説明

工作機械の定寸加工制御方法及びその装置

【課題】本発明は、2つの砥石台により異なる加工箇所を同時に各々独立して加工を行うツインヘッド研削盤では、研削加工が同時に進行できないことがあり、一方が加工中に他方でスパークアウトを行った際、工作物には一方の砥石から抵抗が掛かって撓んだ状態であるため、スパークアウトを行われない。
【解決手段】そこで、スパークアウト工程の1つ前の工程における最終目標寸法に先に達した加工箇所の砥石台を一端所定量後退させ、他方の加工箇所が最終目標寸法に達したらその砥石台も所定量後退させた後、同時に両砥石台によりスパークアウトを行うようにすることで、スパークアウトを確実に行えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの砥石台によりクランク軸の異なるクランクピンを同時に各々独立して研削することのできるツインヘッドクランクピン定寸研削制御方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの砥石台によりクランク軸の異なるクランクピンを同時に各々独立して研削することのできるツインヘッドクランクピン研削方法は特開昭54−71495号公報により既に知られているが、この場合、加工部分であるクランク軸のクランクピン部分はクランク軸のジャーナル部を中心に旋回するので加工部分を直接測定しながら加工を行う場合には、後述する追従式の定寸装置を使用し、各加工部分が所定寸法に至る毎に定寸装置から発せられる信号に基づいて対応する砥石台の送りを制御する方法が採用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のツインヘッドクランクピン研削盤においては、各砥石台による加工は独立して行われるので、工作物の状態、砥石の状態等により各砥石台による研削加工が同時に進行できないことがある。従って、一方がスパークアウト、即ち切り込みを零としても、工作物には他方の砥石台の砥石から工作物に抵抗が掛かっており、工作物が撓んだ状態となっているため、スパークアウトがされなくなってしまい、クランクピンの仕上げ精度、真円度に影響を及ぼすこととなる。また、他方がスパークアウト完了まで一方の砥石台をスパークアウト状態に維持しておくと、切り込み過ぎとなってしまう。
【0004】
そこで、本発明の目的は、2つの砥石台によりクランク軸の異なるクランクピン等の、同一工作物の2箇所を同時に各々独立して研削することのできるツインヘッド研削において、高精度な研削加工、特に、仕上げ精度、真円度向上ができる定寸加工制御方法及びそのための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明の工作機械の定寸研削制御方法は、それぞれに対応した位置に定寸装置を備えた少なくとも2つ以上の工具台により同一の工作物の異なる加工箇所に同時に各々独立して加工を行うことのできる工作機械の加工制御方法であって、先に目標寸法に達した加工箇所の工具台は所定量後退させ、全ての加工箇所の工具台が所定量後退した後に次工程の加工を同時に行うことを特徴とするものである。
【0006】
また、前記特徴に加え、少なくとも最終工程の前の1段階において、先に目標寸法に達した加工箇所の工具台は所定量後退させ、全ての工具台が所定量後退した後に次工程の加工を同時に行うことを特徴とするものでり、更に、最後に目標寸法に達した加工箇所の工具台は所定量後退させることなく他の工具台とともに次工程の加工を同時に行うようにしたことを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の工作機械の定寸研削制御方法は、それぞれに対応した位置に定寸装置を備えた2つの砥石台により同一の工作物の異なる加工箇所に同時に各々独立して研削加工を行うことのできるツインヘッド研削盤の定寸加工制御方法であって、少なくとも最終のスパークアウト工程を行う前の1段階において、測定値が目標寸法に達した加工箇所の砥石台は所定量後退させ、双方の砥石台が所定量後退した後にスパークアウト工程を同時に行うことを特徴とするものである。