説明

少なくとも1種のレチノイド化合物と、少なくとも1種の抗刺激剤化合物とを含む組成物およびその使用

本発明は、式(I)のナフトエ酸誘導体、それらの塩およびエステルから選択される少なくとも1種のレチノイド化合物と、18β-グリシルレチン酸塩およびそれらの誘導体から選択される少なくとも1種の抗刺激剤化合物とを含有する生理学的に許容可能な媒体からなる局所用組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所適用のための組成物、およびこれらの化粧品または医薬品としての使用であって、前記組成物が特に座瘡の治療を目的とする組成物であるものに関する。
【背景技術】
【0002】
座瘡は、皮脂腺に富む皮膚(顔、肩甲骨部位、腕、および間擦部位)に影響を及ぼす多因子病変である。座瘡は、皮膚病の最もありふれた形態である。以下の5つの病原因子が座瘡の形成において決定的な役割を果たす:
1. 遺伝子的素因;
2. 皮脂の生産過剰(脂漏症);
3. アンドロゲン;
4. 膿疱性角化異常(面皰成因);および
5. 細菌のコロニー形成および炎症因子。
【0003】
さまざまな形態の座瘡が存在するが、いずれも毛包脂腺小胞が罹患することにおいて共通する。特に、集簇性座瘡、後頸部の座瘡ケロイド、薬物性座瘡、再発性座瘡汗疹、壊死性座瘡、新生児座瘡、月経前の座瘡、職業性座瘡、酒さ、老年性座瘡、太陽光線性座瘡、および尋常性座瘡が挙げられる。
【0004】
多型性若年性座瘡としても知られる尋常性座瘡が最も一般的である。座瘡は以下の4つの段階を含む:
− 段階1は、面皰性座瘡に相当し、多くの開いたおよび/または閉じた面皰ならびに小嚢腫を特徴とする。
− 段階2、すなわち丘疹性座瘡は、軽度から中等度の重症度である。この段階は、開いたおよび/または閉じた面皰ならびに小嚢腫を特徴とするが、赤い丘疹および小膿疱も特徴とする。この段階は、主として顔に影響を及ぼし、ほとんど傷跡を残さない。
− 段階3、すなわち丘疹性面皰座瘡は、より重症であり、背部、胸部、および肩部に広がる。この段階には、多数の傷跡が伴う。
− 段階4、すなわち結節性座瘡には、非常に多くの傷跡が伴う。この段階には、結節、および、痛みを伴う紫色の大きな丘疹が見られる。
【0005】
上述したさまざまな形態の座瘡は、活性剤〔例えば、抗脂漏剤および抗感染剤等、例えば、過酸化ベンゾイル(特に、Pierre Fabreによって販売されている製品Eclaran(登録商標))〕、レチノイド〔例えば、トレチノイン(特に、Galdermaによって販売されている製品Retacnyl(登録商標))またはイソトレチノイン(Laboratoires Rocheによって販売されている製品Roaccutane(登録商標))等〕、またはナフトエ酸誘導体類で治療することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アダパレンは、特に多くの場合に受け入れられる効果を示す。アダパレンの局所経路による忍容性は、同じ化学的な部類に属する競合品(トレチノイン、タザロテン)より良好であるが、さらに改良されることが有利かつ有用となるであろう。
【0007】
実際に、出願人会社は、驚くべきことに、アダパレンと、ある特定の抗刺激剤化合物との組合せが、顕著にこのレチノイドの忍容性を改善し、これによって炎症の問題を克服することを見い出した。これは、実施例2に示すように、特定の抗刺激剤が、アダパレンによって引き起こされる浮腫を最高で60%以上軽減させることを可能にするからである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明の主題は、組成物、特に医薬組成物、および好ましくは皮膚科学用の、特に局所適用のための組成物であって、生理学的に許容可能な媒体中に、下記式(I)のナフトエ酸誘導体、それらの塩およびそれらのエステルから好ましくは選択される少なくとも1種のレチノイド化合物と、18β-グリシルレチン酸塩およびその誘導体から選択される少なくとも1種の抗刺激剤化合物とを含む組成物である。
【0009】
有利には、本組成物は、レチノイド化合物(特にアダパレン)以外のいかなる脱色剤も含まない。
【0010】
用語「生理学的に許容可能な媒体」は、皮膚、粘膜、および/または表皮組織の増殖に適合する媒体を意味すると理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明によるレチノイド化合物は、全トランス型レチノイン酸(すなわちトレチノイン)、イソトレチノイン、またはモトレチニドから選択することができる。
【0012】
本発明によるレチノイド化合物は、好ましくは、式(I)のナフトエ酸誘導体、それらの塩およびそれらのエステルから選択される:
【化1】

(式中、Rは、水素原子、ヒドロキシル基、炭素原子1個〜4個を有する直鎖または分岐のアルキル基、炭素原子1個〜10個を有するアルコキシ基、または置換または非置換の脂環式基を表す)。
【0013】
