説明

層状構造体および有機−無機複合材料

【課題】 耐熱性が高く、極めて有機物との親和性に優れる層状構造体、および前記層状構造体を熱可塑性樹脂に配合した有機−無機複合材料を得る。
【解決手段】特定のアルコキシシランと金属ハロゲン化物、有機金属化合物および金属アルコキシシドから選ばれる少なくとも1種の金属化合物(ただし、ここで金属はMg、Al、Ni、Co、Ti、Cu、Mn、Fe、Liから選ばれる少なくとも1種である)を縮合させて得られる構造を基本骨格とし、Si−OH基の一部ないし全部が封鎖された層状構造体、およびそれを熱可塑性樹脂に配合してなる有機−無機複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂へのフィラー、コーティング材料、機能性粒子などとして利用可能な、耐熱性が高く、極めて有機物との親和性に優れる層状構造体、および前記層状構造体を熱可塑性樹脂に配合した有機−無機複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、モンモリロナイトや合成雲母に代表される層状珪酸塩に、イオン交換反応によって有機物を導入して熱可塑性樹脂との親和性を改良し、熱可塑性樹脂中に均一に分散させたナノコンポジットに関する研究が活発となっている。特許文献1には、イオン交換反応によって層状珪酸塩に有機物を導入することにより、ポリアミドマトリックス中に、層状珪酸塩層が完全に劈開した状態で分散できる手法が開示されている。また、非特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート(PET)と重合可能な官能基であるジメチルイソフタル基を有するホスホニウム塩を、イオン交換反応で層間に導入した層状珪酸塩を用いることによって、PET中での層状珪酸塩の劈開を促進し、その分散を改良した手法が報告されている。
【0003】
一方、特許文献2〜4、および非特許文献2、3には、表面が有機官能基で被覆された層状構造体が開示されている。また、特許文献2〜4、および非特許文献2の手法により得られる層状構造体は、表面に有機ポリマーと共有結合可能な官能基が導入されているため、層状構造体を有機ポリマー原料と混合して、重合することにより有機ポリマーと層状構造体が共有結合した複合体を得ることができる。
【特許文献1】特開昭62−74957号公報(第1〜5頁)
【非特許文献1】Yusuke Imai et al,“Chemistry of Materials", 2002, 14, p477-479
【特許文献2】特開平7−126396号公報(第1〜7頁)
【非特許文献2】谷昌明,福嶋喜章,“高分子論文集”,2002, VOL. 59(10),p631-636
【特許文献3】特開平6−200034号公報(第1〜8頁)
【非特許文献3】L. Ukrainczyk et al,“J.Phys.Chem. B”,1997, 101, p531-539
【特許文献4】特開平9−241380号公報(第1〜9頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし特許文献1記載の方法は、マトリックスがポリアミドの場合においてのみ、層状珪酸塩を完全に劈開し、単層状態で分散できるものの、ポリエチレンテレフタレートのような極性が小さいポリマーと複合化する場合には、層状珪酸塩とポリエチレンテレフタレートの親和性が低いため、層状珪酸塩を完全に劈開して分散させることは困難であった。さらには、イオン交換反応によって層状珪酸塩に導入する有機物として、主に用いられる4級アンモニウム塩の耐熱性が低いため、複合化するためのプロセス温度が高いポリエチレンテレフタレートの場合には、有機物が分解する懸念があった。
【0005】
非特許文献1記載の方法では、層状珪酸塩の層間に導入する有機物として、4級アンモニウム塩よりも耐熱性が高く、ポリエチレンテレフタレートとの親和性に優れた有機物を用いているが、この手法においてもポリエチレンテレフタレートと層状珪酸塩の親和性が十分には改良されないため、層状珪酸塩を完全に劈開した状態で分散させることはできなかった。
【0006】
また特許文献2〜4、および非特許文献2,3記載の方法では、得られる層状構造体に含まれる親水性シラノール基が多いため、疎水性の高い有機物と複合化する場合には、層状構造体と有機物の親和性が不十分であった。さらに、特許文献2、3および非特許文献2記載の方法では、層状構造体表面に導入された反応性官能基と有機ポリマーが共有結合を形成するため、場合によっては、層状構造体が架橋点となって有機ポリマーがゲル化する問題があり、熱可塑性樹脂への展開は困難であった。
【0007】
本発明は、従来のイオン交換法による層状珪酸塩の有機ポリマーへの親和性改良技術や、マトリックスポリマーと層状構造体との共有結合による親和性改良技術における上述の問題点を解決した、層状構造体および新規熱可塑性有機−無機複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(i)下記一般式(1)で表されるアルコキシシランと金属ハロゲン化物、有機金属化合物および金属アルコキシシドから選ばれる少なくとも1種の金属化合物(ただし、ここで金属はMg、Al、Ni、Co、Ti、Cu、Mn、Fe、Liから選ばれる少なくとも1種である)を縮合させて得られる構造を基本骨格とし、Si−OH基の一部ないし全部が疎水性官能基で封鎖された層状構造体であって、29SiDD/MAS NMRスペクトルにおける、一般式(1)の珪素に由来するピークの総面積に対して、OH基が1つ結合した珪素とOH基が2つ結合した珪素のピーク面積の和が10%以下である層状構造体、
【化2】


(R、Rは有機基を表す。)
【0009】