さらには、少なくとも最終のスパークアウト工程を行う前の1段階において、先に測定値が目標寸法に達した加工箇所の砥石台は所定量後退させ、他方の加工箇所が目標値に達すると、前記後退した砥石台を後退した分だけ前進させて双方の砥石台により同時にスパークアウト工程を行うことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の工作機械の定寸研削制御装置は、それぞれに追従式定寸装置を備えた2つの砥石台によりクランク軸の異なるクランクピンを同時に各々独立して研削することのできるツインヘッドクランクピン研削盤において、2つの砥石台を加工位置に割出す手段と、2つの砥石台を研削するために前進させる手段と、2つの砥石台において最終研削加工の前の少なくとも1段階において、同時に工作物の測定を行う手段と、測定結果が先に目標寸法に達した加工箇所の砥石台を所定量後退させる手段と、他方の加工箇所の測定結果が目標寸法に達すると同時に一方の後退した砥石台を後退した分だけ前進させる手段と、双方の砥石台により同時にスパークアウト工程を行う手段とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、それぞれに対応した位置に定寸装置を備えた少なくとも2つ以上の工具台により同一の工作物の異なる加工箇所に同時に各々独立して加工を行うことのできる工作機械の加工制御方法であって、先に目標寸法に達した箇所の工具台は所定量後退させ、全ての箇所の工具台が所定量後退した後に次工程の加工を同時に行うようにしたので、工作物に掛かる研削抵抗が均一となるので、真円度等に悪影響を与える恐れがなく、高精度の研削を行うことができる。
【0010】
また、少なくとも最終工程の前の1段階において、先に目標寸法に達した箇所の工具台は所定量後退させ、全ての工具台が所定量後退した後に次工程の加工を同時に行うことことにより、全ての加工箇所の仕上げ寸法を高精度に加工することができる。
【0011】
また、最後に目標寸法に達した箇所の工具台は所定量後退させることなく他の工具台とともに次工程の加工を同時に行うようにすることにより、高精度に且つサイクルタイムを短縮することができる。
【0012】
また、本発明の定寸加工制御方法をツインヘッド研削盤に適用することにより、その特徴的な作用効果を顕著にすることができ、2つの砥石台によるスパークアウト工程を同時に且つ確実に行うことができるため、高精度な研削加工を行うことができる。
【0013】
また、後に測定値が目標寸法に達した加工箇所の砥石台は所定量後退させることなく双方の砥石台により同時にスパークアウト工程を行うようにすることにより、撓みによる加工精度の影響が少なく且つサイクルタイムを短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の工作機械の定寸加工制御方法を、ツインヘッドクランクピン研削盤に適用した実施例を図1〜図8について説明する。
【0015】
ツインヘッドクランクピン研削盤はその平面図を図1に示すように左右2つの加工ヘッドである砥石台8、9を左右方向・前後方向に摺動自在に設け、その砥石台8、9の砥石軸と平行する位置に工作物であるクランクシャフトWを支持する主軸台18及び心押台17が設置されている。すなわち、ベッド1上にはその長手左右方向(Z軸方向)のZ軸案内レール2上に右側砥石台8を載置する右側Z軸テーブル6が送りねじ3により摺動自在に設けられ、それと同列にベッド1上の長手左右方向(Z軸方向)に左側砥石台9を載置する左側Z軸テーブル7が送りねじ4により摺動自在に設けられている。左右のそれぞれのZ軸テーブル6、7には、砥石14、15を回転駆動自在に具備する砥石台8、9が前記長手左右方向(Z軸方向)と直交する前後方向(X軸方向)にそれぞれの送りねじ12、13により摺動自在に設けられている。
【0016】
前記左右砥石台8、9の前方長手方向に主軸台18、心押し台17が設置されており、その間に工作物であるクランクシャフトWを一対のセンターにより支持するようになっている。主軸台18にはクランクシャフト回転駆動用のサーボモータ18Mが設けられ、チャック等によりクランクシャフトWの軸端を把持して回転駆動できるように構成され、一方心押し台17はそのセンターによりクランクシャフトWの軸芯を支持するように構成されている。
【0017】
前記各送りネジにはエンコーダ付きのサーボモータが設けられ、後に説明する制御装置により制御される。すなわち、長手左右方向(Z軸方向)に右側砥石台8を載置する右側Z軸テーブル6を移動するための送りねじ3の端部にはエンコーダ70付きのサーボモータ60が設けられ、左側Z軸テーブル7のための送りねじ4にはエンコーダ72付きのサーボモータ68が設けられている。また、左右のそれぞれのZ軸テーブル6、7上には、砥石台8、9の前後方向(X軸方向)摺動用の送りねじ12、13の端部にエンコーダ50、52付きサーボモータ44、48が設けられている。砥石台8、9には砥石14、15が回転駆動されるように支持されており、当然砥石駆動用の駆動モータが砥石台8、9に内蔵されている。
