説明

層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法、およびこれより得られる層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミド繊維

【課題】分散性が高度に優れた層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミド組成物の製造方法を提供するとともに、難燃性に優れた層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミド繊維を提供する。
【解決手段】無機塩および層状粘土鉱物を含有するアミド系溶剤より全芳香族ポリアミド−層状粘土鉱物スラリーを形成させ、このスラリー中の全芳香族ポリアミドを溶解させることで分散性が高度に優れた層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミドドープを調製し、このドープから層状粘土鉱物の分散性の高い難燃性に優れたポリアミド繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性の改善された全芳香族ポリアミド繊維を得るための層状粘度鉱物含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法、およびこれより得られる層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミド繊維に関するものである。さらに詳しくは、層状粘土鉱物を配合した新規な難燃性全芳香族ポリアミド繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドが、耐熱性および難燃性に優れていることは周知であり、また、これらの全芳香族ポリアミドはアミド系極性溶剤に可溶であり、全芳香族ポリアミドを該溶剤に溶解した重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸などの方法により繊維となし得ることもよく知られている(例えば、特許文献1〜9参照)。上記全芳香族ポリアミド繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものであり、これらの特性を発揮する分野、例えば、フィルター、電子部品などの産業用途や、耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される防護衣などの防災安全衣料用途などに用いられている。
【0003】
なかでも、防護衣は、溶鉱炉、電気炉、焼却炉などの高温炉前で着用する防護衣、消火作業に従事する人のための消防衣料、高温火花を浴びる溶接作業用の溶接防護衣、引火性の強い薬品を取り扱う人のための難燃作業服などとして幅広く使用されている。とりわけ、メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、その優れた耐熱性、難燃性、自己消化性に加えて一般の糸質が衣料用繊維、例えば綿、羊毛などの天然繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維によく似ているため、加工性、着心地、洗濯性、衣裳性などの面で、従来防護衣に使用されていたガラス繊維、石綿繊維、フェノール樹脂繊維、金属箔コーティング素材などよりも防護衣素材として優れていることが認められている。
【0004】
しかしながら、既存の繊維は、難燃性に限界があるため、消火活動・人命救助活動の範囲にも限界が生じている。従って、従来から難燃性の高い全芳香族ポリアミド繊維製の防護衣素材の難燃性が飛躍的に向上すれば、例えば消火活動において、火災の進行状況にかかわらず、火災現場内部へ進入して早期の消火・救出活動を可能とすることや、最盛期の火災であっても、火元に接近して直接注水して早期に消火することが可能となる。これにより、消火活動における水損を大幅に低減する、救助の迅速・早期化を実現する、消防隊員の安全性を向上する、などのメリットが期待される。
【0005】
従来、全芳香族ポリアミド繊維の難燃性を改善するため、ポリマーに有機リン化合物、含リンフェノール樹脂、ハロゲン化合物などを添加する方法が提案されており、ハロゲン原子含有の有機リン化合物を配合して難燃性を改善する方法が提案されている(下記特許文献10参照)。しかし、これらは、低分子量の有機化合物であるため、繊維成形加工時にその一部が排出されてしまうもしくはハロゲン含有の為に環境問題を危惧した近年の脱ハロゲン化の動きに反する問題点を有する。
【0006】
また、耐熱性や難燃性を向上させる目的で、繊維状、針状の無機フィラーが難燃化剤として用いられ、耐熱性、難燃性が向上することが知られている。
例えば、水酸化マグネシウムおよび、エラストマーをポリアミド樹脂にそれぞれ30重量%以上、3〜20重量%含有させ、難燃性を向上させたポリアミド樹脂が開示されている(下記特許文献11参照)。
しかしながら、金属水酸化物を繊維中に添加して難燃性を向上させるためには、大量に添加しなければならない。その結果、繊維の引張強度、弾性率などの機械的物性が低下すると共に、紡糸工程において生産安定性が著しく低下することがあり、必ずしも難燃性の向上と機械的物性の持続が可能であるとは限らない。
また、難燃性向上効果を紡糸工程での生産安定性を損なうことなく有効に発現せるためには、繊維中にフィラーを高度に分散させる必要があり、全芳香族ポリアミド繊維に対して機械的分散処理による高せん断下での分散なども試みられているが、良好な分散状態は達成されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭35−14399号公報
【特許文献2】特公昭47−10863号公報
