説明

差動装置およびこれを用いた車両の駆動力伝達ユニット

【課題】 モータおよび減速機構の体格の大型化および構造の複雑化を招くことなく、精度の確保が容易な差動装置およびこれを用いた駆動力伝達ユニットを提供する。
【解決手段】 第一サンギヤ71と第二サンギヤ72とは歯数がわずかに異なっている。これら第一サンギヤ71および第二サンギヤ72の双方に第一プラネタリギヤ81が噛み合っているので、大きな減速比が得られる。そのため、減速機構90を多段化したり、モータ53の出力を増大する必要がなく、差動装置50は体格を小型化することができる。また、第一サンギヤ71、第二サンギヤ72、第一プラネタリギヤ81および第一キャリヤ83などは、いずれも外歯のギヤである。そのため、内歯のギヤに比較して精度の確保が容易であり、かつギヤの支持も容易である。したがって、構造の複雑化および部品点数の増大を招くことなく、高い精度が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの出力要素との間に回転差を発生させる差動装置およびこれを用いた車両の駆動力伝達ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二つの出力要素の間に回転数の差を発生させる差動装置として、プラネタリギヤを用いるものが公知である(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示されている差動装置の場合、モータのトルクをプラネタリギヤを用いて二つの出力要素へ伝達し、二つの出力要素の間に発生する差動を制限または増幅している。
【0003】
【特許文献1】特許第3247484号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1に開示されている差動装置は、内歯のギヤを備えている。そのため、ギヤの加工、およびギヤの精度の確保が困難である。また、特許文献1に開示されている差動装置は、モータの回転をモータに接続するギヤとプラネタリギヤとによって減速している。そのため、減速比が1/6程度となり、大きな減速比を確保することは困難である。これにより、差動を発生させるための十分なトルクを得るには、モータの出力増強あるいは減速機構のギヤ段の増加が必要となる。その結果、モータおよび減速機構の体格の増大、および部品点数の増大を招く。さらに、特許文献1に開示されている差動装置は、ギヤとしてインターナルギヤを用いている。そのため、インターナルギヤの回転を支持する軸受が必要となり、構成が複雑になるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、モータの体格の大型化および構造の複雑化を招くことなく、精度の確保が容易な差動装置およびこれを用いた車両の駆動力伝達ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、主動力源からトルクが入力される入力軸と、前記入力軸から前記主動力源のトルクが入力される入力要素、および前記入力要素から入力されたトルクを二つの出力要素に、前記出力要素間の差動を許容して配分する歯車要素を有するディファレンシャル機構と、前記出力要素の一方である第一出力要素の外周側に前記第一出力要素と同軸に配置され、前記入力要素と一体に回転する第一サンギヤと、前記第一サンギヤと噛み合う第一プラネタリギヤと、前記第一出力要素の外周側に前記第一出力要素と同軸に配置され、前記第一プラネタリギヤに前記第一サンギヤとともに噛み合い、前記第一サンギヤとわずかに歯数が異なる第二サンギヤと、前記第一プラネタリギヤを、前記第一出力要素、前記第一サンギヤおよび前記第二サンギヤの外周側で前記第一出力要素および前記第一サンギヤと同軸に公転可能かつ自転可能に支持する第一キャリヤと、前記第一出力要素とともに同軸に回転し、前記第一サンギヤと歯数が同一の第三サンギヤと、前記第二サンギヤおよび前記第三サンギヤと噛み合う第二プラネタリギヤと、前記第二プラネタリギヤを、前記第一出力要素、前記第二サンギヤおよび前記第三サンギヤの外周側で自転可能に支持するとともに、前記第二プラネタリギヤの前記第一出力要素の周方向への公転を規制する第二キャリヤと、前記第一キャリヤを前記第一出力要素の周方向へ公転させるトルクを発生する副動力源と、を備える。
【0007】
