説明

局部床義歯

【課題】着脱性、装着時の安定性、装着感、審美性、修復性に優れ、使用者への経済的な負担も小さい局部床義歯を提供する。
【解決手段】口腔内の歯の欠損部に装着する局部床義歯1を、義歯床2と、義歯床2に植設された人工歯3と、人工歯3と隣接する天然歯X1との隙間に相当する領域を基端部41として義歯床2から二股に分かれて延出するように形成されて義歯床2に隣接する1本の天然歯X1又は複数本の天然歯X1,X2のアンダーカット部UCを唇側面及び舌側面の両側から着脱可能に把持し且つアンダーカット部UCに係合する維持部とを備えた構成として、義歯床2と維持部は、熱可塑性樹脂により一体に形成し、維持部の内面側に、係合する天然歯X1,X2及びその周辺の口腔粘膜と接触する部位に、熱可塑性樹脂に一体的に固定した弾性材料からなる弾性部43,44を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる部分入れ歯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
部分的な歯の欠損を補うための装具として、局部床義歯(いわゆる「部分入れ歯」)が用いられている。局部床義歯は、口腔粘膜に接し局部義歯床の土台となる義歯床と、義歯床に埋設されて欠損した歯の代替として機能する人工歯と、残存している天然歯(残存歯)に係合する維持装置とを主として備えている。
【0003】
義歯床には、硬質で弾性が小さいか弾性がない素材であるアクリル樹脂や金属又はそれらを併用したものが一般的である。人工歯には、合成樹脂や陶材や金属が用いられている。維持装置は、義歯床に基部を埋設した鉤状の金属部材であるクラスプを残存歯に対して着脱可能に係合させるタイプのものが従来より多く利用されている。クラスプは、残存歯のサベイラインよりも下側のアンダーカット部に係合するように構成されているのが通例である。クラスプが局部床義歯の装着部位に隣接する残存歯から離れた位置にある複数の残存歯に係合する態様の場合は、各クラスプを繋げる連結子が設けられる場合もある。局部床義歯の装着は、義歯床を歯の欠損部の口腔粘膜に嵌め合わせつつ、維持装置であるクラスプを残存歯に係合させて義歯床の判定かを図ることで、口腔内で天然歯の代わりとして機能させ、咬合性の回復や残存組織の保護を図り、審美性を向上するものである。一方、局部床義歯を使用しない場合は、維持装置を残存歯から取り外すとともに義歯床を口腔粘膜から取り外すことで、口腔外へ取り出される。
【0004】
ところで、前述のようなクラスプを維持装置として用いた局部床義歯は、クラスプを係合させた残存歯の周辺で食物や唾液の流れが阻害され、食渣が停滞してプラーク付着の原因となる。また、硬質で弾力の乏しいアクリル樹脂製や金属製の義歯床は、着脱の必要性から、残存歯のサベイラインから下側のアンダーカット部まで延出させることができないため、義歯床と残存歯との間に必然的な隙間が生じてしまい、クラスプの存在とも相俟って、その隙間にはプラーク付着の原因となる。これらのような原因により、従前の局部床義歯の使用は、歯周組織の病変や残存歯と歯周組織の破壊の一因となる傾向がある。また、金属製のクラスプは、高精度の作製が困難であり、残存歯に対する係合度合いが強すぎれば着脱に痛みを伴ったり残存歯に過大な圧迫を与えることとなり、係合度合いが弱すぎければ義歯床の安定性が低下するなど、ちょうど良い装着性能のクラスプを備えた局部床義歯を得ることは難しいものであった。さらに、硬質な義歯床では、口腔粘膜に対して確実に密着させることは難しく、作製初期に使用者の装着部位に合わせたはずの義歯床が、使用期間を通じて装着部位に適合するとは言い難い。
【0005】
