説明

局部麻酔および/または疼痛緩和のための、揮発性麻酔剤を送達するための方法

本発明は、ハロゲン化エーテル化合物等の揮発性麻酔剤を、例えばくも膜下腔内または硬膜外に、疼痛を軽減するのに有効な量で送達することにより、そのような疼痛軽減を必要とする対象において疼痛を軽減する方法を提供する。慢性痛または急性痛を治療することができる、または、手術前に対象を麻酔するために対象に麻酔剤を送達することができる。特定の態様においては、イソフルラン、ハロタン、エンフルラン、セボフルラン、デスフルラン、メトキシフルラン、キセノン、およびこれらの混合物を使用することができる。一回投与、連続的および/または周期的投与を含む投与計画が企図される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年9月20日に出願された米国特許仮出願第60/846,293号および2007年6月29日に出願された米国特許仮出願第60/947,219号について優先権を主張し、その全開示が権利放棄することなく全体として参照により具体的に本明細書に組み入れられる。
【0002】
1.発明の分野
本発明は概して麻酔および疼痛管理の分野に関する。より具体的には、本発明は、疼痛軽減または麻酔を必要とする対象に、揮発性麻酔剤を含む溶液を局部的に送達することにより疼痛を軽減する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
数百万の人々が疼痛に苦しんでいる。疼痛は、頭痛、急性腰痛、および急性筋肉痛等の軽度なもの、または慢性痛等の重篤なものであり得る。慢性痛は癌治療、HIV、糖尿病、または他の状態と関連し得る。慢性痛は治療することが困難な場合もあり得、慢性痛に苦しむ多くの者が、現行の疼痛薬では彼らの疼痛が十分に制御されない、または彼らの疼痛薬には、付随する顕著な有害作用(例えば、悪心および嘔吐、依存性、耐性等)があると述べている。
【0004】
慢性痛管理の問題に取り組む試みで、くも膜下腔内輸液ポンプおよび神経刺激器が開発されている。くも膜下腔内輸液ポンプは、連続的またはほぼ連続的な液体麻酔剤および/または鎮痛剤の送達を目的としている。これらの輸液ポンプの多くは完全に埋め込み可能であり、外部のシステムを長期にわたって使用する場合と比べて、感染の危険の低減に役立つ。輸液ポンプはまた、患者またはその臨床医が投与量または日々の送達スケジュールを調節できるようプログラム可能であってもよく、患者の変化する要求への対処に役立つ。
【0005】
神経刺激器は多様な形状のものが入手可能であり、神経を刺激して疼痛を緩和する。くも膜下腔内ポンプおよび神経刺激器はいずれも、時間と共に治療の効果が減るという耐性の開始を含む欠点を有する。さらに、くも膜下腔内ポンプも神経刺激器も、手術前に患者を麻酔するのには適していない。
【0006】
麻酔または鎮痛を誘導するための種々の取り組みが公知である。全身麻酔剤の送達は患者を意識不明にし、かつ手術に気付かなくさせる。対照的に、麻酔剤は、患者の体の一部分のみを麻酔するために局部的、例えば、脊椎に、硬膜外に、または神経ブロックにおいては神経付近に適用してもよい。全身麻酔において、全身麻酔剤の患者への手術前の送達は、典型的には麻酔剤の初期静脈内注射の使用に続いて、挿管および吸入可能な麻酔ガスの投与により行われる。全身麻酔の作用機序が依然として完全には理解されていないことは注目に値する。
【0007】
全身麻酔の投与により少なからぬ負の副作用が生じ得る。上気道に外傷を生じ得る大きな管を気管内に配置する必要がある。多くの患者が術後の嗄声、ならびに口および喉の圧痛を報告している。加えて、体に漲らせて標的の器官に達するために必要とされる大量のガスは、標的でない器官、特に心臓において、全身麻酔中の心肺罹患のリスクの増加という有害作用を有し得る。特に高齢者において、全身麻酔後の長期の認知機能障害について実質的な証拠が存在する(Mollerら、1998年)。さらに、全身麻酔と比べ局部麻酔技術は、心肺性の要因による全罹患率および死亡率をより低くすると考えられる(Rasmussenら、2003年;Rogersら、2000年)。
【0008】
明らかに、疼痛管理および局部麻酔のための改善された方法に対するニーズが存在する。さらに、疼痛の処置または手術手技で使用するために、ハロゲン化エーテルまたは揮発性麻酔剤等の麻酔剤を送達するためのさらなる方法に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、そのような疼痛軽減を必要とする、ヒトもしくは動物患者、またはマウスもしくはラット等の実験動物等の対象において、麻酔剤を投与して疼痛を軽減するための新しい方法を提供することにより、従来技術の制限を克服する。該方法は、患者への、慢性痛または急性痛を軽減するために効果的な量の水溶液中の揮発性麻酔剤の、くも膜下腔内もしくは硬膜外送達等の局所的または局部的送達を好ましくは含む。特定の態様では、手術前に対象を麻酔するように麻酔剤を対象に送達してもよい。本明細書において使用される「疼痛軽減」という文言が、麻酔、鎮痛、および/または、例えば、部分的な神経伝達ブロック(nerve conduction block)を介した疼痛知覚に伴う神経インパルスの抑制の結果として生じる疼痛軽減を包含することを意図していることが理解されるべきである。
【0010】
本発明は、局部麻酔のための従前使用されてきた方法に対して幾つかの実質的な利点を有する。これらの利点には以下が包まれる:(1)本発明の揮発性麻酔剤は迅速に滴定可能であり、そのため本発明に従った揮発性麻酔剤の投与により非常に素早く鎮痛または局部麻酔を開始し得る。(2)本発明は投与後の麻酔剤の素早い消散を可能にし、そのため麻酔または鎮痛を迅速に終結させ得る。施術者にとっては局部麻酔または鎮痛の投与を所望通りに素早く変更することが望ましい可能性があるので、これらの特性は施術者にとりわけ価値がある。(3)現在局部麻酔に使用されている特定の薬物は、耐性、薬物相互作用、逆説的反応等を含む様々な理由により、種々の個体に効果的に使用されない可能性がある。加えて、(4)オピオイドは耐性、薬物相互作用、および依存性等を含むある種の不都合を有しているので、本発明の揮発性麻酔剤は、概して、施術者に種々の利益をもたらす非オピオイド化合物である。
【0011】
