説明

布材

【課題】シート特性に悪影響を極力及ぼすことなく、表皮材として使用可能な布材に加熱線を作業性良く取付けることにある。
【解決手段】表材12の一面側にパッド材14が積層された布材10において、通電により発熱可能な加熱線20と、加熱線20に電力を供給可能な通電手段18とを有し、複数の加熱線20が並列状に取付けられた布部材40を、表材12とパッド材14の間に介装するとともに、複数の加熱線20を、通電手段18によって電気的に並列につなげた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電により発熱可能な加熱線を備える布材に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の加熱線を備える発熱体として特許文献1の発熱体が公知である。この発熱体は、平坦な担持体と、線状の加熱線と、加熱線に電力を供給可能な通電手段を備える。そして公知技術では、複数の加熱線を担持体に並列配置したのち、一対の通電手段にて電気的に並列につなげることで、複数の加熱線の並列回路を発熱体に形成する。
そして公知の発熱体は、例えば車両用シートのヒータとして使用することができる。このとき発熱体(シート構成と別体の発熱体)は、シートの伸縮性や使用時の耐久性等を考慮して、車両用シートの内部(表皮材とクッション材の間)に配設されることが多い。
【0003】
ところで車両用シートの表皮材は、シート外形をなすクッション材を被覆する部材である。一般的な表皮材は、乗員の着座性等を考慮して、意匠面を構成する表材と、表材裏面に配設のパッド材を有し、これら表材とパッド材がラミネート加工などの接合方法により一体化される。
そしてパッド材として、典型的に多孔性のパッド材(含気率の高いウレタンパッド等)が用いられる。しかし多孔性のパッド材は断熱性に優れることから、上述の構成(表皮材の裏面側に発熱体を配設する構成)では、シートの昇温に時間がかかったり、消費電力が増加したりすることがあった。
【0004】
そこで特許文献2では、経糸又は緯糸の一部に加熱線を用いた織物(表材の一例)が開示されている。この加熱線として、例えば、金属、合金、導電性プラスチック又は炭素繊維等の導電糸を例示することができる。
このように表材自体を発熱させる構成とすることで、発熱体の昇温性や消費電力の改善(ヒータの性能向上)を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−528579号公報
【特許文献2】特開2007−227384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献2の技術では、複数の加熱線を織物に取付ける作業が思いのほか面倒であった。また従来の加熱線は耐久性に劣るものであり、表材の構成として用いるにはやや不向きであった。すなわち金属、合金及びプラスチックの導線は引張強度や引張弾性に劣る。また炭素繊維は、繊維軸に対する垂直方向のせん断力や摩擦に脆く、着座時の押圧やしわによって折れ曲がり断線する。このため特許文献3の技術では、炭素繊維の折れ曲がりによるほつれや、摩耗による断線によってヒータとしての機能が低下又は失われてしまう。また炭素線維の折れや摩耗によって表材の表面意匠性が低下する(シート特性が悪化する)ことがあり、車両用シートにすんなり採用できる構成ではなかった。
本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、シート特性に悪影響を極力及ぼすことなく、表皮材として使用可能な布材に加熱線を作業性良く取付けることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の布材は、表材の一面側にパッド材が積層されている。
そして布材は、通電により発熱可能な加熱線と、この加熱線に電力を供給可能な通電手段を有し、例えば車両用シートの表皮材として使用することができる。この種の布材では、シート特性に悪影響を極力及ぼすことなく、表皮材に加熱線を作業性良く取付け可能であることが望ましい。
そこで本発明では、複数の加熱線が並列状に取付けられた布部材を、表材とパッド材の間に介装するとともに、これら複数の加熱線を、通電手段によって電気的に並列につなげる構成とした。このように布部材によって、複数の加熱線を一度に表材に取付け可能な構成とすることで、加熱線の取付け作業の効率化を図ることができる。
