説明

屈曲振動片及び電子部品

【課題】複数の振動腕の間に連結部から1本の中央支持腕を延長させた屈曲振動モードの屈曲振動片において、振動腕の屈曲振動によって連結部に生じる熱弾性損失によるQ値低下を改善する。
【解決手段】圧電振動片21は振動腕23,24の幅方向に沿って連結部22の振動腕を接続する部分と中央支持腕25を接続する部分間の領域28,29に有底溝30,31を有する。この溝により、振動腕の屈曲振動により領域28,29の振動腕側の部分32,33と反対側の部分34,35間の熱伝達経路が見かけ上長く、これら部分間での緩和時間が長くなるので、Q値が極小となる緩和振動数が従来よりも小さくなり、Q値が改善する。貫通溝の場合、領域28,29の振動腕側及び反対側の部分37、38内部の熱伝達経路が短く、各部分の緩和時間が短くなるので、緩和振動数が従来よりも大きくなり、Q値が改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲振動モードで振動する屈曲振動片に関し、更に屈曲振動片を用いた振動子や共振子、発振器ジャイロ、各種センサ等の様々な電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屈曲振動モードの圧電振動片として、基部から1対の振動腕を平行に延出させかつ水平方向に互いに接近又は離反する向きに振動させる音叉型のものが広く使用されている。この振動腕を屈曲励振させたとき、その振動エネルギに損失が生じると、CI値の増加やQ値の低下など、振動子の性能を低下させる原因となる。そこで、かかる振動エネルギの損失を防止又は低減するために、従来から様々な工夫がなされている。
【0003】
例えば、振動腕が延出する基部の両側部に切込み部又は所定深さの切込み溝を形成した音叉型水晶振動片が知られている(特許文献1,2を参照)。この水晶振動片は、振動腕の振動が垂直方向の成分をも含む場合に、振動が基部から漏れるのを切込み部又は切込み溝により緩和することによって、振動エネルギの閉込効果を高めてCI値を抑制し、かつ振動片間でのCI値のばらつきを防止している。
【0004】
かかる機械的損失だけでなく、振動エネルギの損失は、屈曲振動する振動腕の圧縮部と引張応力を受ける伸張部との間で発生する温度差による熱伝導によっても発生する。この熱伝導によって生じるQ値の低下は、熱弾性損失効果と呼ばれている。熱弾性損失効果によるQ値低下を防止又は抑制するために、矩形断面を有する振動腕(振動梁)の中心線上に溝又は孔を形成した音叉型の振動子が知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【0005】
特許文献3によれば、一般に温度差を原因として生じる固体の内部摩擦の場合によく知られた歪みと応力との関係式から、熱弾性損失は、屈曲振動モードの振動子において、振動数が変化したときに、緩和振動数fm=1/2πτ(ここで、πは円周率、τは緩和時間)でQ値が極小となる、と説明されている。このQ値と周波数との関係を一般的に表すと、図5の曲線Fのようになる(例えば、非特許文献1を参照)。同図において、Q値が極小Qとなる周波数が緩和周波数f(=1/2πτ)である。
【0006】
他方、音叉型以外の屈曲振動子として、2本の平行な振動腕を連結部により互いに結合し、かつ該連結部から中央アームを両振動アームの間に延長させた共振器が考案されている(例えば、特許文献4を参照)。この共振器は、水晶で形成した単一部品の振動片からなり、振動アームの前面又は裏面の少なくとも一方に少なくとも1つの溝を形成することにより、励起電界をより均一にかつ局所的に強くしてエネルギ消費を少なくしかつCI値を抑制する。更に、機械的応力が最大となる連結部まで振動アームの溝を延長させて、この領域での電界を取り出すことにより、振動アームの振動結合効果を増加させている。
【0007】