【特許文献3】特公昭48−17551号公報
【特許文献4】特開昭50−52167号公報
【特許文献5】特開昭56−31009号公報
【特許文献6】特開平8−074121号公報
【特許文献7】特開平10−88421号公報
【特許文献8】特開2000−303365公報
【特許文献9】特開2001−348726公報
【特許文献10】特開昭53−122817号公報
【特許文献11】特開平11−100499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のごとき従来技術の問題を解消するためになされたもので、その1つの目的は、製糸安定性および従来の機械物性を損なうことなく難燃性に優れた全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、全芳香族ポリアミド粒子もしくは全芳香族ポリアミド繊維を製造する工程において発生する繊維屑を、該ポリアミドに対し30〜150重量%の無機塩および該ポリアミドに対し0.1〜20重量%の層状粘土鉱物を含有するアミド系溶剤と接触させ、該繊維屑が実質的に溶解しない温度において混合することにより全芳香族ポリアミド−層状粘土鉱物スラリーを形成させ、次いで、該スラリー中の全芳香族ポリアミドが溶解する温度に加熱することを特徴とする層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミドドープは、層状粘土鉱物が高度に分散した全芳香族ポリアミド組成物である。このため、本発明の層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミドドープは、層状粘土鉱物の分散性に優れたものとなり、従って当該ドープを紡糸して得られる層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミド繊維は、層状粘土鉱物の分散性が高度に優れている。このため、本発明の層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミド繊維は、難燃性に優れたものとなり、難燃性に優れた各種繊維製品を提供することができる。特に、防護衣料用途への素材展開について極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明における全芳香族ポリアミドは、溶液中でのジカルボン酸ジクロライドとジアミンとの低温溶液重合、または界面重合から得ることができる。具体的に本発明において使用されるジアミン成分としては、p-フェニレンジアミン、2-クロルp-フェニレンジアミン、2,5-ジクロルp-フェニレンジアミン、2,6-ジクロルp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフォンなどを単独あるいは2種以上挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
中でもジアミン成分として、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミンおよび3,4’-ジアミノジフェニルエーテルを単独あるいは2種以上使用することができる。
【0013】
また、具体的に本発明において使用されるジカルボン酸クロライド成分としては、例えばイソフタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、2-クロルテレフタル酸クロライド、2,5-ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6-ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライドなど挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でもジカルボン酸クロライド成分として、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライドが好ましい。従って、本発明における全芳香族ポリアミドの例として、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、ポリアミドが、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよび、ポリメタフェニレンテレフタルアミドなどを挙げることができる。
【0014】
全芳香族ポリアミドを重合する際の溶剤としては、具体的にN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。これらの溶剤は、2種以上の混合溶剤として使用することも可能であり、特に制限されることはない。上記溶剤は、脱水されていることが望ましい。特に、上記アミド系溶剤が好ましい。
【0015】
この場合、溶解性を挙げるために、重合前、途中、終了時に一般に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩として、例えば塩化リチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0016】
本発明の全芳香族ポリアミドの製造において用いられる全芳香族ポリアミド溶液のポリマー濃度は、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%である。ポリマー濃度が0.5重量%未満では、ポリマーの絡み合いが少なく紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、ポリマー濃度が30重量%を超える場合、ノズルから吐出する際に不安定流動が起こりやすくなり安定的に紡糸することが困難となる。