【0008】
第2発明の布材は、第1発明に記載の布材であって、上述の加熱線が、炭素繊維からなる芯部(例えば複数の炭素繊維のフィラメントからなる束)と、この芯部に撚り合されたカバリング糸を有して、耐久性に優れた構成とされる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る第1発明では、シート特性に悪影響を極力及ぼすことなく、表皮材として使用可能な布材に加熱線を作業性良く取付けることができる。また第2発明によれば、表皮材として使用可能な布材に加熱線を性能良く取付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】車両用シートの斜視図である。
【図2】表皮材裏面の一部透視正面図である。
【図3】加熱線の側面図である。
【図4】別例の加熱線の側面図である。
【図5】布部材の縦断面図である。
【図6】別例の布部材を用いたシートクッション一部の縦断面図である。
【図7】表皮材裏面の側部の正面図である。
【図8】シートクッション一部の縦断面図である。
【図9】(a)は、空席時の布材の昇温性能を示すグラフであり、(b)は、着座時の布材の昇温性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図9を参照して説明する。各図では、便宜上、一部の加熱線にのみ符号を付すことがある。
また各図には、適宜、車両用シート前方に符号F、車両用シート後方に符号B、車両用シート側方に符号L、車両用シート上方に符号UP、車両用シート下方に符号DWを付すこととする。
【0012】
図1の車両用シート2は、シートクッション4とシートバック6とヘッドレスト8を有する。これら部材は、各々、シート外形をなすクッション材(4P,6P,8P)と、クッション材を覆う表皮材(4S,6S,8S)を有する(図6、図8を参照)。なお典型的なクッション材として、例えばポリウレタンフォーム(密度:10kg/m3〜60kg/m3)を用いることができる。
【0013】
そして本実施形態では、シートクッション4の着座側の表皮材4Sが、発熱可能な布材10(詳細は後述)にて構成されている。そして布材10には、複数の加熱線20(詳細は後述)が取付けられるのであるが、このとき加熱線20を作業性良く取付けることが望ましい。
そこで本実施形態では、後述するように、シート特性に悪影響を極力及ぼすことなく、表皮材4Sとして使用可能な布材10に複数の加熱線20を作業性良く取付けることとした。
【0014】
[布材]
本実施形態の布材10は、基本構成(表材12、パッド材14、裏基布16)と、後述の布部材40及び通電手段18を有する(図2、図6を参照)。この布部材40には、後述する加熱線20が複数取付けられている。
そして本実施形態では、表材12とパッド材14と裏基布16をこの順で積層して一体化することにより、表材12の裏側(一面)にパッド材14を積層する。そして布部材40(複数の加熱線20)と通電手段18を、表材12の裏面に作業性良く配設する構成とした。以下、各構成について説明する。
【0015】
(布材の基本構成)
表材12は、表皮材4Sの表側(着座側)を構成する部材であり、天然繊維や合成繊維などの布帛(織物、編物、不織布)又は皮革(天然皮革や合成皮革)にて構成することができる。
なお表材12は、平織物、斜文織物又は朱子織物等のいかなる構成の織物でもよく、経編、丸編又は横編等のいかなる構成の編物でもよい。そして布材10は、いかなる繊維(原料)、いかなるウェブ形成技術、いかなるウェブ結合技術によって製造した不織布でもよい。
【0016】
またパッド材14は、柔軟性を備える多孔性の部材であり、好ましくはクッション材よりも柔軟な部材である。このパッド材14として、例えば含気率の高いウレタンパッドや、軟質ウレタンフォームからなるスラブウレタンフォームを用いることができる。
そして裏基布16は、布材10の裏側(着座側とは異なる側)を構成する部材であり、例えば織編物や不織布にて構成することができる。
【0017】
[布部材]
本実施形態の布部材40は、複数の加熱線20(後述)を取付け可能な部材であり、布帛又は皮革にて構成することができる(図2を参照)。この布部材40には、波状(正弦波状やジグザグ状等)や直線状とされた複数の加熱線20を並列状に取付けることができる。力がかかった時に、加熱線20の断線を防ぐために、好ましくは複数の加熱線20を波状に取付ける。