第一プラネタリギヤが噛み合っている第一サンギヤと第二サンギヤとは歯数がわずかに異なっている。そのため、第一プラネタリギヤが公転および自転することにより、第一サンギヤと第二サンギヤとの間には相対的な回転差が生じる。その結果、第一プラネタリギヤを支持する第一キャリヤには、回転が大きく減速されて入力される。これにより、二つの出力要素に差動が生じるとき、第一キャリヤの駆動に必要な副動力源のトルクは低減される。したがって、第一キャリヤを駆動する副動力源は体格の大型化および構造の複雑化を招くことがない。また、例えば副動力源と第一キャリアとの間にモータのトルクを伝達する減速機構を設置する場合、減速機構の多段化を招かず、体格を小型化することができる。
【0008】
また、請求項1記載の発明では、第一サンギヤ、第一プラネタリギヤ、第二サンギヤ、第二プラネタリギヤおよび第三ギヤは、いずれも外歯のギヤで構成することができる。そのため、内歯のギヤまたは外歯および内歯の両方を有するギヤと比較して加工が容易であるとともに、高い精度を容易に確保することができる。
【0009】
さらに、請求項1記載の発明では、第二サンギヤは、第一プラネタリギヤを介して第一サンギヤと噛み合うとともに、第二プラネタリギヤを介して第一出力要素とともに回転する第三サンギヤと噛み合っている。第三サンギヤは、歯数が第一サンギヤと同一である。そのため、第一プラネタリギヤと第二プラネタリギヤとを同一の歯数とすると、二つの出力要素の間に差動が生じないとき、第一プラネタリギヤおよび第二プラネタリギヤは公転しない。これにより、第一キャリヤ、ならびに第一キャリヤに噛み合う減速機構および副動力源は回転しない。その結果、差動が生じないとき、回転する要素は低減され、第一キャリヤおよび減速機構などに加わる負荷が低減される。また、入力軸、第一出力要素および第二出力要素が回転しても、出力要素間において差動が生じない限り、副動力源は回転する必要がない。したがって、信頼性および耐久性を向上することができ、主動力源および副動力源の負荷も低減できる。
【0010】
請求項2記載の発明では、前記第一サンギヤと前記第二サンギヤとの歯数の差は、最小が1であり、最大が3である。減速比を大きくするためには、第一サンギヤと第二サンギヤとの歯数の差は小さいことが望ましい。そこで、請求項2記載の発明では、歯数の差を、最小で1とし、最大で3としている。
請求項3記載の発明では、前記第一出力要素、前記第一サンギヤ、前記第一プラネタリギヤ、前記第一キャリヤ、前記第二サンギヤ、前記第三サンギヤおよび前記第二プラネタリギヤを収容するケーシングを備え、前記第二キャリヤは、前記ケーシングに固定されている。これにより、構造の複雑化および部品点数の増大を招くことなく、第二プラネタリギヤを支持する第二キャリヤは公転を規制することができる。
【0011】
請求項4記載の発明は、上述の作動装置を備えた車両の駆動力伝達ユニットであり、前輪側または後輪側のいずれか一方において、左輪と右輪との差動を発生させる請求項1から3のいずれか一項記載の差動装置と、前記主動力源からのトルクを前記前輪側および前記後輪側へ分配する駆動力伝達装置と、前記差動装置を収容する第一ハウジングと、前記駆動力伝達装置を収容する第二ハウジングとを備え、前記第一ハウジングは、内部に前記入力軸を収容する部分に前記ディファレンシャル機構を収容する部分よりも外径が小さな小径部を有し、前記副動力源は、重力方向において前記小径部の上方に設置されている。
【0012】
請求項4記載の発明では、差動装置および駆動力伝達装置とを駆動力伝達ユニットとして構成する場合、差動装置を収容する第一ハウジングと駆動力伝達装置を収容する第二ハウジングとは一体に接続される。このとき、差動装置のディファレンシャル機構および駆動力伝達装置は、入力軸に対応する部分に比較して外径が大きくなる。すなわち、差動装置のディファレンシャルと駆動力伝達装置との間には、外径が小さな小径部が形成される。この小径部に差動装置の副動力源を設置することにより、差動装置と駆動力伝達装置との間に形成されるデッドスペースを有効に活用することができる。したがって、副動力源がハウジングの外部に突出することがなく、駆動力伝達ユニットの搭載スペースを低減することができる。また、副動力源を重力方向において小径部の上方に設置することにより、副動力源は差動装置および駆動力伝達装置と車体との間に配置される。そのため、副動力源は下方を差動装置および駆動力伝達装置で保護され、例えば車両の走行中に巻き上げられた異物が副動力源に衝突することは防止される。