このような諸事情を改善する目的の局部床義歯として、シリコーンゴム等のゴム弾性体からなり残存歯のアンダーカット部に係合させる係合部と、この係合部と同様にゴム弾性体からなる義歯床と、義歯床に植設された人工歯とから構成されたものが案出されている(特許文献1参照)。この局部床義歯は、義歯床のゴム弾性体部分が人工歯の頬舌歯面側にそれぞれ存して歯肉に密着する支持部を有し、同じくゴム弾性体製の係合部が、隣接する残存歯の対向歯面の少なくともサベイラインからアンダーカット部に至る面に密着する維持部と、この維持部の両側から当該残存歯側にそれぞれ延出されその残存歯の頬舌歯面側の少なくともサベイラインからアンダーカット部に至る面に密着する把持部とを有する、という特徴をもったものである。なお同文献では、上述のような局部床義歯のバリエーションとして、義歯床におけるゴム弾性体の上部表面(すなわち、歯肉に密着しない人工歯側)にアクリル樹脂等の硬質樹脂や金属材料からなる補強部材を、積層又は埋設により設けた構成の局部床義歯も開示されている。この局部床義歯においては、義歯床や係合部を構成するゴム弾性体には、組成物の硬化性、取り扱い性、生体親和性に優れ、適度な弾力性、弾性復元力を有し、強度も強く、印象形態再現性にも優れた素材として、付加型シリコーンゴムが好適とされているが、縮合型シリコーンゴムや他の生体親和性のよいゴム弾性体を用いることができ、単一のゴム材料又は硬度の相違するゴム材料の組合せから形成することができる、とされている。
【0006】
同文献によれば、この局部床義歯は、義歯床のゴム弾性体部分を歯の欠落部位における口腔粘膜に密着させた支持部として機能させ、同じくゴム弾性体からなる係合部における維持部を義歯床の支持部とそれに隣接する残存歯との間に存在させることで隙間の形成を防ぎ、さらに把持部をゴム弾性体の弾性変形により残存歯のアンダーカット部に着脱可能に係合させることで、装着時の不調和を改善し、着脱を容易なものとし、口腔粘膜を保護できる、という利点を有するということである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−287998号公報(特許第3611088号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1に開示されている局部床義歯では、従来の維持装置として機能する係合部を、ゴム弾性体のみからなる維持部と把持部とから構成したものであるため、その弾性による上述のような利点があり、硬度は適宜選定されるとしても、長期間に亘って義歯としての維持力を維持させるには柔軟すぎるという問題がある。すなわち、このような局部床義歯では、その作製後および使用者による装着直後には、適切な維持状態が得られるとしても、使用後ある程度の時間が経過すると、維持力が徐々に弱まって緩い装着状態となってしまう可能性がある。さらにこのゴム弾性体からなる係合部の強度を向上しようとした場合、係合部自体を分厚くすることが考えられるが、それでは装着感や審美性が低下してしまう。また、義歯床の本体部分がゴム弾性体であると、いくら硬度の高いゴム弾性体を適用しても、安定的な咀嚼という観点からは柔らかすぎるきらいがある。その一方で、仮に同文献の局部床義歯の形状を、義歯床として一般に用いられている熱可塑性樹脂のみで作製した場合には、係合部が硬すぎて残存歯に係合させにくく装着感も低下するばかりか、繰り返し応力が作用することで熱可塑性樹脂が疲労し、破損や折損が生じる可能性が高いと考えられる。なお、特許文献1に記載の局部床義歯のように、義歯床と係合部との一体性という視点に立てば、係合部と義歯床の本体部分とは同一材料で構成しなければならない。
【0009】
また、同文献に開示されている局部床義歯において、係合部のうち特に把持部は、維持部の両側から残存歯側にそれぞれ延出してこの残存歯の頬舌面側の少なくともサベイラインより下側のアンダーカット部面に密着する構成とされているが、把持部の残存歯側への延出程度は、同文献では審美性と残存歯のアンダーカット部に対する係止具合を考慮して適宜選定される、と記載されてはいるものの、具体的な記載としては、局部床義歯の装着部位に隣接する残存歯の頬舌歯面のほぼ半分の幅程度のものが開示されているに過ぎない。このように、義歯床からの延出長が短い係合部であると、現実的には残存歯への係合力が小さすぎ、十分は維持力を発揮することは困難であると考えられる。このことは、前述のように係合部がゴム弾性体のみから構成されていることと相俟って、局部床義歯の弱い維持力(弱い装着状態)を招来することとなり、局部床義歯を適切に装着して使用することが困難になるおそれにつながる。このような種々の事情を考慮すれば、同文献に開示されている局部床義歯が適用できるのは、歯の部分欠損に関するケネディの分類による「片側性中間欠損」のうち1本またはせいぜい2本の欠損の場合において、欠損部の両側の残存歯にアンダーカット部が十分に存在する場合に限定されるものと考えられる。