屈曲振動振動モードで振動する振動片には、上述した圧電駆動型のもの以外に、静電気力を用いた静電駆動型や、磁気を用いた磁気駆動型のものがある。静電駆動型のものとして、シリコン材料の基板に方形枠部からなる第1の振動体を、第1の支持梁によりX軸方向に振動可能に支持し、第1の振動体の枠部内に方形平板状の第2の振動体を、第2の支持梁によりY軸方向に振動可能に支持し、基板側の縁部に設けた固定側導電部と第1の振動体側の縁部に設けた可動側導電部との間で発生する静電力によって、第1の支持梁を屈曲させて第1の振動体をX軸方向に振動させる角速度センサが知られている(例えば、特許文献5を参照)。別の静電駆動型として、固定フレームの内側に駆動梁で支持される振動フレームの内側に複合梁で取り付けられた錘部を有するシリコンウェハのセンサ本体と、それに対向するガラス基板とからなり、センサ本体側とガラス基板側との平行平板電極間で働く静電気力によって、センサ本体及び錘部を振動させる角速度センサが知られている(例えば、特許文献6を参照)。
【0008】
また、磁気駆動型のものとして、恒弾性材料の振動体を一端の支持部で外部固定台に固定支持し、その連結部から分岐したバネ部をその自由端に固着した磁石と基台に固着した電磁コイルとにより駆動して振動させる振動体構造が知られている(例えば、特許文献7を参照)。別の磁気駆動型として、シリコン基板から形成されかつ片持ち梁状に支持される薄膜振動板上に薄膜磁石を配置し、薄膜振動板の外側に設けた導体又は電磁コイルに交流電流を通電して発生する電磁力の作用によって、薄膜振動板を厚み方向に振動させるようにした角速度センサが知られている(例えば、特許文献8を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−261575号公報
【特許文献2】特開2004−260718号公報
【特許文献3】実願昭63−110151号明細書
【特許文献4】特開2006−345519号公報
【特許文献5】特開平5−312576号公報
【特許文献6】特開2001−183140号公報
【特許文献7】特公昭43−1194号公報
【特許文献8】特開平10−19577号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】C. Zener,外2名,「Internal Friction in Solids III. Experimental Demonstration of Thermoelastic Internal Friction」,PHYSICAL REVIEW,1938年1月1日,Volume 53,p.100-101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、少なくとも本願発明者が知る限り、従来技術において、上述した熱弾性損失効果が屈曲振動モードの圧電振動片に与える影響を検討した例は、特許文献3以外にほとんど見当たらない。そこで、本願発明者は、特許文献4に記載されるように2本の振動腕の間に連結部から1本の中央支持腕を延長させた構造の圧電振動片について、振動腕の屈曲振動による熱弾性損失がその性能に及ぼす影響を検討した。
【0012】
図6において、圧電振動片1は、連結部2から延出する2本の平行な振動腕3,4を備える。両振動腕3,4の間には、1本の中央支持腕5が連結部2から前記振動腕と等間隔をもって平行に延長している。前記各振動腕の表裏各主面には、それぞれ1本の直線状の溝6,7が形成されている。圧電振動片1は、前記中央支持腕の先端側即ち前記連結部とは反対側の端部で、図示しないパッケージ等に固定保持される。この状態で、図示しない励振電極に所定の電圧を印加すると、振動腕3,4は、図中想像線及び矢印で示すように互いに接近又は離反する向きに屈曲振動する。
【0013】
この屈曲振動によって、連結部2には、前記各腕の幅方向に沿って振動腕3,4を接続する各部分と中央支持腕5を接続する部分との間の領域8,9に機械的歪みが発生した。この歪みは、各領域8,9の振動腕側の部分10,11とそれとは反対側の部分12,13との間で比較的大きな温度勾配として観察された。即ち、前記振動腕が互いに接近する向きに屈曲すると、前記領域の振動腕側の部分10,11は圧縮応力が作用して、該部分の温度が上昇したのに対し、反対側の部分12,13には引張応力が作用して、該部分の温度が下降した。逆に、前記振動腕が互いに離反する向きに屈曲すると、前記領域の振動腕側の部分10,11は引張応力が作用して、該部分の温度が下降するのに対し、反対側の部分12,13には圧縮応力が作用して、該部分の温度が上昇した。