(ii)一般式(1)で表されるアルコキシシランのRが炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、エポキシ基、メルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、不飽和二重結合基から選択される基を含有する有機基である(i)記載の層状構造体、
(iii)一般式(1)で表されるアルコキシシランのRがフェニル基である(i)記載の層状構造体、
(iv)一般式(1)で表されるアルコキシシランのRが炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基である(i)記載の層状構造体、
(v)一般式(1)で表されるアルコキシシランのRがメチル基又はエチル基である(i)記載の層状構造体、
(vi)熱重量−示差熱分析(TG−DTA)にて、空気雰囲気下、20℃/minの昇温速度で層状構造体を昇温したときの5%重量減少温度が、320℃以上600℃未満である(i)〜(v)のいずれかに記載の層状構造体、
(vii)アルコキシシランと金属化合物とを溶液中で縮合させた後、得られる生成物のシラノール基を、脱水溶媒中でシリル化する(i)〜(vi)のいずれかに記載の層状構造体の製造方法、
(viii)(i)〜(vi)のいずれかに記載の層状構造体を熱可塑性樹脂に配合してなる有機−無機複合材料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、熱可塑性樹脂へのフィラー、コーティング材料、機能性粒子などとして利用可能な、耐熱性が高く、極めて有機物との親和性に優れる層状構造体、および前記層状構造体を熱可塑性樹脂に配合した有機−無機複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明では、耐熱性が高く、極めて有機物との親和性に優れる層状構造体を得ようとするものであるので、有機物と親和性の高い有機基を層状構造体に共有結合で導入することが必要である。従って、本発明の層状構造体は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシランと金属ハロゲン化物、有機金属化合物および金属アルコキシシドから選ばれる少なくとも1種の金属化合物(ただし、ここで金属はMg、Al、Ni、Co、Ti、Cu、Mn、Fe、Liから選ばれる少なくとも1種である)を縮合させて得られる構造を基本骨格とする。
【化3】


(R、Rは有機基を表す。)
【0013】
上記一般式(1)中、Rとしては有機基であれば特に制限はないが、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、エポキシ基、メルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、不飽和二重結合基を含有する有機基等が好ましく用いられる。
【0014】
の具体例として挙げられる炭素数1〜10のアルキル基を含有する有機基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、t−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、nーオクチル、n−ノニル、n−デシルなどが挙げられるが、入手性の面からメチル、エチルが好ましい。
【0015】
フェニル基を含有する有機基としては、フェニル、o−トルイル、m−トルイル、p−トルイル、p−クメニル、o−クメニル、mークメニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ベンジル、フェネチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチルなどが挙げられるが、入手性の面からフェニルが好ましい。
【0016】
エポキシ基を含有する有機基としては、γ−グリシドキシプロピル、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル、メルカプト基を含有する有機基としては、γ−メルカプトプロピル、ウレイド基を含有する有機基としては、γ−ウレイドプロピル基、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルが、イソシアネート基を含有する有機基としては、γ−イソシアナトプロピルが、アミノ基を含有する有機基としては、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピル、γ−アミノプロピル、水酸基を含有する有機基としては、γ−ヒドロキシプロピルが、また不飽和二重結合を含有する有機基としては、γ―メタクリロキシプロピル基、ビニル基、N―β―(N−ビニルベンジルアミノエチル)―γ―アミノプロピルなどが好ましく用いられる。本発明では、Si−OH基が封鎖された層状構造体を得ようとするものであるので、有機基Rとして水酸基単体は除外する。
【0017】
がフェニル基の場合、層状構造体の耐熱性が向上するとともに、かつ疎水性の高いフェニル基等を含む有機物との親和性に優れるため好ましい。
【0018】
一般式(1)中のRO−Si構造を構成するRは有機基であって、後述する金属化合物との反応をつかさどる成分である。金属化合物との反応が進行するものであれば特に制限はないが、炭素数1〜10のアルキル基やフェニル基であることが好ましい。ここで炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、t−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、nーオクチル、n−ノニル、n−デシルなどが挙げられるが、入手性の面からメチル、エチルが好ましい。