用語「炭素原子1個〜4個を有する直鎖または分岐のアルキル基」は、メチル、エチル、プロピル、およびブチル基を意味すると理解される。
【0014】
用語「炭素原子1個〜10個を有するアルコキシ基」は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ、およびデシルオキシ基を意味すると理解される。
【0015】
用語「脂環式基」は、単環式基または多環式基、例えば、1-メチルシクロヘキシル基または1-アダマンチル基を意味すると理解される。
【0016】
用語「ナフトエ酸誘導体の塩」は、医薬品として許容可能な塩基〔特に、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水性アンモニア等)または有機塩基(例えば、リシン、アルギニン、またはN-メチルグルカミン等)〕で形成された塩、ならびに脂肪族アミン(例えば、ジオクチルアミン、アミノエチルプロパノール、およびステアリルアミン等)で形成された塩を意味すると理解される。
【0017】
用語「ナフトエ酸誘導体のエステル」は、医薬品として許容可能なアルコールで形成されたエステルを意味すると理解される。
【0018】
好ましくは、本発明の組成物に組み入れることができるナフトエ酸誘導体は、6-[3-(1-アダマンチル)-4-メトキシフェニル]-2-ナフトエ酸(アダパレン)、6-[3-(1-アダマンチル)-4-ヒドロキシフェニル]-2-ナフトエ酸、6-[3-(1-アダマンチル)-4-デシルオキシフェニル]-2-ナフトエ酸、または6-[3-(1-アダマンチル)-4-ヘキシルオキシフェニル]-2-ナフトエ酸から選択される。
【0019】
さらに好ましくは、本発明にしたがって用いることができるレチノイド化合物は、アダパレン、すなわち6-[3-(1-アダマンチル)-4-メトキシフェニル]-2-ナフトエ酸、その塩およびそのエステルから選択される。用語「アダパレンの塩」は、特に、医薬品として許容可能な塩基〔特に、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水性アンモニア等)または有機塩基(例えば、リシン、アルギニン、またはN-メチルグルカミン等)〕で形成された塩を意味すると理解される。
用語「アダパレンの塩」は、脂肪族アミン(例えば、ジオクチルアミン、アミノエチルプロパノール、およびステアリルアミン等)で形成された塩も意味すると理解される。
【0020】
好ましくは、レチノイド化合物は、アダパレンである。
【0021】
本発明にしたがって用いることができる抗刺激剤は、18β-グリシルレチン酸塩およびその誘導体である。これらの特定の抗刺激剤を用いると、レチノイド、特にアダパレンによって引き起こされる炎症を軽減することが可能になる。
【0022】
用語「18β-グリシルレチン酸塩」は、18β-グリシルレチン酸のカリウム塩、18β-グのナトリウム塩、リシルレチン酸塩18β-グリシルレチン酸のモノアンモニウム塩(アンモニウムグリシルレチネート)、18β-グリシルレチン酸スクシネート二ナトリウム塩、または18β-グリシルレチン酸ニカリウム塩を意味すると理解される。
【0023】
用語「18β-グリシルレチン酸塩の誘導体」は、特に、グリセロールと18β-グリシルレチン酸とのモノエステルを意味すると理解される。
好ましくは、抗刺激剤は、18β-グリシルレチン酸のカリウム塩である。
【0024】
本発明による組成物において、レチノイド化合物の濃度は、組成物の総重量の0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%、さらに好ましくは0.05〜2重量%である。本明細書において、特に指定されない限り、濃度範囲は、その範囲の上限および下限を含む。
【0025】
好ましくは、レチノイド化合物の濃度は、0.01重量%に等しい。あるいは、レチノイド化合物の濃度は、0.3重量%に等しい。
【0026】
抗刺激剤化合物の濃度は、その成分自体で、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜7重量%である。
【0027】
本発明による組成物は、局所適用のために通常用いられるいずれの形態で提供することもできる。特に、水性、水性/アルコール性、または油性の分散物の形態;ローションタイプの分散物の形態;水性の、無水の、または脂溶性のゲルの形態;脂肪相を水性相に分散することによって(O/W)、あるいはその逆(W/O)によって得られる、液体または半液体のミルクタイプのコンシステンシーを有するエマルションの形態;または、クリーム、クリームゲル、フォーム、または軟膏タイプの、柔らかな、半液体または固体のコンシステンシーを有する懸濁物またはエマルションの形態;マイクロエマルション、マイクロカプセル、マイクロ粒子、またはイオンタイプおよび/または非イオンタイプの小胞分散体の形態;またはスプレータイプの形態で提供することができる。
【0028】
好ましくは、本組成物を、ゲルの形態で提供する。