したがって、耐久性および信頼性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による差動装置を適用した車両を図2に示す。図2に示す車両10は前輪11および後輪12にトルクが加わる四輪駆動車である。車両10は、主動力源としての内燃機関(以下、内燃機関を「エンジン」という。)13、トランスミッション14、トランスファ5、駆動力伝達装置20および差動装置50を備えている。差動装置50と駆動力伝達装置20とは、図1に示すように一体の駆動力伝達ユニット1を構成している。図2に示す本実施形態の車両では、前輪11は左輪11Lおよび右輪11Rを有し、後輪12は左輪12Lおよび右輪12Rを有する。図2において、上方が前輪11であり、左方が左輪11L、12Lである。
【0014】
エンジン13には、例えばガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンなどが適用される。なお、主動力源としては、エンジン13に代えて電気モータを適用してもよい。エンジン13は、前輪11および後輪12を駆動するトルクを発生する。エンジン13で発生したトルクは、トランスミッション14において変速され駆動軸15を介してトランスファ5へ入力される。トランスファ5は、駆動軸15から入力されたトルクを前輪11および後輪12に分配する。トランスファ5から出力されたトルクは、入力軸21を介して前輪11側へ伝達されるとともに、プロペラシャフト151を介して駆動力伝達装置20へ入力される。
【0015】
トランスファ5から入力軸21を介して前輪11側へ伝達されたトルクは、ディファレンシャル16を介して前輪11の左輪11Lおよび右輪11Rに分配される。本実施形態の場合、ディファレンシャル16は、入力軸21から入力されたトルクを左輪11Lおよび右輪11Rに均等に分配する。なお、例えばディファレンシャル16にはLSD(Limited Slip Differential)を適用し、左輪11Lおよび右輪11Rの差動を制限する構成としてもよい。一方、駆動力伝達装置20へ入力されたトルクは、後述するように電子制御されて入力軸51へ伝達される。
【0016】
差動装置50は、図1および図2に示すように車両10の後輪12側に設置されている。差動装置50は、入力軸51、ディファレンシャル60、出力要素としての左出力軸52L、右出力軸52R、第一サンギヤ71、第二サンギヤ72、第三サンギヤ73、第一プラネタリギヤ81、第二プラネタリギヤ82、第一キャリヤ83、第二キャリヤ84、減速機構90、副動力源としてのモータ53、およびケーシング100を備えている。入力軸51は、駆動力伝達装置20とディファレンシャル60とを接続しており、エンジン13から入力され駆動力伝達装置20から出力されたトルクをディファレンシャル60に伝達する。本実施形態の場合、左出力軸52Lは特許請求の範囲の第一出力要素であり、右出力軸52Rは第二出力要素である。
【0017】
ディファレンシャル60は、周知のディファレンシャルである。ディファレンシャル60はリングギヤ61を有している。リングギヤ61は、入力軸51の駆動力伝達装置20とは反対側の端部に設置されているドライブピニオンギヤ54と噛み合っている。リングギヤ61は、特許請求の範囲の入力要素を構成している。また、ディファレンシャル60は、リングギヤ61から伝達されたトルクを左出力軸52Lおよび右出力軸52Rへ分配する複数のギヤ62、63、64、65からなる歯車要素を有している。左出力軸52Lは、入力されたトルクを左輪12Lに伝達する。同様に、右出力軸52Rは、入力されたトルクを右輪12Rに伝達する。
【0018】
第一サンギヤ71は、リングギヤ61の内周側にスプライン接続している。これにより、第一サンギヤ71はリングギヤ61とともに同軸に回転する。第一サンギヤ71は、左出力軸52Lの外周側に、リングギヤ61および左出力軸52Lと同軸に配置されている。第一サンギヤ71は、リングギヤ61とは反対側の端部において第一プラネタリギヤ81と噛み合っている。第一サンギヤ71は、左出力軸52Lと接しておらず、左出力軸52Lとは独立してリングギヤ61とともに回転する。第一サンギヤ71は外歯のギヤである。
【0019】