【0018】
本発明の実施例に係るツインヘッドクランクピン研削盤の概略の構成は以上のようになっており、工作物であるクランクシャフトWを主軸台18、心押し台17間に支持し、左右Z軸テーブル6,7をサーボモータ60、68により砥石14、15がクランクシャフトWの加工位置、図1ではクランクピンCP(イ)及びCP(ハ)と整列対向する位置に割出す。次に主軸台18のエンコーダ18E付き主軸駆動サーボモータ18Mを回転しクランクシャフトWを制御回転させる。その際クランクシャフトWはその軸受部の軸芯、即ち、ジャーナルCP(ホ)中心で回転されるので、加工箇所であるクランクピンCP(イ)〜CP(ハ)はジャーナルCP(ホ)を中心とする公転旋回運動をすることになる。そして、左右両テーブル6、7上のX軸方向送りネジ12、13を各サーボモータ44、48により前進後退をさせる。その際、加工箇所であるクランクピンCP(イ)、(ハ)は公転旋回しているので、制御手段により主軸サーボモータ18Mの回転と同期させて砥石台8、9を前後動させながら回転砥石14、15により研削加工を行う。研削作業にあわせて砥石台8,9のサーボモータ44、48により切込み前進運動を与え、徐々に最終仕上げ寸法に仕上げるように作動する。
【0019】
また、本発明の実施例のツインヘッドクランクピン研削盤には、仕上げ寸法を制御するために各砥石台8、9の上面には、図2に示すように定寸装置20が載置されている。この定寸装置20は、公転旋回するクランクピンに絶えず接触しながら追従して加工箇所の寸法測定を行う形式の公知の追従式定寸装置(例えば、イタリア、マーポス社製)であり、以下、図2に基づいて説明する。
【0020】
砥石台9の上面に定寸装置20の支持部材21が載置され、該支持部材21に枢支され砥石15の前方に延びる第1アーム22の先端に第2アーム23が枢支され、更に第2アーム23の先端に約直角に採寸用の測定棒28が固定されている。該測定棒28は、その先端に固定され、加工箇所であるクランクピンCP(ハ)の外周に接触するVブロック25と、その中心に進退自在に設けられたプローブ27とからなり、該プローブ27の前進後退を電気的に検出して電気信号として出力する構造となっている。
【0021】
該Vブロック25の先端にはガイド部材26が固定されており、測定棒28のVブロック25がクランクピンCP(ハ)に係合するためのガイドの役目をしている。定寸装置20には、休止位置(2点鎖線位置)と測定位置(実線位置)とに測定棒28を移動するための作動装置が設けられている。
【0022】
砥石台9の上面には油圧シリンダ31が設けられ、前記第1アーム22の後端に垂直に、しかもオフセットして取付けられた操作片30を前記シリンダ31のピストン32により押圧することにより第1アーム22を上方へ回動させ、図2に2点鎖線で示される休止位置に保たれる。この時第2アーム23は第1アーム22先端に枢支されているのみであるので位置が保てないため、第1アーム22の先端部下方に第3アーム24が固定されており、第3アーム24先端の支持突起29により休止位置において第2アーム23の位置を保つように構成されている。2点鎖線の休止位置から、油圧シリンダ31のピストン32を戻すことにより徐々に測定棒28が降下しクランクピンCP(ハ)の位置にくると、まずガイド部材26がクランクピンCP(ハ)に接触し、ガイド部材26に沿ってクランクピンCP(ハ)がVブロック25に係合するようになっており、その時点では第2アーム23は第3アーム24の支持突起29から離れて自由に回動できるようになっている。即ち、クランクピンCP(ハ)が1点鎖線に示される軌跡に沿って公転旋回運動するに応じて常にVブロック25が係合するようになっている。
【0023】
次に本発明の実施例のツインヘッドクランクピン研削盤の制御装置を説明する。図3に示すように、本制御系は、数値制御装置置78を備えており、数値制御装置78は、右側砥石制御用CPU80及び左側砥石制御用CPU90、ROMI09、RAM111がバス88を介して相互に接続可能に構成されている。
【0024】
右側砥石制御用CPU80には、インターフェース82を介し、X軸サーボモータ用制御回路84、Z軸サーボモータ用制御回路86が接続されている。X軸サーボモータ用制御回路84には、右側X軸サーボモータ44が接続され、この右側X軸サーボモ一タ44には、前述したようにエンコーダ50が配置され、このエンコーダ50は、X軸サーボモータ用制御回路84に接続されている。Z軸サーボモータ用制御回路86には、右側Z軸サーボモータ60が接続され右側Z軸サーボモータは、前述したエンコーダ70が配置され、このエンコーダダ70は、Z軸サ一ボモータ用制御回路86に接続されている。