当業者であれば、本発明にしたがって、組成物を構成する賦形剤を、所望の製剤の形態に応じて、本発明による有利な効果が維持されるように考慮して適切に選択するであろう。
【0029】
加えて、本発明による組成物は、特に、以下の成分の1種以上を含むことができる:
a) 1種以上のゲル化剤または懸濁化剤、
b) 1種以上のキレート剤、
c) 1種以上の湿潤剤、
d) 1種以上の保存料。
【0030】
本組成物に組み入れることができるゲル化剤または懸濁化剤の非限定的な例としては、一般名称Carbopol(登録商標)の下で販売されているカルボマー;BF Goodrichによって名称Ultrez 10(登録商標)またはCarbopol ETD(登録商標)の下で販売されている、電解質に非感受性と言われているカルボマー;ポリサッカリド〔非制限的な例として、キサンタンガム(例えば、Kelcoによって販売されているKeltron T(登録商標)など)、グアーガム、キトサン、セルロース、およびセルロース誘導体(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、特に、Aqualonによって名称Natrosol HHX 250(登録商標)で販売されている製品)を含む〕;イソヘキサデカン中の40%分散物としての、ナトリウムアクリルアミドとアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホネートとのコポリマー;ならびに、ポリソルベート80(Seppicによって名称Simulgel 600(登録商標)で販売されているもの)を挙げることができる。
【0031】
好ましいゲル化剤としては、ヒドロキシエチルセルロース(特に、名称Natrosol HXX 250(登録商標)で販売されている)を挙げることができる。
【0032】
キレート剤としては、非限定的な例として、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、エチレンジアミンジ(o-ヒドロキシフェニル酢酸)(EDDHA)、(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミントリ酢酸(HEDTA)、エチレンジアミンジ(o-ヒドロキシ-p-メチルフェニル酢酸)(EDDHMA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、およびエチレンジアミンジ(5-カルボキシ-2-ヒドロキシフェニル酢酸)(EDDCHA)を挙げることができる。
【0033】
表面張力を低下させ、液体をより広く塗り広げる役割を有する、湿潤剤の非限定的な例として、好ましくは、例えばプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールジぺラルゴネート、ラウログリコール、およびエトキシジグリコールなどの化合物を単独でまたは混合物として用いることができる。さらに乳化剤としての役割で知られている化合物、例えば、Tween 80、グリセリルモノステアレートおよびPOEステアレート(Uniquemaによって名称Arlacel 165FL(登録商標)の下で販売されている)、ポリオキシエチレン(21)ステアリルエーテル(Uniquemaによって名称Brij 721(登録商標)の下で販売されているもの)、またはSynperonic、特にSynperonic PE/L62(ポロキサマー182)またはSynperonic PE/L44(ポロキサマー124))を挙げることができる。
【0034】
好ましい湿潤剤としては、プロピレングリコール、Synperonic PE/L62(ポロキサマー182)またはSynperonic PE/L44(ポロキサマー124))を挙げることができる。
【0035】
保存料の非限定的な例としては、安息香酸およびそのベンジルアルコールとの誘導体、ベンザルコニウムクロライド、安息香酸ナトリウム、ブロノポール、クロルヘキシジン、クロロクレゾールおよびその誘導体、エチルアルコール、フェネチルアルコール、フェノキシエタノール、ソルビン酸カリウム、ジアゾリジニル尿素、パラベン類(例えば、プロピルパラベンまたはメチルパラベン)を、単独または混合物として用いることができる。
【0036】
好ましい保存料としては、パラベン類、およびフェノキシエタノールまたはベンザルコニウムクロライドを、単独または混合物として挙げることができる。
本発明による組成物は、1種以上の乳化剤を含むことができる。
【0037】
界面活性乳化剤は、油への親和性を有する疎水性部分と、水への親和性を有する親水性部分とを有し、したがって2つの相の間に結合をもたらす両親媒性化合物である。イオン性または非イオン性の乳化剤が、界面で吸収され、かつ、液晶のラメラ層を形成することによって、油/水(水中油型)エマルションを安定化する。
【0038】
好ましい乳化剤として、湿潤剤としての特性について上述により言及した乳化剤、または、グルケートSSおよびグルカメートSSEタイプの脂肪親和性の乳化剤が挙げられる。
【0039】