本発明の一局面は、対象に、溶液中に溶解された揮発性麻酔剤を、疼痛を軽減するために有効な量で局部的または局所的に送達する段階を含む、そのような疼痛軽減を必要とする対象において疼痛を軽減する方法に関する。好ましい態様において、静脈内送達は全身麻酔を引き起こす可能性があり、これは本発明から特に排除されるわけではないが好ましい局面ではないので、麻酔剤は、静脈内以外の経路により送達される。好ましい揮発性麻酔剤は、薬学的に許容される水溶液中に溶解されたハロゲン化エーテル麻酔剤である。麻酔剤は好ましくは、例えば、慢性痛または急性痛を緩和するため、くも膜下腔内、硬膜外、または、神経ブロック手段により送達され得る。
【0012】
特定の態様において、溶液中の揮発性麻酔剤は手術前に対象の一部分を麻酔するために送達される。好ましい態様において、揮発性麻酔剤は、イソフルラン、ハロタン、エンフルラン、セボフルラン、デスフルラン、メトキシフルラン、およびこれらの混合物からなる群より選択されるハロゲン化揮発性麻酔剤であり、特にイソフルランが好ましい。イソフルラン溶液等の溶液は、約5ng/ml溶液から約100ng/ml溶液の濃度で調製され得る。溶液は、約5%から約75% v/v、約10%から約50% v/v、または約10% v/vの麻酔剤を溶液中に含み得る。麻酔剤はイソフルランであり得、かつ/または、溶液は人工脳脊髄液であり得る。硬膜外またはくも膜下腔内に投与された場合、脊髄液中の活性物質は約250ng/mlから約50,000ng/mlの濃度に達することが望ましい。活性物質の送達は、連続的、周期的、一回限りの事象であり得る、または、活性物質は別々の場合において周期的および連続的の両方で対象に投与され得る。軽減は、対象の体の一部分の疼痛知覚の除去を含み得る。
【0013】
好ましくは、溶液は非経口投与が意図されているので、揮発性麻酔剤を含む水溶液は無菌である。これは、全ての出発材料が無菌であり、かつ投与前にそれらを無菌条件下で維持することを確実にすることにより達成できる。基礎をなす水溶液に関しては、溶液の性質は決定的なものとは考えられておらず、生理食塩水等の溶液、または人工脳脊髄液等の、天然体液を模倣するように製剤化された溶液さえも企図される。しかしながら、本発明の溶液に脂質乳剤等の水中油型乳剤を含めないことが非常に好ましい。
【0014】
本発明のさらに別の局面は、本発明の麻酔剤溶液を含む密封容器を含む。容器の内側は無菌でもよい。容器は注射針によって容易に刺し通すことができるゴム栓を含んでもよい。容器はシリンジのチャンバー部を含んでもよい。容器は点滴チャンバー(drip chamber)を含んでもよい。点滴チャンバーはカテーテルに連結されていてもよい。カテーテルは硬膜外カテーテルまたはくも膜下腔内カテーテルであり得る。容器はプラスチック袋、ガラス瓶、またはプラスチック瓶であり得る。容器は輸液ポンプに連結されていてもよい。輸液ポンプはくも膜下腔内ポンプ、硬膜外送達輸液ポンプ、または患者管理鎮痛法(PCA)ポンプであり得る。輸液ポンプはプログラム可能であってもよい。
【0015】
請求項および/または明細書中で使用される場合、「抑制する」、「軽減する」、もしくは「予防」という用語、またはこれらの用語の任意のバリエーションは、所望の結果を達成するための任意の測定可能な減少または完全な抑制を含む。
【0016】
明細書および/または請求項中で使用される「有効な」という用語は、所望の、期待される、または意図される結果を達成するために適当であることを意味する。
【0017】
請求項および/または明細書中で「含む」という用語と共に使用される場合、「一つの(a)」または「一つの(an)」という単語の使用は「一つ」を意味し得るが、「一つまたは複数」、「少なくとも一つ」、および「一つまたは一つより多い」という意味とも一致する。
【0018】
本発明の任意の方法または組成物に関して、本明細書中で考察される任意の態様を実行することができ、かつ逆も同じであることが企図される。さらに、本発明の組成物は本発明の方法を達成するために使用され得る。
【0019】
本出願全体にわたり、「約」という用語は、値を決定するために採用される装置、方法についての固有の誤差、または検討対象の間に存在する変量を、値が含むことを示すために使用される。
【0020】
請求項中の「または」という用語の使用は、明確に二者択一のみを指すことを示すか、または二者択一および「および/または」のみを指す定義を開示が支持しているにもかかわらず二者択一が相互に矛盾するかでない限り、「および/または」を意味するように使用される。
【0021】
本明細書および請求項中で使用される、「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」等の「含む」の任意の型)、「有する(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」等の「有する」の任意の型)、「含む(including)」(ならびに「含む(includes)」および「含む(include)」等の「含む」の任意の型)、または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」および「含有する(contain)」等の「含有する」の任意の型)という単語は、包括的、またはオープンエンド式(open-ended)であり、かつ追加の、言及されない要素または方法工程を排除しない。
【0022】
本発明のその他の目的、特色、および利点は以下の詳細な説明により明らかとなるであろう。しかしながら、詳細な説明により、本発明の精神および範囲内の種々の変化および変更が当業者には明らかとなるであろうことから、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の具体的な態様を示すものではあるが例示のためのみに示されることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】対象に麻酔ガスを送達するための一般的な方法を描くフローチャート。
【図2】ホットプレート試験を用いて測定された、イソフルラン溶液のくも膜下腔内投与による疼痛の抑制。
【図3】くも膜下腔内における人工脳脊髄液(ACSF)中のイソフルランを用いた疼痛の抑制。イソフルラン1.46mgの用量のイソフルラン-ACSF投与後の、ホットプレートからの足引っ込めの時間経過が示される。