そして布部材40は、加熱線20の配索方向(例えばシート幅方向やシート前後方向)に長尺な帯状部材であり、複数の加熱線20を並列して取付け可能な幅寸法を備える。
また布部材40の幅寸法は特に限定しない。ここで複数の加熱線20を波状等に並列配置する場合、複数の加熱線20同士の間隔寸法(W1)は典型的に5mm〜50mmである(図2を参照)。同図に示す状態で3本の加熱線20を取付ける場合には、布部材40の幅寸法W2を15mm以上に設定することが望ましい。
【0018】
[加熱線]
そして加熱線20は、通電により発熱可能な線状部材であり、金属や合金などの導線、メッキされた線材(合成繊維の芯材とメッキ層を備える線材)、炭素繊維、カバリングされた炭素繊維を例示することができる。
なかでもカバリングされた炭素繊維は、座り心地への影響が少なく、一般的な炭素繊維よりも耐久性に優れるため、本実施形態の加熱線20として用いることが好ましい。
【0019】
ここでカバリングされた炭素繊維は、炭素繊維からなる芯部22(例えば複数の炭素繊維のフィラメントからなる束)と、この芯部22に撚り合された(スパイラル状に配置の)カバリング糸24を有することが好ましい(図3を参照)。
芯部22中の炭素繊維の本数(フィラメント数)は特に限定しないが、典型的には2本以上の複数であることが望ましい。
そして炭素繊維の芯部22をカバリング糸24でカバリングすることで、着座時の応力(繊維軸に対する垂直方向のせん断力や圧縮力)が特定の炭素繊維に集中することを防止又は低減できる。このように加熱線20の耐久性を向上させることで、着座時の押圧や摩擦によって断線したりしにくくなる。
【0020】
(炭素繊維)
上述の炭素繊維として、ポリアクリロニトリル系炭素繊維(PAN系炭素繊維)やピッチ系炭素繊維のフィラメントを例示することができる。
PAN系炭素繊維とは、ポリアクリロニトリル(PAN)を炭化焼成してなる繊維であり、耐炎化繊維、炭素化繊維及び黒鉛化繊維を例示できる。またピッチ系炭素繊維とは、石油ピッチや石炭ピッチを炭化焼成してなる繊維であり、不融化繊維、炭素化繊維及び黒鉛繊維を例示できる。なかでも焼成温度1000℃以上の炭素繊維(炭素化繊維、黒鉛化繊維、黒鉛繊維)は良好な電気伝導性を有するため、本実施形態の炭素繊維として使用することが好ましい。
【0021】
(カバリング糸)
またカバリング糸24として、動物系又は植物系の天然繊維、合成繊維又はこれらの混繊糸を例示することができる(図3を参照)。なかでもこれら繊維等のフィラメントが好ましい。
合成繊維として、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、セルロース系繊維又はこれらの混繊糸を例示できる。なかでもポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリトリエチレンテレフタレート,ポリ乳酸など)のフィラメントや、ポリアミド系繊維(ナイロン6,ナイロン66など)のフィラメントは、使用時の耐久性に優れるため、カバリング糸24として好適に使用することができる。なおカバリング糸24(一部又は全部)は、後述の融着部よりも高融点であることが望ましい。
【0022】
ここで加熱線20中のカバリング糸24の本数は特に限定しないが、1本(シングルカバリング)、2本(ダブルカバリング)であることが好ましい。
シングルカバリングすることで、芯部22の露出性(通電手段18との接触性)を好適に確保することができる(図2、図8を参照)。一方、ダブルカバリングすることにより、加熱線20の耐久性を向上させることができる。なおカバリング糸24の撚り方向はS撚又はZ撚のいずれでもよい。
【0023】
またカバリング糸24の撚数は、炭素繊維やカバリング糸24の太さ(繊度)、カバリング糸24のフィラメント数(例えばシングルカバリングやダブルカバリング)などによって適宜設定される。
例えばシングルカバリングの場合、カバリング糸24の撚数を20〜1000T/mに設定することで、加熱線20に所望の耐久性を付与することができる。ここでカバリング糸24の撚数が20T/m未満であると、所望の加熱線20の耐久性が得られない傾向にある。またカバリング糸24の撚数が1000T/mより多いと、芯部22(炭素繊維)の露出面積が低下して、後述する通電手段18との接触が阻害されるおそれがある。そしてカバリング糸24の撚数を150〜500T/mに設定することで、所望の耐久性と接触性を備えた加熱線20とすることができる。
