が水性UV硬化型樹脂である上記(3)〜上記(9)の何れかに記載する水系透明導電性塗料。
(11)水性塗料成分の樹脂がエマルションタイプである上記(3)〜上記(10)の何れかに記載する水系透明導電性塗料。
(12)導電性粉末が希土類もしくはアルミニウム、リン、チタン、亜鉛、インジウム、スズ、アンチモン、タングステン、そのドープもしくは複合酸化物の一種類以上を用いたことを特徴とする上記(3)〜上記(11)の何れかに記載する水系透明導電性塗料
(13)上記(3)〜上記(12)の何れかに記載する水系透明導電性塗料によって形成された透明導電性塗膜。
(14)粒子径が10〜300nmの導電粉末を水に懸濁させた後に、分散前と分散後のBET比表面積の比が0.50〜0.85になるように、または分散前の導電粉末の平均一次粒子径(DT50)に対する液中の累積重量50%粒子径(D50)の比〔D50/DT50〕が1.1〜9.0になるように、導電粉末懸濁液をミルで分散処理し、さらに遠心分離によって導電粉末の粗粒子を分離する水分散工程と、水性塗料成分とを混合する工程を有する水系透明導電性塗料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電粉末の水分散液は、液中において導電粉末の分散性が高く、従って、導電粉末の凝集が極めて少なく、適度な粒子径の導電粉末が均一に分散しているので、この水分散液を用いた水系塗料は、高い導電性とヘーズ値が小さく全透過率の高い優れた透明性を有する透明導電性塗膜を形成することができる。
【0009】
具体的には、本発明の水分散液は、分散前の導電粉末の粒子径が10〜300nmであって、分散剤を必要とせずに、導電粉末が沈降せず、導電粉末の分散前と分散後のBET比表面積の比が0.50〜0.85であり、あるいは分散前の導電粉末の平均一次粒子径(DT50)に対する分散後の累積重量50%粒子径(D50)の比〔D50/DT50〕が1.1〜9.0であるので、この水分散液を用いた水系塗料によれば、全透過率80%以上であってヘーズ値5.0%以下の透明性の高い塗膜を形成することができる。
【0010】
また、本発明の水分散液を用いた水系塗料によれば、膜厚5μmに成膜したときの表面抵抗が導電粉末と樹脂の量比に応じて導電性に優れた塗膜を形成することができる。具体的には、導電粉末と樹脂の量比が60/40〜50/50の範囲で表面抵抗が1×105〜1×108Ω/□、導電粉末と樹脂の量比が50/50〜30/70の範囲で表面抵抗が1×107〜1×1010Ω/□、導電粉末と樹脂の量比が30/70〜10/90の範囲で表面抵抗が1×108〜1×1011Ω/□の高導電性膜を得ることができる。
【0011】
また、本発明の塗料は導電性粉末の水分散液を用いた水系塗料であり、多量の有機溶媒が含まれていないので、有機溶媒による環境汚染を生じない。さらに、本発明の水系透明導電性塗料は分散剤を用いる必要がないので、成膜したときに経時的に分散剤が染み出すブリートアウトを引き起こす問題がなく、安定な塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の水分散液は、導電粉末を分散させた水分散液であり、分散前の導電粉末の粒子径が10〜300nmであって、分散剤を必要とせずに、導電粉末が沈降せず、導電粉末の分散前と分散後のBET比表面積の比が0.50〜0.85であることを特徴とする導電粉末の高分散性水分散液である。また、本発明の水分散液は、分散前の導電粉末の粒子径が10〜300nmであって、分散剤を必要とせずに、分散前の導電粉末の平均一次粒子径(DT50)に対する分散後の累積重量50%粒子径(D50)の比〔D50/DT50〕が1.1〜9.0であることを特徴とする導電粉末の高分散性水分散液である。
【0013】
本発明において、導電粉末としては、酸化スズ粉末、Sbドープ酸化スズ粉末(ATO)、Inドープ酸化スズ(ITO)粉末、Alドープ酸化スズ粉末などの酸化スズ系粉末、あるいは、希土類、アルミニウム、リン、チタン、亜鉛、インジウム、スズ、アンチモン、タングステン、これらをドープもしくは複合した酸化物を用いることができる。また、導電粉末は二種以上を混合して用いても良い。
【0014】
