説明

小径管の超音波探傷装置及び方法

【課題】小径管の検査管材においても超音波探傷を実現して、有害な欠陥を非破壊で検出する。
【解決手段】超音波探傷装置は、発生させた超音波を被検査管材20に送受信する振動子11と、被検査管材20と同音速となる材質で構成され、振動子11の超音波照射方向側に配置し、15°以上の接触範囲角で一定のギャップを介して被検査管材20の外表面の管周方向の凸曲面22に密着する凹曲面12cを有する音響媒質12と、を備えるポイントフォーカス型探触子10で構成される。ポイントフォーカス型探触子10は、被検査管材20の内表面23近傍の位置に集束点Pを配置し、振動子11から照射される超音波の入射角が被検査管材20の内表面23の法線方向から55°〜80°の範囲になるように集束点を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫管やシームレス鋼管等の小径の管材の管内表面及び内部に存在する傷を非破壊で検出するための小径管の超音波探傷装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電縫管やシームレス鋼管など管材は、外表面のみならず、管内表面および内部に有害な欠陥が存在しないことが重要であるが、外表面と異なり、管内表面、内部は検査しにくい傾向にある。そこで、管形状の管内表面および内部の欠陥を検査する手法は、従来から多くの方法が開発されている。
【0003】
例えば、内挿型渦流探傷プローブを管内に挿入して渦流探傷する方法や外面から超音波探傷で内表面および内部の欠陥を検出したりする手法が一般的に適用されている。特許文献1に示す技術では、図9に示すような渦流探傷プローブを直管状の被検査管材内部に挿入しながら高速に渦流探傷する装置が提案されている。別の手法として超音波を用いた探傷は、欠陥に十分な散乱断面積があれば、内部及び管内表面の欠陥をS/N良く検出できる有効な手法である。外表面からの超音波送信による探傷で、微小欠陥を検出できるだけの十分な検出精度を実現するには、少なくとも以下の条件が必要になる。
・検査対象部位に超音波を集中させて欠陥からのエコーを強めるとともに、探傷時のノイズ源となる被検査管材の素材粒界からの林状エコーを低減させる。
・十分な超音波強度を実現できる十分な大きさの超音波探触子を用いる。
・欠陥判定の邪魔になる形状エコーを低減させる。
以上の観点から、超音波を被検査管材中のある点に集中させて、その場所にある欠陥を高精度に探傷するポイントフォーカス型探触子を用いた探傷方法が用いられている。この手法では、ポイントフォーカス型探触子の焦点が管内表面または内部の所望の位置に来るように管外部に配置し、欠陥の存在による超音波エコーを検出して検査するものである。
【0004】
例えば、特許文献2に示す技術では、図10に示すように、管(2)外表面に対して垂直方向から超音波を入射する垂直方式のポイントフォーカス探触子(1)を配置し探傷している。探触子の焦点位置は管肉厚方向に3mmピッチになるように複数配置し探傷している。また、特許文献3に示す技術では、図11に示すように、管表面に対して斜め方向から超音波を入射し、内表面での反射も活用しながら、図12に示す複数のモードで、表層から内表面までの全範囲を探傷している。上記の2つの技術例はいずれも被検査管材を水中に浸し、探触子を水中の所定の位置に固定して水を介して管に超音波を導入する全没水浸法と呼ばれる探傷方法の例である。
【0005】
また、別の従来技術として、特許文献4に示す技術では、図13に示すように、超音波媒質としてくさびとアレイ型探触子を組み合わせ、くさびを若干の水膜を介して管に接触させ、探傷する方法も開示されている。この場合は、アレイ探触子の遅延時間を電子的に制御することで、斜角超音波の焦点位置を変化させることが可能で、1個の探触子で管肉厚全域を探傷できるとしている。
【0006】
いずれにおいても長い管の一部または全周を全長に渡って検査するためには、たとえば管の軸を中心に管または探触子を回転させながら、管または探触子を相対的に管軸方向に移動させるための走査機構が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−251839号公報
【特許文献2】特開平7−35729号公報
【特許文献3】特開昭60−205356号公報
