説明

屈曲機構とその制御装置および制御方法

【課題】狭隘部や複雑形状部において、重量のある作業装置を任意の位置および姿勢へ移動するための屈曲機構を提供する。
【解決手段】本発明の屈曲機構は、2つの剛体と該剛体間を接続する駆動部と、該駆動部を制御する制御装置を備え、該制御装置は、動作時に該剛体の相互の位置関係を固定し保持する動作時固定手段と、非動作時に該剛体の相互の位置関係を固定しない非動作時開放手段を有することを特徴とする。また、球体の回転静止時に、電磁石を磁化することで球体との間に引力を発生し、互いに接着することで、保持トルクを増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲動作をする機構に係り、特に、狭隘部や複雑形状部において、操作者が検査および補修・保全作業を行う場合に用いる重量のある作業装置へ搭載し、その作業装置を任意の位置および姿勢へ移動するための、屈曲機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療用内視鏡や工業用内視鏡の屈曲機構には、直流モータが用いられている。これに関する公知例として、例えば、直流モータと複数のワイヤを用いて3次元屈曲動作を実現する機構が、特開2007−105868号公報「屈曲駆動機構」で開示されている。
【0003】
また、ワイヤの代わりに、複数の剛体リンク(駆動用リンクと拘束用リンク)を用いた機構が、特開2004−154877号公報「多節スライダ・リンクによる屈曲機構」に開示されている。
【0004】
一方、複数の電磁石とそれに付随した弾性棒2本を平行に設置し、弾性棒間の一部を電磁吸引力で固定させ、そこから離れた位置で電磁反発力による能動的すべりを発生させて屈曲を実現させる機構が、特開2001−96478号公報「索状形屈曲機構および、索状形屈曲機構を備えたマニピュレータ,屈曲形液体内推進体,内視鏡」で開示されている。
【0005】
さらに、機構の駆動部として、球形のロータの周りに3つのステータを配置し、ステータに発生させた超音波振動によりロータを回転させる球面超音波モータが、特開平11−18459号公報「作業領域の広い球面超音波モータ」で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−105868号公報
【特許文献2】特開2004−154877号公報
【特許文献3】特開2001−96478号公報
【特許文献4】特開平11−18459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2で開示された従来技術では、駆動源として直流モータを複数用いている。そのため、可動範囲を大きくする場合や自由度を増やす場合、駆動部を複数設けなくてはならず直流モータの数が増え、可搬重量を大きくする場合、大型の直流モータを用いなくてはならないため、装置が大型化し、狭隘部や複雑形状部で使用する場合、適用できない。
【0008】
また、特許文献3で開示された従来技術では、小型の電磁石を複数用いることで屈曲動作を実現するため、装置の小型化は可能であるが、1軸周りの屈曲動作しかできず、狭隘部や複雑形状部で使用する場合、任意の動作ができないため、適用できない。
【0009】
さらに、特許文献4で開示された従来技術では、1つのモータで3自由度の動作が可能であるため、装置の小型化に適しているが、可搬重量を大きくする場合、保持トルクが小さいため、適用できない。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決し、狭隘部や複雑形状部において、搭載装置を任意の位置および姿勢へ移動するための機構およびその制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の屈曲機構は、2つの剛体と該剛体間を接続する駆動部と、該駆動部を制御する制御装置を備え、該制御装置は、動作時に該剛体の相互の位置関係を固定し保持する動作時固定手段と、非動作時に該剛体の相互の位置関係を固定しない非動作時開放手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、狭隘部や複雑形状部において、重量のある作業装置を任意の位置および姿勢へ移動するための屈曲機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一の実施例である原子炉内検査作業中における、検査装置の機器配置を示す図である。