本発明の組成物は、化粧品分野または医薬分野において通常用いられる任意の添加剤、例えば、中和剤、サンスクリーン、酸化防止剤、フィラー、電解質、着色剤、一般的な無機または有機の塩基または酸、香料、エッセンシャルオイル、化粧品用活性剤、保湿剤、ビタミン、必須脂肪酸、スフィンゴ脂質、日焼け剤化合物(例えば、DHA)、鎮静剤および皮膚保護剤、予備浸透剤、またはこれらの混合物をさらに含むことができる。もちろん、当業者であれば、これらの任意の追加の化合物および/またはその量を、本発明による組成物の有利な特性に悪影響を及ぼさないか、あるいは実質的に悪影響を及ぼさないように選択することができる。
【0040】
これらの添加剤は、本組成物の総重量に対して、0.001から20重量%の割合で存在していてよい。
【0041】
本発明の別の主題は、医薬としての、上述した組成物である。
【0042】
特に、本発明は、細胞分化および細胞増殖が関与する角化異常に関連する皮膚病変の治療および/または予防を目的とする医薬の製造における上述した組成物の使用、特に、尋常性座瘡、面皰性座瘡、丘疹性座瘡、丘疹性面皰座瘡、結節性座瘡、集簇性座瘡、後頸部の座瘡ケロイド、再発性座瘡汗疹、壊死性座瘡、新生児座瘡、職業性座瘡、酒さ、老年性座瘡、太陽光線性座瘡、および薬物性座瘡の治療を目的とする医薬の製造における上述した組成物の使用に関する。
【0043】
好ましくは、本発明は、尋常性座瘡の予防および/または治療を目的とする医薬の製造における、上述した組成物の使用に関する。
【0044】
好ましくは、本発明による前記組成物は、局所的に投与される。
【0045】
加えて、本発明は、座瘡への傾向がある皮膚の治療における、または皮膚または毛の油っぽい外観への対処における、本発明による組成物の美容的使用にも関する。
【0046】
以下の製剤例は、本発明に係る組成物を説明するものであるが、その範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0047】
[実施例1]:抗刺激剤溶液
使用する抗刺激剤を、特に指定しない限り、エタノール/水(50:50)賦形剤中、下記の表に示した濃度に製剤化する。下記の表は、各抗刺激剤について、実施例2で処置されるグループも表示する。
【0048】
【表1】

【0049】
グループ4は、以下の研究における陰性対照(negative control)として用いる。これは、以下の研究に示すように、抗刺激剤として知られているにもかかわらず、エノキソロンはレチノイドに起因する炎症に影響を及ぼさないからである。
【0050】
[実施例2]:BALB/cマウスに対するディフェリン(登録商標)ゲルの局所投与前の予防的処置における、さまざまな抗刺激剤の効果の評価;忍容性試験
本研究の目的は、0.1%のアダパレンを含む参照ゲルの炎症作用を、その処置に先だって抗刺激剤で処置する場合と処置しない場合について比較することである。
【0051】
この処置は、15のグループに分けたBALB/cマウス(約9週齢の雌性マウス)の右耳の内側の表面に、水性/アルコール性賦形剤〔エタノール50体積%および水50体積%〕中に製剤化された抗刺激剤を毎日局所的に適用(20μl)し、次いでディフェリン(登録商標)ゲル(0.1%のアダパレンを含む参照ゲル)を局所的に適用(20μl)することを、6日間にわたって各製剤を一日一回の適用の割合で行うことからなる。
【0052】
試験製品は以下のとおりである:
グループ1:未処置(対照)
グループ2:ディフェリン(登録商標)ゲル(参照ゲル)
グループ3:エタノール/水溶液(抗刺激剤のための水性/アルコール性賦形剤)、その後続けてディフェリン(登録商標)ゲル
グループ4:エノキソロン、その後続けてディフェリン(登録商標)ゲル
グループ5:18β-グリシルレチン酸のカリウム塩、その後続けてディフェリン(登録商標)ゲル。
【0053】
評価は、Oditestを使用した耳の厚さの測定によって、ならびに、第2日から第19日の動物の臨床的観察によって実施した。
【0054】
結果を、以下の表および図1に示す。
− 図1は、グループ1〜3(参照)およびグループ4および5についての、第2日から第19日のマウスの耳の平均厚さの動態を表す。
【0055】
これらの動態は、ディフェリン(登録商標)ゲル製剤単独には刺激性があり、水性/アルコール性賦形剤をこの製剤に加えても刺激性の程度が変化しない(グループ3)ことを明らかにしている。
エノキソロン(グループ4)は、ディフェリン(登録商標)ゲルによって引き起こされる炎症を軽減させる効果が実質的には全くない。
【0056】
一方、18β-グリシルレチン酸のカリウム塩を適用すると(グループ5)、ディフェリン(登録商標)ゲルによって引き起こされる炎症が顕著に縮小される。この軽減は60%以上である。
【0057】
【表2】

【0058】
この研究の結果は、BALB/cマウスに、20μlの抗刺激剤化合物溶液、次いで20μlのディフェリン(登録商標)ゲルを、第1日から第6日まで繰り返し適用した後において、
− ディフェリン(登録商標)ゲル製剤が刺激性である;