【特許文献4】特開平11−183446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の内挿型プローブ(探触子)による渦流探傷では、表皮深さ以上の深さにある欠陥や表面が閉じたような欠陥は検出しにくく、管が鉄鋼などの磁性材料の場合、透磁率の局所的な変化が渦流探傷時のノイズとなって、微小な欠陥を検出するには十分な探傷性能が実現しないという問題があった。また、管外面からの超音波探傷の場合、管は円形断面の表面を有しているため被検査管材と探触子の相対位置を厳密に制御しないと、所望のパスで超音波ビームが伝播せず、結果として所望通りの探傷性能が実現できないという問題を有していた。特に小径管の場合、わずかな位置ずれが大きな角度変化になるのでこの問題は大きい。更に、管自体が湾曲していたり、たわんでいたりしても、この問題が発生する。
【0009】
また、従来の全没水浸法のような場合は、プローブ(探触子)は水中に固定されているので、プローブ(探触子)と管の相対位置を保つためには、管自体はいつも所定の位置に存在する事が前提になっている。探傷時の走査においては、機構的な工夫により管を設計位置に配置する必要がある。しかしながら、小径管はたわみやすく、高速走査探傷では、特にそれに対する機構的な対策が複雑で大変になってくる。
【0010】
更に、くさびを有した探触子を管に接触させて探傷する方法では、くさび底面を接触させることでの管外表面の法線方向は管との相対位置を常に保持できるが、接線方向には自由度があり相対位置がずれると超音波の入射角度がずれ、所望の探傷が実現できなくなる。ここで、超音波の音圧レベルを高め、かつ焦点を十分に絞るためには、一定以上の大きさの振動子を用いる必要がある。振動子の大きさが、管径に比較して大きい場合には、超音波の管外周面への入射角が超音波のビーム巾方向(超音波の進行方向に直交した平面内)で異なることになり、結果としてビーム巾方向で斜入射屈折角が異なって超音波の集束が十分に行えないという問題が生じる。すなわち、接触型の超音波プローブ(振動子と音響媒質を組み合わせた探触子)の管外周面との円周方向の接触範囲が経験的には10°以上の場合、焦点が十分に絞り切れずに十分な探傷性能を確保できないということが分かっている。
【0011】
図8に基づいて、この原理について説明する。図8は、この原理を模式的に示しており、簡単のために、平面状の振動子とアクリル製の音響媒質(遅延材、くさびなど)から構成される通常の垂直型探触子が鋼管の上面から管外表面に接触している状態を示す図である。図8に示すように、振動子から出た超音波は、音響媒質を鉛直下方に伝播進行し、管外表面に様々な角度で入射する。被検査管材に入射する際に、超音波はスネルの法則に従って音響媒質と被検査管材中の音速差に応じて屈折する。探触子中央では、垂直入射なので超音波は直進するものの、探触子の端部では大きく外側にゆがめられてしまい、超音波ビームが発散してしまう。これが、いわゆる被検査管材の表面形状によるレンズ効果であり、これを回避するためには、超音波の波長レベル以下の平坦度が要求されるが、管の場合には、元々の形状が円弧状であるため形状レンズ効果は不可避となる。
【0012】
よって、従来の管探傷では、管径に対して十分に小さい(管周方向の接触範囲角が10°以下)探触子を用いて管形状のレンズ効果が無視できるレベルにせざるをえなかった。結果として、小さな探触子しか利用できず、音圧レベルが小さかったり、探触子サイズが大きいほど有利なポイントフォーカスの集束度が十分でなかったりといった不具合を受け入れざるをえず、探傷性能が十分でない問題点があった。特に、管径が小さくなるほど上記の傾向が強く、例えば数十ミクロンの欠陥サイズの実用的な超音波探傷は実現されていない。即ち、上述したとおり、従来の超音波探傷装置及び方法では、特に、小径管の場合、被検査管材の欠陥を見逃しやすいという問題があった。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、上記問題を解決するべく、小径管の検査管材においても高精度の超音波探傷を実現して、見逃しやすい被検査管材の内表面の有害な閉口性の欠陥をも非破壊で安定して検出することが可能であり、ひいては、有害な欠陥が存在しないことを保証することが可能である小径管の超音波探傷装置及び方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る小径管の超音波探傷装置は、断面形状が円環状である小径の被検査管材に対して、発生させた超音波を前記被検査管材の内表面および内部に照射して送信し、前記被検査管材の内表面および内部に存在する欠陥から反射したエコーを受信する振動子と、前記被検査管材の材質とほぼ同等の材質、または、前記被検査管材の超音波音速とほぼ同等の超音波音速となるような材質で構成され、前記振動子の超音波照射方向側に前記振動子と前記被検査管材との間に介在して、前記振動子から照射される超音波を通過させるように