【図2】本発明の第一の実施例における、水中検査装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の第一の実施例における、水中検査装置に搭載する駆動部の水平断面図である。
【図4】本発明の第一の実施例における、駆動部を構成するステータの上面図と垂直断面図である。
【図5】本発明の第一の実施例における、水中検査装置を操作するコントローラの構成を示す図である。
【図6】本発明の第一の実施例における、制御装置内の機能ブロック図である。
【図7】本発明の第一の実施例における、処理全体の流れ図である。
【図8】本発明の第一の実施例における、水中検査装置の動作イメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施例〕
本発明の好適な第一の実施例である、原子炉内検査装置について、図1から図8を用いて説明する。本実施例は、原子炉内の目視検査装置に屈曲機構を備えることで、任意の位置および姿勢へ移動し、検査を行うものである。なお、本実施例では、適用対象を原子炉内の目視検査装置としているが、その他の部位や装置にも同様の装置構成で対応可能である。
【0015】
図1を用いて、本実施例の検査実施形態を説明する。原子炉1内には、シュラウド2,上部格子板3,炉心支持板4,シュラウドサポート5、等の構造物があり、PLR配管6をはじめとする配管が接続されている。また、原子炉1の上部には、作業スペースであるオペレーションフロア7があり、同じく上方には燃料交換装置8がある。原子炉内の目視検査を行う場合、水中検査装置9を投入し、検査員14は、燃料交換装置8上から表示装置12で水中検査装置9に搭載したカメラ(図2の16)で撮影した映像を確認しながら、コントローラ13により操作を行う。ここで、表示装置12およびコントローラ13は、制御装置11と接続され、水中検査装置9は、ケーブル10を介して、制御装置11と接続されている。
【0016】
図2を用いて、本実施例における水中検査装置9の詳細構成を説明する。水中検査装置9には、駆動部15a〜15cとして球面超音波モータを備えており、その先端部には目視検査用カメラ16を備えている。また、ケーブル10と駆動部15a間,駆動部15aと駆動部15b間,駆動部15bと駆動部15c間,駆動部15cと目視検査用カメラ16間は、軽量の円筒形剛性棒17で接続する。そして、目視検査用カメラ16と駆動部15a〜15cの電源および制御信号は、信号伝送部18,ケーブル10を介して制御装置11から供給され、逆に映像信号および駆動部15a〜15cの状態信号は、制御装置11へ伝送される。なお、水中検査装置9全体は、図中に示すように外側を弾性カバー19で覆い、水中での利用も可能としている。
【0017】
図3および図4を用いて、図2に示した駆動部15a〜15cの詳細構成を説明する。図3は、駆動部15a〜15cに用いる球面超音波モータの上面図、図4は、球面超音波モータを構成する円形ステータ20a,20bの水平断面図と垂直断面図である。駆動部15a〜15cは、同様の構造をしており、図3に示すように、球体ロータ21の周囲に120゜毎に円形ステータ20a,20bを配置し、各円形ステータ20a,20bはステータ固定ステージ22に固定された構成となっている。
【0018】
次に、円形ステータ20a,20bの詳細構造を説明する。図4に示すように、周方向に複数のスリットが入った円環状リングの下面に圧電素子(図示せず)を接着した圧電素子付き弾性リング23と、電磁石支持棒24と電磁石固定片25で動作方向を限定した電磁石26を備えている。なお、圧電素子付き弾性リング23は、球体ロータ21に密着するように、傾斜をつけた形状とする(図4右図)。圧電素子付き弾性リング23の圧電素子に、所定の電圧を印加することにより発生する圧電素子の伸縮が、弾性リングに伝わり周方向の進行波が発生する。この進行波が、円形ステータ20a,20bと密着している球体ロータ21の回転運動を可能とする。本実施例では、球体ロータ21の静止時に、電磁石26に通電し磁化することで球体ロータ21との間に引力を発生し、互いに密着させることで、保持トルクを増加させる。逆に、電源を遮断することで、保持トルクを弱め、円滑に回転させる。
【0019】
図5を用いて、本実施例における水中検査装置9を検査員14が操作する際に用いるコントローラ13の詳細構成を説明する。操作台29に円筒形のグリップ28を固定し、グリップ28の垂直方向の中心部に、グリップ28に加わる3軸方向の力と3軸周りのトルクを検知する力・トルク検出器27を内蔵する。そして、力・トルク検出器27の信号は、ケーブルを介して制御装置11へ伝送される。