【0010】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、主たる目的は、容易な着脱性を有しつつ確実な装着性が実現され、しかも耐久性能が高く種々の欠損パターンに対応することができる局部床義歯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る局部床義歯は、口腔内において天然歯の欠損部に装着して使用されるものであって、天然歯の欠損部に着脱可能に挿入されて口腔粘膜と接する義歯床と、欠損部における欠損した天然歯の代用として義歯床に植設された人工歯と、この人工歯と隣接する天然歯との隙間に相当する領域を基端部として義歯床から二股に分かれて延出するように形成されてこの義歯床に隣接する1本の天然歯又はその天然歯を含む複数本の天然歯のアンダーカット部を唇側面及び舌側面の両面側から着脱可能に把持し且つアンダーカット部に係合する維持部とを備えるものである。そして、本発明の局部床義歯においては、義歯床と維持部を熱可塑性樹脂により一体に形成し、さらに維持部の内面側には、係合対象となる天然歯及びその天然歯周辺の口腔粘膜と接触する部位に、熱可塑性樹脂に一体的に固定した弾性材料からなる弾性部を形成したものであることを特徴としている。
【0012】
すなわち、本発明の局部床義歯では、義歯床と維持部とを共通の熱可塑性樹脂により一体形成するとともに、維持部の内面側に弾性材料で構成される弾性部を熱可塑性樹脂に固定して形成している。しかも維持部は、欠損部に隣接する天然歯(残存歯)のアンダーカット部の幅方向全域か、あるいは欠損部に隣接する天然歯とさらにその横の1本以上の天然歯の合計2本以上の天然歯(残存歯)のアンダーカット部における幅方向全域を把持し且つ係合するように構成したものである。したがって、義歯床と維持部の強度については熱可塑性樹脂に担わせる一方で、局部床義歯の着脱時には維持部に形成した弾性部の弾性変形を利用するようにしている。つまり、局部床義歯の装着時には、維持部における弾性部が残存歯と密に当接することで弾性変形して残存歯のサベイラインを乗り越えてアンダーカット部を密着把持した状態でそのアンダーカット部に係合する。局部床義歯を取り外す際にはその逆に、維持部における弾性部が弾性変形することで残存歯のサベイラインを乗り越えることができるため、アンダーカット部に対する係合解除も容易に実現される。しかも維持部は、欠損部に挿入された義歯床に隣接する残存歯1本又は複数本を把持しそれらのアンダーカット部に係合するように義歯床から延出されたものであるため、装着時の安定性が非常に高くなる。さらに、義歯床を熱可塑性樹脂により構成しているため、咀嚼力に対しても十分な強度があり、耐久性も高いものである。
【0013】
したがって、本発明の局部床義歯の着脱時には、維持部における弾性部が弾性変形することで着脱の容易性が確保され、しかもその際に維持部の熱可塑性樹脂はほとんど変形することがない。そのため、維持部の全体が義歯床と共に熱可塑性樹脂で形成される場合と比較すると、本発明では、維持部の残存歯への係合を伴う着脱性が向上するだけでなく、維持部の熱可塑性樹脂部分の疲労が生じにくくなり、破損や折損のおそれが少なくなるため、局部床義歯の耐久性を向上させることができる。また、維持部(特許文献1においては係合部)が義歯床と一体のゴム弾性体から構成された従来の局部床義歯と比較すると、本発明の局部床義歯では、維持部の残存歯への係合及び係合解除については弾性部により容易性を確保しつつ、ゴム弾性体よりも硬質な熱可塑性樹脂により維持部全体としての強度を確保しており、さらに熱可塑性樹脂部分は残存歯のサベイラインを乗り越える際にほとんど広がらないので、維持部の耐久性も高いものとなる。また、本発明において維持部は、歯の欠損部に挿入される義歯床から対をなして延びる維持部が、義歯床に隣接する天然歯1本分の幅寸法又は2本以上分幅寸法に相当する延出長を有しているため、特許文献1に記載の局部床義歯における係合部と比較すれば、残存歯に対する維持力は極めて高いものとなる。
【0014】