配置し、前記被検査管材の管周方向の接触範囲角が15°以上で、一定のギャップの接触媒質を介して前記被検査管材の外表面の管周方向の凸曲面に密着する凹曲面を有する音響媒質と、を備えるポイントフォーカス型探触子から構成され、前記ポイントフォーカス型探触子は、前記被検査管材の内表面近傍の位置に集束点が配置され、且つ、前記音響媒質が密着する前記被検査管材の管軸方向に直交する横断面において、前記振動子から照射される超音波の入射角が前記被検査管材の内表面の法線方向から55°〜80°の範囲になるように、集束点を設定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る小径管の超音波探傷方法は、断面形状が円環状である小径の被検査管材に対して、発生させた超音波を前記被検査管材の内表面および内部に照射して送信し、前記被検査管材の内表面および内部に存在する欠陥から反射したエコーを受信する振動子と、前記被検査管材の材質とほぼ同等の材質、または、前記被検査管材の超音波音速とほぼ同等の超音波音速となるような材質で構成され、前記振動子の超音波照射方向側に前記振動子と前記被検査管材との間に介在して前記振動子から照射される超音波を通過させるように配置し、前記被検査管材の管周方向の接触範囲角が15°以上で、一定のギャップの接触媒質を介して前記被検査管材の外表面の管周方向の凸曲面に密着する凹曲面を有する音響媒質と、を備え、前記被検査管材の内表面近傍の位置に集束点が配置され、且つ、前記音響媒質が密着する前記被検査管材の管軸方向に直交する横断面において、前記振動子から照射される超音波の入射角が前記被検査管材の内表面の法線方向から55°〜80°の範囲になるように、集束点を設定したポイントフォーカス型探触子を相対的に前記被検査管材の管軸方向と管周方向の2方向に移動させて探傷を行うことを特徴とする。
【0016】
これによると、小径管の超音波探傷では、被検査管材の外表面の曲率が大きく、ポイントフォーカス型探触子と被検査管材との相対位置がわずかにずれただけでも超音波の集束が大きく崩れてしまう。そこで、探触子の被検査管への追従性を向上させるために被検査管材の管周方向(即ち、管の円周方向)の接触範囲角を15°以上にし、一定ギャップの接触媒質を介して被検査管材に密着させるため、被検査管材の断面内の直交2方向において常にポイントフォーカス型探触子が追従できる機構を構成している。尚、ギャップは、0.3mm以下であることが望ましい。ギャップが大きすぎると、音響媒質と被検査管材の間で超音波の多重反射が発生し、被検査管材の表面不感帯が大きくなる不具合が発生する。一般的には、超音波波長(例えば、鋼管中の縦波の場合1.2mm程度)の1/4〜1/5程度にギャップを抑えることが望ましいとされている。また、管との管周方向の接触範囲角を15°以上とするのは、機構設計上、安定した追従を実現するために必要な最低限の接触範囲角である。
また、被検査管材に密着する音響媒質の材質を被検査管材とほぼ同等の材質または、被検査管材の超音波音速とほぼ同等の超音波音速となるような材質で構成することにより、被検査管材の管径に比較して大きいポイントフォーカス型探触子を用いても、音響媒質と被検査管材の境界面でのスネルの法則による屈折がなくなり、被検査管材の外表面での入射時の屈折角のバラツキによるレンズ効果で集束がぼけるのを防止できる。振動子の曲率と被検査管材に対する位置を適切に設定すると被検査管材の内部の任意の位置に焦点を結ぶことが可能となる。
また、ポイントフォーカス型探触子の集束点を、被検査管材の内表面近傍の位置に配置することにより、被検査管材の内表面およびその内部近傍に存在する欠陥に集中して超音波を照射することができる。
更に、音響媒質が密着する被検査管材の管軸方向に直交する横断面において、被検査管材の内表面への超音波ビームの入射角が被検査管材の内表面の法線方向から55°〜80°の範囲になるように、ポイントフォーカス型探触子の集束点を設定することで、欠陥のない場所で反射された超音波ビーム(形状エコー)はポイントフォーカス型探触子の方向とは異なる方向に逃がして、欠陥部で反射された超音波ビーム(欠陥エコー)は欠陥と被検査管材の内表面との間で複数回反射を繰り返し、ポイントフォーカス型探触子方向に向く成分が発生するため、欠陥エコーのみ検出することができる。従って、被検査管材の管形状に固有の形状エコーと欠陥エコーの弁別が可能になり、高精度の探傷をおこなうことができる。
【0017】
ここで、本発明に係る小径管の超音波探傷装置及び方法において、前記ポイントフォーカス型探触子は、更に、前記被検査管材の管軸方向に直交する横断面で、前記振動子と前記音響媒質とを、送信側と受信側とで2分割する音響分割面を備え、前記2分割された前記振動子と前記音響媒質の一方で、超音波の送信を行ない、前記2分割された前記振動子と前記音響媒質の他方で、超音波の受信を行って良い。