【0014】
この温度勾配によって、連結部2の内部には、領域8,9に振動腕側の部分10,11と反対側の部分12,13との間で熱伝導が発生する。温度勾配は、前記振動腕の屈曲振動に対応して振動腕側とその反対側とで逆向きに発生し、それに対応して熱伝導も逆向きとなる。この熱伝導によって、振動腕3,4の振動エネルギは、その一部が振動中常に熱弾性損失として失われる。この結果、振動片はQ値が低下し、所望の高性能を実現することが困難になる。
【0015】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の振動腕の間に連結部から1本の中央支持腕を延長させた屈曲振動モードの屈曲振動片において、振動腕の屈曲振動によって連結部に生じる熱弾性損失によるQ値の低下を解消又は改善して、性能の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、上記目的を達成するために、複数本の平行な振動腕と、該振動腕を結合する連結部と、該連結部から振動腕の間にそれらと等間隔をもって平行に延出する1本の中央支持腕とを備え、連結部がその表裏主面に形成された溝を有し、該溝が、振動腕の幅方向において、連結部の振動腕側とその反対側とで振動腕の屈曲振動による圧縮応力と引張応力とが交互に発生する領域に配置されている屈曲振動片が提供される。
【0017】
振動腕の屈曲振動により圧縮応力と引張応力とが交互に発生する連結部の振動腕側とその反対側との間で、圧縮による温度上昇と伸張による温度下降とによって温度差が発生するが、その間における熱伝達は連結部の溝によって妨げられる。その結果、熱弾性損失によるQ値の低下が抑制されるので、性能の向上を図ることにある。
【0018】
本発明の屈曲振動片には、振動子や共振子、ジャイロ、各種センサ等の圧電デバイス、その他の電子部品に使用される圧電駆動型の圧電振動片が含まれる。更に本発明の屈曲振動片には、従来技術に関連して上述した静電駆動型及び磁気駆動型のものが含まれる。
【0019】
或る実施例において、連結部の溝は、振動腕の幅方向において連結部の振動腕に接続する部分と連結部の中央支持腕に接続する部分との間の範囲内に形成することが好ましい。本願発明者が様々に検討した結果、この連結部の溝は、振動腕又は中央支持腕の延長上に形成されると、却って振動腕の屈曲振動に影響して振動エネルギの損失を生じ、Q値を低下させ得ることが分かった。
【0020】
別の実施例では、連結部の溝が有底の溝であることにより、連結部の振動腕側とその反対側との間における熱伝達経路は途中で狭められ、見かけ上従来よりも長くなる。その結果、連結部の振動腕側とその反対側との間で温度が平衡状態となるまでの緩和時間τが長くなるので、Q値の極小値を生じる緩和振動数(f=1/2πτ)は、溝が無い場合の緩和振動数よりも低くなる。従って、溝が無い場合の緩和振動数よりも高い周波数範囲では、Q値が従来よりも高くなる。
【0021】
更に別の実施例によれば、連結部の溝が貫通溝であることによって、連結部の振動腕側とその反対側との間における熱伝達経路は途中で遮断され、従来よりも短くなる。その結果、連結部の振動腕側とその反対側との間で温度が平衡状態となるまでの緩和時間τが短くなるので、Q値の極小値を生じる緩和振動数(f=1/2πτ)は、溝が無い場合の緩和振動数よりも高くなる。従って、溝が無い場合の緩和振動数よりも低い周波数範囲では、Q値が従来よりも高くなる。
【0022】
或る実施例では、振動腕の長手方向における溝の幅Wを連結部の幅Tに関して0.1T≦W≦0.65Tの範囲内に設定すると、Q値を従来よりも約5%以上向上させることができるので、好ましい。更に、振動腕の長手方向における溝の幅Wを連結部の幅Tに関して0.2T≦W≦0.6Tの範囲内に設定すると、Q値を更に向上させることができるので、より好ましい。