【図4】イソフルラン-ACSFのくも膜下腔内注射から10分後の時点における、投与量ごとの最大可能効果(MPE)の刺激応答(SR)グラフが示される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
本発明は、そのような疼痛軽減を必要とする対象における、疼痛を軽減するための方法を提供する。具体的には、通常は揮発性麻酔剤は全身麻酔処置の間吸引されるが、本発明者らは、揮発性麻酔剤を溶液中に溶解し、局部的または局所的に(例えば、くも膜下腔内、硬膜外、もしくは神経ブロックにおいて)、疼痛知覚を抑制またはブロックするために送達し得ることを発見した。一般に、該方法は、疼痛を軽減するために効果的な量で対象にハロゲン化エーテル麻酔剤を送達することを含み得る。本発明は慢性痛または急性痛の疼痛管理に使用し得る。他の態様において、手術前に対象の少なくとも一部分を麻酔するために麻酔剤は対象に送達され得る。
【0025】
麻酔剤
一般に、記載の方法での使用に適したハロゲン化エーテル麻酔剤または揮発性麻酔剤は、室温で大抵液体であるが簡単にガス状になることが可能であるか、または室温で既にガス状であり、かつ例えば有意な副作用を伴わずに疼痛を軽減できる薬剤を含む。例えば、体によって最小限にしか代謝されないか、またはそうでなければ不活性である麻酔剤を選択することが望ましい可能性がある。こうすることによって肝臓および腎臓毒性が最小限にされ得る。同様に、麻酔剤は短い半減期を有するか、またはタイトレイタビリティ(titratability)を促進する即効性(即ち、対象が体験している疼痛の量に対して彼または彼女が簡単に送達量を調整できる)であることが望ましい可能性がある。耐性を生じない(オピオイドまたは局所麻酔剤と異なる)、または依存性(オピオイドのような)を生じない活性物質ガスもまた望ましい可能性がある。
【0026】
揮発性麻酔剤は麻酔剤の周知の分類であり、ハロゲン化エーテル化合物、イソフルラン、セボフルラン、ハロタン、エンフルラン、デスフルラン、メトキシフルラン、およびジエチルエーテルを含む。特定の態様では、本発明においてキセノンを用いてもよい。上記麻酔剤のうちの単一の麻酔剤または混合物は本明細書に記載される方法における使用に特に好適であり得る。
【0027】
種々の態様において、本発明においてガス麻酔剤を用いてもよい。例えば、ガス麻酔剤を本発明に従った溶液に溶解して、硬膜外、くも膜下腔内、または神経ブロック手段の局部的もしくは局所的麻酔手段で投与してもよい。ハロゲン化麻酔剤以外のガス麻酔剤が企図され、例としてはキセノン、亜酸化窒素、シクロプロパン、およびエーテルが含まれる。種々の態様において、他の生物学的に活性なガス(例えば、一酸化窒素等)を、本発明に従って溶液の状態で対象に送達してもよい。
【0028】
一種類以上の麻酔剤を一度に投与してもよく、異なる麻酔剤を単一の治療サイクルを通して種々の時間に投与してもよい。例えば、2、3、4、またはそれ以上の麻酔剤を対象に同時または反復的に投与してもよい。化合物が反復的に対象に投与される場合、化合物投与間の時間は約1〜60秒、1〜60分、1〜24時間、1〜7日、1〜6週間、もしくはそれ以上、またはこれらから導き出される任意の範囲であり得る。いくつかの場合において、その物理的および生理学的特性に依存して、異なるハロゲン化エーテル化合物の送達を計画的に実施することが望ましい可能性がある。
【0029】
投与
例えばくも膜下腔内または硬膜外に投与される麻酔剤の量は、所望の特定の効能に依存する。例えば、用量は、治療することが意図される疼痛の型に依存すると考えられる。例えば、麻酔剤の送達により急性痛ではなく慢性痛を軽減することを意図する場合、用量は異なり得る。同様に、活性物質が対象を麻酔する(局所的または全身的に)ために使用される場合、用量は異なり得る。適切な投与量の決定には、対象の身体的特徴もまた重要であり得る。体重、年齢等のような特徴は重要な要因であり得る。例えば、揮発性麻酔剤イソフルランの場合で証明されているように、麻酔剤は年齢に従って増加した効能を有し得る。
【0030】
多くの麻酔剤の溶解性は麻酔剤および/または水溶液の温度により影響され得るので、揮発性麻酔剤の温度もまた、適当な用量を選択する上での要因と考えられ得る。例えば、温度の上昇は活性物質の溶解性、従って効能を増加させ得る。この特性は特定の麻酔剤について証明されている。特定の投与量は選択された投与計画にも依存し得る。例えば、活性物質は連続的または周期的に送達され得る。反対に、活性物質は一回限りの事象として単一投与で投与され得る。
【0031】
選択された麻酔剤および所望の効果に依存して、揮発性麻酔剤(例えば、ハロゲン化麻酔化合物)は、約250から約50,000ナノグラム/mlの範囲内の脊髄液レベルに導かれる量で注入され得る。特定の態様において、ハロゲン化麻酔剤または揮発性麻酔剤は、約5から約500,000ナノグラム/mlの脳脊髄液(CSF)濃度に達するよう投与され得る。選択される化合物および患者の多様性に依存して用量範囲は変動し得るが、約0.01から約10,000ナノグラム/ml等のより低い用量が、軽度から中程度の疼痛を治療するのにより適する一方、約10000ナノグラム/mlから約500,000ナノグラム/mlまたはそれ以上等のより高い用量が重篤な疼痛を治療し、かつ麻酔を誘導するために適することは概して真実である。当然ながら、用量は一度(軽度の一度の疼痛の発生について)、反復的(中程度または慢性痛について)、または連続的(重度の疼痛または麻酔目的について)に与えられ得る。これらの投与計画の組み合わせもまた用いられ得る。例えば、重度の疼痛に苦しむ対象には、突出痛のための周期的な追加的投与による連続的な投与が必要であり得る。
【0032】
麻酔剤(例えば、揮発性麻酔剤、イソフルラン等)が、食塩水または人工CSF溶液等の溶液と混ぜられた態様においては、揮発性麻酔剤の濃度は変動し得る。例えば、溶液は、v/v比で約1から約99%、約10から約75%、約10から約50%、約20から約50%、約50%、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%、約10%、約5%、またはそれらから導き出せる任意の範囲の麻酔剤を含有し得る。これらの態様において、麻酔剤はイソフルラン等の揮発性麻酔剤であり得、かつ溶液は人工脳脊髄液(ACSF)溶液であり得る。
【0033】