【0024】
(融着部)
さらに加熱線20は、加熱により溶融したのち固化可能な融着部を有し、この融着部が、芯部22の軸線方向にスパイラル状に配置することが好ましい(図4を参照)。
上述の構成では、固化時における融着部の融着によって、加熱線20の芯部22が適度に収束される。このため加熱線20の耐久性を向上させることができる。さらに加熱線20の一部が融着・固化する(接着性を備える)ため、より簡単に後述の布部材40に接着できる。
【0025】
例えば融着部の一例として融着糸26を用いることができる。この融着糸26を芯部22に撚り合わせてスパイラル状に配置する。融着糸26の撚り方向は特に限定しないが、カバリングによるトルクを防ぐために、カバリング糸24とは異なる撚り方向であることが好ましい(図4を参照)。
そして融着糸26の融点は、布材10の構成繊維の融点よりも低いことが望ましく、布材10の構成繊維の融点より20℃以上低いことが好ましい。例えばポリエチレンテレフタレートのカバリング糸24を用いる場合、240℃以下の融点を有する融着糸26(例えばポリアミド系、ポリエステル系、ポリエチレン系のフィラメント)を用いることができる。
【0026】
またカバリング糸24の一部(融着部の他例)を溶融、固化可能とすることができる(図3を参照)。カバリング糸24の一部を融着部とすることで、加熱線20の構成がシンプル化されるとともに、芯部22の露出をより確実に確保することができる。
この種のカバリング糸24として、混繊型や芯鞘型のカバリング糸を例示できる。混繊型のカバリング糸24とは、比較的高融点の繊維と、比較的低融点の繊維(融着部)が混在する合成繊維である。また芯鞘型のカバリング糸24とは、例えば、比較的高融点の芯糸と、比較的低融点の鞘糸(融着部)を有する合成繊維である。
【0027】
(加熱線の取付け方法)
加熱線20の取付け方法として下記の手法を例示することができる。
(a)布部材40の一部又は全部を加熱線20にて構成する。
(b)予め作製された布部材40に複数の加熱線20を取付ける。
【0028】
(a)の手法では、上述のカバリングされた炭素繊維(耐久性に優れる加熱線20)を使用することで、布部材40の一部又は全部を加熱線20にて構成することができる。
例えば図5を参照して、経糸21と、加熱線20(緯糸)を用いて、織物としての布部材40を作製することができる(後述の[実施例1]を参照)。
このとき加熱線20をカバリングすることにより加熱線20を曲げても折れにくくなり、ガイドやレピアのヘッドにおける屈曲に耐えられるようになる。
なお布部材40は、平織織り、斜文織り、朱子織りのいかなる組織の織物であってもよいが、好ましくは、交差する組織点の少ない朱子織りの織物を布部材40として用いることが好ましい(図5を参照)。朱子織りの布部材40は、その裏面側に多くの加熱線20が配置するため、後述する通電手段18との接続性が向上する。
【0029】
また(a)の手法では、コース方向又はウェール方向の糸にカバリングされた炭素繊維を用いて、編物としての布部材40を作製することができる(後述の[実施例2]を参照)。また加熱線20の短繊維を用いることで、不織布としての布部材40を作製することができる。
そして布部材40(布帛)の全部を加熱線20にて作製することができる(後述の[実施例5]を参照)。
【0030】
(b)の手法では、布部材40(布帛又は皮革)の裏面に加熱線20を縫着又は接着して取付けることができる(図6を参照)。このとき加熱線20を接着剤にて接着してもよいが、融着部を有する加熱線20を用いることで、より簡単に布部材40に接着することができる。
また接着剤を用いると接着剤が炭素繊維(芯部22)に浸透して、通電手段18との接続を阻害しやすい。これに対して溶融部がスパイラル状に分布(配置)の加熱線20では、通電手段18と接続可能な露出部を確保できる。また布部材40に接着する際、2点間を結ぶ長さよりも長い長さで接続することが好ましく、周期的に揺動させていることが更に好ましい。これは布材10(表皮材4S)に力が加わった時、加熱線20に力が加わって断線するのを防ぐのに有効なためである(図2を参照)。
そして(b)の手法によれば、布部材40の裏面に加熱線20の全部を配置することで、後述する通電手段18との接触性を向上させることができる。