また、全芳香族ポリアミドを製造する際、これらのジアミン成分と酸クロライド成分は、ジアミン成分対酸クロライド成分のモル比として好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05で、用いることが好ましい。
【0017】
この全芳香族ポリアミドの末端は封止されることもできる。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えばフタル酸クロライドおよびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
【0018】
一般に用いられる酸クロライドとジアミンの反応においては生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩を併用できる。
【0019】
反応の終了後、必要に応じて塩基性の無機化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを添加し中和反応する。
【0020】
反応条件は特別な制限を必要としない。酸クロライドとジアミンとの反応は、一般に急速であり、反応温度は例えば-25℃〜100℃好ましくは-10℃〜80℃である。
【0021】
このようにして得られる全芳香族ポリアミドは、アルコール、水といった非溶剤に投入して、沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。これを再度他の溶剤に溶解して成形に供することもできるが、重合反応によって得た溶液をそのまま成形用溶液として用いることができる。再度溶解させる際に用いる溶剤としては、全芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定はされないが、上記全芳香族ポリアミドの重合に使用される溶剤が好ましい。
なお、全芳香族ポリアミドの固有粘度(98%濃度の硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した値)は、通常、2.0〜4.0程度である。
【0022】
本発明で対象となる全芳香族ポリアミド粒子とは、重縮合によって得られる上記パルプ状のものである。
【0023】
一方、本発明で対象とする全芳香族ポリアミド繊維は、公知の製造方法により製糸されたものでよい。例えば、紡糸用の全芳香族ポリアミドドープを半乾半湿式紡糸法により凝固液中に押し出し、凝固液から凝固糸として引き取り、水洗工程にて溶剤を十分に除去し、乾燥工程にて水分を乾燥したのち熱処理あるいは熱延伸を行なうことのより製造される。
そして、本発明の方法で原料となる全芳香族ポリアミド繊維屑は、上記の如き全芳香族ポリアミド繊維の製造現場で発生する繊維屑であり、巻き始め、紙管交換時、品種変更時、トラブル発生時に発生するものである。
本発明におけり全芳香族ポリアミド繊維屑は、該ポリアミド繊維を製造する工程で発生する繊維屑のうち、特に未延伸繊維屑が好適に使用される。未延伸繊維屑とは、熱延伸または熱処理を行なう工程より前に発生する繊維屑のことであり、この繊維屑は後述のスラリーを形成しやすいため有利に使用される。
【0024】
次に、本発明で使用される層状粘土鉱物は、陽イオン交換能を有し、さらに層間に水を取り込んで膨潤する性質を示す層状粘土鉱物であり、スメクタイト型粘土や膨潤性雲母が挙げられる。具体的には例えば、スメクタイト型粘土としてヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、バイデライト、モンモリロナイト、またはこれらの天然または化学的に合成したもの、またはこれらの置換体、誘導体、あるいは混合物を挙げることができる。
本発明では、上記層状粘土鉱物を表面処理剤として、有機オニウムイオンによって処理したものを用いるのが良い。有機オニウムイオンで処理することにより、アラミドへの分散性が向上し、成形性が向上する。
使用される有機オニウムイオンは下記式
【0025】
【化1】

【0026】
(R、R、RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜30のアルキル基またはエチレンオキサイドである。)
の構造である4級アンモニウムイオンが好ましい。ここで、アルキル基としては炭素数1〜30のものが好ましい。
【0027】
本発明で使用される4級アンモニウムイオンの具体例としては、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルトリメチルアンモニウムクロライド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、ドデシルジエチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オレイルジメチルベンジルクロライド、ヒドロキシポリオキシエチレンドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヒドロキシポリオキシエチレンテトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヒドロキシポリオキシエチレンヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヒドロキシポリオキシエチレンオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヒドロキシポリオキシエチレンオレイルジメチルアンモニウムクロライド、ジヒドロキシポリオキシエチレンドデシルメチルアンモニウムクロライド、ジヒドロキシポリオキシエチレンテトラデシルメチルアンモニウムクロライド、ジヒドロキシポリオキシエチレンヘキサデシルメチルアンモニウムクロライド、ジヒドロキシポリオキシエチレンオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ジヒドロキシポリオキシエチレンオレイルメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。