種々の態様および以下の実施例で示されるように、イソフルラン等の約10%の揮発性麻酔剤の溶液を用いることができる。この溶液は、鎮痛および/または麻酔を達成するために、ボーラス注射で、連続的に、および/または反復的に投与され得る。従って、以下の実施例で証明されるように、揮発性麻酔剤の10% v/v溶液を、鎮痛を誘導するために用いてもよい。局部麻酔を誘導するために、種々の態様において、揮発性麻酔剤のより高い濃度を用いてもよい。
【0034】
活性物質の送達の方法
本発明の麻酔剤は局部的または局所的に送達され得る。本明細書において使用される「局部」または「局所」麻酔は、全身麻酔とは区別され、かつ神経付近または神経束等の体の特定の領域への麻酔剤の選択的送達を可能とする麻酔手段を指す。反対に、全身麻酔は、例えば静脈内投与を介した麻酔剤の全身投与を可能とする。局部または局所麻酔は典型的には、対象の体の少なくとも一部分における鎮痛または疼痛知覚の減少のために対象に投与されるべき麻酔剤の、より低い体全体における濃度(高められた局所濃度にもかかわらず)を可能とする。例えば、くも膜下腔内麻酔、硬膜外麻酔、および神経ブロックが、局部または局所麻酔の例である。局部または局所麻酔に用いられ得る麻酔剤の具体的な濃度は、約250から約50,000ナノグラム/ml、約250から約25000ナノグラム/ml、約250から約10000ナノグラム/ml、約250から約5000ナノグラム/ml、約250から約2500ナノグラム/ml、または約250から約1000ナノグラム/mlを含む。
【0035】
本発明は種々の神経ブロック手段と共に用いられ得る。本発明に従う神経ブロック手段は、超音波可視化と共にまたはそれなしで実施され得る。例えば、超音波装置を、例えば肩、首、腰等における種々の神経束等の神経ブロック手段に関与する体の領域を可視化するために用いてもよい。本発明者らは本発明が、股関節置換術、肩関節置換術、および/または出産に関連する手段と関連して用いられ得ることを構想する。
【0036】
特定の態様において、本発明の組成物および方法は疼痛管理に用いられ得る。疼痛管理は、好ましくは対象を意識不明とすることなく、鎮痛を増加させるまたは疼痛の知覚を減少させるために、全身濃度がより低い麻酔剤を対象に投与し得る点で、全身麻酔と区別される。疼痛管理に用いられ得る麻酔剤の具体的な濃度は、約250から約50,000ナノグラム/ml、約250から約25000ナノグラム/ml、約250から約10000ナノグラム/ml、約250から約5000ナノグラム/ml、約250から約2500ナノグラム/ml、または約250から約1000ナノグラム/mlを含む。
【0037】
麻酔剤の硬膜外またはくも膜下腔内投与は、くも膜下腔内カテーテルまたは硬膜外カテーテルの使用等の当技術分野において公知の技術により達成され得る。カテーテルは、施術者が抑制することを望む任意の疼痛感覚情報の伝播に不可欠な神経のより近くに、神経を損傷することなく、配置されるべきである。
【0038】
企図されるその他の投与経路には次のものが含まれる:注入、輸液、持続的輸液、標的細胞を直接浸す局所的灌流、カテーテルを介して、ナノ粒子送達により、局所投与(例えば、担体ビヒクル中、局所徐放パッチ)、関節内、静脈内、および/または経口投与。適当な生物学的担体または薬学的に許容される賦形剤を用いてもよい。投与される化合物は、種々の態様において、ラセミ体の、異性体として精製された(isomerically purified)、または異性体として純粋な化合物であってもよい。
【0039】
特定の態様において、本発明の麻酔剤は静脈内に投与されない。静脈内投与はしばしば全身麻酔に用いられ(Mathiasら、2004年)、典型的には対象の体全体への麻酔剤の迅速な分配をもたらす。従って、特定の態様において、静脈内投与は局部または局所麻酔での使用には適合しない。
【0040】
図1はハロゲン化エーテル麻酔剤を送達するための一般的な方法のフローチャート描写を提供する。図1に示されるように、方法(100)は、ハロゲン化エーテル化合物の選択(102)で始まる。ハロゲン化エーテル麻酔剤は、上述のように、標準的な揮発性麻酔ガス、または疼痛を軽減することができかつ容易にガス状になることができる活性物質であり得る。
【0041】
溶液
ハロゲン化エーテル麻酔剤が選択された後、それを溶液中に溶解してもよい(104)。溶液は、食塩水、人工脳脊髄液、対象自身の脳脊髄液、または同様のもの等の水溶液であり得る。いくつかのバリエーションでは他の溶液が適当である可能性がある。
【0042】
種々の食塩水の製剤が当技術分野において公知であり、本発明で用いることができる。例えば、食塩水は、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、リン酸緩衝食塩水(PBS)、ダルベッコリン酸緩衝食塩水(D-PBS)、トリス緩衝食塩水(TBS)、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、または標準クエン酸食塩水(SSC)であり得る。
【0043】
本発明の食塩水溶液は、特定の態様において、「生理食塩水」(即ち、約0.9% w/vのNaCl溶液)である。生理食塩水は血液に比べやや高い程度の浸透圧を有するが、しかしながら、種々の態様において、ヒト患者等の対象の体内で、食塩水は等張であってもよい。生理食塩水(NS)は、経口で液体を摂取できず、かつ重篤な脱水症を起こしている患者のための点滴静注(IV)としてしばしば頻繁に用いられる。特定の態様において、「半生理食塩水(half-normal saline)」(即ち、約0.45%NaCl)または「四分の一生理食塩水(quarter-normal saline)」(即ち、約0.22%NaCl)が本発明で用いられ得る。任意で、約5%のデキストロースまたは約4.5g/dLのグルコースを食塩水に含んでもよい。種々の態様において、一種もしくは複数種の塩、緩衝液、アミノ酸、および/または抗微生物剤を食塩水中に含んでもよい。
【0044】
種々の人工脳脊髄液(ACSF)溶液を本発明で用いてもよい。特定の態様において、ACSFは、以下の組成(mM)の緩衝化された塩溶液(pH7.4)である:NaCl、120;KCl、3;NaHCO3、25;CaCl2、2.5;MgCl2、0.5;グルコース、12。ACSFはまた、Harvard Apparatus(Holliston, Massachusetts)等の種々の市販元から得ることができる。