【0031】
(布部材の取付け方法)
そして布部材40に複数の加熱線20を取付けたのち、この布部材40を、表材12の裏面に取付ける(図2を参照)。このとき表材12に、単数の布部材40を取付けてもよく、複数の布部材40を取付けてもよい。典型的には、加熱すべき表皮材4Sの面積(加熱部面積)に応じて、表材12裏面に複数の布部材40を並列に取付ける。
ここで布材10の取付け方法は特に限定しないが、刺繍や縫付け等のステッチボンド(縫着)、接着剤を用いたケミカルボンド、低融点のポリマーを用いたサーマルボンドなどの手法を例示することができる。
そして図2、図7及び図8を参照して、複数の布部材40を表材12裏面に取付けたのち、パッド材14と裏基布16を配置してラミネートにより一体化して、表材12とパッド材14の間に布部材40を介装する。なおこのときラミネート時の加熱によって、融着部が溶融固化して、加熱線20(芯部22)が固定される。
【0032】
[通電手段]
そして通電手段18は、加熱線20と電源を電気的につなげる部材であり、導線、導電テープ、導電化された布体を例示することができる。
この通電手段18によって、加熱線20と電源9を電気的につなげることで、加熱線20を通電により発熱させることができる。
【0033】
例えば本実施形態では、帯状の布体18bと、メッキ層18cと、導線18aを備える通電手段18を用いる(図2、図7、図8を参照)。
布体18bは、導線18aの配索方向に長尺な帯状(例えばシート前後方向に長尺な帯状)であり、布帛にて構成することができる(図2を参照)。布材18bは、接着や縫製などの手法で表材12に取付けることができる。このとき加熱線20と布体18b等の接触をより広くするために、例えば縫製を複数本とすることが好ましく、より好ましくは縫製を3本以上とする。
またメッキ層18cは、電気伝導性を有する金属又は合金を有する層であり、布体18b(被めっき体)に設けられる。メッキ層18cは、布体18b全体に形成してもよく、布体18bの一面(表材12を臨む面)にのみ形成してもよい。
そして導線18aとして、金属や合金などの導線、メッキされた線材(合成繊維の芯材とメッキ層を備える線材)、炭素繊維、カバリングされた炭素繊維を例示できる。そして導線18aは、加熱線20と接続するために表材12又は布体18bに取付けることができる。また布体18bによって加熱線20とより広い面積で接着することができ、接触抵抗を低減できる。また導線18aは、周期的に揺動させて配置することが好ましい。
【0034】
(通電手段の配設)
図2、図7及び図8を参照して、布材10両端部からパッド材14と裏基布16を除去して、加熱線20の両端を露出させる。そして一対の通電手段18,18を複数の加熱線20の両端に各々配置したのち、通電手段18を表材12の裏面に縫着して、複数の加熱線20の両端を電気的に並列につなげる。
そして一対の通電手段18,18に、各々電源ケーブル9aの端子をつなげて、複数の加熱線20の並列回路を布材10に形成する。
本実施形態では、一対の通電手段18,18によって、複数の加熱線20の並列回路を形成することにより、比較的低電圧で複数の加熱線20を発熱させることができる。
【0035】
本実施形態では、上述の通り、布部材40によって、複数の加熱線20を比較的簡単に表材12に取付けることができる。そして加熱線20が表皮材4S(表材12)の裏面に配置するため、断熱性を有するパッド材14の影響を受けにくく、乗員に対して加熱線20の熱が比較的速やかに伝わる。このため布材10によれば、その昇温性や消費電力の改善を図る(ヒータの性能向上を図る)ことができる。
また表材12表面に、加熱線20が露出しないため、着座性や見栄えの良いシート構成となる。そしてパッド材14には加熱線20を取付けないため、パッド材14本来のクッション性が好適に維持される(着座性の良い構成である)。
このため本実施形態によれば、シート特性に悪影響を極力及ぼすことなく、表皮材4Sとして使用可能な布材10に加熱線20を作業性良く取付けることができる。
さらに本実施形態では、布部材40が加熱線20の補強材として機能することから、加熱線20の耐久性がより向上する。
【0036】
以下、本実施形態を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されない。