第二サンギヤ72は、第一サンギヤ71と第三サンギヤ73との間に配置されている。第二サンギヤ72は、第一サンギヤ71と同様に左出力軸52Lの外周側に、左出力軸52Lと同軸に配置されている。第二サンギヤ72は、第一サンギヤ71と同様に、左出力軸52Lと独立して回転する。第二サンギヤ72は、歯数が第一サンギヤ71とわずかに異なっている。第一サンギヤ71と第二サンギヤ72との歯数の差は、最小で1であり、最大で3である。第三サンギヤ73は、左出力軸52Lに噛み合っており、左出力軸52Lと一体に回転する。第三サンギヤ73は、歯数が第一サンギヤ71と同一である。なお、第三サンギヤ73は、左出力軸52Lと一体に形成してもよい。第二サンギヤ72および第三サンギヤ73は、第一サンギヤ71と同様に外歯のギヤである。
【0020】
第一プラネタリギヤ81は、第一サンギヤ71および第二サンギヤ72に噛み合っている。第二プラネタリギヤ82は、第二サンギヤ72および第三サンギヤ73に噛み合っている。第一プラネタリギヤ81および第二プラネタリギヤ82は外歯のギヤである。第一プラネタリギヤ81は、第一キャリヤ83の支持軸831によって支持されている。第一キャリヤ83は、左出力軸52L、第一サンギヤ71および第二サンギヤ72の外周側をこれらと同軸に周方向へ回転することができる。また、第一キャリヤ83は、第一プラネタリギヤ81を自転可能に支持している。これにより、第一プラネタリギヤ81は、第一サンギヤ71および第二サンギヤ72の外周側において自転可能であるとともに、これらの外周側を公転可能である。第一キャリヤ83は、外周側に減速機構90と噛み合う歯部832を有している。
【0021】
第二プラネタリギヤ82は、第二キャリヤ84の支持軸841によって支持されている。第二キャリヤ84は、第二プラネタリギヤ82を自転可能に支持している。一方、第二キャリヤ84は、ボルト85によりケーシング100に固定されている。これにより、第二キャリヤ84は、第二プラネタリギヤ82を自転可能に支持するものの、第二プラネタリギヤ82の公転を規制する。
【0022】
減速機構90は、ピニオンギヤ91およびピニオンギヤ92を有している。ピニオンギヤ91は、ベアリング93、94によりケーシング100に回転可能に支持されている。ピニオンギヤ92は、ベアリング95、96によりケーシング100に回転可能に支持されている。ピニオンギヤ91は、モータ53の回転軸55に取り付けられており、モータ53の回転軸55とともに回転する。ピニオンギヤ92は、ピニオンギヤ91および第一キャリヤ83の歯部832と噛み合っている。これにより、モータ53から発生したトルクは、ピニオンギヤ91およびピニオンギヤ92を介して第一キャリヤ83に伝達される。
【0023】
モータ53は、ケーシング100に固定されている。モータ53は、周知の直流モータである。モータ53は、図示しない制御部から供給される電力により正回転または逆回転する。ケーシング100は、入力軸51、ディファレンシャル60、第一サンギヤ71、第二サンギヤ72、第三サンギヤ73、第一プラネタリギヤ81、第二プラネタリギヤ82、第一キャリヤ83、第二キャリヤ84、減速機構90およびモータ53など差動装置50を構成する各部材を収容している。また、ケーシング100は、ベアリング56を介して左出力軸52Lを回転可能に支持している。さらに、ケーシング100は、ベアリング57、58を介して第一キャリヤ83を回転可能に支持している。なお、モータ53は、直流モータに限らず、交流モータでもよく、直流のブラシレスモータであってもよい。
【0024】
駆動力伝達装置20はカバー22に収容されている。カバー22は、差動装置50のケーシング100と一体に組み付けられている。駆動力伝達装置20は、通電することにより磁界を発生するコイル23、および発生した磁界によりヨーク24に吸引されるアーマチャ25を有している。アーマチャ25をヨーク24側へ吸引すると、パイロットクラッチ26が係合する。パイロットクラッチ26は、外側回転部材30にスプライン係合するパイロットアウタクラッチプレートと、第一カム部材31にスプライン係合するパイロットインナクラッチプレートとから構成されている。第一カム部材31は、ボール32を挟んで第二カム部材33と対向している。第二カム部材33は、内側回転部材40にスプライン係合している。これにより、コイル23への通電によってパイロットクラッチ26が係合すると、パイロットクラッチ26を介して外側回転部材30と係合する第一カム部材31と、内側回転部材40に係合する第二カム部材33との間には相対的な回転が生じる。
【0025】