【0045】
種々の態様において、組成物または溶液中に保存剤もしくは安定剤を含んでもよい。例えば、微生物の作用の防止は、パラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、またはこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない、種々の抗菌剤および抗真菌剤等の保存剤によって成し遂げることができる。注入可能な用途に適したものに含まれ得る薬剤は、無菌水溶液または分散剤、および、無菌注入可能な溶液または分散剤の用時調製(extemporaneous preparation)のための無菌粉末(米国特許第5,466,468号、具体的にその全体が参照により本明細書に組み入れられる)を含む。全てのケースにおいて組成物は好ましくは無菌であり、かつ容易な注入可能性に役立つために流体でなければならない。溶液は好ましくは製造および保存条件下で安定であり、かつ細菌および真菌等の微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。含まれ得る安定剤の例は、緩衝剤、グリシンおよびリジン等のアミノ酸、デキストロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、ソルビトール、マンニトール等の糖質を含む。適当な安定剤または保存剤は、所望の投与経路に応じて選択され得る。
【0046】
溶液中の化合物の重量範囲は変動し得る。例えば、種々の態様において組成物は約1〜5重量%の麻酔剤、約1〜5重量%の保存剤/安定剤、約1〜5重量%のNaCl、および約85%〜97%の水を含み得る。水に対する麻酔剤の割合は、所望の効果(疼痛軽減または鎮痛、局部麻酔等)を達成するのに必要なように変動し得る。
【0047】
溶液および/または組成物は投与に先立って滅菌されてもよい。滅菌のための方法は当技術分野において周知であり、加熱、煮沸、加圧、濾過、消毒化学物質(sanitizing chemical)への曝露(例えば、脱塩素処理または溶液からの塩素の除去が後に続く塩素処理)、エアレーション、オートクレーブ等を含む。
【0048】
活性物質ガスを、任意の数の方法によって溶液中に溶解してもよい。例えば、溶液中に、例えば気化器を用いて泡立たせて通してもよく、または撹拌により溶解してもよい。特定の態様において、ハロゲン化エーテルまたは揮発性麻酔剤等の麻酔剤を、液体形状で計測し、直接溶液に混合してもよい。当然ながら、麻酔剤を溶液中に溶解する他の好適な方法を用いてもよい。ハロゲン化エーテル麻酔剤は、溶解された後、疼痛軽減(麻酔の形での疼痛軽減を含む)を必要とする対象に、当技術分野において周知の技術を用いて硬膜外またはくも膜下腔内に投与され得る(図1、106)。特定の態様において、揮発性麻酔剤は密閉された真空容器中で溶液と混合され、組み合わされた溶液はその後機械的に3〜5分間撹拌され、使用までサーモニュートラル(thermo-neutral)なソニケーター中に保たれる。
【0049】
好ましい態様において、本発明の溶液は大豆乳剤等の水中油型乳剤を本質的に含まない。水中油型乳剤は麻酔剤の薬物動態および/または分布を変える可能性があり、それは特定の場合において望ましくない可能性がある。さらに、種々の態様において、施術者は脊柱管中に油を注入することを望まない可能性があるので、水中油型乳剤はくも膜下腔内または硬膜外への適用に望ましくない。食塩水、人工CSF、または患者自身のCSFを、本発明に従った麻酔剤のくも膜下腔内または硬膜外投与のために使用することができる。脂質乳剤はその他の欠点およびリスクも有する。例えば、経路によっては、脂質乳剤は注入により疼痛および刺激を引き起こし得る。脂質乳剤はまた、細菌汚染されたプロポフォール乳剤で過去に観察されたように、現実的な感染のリスクをもたらす。本発明は、注入による疼痛知覚を軽減することができ、かつ汚染リスクを軽減し得る溶液を提供することにより、これらの限界に取り組む。
【0050】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体中に溶解または分散された有効量の、一種または複数種の麻酔剤、または生物学的に活性なガス、または付加的な薬剤を含む。「薬学的または薬理学的に許容される」との文言は、必要に応じて、例えばヒト等の動物に投与された場合に有害反応、アレルギー反応、またはその他の不適当な反応を生じない分子実体および組成物を指す。少なくとも一種類の麻酔剤、または溶液中の生物学的に活性なガス、または付加的な活性成分を含有する薬学的組成物の調製は、本明細書に参照により組み入れられるRemington: The Science and Practice of Pharmacy第20版(2000年)に例示されるように、本開示に照らしてみれば当業者には公知であろう。さらに、動物(例えばヒト)投与のためには、FDA Office of Biological Standardsにより要求されるように、調製物が、無菌性、発熱性、一般的な安全および純度基準を満たすべきであることが理解されるであろう。
【0051】
実施例
以下の実施例は発明の好ましい態様を証明するために含まれる。以下の実施例中に開示される技術が、本発明の実施において適切に機能することが本発明者により見出された技術を示し、従って、その実施のための好ましい様式を構成すると考えられ得ることを、当業者は認識するべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示される特定の態様において多くの変更を行い、本発明の精神および範囲から離れることなく依然として類似または同様な結果を得ることができることを認識するべきである。
【0052】
実施例I
イソフルランおよびセボフルランのくも膜下腔内投与
本検討は、疼痛の軽減および鎮痛の提供における麻酔剤ガスの直接的なくも膜下腔内注入の効力を評価するために計画された。検討は1ヶ月の期間にわたって、以下の検討中に示されるように、くも膜下腔内に直接、または食塩水中に溶解されて注入される、麻酔ガスであるイソフルランおよびセボフルランを用いて行われた。ラットは疼痛/鎮痛試験の十分に確立されたモデルを有するため、使用された対象動物はラットであった。特に、350gmより重いSprague-Dawleyラットが用いられた。ラットをペントバルビタール(50mg/kg)で麻酔し、動物の麻酔深度を有害刺激に対する角膜反射および足引っ込め反射により決定した。