【0019】
続いて層状構造体を形成させるのに必要なもう1つの成分である金属化合物について説明する。本発明で使用される金属化合物としては、金属ハロゲン化物、有機金属化合物および金属アルコキシド化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物であり、下記一般式(2)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
【化4】

Mは金属原子、Xはハロゲンまたは有機基を示し、m、nは1以上の整数を表す。
【0020】
上記Mの金属原子は、Mg、Al、Ni、Co、Ti、Cu、Mn、Fe、Liから選ばれる少なくとも1種の金属であり、好ましくはMg、Al、Cu、Co、Ti、Feであり、特に好ましくはMg、Al、Tiである。
【0021】
上記Xのハロゲンの具体例としては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、有機基としては、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基、アセチルアセトネートなどを使用することができる。ここで炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、t−ペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、シクロヘキシルなどが挙げられる。また炭素数1〜6のアルコキシル基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロピロキシ、イソプロピロキシ、n−ブチロキシ、s−ブチロキシ、t−ブチロキシ、n−ペンチトキシ、イソペンチトキシ、t−ペンチトキシ、ネオペントキシ、n−ヘキシロキシ、イソヘキシロキシなどが挙げられる。
【0022】
上記のm、nは1以上の整数を示すが、Mの金属の価数(a)、Xの価数(b)とすると、m、nの関係は、m×a=n×bが成立している。
【0023】
上記金属化合物の具体的な例としては、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化コバルト、四塩化チタン、塩化第1銅、塩化第2銅、塩化マンガン、塩化第1鉄、塩化第2鉄、塩化リチウム、臭化マグネシウム、臭化アルミニウム、臭化ニッケル、臭化コバルト、四臭化チタン、臭化第1銅、臭化第2銅、臭化マンガン、臭化第1鉄、臭化第2鉄、臭化リチウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化ニッケル、ヨウ化コバルト、四ヨウ化チタン、ヨウ化第1銅、ヨウ化第2銅、ヨウ化マンガン、ヨウ化第1鉄、ヨウ化第2鉄、ヨウ化リチウムおよびこれらの水和物や、アルミニウムアセチルアセトネート、トリエチルアルミニウム、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムアセチルアセトネート銅(II)、アセチルアセトネートニッケル(II)、アセチルアセトネートコバルト(II)、アセチルアセトネートチタン(IV)、チタンテトラエトキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラメトキシド、チタンテトライソプロポキシド、アセチルアセトネートマンガン、アセチルアセトネート鉄(II)、アセチルアセトネート鉄(III)などが挙げられるが、これらのうち、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化コバルト、四塩化チタン、塩化第1銅、塩化第2銅、塩化マンガン、塩化第1鉄、塩化第2鉄、塩化リチウム、チタンテトラエトキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラメトキシド、チタンテトライソプロポキシドなどを好ましく使用することができ、特に塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、チタンテトラブトキシドが好ましい。
【0024】
本発明の層状構造体は、上記のアルコキシシランと金属化合物とを溶液中で縮合させることにより得られる構造を基本骨格とする。アルコキシシランと金属化合物の仕込みモル比(アルコキシシラン/金属化合物)は、好ましくは3/1〜1/2、より好ましくは2.5/1〜1/1.5、特に好ましくは2.2/1〜1/1である。反応に使用する溶媒としては、アルコキシシランと金属化合物を溶解するか、あるいは均一分散する溶媒で、かつアルコキシシランの有機基と反応しない溶媒であれば特に制限はないが、水、炭素数1〜6のアルコール、アセトン、メチルエチルケトンを好ましく使用することができる。これらは、単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0025】
使用する溶媒の量は、反応攪拌が十分に行われる程度であれば特に制限はないが、通常アルコキシシランと金属化合物の総重量100gに対して、0.1〜15Lの範囲であり、好ましくは2〜10Lである。
【0026】
引き続き上記反応生成物に水を加えることにより本発明の層状構造体の基本骨格の生成を完結することができる。このときアルコキシシラン、金属化合物から得られる反応物の加水分解、脱水縮合を完結させる目的で、アルカリ触媒を添加することができる。反応溶液のpHは、原料となるアルコキシシランの有機基が分解あるいは変性されない範囲であれば良いが、pH8〜10であることが好ましい。
【0027】