導電粉末の粒子径は10〜300nmが好ましい。粒子径がこれより小さいと導電粉末が相互に接触し難くなるので、少量の導電粉末によって高い導電性を得るにの適さない。一方、粒子径がこれより大きいと成膜したときにヘーズを生じ、透明性が低下する傾向がある。
【0015】
本発明の水分散液は、分散剤を必要とせず、導電粉末の分散前のBET比表面積(B0)と分散後のBET比表面積(B1)の比〔B0/B1〕が0.50〜0.85である。一般に有機系の導電粉末分散液は、高分子分散剤を添加して導電粉末を有機溶液に懸濁させた後にミル等で分散処理することによって、導電粉末の凝集を抑制しているが、本発明の水分散液は、分散剤を必要とせずに分散処理し、上記比表面積比〔B0/B1〕を0.50〜0.85に調整したものである。
【0016】
以上のように、本発明の水分散液は分散後のBET比表面積(B1)が分散前よりやや大きい。このBET比表面積の比〔B0/B1〕が0.50未満であると、分散処理時の粉砕が過度であるために、粉砕された導電粉末の表面活性が高くなって導電粉末の凝集や網目構造が多くなりすぎ、粘性の増加などのために導電粉末の分散性が低下する。一方、上記比表面積比〔B0/B1〕が0.85より大きいと、分散処理の粉砕が弱いため、分散液中で導電粉末が均一に分散されず、残存する粗大粒子等によって導電粉末が沈降しやすくなる。上記比表面積比〔B0/B1〕を0.50〜0.85に調整することによって、導電粉末の分散性が良く、沈降を生じない高分散性の水分散液を得ることができる。
【0017】
また、本発明の水分散液は、分散前の導電粉末の粒子径が10〜300nmであって、分散剤を必要とせずに、分散前の導電粉末の平均一次粒子径(DT50)に対する分散後の累積重量50%粒子径(D50)の比〔D50/DT50〕が1.1〜9.0である高分散性の導電粉末水分散液である。導電粉末の分散前の粒子径(DT50)に対して、分散後の粒子径(D50)が上記範囲内であるものは、導電粉末が分散後に殆ど凝集せず、さらには分散時の粉砕処理によって粒子径(DT50)が分散前よりも小さくなっており、水中での導電粉末の分散性が高い。
【0018】
このような導電粉末の分散性に優れた水分散液は、導電粉末の懸濁液をミル等で分散処理し、さらに遠心分離等によって導電粉末の粗粒子を分離する水分散工程において、分散力(ビーズミル等による分散処理)および分級力(遠心分離等による分級処理)を制御し、さらに温度管理を適切に行うことによって調製することができる。なお、分散力および分級力が強すぎると、出来上がった塗料によって形成した塗膜の透明性は向上するが、導電粉末の粒子が細かくなり過ぎるために、塗膜の導電性が低下し、また水分散液の生産性も著しく低下することになる。一方、分散力および分級力が弱すぎると適切な分散状態にならない。適切な分散条件下で調製した導電粉末水分散液は、分散剤を必要とせずに、導電粉末が分散後に殆ど凝集せず、粗大粒子を含まない分散性の高い水分散液を得ることができる。
【0019】
また、水分散液の調製工程において、液の温度は40℃〜80℃が好ましい。温度が高すぎると凝集粒子が多く発生してしまい、温度が低すぎると凍結および粘度アップによる分散不足が起こる。
【0020】
本発明の水分散液と、水性樹脂を含有する塗料成分とを混合することによって導電性および透明性に優れた水系塗料を得ることができる。塗料中の導電粉末の分散性は、塗料を構成する水分散液中の導電粉末の分散性によるところが大きい。本発明の水系塗料は、水分散液中の導電粉末が高い分散性を有するので、塗料中においても分散剤を必要とせずに導電粉末が殆ど凝集せずに均一に分散し、優れた分散性を有する。
【0021】
具体的には、分散剤を必要とせずに、分散前の導電粉末の平均一次粒子径(DT50)に対する分散後の累積重量50%粒子径(D50)の比〔D50/DT50〕が1.1〜9.0である水系塗料を得ることができる。本発明の水系塗料は、導電粉末の粒子径は水分散液の粒子径と近似しており、塗料中でも導電粉末が凝集せずに高い分散性を有する。従って、透明性および導電性の高い水系透明導電性塗料を得ることができる。
【0022】
また、本発明の水系透明導電性塗料は、以上のように導電粉末の分散性が良いので、5000rpmの遠心分離下において、分散剤を必要とせずに、導電粉末が沈降しない塗料を得ることができる。因みに、導電粉末を配合した従来の有機系導電性塗料は分散剤を含有することによって導電粉末の分散性を保っており、分散剤を含有しないものは、概ね5000rpmの遠心分離下において導電粉末が分離する。