【0023】
本発明の屈曲振動片は、従来の音叉型圧電振動片と同様に水晶材料で形成することができ、他の公知の圧電材料を用いて形成することもできる。
【0024】
本発明の別の側面によれば、上述した本発明の屈曲振動片を備えることにより、高いQ値及び高性能を発揮し得る、圧電振動子や共振子、圧電発振器、角速度センサ等の圧電デバイス、その他の電子部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による圧電振動片の第1実施例を示す平面図。
【図2】(A)図は図1の圧電振動片の連結部を示す部分拡大平面図、(B)図はそのII−II線における断面図。
【図3】図1の圧電振動片について溝幅(W/T)とQ値との関係を示す線図。
【図4】(A)図は本発明の第2実施例の圧電振動片の連結部を示す部分拡大図、(B)図はそのIV−IV線における断面図。
【図5】屈曲振動モードの圧電振動片における緩和周波数とQ値の極小値との関係を示す線図。
【図6】従来の圧電振動片の典型例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明を適用した圧電振動片の第1実施例の構成を概略的に示している。本実施例の圧電振動片21は、連結部22と、該連結部から延出する2本の平行な振動腕23,24と、1本の中央支持腕25とを備える。中央支持腕25は、連結部22から前記両振動腕の間を該振動腕と等間隔をもって平行に延長している。各振動腕23,24の表裏各主面には、CI値を抑制するために、それぞれ長手方向に沿って1本の直線状の溝26,27が形成されている。
【0028】
図1及び図2(A)に示すように、連結部22の表裏各主面には、前記振動腕の長手方向と直交する向きに沿って振動腕23,24を接続する各部分と中央支持腕25を接続する部分との間の領域28,29に、それぞれ溝30,31が形成されている。溝30,31は、その一方を図2(B)に例示するように、前記連結部の表裏各主面から同じ深さを有する有底の溝である。各溝30,31は、前記振動腕の長手方向に沿って、振動腕側の端縁とそれと反対側の端縁とから等距離に配置されている。
【0029】
本実施例の圧電振動片21は、従来の音叉型水晶振動片と同様に、所謂Zカットの水晶薄板から、水晶結晶軸のY軸を前記振動腕の長手方向に、X軸をその幅方向に、Z軸を前記振動片の表裏主面の垂直方向にそれぞれ配向して形成される。別の実施例では、圧電振動片21を水晶以外の圧電材料で形成することができる。
【0030】
図示しないが、溝26,27の内面を含む各振動腕23,24の表面には励振電極が形成され、かつ連結部22及び中央支持腕25の表面には、前記励振電極から引き出された配線及び外部との接続端子が形成されている。圧電振動片21は、使用時には、前記中央支持腕の先端側即ち前記連結部とは反対側の端部で、図示しないパッケージ等に固定して片持ちにかつ概ね水平に保持される。この状態で、前記励振電極に所定の電圧を印加すると、振動腕23,24は水平方向に、図中矢印で示すように互いに接近又は離反する向きに屈曲振動する。
【0031】
この屈曲振動によって、連結部22には、前記各腕の幅方向に沿って振動腕23,24を接続する各部分と中央支持腕25を接続する部分との間の領域28,29に、圧縮応力と引張応力とが発生する。即ち、前記振動腕が互いに接近する向きに屈曲すると、各領域28,29の振動腕側の部分32,33には圧縮応力が作用し、反対側の部分34,35には引張応力が作用する。この機械的歪みによって、圧縮応力を受ける圧縮部分32,33は温度が上昇し、引張応力を受ける伸張部分34,35は温度が下降する。逆に、前記振動腕が互いに離反する向きに屈曲すると、振動腕側の部分32,33は、引張応力が作用して温度が下降し、反対側の部分34,35は、圧縮応力が作用して温度が上昇する。このように、連結部22の内部には、振動腕側の部分32,33と反対側の部分34,35との間で温度勾配が生じ、その傾斜は、前記振動腕が互いに接近又は離反する向きによって逆向きになる。