また、反応温度に、特に制限はなく、アルコキシシランと金属化合物を縮合させることにより得られる構造中に、層状構造が含まれる条件であれば問題ない。
【0028】
このようにして得られる層状構造体の基本骨格となる構造は、いくつかの配位状態を呈するため、明確に化学式で表記することは学術的にも困難であるが、実質的には、シリカ4面体層と金属8面体層からなる無機部と、その表面が無機部のシリカ4面体層の珪素原子と共有結合した有機基からなる骨格を有すると推定される。その一例を、下記一般式(3)に示す。シリカ4面体層は、アルコキシシランの加水分解物同士の脱水縮合、および/あるいはアルコキシシランとアルコキシシランの加水分解物の脱アルコール縮合により、隣接する珪素間で−Si−O−Si−結合が形成されるが、部分的に、アルコキシシランの加水分解により生成する親水性のSi−OH基が残存する。
【化5】

上記式中MはMg、Al、Ni、Co、Ti、Cu、Mn、Fe、Liから選ばれる少なくとも1種の金属を表し、Rは有機基を表す。
【0029】
すなわちアルコキシシランと金属化合物間で、上記一般式(3)で例示される構造を形成すると推定されるが、本発明の層状構造体の基本骨格となる構造は一般式(3)に限定されるものではなく、シリカ4面体層が−Si−O−Si−結合で構成されたものであっても、部分的にSi−OH基が含まれた構造であっても、基本骨格がシリカ4面体層と金属8面体層から構成された層状構造が含まれれば特に制限はない。シリカ4面体層が−Si−O−Si−結合で構成された場合であっても、シリカ4面体層の末端にはSi−OH基が存在するため、アルコキシシランと金属化合物を縮合させて得られる構造には、通常Si−OH基が含まれる。
【0030】
またアルコキシシラン単独が加水分解して、縮合したシリカ構造単位が存在していても、後述するようにSi−OH基が封鎖されていれば、本発明の効果を充分発揮することができるが、理想的には、本発明の層状構造体の基本骨格として、一般式(3)で例示される層状構造単位が50〜100モル%含むことが好ましい。より好ましくは60〜100モル%、さらに好ましくは70〜100モル%である。
【0031】
層状構造体の基本骨格を形成するための反応に用いられる金属化合物は、金属8面体層の中心原子を形成するものであり、上記式(3)中のMは、前述の通りMg、Al、Ni、Co、Ti、Cu、Mn、Fe、Liから選ばれる少なくとも1種の金属である。またアルコキシシランは4面体の中心原子である珪素を形成するものであり、上記式(3)中のRは前述の一般式(1)と同様である。
【0032】
アルコキシシランと金属化合物を縮合させて得られる構造の中には、アルコキシシランの加水分解により生成する親水性のSi−OH基が含まれるため、本発明では、Si−OH基を、有機物との親和性に優れる疎水性官能基で封鎖することが必要である。従って、本発明の層状構造体のSi−OH基が封鎖されているか確認するには、29SiDD/MAS NMR法を用いることができる。層状構造体の基本骨格を形成する、一般式(1)のアルコキシシランと金属化合物を縮合させて得られる生成物からは、一般式(1)由来の珪素として、OH基が結合していない珪素、OH基が1つ結合した珪素、OH基が2つ結合した珪素が検出される。本発明の層状構造体においてSi−OH基が封鎖されているとは、一般式(1)の珪素に由来するピークの総面積に対して、OH基が1つ結合した珪素とOH基が2つ結合した珪素のピーク面積の和が10%以下であると定義する。
【0033】
アルコキシシランと金属化合物を縮合させて得られる構造の中のSi−OH基を、疎水性官能基で封鎖するには、シリル化剤が好適に用いられる。シリル化剤としては、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,N’−ビス(トリメチルシリル)ウレア、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、トリメチルブロモシラン、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート、トリエチルクロロシラン、tert−ブチルジメチルクロロシラン、1,3−ジクロロテトライソプロピルジシロキサンなどが挙げられる。本発明の層状構造体が、これらのシリル化剤によって、Si−OH基が封鎖されて得られたものであるかを確認する場合にも、上述の29SiDD/MAS NMR法を用いて、シリル化剤に由来する珪素を検出することにより行うことができる。
【0034】
シリル化は、アルコキシシランと金属化合物とを溶液中で混合し、縮合することにより得られる生成物を、不活性雰囲気下、脱水溶媒に分散させ、シリル化剤を混合することによって行うことができる。脱水溶媒としては、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、1−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、クロロホルムが好適に用いられる。シリル化反応を促進するために、ピリジン、トリエチルアミンなどの触媒を添加することも可能である。
【0035】
使用する脱水溶媒の量は、反応攪拌が十分に行われる程度であれば特に制限はないが、層状構造体10gに対して、0.01〜1Lの範囲であり、好ましくは0.05〜0.5Lである。
【0036】
このようにして得られるSi−OH基が封鎖された本発明の層状構造体の模式図を、一般式(3)のSi−OH基がトリメチルシリル化された場合を例に示すと、下記一般式(4)のようになる。
【化6】

(Rはメチル基を表す。)
【0037】