【0023】
本発明の水系透明導電性塗料の水性樹脂は、例えばアルキド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエポキシアクリレート樹脂、ポリウレタンアクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂等を用いることができる。これらの樹脂は水溶性タイプとエマルジョンタイプとがあるが、本発明の水系塗料では、塗料中の水分量に制限の無いエマルジョン型樹脂が好ましく、さらにUV硬化型樹脂は生産性が良く膜強度が高いので好ましい。エマルション型UV硬化型樹脂を用いたものは、塗料中の導電粉末の分散性が良く、透明性および導電性の高い塗膜を形成することができ、また膜強度も高い。具体的には、鉛筆硬度がH以上、好ましくは2H以上の膜強度を得ることができる。
【0024】
本発明の水系透明導電性塗料は、分散剤を必要とせずに適度な粒子径の導電粉末が均一に分散しているので、曇りが殆どない透明性の高い塗膜を形成することができる。一般に、従来の有機系塗料は分散剤を加えることによって導電粉末の分散性を高めており、分散剤を添加しない有機系塗料では導電粉末の分散性が低いので、ヘーズ値が高く、全光透過率が低い。一方、本発明の水系塗料では、分散剤を必要とせずに、ヘーズ値が小さく全光透過率が格段に高い透明性に優れた塗膜を形成することができる。具体的には、本発明の水系塗料は、成膜したときの塗膜と基材とを通過した全光透過率[E1]と、基材のみの全光透過率[E0]との比(比全光透過率=[E1]/[E0])が80%以上であって、ヘーズ値が5.0%以下の透明塗膜を形成することができる。
【0025】
また、本発明の水系透明導電性塗料は、適度な粒子径の導電粉末が均一に分散しているので、導電粉末の含有量が少なくても高い導電性を有する塗膜を形成することができる。具体的には、導電粉末としてATO粉末を用い、膜厚5μmに成膜したときに、導電粉末と樹脂の量比〔導電粉末/樹脂〕に応じて以下の導電性に優れた塗膜を形成することができる。
(イ)上記量比60/40〜50/50の範囲で、表面抵抗1×105〜1×108Ω/□、好ましくは、5.3×105〜1.4×107Ω/□
(ロ)上記量比50/50〜30/70の範囲で、表面抵抗1×107〜1×1010Ω/□、好ましくは、1.4×107〜1.5×108Ω/□
(ハ)上記量比30/70〜10/90の範囲で、表面抵抗1×108〜1×1011Ω/□、好ましくは、1.5×108〜4.4×109Ω/□
【0026】
なお、一般に従来の導電性塗料では、導電粉末としてATO粉末を用いて表面抵抗5×105〜5×108Ω/□程度の導電性を得るには、樹脂に対する導電粉末の量比が1.5倍以上必要とし、本発明の水系導電性塗料よりも導電粉末の含有量が格段に多い。
【0027】
本発明の水系透明導電性塗料は導電粉末相互もしくは樹脂を介した相互作用によって、低濃度の導電粉末でも良好な導電性が得られる。従って、本発明の水系透明導電性塗料は、針状の導電粉末を用いることなく、導電粉末の含有量を減らすことができるので、膜のヘーズを阻害することが無く、透明性の高い導電膜を形成することができる。一方、従来の溶剤系透明導電性塗料の場合、塗料を成膜する際、分散剤の存在によって、導電粉末相互の接触または導電粉末と樹脂との接触が阻害されるため、高濃度に導電粉末が存在しなければ良好な導電性を得難い。
【0028】
本発明の水系透明導電性塗料は、メジアン径10〜300nmの導電粉末を水に懸濁させた後に、分散前と分散後のBET比表面積の比が0.50〜0.85になるように、または分散前の導電粉末の平均一次粒子径(DT50)に対する液中の累積重量50%粒子径(D50)の比〔D50/DT50〕が1.1〜9.0になるように、導電粉末懸濁液をミルで分散処理し、さらに遠心分離によって導電粉末の粗粒子を分離する水分散工程と、水性塗料成分とを混合する工程を有する製造方法によって製造することができる。
【0029】