【0025】
また、左側砥石制御用CPU90には、インターフェース92を介して、X軸サーボモータ用制御回路94、Z軸サーボモータ用制御回路96、主軸サーボモータ用制御回路98が接続されている。X軸サーボモータ用制御回路94には、左側X軸サーボモータ48が接続されこの左側X軸サーボモ一タ48には、エンゴーダ52が配置され、このエンコーダ52は、X軸サーボモータ用制御回路94に接続されている。Z軸サーボモータ用制御回路96には、左側Z軸サーボモータ68が接続されこの左側Z軸サーボモータにはエンコーダ72が配置され、このエンコーダ72は、Z軸サーボモータ用制御回路96に接続されている。
【0026】
主軸サーボモ一夕用制御回路98には、主軸サーボモータ18Mが配置され、この主軸サーボモータ18Mには、エンコーダ18Eが配置され、このエンコーダ18Eは、主軸サーボモータ用制御回路98に接続されている。また,上記バス88には、インターフェース101を介して、CRT103及びテンキー105等を備えた入出力装置107が接続れている。ROM109には、システム制御プログラムなどが記億され、RAM111には加工プログラムなどが記憶されている。更に数値制御装置78のほかに、バス88にはシーケンスコントローラ112がインターフェース113を介して接続され、また左右両砥石台に設けられた左右の定寸装置20L,20RがA−D変換器を含むインターフェース114を介して接続されている。
【0027】
次に、本発明の特徴である具体的制御方式について、その制御ステップを示す図4のフローチャートに沿って説明する。まず加工開始120の信号により左右の砥石台8、9を、それぞれ加工箇所のクランクピンCP(イ)、CP(ハ)に整列させるために割出しを行う(121)。次に両砥石台8,9を早送り前進(122)させ、砥石14,15がクランクピンCP(イ),CP(ハ)の加工部分に接触した段階から両砥石台8,9は粗研削送り前進(123)となり、一定量研削した段階から一端砥石台20の前進を停止して、定寸装置20をそれぞれのクランクピンCP(イ),CP(ハ)の部分の挿入する(124)。そして、精研削送り前進(125)を行い精研削を行う。
【0028】
精研削では定寸装置20により寸法値測定を行い、先に一方のクランクピン(例えばCP(イ))が精研削終了の目標寸法に達すると、即ちどちらか一方の定寸装置20から定寸信号が出力されると(126)、対応した砥石台8を0.1mm〜0.5mmの所定量だけ後退(127)させ、クランクピンCP(イ)から砥石14を離隔させる。その間、他方の砥石台9は継続して精研削加工を行っており、この他方のクランクピンCP(ハ)が精研削終了の目標寸法に達すると(128)、即ち他方の定寸装置20から定寸信号が出力されると、対応する砥石台9も0.1mm〜0.5mmの所定量だけ後退(129)させ、クランクピンCP(ハ)から砥石15を離隔させる。
【0029】
そして、同時に両砥石台8,9を後退した量(0.1mm〜0,5mm)だけ前進(130)させ、同時にスパークアウト(131)を行い、クランクピンCP(イ),CP(ハ)の研削加工を終了し、左右の砥石台8,9を一定量後退させた後(132)に定寸装置を休止位置に戻して(133)砥石台8,9を後退(134)させる。さらに、ステップ(135)にて、次のクランクピンCP(ロ),CP(ニ)の研削加工が残っている際には(NO)となり、再び最初のステップに戻り、両砥石台をクランクピンCP(ロ),CP(ニ)に整列させる位置に砥石台8,9を割り出し(121)、同様の研削サイクルが実行され、全てのクランクピンの研削加工が終了すれば、両砥石台が原位置に復帰(136)して全ての研削サイクルが終了(137)する。
【0030】
以上の研削サイクルは図5に図示されており、上の線は左右の砥石台8,9による切り込み量を示し、下の線はクランクピンCP(イ),CP(ハ)の径変化を示す。なお、図5の上の線はあくまで砥石台の切り込み量のみを表示したものであり、前述したように砥石台8,9はクランクピンCPの旋回運動に同期してX軸方向に前後移動しながら所望の切り込み量が与えてられて研削加工を行っている。
【0031】