第一カム部材31と第二カム部材33との間にはボール32が挟まれているため、相対的な回転力はスラスト力、すなわち図1の上方向への力に変換される。これにより、第二カム部材33は、図1の上方へ移動し、メインクラッチ27を摩擦係合させる。メインクラッチ27は、外側回転部材30にスプライン係合しているメインアウタクラッチプレートと、内側回転部材40にスプライン係合しているメインインナクラッチプレートとから構成されている。上記の構成により、駆動力伝達装置20は、コイル23へ通電する電力を制御することにより、パイロットクラッチ26の係合力が制御されるとともに、メインクラッチ27の係合力が制御される。外側回転部材30は、前輪11へトルクを伝達する入力軸21とスプライン係合している。また、内側回転部材40は、後輪12へトルクを伝達する入力軸51とスプライン係合している。その結果、コイル23へ通電する電力を制御することにより、前輪11または後輪12に伝達されるエンジン13のトルクが電子的に制御される。
【0026】
次に、差動装置50の作動について詳細に説明する。
上述のように第一サンギヤ71と第二サンギヤ72とは歯数がわずかに異なっている。また、第一サンギヤ71および第二サンギヤ72には第一プラネタリギヤ81が噛み合っている。そのため、第一サンギヤ71および第二サンギヤ72が一回転したとき、第一サンギヤ71と第二サンギヤ72とは歯数の差の分だけ相対的な回転が生じる。その結果、第一プラネタリギヤ81は歯数の差に対応する分だけ第一サンギヤ71および第二サンギヤ72の周囲を公転し、第一キャリヤ83には大きな減速比により回転が入力される。
【0027】
車両10が直進しているとき、すなわち左出力軸52Lと右出力軸52Rとの間に回転数の差が生じていないとき、入力軸51から入力されたトルクはディファレンシャル60により左出力軸52Lと右出力軸52Rとに均等に配分される。このとき、ディファレンシャル60のリングギヤ61とともに回転する第一サンギヤ71と左出力軸52Lとともに回転する第三サンギヤ73とは歯数が同一である。これにより、第一サンギヤ71と第三サンギヤ73とは同一の回転数で回転する。また、第一プラネタリギヤ81と第二プラネタリギヤ82とは歯数が同一である。そのため、第一サンギヤ71に噛み合っている第一プラネタリギヤ81と、第三サンギヤ73に噛み合っている第二プラネタリギヤ82とは同一の回転数で回転する。これにより、第一サンギヤ71と第二サンギヤ72との間に相対回転が生じても、生じた相対回転は第二サンギヤ72と第三サンギヤ73との相対回転によって吸収される。その結果、第一サンギヤ71と第三サンギヤ73、および第一プラネタリギヤ81と第二プラネタリギヤ82とは同一の回転数で回転し、第一キャリヤ83は回転しない。また、このとき第一キャリヤ83が回転しないので、第一キャリヤ83に噛み合っている減速機構90のピニオンギヤ91、92、およびモータ53はいずれも回転しない。
【0028】
車両10が旋回するとき、車両10の旋回を補助するため、左出力軸52Lおよび右出力軸52Rに伝達されるトルクの配分比は変更される。車両10が直進している状態のとき、第一キャリヤ83にモータ53からトルクを入力する。モータ53は、通電することにより回転軸55が回転する。これにより、モータ53で発生したトルクは、ピニオンギヤ91およびピニオンギヤ92を介して第一キャリヤ83に入力される。モータ53から伝達されたトルクによって、第一キャリヤ83は回転する。一方、第二キャリヤ84はケーシング100に固定されている。そのため、第一キャリヤ83と第二キャリヤ84との間には、相対的な回転が生じる。
【0029】
このとき、第一サンギヤ71と第二サンギヤ72とは歯数がわずかに異なっているので、第一サンギヤ71および第二サンギヤ72の双方に噛み合う第一プラネタリギヤ81によって大きな減速比が得られる。本実施形態では、第一サンギヤ71と第二サンギヤ72との歯数の差は、最小で1であり、最大で3である。第一サンギヤ71と第二サンギヤ72との歯数の差は、小さくなるほど減速比が大きくなる。一方、第一サンギヤ71と第二サンギヤ72との歯数に差がないと、減速効果はない。したがって、第一サンギヤ71と第二サンギヤ72との歯数の差は1から3に設定している。
【0030】
例えば、第一サンギヤ71の歯数を33とし、第二サンギヤ72の歯数を32とし、第一プラネタリギヤ81の歯数を18としたとき、減速比は約1/33となる。これにより、減速機構90を構成するピニオンギヤ91およびピニオンギヤ92の減速比を大きく確保する必要はない。また、減速比が大きくなることにより、モータ53の発生トルクを低減することができる。その結果、モータ53を大型化する必要はない。