本発明では、耐熱性に優れる層状構造体を得ようとするものであるので、層状構造体の熱分解温度は高いことが好ましい。具体的には、熱重量−示差熱分析(TG−DTA)において、空気雰囲気下、20℃/minの昇温速度で層状構造体を昇温した場合に、層状構造体の5%重量減少温度が320℃以上600℃未満であることが好ましい。層状構造体の5%重量減少温度が320℃より低い場合には、例えばポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂と溶融重合、あるいは溶融混練する場合に、層状構造体が一部分解する可能性があるため好ましくない。また、600℃以上である場合には、層状構造体を構成する有機基の含量を少なくする必要があり、有機物との親和性が低下するため好ましくない。耐熱性の高い層状構造体として、(1)式に示す置換基Rがフェニル基である層状構造体が挙げられる。
【0038】
本発明の層状構造体が層状構造を形成しているか否かは、X線回折により判断することができる。層状構造を有する化合物は、層間距離に対応する(001)ピークが現れる。従って、本発明により得られた構造体が層状であるか否かは、X線回折において、層状構造由来の(001)ピークが検出されるかどうかで判断することができる。
【0039】
本発明の層状構造体は、耐熱性が高く、極めて有機物との親和性に優れているので、熱可塑性樹脂中に均一に分散させることができる。熱可塑性樹脂とは、加熱すると流動性を示し、これを利用して成形加工できる合成樹脂のことである。具体例としては、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリオキシメチレン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリケトン、フッ素樹脂、シンジオタクチックポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエステルポリエーテルエラストマー、ポリエステルポリエステルエラストマー等のエラストマー、あるいはこれら熱可塑性樹脂の2種以上の混合物が挙げられる。
【0040】
上記熱可塑性樹脂のうち、ポリアミドとしては、例えば、環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、二塩基酸とジアミンとの重縮合物などが挙げられ、具体的にはナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン56、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド、ポリ(メタキシレンアジパミド)(以下MXD・6と略す)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)(以下6Tと略す)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)(以下6Iと略す)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド)(以下9Tと略す)、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)(以下4Iと略す)などの脂肪族−芳香族ポリアミド、およびこれらの共重合体や混合物を挙げることができる。特に本発明に好適なポリアミドとしてはナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン66/6T、ナイロン6T/12共重合体、ナイロン6T/6I、ナイロン6T/6I/12、ナイロン6T/610、ナイロン6T/6I/6を挙げることができる。
【0041】
このようなポリアミドの分子量は特に制限はなく、例えば98%硫酸中、濃度1%、25℃で測定される相対粘度が1.70〜4.50のものを使用することができるが、好ましくは2.00〜4.00、特に好ましくは2.00〜3.50の相対粘度のものが使用される。
【0042】
上記熱可塑性樹脂のうち、ポリエステルとしては、実質的に、ジカルボン酸とグリコールの重縮合物、環状ラクトンの開環重合物、ヒドロキシカルボン酸の重縮合物、二塩基酸とグリコールの重縮合物などが挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートおよびポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4、4’−ジカルボキシレートなどの半芳香族ポリエステルのほか、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4、4’−ジカルボキシレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート共重合体およびポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体などの半芳香族ポリエステルやそれらの混合物を挙げることができる。その他、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、芳香族アミノオキシ単位、エチレンオキシド単位などから選ばれた構造単位からなるサーモトロピック液晶性を示す熱可塑性ポリエステル樹脂を使用することもできる。
【0043】
ここでいう芳香族オキシカルボニル単位としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4´−ヒドロキシジフェニル−4−カルボン酸から生成した構造単位を、芳香族ジオキシ単位としては、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノンから生成した構造単位を、芳香族ジカルボニル単位としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸から生成した構造単位を、芳香族アミノオキシ単位としては、例えば、4−アミノフェノールから生成した構造単位を例示することができる。