早送り前進から加工部分に砥石が接触した段階(a)からクランクピンCPの8回転程度の間粗研削送り前進となり、一定量研削した段階(b)から一端砥石台20の前進を停止して定寸装置20を挿入し(b〜c)、次に、精研削送り前進でクランクピンを5回転程度研削しながら定寸装置20により寸法測定を行う。そして、先に精研削終了目標寸法に達した時点、(d1)でそのクランクピンCP(イ)に対応した砥石台8を所定量(0.1mm〜0.5mm)後退させ(e1)、他方のクランクピンCP(ハ)は継続して精研削を行って、精研削終了目標寸法に達したら(d2)、同じくこのクランクピンCP(ハ)に対応した砥石台9も所定量(0.1mm〜0.5mm)後退させる(e2)。なお、図5のd1−e1−f1−g1、d2−d2−f1−g1の各間の長さは分かり易いよう拡大表記してある。
【0032】
そして、両砥石台8,9が後退したことを確認したら、これら両砥石台8,9を後退した量(0.1mm〜0.5mm)だけ同時に前進させる(f1〜g1、f2〜g2)ことで、両砥石14,15により同時にスパークアウトを工作物1〜2回転分程度行いクランクピンCP(イ),CP(ハ)の研削を終了(h1,h2)、砥石台8,9を後退させる。
【0033】
本発明の場合、それぞれ個別に制御されている左右2つの砥石台8、9により別のクランクピンCP(イ)及びCP(ハ)を同時研削するものであり、その加工進捗度が異なることになる。したがって、各クランクピンCP(イ)及びCP(ハ)の直径寸法は図5の下方の線で現されるような軌跡を辿ることになる。工作物WであるクランクピンCP(イ),CP(ハ)の研削前の直径がDbで、仕上げ直径がDfで、その差が取り代となる。
【0034】
最初の粗研削、続いて精研削が行われるが2つの砥石台8,9による研削加工は全く同じではないので、粗研削終了時の寸法と仕上げ寸法Dfとの差Δd1,Δd2には差異がでる。従って、精研削時に定寸研削を行うと、当然のことながら、精研削終了の目標寸法(Df+Δd3)に達するまでの時間にも差異が生じることとなる。
【0035】
この際、先に精研削終了の目標寸法に達した側の砥石台8を続けて次工程のスパークアウト、即ち、砥石台8の切り込み量を零にして砥石14から工作物に対する抵抗を無くして工作物の撓み分の仕上げ加工を行っても、他方の砥石台9はまだ精研削加工中で切り込みを与えているため、工作物Wは未だ撓んだ状態である。従って、工作物Wの撓みが戻る、即ちスプリングバックを期待して行うスパークアウトが殆ど効果が無くなってしまい、思うようにスパークアウトを行うことが出来ず、クランクピンCP(イ)の仕上げ精度、真円度が悪くなってしまう。
【0036】
そこで、本発明の特徴として、先に精研削終了目標寸法に達した側の砥石台8を一端所定量だけ後退させ、他方が精研削終了目標寸法になるまで待機させる。この際、砥石台8は切り込み前進は行っていないが、工作物の回転に応じてX軸方向に前後移動している。そして、他方のクランクピンCP(ハ)の測定寸法が精研削目標寸法に達すると、この対応する砥石台9も所定量後退させることにより、工作物Wに掛かる抵抗を無くし、工作物の撓みを排除する。
【0037】
その後、両砥石台8,9を後退した分だけ前進させることにより、同時に工作物Wの1〜2回転分のスパークアウト、即ち工作物の撓み分のΔd3だけ研削加工を行う。(図5のΔd3は分かり易いように拡大表示してあり、実際には微少量である。)従って、スパークアウト時には、2つの砥石台によるクランクシャフトWに掛かる負荷が偏ることがないため、精度の高い最終仕上げ加工を行うことが可能となる。
【0038】
次に、本発明に掛かる定寸加工制御方法の第2の実施の形態を図6について説明する。概略は図4と同様であり、まず加工開始(140)の信号により左右の砥石台を、それぞれ加工箇所であるクランクピンCP(イ)、CP(ハ)に整列させるために割出しを行う(141)。次に両砥石台8,9を早送り前進させ(142)、砥石が各々のクランクピンの加工部分に接触した段階から両砥石台は粗研削送り前進(143)となり、一定量研削した段階で定寸装置20をクランクピン部分に挿入する(144)。そして、寸法測定を行いながら、精研削送り前進(145)で精研削を行う。左右のクランクピンCP(イ),CP(ハ)の測定寸法のどちらか一方が先に精研削終了目標寸法に達すると(146)、その対応する砥石台8は所定量後退(147)させ、継続して精研削加工を行っている他方のクランクピンCP(ハ)が精研削終了目標寸法に達するまで待機させる。
【0039】