【0031】
第一キャリヤ83と第二キャリヤ84との間に相対的な回転が生じると、第一プラネタリギヤ81と第二プラネタリギヤ82との間で公転の回転数に差が生じる。そして、第一プラネタリギヤ81または第二プラネタリギヤ82にそれぞれ噛み合っている第一サンギヤ71と第三サンギヤ73との間にも回転数に差が生じる。その結果、第一サンギヤ71からトルクが伝達される右出力軸52Rと、第三サンギヤ73からトルクが伝達される左出力軸52Lとの間には、回転数の差にともなって配分されるトルクに差が生じる。
【0032】
例えば、車両が直進状態で左出力軸52Lと右出力軸52Rの回転速度が等しく、かつ、モータ53に電流が流れていない場合、エンジン13からディファレンシャル60へ入力されるトルクを10とすると、入力されたトルクはディファレンシャル60により左出力軸52Lと右出力軸52Rとに均等に配分される。すなわち、左出力軸52Lと右出力軸52Rとに配分されるトルクは5:5となる。一方、モータ53が駆動され、モータ53から第一キャリヤ83に入力されるトルクを2とした場合、そのトルクは一方の出力軸のトルクを増すとともに、他方の出力軸のトルクを減ずる。その結果、左出力軸52Lと右出力軸52Rとに配分されるトルクは、6:4または4:6となる。これにより、車両10の旋回初期に左輪11L、12Lまたは右輪11R、12Rに配分されるトルクは不均等になり、車両10は滑らかに旋回する。このとき、モータ53を正回転または逆回転させることにより、左出力軸52Lまたは右出力軸52Rに配分されるトルクが逆転する。
【0033】
一方、車両10の旋回時に限らず直進時においても、モータ53から積極的にトルクを入力してもよい。これにより、左出力軸52Lおよび右出力軸52Rに伝達されるトルクを均等に維持し、車両10の直進性を安定させることができる。また、モータ53を発電機として機能させ、左出力軸52Lと右出力軸52Rとの間に差動が生じたとき、その差動を吸収し、車両10の直進性を安定させる構成としてもよい。
【0034】
第1実施形態では、歯数がわずかに異なる第一サンギヤ71および第二サンギヤ72の双方に第一プラネタリギヤ81が噛み合うことによって大きな減速比を得ている。そのため、減速機構90の多段化、およびモータ53の出力の増大を招かない。したがって、差動装置50は体格を小型化することができる。また、第一サンギヤ71、第二サンギヤ72、第一プラネタリギヤ81および第一キャリヤ83などは、いずれも外歯のギヤである。そのため、内歯のギヤに比較して精度の確保が容易であり、かつギヤの支持も容易である。したがって、構造の複雑化および部品点数の増大を招くことなく、高い精度を確保することができる。
【0035】
また、第1実施形態では、車両10が直進しているとき、すなわち左出力軸52Lと右出力軸52Rとの間に差動が生じていないとき、第一キャリヤ83、減速機構90およびモータ53は回転しない。また、第一プラネタリギヤ81は自転のみ行い公転を行わない。そのため、車両10が直進しているとき、各ギヤの回転数は小さくなる。したがって、各ギヤを支持する軸受の負荷が低減され、耐久性および信頼性を向上することができる。また、回転する要素が低減するので、回転部分で生じる摩擦が低減され、効率を高めることができる。
【0036】
またさらに、第1実施形態では、モータ53のトルクは減速機構90および第一キャリヤ83を介して第一プラネタリギヤ81に伝達され、第一プラネタリギヤ81に伝達されたトルクは第一サンギヤ71及び第二サンギヤ72に伝達される。第二サンギヤ72に伝達されたトルクは第二プラネタリギヤ82、第三サンギヤ73を介して左出力軸52Lへ伝達される一方、第一サンギヤ71に伝達されたトルクはディファレンシャル60のギヤ62、63、64、65へ伝達される。これにより、モータ53が駆動され、積極的に左右輪の差動を生じさせるときには、左出力軸52Lと右出力軸52Rの回転方向およびこれら出力軸へ伝達されるトルクがディファレンシャル60で適切に調整される。したがって、簡単な構成で左右輪の差動を発生させることができる。また、モータ53に電流が流れていない場合には従来の一般的なディファレンシャル装置の機能と同様の機能を果たし、旋回時には左右輪の差動回転を許容しつつ、駆動力の伝達がなされる。