【0053】
ラットの首を剃り、手術中の細菌混入を防ぐために消毒溶液で洗浄した。後頭骨-アトラントイド(occipito-atlantoid)膜への接触を得るために後部の頸筋の正中外科手術切開(midline surgical dissection)を行った。この膜を確認し、その後切開した。脊髄の腰膨大まで滅菌ポリエチレンカテーテルをくも膜下腔内に導入した(各動物でおよそ7〜8cmと測定された)。最初に頸筋を3-0シルク縫合糸で縫合し、その後皮膚の切り口をステープルで閉じて手術の創傷を閉じた。
【0054】
手術後、ラットをケージに移動し、ラットが麻酔による低体温症に陥らないようにケージの上に放射ランプ(radiant lamp)を配置した。ラットは、手術の終わりから完全に目覚めるまで持続的にモニターされた。手術後に何らかの運動障害を示したラットは安楽死させた。
【0055】
手術後5日目に、創傷感染も運動機能障害もないラットを揮発性麻酔剤によるくも膜下腔内検討に参加させるために疼痛行動実験室へ移動した。検討のために12匹のラットを選択した。これらの全てのラットにくも膜下腔内カテーテルをつけた。イソフルラン(1-クロロ-2,2,2-トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル)およびセボフルラン(フルオロメチル2,2,2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチルエーテル)をハロゲン化エーテル化合物として使用した。これら両方がハロゲン化揮発性麻酔剤であり、イソフルランはBaxterにより製造され、セボフルランはAbbott Laboratoriesにより製造された。12匹のラットは、検討AおよびBのため、各4匹の3群に分けられた。
【0056】
第1群では、各ラットに保存剤を含まない生理食塩水2マイクロリッターをくも膜下腔内カテーテルを介して注入した。その後、このカテーテルを保存剤を含まない生理食塩水で洗い流した。その後、この群において疼痛行動試験(pain behaviroral testing)を行った。
【0057】
第2群では、各ラットにイソフルラン2マイクロリッターをくも膜下腔内カテーテルを介して注入した。このカテーテルもまた、保存剤を含まない生理食塩水で洗い流した。その後、この群を疼痛行動試験に供した。
【0058】
第3群では、各ラットにセボフルラン2マイクロリッターをくも膜下腔内カテーテルを介して注入した。このカテーテルもまた、保存剤を含まない生理食塩水で洗い流した。その後、この群を疼痛行動試験に供した。
【0059】
疼痛知覚および鎮痛を評価するため「ホットプレート」行動試験を用いた。これらの検討において用いた疼痛行動試験モデルはTony Yakshにより、十分に確立されている(例えば、Chaplanら、1994年;Yakshら、2001年;KimおよびChung、1992年;Sorkinら、2001年参照)。この試験は、足の真下に配置された放射熱源等の有害刺激に反応してラットがその後足をどれだけ早く引っ込めるかを決定することを含む。この引っ込めの時間は「熱引っ込め潜時(thermal withdrawal latency)」として知られている。
【0060】
試験のため、25℃に維持された加熱ガラスプレートを有する改変されたハーグリーブス(Hargreaves)装置上にラットを移した(Hargreavesら、1988年参照)。プレートの下の焦点投射電球(focused projection bulb)を足底中央表面(mid-planter surface)に向けた。フォトダイオード活性化タイマー(photodiode-activated timer)で引っ込め潜時を測定し、組織損傷を防ぐため25秒のカットオフ時間を用いた。放射熱に対する熱引っ込め潜時を、各くも膜下腔内注入から5分および30分後に測定した。各足を3回試験し、結果を平均化した。以下のデータは右および左の後足の両方について収集した。
【0061】
第1群:5分の時点で試験した対照群(生理食塩水)

【0062】
第2群 検討A:5分の時点で試験したイソフルラン群

【0063】
第3群 検討B:5分の時点で試験したセボフルラン群

【0064】
その後、これらのラットにくも膜下腔内注入から回復する時間を与えた。呼吸抑制、心臓または神経学的な損傷等の明らかな有害作用はなかった。注入から30分後に、グループ分けに従ってラットを再度試験した。
【0065】
第1群:30分の時点で試験した対照群(生理食塩水)

【0066】
第2群、検討A:30分の時点で試験したイソフルラン群

【0067】
第3群、検討B:30分の時点で試験したセボフルラン群

【0068】
本検討の結果は、疼痛の軽減における揮発性麻酔剤のくも膜下腔内投与の効力を証明した。2マイクロリットルという、くも膜下腔内へ送達された最小の用量でイソフルランおよびセボフルランの鎮痛効果が示された。熱潜時(thermal latency time)は有意に増加し、従って、熱のC線維疼痛経路は効果的に減衰されることが示された。本検討はまた、くも膜下腔内へ送達される活性物質ガスの安全性をいくらか明らかにする。検討におけるラットはいずれも有害作用を経験せず、全ての群における熱潜時ベースラインへの復帰により示唆されるように、その全てが30分後にくも膜下腔内注入から完全に回復した。
【0069】
実施例II
食塩水に溶解されたイソフルランの5μL試料の調製
イソフルランを次の方法(「泡立たせ(bubbling)」方法とも呼ばれる)を用いて食塩水中に溶解した。検討C:500ml改変エルレンマイヤーフラスコ(液相中への2個の注入口と1個のカテーテル)を用いて模擬気化装置を制作した。フラスコを0.9%生理食塩水である程度満たし、イソフルランの注入のために、栓をしたガラスピペットを液相の底に挿入した。第2のエグレスピペット(egress pipette)が、密閉された容器からのガスの放出を可能にした。酸素中の2%イソフルラン溶液を、2L/分でピペットを通して注入し、注入のおよそ10分後に0.9%食塩水溶液を飽和した。飽和した食塩水溶液から5mLを抜き取り、上記実施例Iに概説される方法を用いて10匹の動物に投与した。