[実施例1]
実施例1では、複数の加熱線を織物(布部材)に取付けた。
加熱線として、炭素繊維(東レ社製、「トレカT300−1K−50A」)の芯部と、ナイロン6のカバリング糸(22dtex−7フィラメント)を用いた。
そしてカバリング糸の撚数を400T/mに設定して、芯部に対してS撚シングルカバリングを行ったものを実施例1の加熱線とした。
【0037】
布部材を構成する糸として、ポリエチレンテレフタレート(PET)の仮撚加工糸(167dtex−48フィラメント)の経糸と、PETの仮撚加工糸(167dtex−48フィラメント)の緯糸を使用した。
そして経糸を整経し、8枚朱子にて緯糸を打込み、そこに加熱線の緯糸を、間隔をあけて打込みを行った。そして所定の仕上げ加工(精練98℃×30min、仕上げセット180℃)を行うことで布部材を作製した。布材の仕上げ密度は、経/緯=124/80本/2.54cmであった。加熱線の隙間間隔(W1)は5mmとした(図2を参照)。
【0038】
表材を構成する糸として、先染め(アイボリー)ポリエチレンテレフタレート(PET)の仮撚加工糸(167dtex/2−48フィラメント)の経糸と、先染め(アイボリー)PETの仮撚加工糸(84dtex/2−36フィラメント)の第1緯糸と、先染め(アイボリー)PETの仮撚加工糸(470dtex−96フィラメント)の第2緯糸を使用した。
そして経糸を整経したのち、ジャガード織機にて第1緯糸と第2緯糸を交互に打ち込みつつ、表材表面に柄を表現した。そして公知の仕上げ加工(起毛、剪毛)を行うことで実施例1の表材を作製した。表材の仕上げ密度は、経/緯=141/98本/2.54cmであった。
【0039】
そして布部材を、不織布(溶融繊維)によって表材裏面に接着して一体化した。
つぎに表材の裏面側に、ウレタンシートのパッド材(厚み5mm)と、ハーフトリコット(15dtexのナイロン6)の裏基布を配置したのち、フレームラミネーションにより一体化した(基本構成を備える布材を作製した)。
【0040】
つぎに図2を参照して、シート座面メイン用に、所定寸法の布材を切り出した。このとき布材の加熱部面積は、後述する比較例1のシートヒータの加熱部面積と同一とした。
そして縫製縫い合わせ部の中でヒータとして通電したい部分(図2の右端部分と左端部分)から、ウレタンシートと裏基布とバッキング剤の樹脂層を除去したのち、同部分に、錫メッキされた銅線(導線の一例)を載せて縫い合わせた。この導線上に、銅とニッケルにて無電解メッキされたリボン状PET織布(15mm幅)を縫い合わせた(布体とメッキ層と導線を有する通電手段を表材に取付けた)。
そして複数の加熱線を、一対の通電手段によって電気的に並列につなげて、加熱線の並列回路を布材に形成した(実施例1の布材を作製した)。
【0041】
[実施例2]
実施例2では、複数の加熱線を編物(布部材)に取付けた。
そして実施例1の加熱線と、先染め(アイボリー)PETの仮撚加工糸(167dtex/2−48フィラメント)を用いて、14Gの丸編み機によってシングルジャージを編成した。そして公知の仕上げ加工(精練98℃×30min、仕上げセット180℃)を行ったものを実施例2の布部材とした。加熱線の隙間間隔(W1)は5mmとした(図2を参照)。そして実施例1の布材と同様の手法及び構成によって、実施例2の布材を作製した。
【0042】
[実施例3]
実施例3では、2本の加熱線をレース(布部材)に取付けた。
実施例3では、PETの仮撚加工糸(56dtex−24フィラメント)の経糸と、PETの仮撚加工糸(56dtex−24フィラメント)の緯挿入糸と、実施例1の加熱線の振り糸を用いた。そしてラッシェル機(ヤコブ ミューラー社製、「RASHELINA RD3」、4ゲージ/cm)を用いて、経糸と緯挿入糸で細幅テープ(幅25mm)を形成すると同時に、振り糸を2本同期させて表に配置して実施例3の布部材を作製した(振幅10mm、周期20mm、隙間間隔(W1)10mm)。
そして布部材を、ホットメルトシートによって実施例1の表材裏面に接着して一体化した。そして実施例1の布材と同様の手法及び構成によって、実施例3の布材を作製した。
【0043】
[実施例4]
実施例4でも、5本の加熱線をレース(布部材)に取付けた。
実施例4ではPETの仮撚加工糸(220dtex−72フィラメント)の経糸と、PETの仮撚加工糸(220dtex−72フィラメント)の緯挿入糸と、錫メッキ導線(加熱線の一例)の振り糸を用いた。