【0032】
図2(B)は、前記振動腕が互いに接近する向きに屈曲して、振動腕側の部分32(33)が圧縮側となりかつ反対側の部分34(35)が伸張側となる場合を例示している。図中、温度上昇は+の符号で、温度下降は−の符号で示す。圧縮側の部分32は温度が上昇し、伸張側の部分34は温度が下降する。この温度勾配によって熱が、圧縮側(+)の部分32から溝30の部分を通って伸張側(−)の部分34へと伝達される。
【0033】
逆に、前記振動腕が互いに離反する向きに屈曲する場合には、振動腕側の部分32(33)が伸張側となり、かつ反対側の部分34(35)が圧縮側となる。従って、圧縮側の部分34で温度が上昇し、伸張側の部分32で温度が下降するから、圧縮側の部分34から溝30の部分を通って伸張側の部分32へと、逆向きに熱伝達が起こる。
【0034】
本実施例では、圧縮側部分32と伸張側部分34間の熱伝達経路が、溝30によって途中で狭められている。その結果、両部分32,34間で温度が平衡状態になるまでの緩和時間τは、前記溝が無い従来構造の場合の緩和時間τよりも長くなる。これは、図2(B)に想像線22´で示すように、前記振動腕の幅方向に沿って連結部22の幅Tをみかけ上Tまで長くしたのと等価と考えることができる。従って、本実施例の圧電振動片21は、緩和振動数f10が、f10=1/2πτとなり、τ>τであるから、従来構造の緩和振動数f=1/2πτよりも低くなる。
【0035】
これを、図5の周波数とQ値との関係で見ると、曲線F自体の形は変わらないから、緩和振動数の低下に伴って、曲線Fが曲線Fの位置まで周波数の低下方向にシフトしたことになる。従って、所望の使用周波数が振動数fよりも高い範囲では、Q値は常に、従来構造における極小値Qよりも高くなる。このように本実施例の圧電振動片21は、連結部22に有底溝30,31を設けることによって、Q値を改善して高性能化を実現することができる。また、これらの有底溝は、連結部22の表裏主面のいずれか一方にのみ設けた場合にも、同様の作用効果が得られる。
【0036】
尚、一般に緩和振動数fmは、次式で求められることが知られている。
【0037】
fm=πk/(2ρC) …(1)
ここで、πは円周率、kは振動腕の振動方向の熱伝導率、ρは振動腕の質量密度、Cは振動腕の熱容量、aは振動腕の振動方向の幅である。上記式(1)中の熱伝導率k、質量密度ρ、熱容量Cに、振動腕の材料自体の定数を入力して求められる緩和振動数fmは、振動腕の表裏主面に、例えば図1の溝26,27のような溝を有しない場合の緩和振動数である。
【0038】
本発明者は、更に溝30,31の幅Wと連結部22の幅Tとの関係について検討した。連結部22の前記振動腕の長手方向における断面形状を矩形とし、その厚さを100として、それに対する溝30,31の深さを45に設定した。溝幅Wを0、即ち溝が無い従来の場合から80までの範囲で変化させたとき、公知の有限要素法を用いて、Q値を4次の近似式で表すことができた。その結果を図3に示す。
【0039】
同図において、Q値は、前記溝を設けることによって比較的急峻に上昇し、概ね一定に推移した後、比較的急峻に下降する。同図から、溝幅Wが連結部の幅Tに関して0.1T≦W≦0.65Tの範囲内にあると、Q値が約5%以上向上することが分かる。更に、溝幅Wが0.2T≦W≦0.6Tの範囲内にあると、Q値が約7%以上向上する。このように溝30,31の幅Wを設定することによって、本発明の圧電振動片は、従来に比してQ値を大幅に改善することができる。
【0040】
また本発明者は、図2(A)(B)の実施例において、連結部22の表裏主面に設けた各溝30,30の深さDと該連結部の厚さをDとの関係について検討した。その結果、Q値の改善という観点から見て、前記溝の深さDは、0.1D≦D<0.5Dの範囲に設定することが望ましい。更に前記溝の深さDは、0.3D≦D<0.5Dの範囲に設定することによって、Q値をより改善することができる。
【0041】