【0044】
また、ポリエステルとしては、ほかにも乳酸および/またはラクチドを主原料として得られるポリ乳酸、およびその共重合体などの脂肪族ポリエステルを使用することも可能である。
【0045】
特に本発明に好適なポリエステルとしては半芳香族ポリエステルが好ましく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびそれらの共重合体や混合物を挙げることができ、より好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートである。
【0046】
このようなポリエステルの分子量には特に制限はなく、通常フェノール/テトラクロロエタン1:1の混合溶媒を用いて25℃で測定した固有粘度が0.10〜3.00のものを使用することができるが、好ましくは0.25〜2.50、特に好ましくは0.40〜2.25の固有粘度のものが使用される。
【0047】
上記熱可塑性樹脂のうち、スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリル共重合体、ゴム変性スチレン系樹脂、ゴム変性スチレン系樹脂とポリフェニレンエーテルとのポリマーブレンド体などが挙げられる。
【0048】
ここでゴム変性スチレン系樹脂とは、ビニル芳香族系重合体よりなるマトリックス中にゴム状重合体が微粒子状に分散してなるグラフト重合体をいい、ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル単量体および必要に応じ、これと共重合可能なビニル単量体を加え、単量体混合物を公知の塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、または乳化重合することにより得られる。
【0049】
このようなゴム変性スチレン系樹脂としては、例えば、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AAS(アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0050】
上記熱可塑性樹脂のうち、ポリフェニレンスルフィドとしては、実質的に下記構造式で表される繰り返し単位を含有するポリマーが挙げられ、
【化7】

該構造式で表される繰り返し単位を、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む重合体が耐熱性の点から好ましい。
【0051】
また、ポリフェニレンスルフィドは、その繰り返し単位の30モル%未満を、下記構造式を有する繰り返し単位で構成することが可能である。
【0052】
【化8】

【0053】
このようなポリフェニレンスルフィドの溶融粘度は、溶融混練が可能であれば、特に制限はないが、通常5〜2000Pa・s(320℃、剪断速度10sec−1)のものが使用される。
【0054】
上記熱可塑性樹脂のうち、ポリオキシメチレンとは、オキシメチレン単独重合体および主としてオキシメチレン単位からなり、ポリマー分子中に少なくとも1種の炭素数2〜8のオキシアルキレン単位を含有するオキシメチレン共重合体を意味する。
【0055】
このようなポリオキシメチレンの分子量は特に制限はないが、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定し、標準ポリメタクリル酸メチルで換算した数平均分子量が、1万〜50万、好ましくは1万5千〜10万、特に好ましくは2万〜5万のものが使用される。
【0056】
上記のように得られた層状構造体は熱可塑性樹脂との親和性に極めて優れ、熱可塑性樹脂中に均一に分散するので、例えば、熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレート場合には、層状構造体が数%添加された場合においても延伸することが可能である。本発明の層状構造体の配合量は熱可塑性樹脂100重量部に対して、層状構造体0.01〜30重量部が好ましく、さらに好ましくは0.2〜15重量部である。
【0057】
本発明の有機−無機複合材料の製造方法としては、(A)熱可塑性樹脂の原料、あるいは熱可塑性樹脂前駆体に、層状構造体を添加し重合する方法、(B)熱可塑性樹脂と層状構造体を溶融混練する方法、あるいは(C)層状構造体と熱可塑性樹脂を溶媒中で混合する方法などが挙げられる。ここで、熱可塑性樹脂前駆体とは、例えば、熱可塑性樹脂がポリアルキレンテレフタレートである場合には、テレフタル酸(あるいはテレフタル酸ジメチル)1分子とジオール2分子から得られるビス(ヒドロキシアルキルテレフタレート)などの誘導体を示す。
【0058】
本発明の層状構造体は、樹脂へのフィラー、コーティング材料、機能性粒子などとして利用可能である。また、本発明の有機−無機複合材料は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形のみならず、溶融紡糸、フィルム成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形でき、機械部品などの樹脂成形品、衣料・産業資材などの繊維、包装・磁気記録などのフィルムとして使用することができる。
【0059】
実施例
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0060】
[層状構造の確認]
リガクX線回折装置RINT2100、Cu線源(λ=1.5406オングストローム)を用いて、層状構造体の(001)面由来の回折ピークの有無を調べた。