そして、他方のクランクピンCP(ハ)の測定値が精研削終了目標寸法に達したら(148)、対応する砥石台9の切り込み量を零とし、且つ所定量だけ後退していた一方の砥石台8は後退した分だけ前進させ(149)、両砥石台ともに工作物1〜2回転分のスパークアウト(150)を行う。この際、一方の砥石台8がスパークアウトを行う位置にまで前進する間、他方の砥石台9は切り込み量が零、即ちスパークアウト状態となっているため、左右のスパークアウト時間に多少の差異が生じるが、後退量は極僅かであるため、さして影響はない。また、最終ステップの切り込み量、即ち精研削工程の切り込み量の設定が少ない場合(例えばφ2μm/rev)では、工作物に掛かる負荷が小さいため、撓み量も少ない、即ちスプリングバックにより戻る量も小さいために多少スパークアウト時間が長くなっても加工精度、真円度に特に影響はない。
【0040】
以後の動作ステップ(151)〜ステップ(156)は図4の場合のステップ(132)〜ステップ(137)と同じであるので説明は省略する。これにより、砥石台を後退させる時間を短縮することができるため、サイクルタイムの短縮が図れる。
【0041】
次に、本発明に掛かる定寸加工制御方法の第3の実施の形態を図7について説明する。概略は図4及び図6と同様であるため、異なる箇所のみ説明する。ステップ(160)からステップ(166)は図4のステップ(120)からステップ(126)と同じである。
【0042】
ステップ(166)にて左右の砥石台8,9のどちらかが先に精研削目標寸法に達したら、左右の砥石台8,9を一端所定量(0.1mm〜0.5mm)後退させる(167)。そして、まだ精研削目標寸法に達していない側の砥石台9のみ再度切り込み前進を行い(168)、精研削終了目標寸法に達したら(169)、再度所定量後退させた後(170)、左右の砥石台8,9を後退させた所定量だけ同時に前進(171)させて、左右の砥石14,15によりクランクピンCP(イ),CP(ハ)のスパークアウトを同時に行う(172)。
【0043】
以下のステップ(173)から(178)は図4のステップ(132)から(136)と同じである。図4、図5の実施の形態においては、先に精研削目標寸法に達した側の砥石台8を後退した際、工作物Wに掛かる抵抗が変化し、工作物Wの撓み量が変化してしまうため、他方の砥石台9における精研削加工の途中で撓みが変化することにより、加工精度に影響を及ぼすことがあるが、図6に示した第3の実施の形態によれば、一方が定寸に達した時点で左右の砥石台を同時に後退させ、改めて残りの研削を行うようにしたものであるため、より精度の高い研削加工が可能となる。
【0044】
次に、本発明に掛かる定寸加工制御方法の第4の実施の形態を図8について説明する。概略は図4と同様であり、粗研削加工においても定寸加工制御を行うものである。まず加工開始(180)の信号により左右の砥石台8,9を、それぞれ加工箇所であるクランクピンCP(イ)、CP(ハ)に整列させるために割出しを行う(181)。次に両砥石台8,9を早送り前進させ(182)、砥石14,15が各々のクランクピンCP(イ),CP(ハ)の加工部分に接触して工作物表面の黒皮が加工された状態で定寸装置20をクランクピンCP(イ),CP(ハ)の部分の挿入する(183)。そして、寸法測定を行いながら、両砥石台は粗研削送り前進(184)となり、左右のクランクピンCP(イ),CP(ハ)の測定寸法のどちらか一方が先に粗研削終了目標寸法に達すると(185)、その対応する砥石台8は所定量後退(186)させ、他方のクランクピンCP(ハ)が粗研削終了目標寸法に達するまで待機させる。
【0045】
そして、他方のクランクピンCP(ハ)の測定値が粗研削終了目標寸法に達したら(187)、所定量後退させていた一方の砥石台8を前進させ(188)、左右の砥石台8,9を精研削送り前進してクランクピンCP(イ),CP(ハ)の精研削を行う(189)。以下、ステップ(190)からステップ(201)は図4の第1の実施例と同じである。従って、全体の取代が少ない場合でも、撓みの影響が無く、より高精度な研削加工が可能となる。
【0046】
(その他の実施例)前記の実施例はツインヘッドクランクピン研削盤に適用したものであるが、本発明の加工制御方法は、クランクピン研削に限らず、同一の工作物の2つもしくはそれ以上の加工箇所を同時に加工するものであれば適応可能であり、例えば、クランクピンとジャーナルの同時加工、プランジカットの出来る円筒研削盤、カム研削盤、カッター工具を用いたピンミラーやカムミラーにも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明のツインヘッドクランクピン研削盤の平面図。
