説明

差動式キャスタ

【課題】確実にホイールとタイヤとを固定し、所望の走行速度を得ることができる差動式キャスタを提供する。
【解決手段】取付け板5と、取付け板5に回転自在に支持された支軸8と、支軸8の一端に設けられた一対の電動モータ12,12と、一対の電動モータ12,12の出力軸17,17にそれぞれ連係された一対のホイール37,37と、各ホイール37の外周面にそれぞれ圧入固定されたタイヤ39,39とから成る差動式キャスタ1であって、一対のホイール37,37の外周面に、それぞれスプライン64,64を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一対の車輪を有する差動式キャスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、差動式キャスタを用いて自走可能にした電動車椅子や、倉庫等に保管された部品を搬送する搬送車等が知られている。
この差動式キャスタは、シャーシ部(車体)に回転自在に取付けられた支軸の一端に一対の駆動輪を備えたものである。これら駆動輪は、ホイールと、このホイールの外周面に装着されたタイヤとを備え、ホイールの内側に電動モータを設けてある。電動モータの出力軸とホイールは、互いにギアを介して連係しており、これによって各々駆動輪が独立して駆動することができるようになっている。そして、各駆動輪の回転差によって電動車椅子や搬送車の走行方向を変更可能にしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−90903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の従来技術にあっては、ホイールの外周面にタイヤを嵌め込んでいるだけなので、ホイールに対してタイヤが滑ってしまうおそれがある。このため、電動モータの駆動力を効率的にタイヤに伝達することが困難となり、所望の走行速度を得ることができないという課題がある。
また、例えば、ホイールとタイヤとの間に接着剤を塗布し、ホイールとタイヤとの固定力を確保する方法も考えられるが、接着剤の経年劣化に伴って接着力が低下し、ホイールとタイヤとを確実に固定するのが困難であるという課題がある。
【0004】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、確実にホイールとタイヤとを固定し、所望の走行速度を得ることができる差動式キャスタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、取付け板と、前記取付け板に回転自在に支持された支軸と、前記支軸の一端に設けられた一対の電動モータと、前記一対の電動モータの出力軸にそれぞれ連係された一対のホイールと各ホイールの外周面にそれぞれ圧入固定されたタイヤとから成る差動式キャスタであって、前記一対のホイールの外周面に、それぞれ回り止め部を形成したことを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載した発明は、取付け板と、前記取付け板に回転自在に支持された支軸と、前記支軸の一端に設けられた一対の電動モータと、前記一対の電動モータの出力軸にそれぞれ連係された一対のホイールと、各ホイールの外周面にそれぞれ圧入固定されたタイヤとから成る差動式キャスタであって、前記タイヤは、前記ホイールにネジ止めされていることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載した発明は、取付け板と、前記取付け板に回転自在に支持された支軸と、前記支軸の一端に設けられた一対の電動モータと、前記一対の電動モータの出力軸にそれぞれ連係された一対のホイールと、各ホイールの外周面にそれぞれ圧入固定されたタイヤとから成る差動式キャスタであって、前記一対のホイールの外周面に、回り止め部を形成すると共に、前記タイヤを前記ホイールにネジ止めすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のように接着剤等を用いることなく、機械的にホイールに対するタイヤの滑りを防止することができる。このため、確実にホイールとタイヤとを固定し、所望の走行速度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、差動式キャスタ1は、電動車椅子や搬送車として用いられる車体2の下面(図1における下側)にフリーキャスタ3,4と共に取付けられている。車体2は、その上面が椅子や部品を載置するスペースになっている。また、車体2には、差動式キャスタ1の設置位置に対応する部位に孔2aが形成されている。この孔2aは、車体2と差動式キャスタ1との干渉を防止するためのものである。