【0018】
これによると、音響媒質が鋼製である等、送信した超音波の音響媒質内での残響が大きい場合であっても、超音波の送信と受信とを分割・分離することにより、微小な欠陥からのエコーを受信側の振動子で高精度に受信することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の小径管の超音波探傷装置及び方法は、小径管の検査管材においても超音波探傷を実現して、例えば、従来技術では見逃しやすい閉口性の被検査管材の内表面の有害な欠陥をも非破壊で安定して検出することが可能であり、ひいては、有害な欠陥が存在しないことを保証することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置と被検査管材とを示す図であり、(a)は上面図であり、(b)は断面図である。
【図2】管内表面上部にある欠陥を上部に配置した従来の垂直型のポイントフォーカス探触子で探傷する場合を模式的に示した図である。
【図3】管内表面上部にある欠陥を上部に配置した本実施形態に係るポイントフォーカス探触子で探傷する場合を模式的に示した図である。
【図4】本実施例における超音波の入射角と欠陥エコー及び形状エコーの強度変化の関係を示す実験結果である。
【図5】本実施例における超音波の入射角と欠陥エコー及び形状エコーの比であるエコーS/Nの関係を示す実験結果である。
【図6】本実施例における超音波のAスコープ表示であり、横軸は時間(伝搬距離)、縦軸はポイントフォーカス型探触子10の受信側の振動子11で受信されたエコー強度を示している。
【図7】平面状の振動子と被検査管材と同音速の音響媒質から構成される通常の垂直型探触子が鋼管の上面から管外表面に接触している状態を示す図である。
【図8】平面状の振動子とアクリル製の音響媒質から構成される通常の垂直型探触子が鋼管の上面から管外表面に接触している状態を示す図である。
【図9】引用文献1に記載された管内表面傷検査装置を示す図である。
【図10】引用文献2に記載された溶接部の超音波探傷装置を示す図である。
【図11】引用文献3に記載された装置の概略構成を示す図である。
【図12】引用文献3に記載された探触子の具体的は一例を示す図である。
【図13】引用文献4に記載された溶接部の超音波探傷装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る小径管の超音波探傷装置及び方法を実施するための形態について、具体的な一例に即して説明する。
【0022】
まず、本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置の一例について、図1に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置と被検査管材とを示す図であり、(a)は上面図であり、(b)は断面図である。尚、本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置は、断面形状が円環状であって、管径が小径の被検査管材を対象としている。
【0023】
本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置は、図1に示すように、振動子11と音響媒質12とを備えるポイントフォーカス型探触子10で構成される。また、振動子11と音響媒質12とを備えるポイントフォーカス型探触子10は、音響媒質12が密着する被検査管材20の管軸方向に直交する横断面(即ち、音響媒質12が被検査管材20に密着する凹面12cに対して垂直方向の面)に配置された音響分割面13により、送信側振動子11a及び送信側音響媒質12aで構成される(図示せず)送信側13a、及び、受信側振動子11bと受信側音響媒質12bで構成される(図示せず)受信側13bに2分割・分離されている。音響分割面13は、例えば、コルク等の超音波吸収特性の非常に大きな物質で構成される。
【0024】
振動子11は、所定の曲率を有する湾曲形状を有しており、基本的に球面状である。振動子11は、圧電素子で構成され、圧電素子に高電圧パルスを印加することにより、振動子11の固有振動周波数のパルス振動(超音波)を発生させることができる。ここで、本実施形態では、振動子11は、上記音響分割面13により送信側振動子11aと受信側振動子11bと2分割されており、送信側振動子11aから超音波を照射して、反射された超音波を受信側振動子11bで受信するように構成される。