【図2】本発明のツインヘッドクランクピン研削盤における定寸装置を現す側面図。
【図3】本発明のツインヘッドクランクピン研削盤の定寸加工制御装置を示すブロック図。
【図4】本発明のツインヘッドクランクピン研削盤の定寸加工制御の制御フローチャート。
【図5】本発明のツインヘッドクランクピン研削盤の定寸加工制御のサイクル線図。
【図6】第2の実施の形態における定寸加工制御方法の制御フローチャート。
【図7】第3の実施の形態における定寸加工制御方法の制御フローチャート。
【図8】第4の実施の形態における定寸加工制御方法の制御フローチャート。
【符号の説明】
【0048】
1: ベッド
8: 右砥石台
9: 左砥石台
14: 右砥石
15: 左砥石
17: 心押し台
18: 主軸台
22: 定寸装置
25: Vブロック
28: 測定棒
27: プローブ
78: 数値制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれに対応した位置に定寸装置を備えた少なくとも2つ以上の工具台により同一の工作物の異なる加工箇所に同時に各々独立して加工を行うことのできる工作機械の加工制御方法であって、
先に目標寸法に達した加工箇所の工具台は所定量後退させ、全ての加工箇所の工具台が所定量後退した後に次工程の加工を同時に行うことを特徴とする工作機械の定寸加工制御方法。
【請求項2】
少なくとも最終工程の前の1段階において、先に目標寸法に達した加工箇所の工具台は所定量後退させ、全ての工具台が所定量後退した後に次工程の加工を同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の工作機械の定寸加工制御方法。
【請求項3】
最後に目標寸法に達した加工箇所の工具台は所定量後退させることなく他の工具台とともに次工程の加工を同時に行うようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2の何れかに記載の工作機械の定寸加工制御方法。
【請求項4】
それぞれに対応した位置に定寸装置を備えた2つの砥石台により同一の工作物の異なる加工箇所に同時に各々独立して研削加工を行うことのできるツインヘッド研削盤の定寸加工制御方法であって、
少なくとも最終のスパークアウト工程を行う前の1段階において、測定値が目標寸法に達した加工箇所の砥石台は所定量後退させ、双方の砥石台が所定量後退した後にスパークアウト工程を同時に行うことを特徴とするツインヘッド研削盤の定寸加工制御方法。
【請求項5】
それぞれに対応した位置に定寸装置を備えた2つの砥石台により同一の工作物の異なる加工箇所に同時に各々独立して研削加工を行うことのできるツインヘッド研削盤の定寸加工制御方法であって、
少なくとも最終のスパークアウト工程を行う前の1段階において、先に測定値が目標寸法に達した加工箇所の砥石台は所定量後退させ、他方の加工箇所が目標値に達すると、前記後退した砥石台を後退した分だけ前進させて双方の砥石台により同時にスパークアウト工程を行うことを特徴とするツインヘッド研削盤の定寸加工制御方法。
【請求項6】
それぞれに追従式定寸装置を備えた2つの砥石台によりクランク軸の異なるクランクピンを同時に各々独立して研削することのできるツインヘッドクランクピン研削盤において、
2つの砥石台を加工位置に割出す手段と、2つの砥石台を研削するために前進させる手段と、2つの砥石台において最終研削加工の前の少なくとも1段階において、同時に工作物の測定を行う手段と、測定結果が先に目標寸法に達した加工箇所の砥石台を所定量後退させる手段と、他方の加工箇所の測定結果が目標寸法に達すると同時に一方の後退した砥石台を後退した分だけ前進させる手段と、双方の砥石台により同時にスパークアウト工程を行う手段とを備えていることを特徴とするツインヘッドクランクピン研削盤の定寸研削制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−95687(P2006−95687A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379985(P2005−379985)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【分割の表示】特願平11−280724の分割
【原出願日】平成11年9月30日(1999.9.30)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】