そして上記ラッシェル機を用いて、経糸と緯挿入糸で細幅テープ(幅20mm)を形成すると同時に、振り糸を5本同期させて表に配置して実施例4の布部材を作製した(振幅10mm、周期20mm、隙間間隔(W1)10mm)。
そして布部材を、ホットメルトシートによって実施例1の表材裏面に接着して一体化した。そして実施例1の布材と同様の手法及び構成によって、実施例4の布材を作製した。
【0044】
[実施例5]
実施例5では、加熱線で布部材を構成した。
実施例5では、炭素繊維紙(阿波製紙社製、C−5、PAN系炭素繊維50wt%、アクリル繊維25wt%、低融点PET繊維25wt%)を用いた。この実施例5の布部材を、ハーフトリコット(ナイロン6、18dtex−3フィラメント)の生地で覆い保護したものを実施例5の布部材とした。
【0045】
[比較例1]
比較例1として、別体型シートヒータ(WET社製シートヒータ、型番:87510−50600、炭素繊維を編地上に、9mm間隔、振幅10mm、金属線間隔約220mm、270mmに渡り並列に配置されており、座面側には5mmのウレタンシートがフレームラミネーションされているヒータ)を用いた。
【0046】
[試験方法]
(空席時の昇温試験)
無風状態の試験室内(23℃、30%RH)に、下方向への断熱のためのシート材(100mm厚のウレタンシート)を敷いて、その上に実施例1の布材を設置した。実施例1の布材は、その表材表面を上にしてシート材上に配置した。
そして実施例1の布材の加熱部中央部に、銅板(40mm平方、厚さ0.1mm)を四方セロハンテープで密着固定した。さらに温度測定機(キーエンス社製、NR−600)にK熱電対を接続し、K熱電対の測定部を銅板中央にセロハンテープで密着固定した。
そして実施例1の布材に、一対の通電手段を介して電源から15Wの電力を供給して、空席時の昇温試験を行った(図9(a)を参照)。
【0047】
つぎに比較例1の別体型シートヒータの昇温試験を行った。試験室内にシート材を敷いて、その上に比較例1の別体型シートヒータを設置した後、その上に実施例1の布材を配置した(実車と同様の状況とした)。
ここで比較例1の別体型シートヒータは、座面側を上にしてシート材上に配置した。別体型シートヒータの表側と、実施例1の布材の表材(炭素繊維)の間には、両部材の2枚のウレタンシート(5mm+5mm=10mm)が配置する。その他の試験条件は、実施例1の布材と同様の条件とした。そして比較例1の別体型シートヒータに電源から電力を供給して、空席時の昇温試験を行った(図9(a)を参照)。
【0048】
(着席時の昇温試験)
自動車運転席(ポリエステル製織物表皮)を試験室内に設置して、その上に実施例1の布材を設置した。実施例1の布材は、炭素繊維がシート前後方向に配置する向きとして、乗員の臀部下に設置した。臀部の最も圧力がかかる位置に、空席時の昇温試験と同様に、銅板を設置して温度を測定した。その他の試験条件は、空席時の昇温試験と同様の条件とした。そして上記運転席に被験者(身長180cm、体重68kg)が着座すると同時に、実施例1の布材に電源から15Wの電力を供給して、着席時の昇温試験を行った(図9(b)を参照)。
【0049】
つぎに比較例1の別体型シートヒータの昇温試験を行った。自動車運転席を試験室内に設置して、その上に比較例1の別体型シートヒータを設置した後、その上に実施例1の布材を配置した(実車と同様の状況とした)。その他の試験条件は、実施例1の布材における着席時の昇温試験と同様の条件とした。そして比較例1の別体型シートヒータに電源から電力を供給して、着席時の昇温試験を行った(図9(b)を参照)。
【0050】
[試験結果及び考察]
(昇温試験)
実施例1の布材は、空席時及び着席時のいずれの場合にも、38℃付近まで速やかに昇温することがわかった(図9(a)(b)を参照)。
このことから実施例1の布材は、車両用シートのヒータとして好適に使用できることがわかった。すなわち実際の使用を想定した場合、実施例1の布材によって、乗員が乗り込む前に先にエンジンをかけた後(加熱線に通電した後)、コートを脱いで掛けたり荷物を積み込んだりする間のわずかな時間で、シートは昇温され、暖かいシートで迎えられる。また運転手が車両に乗り込んでエンジンをかけると、すばやくシートが昇温して寒さから解放される。