【0028】
層状粘土鉱物の有機オニウムイオンでの処理方法は、通常、層状粘土鉱物1重量部、有機オニウムイオン1〜10重量部とを水中で混合した後、乾燥する。水の量は、層状粘土鉱物の1〜100倍である。また、混合するときの温度は、30℃〜70℃であり、混合時間は0.5から2時間が好ましい。乾燥条件としては、70℃〜100℃で3日間常圧乾燥、2日間真空乾燥が好ましい。
【0029】
本発明において、物性を損なわない範囲で、層状粘土鉱物以外のフィラーを併用することができる。用いるフィラーとしては、繊維状もしくは、板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品など非繊維状の充填剤が挙げられ、具体的には例えば、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、石膏繊維、セラミック繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボンなどが挙げられる。また、上記のフィラーは2種以上を併用して使用することもできる。
なお、本発明に使用する上記のフィラーはその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
【0030】
本発明では、全芳香族ポリアミド繊維屑を含む混合物を混練・溶解させるにあたり、溶解性を向上させるために、アミド系溶剤中に無機塩を添加することが必要である。かかる無機塩としては、塩化カルシウム、塩化リチウム、炭酸リチウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記無機塩の量は、全芳香族ポリアミド繊維屑に対して、30〜150重量%、好ましくは50〜100重量%範囲である。上記無機塩の量が、30重量%未満の場合には、上記ポリアミド繊維屑のアミド系溶剤に対する溶解性が不十分となるため好ましくない。一方、150重量%を超える場合には、上記無機塩をアミド系溶剤中に完全に溶解することが困難となるため好ましくない。
【0031】
また、本発明の目的とする分散性が高度に優れた層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミドドープを調製するためには、アミド系溶剤中に層状粘土鉱物を添加することが必要である。上記層状粘土鉱物の量は、全芳香族ポリアミド繊維屑に対して、通常、0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲である。上記層状粘土鉱物の量が、20重量%を超える場合には、アミド系溶剤に対する分散性が悪化するため、好ましくない。一方、0.1重量%未満の場合には、繊維難燃性向上の効果が見られず好ましくない。
【0032】
本発明において、全芳香族ポリアミド繊維屑のアミド系溶剤に対する濃度は、生産性の観点からは大きい方が好ましいが、ドープの粘性の観点から20重量%以下が好ましい。さらに好ましくは、3〜10重量%である。20重量%を超える場合、ドープ粘性が著しく高くなり、取り扱いが困難になるため好ましくない。
【0033】
本発明では、まず全芳香族ポリアミド繊維屑を、上記無機塩および層状粘土鉱物を含有するアミド系溶剤と接触させて、該繊維屑が溶解しない温度で混合して、スラリーを形成させる。
この際の温度としては、好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは15〜40℃である。
【0034】
次いで、上記スラリー中の全芳香族ポリアミド繊維屑が溶解する温度に加熱することにより、層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミドドープを生成させる。
この場合の系中の温度は、全芳香族ポリアミド繊維屑の溶解性を高める観点からは高い方が良いが、アミド系溶剤の熱劣化・分解を避けるという点で、130℃以下が好ましい。さらに好ましくは、50〜120℃である。
【0035】
なお、本発明において、全芳香族ポリアミド繊維屑とアミド系溶剤を混合し、該混合物をせん断応力下に混練する方法が、特に溶解性が良好であり、工業的に好ましい。
本発明で用いられる混練装置としては、せん断混練りできるものであれば特に制限はなく、一軸押出機、二軸押出機などのスクリュー式押出機、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、ローラー、ニーダーなどを挙げることができる。
ここで、本発明の全芳香族ポリアミド繊維屑は、アミド系溶剤への溶解効果を高める目的であらかじめシュレッダーなどにより微細に粉砕しておくことができ、多くの場合その方が好ましい。
このようにして得られた全芳香族ポリアミドドープは、不溶分の濾別、脱色などの処理を施して精製することができる。
【0036】
本発明の層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミド繊維の製造方法は、本発明の層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミドドープを原料として用いるものであれば、特に限定されるものではなく、公知の紡糸方法を採用することができる。湿式紡糸、乾式紡糸、半乾半湿式紡糸のいずれを採用することも可能であり、本発明により調製されたドープから紡糸を行う方法が好ましい。
【0037】