【0070】
検討Cのため、全ての動物は実験AおよびBと同じように準備された。発明者らは、4匹の動物に、5マイクロリットルの溶解したイソフルラン溶液(0030のように調製)をくも膜下腔内カテーテルを介して注入した。使用したヒートランプの異なる強度のために、検討Cにおける足引っ込めの対照(ベースライン)潜時が異なることに留意のこと。検討Cでは各動物が自身の対照となる。
【0071】
検討Cのデータを、熱源に対する足引っ込めの秒数として提示する。表およびグラフ形式。結果を図2に示す。

【0072】
実施例III
人工脳脊髄液に溶解したイソフルランを用いた、くも膜下腔内の疼痛抑制
人工脳脊髄液(ACSF)中のイソフルランをくも膜下腔内投与した後、疼痛感度を測定した。さらに、以下に詳述するように、イソフルランを最初にACSFに溶解し、その後、投与前に超音波処理した。その後、鎮痛または麻酔を達成するためにくも膜下腔内に投与され得るイソフルランの関連濃度を決定するための刺激―応答(SR)グラフを作成し、用量反応関係を評価した。ACSF中のイソフルランのくも膜下腔内投与の薬理学的プロフィールの特徴付けを、本実施例においてラットを用いて行った。さらに、当業者により認識されるように、ヒトにおける正確な薬理学的プロフィールを決定するために類似の手法が用いられ得る。
【0073】
ACSF中に溶解したイソフルランを以下の方法により調製した。密閉された真空容器中において、以下の組成(mM)である、脳脊髄液に近似する緩衝塩溶液(pH7.4):NaCl、120;KCl、3;NaHCO3、25;CaCl2、2.5;MgCl2、0.5;グルコース、12中にイソフルランを10〜50%のv/v比で混合した。組み合わされた溶液を3〜5分間機械的に撹拌し、その後使用までサーモニュートラルなソニケーター中に保った。
【0074】
その後、ACSF中のイソフルラン溶液を次の方法によってラットにくも膜下腔内投与した。治療溶液は10μlの容量で、腰部(lumbar segment)L1-2に重なるくも膜下腔内カテーテルを介して送達され、続いて10μlのACSFで洗い流した。
【0075】
人工CSF中に溶解したイソフルランのくも膜下腔内投与後に、20秒のカットオフ時間を用いるという変更を伴った、上述のような「ホットプレート」行動試験を用いて疼痛感覚を試験した。上述のように、「ホットプレート」行動試験は、放射熱に対する後足引っ込め閾値(即ち、ラットが熱源から足を持ち上げる前までの間の時間)を試験することを含む。
【0076】
ACSF中のイソフルランのくも膜下腔内投与は鎮痛をもたらした。図3に示すように、ACSF中のイソフルランのくも膜下腔内投与(即ち、イソフルランの用量1.46mgで)は、放射熱に対する後足引っ込め閾値を試験することで測定されたように、鎮痛をもたらした。ACSF中のイソフルラン溶液(10% v/v)10μLを使用した。以下に記載されるように、このイソフルランの用量は、くも膜下腔内イソフルランの中程度の用量を表す。
【0077】
その後、動物の間で反応を標準化し、鎮痛または麻酔を達成するためにくも膜下腔内投与され得る関連イソフルラン濃度を決定するため刺激-反応(SR)グラフを作成することにより用量反応関係を評価した。図4は、ACSF中のイソフルランの投与から10分後の時点における用量ごとの最大可能効果(MPE)の刺激-反応(SR)グラフを示す。X軸には種々のイソフルラン用量が示され、例えば、図3に示されるように上記において使用された10% v/vのイソフルラン溶液は、図4に示されるように約34%MPEに対応する。MPEはここでは動物間の反応を標準化するために使用される。MPEは((薬物反応時間−ベースライン反応時間)/(カットオフ時間−ベースライン反応時間))*100として計算される。ここで使用されたカットオフ時間は20秒であった。図4に示されるように、実質的な鎮痛効果が観察された。
【0078】
本明細書に開示されかつ特許請求される組成物および方法の全ては、本開示に照らして過度の実験を要することなく作製しかつ実行することができる。本発明の組成物および方法は好ましい態様の形で記載されたが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される組成物、および方法、ならびに方法の工程または工程の順序に変更が加えられ得ることが当業者には明らかであろう。より具体的には、同じまたは類似の結果を達成し得る限りにおいて、化学的および生理学的の両方に関連した特定の薬剤を本明細書に記載の薬剤と置換できることが明らかであろう。全てのこのような類似の置換、および当業者に明らかな変更の全ては、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲、および概念の範囲内であると想定される。
【0079】
参考文献
本明細書中に説明されるものを補う例示的手順または他の詳細を提供するという限りにおいて、以下の参考文献は参照により本明細書に具体的に組み入れられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液に溶解された揮発性麻酔剤を、疼痛を軽減するために有効な量で静脈内以外の経路で非経口的に対象に送達する段階を含む、そのような疼痛軽減を必要とする対象において疼痛を軽減するための方法。
【請求項2】
麻酔剤が局所的または局部的に送達される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
揮発性麻酔剤がハロゲン化エーテル麻酔剤である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
麻酔剤が、くも膜下腔内に、硬膜外に、または神経ブロック手段により送達される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
疼痛が慢性痛である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
疼痛が急性痛である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
麻酔剤が、手術前に対象の一部分を麻酔するために送達される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