− エノキソロンには、ディフェリン(登録商標)ゲルによって引き起こされる炎症を軽減させる効果がない;
− 一方で、抗刺激剤である18β-グリシルレチン酸のカリウム塩は、炎症を63%軽減する
ことを明らかにしている。
【0059】
本実施例は、候補となる抗刺激剤の全てが、ディフェリン(登録商標)ゲルによって引き起こされる浮腫に関して同じ効果を有するわけでなないこと、および18β-グリシルレチン酸のカリウム塩のみがアダパレンに起因する炎症を軽減することを明らかにしている。
【0060】
本研究中に体重の減少が全く記録されていないことにも注目すべきである。
【0061】
[実施例3]:抗刺激剤を含むプラセボと併用したディフェリン(登録商標)ゲルと比較した、ディフェリン(登録商標)ゲル単独のライノマウスに対するコメド溶解活性の評価
本研究の目的は、ディフェリン(登録商標)ゲル(0.1%アダパレンを含む参照ゲル)のコメド溶解活性を、その処置の前に抗刺激剤で処置する場合と処置しない場合とで比較することである。
【0062】
この処置は、RHINO FVB/N RJ-hrrh(ライノ)マウス(約9週齢の雌性マウス)の背部の皮膚に、18日間にわたって、抗刺激剤18β-グリシルレチン酸のカリウム塩を含む水性/アルコール性賦形剤〔エタノール/水(50:50)〕を毎日局所的に適用し、次いで30分後にディフェリン(登録商標)ゲルを適用することからなる。
【0063】
試験製品は以下のとおりである:
グループ1:ディフェリン(登録商標)ゲル単独
グループ2:水性/アルコール性賦形剤、その後続けてディフェリン(登録商標)ゲルのプラセボ
グループ3:水性/アルコール性賦形剤、その後続けてディフェリン(登録商標)ゲル
グループ4:18β-グリシルレチン酸のカリウム塩、その後続けてディフェリン(登録商標)ゲル。
【0064】
図3に、上述した4つのグループに対して局所的な適用を18日間行った後の、ライノマウスの背部の1センチメートル(cm)当たりの面皰数の計数結果を示す。
【0065】
本研究の結果は、プラセボで処置した皮膚(グループ2)は、1センチメートル当たりの面皰数が高く、51〜60を示すことを明らかにしている。ディフェリン(登録商標)ゲルを単独で処置するか、先行してプラセボで処置した皮膚(グループ1および3)は、1センチメートル当たりの面皰数が同程度であるかまたは低く、3〜5を示す。
【0066】
抗刺激剤18β-グリシルレチン酸のカリウム塩であらかじめ処置した皮膚は、1センチメートル当たりの面皰数が、グループ1および3の面皰数と統計的に同等である。
【0067】
したがって、図3から、刺激剤18β-グリシルレチン酸のカリウム塩とディフェリン(登録商標)ゲルとを分割して処置する場合、ディフェリン(登録商標)ゲル単独のコメド溶解活性が低下しないことが分かった。
【0068】
最後に、18日間の局所的な適用の後、動物の体重が低下しなかったことに注目すべきである。
【0069】
この研究全体は、特定の18β-グリシルレチン酸のカリウム塩を、ディフェリン(登録商標)ゲルを用いる処置の前に適用することによっては、ディフェリン(登録商標)ゲルのコメド溶解活性が低下しないことを実証している。
【0070】
[実施例4]:アダパレン0.1%と抗刺激剤とを含むゲルタイプの製剤
【表3】

【0071】
[実施例5]:実施例4の製剤の忍容性の研究
忍容性試験を、実施例2のプロトコルにしたがって、実施例4の製剤を用いて行う。しかし、このケースは、アダパレンと抗刺激剤とが同じ製剤中に存在するため、実施例2とは対照的に分割しない処置に関する。
【0072】
第2日〜第19日の耳の厚さの動態の曲線下面積(AUC)の結果を、以下の表に示す。
【表4】

【0073】
[本研究の結論]
― ディフェリン(登録商標)ゲル0.1%は、曲線下面積を、プラセボゲルに対して45%増加させる。
― 抗刺激剤を用いた製剤は、プラセボゲルに対して曲線下面積を12%増加させる。
― ディフェリン(登録商標)ゲル0.1%に対して、製剤Aは20%刺激性が低い。
― 18β-グリシルレチン酸のカリウム塩は、効果的な抗刺激剤であるようである。これらの結果は、抗刺激剤を分割処置、すなわち、ディフェリン(登録商標)ゲル0.1%の適用前にする処置において評価した、実施例2の結果を支持している。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、グループ1〜3(参照)およびグループ4および5についての、第2日から第19日のマウスの耳の平均厚さの動態を表す。
【図2】図2は、第2日から第19日の浮腫に対するAUCのヒストグラムである。
【図3】図3は、4つのグループに対して局所的な適用を18日間行った後の、ライノマウスの背部の1センチメートル(cm)当たりの面皰数の計数結果を示す

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理学的に許容可能な媒体中に、
全トランス型レチノイン酸、イソトレチノイン、モトレチニド、ならびに式(I):