【0061】
[溶解性]
層状構造体5mgが溶媒0.5gに溶解するか目視で判断した(○:完全溶解、△:ほぼ溶解、×:不溶)。
【0062】
[層状構造体の5%重量減少温度]
SII製TG/DTA200を用い、空気雰囲気下、室温から20℃/minの昇温速度で昇温したときの重量減少曲線から、5%重量減少温度を求めた。
【0063】
[Si−OH基の定量]
Chemagnetics社製CMXW−300を用いて、29SiCP/MAS NMR測定によりピークの帰属を、29Si DD/MAS NMR測定によりSi−OH基の定量を行った。29SiCP/MAS NMR法は、プロトンを介して磁化しながら測定を行うため、プロトンが近傍にある、すなわちOH基が結合した珪素のピーク強度が大きく観測されるという特長がある。従って、29SiDD/MAS NMR測定により得られる各ピークの強度比と、29SiCP/MAS NMR測定により得られる各ピークの強度比を比較することによって、OH基が結合した珪素であるかどうかを推定した。さらに、プロトンの磁化を珪素に移すための接触時間を可変したときの磁化強度(シグナル強度)の変化が、珪素に結合したOH基の数によって変化することを利用して、OH基が2個、1個あるいは0個結合した珪素であるかを特定した。29SiCP/MAS NMR測定では、プロトンが近傍にないか、あるいは分子運動性が大きい珪素は観測されにくいため、定量性に欠ける。従って、Si−OH基の定量は29SiDD/MAS NMR測定から行った。
【0064】
[有機−無機複合材料の無機灰分量]
有機−無機複合材料約5gを精秤、電気炉(550℃)で3時間焼成し、焼成前後の重量変化から無機灰分量を求めた。
【0065】
[延伸]
280℃で熱プレスした後、急冷することによって作成した厚み約150μmのフィルムを5cm×5cmに切断して、井元製作所製自動二軸延伸装置に取り付け、延伸温度90℃、延伸速度120mm/minで、3×3倍に同時二軸延伸した。延伸可能であった場合を○、途中で破断した場合を×で示した。
【0066】
比較例1
塩化マグネシウム6水和物((株)カーク製)14.64gをエタノール600mlに溶解させた溶液に、フェニルトリメトキシシラン(KBM−103、信越化学工業(株)製)19.04gをエタノール600mlに溶解させた溶液を添加し、50℃に保持した。この溶液を攪拌しているところに、0.5mol/l水酸化ナトリウム水溶液288mlを5時間かけて滴下した。さらに、50℃で50時間攪拌を続けた後、室温で静置した。その後、ろ過して、500mlのイオン交換水で3回、500mlのエタノールで2回洗浄後、120℃で12時間真空乾燥した。得られた生成物のSi−OH基の定量結果を表1に、溶媒溶解性、および耐熱性を表2に示した。
【0067】
比較例2
塩化ベンザルコニウムの50%水溶液(東京化成(株)製)21.03g、温水1Lを添加し攪拌した。山形産モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製クニピアF:イオン交換容量119meq/100g)25gに温水1.2Lを添加し、ジューサーミキサーで2分間攪拌した懸濁液を調製し、これを、あらかじめ調製した塩化ベンザルコニウム水溶液に注いだ。2時間30分攪拌後、濾過し、温水洗浄を3回行った。残留物を60℃で3日間真空乾燥後、乳鉢で粉砕し、ベンザルコニウム化モンモリロナイトを得た。得られたベンザルコニウム化モンモリロナイトの溶媒溶解性、および耐熱性を表2に示した。
【0068】
実施例1
比較例1で得られた層状構造体10gに、脱水したトルエン(関東化学(株))250mlを添加し、窒素下で1時間攪拌して層状構造体を分散させた。ここに、ピリジン6.84g、トリメチルクロロシラン(東京化成(株)製)18.8gを添加し、室温で3時間攪拌した後、6時間還流させた。これを室温まで冷却、ろ過した後、ろ液に250mlの水を添加し、トルエン層から水溶性成分を抽出した(この作業を3回繰り返した)。その後、生成物が析出しない量までトルエン層を濃縮し、ここにエタノール300mlを添加した(白色粉末が析出した)後、ろ過して、析出物をエタノール水溶液50mlで3回洗浄した。これを120℃で12時間真空乾燥して、Si−OH基がトリメチルシリル基で封鎖された生成物(これが本発明の層状構造体である)を得た。得られた生成物のSi−OH基の定量結果を表1に、溶媒溶解性、および耐熱性を表2に示した。
【0069】
【表1】

【0070】
表1から、比較例1で得られた生成物には、OH基が結合している珪素は、全珪素中53%含まれると推定されるが、これをトリメチルシリル化することにより、OH基が結合した珪素を5%まで低減した実施例1の層状構造体を合成できた。
【0071】
【表2】

【0072】
表2において、実施例1、比較例1、2を比較すると、すべてが、層状構造を形成している構造体であると判断できるが、溶媒に溶解する生成物は実施例1のみであった。また、実施例1の生成物は、耐熱性が最も高かった。従って、実施例1の生成物は、耐熱性が高く、極めて有機物との親和性に優れるといえる。
【0073】
実施例2
ジメチルテレフタレート(三菱化学(株)製)111g(0.572mol)、エチレングリコール((株)カーク製)71.0g(1.14mol)、実施例1で得られた生成物1.10g、酢酸マグネシウム4水和物(アルドリッチ製)0.0331g(0.000154mol)を仕込み、窒素雰囲気下、220℃まで8時間かけて徐々に昇温して、エステル交換反応を行い、反応終了直前に、リン酸トリメチル10%エチレングリコール溶液を0.440g添加し、ビスヒドロキシエチルテレフタレートと層状構造体からなる複合体を得た。これに、三酸化アンチモン0.044gを添加し、250℃で融解させた後、徐々に減圧、昇温を開始し、最終的に、50Pa、280℃で重縮合反応を行い、ポリエチレンテレフタレートと層状構造体からなる有機−無機複合材料を得た。この有機−無機複合材料を280℃でプレス後、急冷して得られたフィルムの特性を表3に示した。