【0010】
図2〜図5に示すように、差動式キャスタ1は、これを車体2に取付けるための取付け板5を備えている。取付け板5には、径方向中央に2つの軸受け6,7が設けられ、ここに支軸8が回転自在に支持されている。
支軸8は、鉛直方向(図2における上下方向)に沿って延在する主軸9と、主軸9の下端(図2における下側)に設けられ水平方向(図2における左右方向)に沿って延在する副軸10とが一体成形されたものである。主軸9、及び副軸10には、それぞれの軸方向に沿って貫通する中空部9a,10aが形成されている。これら中空部9a,10aは、電動モータ12に電力を供給するための電力供給線30を配索するためのものであって、互いに連通した状態となっている。
【0011】
主軸9の上端側(図2における上側)には、支軸8の回転角度を検出するための中空軸型エンコーダ11が設けられている。中空軸型エンコーダ11は、この上端側に設けられた中空状のカラー33と下端側に設けられた受け座34とによって支軸8の軸方向への移動が規制されるようになっている。受け座34は、ボルト54で取付け板5に締結固定してある。
【0012】
一方、副軸10の両端には、一対の車輪35,35が軸受け36,36でそれぞれが回転自在に取付けられている。各車輪35,35は、副軸10に回転自在に支持されたホイール37を備えている。ホイール37は、有底筒状に形成され、周壁62とエンド部(底壁)63とを有している。また、ホイール37は、周方向に2分割された2つのホイール片37a,37bで構成されている。これら2つのホイール片37a,37bは、互いに突き合わされた状態で、リング部材60を介してボルト61によって締結固定されている。これによって、2つのホイール片37a,37bが一体化され、ホイール37を形成している。
【0013】
図3に詳示するように、ホイール37の周壁62には、外面側にスプライン64が形成され、ここに床面などに接地するタイヤ39が軸方向に沿いながら外側からホイール37側に向かって(図3における矢印A方向に向かって)圧入されるようになっている。したがって、スプライン64は、タイヤ39のホイール37に対する軸方向への移動を可能にしつつ、タイヤ39のホイール37に対する回り止めとしての役割を有している。
【0014】
図2に示すように、ホイール37の開口部には、蓋部38が設けられている。蓋部38は、ホイール37の開口部を閉塞する断面略ハット状に形成された蓋部本体38aと、蓋部本体38aの外周縁から径方向外側に向かって屈曲延出する外フランジ部38bとが一体成形されたものである。
【0015】
蓋部本体38aの径方向略中央には、後述する支持部材44を挿通する挿通孔65が形成されている。支持部材44は、この挿通孔65内に設けられた軸受け46で蓋部38に回転自在に支持されている。
また、蓋部本体38aには、ボルト孔66が周方向に等間隔で4箇所形成されている。蓋部38は、このボルト孔66にボルト67が螺入されてホイール37に締結固定されている。
【0016】
外フランジ部38bは、タイヤ39の側面を押圧するように設けられている。すなわち、ホイール37に蓋部38を締結固定した際、外フランジ部38bとリング部材60との間の距離L1は、タイヤ39の軸方向の幅よりもやや小さくなるように設定されている。
また、外フランジ部38bには、ボルト孔68が周方向に等間隔で4箇所形成されている。このボルト孔68には、タッピングネジ40がタイヤ39の側面を突き刺すように螺入されている。
【0017】
ホイール37と蓋部38が形成する内部空間には、電動モータ12が1つずつ内蔵されている。
電動モータ12は、支軸8の副軸10に固定されたブラケット15と、ブラケット15に固定された有底筒状のヨーク13とを有し、ブラケット15、及びヨーク13でアーマチュア14を回転自在、且つ水平方向に沿うように支持している。
【0018】
ブラケット15は、副軸10の中空部10aに内嵌される筒部24と、筒部24のアーマチュア14側(図2における左右方向)端から径方向外側に延出するフランジ部25とが一体成形されたものであって、中空部10aの軸方向中央に設けられた電動モータ取付けプレート31にボルト32によって締結固定されている。
【0019】
筒部24の周壁には、ボルト32を螺入するためのボルト孔55が形成されていると共に、主軸9側(図2における上側)に筒部24の軸方向に貫通する貫通孔24aが形成されている。この貫通孔24aは、電力供給線30を挿通するためのものである。また、筒部24のアーマチュア14側(図2における左右方向)には、径方向中央に軸受け26が設けられ、ここにアーマチュア14の出力軸17の一端が回転自在に支持されている。
【0020】