【0020】
図6を用いて、制御装置11内の機能構成を説明する。力・トルク検出器27の出力信号は、力・トルク算出手段30において、アナログ信号からデジタル信号へ変換され、力とトルクデータに変換する。そして、駆動部選択手段31と屈曲角度算出手段32において、力・トルク算出手段30で算出した力とトルクの大きさと向きから、水中検査装置9に備えた駆動部15a〜15cのうち、駆動部分とその屈曲角度を決定する。さらに、制御量算出手段33において、駆動部15a〜15cのそれぞれのステータに設置した電磁石26へ印加する電圧値と、駆動部15a〜15cの回転量を算出する。なお、目視検査用カメラ16の映像信号は、画像取得手段34で電子データへ変換し、表示装置12へ供給する。
【0021】
図7および図8を用いて、本実施例の処理の詳細を説明する。図7は、処理全体の流れである。原子炉内検査を開始後(ステップ35)、水中検査装置9の操作に入る(ステップ36)。操作開始後、まず、力・トルク検出器27で検知した力・トルク信号を取り込む(ステップ37)。そして、ステップ38の力・トルク算出処理において、力・トルク信号から基準電圧を減算する処理を行い、力・トルクへ変換する。本実施例では、力・トルク検出器27として歪みゲージ式のものを用いる。一般に、歪みゲージ式の力・トルクセンサは、基準電圧と称する一定の電圧値からの増減値が、センサにかかる歪み量に比例する性質を持っており、センサ固有のスペックとして示されている一定値の歪み−力・トルク変換係数を乗じることで、力・トルクを求めることができる。ここで、基準電圧は、通常、力・トルクセンサ固有のスペックとして一定値が示されているが、本実施例では、力・トルク信号を入力しない場合の電圧値を予め計測し、それを平均化したものを基準電圧とする。
【0022】
次に、ステップ39の駆動部選択処理において、水中検査装置9に備えた駆動部15a〜15cのうち、駆動部分を決定する。図8に、コントローラ13へ操作入力(+X方向)をした際の水中検査装置9の駆動部15a〜15cの選択方法および動作イメージを示す。ケース1のように、力・トルク検出器27よりの上部に力およびトルクが入力された場合、駆動部15a〜15c全てを、その大きさに基づき同一方向へ屈曲させる。一方、ケース2のように、力・トルク検出器27付近、すなわちグリップ28の中心部に力およびトルクが入力された場合、駆動部15bのみを、その大きさと方向に基づき屈曲させ、駆動部15aと15cは逆方向へ屈曲させる。このように、操作入力する点のグリップ28内での位置により、屈曲形状を変化させることで、任意の屈曲動作を生成でき、複雑構造物中でも目的とする場所へアクセスすることが可能となる。なお、力・トルク検出器27の上部と中心部のどちらに入力されたかの判定は、力データとトルクデータを用いる。すなわち、図8のケース1に示すように、Y軸周りのトルクTyがX軸方向の力Fxより大きい場合は上部、図8のケース2に示すように、X軸方向の力FxがY軸周りのトルクTyより大きい場合は中心部と判断する。ここで、図8には+X方向の屈曲動作をさせた場合の例であるが、Yの正負方向についても同様である。Z軸方向については、本実施例の装置では駆動部15a〜15cが屈曲動作のみ可能であるため、操作の対象としない。
【0023】
さらに、ステップ40の屈曲角度算出処理では、駆動部15a〜15cの回転量を算出する。屈曲角度θは、力およびトルクに比例して増減させる。なお、比例式の係数は、使用する力・トルク検出器27の検出上限値と駆動部15a〜15cに用いる球面超音波モータの最大回転速度から求め、これに駆動時間Δtを乗じたものを屈曲角度θとする。
【0024】
最後に、ステップ41の制御量算出処理では、駆動部15a〜15cのそれぞれのステータに設置した電磁石26の磁化する方向の選択と、駆動部15a〜15cの屈曲角度の電圧値への変換を行う。まず、電磁石26の磁化する方向については、屈曲角度の制御量がゼロの場合は、駆動部が静止していると判断し、電圧を印加して磁化し、球体ロータ21と電磁石26の間に引力を発生させ、それ以外の場合は、電圧を印加しない。次に、駆動部15a〜15cの屈曲角度θの電圧値Vへの変換は、予め導出した印加電圧Vと屈曲角度θの関係式から算出する。
【0025】
なお、検査終了の信号が入力された場合には、水中検査装置9の制御量をゼロとし、処理を終了する(ステップ42)。