【0037】
なお、上述した本発明の複数の実施形態では、差動装置50を四輪駆動車の後輪に適用する構成について説明した。しかし、差動装置50は、例えば図3に示すように前輪駆動の車両110の前輪11側に適用してもよい。
また、差動装置50は、図4に示すようにエンジン13と動力用電気モータ17とを備えるハイブリッド型の車両120に適用してもよい。この場合、後輪12側に設置されている差動装置50には、動力用電気モータ17からトルクが伝達される。前輪11側には、エンジン13からトルクが伝達される。
【0038】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による差動装置を図5および図6に示す。なお、第1実施形態と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
第2実施形態では、図5および図6に示すようにモータ53の配置が第1実施形態と異なっている。その他の構成は、第1実施形態と同一である。モータ53は、差動装置50と駆動力伝達装置20との間に配置されている。差動装置50と駆動力伝達装置20とは、一体の駆動力伝達ユニット2を構成している。駆動力伝達ユニット2は、差動装置50を収容する第一ハウジングとしてのケーシング100および駆動力伝達装置20を収容する第二ハウジングとしてのカバー22とを備えている。ケーシング100は、ディファレンシャル60を収容する大径部101および入力軸51を収容する小径部102を有している。入力軸51は駆動力伝達装置20と差動装置50とを接続する軸状の部材であるため、ケーシング100は入力軸51を収容する部位の外径が小さくなる。すなわち、ケーシング100は、入力軸51を収容する部分がディファレンシャル60を収容する部分に比較して外径が小さくなる。
【0039】
一方、駆動力伝達装置20を収容するカバー22は、ケーシング100の大径部101に近い外径を有している。そのため、ケーシング100の大径部101とカバー22との間には、径方向内側へ窪んだ小径部102が形成される。そこで、第2実施形態の駆動力伝達ユニット2は、モータ53をこの小径部102に配置している。駆動力伝達ユニット2を車両に搭載したとき、駆動力伝達ユニット2と車両の図示しないシャーシとの間には空間が形成される。小径部102にモータ53を配置することにより、モータ53は駆動力伝達ユニット2とシャーシとの間に収容される。その結果、駆動力伝達ユニット2は、図1に示す第1実施形態と比較して、左右方向すなわち車軸方向の占有スペースが低減される。したがって、駆動力伝達ユニット2の設置スペースを低減することができる。
【0040】
また、第2実施形態では、モータ53は駆動力伝達ユニット2とシャーシとの間に収容される。これにより、モータ53は、重力方向において差動装置50の上方に配置される。駆動力伝達ユニット2は、シャーシの下方に設置されるため、巻き上げられた異物や路面上の突起などが衝突しやすい。モータ53を差動装置50の上方に配置することにより、モータ53への異物などの衝突が低減される。したがって、モータ53の耐久性を向上させることができる。
【0041】
なお、上記の複数の実施形態では、第一プラネタリギヤ81は一体の歯部で第一サンギヤ71および第二サンギヤ72と噛み合い、第二プラネタリギヤ82は一体の歯部で第二サンギヤ72および第三サンギヤ73と噛み合っている例について説明した。しかし、第一プラネタリギヤ81には第一サンギヤ71に噛み合う歯部と第二サンギヤ72に噛み合う歯部とを別個に設けてもよく、第二プラネタリギヤ82には第二サンギヤ72に噛み合う歯部と第三サンギヤ73と噛み合う歯部とを別個に設けてもよい。このように、第一プラネタリギヤ81および第二プラネタリギヤ82に各サンギヤと噛み合う別個の歯部を設けることにより、各ギヤ同士の噛み合いが良好となり、トルクの伝達効率が向上する。
【0042】
また、上記の複数の実施形態では、副動力源であるモータ53と第一キャリヤ71との間に減速機構90を設置する例について説明した。しかし、ダイレクトドライブ方式のモータ53を使用し、モータ53から第一キャリヤ71へ直接トルクを入力する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態による差動装置を適用した駆動力伝達ユニットを示す部分断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による差動装置を適用した車両を示すスケルトン図である。