さらに実施例2〜実施例5の布材も、実施例1の布材と同様の構成であることから、車両用シートのヒータとして好適に使用できることが容易に推測される。
【0051】
これとは異なり比較例1の別体型シートヒータは、着席時の場合、38℃付近までの昇温に時間がかかった(昇温速度が遅かった)。また比較例1の別体型ヒータは、空席時の場合、38℃付近まで昇温されなかった(実施例と比較例とで、最終到達温度に差が生じた)。
このことから比較例3の別体型シートヒータは、車両用シートのヒータとして用いる場合は、より多くの電力を供給しない限り暖かくならないことがわかる。すなわち実際の使用を想定した場合、比較例1の別体型シートヒータでは昇温に時間がかかるために冷たいシートに乗り込むことになるか、もしくは予め長い間アイドリングをしない限り、暖かくすることはできない。
【0052】
(シート特性)
実施例1の布材では、加熱線(炭素繊維)が表材表面に現われておらず、布材自体の有する良好な意匠性と風合いを維持していた。
以上の結果を総合すると、実施例1の布部材によれば、シート特性に悪影響を極力及ぼすことなく、表皮材としての布材に加熱線を作業性良く取付け可能であることがわかった。
さらに実施例2〜実施例5の布部材も、実施例1の布部材と同様の構成であることから、シート特性に悪影響を極力及ぼすことなく、表皮材としての布材に加熱線を作業性良く取付け可能であることが容易に推測される。
【0053】
本実施形態の布材は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。
(1)本実施形態では、シートクッション4の表皮材4Sとして布材10を使用する例を説明した。本実施形態の布材は、天板メイン部、天板サイド部、かまち部、背裏部、及びヘッドレスト部などの車両用シート2の各種構成の表皮材(例えば4S,6S,8S)として使用することができる。また車両用シートのほか、天井部、ドア部、ハンドルなどの車両の各種構成の表皮材として使用することができる。
【0054】
(2)また本実施形態では、布材10に対して、複数の加熱線20をシート幅方向に並列配置する例を説明した。複数の加熱線の配置関係は特に限定されるものではなく、例えばシート前後方向に並列配置してもよい。この場合には一対の通電手段をシート前後に配置する。
【0055】
(3)また本実施形態では、布部材40に対して加熱線20を接着する場合、布部材40と加熱線20を剥離不能に接着してもよい。
また着座時の押圧によって、布部材40と加熱線20が剥離可能となる接着強度で、布部材40に対して加熱線20を接着してもよい。布部材40から加熱線20を剥離する(自由状態とする)ことで、着座時の応力によって加熱線20に過度のテンションがかかることを防止又は低減して、加熱線20の断線の危険性を低減できる。なお加熱線20と布部材40が剥離しても、加熱線20の両端は通電手段18によって表材12に固定されている(布材10と加熱線20の一体性は確保される)。
(4)また本実施形態では、表材12に対して布部材40を取付ける例を説明した。布部材40は、パッド材14(表材12を臨む面)に取付けてもよい。
【符号の説明】
【0056】
2 車両用シート
4 シートクッション
4S 表皮材
10 布材
12 表材
14 パッド材
16 裏基布
18 通電手段
18a 導線
18b 布体
20 加熱線
22 芯部
24 カバリング糸
40 布部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表材の一面側にパッド材が積層された布材において、
通電により発熱可能な加熱線と、前記加熱線に電力を供給可能な通電手段とを有し、
複数の前記加熱線が並列状に取付けられた布部材を、前記表材と前記パッド材の間に介装するとともに、前記複数の加熱線を、前記通電手段によって電気的に並列につなげた布材。
【請求項2】
前記加熱線が、炭素繊維からなる芯部と、前記芯部に撚り合されたカバリング糸を有する請求項1に記載の布材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−218813(P2010−218813A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62823(P2009−62823)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】