【0074】
比較例3
実施例1の層状構造体の代わりに、比較例1で得られた生成物を用いる以外は、実施例2に記載した方法と全く同様の方法で有機−無機複合材料を得た。この有機−無機複合材料を280℃でプレス後、急冷して得られたフィルムの特性を表3に示した。
【0075】
比較例4
ジメチルテレフタレート111g(0.572mol)、エチレングリコール71.0g(1.14mol)、酢酸マグネシウム4水和物0.0331g(0.000154mol)を仕込み、窒素雰囲気下、220℃まで8時間かけて徐々に昇温して、エステル交換反応を行い、反応終了直前に、リン酸トリメチル10%エチレングリコール溶液を0.440g添加し、ビスヒドロキシエチルテレフタレートを得た。これに、比較例2で得られた生成物0.804g、三酸化アンチモン0.044gを添加し、250℃で融解させた後、徐々に減圧、昇温を開始し、最終的に、50Pa、280℃で重縮合反応を行い、ポリエチレンテレフタレートと層状構造体からなる有機−無機複合材料を得た。この有機−無機複合材料を280℃でプレス後、急冷して得られたフィルムの特性を表3に示した。
【0076】
【表3】

【0077】
実施例2と比較例3、4を比較すると、熱プレスフィルムの透明性を保持している実施例2と比較例3は、無機物とポリエチレンテレフタレートとの親和性が良く、ポリエチレンテレフタレート中に無機物が微分散していると推定されるが、比較例3は、熱プレスフィルムが着色したことからポリエチレンテレフタレート重合時に無機物が一部分解したと考えられる。また、比較例3の有機−無機複合材料は、延伸時局所的に応力が作用して破断したと推定されることから、無機物に含まれるSi−OH基にポリエチレンテレフタレートが共有結合した構造を含む不均一な構造を形成していると考えられる。従って、実施例2の有機−無機複合材料のみが、均一な構造を有する有機−無機複合材料であるといえる。
【0078】
実施例3
ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、ユーピロン S3000)1kgと実施例1の層状構造体10gをドライブレンドした後、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数200rpmの条件で運転中の池貝鉄工所製PCM30型2軸押出機のフィーダーに全量供給して溶融混練を行い、ペレット化した。このペレットは、目視で無色透明であった。
【0079】
比較例5
実施例1の層状構造体の代わりに、比較例1で得られた生成物を用いる以外は、実施例3と全く同様の方法でペレット化した。このペレットは、目視で、黄色であり、凝集物が認められた。
実施例3と比較例5の比較から、実施例1の層状構造体を使用することにより、溶融混練することによっても、層状構造体を均一に微分散させることができると推定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシランと金属ハロゲン化物、有機金属化合物および金属アルコキシシドから選ばれる少なくとも1種の金属化合物(ただし、ここで金属はMg、Al、Ni、Co、Ti、Cu、Mn、Fe、Liから選ばれる少なくとも1種である)を縮合させて得られる構造を基本骨格とし、Si−OH基の一部ないし全部が疎水性官能基で封鎖された層状構造体であって、29SiDD/MAS NMRスペクトルにおける、一般式(1)の珪素に由来するピークの総面積に対して、OH基が1つ結合した珪素とOH基が2つ結合した珪素のピーク面積の和が10%以下である層状構造体。
【化1】


(R、Rは有機基を表す。)
【請求項2】
一般式(1)で表されるアルコキシシランのRが炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、エポキシ基、メルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、不飽和二重結合基から選択される基を含有する有機基である請求項1記載の層状構造体。
【請求項3】
一般式(1)で表されるアルコキシシランのRがフェニル基である請求項1記載の層状構造体。
【請求項4】
一般式(1)で表されるアルコキシシランのRが炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基である請求項1記載の層状構造体。
【請求項5】
一般式(1)で表されるアルコキシシランのRがメチル基又はエチル基である請求項1記載の層状構造体。
【請求項6】
熱重量−示差熱分析(TG−DTA)にて、空気雰囲気下、20℃/minの昇温速度で層状構造体を昇温したときの5%重量減少温度が、320℃以上600℃未満である請求項1〜5のいずれかに記載の層状構造体。
【請求項7】
アルコキシシランと金属化合物とを溶液中で縮合させた後、得られる生成物のシラノール基を、脱水溶媒中でシリル化する請求項1〜6のいずれかに記載の層状構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の層状構造体を熱可塑性樹脂に配合してなる有機−無機複合材料。

【公開番号】特開2006−36852(P2006−36852A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216099(P2004−216099)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】