【化1】

(式中、Rは、水素原子、ヒドロキシル基、炭素原子1個〜4個を有する直鎖または分岐のアルキル基、炭素原子1個〜10個を有するアルコキシ基、または置換または非置換の脂環式基を表す)
のナフトエ酸誘導体、それらの塩およびそれらのエステルから選択される少なくとも1種のレチノイド化合物と、
18β-グリシルレチン酸塩およびその誘導体から選択される少なくとも1種の抗刺激剤化合物と
を含む組成物。
【請求項2】
式(I)の前記アルキル基が、メチル、エチル、プロピル、またはブチル基であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(I)の前記アルコキシ基が、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ、またはデシルオキシ基であることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
式(I)の前記脂環式基が、1-メチルシクロヘキシル基または1-アダマンチル基であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記レチノイド化合物が、アダパレン、6-[3-(1-アダマンチル)-4-ヒドロキシフェニル]-2-ナフトエ酸、6-[3-(1-アダマンチル)-4-デシルオキシフェニル]-2-ナフトエ酸、および6-[3-(1-アダマンチル)-4-ヘキシルオキシフェニル]-2-ナフトエ酸から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記レチノイド化合物が、アダパレンであることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記抗刺激剤化合物が、18β-グリシルレチン酸のカリウム塩であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
ゲル形態で提供されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
レチノイド化合物の濃度が、組成物の総重量の0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%、さらに好ましくは0.05〜2重量%であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
レチノイド化合物の濃度が0.1重量%に等しいことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
レチノイド化合物の濃度が0.3重量%に等しいことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
抗刺激剤化合物の濃度が、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜7重量%であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
医薬としての、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
細胞分化および細胞増殖が関与する角化異常に関連する皮膚病変の治療および/または予防を目的とする、特に、尋常性座瘡、面皰性座瘡、丘疹性座瘡、丘疹性面皰座瘡、結節性座瘡、集簇性座瘡、後頸部の座瘡ケロイド、再発性座瘡汗疹、壊死性座瘡、新生児座瘡、職業性座瘡、酒さ、老年性座瘡、太陽光線性座瘡、および薬物性座瘡の治療を目的とする医薬の製造における、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項15】
尋常性座瘡の治療および/または予防を目的とする医薬組成物の製造における、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項16】
座瘡への傾向がある皮膚の治療における、または皮膚または毛の油っぽい外観への対処における、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物の美容的使用。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−519303(P2009−519303A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545050(P2008−545050)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【国際出願番号】PCT/FR2006/051239
【国際公開番号】WO2007/071860
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(599045604)ガルデルマ・リサーチ・アンド・デヴェロップメント (117)
【Fターム(参考)】