なお、本発明において、局部床義歯の各部に用いられる素材は、義歯用材料として使用が認められるもののうち、本発明の要件を満たす適宜の材料が適用される。また、欠損部の両側に残存歯がある場合は、義歯床から歯列に沿って両側に一対ずつ維持部を形成すればよく、奥歯が欠損した場合など片側にしか残存歯がない場合には、維持部は歯列に沿って義歯床の片側だけに形成すればよい。さらに、欠損部が残存歯1本ないし2本を挟んで間欠的に生じている場合には、各欠損部に挿入される義歯床を複数形成し、各義歯床を連結する部分に維持部を形成するとともに、その反対側に残存歯が存在する場合には各義歯床からそれらの残存歯側にも維持部を形成することができる。すなわち、本発明の局部床義歯は、ケネディの分類における「両側性遊離端欠損」、「片側性遊離端欠損」、「中間欠損」、「前方歯中間欠損」やそれらを組み合わせた欠損パターンの何れにも対応することができるものである。例えば、両側性遊離端欠損のように、欠損部が歯列に沿って遠く離れている場合には、各欠損部にそれぞれ本発明の局部床義歯を装着するようにすればよい。
【0015】
特に、局部床義歯を装着した際に維持部を係合させる天然歯については、義歯床に隣接する残存歯にはアンダーカットがないか浅い場合があるため、本発明においては、維持部を、義歯床に隣接する天然歯とその天然歯に隣接する天然歯の2本の天然歯の幅寸法に相当する延出長をもって義歯床から延出させることが望ましい。なお、維持部を連続する3本以上の天然歯に係合させることも可能であるが、義歯床からの延出長が長すぎて装着感や維持力や審美性が低下すると考えられる場合があるため、維持部は連続した2本の天然歯に係合させることが最適である。
【0016】
また本発明では、義歯床と維持部を一体に構成する熱可塑性樹脂には、強度や審美性、生体適合性の観点からポリアミド樹脂又はポリカーボネート樹脂のうち何れか1種を適用することが好適である。
【0017】
さらに本発明において、維持部の弾性部を構成する弾性材料には、弾性シリコーン樹脂を適用することが望ましい。このような弾性シリコーン樹脂は、維持部の熱可塑性樹脂部分に対して適切な接着剤により固定することができる。弾性シリコーン樹脂には、例えば義歯用軟質裏装材として用いられる付加型又は縮合型のシリコーン樹脂を用いることができる。維持部の装着性や着脱性を考慮した場合、弾性シリコーン樹脂の硬度が比較的高ければ(弾性シリコーン樹脂が硬い場合)、残存歯のアンダーカット部に浅く係合するように弾性部を形成し、弾性シリコーン樹脂の硬度が比較的低ければ(弾性シリコーン樹脂が柔らかい場合)、残存歯のアンダーカット部に深く係合するように弾性部を形成することが適切である。また、このような弾性シリコーン樹脂を弾性部として適用した場合、例えば弾性部のみが摩耗したり劣化した場合であっても、局部床義歯全体を作り変えなくても、弾性部のみを取り替えたり修復したりすることが可能であるため、局部床義歯の使用者にとっては経済的な負担も低減する。この他、弾性部を構成する弾性材料には、義歯用軟質裏装材として用いられている弾性のあるアクリル系樹脂を適用することも可能であり、シリコーン樹脂よりも削りやすいという利点があるため、にアクリル系樹脂を削って装着具合の調整を行うことができるが、この点については弾性シリコーン樹脂であれば弾性が大きいため、装着具合の調整のために削る必要がほとんどないという相違がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明の局部床義歯は、熱可塑性樹脂により義歯床と維持部とを一体に形成し、維持部には弾性材料により弾性部を内面側に形成して、その維持部を欠損部に隣接する歯列に沿った1本以上の天然歯のアンダーカット部を把持して係合するように構成したものである。そのため、着脱性、装着時の安定性、装着感、審美性の何れにも優れ、さらには修復も容易なため使用者にも経済的な負担も小さいという、極めて有用な局部床義歯を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る局部床義歯を示す斜視図。
【図2】同実施形態の局部義歯床を内側から見た状態を示す斜視図。
【図3】同実施形態の局部床義歯を着脱する過程を示す斜視図。