以上のように、本発明の導電粉末の水分散液、この水分散液を用いた水系透明導電性塗料は分散剤を必要とせずに導電粉末が高い分散性を有するが、導電粉末の分散性をさらに高めるために少量の分散剤を含有させても良い。なお、本発明において分散剤を必要としないとは分散剤を含まない態様に限定するものではなく、少量の分散剤、例えば分散剤量1wt%以下を含有する態様を含む。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、各例において、粉末の比表面積は柴田化学社製の迅速表面積測定装置(SA-1100型)を用いた。粒子径は堀場製作所社製品(LB550)を用いて体積粒子径基準にて測定した。必要に応じ水等で希釈して測定すれば良い。塗膜の表面抵抗は三菱油化社製装置(ハイレスタ表面高抵抗計HT-210)、ヘーズ、全光透過率はスガ試験機社製装置(SMカラーコンピューターSM-7-IS-2B)、膜強度は鉛筆硬度試験機をそれぞれ用いて測定した。
【0031】
〔実施例〕
導電粉末としてSbドープ酸化スズ粉末(比表面積78m2/g:株式会社ジェムコ製、商品名T−1)を水に懸濁させてpHを7に調整し、ビーズミルで分散処理した後に、遠心分離によって粗粒をカットし、メジアン径(粒子径D50)50nm、累積重量95%粒子径(D95)100nmの導電性水分散液を調製した。この分散液の溶媒を乾燥して得た粉末の比表面積を測定すると120m2/gであり、分散前後のBET比は0.65であり、沈降物はなかった。この導電性水分散液を固形分濃度17%の濃度に希釈した分散液100gと、40重量%水溶性樹脂水溶液(UV硬化型樹脂EM90:荒川化学工業社製品)28g、および光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製品イルガキュア2959)0.8gを混合して、水系透明導電性塗料を調製した(塗料中の導電粉末/UV硬化型樹脂比は60/40)。この塗料中の導電粉末のD50は60nm、D95は110nmであった。この塗料を#3のワイヤーバーでポリエステルフィルム(厚み100mm、ヘーズ1.8%、全光透過率90%)に塗布し、70℃で1分間乾燥させた後、紫外線を照射して樹脂を硬化させて塗膜を形成した。この塗膜について、表面抵抗、ヘーズ、全光透過率、膜強度を測定した。結果を表1に示す(試料A1)。
【0032】
上記試料A1と同様のSbドープ酸化スズ粉末を用い、この粉末の分散状態を表1に示すD50およびD95の状態に調製した水分散液を用いること以外は試料A1と同様にして水系透明導電性塗料を調製し、塗膜を形成した。この塗膜について試料A1と同様の測定行なった。結果は表1の通りである(試料A2〜A3)。
【0033】
上記試料A1と同様のSbドープ酸化スズ粉末を用い、この粉末と樹脂の量比を表1に示すように調整した以外は試料A1と同様にして水系透明導電性塗料を調製し、塗膜を形成した。この塗膜について試料A1と同様の測定行なった。結果は表1の通りである(試料A4、A5、B1)。
【0034】
導電粉末としてリンドープ酸化スズ粉末(株式会社ジェムコ製)を用い、この粉末の分散状態を表1に示すD50およびD95の状態に調製した水分散液を用いること以外は試料A1と同様にして水系透明導電性塗料を調製し、塗膜を形成した。この塗膜について試料A1と同様の測定行なった。結果は表1の通りである(試料B2)。
【0035】
〔比較例1、2〕
上記試料A1と同様のSbドープ酸化スズ粉末を用い、この粉末の分散状態を表1に示すD50およびD95の状態に調製した水分散液を用いること以外は試料A1と同様にして水系透明導電性塗料を調製し、塗膜を形成した。この塗膜について試料A1と同様の測定行なった。結果は表1の通りである(試料C1〜C2)。
【0036】
上記試料A1と同様のSbドープ酸化スズ粉末を用い、分散溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA)を用い、さらに高分子分散剤を加えた有機系分散液を調製し、この固形分濃度30%に調整した。この分散液100gと、溶剤系樹脂20g、溶剤系光重合開始材1.4gを混合し、塗料中の導電粉末/UV硬化型樹脂バインダー比60/40の溶剤系透明導電性塗料を調製した。この塗料を用い、試料A1と同様にして塗膜を形成し、この塗膜について試料A1と同様の測定行なった。結果は表1の通りである(試料C3)。