本発明において、全芳香族ポリアミド繊維の製造方法としては、全芳香族ポリアミド繊維屑、上記無機塩、層状粘度鉱物、およびアミド系溶剤を用いて、上記のようにポリマードープを(紡糸用溶液)を調製し、得られたドープをノズルより吐出し、貧溶剤からなる凝固浴中で凝固、脱溶剤し、延伸、熱処理(乾燥)させることにより製造することができる。
【0038】
紡糸用ドープのポリマー濃度、すなわち全芳香族ポリアミドの濃度は、好ましくは0.05〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%である。
【0039】
また、本発明における紡糸用ドープには、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤、耐候剤、染料、帯電防止剤、難燃剤、導電性ポリマー、その他の重合体を添加することができる。
【0040】
上記方法によって得られた紡糸用ドープを用いて、湿式法、半乾半湿式法などにより繊維に成形し、脱溶剤槽で溶剤を除去した後、乾燥することで本発明の全芳香族ポリアミド繊維を製造することができる。
【0041】
また、得られた成形体を延伸することにより、ポリマーマトリクスである全芳香族ポリアミドポリマーが高度に配向し、全芳香族ポリアミド繊維の高物性が発現すると考えられる。
【0042】
延伸の方法としては、凝固糸状態での水洗延伸、沸水延伸、または乾燥糸状態での加熱延伸などを行うことができる。
【0043】
このように、層状粘土鉱物を含有させた全芳香族ポリアミドドープを凝固液中に展開して繊維状に成形する。続いて、この全芳香族ポリアミドポリマーを加熱条件下で延伸を行う。延伸倍率は、機械的物性から2〜10倍の範囲が好ましく、さらに好ましくは3〜6倍である。延伸倍率が2倍より低いと高強力繊維としての全芳香族ポリアミド繊維の特徴が無くなる。一方延伸倍率が10倍を超えるときには延伸時の糸切れが頻発し連続的な延伸が不可能である。
【0044】
また、全芳香族ポリアミド繊維の延伸温度は、機械的物性から450〜550℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは500〜530℃である。延伸温度が450℃より低いと延伸時の糸切れが頻発し、連続的な延伸が不可能である。一方、延伸温度が550℃を超えるときには全芳香族ポリアミドポリマーの熱劣化が起こり、高強力繊維としての全芳香族ポリアミド繊維の特徴が無くなる。
【0045】
このようにして得られる全芳香族ポリアミド繊維の具体例としては、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分、もしくは芳香族アミノカルボン酸成分から構成される全芳香族ポリアミドポリマー、またはこれらの共重合ポリマーからなる繊維であり、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維などが例示できる。なかでも、コポリパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレン・テレフタラミド繊維が高い強度を有すると同時に耐久性に優れているので特に好ましい。
【0046】
全芳香族ポリアミド繊維の強度としては、18cN/dtex以上、さらに好ましくは20〜30cN/dtexの範囲が適当である。強度が18cN/dtex未満である場合には、長期間の使用に対し強度が十分でないために優れた耐久性を得ることが困難である。単繊維繊度および長繊維で用いる場合のヤーンデニールとも特に限定する必要はないが、好適な単繊維繊度は、0.55〜5.5dtex、特に1.1〜3.3dtexであり、ヤーン繊度は110〜5,500dtex、特に330〜3,300dtexの範囲が適当である。
【0047】
かくて、本発明の全芳香族ポリアミド繊維においては、全芳香族ポリアミド100重量部に対し、層状粘土鉱物が0.1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部の範囲で含まれている必要がある。層状粘土鉱物の含有量が全芳香族ポリアミド100重量部に対して0.1重量部未満である場合には目標とする難燃性が得られず、一方20重量部を超える場合には成形性が乏しくなるので好ましくない。
【0048】
このようにして得られる本発明の全芳香族ポリアミド繊維における層状粘土鉱物の平均層厚みは、500nm以下、特に200nm以下であることが好ましい。なお、ここでいう層状粘土鉱物の平均層厚みとは、繊維の縦断面の電子顕微鏡測定(倍率10万倍)において断面積25μm中に観察される全ての層状粘土鉱物から求められる層厚みの平均値である。層状粘土鉱物の平均層厚みが500nmよりも大きくなると製糸時の成形安定性を確保することが困難となることがある。一方、層状粘土鉱物を分子レベルまで分散させようとすると、層状粘土鉱物の増粘効果や分散性確保のために溶液濃度を低下させる必要があり、紡糸の生産性が低下するだけでなく、得られる繊維の靱性向上効果が小さくなる傾向があるので、10nm以上、特に12nm以上であることが好ましい。
【0049】
また、繊維の縦断面の電子顕微鏡測定(倍率10万倍)において断面積25μm中に観察される全ての層状粘土鉱物から求められる分散性(Y)は、0.1〜40であること、特に0.5〜30であることが好ましい。
ここで、分散性(Y)は、その切断面において層状粘土鉱物の影響によって状態に変化が認められる領域の面積(S1)と、観察した全領域の面積(S2)とから下式により求めた値である。
Y(%)=S1/S2×100
【0050】
さらに、本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、JIS L 1091 E法に準拠した測定した限界酸素指数(難燃性、LOI値)が27以上、好ましくは28以上である。