【図4】同局部床義歯を着脱する過程を示す模式的断面図。
【図5】同局部床義歯を装着した状態を示す斜視図。
【図6】同局部床義歯を装着した状態を示す模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本発明の一例として図1及び図2に示すこの実施形態は、下顎右側の奥側から順に第二大臼歯と第一大臼歯が欠損した片側性遊離端欠損の類型に分類される欠損部Z(図3参照)に装着される局部床義歯1である。ここでは、下顎右側の第三大臼歯は無いものとする。すなわちこの局部床義歯1は、下顎右側第二大臼歯及び第一大臼歯の欠損部Zに挿入される義歯床2と、この義歯床に植設された2本の人工歯3(第二大臼歯の人工歯31と第一大臼歯の人工歯32)と、義歯床2から歯列に沿って二股に分かれて延出する維持部4とから構成される。義歯床2と維持部4とは一体に繋がっている。特に本実施形態では、維持部4を欠損した第一大臼歯に歯列に沿って隣接する2本の天然歯(残存歯)である第二小臼歯X1と第一小臼歯X2に、唇側面側と舌側面側の両面側から係合させるようにしている。
【0021】
この局部床義歯1は、歯科において印象材を用いて患者の口腔内の欠損部Z及びその周辺部の型取りがなされ、その型に応じて形成されるものであり、本実施形態において義歯床2は、下顎右側の第二大臼歯と第一大臼歯の欠損部Z及びその周辺の口腔粘膜Yの形状に対応して作製される。維持部4も同様に、本実施形態では下顎右側の第二小臼歯X1と第一小臼歯X2及びそれらの周辺の口腔粘膜Yの形状に対応して作製される。ここで、義歯床2と維持部4の一体形成は、熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂又はポリカーボネート樹脂を溶融状態で型に流し込み、流し込んだ樹脂を硬化させることで行われる。なお、樹脂の硬化前には欠損した第二大臼歯と第一大臼歯の代用となる人工歯31,32が植設される。各人工歯31,32は、合成樹脂、セラミック、金属等から選択される適宜の材料を用いて、義歯床2及び維持部4とは別途に予め作製される。義歯床2と維持部4の高さや厚みは、装着時の安定性や審美性、患者の装着感を考慮して適切に設定され、人工歯31,32の植設高さは適切な咬合具合を考慮して設定される。ポリアミド樹脂やポリカーボネート樹脂には、義歯用として一般的に用いられているものを採用することができ、審美性や患者の好みに応じて、口腔粘膜の色に近いピンク系統の色やそれに血管の模様を付したもの、あるいは透明のものなどを適宜利用すればよい。
【0022】
維持部4は、義歯床2に植設された大一大臼歯の代用となる人工歯32と天然歯である第二小臼歯X1との隙間に相当する領域を基端部41として二股に分かれ、第二小臼歯X1と第一小臼歯X2の唇側面側及び舌側面側の両面側に歯列に沿って義歯床2から連続的に延出する一対のアーム部42,42と、各アーム部42,42の内面側(第二小臼歯X1と第一小臼歯X2を向く面)に形成した弾性部43とから構成される。なお、各図において弾性部43には、網掛けを付して表現している。
【0023】
アーム部42,42は、相互に対向しつつ義歯床2と基端部41から連続して延出された部位であり、図3に示すように、その延出長は本実施形態においてはそれぞれ、第二小臼歯X1と第一小臼歯X2の唇側面側及び舌側面側の合計幅寸法に相当するように設定されている。そして各アーム部42,42の上端部は、第二小臼歯X1と第一小臼歯X2の唇側面側及び舌側面側それぞれのサベイラインSL(最も膨出している部分を繋いだ曲線)に沿って、もしくはサベイラインSLよりもわずかに上方に沿って設定している。したがって、図3、図6に示すように、アーム部42,42は、第二小臼歯X1と第一小臼歯X2の唇側面側及び舌側面側それぞれのサベイラインSLよりも下側のアンダーカット部UCと、第二小臼歯X1と第一小臼歯X2の歯頸部の口腔粘膜の唇側面側及び舌側面側の一部を覆い隠すこととなる。なお、図5では、アンダーカット部UCに網掛けを付して表現している。
【0024】