また、振動子11の曲率と位置は、下記の条件を満たすように決定される。
・送信側振動子11aから照射される超音波の集束点Pが、被検査管材20の内表面23近傍の位置に配置されるよう設定する。
・音響媒質12が密着する被検査管材20の管軸方向に直交する横断面において、送信側振動子11aから照射される超音波の入射角θが、被検査管材20の内表面23の法線方向から55°〜80°の範囲になるように、集束点Pを設定する(図1(b)参照)。
・受信側振動子11bも送信側振動子11aと同じ集束点Pに焦点を結ぶような曲率および位置に配置されている。これは、送信側振動子11aから集束点Pに向けて照射された超音波が集束点P近傍の欠陥によって反射されたのち、効率的に受信側振動子11bに受信されるようにするためである。
尚、振動子11の曲率を決定する際、振動子11と被検査管材20との間に配置される音響媒質12は、後述するとおり、被検査管材20の材質とほぼ同等の材質、または、被検査管材20の超音波音速とほぼ同等の超音波音速となるような材質で構成されるため、音響媒質12と被検査管材20の境界面でのスネルの法則による屈折を考慮する必要はない。
【0025】
音響媒質12は、振動子11の超音波照射方向側に、振動子11と被検査管材10との間に介在して、振動子11から照射される超音波を通過させて被検査管材20に照射させるように配置される。そして、音響媒質12は、被検査管材20の外表面22の管周方向の凸曲面に、0.3mm以下の一定のギャップを介して密着する凹曲面12cを有する。また、本実施形態では、被検査管材20とポイントフォーカス型探触子10(即ち、音響媒体12)との間のギャップには水が存在し、音響媒質12と被検査管材20とは、接触媒質である水を介して密着することになる。ここで、ギャップを0.3mm以下としたのは、振動子11から音響媒質12を介して被検査管材20に向けて照射された超音波が、スネルの法則により音響媒質12と被検査管材20の間のギャップで屈折してしまうのを防止したり、ギャップ間で多重反射をおこして管表面での不感帯を低減したりするためであり、且つ、ギャップを介して被検査管材20に密着するポイントフォーカス型探触子10の追従を容易にするためである。ギャップ長としては、多重反射を防止するための目安として、超音波波長の1/4〜1/5程度以下とすることが一般的である。なお、本実施形態では、接触媒質として水を用いているが、その他、油やグリセリン等の他の接触媒質を用いても問題ない。
また、音響媒質12の凹曲面12cは、被検査管材20の外表面22の管周方向の凸曲面との接触範囲角φが、音響媒質12が密着する被検査管材20の管軸方向に直交する横断面において、15°以上の接触範囲角となるように形成される。ここで、被検査管材20との管周方向の接触範囲角を15°以上とするのは、機構設計上、安定した追従を実現するために必要な最低限の接触範囲角であるからである。
更に、音響媒質12は、被検査管材20の材質とほぼ同等の材質、または、被検査管材20の超音波音速とほぼ同等の超音波音速となるような材質で構成される。
【0026】
次に、本実施形態に係る小径管の超音波探傷方法について、説明する。
本実施形態に係る小径管の超音波探傷方法では、上述の本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置を構成するポイントフォーカス型探触子10と被検査管材20とを、ポイントフォーカス型探触子10の音響媒質12の凹曲面12aと被検査管材20の外表面22の管周方向の凸曲面とを接触媒質で満たされた一定のギャップを介して密着させながら、ポイントフォーカス型探触子10を相対的に被検査管材20の管軸方向と管周方向の2方向に移動させて探傷を行う。
【0027】
ポイントフォーカス型探触子10を相対的に被検査管材20の管軸方向と管周方向の2方向に移動させて探傷を行うには、例えば、被検査管材20を、その軸を中心に回転させながら、ポイントフォーカス型探触子10を被検査管材20の管軸方向に走査するようにしても良いし、被検査管材20を管軸方向に移動させながら、ポイントフォーカス型探触子10を被検査管材20の管周方向に走査するようにしてもよい。尚、この際に、ポイントフォーカス型探触子10の音響媒質12の凹曲面12aと被検査管材20の外表面22の管周方向の凸曲面との間に形成されるギャップを常に一定にさせる必要がある。従って、例えば、被検査管材20を、その軸を中心に回転させながら、ポイントフォーカス型探触子10を被検査管材20の管軸方向に走査する場合は、軸を中心に回転させている被検査管材20の軸と平行に、ポイントフォーカス型探触子10を管軸方向に移動することができるように、ポイントフォーカス型探触子10を被検査管材20の軸と平行に設けられたレール上を移動させるように構成しても良い。