本発明の全芳香族ポリアミド繊維の限界酸素指数は、繊維中に層状粘土鉱物を上記範囲量で含有させることにより、達成することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
なお、実施例中の各特性値は以下の方法で測定した。
<固有粘度>
ポリマーを98%濃硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
<繊度>
JIS−L−1015に準じ、測定した。
<強度、伸度、弾性率>
JIS−L−1015に準じ、試料長20mm、初荷重1/20g/dtex、伸張速度20mm/分で測定した。
<層状粘土鉱物の、平均層厚み、分散性>
前掲
<難燃性LOI値>
限界酸素指数(LOI値)の測定は、JIS L 1091 E法に準拠した測定法にて測定を実施した。
【0052】
[実施例1〜4、比較例1]
添加する層状粘土鉱物はルーセンタイトSPN(コープケミカル社製)を使用した。
まず、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(共重合モル比が1:1の全芳香族ポリアミド、帝人テクノプロダクツ社製、固有粘度=3.4)の濃度6重量%のNMPドープを用い、孔数1,000ホールの紡糸口金から吐出し、エアーギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出し凝固した後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度520℃下で10倍に延伸した後、巻き取ることによりパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。
全芳香族ポリアミド繊維屑は、上記延伸工程における糸切れによって発生した固有粘度(IV)が3.5の未延伸繊維屑を使用した。
この全芳香族ポリアミド繊維屑6重量部に対してNMP/塩化カルシウム/層状粘土鉱物=89重量部/5重量部/0.06〜1.2重量部の溶液を加え、25℃にて30分間撹拌して、全芳香族ポリアミド繊維屑のアミド系溶剤スラリーを得た。このスラリーを浅田鉄工株式会社製プラネタリーミキサー(製品名PVM−5)を用いて、60℃に加熱、混練した。60分後に内容物の確認を行ったところ、溶解は完了していた。
得られたドープを用い、孔数100ホールの紡糸口金から吐出し、エアーギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出し凝固した後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度520℃下で10倍に延伸した後、巻き取ることにより層状粘土鉱物が良好に分散した状態で添加されたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。それぞれ得られた延伸糸の物性を表1に示す。
【0053】
[比較例2]
層状粘土鉱物を添加しないこと以外は、実施例1と同様の方法で全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた延伸糸の物性を表1に示す。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により得られる全芳香族ポリアミド繊維は、優れた難燃性を有する繊維製品を提供することができ、特に防護衣料用途の素材として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族ポリアミド粒子もしくは全芳香族ポリアミド繊維を製造する工程において発生する繊維屑を、該ポリアミドに対し30〜150重量%の無機塩および該ポリアミドに対し0.1〜20重量%の層状粘土鉱物を含有するアミド系溶剤と接触させ、該繊維屑が実質的に溶解しない温度において混合することにより全芳香族ポリアミド−層状粘土鉱物スラリーを形成させ、次いで、該スラリー中の全芳香族ポリアミドが溶解する温度に加熱することを特徴とする層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法。
【請求項2】
スラリー形成時の混合をせん断応力下にて実施する請求項1記載の層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法。
【請求項3】
全芳香族ポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1または2記載の層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミドドープの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の方法で調製されたドープを紡糸して得られる層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
層状粘土鉱物の平均層厚みが10〜500nmである請求項4に記載の層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項6】
層状粘土鉱物の分散性(Y)が0.1〜40である請求項4または5に記載の層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項7】
限界酸素指数(LOI値)が27以上である請求項4〜6いずれかに記載の層状粘土鉱物含有全芳香族ポリアミド繊維。

【公開番号】特開2010−229297(P2010−229297A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78648(P2009−78648)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】