図4に示すように、このようなアーム部42,42の内面側、すなわち第二小臼歯X1と第一小臼歯X2の唇側面及び舌側面のアンダーカット部UCとそれぞれ対向する部位ならびに歯茎部の口腔粘膜と対向する部位に、弾性部43を形成している。弾性部43は、本実施形態においては、付加型弾性シリコーン樹脂から構成している。弾性部43の形成に際しては、印象材で型を作る際に、その型においてアーム部42,42となる部位のうち上述の弾性部43を形成すべき部位を本来よりもやや分厚く加工することでアーム部42,42の厚みを若干薄めに形成し、当該部位に適宜の義歯用接着剤を塗布したうえで弾性シリコーン樹脂を塗布し乾燥させる方法や、型どおりにアーム部42,42を形成しておき、そのアーム部42,42において弾性部43を形成すべき部位を薄く削り取り、その削り取った部位に適宜の義歯用接着剤を塗布したうえで弾性シリコーン樹脂を塗布し乾燥させる方法などを採用することができる。
【0025】
なお、本実施形態の場合、図1、図2、図3に示すように、第二小臼歯X1には唇側面や舌側面と同様に、欠損した大一大臼歯と向き合っていた面にもサベイライン及びアンダーカット部が存在する。そのため、本実施形態では、維持部4の基端部41においては、第二小臼歯X1の大一大臼歯と向き合っていた面におけるアンダーカット部と対向する面と、そのアンダーカット部と連続する第二小臼歯X1の歯頸部の口腔粘膜と対向する面にも、アーム部42,42に形成した弾性部43と同様の弾性部44を形成している。各図においては基端部41における弾性部44にも網掛けを付して表現している。また、本実施形態では、維持部4におけるアーム部42,42は、延出方向中間部を第二小臼歯X1と第一小臼歯X2との間に回り込ませるとともに、延出方向先端部を第一小臼歯X2とそれに隣接する犬歯X3との間に回り込ませるように形成しており、そのアーム部42,42の形状に応じて弾性部43を形成しているため、弾性部43は、第二小臼歯X1と第一小臼歯X2の唇側面と舌側面のアンダーカット部UCだけでなく、側面の一部のアンダーカット部にも係合することになる。
【0026】
以上のような構成の本実施形態の局部床義歯1を装着する際には、図5にその過程の様子を示すように、義歯床1を欠損部Zに挿入してその口腔粘膜に密着させるとともに、維持部4を第二小臼歯X1と第一小臼歯X2に係合させる。その際、維持部4においてアーム部42,42に形成した弾性部43は、図6に示すように、第二小臼歯X1と第一小臼歯X2のサベイラインSLを乗り越える際に押し潰されるように圧縮された状態となり、サベイラインSLを乗り越えた後は圧縮状態からやや復元してアンダーカット部UCと歯頸部及び口腔粘膜Yに密着することとなり、その結果、一対のアーム部42,42が第二小臼歯X1と第一小臼歯X2の唇側面と舌側面を挟んで把持しつつ係合する。また、維持部4の基端部41に形成した弾性部44も同様に、第二小臼歯X1のサベイラインを乗り越える際に押し潰されるように圧縮された状態となり、サベイラインSLを乗り越えた後は圧縮状態からやや復元してアンダーカット部と口腔粘膜に密着する。このように、維持部4において弾性シリコーン樹脂からなる弾性部43,44が弾性変形しつつ第二小臼歯X1と第一小臼歯X2と係合することで、維持部4の基端部41及びアーム部42,42の熱可塑性樹脂部分はほとんど変形することがない。一方、局部床義歯1を取り外す際にも、第二小臼歯X1と第一小臼歯X2のアンダーカット部UCと密着して係合状態にあった維持部4の弾性部43,44が弾性変形しつつサベイラインを乗り越えるので、維持部4を容易に第二小臼歯X1と第一小臼歯X2から係合解除させて局部床義歯1を取り外すことができる。すなわち、特に義歯床4に片持ちされたアーム部42,42は、外面側には変形を来すことなく内面側の弾性部43による弾性変形だけで、第二小臼歯X1と第一小臼歯X2に対して容易且つ確実に係合し維持状態を保持でき、または逆に係合解除させることもできる。
【0027】
なお、弾性部43,44は、熱可塑性樹脂で形成されたアーム部42,42や基端部41に接着剤を利用して固定したものとしているので、試装着時に弾性部43,44が厚すぎて患者が違和感を訴える場合には、弾性部43,44の表面を薄く削り取ればよく、弾性部43,44が薄いために十分な維持を図ることができない場合には、弾性部43,44の表面に薄く弾性シリコーン樹脂を塗布して適宜の厚さの弾性部43,44となるように調整すればよい。また、弾性部43,44の弾性が低下したり劣化した場合であっても、アーム部42,42や基端部41から弾性シリコーン樹脂と接着剤を削ぎ落とし、再度新しい弾性シリコーン樹脂を接着すれば、比較的容易に局部床義歯1を修復することができる。