【0028】
次に、本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置及び方法の作用を説明する。
【0029】
小径管の超音波探傷では、被検査管材の外表面の曲率が大きく、ポイントフォーカス型探触子と被検査管材との相対位置がわずかにずれただけでも超音波の集束が大きく崩れてしまう。本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置及び方法においては、ポイントフォーカス型探触子10の被検査管材20への追従性を向上させるために管周方向の接触範囲角φを15°以上にし、被検査管材20断面内の直交2方向において常にポイントフォーカス型探触子10が追従できる機構を構成している。
【0030】
本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置及び方法においては、被検査管材20に密着する音響媒質12の材質を被検査管材20と同等、または、音速が同等の材質で構成することにより、音響媒質12と被検査管材20の境界面でのスネルの法則による屈折がなくなり、振動子の曲率と位置を適切に設定すると被検査管材20の内表面の任意の位置に焦点を結ぶことが可能となる。即ち、本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置及び方法では、平面状の振動子と被検査管材と同音速の音響媒質から構成される通常の垂直型探触子が鋼管の上面から管外表面に接触している状態を示す図7に示すように、上述した平面状の振動子とアクリル製の音響媒質から構成される通常の垂直型探触子が鋼管の上面から管外表面に接触している状態を示す図8で課題としていた、管径に比較して大きい探触子においても、被検査管材の外表面での入射時の屈折角のバラツキによるレンズ効果で集束がぼける課題を解決している。
【0031】
以上で、被検査管材の内部の任意の位置に超音波焦点を結ぶことが可能となるが、高精度の探傷をおこなうためには、管形状に固有の形状エコーと欠陥エコーの弁別が重要になる。図2は、管内表面上部にある欠陥を上部に配置した従来の垂直型のポイントフォーカス探触子で探傷する場合を模式的に示した図である。内表面の欠陥位置を中心とした円弧状に配置された湾曲振動子から送信された超音波(a)及び、(b)、(b’)は、同じ材質の音響媒質と被検査管材内部を通過し、内表面の欠陥に集束される。集束点には欠陥があるので、そこから反射されたエコー(d)は、再度、被検査管材、音響媒質を通過し、振動子に受信され、欠陥エコーとして電気的に検出される。しかし、この配置においては、内表面に欠陥の存在しない正常な被検査管材でも、同様の経路で、振動子に大きなエコー(c)が受信され、形状エコーとなる。しかも、欠陥サイズが小さい場合、形状エコーと欠陥エコーの振動子への到達時刻はほぼ一致し、かつ、この形状エコーは非常に強度が強いので、欠陥エコーはその中に埋もれてしまって検出できないことになる。従って、被検査管材の管形状に固有の形状エコーと欠陥エコーの弁別ができず、超音波探傷を実現することができない。
これに対して、本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置及び方法においては、図1(b)に示すように、音響媒質12が密着する被検査管材20の管軸方向に直交する横断面において、被検査管材20の内表面23への超音波ビームの入射角θを内表面23の法線方向から55°〜80°の範囲にしている。これにより、管内表面上部にある欠陥を上部に配置した本実施形態に係るポイントフォーカス探触子で探傷する場合を模式的に示した図である図3に示すように、欠陥のない場所での超音波ビーム(c)はポイントフォーカス探触子の方向とは異なる方向に逃がして、欠陥エコー(d)のみ検出することができる。この場合、欠陥部への超音波ビームは欠陥と被検査管材の内表面との間で複数回反射を繰り返し、探触子方向に向く成分が発生する。従って、被検査管材の管形状に固有の形状エコーと欠陥エコーの弁別を行うことができ、超音波探傷を実現することができる。
【0032】
尚、上述した本発明に係る小径管の超音波探傷装置及び方法は、例示したものにすぎず、本発明に係る小径管の超音波探傷装置及び方法の適用限界を示すものではない。すなわち、本発明に係る小径管の超音波探傷装置及び方法は、下記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいてさまざまな変更が可能なものである。