揮発性麻酔剤がイソフルラン、ハロタン、エンフルラン、セボフルラン、デスフルラン、メトキシフルラン、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
揮発性麻酔剤がイソフルランである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
溶液が、約5ng/mlから約100ng/mlの範囲の量で麻酔剤を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
溶液が、約5%から約75% v/vの麻酔剤を溶液中に含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
溶液が、約10%から約50% v/vの麻酔剤を溶液中に含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
麻酔剤がイソフルランである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
溶液が人工脳脊髄液である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
溶液が約10% v/vの麻酔剤を溶液中に含む、請求項12記載の方法。
【請求項16】
麻酔剤がイソフルランであり、かつ溶液が人工脳脊髄液である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
脊髄液中の活性物質が250ng/mlから50,000ng/mlの用量範囲を達成するように、溶液が硬膜外またはくも膜下腔内に送達される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
ハロゲン化化合物がセボフルランである、請求項8記載の方法。
【請求項19】
活性物質の送達が連続的である、請求項1記載の方法。
【請求項20】
活性物質の送達が周期的である、請求項1記載の方法。
【請求項21】
活性物質の送達が一回限りの事象である、請求項1記載の方法。
【請求項22】
活性物質の送達が、別々の場合において周期的および連続的の両方で患者に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項23】
軽減が、対象の体の一部分の疼痛知覚の除去を含む、請求項1記載の方法。
【請求項24】
揮発性麻酔剤を含む溶液が無菌である、請求項1記載の方法。
【請求項25】
対象がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項26】
対象がマウスまたはラットである、請求項1記載の方法。
【請求項27】
溶液が本質的に水中油型脂質乳剤を含まない、請求項1記載の方法。
【請求項28】
溶液が食塩水または人工脳脊髄液である、請求項1記載の方法。
【請求項29】
食塩水が生理食塩水である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
水溶液中に溶解された揮発性麻酔剤の測定された量を含む薬学的に許容される組成物であって、薬学的に許容される賦形剤中に含まれ、かつ本質的に脂質乳剤を含まない、組成物。
【請求項31】
無菌である、請求項30記載の組成物。
【請求項32】
くも膜下腔内投与、硬膜外投与、または神経ブロックを介した投与のために製剤化された、請求項30記載の組成物。
【請求項33】
溶液が食塩水溶液または人工脳脊髄液を含む、請求項30記載の組成物。
【請求項34】
食塩水溶液が生理食塩水溶液である、請求項33記載の組成物。
【請求項35】
揮発性麻酔剤がイソフルラン、ハロタン、エンフルラン、セボフルラン、デスフルラン、メトキシフルラン、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項30記載の組成物。
【請求項36】
揮発性麻酔剤がイソフルランである、請求項35記載の組成物。
【請求項37】
揮発性麻酔剤が、約10%から約50% v/vの濃度で水溶液中に溶解されている、請求項35記載の組成物。
【請求項38】
揮発性麻酔剤が約10% v/vの濃度で水溶液中に溶解されている、請求項37記載の組成物。
【請求項39】
揮発性麻酔剤がイソフルランであり、かつ水溶液が人工脳脊髄液である、請求項37記載の組成物。
【請求項40】
請求項30〜39のいずれか一項記載の麻酔剤溶液を含む密封容器。
【請求項41】
容器の内側が無菌である、請求項40記載の密封容器。
【請求項42】
注射針によって容易に刺し通すことができるゴム栓を含む、請求項41記載の密封容器。
【請求項43】
シリンジのチャンバー部を含む、請求項41記載の密封容器。
【請求項44】
点滴チャンバー(drip chamber)を含む、請求項41記載の容器。
【請求項45】
点滴チャンバーがカテーテルに連結されている、請求項44記載の容器。
【請求項46】
カテーテルが硬膜外カテーテルまたはくも膜下腔内カテーテルである、請求項45記載の容器。
【請求項47】
プラスチック袋、ガラス瓶、またはプラスチック瓶である、請求項41記載の容器。
【請求項48】
輸液ポンプに連結されている、請求項41記載の容器。
【請求項49】
輸液ポンプがくも膜下腔内ポンプ、硬膜外送達輸液ポンプ、または患者管理鎮痛法(PCA)ポンプである、請求項48記載の容器。
【請求項50】
輸液ポンプがプログラム可能である、請求項48記載の容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−504359(P2010−504359A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529406(P2009−529406)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2007/079097
【国際公開番号】WO2008/036858
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(508152917)ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (17)
【Fターム(参考)】