【0037】
試料C3について、高分子分散剤を用いない以外は試料C3と同様にして有機系塗料を調整し、塗膜を形成した。この塗膜について試料A1と同様の測定行なった。結果は表1の通りである(試料C4)。
【0038】
【表1】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電粉末を分散させた水分散液であり、分散前の導電粉末の粒子径が10〜300nmであって、分散剤を必要とせずに導電粉末が沈降せず、導電粉末の分散前と分散後のBET比表面積の比が0.50〜0.85であることを特徴とする導電粉末の高分散性水分散液。
【請求項2】
導電粉末を分散させた水分散液であり、分散前の導電粉末の粒子径が10〜300nmであって、分散剤を必要とせずに、分散前の導電粉末の平均一次粒子径(DT50)に対する分散後の累積重量50%粒子径(D50)の比〔D50/DT50〕が1.1〜9.0であることを特徴とする導電粉末の高分散性水分散液。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する導電粉末の水分散液と水性樹脂とを含み、分散剤を必要とせずに、分散前の導電粉末の平均一次粒子径(DT50)に対する塗料中の累積重量50%粒子径(D50)の比〔D50/DT50〕が1.1〜9.0であることを特徴とする水系透明塗料。
【請求項4】
5000rpmの遠心分離下において、分散剤を必要とせずに、導電粉末が沈降しない請求項3に記載する水系透明導電性塗料。
【請求項5】
膜厚5μmに成膜したときの塗膜と基材とを通過した全光透過率[E1]と、基材のみの全光透過率[E0]との比(比全光透過率=[E1]/[E0])が80%以上であって、ヘーズ値が5.0%以下である請求項3または請求項4に記載する水系透明導電性塗料。
【請求項6】
導電粉末と樹脂の量比が60/40〜50/50の範囲で、膜厚5μmに成膜したときの表面抵抗が1×105〜1×108Ω/□である請求項3〜請求項5の何れかに記載する水系透明導電性塗料。
【請求項7】
導電粉末と樹脂の量比が50/50〜30/70の範囲で、膜厚5μmに成膜したときの表面抵抗が1×107〜1×1010Ω/□である請求項3〜請求項5の何れかに記載する水系透明導電性塗料。
【請求項8】
導電粉末と樹脂の量比が30/70〜10/90の範囲で、膜厚5μmに成膜したときの表面抵抗が1×108〜1×1011Ω/□である請求項3〜請求項5の何れかに記載する水系透明導電性塗料。
【請求項9】
膜厚5μmに成膜したときの膜強度がH以上である請求項3〜請求項8の何れかに記載する水系透明導電性塗料。
【請求項10】
水性塗料成分の樹脂が水性UV硬化型樹脂である請求項3〜請求項9の何れかに記載する水系透明導電性塗料。
【請求項11】
水性塗料成分の樹脂がエマルションタイプである請求項3〜請求項10の何れかに記載する水系透明導電性塗料。
【請求項12】
導電性粉末が希土類もしくはアルミニウム、リン、チタン、亜鉛、インジウム、スズ、アンチモン、タングステン、そのドープもしくは複合酸化物もしくは一種類以上を用いたことを特徴とする請求項3〜請求項11の何れかに記載する水系透明導電性塗料
【請求項13】
請求項3〜請求項12の何れかに記載する水系透明導電性塗料によって形成された透明導電性塗膜。
【請求項14】
粒子径が10〜300nmの導電粉末を水に懸濁させた後に、分散前と分散後のBET比表面積の比が0.50〜0.85になるように、または分散前の導電粉末の平均一次粒子径(DT50)に対する液中の累積重量50%粒子径(D50)の比〔D50/DT50〕が1.1〜9.0になるように、導電粉末懸濁液をミルで分散処理し、さらに遠心分離によって導電粉末の粗粒子を分離する水分散工程と、水性塗料成分とを混合する工程を有する水系透明導電性塗料の製造方法。


【公開番号】特開2006−307002(P2006−307002A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131297(P2005−131297)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)株式会社ジェムコ (151)
【Fターム(参考)】