【0033】
例えば、上述の実施形態に係る小径管の超音波探傷装置では、振動子11と音響媒質12とを備えるポイントフォーカス型探触子10が、音響媒質12が密着する被検査管材20の管軸方向に直交する横断面(即ち、音響媒質12が被検査管材20に密着する凹面12cに対して垂直方向の面)に配置された音響分割面13により、送信側振動子11a及び送信側音響媒質12aで構成される送信側13aと、受信側振動子11bと受信側音響媒質12bで構成される受信側13bと、に2分割されているが、それに限らない。送信した超音波の音響媒質12内での残響が大きくない場合は、振動子11と音響媒質12とを備えるポイントフォーカス型探触子10が、音響分割面13を備えず、一体で送受信を行うように構成しても良い。
【0034】
このように、本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置及び方法によれば、小径管の検査管材においても超音波探傷を実現して、見逃しやすい閉口性の被検査管材の内表面の有害な欠陥をも非破壊で安定して検出することが可能であり、ひいては、有害な欠陥が存在しないことを保証することが可能である。
【実施例】
【0035】
次に、本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置及び方法を実際に使用した実施例について、上述した図1に基づいて説明する。
【0036】
本実施例では、円環状の断面を有する外径16mm、内径8mmの小径鋼管(被検査管材)20の外表面にポイントフォーカス型探触子10を接触させ、小径鋼管20の内表面付近に超音波を集束させるようにポイントフォーカス型探触子10を構成したものである。そして、ポイントフォーカス型探触子10の振動子11には、200〜500Vの高電圧パルスを印加して、振動子11の固有振動周波数(10MHz)のパルス振動を発生させる。
【0037】
音響媒質12は、小径鋼管20と同じ材質の鋼で形成されており、従って、音響媒質12と小径鋼管20との音速は同じとなる。また、音響媒質12は、0.1mm程度の一定のギャップを介して小径鋼管20の外表面に密着している。密着している小径鋼管20の管周方向の接触範囲角φは50°である。ここで、ポイントフォーカス型探触子10と小径鋼管20の間のギャップには接触媒質としての水が存在する。
【0038】
以上の構成により、本実施例では、比較的簡易な機構で、上下方向及び左右方向に小径鋼管20が変位に追従して、ポイントフォーカス型探触子10を密着追従させることが実現できる。
【0039】
そして、本実施例では、小径交換20を1200rpmで回転させ、探触子を管軸方向に10mm/secの速度で走査している。この条件では、ポイントフォーカス型探触子10の追従および接触媒質としてポイントフォーカス型探触子10と小径鋼管20の間のギャップへの水の供給には問題はない。
【0040】
ここで、外径16mm、内径8mmの本実施例で用いた小径鋼管20に対し、同一形状のポイントフォーカス型探触子10で、音響媒質12が密着する小径鋼管20の管軸方向に直交する横断面において、超音波の入射角θを種々変化させて実験を行った結果について、図4及び図5に基づいて説明する。図4は、本実施例における超音波の入射角と欠陥エコー及び形状エコーの強度変化の関係を示す実験結果である。また、図5は、本実施例における超音波の入射角と欠陥エコー及び形状エコーの比であるエコーS/Nの関係を示す実験結果である。ここで、上述した図2に示すように、ポイントフォーカス型探触子10からの超音波の入射角θが小さいと、内表面からの形状エコーが大きくなり、探傷性能が大きく劣化し、一方、ポイントフォーカス型探触子10からの超音波の入射角θをあまり大きくすると欠陥からのエコーも低下する傾向になることが分かっている。図4及び図5から、ポイントフォーカス型探触子10からの超音波の入射角θが55°〜80°の範囲が最も形状エコーが小さく、かつ欠陥からのエコー強度も大きく、S/Nとして良好な範囲であることが分かる。従って、上述の本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置及び方法において記載したとおり、S/Nとしての最適な入射角θが55〜80°であることがわかる。
【0041】