図4に示すように、フランジ部25は、ヨーク13の開口部を覆うように断面略ハット状に形成されたものであって、このエンド部25aには、副軸10側(図4における左側)に段差部47が形成されている。この段差部47により、フランジ部25は、副軸10の両端に設けられた軸受け36の内輪のみに当接するようになっている。
【0021】
一方、フランジ部25のアーマチュア14側(図4における右側)には、ホルダーステー48が取付けられている。このホルダーステー48には、複数のブラシホルダ28が設けられており、このブラシホルダ28に、それぞれブラシ29が出没自在に内装されている。
図2に示すように、これらブラシ29には、電力供給線30の一端が電気的に接続されている。この電力供給線30の一端は、外部から支軸8の中空部9a,10a、筒部24の貫通孔24aを通ってブラシ29まで配索されている一方、他端は不図示の外部電源に接続されている。
【0022】
フランジ部25の周縁部には、ヨーク13の開口部が固定されている。ヨーク13の内周面には、複数の永久磁石27が周方向に等間隔で接着剤等により固定されている。
ヨーク13のエンド部(底部)16には、径方向中央にアーマチュア14の出力軸17を挿通するための挿通孔18が形成され、この挿通孔18内に軸受け19が設けられている。この軸受け19は、アーマチュア14の出力軸17の他端側を回転自在に支持するためのものである。
【0023】
アーマチュア14は、出力軸17に外嵌固定されたアーマチュアコア20と、アーマチュアコア20に巻装されたアーマチュアコイル21と、アーマチュアコア20の一端側(図2における中央側)に配置されたコンミテータ(整流子)22とで構成されている。
コンミテータ22の外周面には、導電材で形成されたセグメント23が複数枚取付けられている。
【0024】
セグメント23は軸方向に長い板状の金属片からなり、互いに絶縁された状態で周方向に沿って等間隔に並列に固定されている。各セグメント23には、アーマチュアコイル7の巻き始め端と巻き終わり端とがヒュージングにより接続されている。
また、セグメント23は、ブラシ29の先端部に摺接している。これにより、外部からの電源が電力供給線30,ブラシ29を介してコンミテータ22に供給されるようになっている。
【0025】
出力軸17の他端側は、ヨーク13のエンド部16に形成されている挿通孔18から外側に向かって突出している。この出力軸17の突出した部分には、外周面にギア部41が形成され、減速機構42に噛合されている。
減速機構42は、出力軸17に噛合され歯数の異なる2つの平歯車を同軸上に備えた段付平歯車43と、車輪35の蓋部38に一体に形成され段付平歯車43に噛合される内歯歯車45とで構成されている。段付平歯車43は、ヨーク13のエンド部16に突設されている不図示の支軸に回転自在に支持されている。この不図示の支軸は、段付歯車43を貫通し、車輪35の蓋部38側に突出している。この支軸が突出した部位には、支持部材44が取付けられている。この支持部材44は、軸受け46を介して蓋部38を回転自在に支持している。このように、アーマチュア14の出力軸17は、減速機構42を介して車輪35と連係した状態になっている。
【0026】
このように構成された差動式キャスタ1は、両輪(図2における一対の車輪35,35)を同じ回転速度で駆動させたとき、車体2が直進、又は後進(図2における紙面手前側、又は奥側)するようになっている。そして、それぞれ車輪35,35を互いに違う回転速度で駆動させたとき、又は一方の車輪35を駆動し、他方の車輪35を停止させたとき、車体2が右方向、又は左方向に旋回するようになっている。
【0027】
したがって、上述の実施形態によれば、ホイール37の周壁62に、タイヤ39のホイール37に対する回り止めの役割を有するスプライン64が形成されているため、従来のように接着剤を用いることなく、機械的にホイール37に対するタイヤ39の滑りを防止することができる。
しかも、蓋部38の外フランジ部38bがタイヤ39の側面を押圧するように設けられているため、タイヤ39は、この側面がホイール37を一体化するリング部材60と、外フランジ部38bとで挟持された状態となり、より確実にタイヤ39の滑りを防止することができる。
【0028】
これに加え、外フランジ部38bには、ボルト孔68が周方向に等間隔で4箇所形成され、ここにタイヤ39の側面を突き刺すタッピングネジ40が螺入されているため、タイヤ39のホイール37に対する回り止めをさらに強固なものにしている。つまり、確実にホイール37とタイヤ39とを固定し、所望の走行速度を得ることができる。
【0029】
尚、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