【図3】本発明の第1実施形態による差動装置を適用した前輪駆動の車両を示すスケルトン図である。
【図4】本発明の第1実施形態による差動装置を適用したハイブリッド型の車両を示すスケルトン図である。
【図5】本発明の第2実施形態による差動装置を適用した駆動力伝達ユニットを示す部分断面図である。
【図6】図5の矢印VI方向から見た矢視図である。
【符号の説明】
【0044】
1、2 駆動力伝達ユニット、10、110、120 車両、11 前輪、11R 右輪(前輪)、11L 左輪(前輪)、12 後輪、12R 右輪(後輪)、12L 左輪(後輪)、13 エンジン(主動力源)、20 駆動力伝達装置、22 カバー(第二ハウジング)、50 差動装置、51 入力軸、52R 右出力軸(出力要素)、52L 左出力軸(第一出力要素)、53 モータ(副動力源)、60 ディファレンシャル、61 リングギヤ(入力要素)、62、63、64、65 ギヤ(歯車要素)、71 第一サンギヤ、72 第二サンギヤ、73 第三サンギヤ、81 第一プラネタリギヤ、82 第二プラネタリギヤ、83 第一キャリヤ、84 第二キャリヤ、90 減速機構、91、92 ピニオンギヤ(減速機構)、100 ケーシング(第一ハウジング)、102 小径部1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主動力源からトルクが入力される入力軸と、
前記入力軸から前記主動力源のトルクが入力される入力要素、および前記入力要素から入力されたトルクを二つの出力要素に前記出力要素間の差動を許容して配分する歯車要素を有するディファレンシャル機構と、
前記出力要素の一方である第一出力要素の外周側に前記第一出力要素と同軸に配置され、前記入力要素と一体に回転する第一サンギヤと、
前記第一サンギヤと噛み合う第一プラネタリギヤと、
前記第一出力要素の外周側に前記第一出力要素と同軸に配置され、前記第一プラネタリギヤに前記第一サンギヤとともに噛み合い、前記第一サンギヤとわずかに歯数が異なる第二サンギヤと、
前記第一プラネタリギヤを、前記第一出力要素、前記第一サンギヤおよび前記第二サンギヤの外周側で前記第一出力要素および前記第一サンギヤと同軸に公転可能かつ自転可能に支持する第一キャリヤと、
前記第一出力要素とともに同軸に回転し、前記第一サンギヤと歯数が同一の第三サンギヤと、
前記第二サンギヤおよび前記第三サンギヤと噛み合う第二プラネタリギヤと、
前記第二プラネタリギヤを、前記第一出力要素、前記第二サンギヤおよび前記第三サンギヤの外周側で自転可能に支持するとともに、前記第二プラネタリギヤの前記第一出力要素の周方向への公転を規制する第二キャリヤと、
前記第一キャリヤを前記第一出力要素の周方向へ公転させるトルクを発生する副動力源と、
を備えることを特徴とする差動装置。
【請求項2】
前記第一サンギヤと前記第二サンギヤとの歯数の差は、最小が1であり、最大が3であることを特徴とする請求項1記載の差動装置。
【請求項3】
前記第一出力要素、前記第一サンギヤ、前記第一プラネタリギヤ、前記第一キャリヤ、前記第二サンギヤ、前記第三サンギヤおよび前記第二プラネタリギヤを収容するケーシングを備え、
前記第二キャリヤは、前記ケーシングに固定されていることを特徴とする請求項1または2記載の差動装置。
【請求項4】
前輪側または後輪側のいずれか一方において、左輪と右輪との差動を発生または制限する請求項1から3のいずれか一項記載の差動装置と、
前記主動力源からのトルクを前記前輪側および前記後輪側へ分配する駆動力伝達装置と、
前記差動装置を収容する第一ハウジングと、
前記駆動力伝達装置を収容する第二ハウジングとを備え、
前記第一ハウジングは、内部に前記入力軸を収容する部分に前記ディファレンシャル機構を収容する部分よりも外径が小さな小径部を有し、
前記副動力源は、重力方向において前記小径部の上方に設置されていることを特徴とする車両の駆動力伝達ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−112474(P2006−112474A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298577(P2004−298577)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】