【0026】
以上説明した第一の実施例の構成によれば、水中検査装置9は、屈曲動作する駆動部を複数備え、機構形状を任意に変化させることで、原子炉内の狭隘部や複雑構造物内へアクセス可能となる。さらに、駆動部に保持力のある電磁石を備え、保持トルクを増大することで、重量のある検査装置でも任意の位置および姿勢へ移動し、作業を実施することが可能となる。つまり、狭隘部や複雑形状部において、重量のある作業装置を任意の位置および姿勢へ移動するための屈曲機構を提供することができる。
【0027】
なお、第一の実施例に記載した構成は、炉内目視検査を対象としたものであるが、先端部に搭載する装置を変更することで、その他、炉内構造物に発生する欠陥の長さおよび深さを測定するための渦電流センサや超音波センサによる探傷検査装置,炉内構造物の研磨,切断,溶接等を行う作業装置にも適用可能である。
【0028】
また、本発明は、原子炉内の補修・検査等に用いる装置のみでなく、水中および気中で使用する各種作業装置に広く適用できるものであり、特に、狭隘部や複雑構造物内の作業装置に対し、アクセス性の向上を図ることが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 原子炉
2 シュラウド
3 上部格子板
4 炉心支持板
5 シュラウドサポート
6 PLR配管
7 オペレーションフロア
8 燃料交換装置
9 水中検査装置
10 ケーブル
11 制御装置
12 表示装置
13 コントローラ
14 検査員
15a〜15c 駆動部
16 目視検査用カメラ
17 円筒形剛性棒
18 信号伝送部
19 弾性カバー
20 円形ステータ
21 球体ロータ
22 ステータ固定ステージ
23 圧電素子付き弾性リング
24 電磁石支持棒
25 電磁石固定片
26 電磁石
27 力・トルク検出器
28 グリップ
29 操作台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球体および剛体と、それらを接続する駆動部と、該駆動部を制御する制御装置と、該制御装置に対し、操作員の指令を入力する入力手段を備え、該駆動部は、該球体と該剛体間の位置関係を保持、もしくは開放させることを特徴とする屈曲機構。
【請求項2】
請求項1に記載の屈曲機構において、
前記駆動部は、超音波を発生させる少なくとも1つの弾性円環であり、前記球体の中心を該弾性円環の中心軸が通るように配置され、該弾性円環の中心軸上に電磁石を備え、該球体静止時に保持トルクを増加させるために該球体と該電磁石間に引力を発生させることを特徴とする屈曲機構。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載の屈曲機構において、
該入力手段は、円筒形グリップの垂直方向の中心部に、3軸方向の力と3軸周りのトルクを検知する力・トルク検出器を備え、その出力信号を基に、該入力手段に加わる力・トルクを算出する力・トルク算出手段と、算出した力とトルクから該屈曲機構の該駆動部のうち動作させる駆動部を選択する駆動部選択手段と、前記駆動部の屈曲角制御量を算出する屈曲角制御量算出手段を備えたことを特徴とする屈曲機構。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の屈曲機構において、
機構先端部に目視検査装置,探傷検査装置,補修および保全装置のうち少なくとも一つを備えたことを特徴とする屈曲機構。
【請求項5】
2つの剛体と該剛体間を接続する駆動部と、該駆動部を制御する制御装置と、該制御装置に対し操作員の指令を入力する入力手段を備えた屈曲機構の制御装置であって、該制御装置は、該剛体間の位置関係を保持、もしくは開放させることを特徴とする屈曲機構の制御装置。
【請求項6】
2つの剛体と該剛体間を接続する駆動部と、該駆動部を制御する制御装置と、該制御装置に対し操作員の指令を入力する入力手段を備えた屈曲機構の制御方法であって、該制御装置は、該剛体間の位置関係を保持、もしくは開放させることを特徴とする屈曲機構の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−228046(P2010−228046A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78011(P2009−78011)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】