また、上述の実施形態では、ホイール37の周壁62に、回り止めとしてスプライン64が形成されている場合について説明したが、これに限られるものではなく、例えば、軸方向に沿って複数の溝を形成してもよいし、格子状に突起を形成してもよい。また、例えば、ホイール37の周壁62に、凸部を複数形成し、これをタイヤ39の回り止めとしてもよい。
【0030】
この具体的一例を図6に示す。同図に示すように、ホイール37の周壁62には、外面側に網目ローレット70が形成され、ここにタイヤ39が軸方向に沿いながら外側からホイール37側に向かって(図6における矢印B方向に向かって)圧入されるようになっている。このようにすることで、タイヤ39のホイール37に対する周方向への回転を防止できる(回り止め)だけでなく、タイヤ39のホイール37に対する軸方向への移動も防止できる(抜け防止)。
【0031】
さらに、上述の実施形態では、ホイール37の開口部に設けられた蓋部38には、外フランジ部38bにボルト孔68が周方向に等間隔で4箇所形成されている場合について説明したが、これに限られるものではなく、ボルト孔68が少なくとも1箇所形成されていればよい。
そして、上述の実施形態では、ボルト孔68にタッピングネジ40がタイヤ39の側面を突き刺すように螺入されている場合について説明したが、これに限られるものではなく、蓋部38の外フランジ部38bにボルト孔68に代わって雌ネジ部を形成し、ここにボルトをタイヤ39側に向かって締め付けると共に、タイヤ39に予めボルトを受け入れる穴を形成するようにすることで、タイヤ39のホイール37に対しする回り止めとしてもよい。
【0032】
また、アーマチュア14の出力軸17は、減速機構42を介して車輪35と連係した状態になっている場合について説明したが、これに限られるものではなく、減速機構42に代えて遊星減速機構としてもよい。この場合、段付歯車43を出力軸17に噛合って自転すると共に、出力軸17を中心に公転可能な遊星歯車に代えればよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態における差動式キャスタの取付け状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における差動式キャスタの縦断面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるホイールとタイヤの説明図である。
【図4】本発明の実施形態における差動式キャスタの一部拡大断面図である。
【図5】本発明の実施形態における差動式キャスタの側面図である。
【図6】本発明の実施形態におけるホイールとタイヤの説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 差動式キャスタ
5 取付け板
8 支軸
12 電動モータ
17 出力軸
37 ホイール
38 蓋部
38a 蓋部本体
38b 外フランジ部
39 タイヤ
40 タッピングネジ
64 スプライン(回り止め部)
70 網目ローレット(回り止め部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付け板と、
前記取付け板に回転自在に支持された支軸と、
前記支軸の一端に設けられた一対の電動モータと、
前記一対の電動モータの出力軸にそれぞれ連係された一対のホイールと、
各ホイールの外周面にそれぞれ圧入固定されたタイヤとから成る差動式キャスタであって、
前記一対のホイールの外周面に、それぞれ回り止め部を形成したことを特徴とする差動式キャスタ。
【請求項2】
取付け板と、
前記取付け板に回転自在に支持された支軸と、
前記支軸の一端に設けられた一対の電動モータと、
前記一対の電動モータの出力軸にそれぞれ連係された一対のホイールと、
各ホイールの外周面にそれぞれ圧入固定されたタイヤとから成る差動式キャスタであって、
前記タイヤは、前記ホイールにネジ止めされていることを特徴とする差動式キャスタ。
【請求項3】
取付け板と、
前記取付け板に回転自在に支持された支軸と、
前記支軸の一端に設けられた一対の電動モータと、
前記一対の電動モータの出力軸にそれぞれ連係された一対のホイールと、
各ホイールの外周面にそれぞれ圧入固定されたタイヤとから成る差動式キャスタであって、
前記一対のホイールの外周面に、それぞれ回り止め部を形成すると共に、前記タイヤを前記ホイールにネジ止めすることを特徴とする差動式キャスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−213572(P2008−213572A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51286(P2007−51286)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】