図4(A)(B)は、本発明を適用した圧電振動片の第2実施例を示している。同図において、第1実施例と同じ構成要素には同じ参照符号を付して説明する。本実施例において、連結部22には、前記各腕の幅方向に沿って振動腕23,24を接続する各部分と中央支持腕25を接続する部分との間の領域28,29に、それぞれ溝36が形成されている。本実施例の溝36は、第1実施例と異なり、前記連結部の表裏を貫通している。これにより、領域28,29は、前記振動腕の長手方向に沿って溝36を挟んで振動腕側の部分37とそれとは反対側の部分38とが分離されている。
【0042】
第1実施例と同様に、振動腕23,24を水平方向に互いに接近又は離反する向きに屈曲振動させると、連結部22には、前記各腕の幅方向に沿って振動腕23,24を接続する各部分と中央支持腕25を接続する部分との間の領域28,29に、圧縮応力と引張応力とが発生する。前記振動腕が互いに接近する向きに屈曲すると、各領域28,29の振動腕側の部分37には圧縮応力が作用し、反対側の部分38には引張応力が作用する。これによって、圧縮応力を受ける圧縮側の部分37では温度が上昇し、引張応力を受ける伸張側の部分38では温度が下降する。逆に、前記振動腕が互いに離反する向きに屈曲すると、振動腕側の部分37は引張応力が作用して温度が下降し、反対側の部分38は圧縮応力が作用して温度が上昇する。
【0043】
本実施例では、貫通孔36を設けたことによって、振動腕側の部分37と反対側の部分38との間で熱伝達が起こらない。しかしながら、局所的に見ると、振動腕側の部分37は、振動腕側と溝36側とで作用する圧縮応力又は引張応力の大きさに差が生じる。同様に、反対側の部分38も、溝36側とその反対側とで作用する圧縮応力又は引張応力の大きさに差が生じる。その結果、各部分37,38の内部には、それぞれ前記振動腕の長手方向に沿って振動腕側とその反対側との間に温度勾配が生じる。この温度勾配は、前記振動腕が互いに接近又は離反する向きによって、その傾斜が逆向きになる。
【0044】
図4(B)は、前記振動腕が互いに接近する向きに屈曲して、振動腕側の部分37が圧縮側となりかつ反対側の部分38が伸張側となる場合を例示している。図中、温度上昇の程度を+符号の数で、温度下降の程度を−符号の数で示す。連結部22を全体として見ると、圧縮側の部分37は温度が上昇し、伸張側の部分38は温度が下降する。部分37を局所的に見ると、圧縮応力がより大きい振動腕側で、温度がより高く上昇し、それより圧縮応力が低い溝36側で、温度上昇が小さい。この相対的な温度上昇の差によって、部分37の内部では、振動腕側(++)から溝36側(+)に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0045】
同様に、部分38を局所的に見ると、引張応力がより大きい振動腕と反対側で、温度がより低く下降し、それより引張応力が低い溝36側で、温度下降が小さい。この相対的な温度上昇の差によって、部分38の内部では、溝36側(−)からその反対側(−−)に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って熱伝達が起こる。
【0046】
逆に、前記振動腕が互いに離反する向きに屈曲する場合には、振動腕側の部分37が伸張側となり、かつ反対側の部分38が圧縮側となる。従って、連結部22を全体として見ると、伸張側の部分37で温度が下降し、圧縮側の部分38で温度が上昇する。各部分37,38を局所的に見ると、それぞれ振動腕とは反対側から溝36側に向けて、溝36側から振動腕側に向けて温度勾配が生じ、その温度傾斜に沿って各部分37,38の内部に熱伝達が起こる。
【0047】
本実施例では、溝36によって、各部分37,38内部の熱伝達経路が従来よりも大幅に短い。その結果、各部分37,38において温度が平衡状態になるまでの緩和時間τは、前記溝が無い従来構造の場合の緩和時間τよりも短くなる。これは、前記振動腕の幅方向に沿って連結部22の幅Tをみかけ上、各部分37,38の幅Tまで短くしたのと等価と考えることができる。従って、本実施例の圧電振動片は、緩和振動数f20が、f20=1/2πτとなり、τ<τであるから、従来構造の緩和振動数f=1/2πτよりも高くなる。