本実施例では、内径8mmの小径鋼管20の内表面に施した50μm深さのスリット状の微小欠陥を人工で形成した。そして、本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置及び方法のポイントフォーカス型探触子10を用いて、小径鋼管20を探傷した結果を図6に示す。図6は、本実施例における超音波のAスコープ表示であり、横軸は時間(伝搬距離)、縦軸はポイントフォーカス型探触子10の受信側の振動子11で受信されたエコー強度を示している。図8に示すとおり、表面エコーが観測された後、若干の形状エコーとそれよりも大きな欠陥エコーとが観測されている。その間には、小径鋼管20の内部の粒界に起因したノイズ散乱成分が観測されるが、形状エコーも含め十分高いS/Nで内表面の微小欠陥の検出が実現できていることがわかる。
【0042】
以上により、本実施形態に係る小径管の超音波探傷装置及び方法を用いた本実施例の結果においても、小径管の有害な欠陥を非破壊で検出できていることがわかる。
【符号の説明】
【0043】
10 ポイントフォーカス型探触子
11 振動子
12 音響媒質
12c 凹曲面
13 音響分割面
20 被検査管材
21 内部
22 外表面
23 内表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が円環状の被検査管材に対して、発生させた超音波を前記被検査管材の内表面および内部に照射して送信し、前記被検査管材の内表面および内部に存在する欠陥から反射したエコーを受信する振動子と、
前記被検査管材の材質とほぼ同等の材質、または、前記被検査管材の超音波音速とほぼ同等の超音波音速となるような材質で構成され、前記振動子の超音波照射方向側に前記振動子と前記被検査管材との間に介在して前記振動子から照射される超音波を通過させるように配置し、前記被検査管材の管周方向の接触範囲角が15°以上で、一定のギャップの接触媒質を介して前記被検査管材の外表面の管周方向の凸曲面に密着する凹曲面を有する音響媒質と、を備えるポイントフォーカス型探触子で構成され、
前記ポイントフォーカス型探触子は、前記被検査管材の内表面近傍の位置に集束点が配置され、且つ、前記音響媒質が密着する前記被検査管材の管軸方向に直交する横断面において、前記振動子から照射される超音波の入射角が前記被検査管材の内表面の法線方向から55°〜80°の範囲になるように、集束点を設定することを特徴とする小径管の超音波探傷装置。
【請求項2】
前記ポイントフォーカス型探触子は、更に、
前記被検査管材の管軸方向に直交する横断面で、前記振動子と前記音響媒質とを、送信側と受信側とで2分割する音響分割面を備え、
前記2分割された前記振動子と前記音響媒質の一方で、超音波の送信を行ない、前記2分割された前記振動子と前記音響媒質の他方で、超音波の受信を行うことを特徴とする請求項1に記載の小径管の超音波探傷装置。
【請求項3】
断面形状が円環状の被検査管材に対して、発生させた超音波を前記被検査管材の内表面および内部に照射して送信し、前記被検査管材の内表面および内部に存在する欠陥から反射したエコーを受信する振動子と、前記被検査管材の材質とほぼ同等の材質、または、前記被検査管材の超音波音速とほぼ同等の超音波音速となるような材質で構成され、前記振動子の超音波照射方向側に前記振動子と前記被検査管材との間に介在して前記振動子から照射される超音波を通過させるように配置し、前記被検査管材の管周方向の接触範囲角が15°以上で、一定のギャップの接触媒質を介して前記被検査管材の外表面の管周方向の凸曲面に密着する凹曲面を有する音響媒質と、を備え、前記被検査管材の内表面近傍の位置に集束点が配置され、且つ、前記音響媒質が密着する前記被検査管材の管軸方向に直交する横断面において、前記振動子から照射される超音波の入射角が前記被検査管材の内表面の法線方向から55°〜80°の範囲になるように、集束点を設定したポイントフォーカス型探触子を相対的に前記被検査管材の管軸方向と管周方向の2方向に移動させて探傷を行うことを特徴とする小径管の超音波探傷方法。
【請求項4】
前記ポイントフォーカス型探触子は、更に、
前記被検査管材の管軸方向に直交する横断面で、前記振動子と前記音響媒質とを、送信側と受信側とで2分割する音響分割面を備え、
前記2分割された前記振動子と前記音響媒質の一方で、超音波の送信を行ない、前記2分割された前記振動子と前記音響媒質の他方で、超音波の受信を行うことを特徴とする請求項3に記載の小径管の超音波探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−117875(P2012−117875A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266586(P2010−266586)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】