【0028】
以上の結果、本実施形態の局部床義歯1は、歯の欠損部Z及び残存歯への着脱を容易なものとしつつ装着時の維持力の安定性(維持性)を確実なものとし、装着感や審美性も良好であり、調整や修復も容易に行うことができ、維持部4の熱可塑性部分が疲労して損傷しにくいものであるため耐久性が高く、使用者にも経済的な負担が小さいという、多くの利点を有する局部床義歯1として提供することが可能である。
【0029】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、欠損部の両側に天然歯が残っていれば、義歯床本体の歯列に沿った両側に各一対のアーム部を有する維持部を形成することができる。また、維持部の義歯床からの延出長は、隣接する残存歯1本分としてもよいし、その残存歯のアンダーカット部が係合には不十分であれば上述した実施形態のように残存歯2本分もしくはそれ以上の本数分とすることもできる。さらに、歯の欠損部が残存歯を挟んで両側に存在している場合には、各欠損部に対応する義歯床を複数間欠的に形成し、それらの間の残存歯を挟む格好で維持部を形成して義歯床同士を連結させ、さらに可能であれば各義歯床から間の残存歯とは反対側の残存歯に係合させるための維持部を形成するように局部床義歯を構成することもできる。このように、本発明によれば、歯の欠損状態を表すケネディの分類の各種パターンに応じた局部床義歯を提供することができる。その他、各部の具体的構成や素材、形状についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
1…局部床義歯
2…義歯床
3(31,32)…人工歯
4…維持部
41…基端部
42…アーム部
43,44…弾性部
SL…サベイライン
UC…アンダーカット部
X1,X2…天然歯(残存歯として、第二小臼歯、第一小臼歯)
Y…口腔粘膜
Z…欠損部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内において天然歯の欠損部に装着して使用される局部床義歯であって、
前記欠損部に着脱可能に挿入されて口腔粘膜と接する義歯床と、
前記欠損部における欠損した天然歯の代用として前記義歯床に植設された人工歯と、
前記人工歯と隣接する天然歯との隙間に相当する領域を基端部として前記義歯床から二股に分かれて延出するように形成されて当該義歯床に隣接する1本の天然歯又は当該天然歯を含む複数本の天然歯のアンダーカット部を唇側面及び舌側面の両側から着脱可能に把持し且つ当該アンダーカット部に係合する維持部とを具備し、
前記義歯床と前記維持部は、熱可塑性樹脂により一体に形成されたものであり、
前記維持部の内面側において、係合対象となる天然歯及び当該天然歯周辺の口腔粘膜と接触する部位に、前記熱可塑性樹脂に一体的に固定した弾性材料からなる弾性部を形成していることを特徴とする局部床義歯。
【請求項2】
前記維持部は、前記義歯床に隣接する天然歯と当該天然歯に隣接する天然歯の2本の天然歯の幅寸法に相当する延出長を有している請求項1に記載の局部床義歯。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂又はポリカーボネート樹脂から選択される何れか1種である請求項1又は2の何れかに記載の局部床義歯。
【請求項4】
前記弾性部を構成する弾性材料は、弾性シリコーン樹脂である請求項1乃至3の何れかに記載の局部床義歯。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−61061(P2012−61061A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206148(P2010−206148)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(510247700)
【Fターム(参考)】