【0048】
これを、図5の周波数とQ値との関係で見ると、曲線F自体の形は変わらないから、緩和振動数の上昇に伴って、曲線Fが曲線Fの位置まで周波数の増加方向にシフトしたことになる。従って、所望の使用周波数が振動数fよりも低い範囲では、Q値は常に、従来構造における極小値Qよりも高くなる。このように本実施例においても、連結部22に貫通溝36を設けることによって、第1実施例と同様に、Q値を改善して高性能化を実現することができる。
【0049】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、本発明は、連結部から延出する振動腕を3本以上に増やした構造の圧電振動片についても、同様に適用することができる。また、上記各実施例の屈曲振動片は、圧電材料で一体に形成したものだけでなく、シリコン半導体等の材料を使用し、その表面に圧電板材を設けたものであってもよい。更に、本発明は、圧電駆動型の屈曲振動片だけでなく、静電駆動型や磁気駆動型のものについても同様に適用することができる。その場合、圧電材料以外にシリコン半導体などの様々な公知の材料を用いて屈曲振動片を形成することができる。また、本発明の屈曲振動片は、圧電デバイス以外の様々な電子部品に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1,21…圧電振動片、2,22…連結部、3,4,23,24…振動腕、5,25…中央支持腕、6,7,26,27…溝、8,9,28,29…領域、10,11,12,13,32,33,34,35,37,38…部分、30,31,36…溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の平行な振動腕と、前記振動腕を結合する連結部と、前記連結部から前記振動腕の間にそれらと等間隔をもって平行に延出する1本の中央支持腕とを備える屈曲振動片であって、
前記連結部がその表裏主面に形成された溝を有し、前記溝が、前記振動腕の幅方向において、前記連結部の振動腕側とその反対側とで前記振動腕の屈曲振動による圧縮応力と引張応力とが交互に発生する領域に配置されていることを特徴とする屈曲振動片。
【請求項2】
前記溝が、前記振動腕の幅方向において前記連結部の前記振動腕に接続する部分と前記連結部の前記中央支持腕に接続する部分との間の範囲内に形成されることを特徴とする請求項1記載の屈曲振動片。
【請求項3】
前記溝が有底の溝であることを特徴とする請求項1又は2記載の屈曲振動片。
【請求項4】
前記溝が貫通溝であることを特徴とする請求項1又は2記載の屈曲振動片。
【請求項5】
前記振動腕の長手方向における前記溝の幅Wが、前記連結部の幅Tに関して0.1T≦W≦0.65Tの範囲内にあることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の屈曲振動片。
【請求項6】
前記振動腕の長手方向における前記溝の幅Wが、前記連結部の幅Tに関して0.2T≦W≦0.6Tの範囲内にあることを特徴とする請求項5記載の屈曲振動片。
【請求項7】
前記振動腕と前記連結部と前記中央支持腕とが水晶で一体に形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか記載の屈曲振動片。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか記載の屈曲振動片を備えることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−171965(P2010−171965A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295836(P2009−295836)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】