説明

布材

【課題】表皮材として使用可能な伸び特性を極力維持しつつ、布材を導電化することにある。
【解決手段】通電可能な導電線材20と、導電線材20に電力を供給可能な通電手段18とを有する布材10において、導電線材20が、伸縮可能な弾性を備える第一線材20aと、第一線材20aに撚り合された第二線材20bを有するとともに、第二線材20bが、炭素繊維からなる芯糸22と、芯糸22に撚り合された鞘糸24を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電可能な導電線材を有する布材に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の導電線材を備える部材として特許文献1の発熱体が公知である。この発熱体は、平坦な担持体と、線状の導電線材と、導電線材に電力を供給可能な通電手段を備える。そして公知技術では、複数の導電線材を担持体に並列配置したのち、一対の通電手段にて電気的に並列につなげることで、複数の導電線材の並列回路を発熱体に形成する。
そして公知の発熱体は、例えば車両用シートのヒータとして使用することができる。このとき発熱体(シート構成と別体の発熱体)は、シートの伸縮性や使用時の耐久性等を考慮して、車両用シートの内部(表皮材とクッション材の間)に配設されることが多い。
【0003】
ところで車両用シートの表皮材は、シート外形をなすクッション材を被覆する部材である。一般的な表皮材は、乗員の着座性等を考慮して、意匠面を構成する表材と、表材裏面に配設のパッド材を有し、これら表材とパッド材がラミネート加工などの接合方法により一体化される。
そしてパッド材として、典型的に多孔性のパッド材(含気率の高いウレタンパッド等)が用いられる。しかし多孔性のパッド材は断熱性に優れることから、上述の構成(表皮材の裏面側に発熱体を配設する構成)では、シートの昇温に時間がかかったり、消費電力が増加したりすることがあった。
【0004】
そこで特許文献2には、経糸又は緯糸の一部に導電線材を用いた織物が開示されている。この導電線材として、例えば、金属、合金、導電性プラスチックの導線及び炭素繊維を例示することができる。
そして特許文献2の技術では、表材自体を発熱させることにより、シートの昇温性や消費電力の改善(ヒータの性能向上)を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−528579号公報
【特許文献2】特開2007−227384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし従来の導電線材は伸び特性に劣るものであり、表材の構成として用いるにはやや不向きであった。このため特許文献2の技術では、導電線材の非伸縮などによって、布材の着座感が悪化したり風合いに欠けたりすることがあり、車両用シートの表皮材としてすんなり採用できる構成ではなかった。
本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、表皮材として使用可能な伸び特性を極力維持しつつ、布材を導電化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の布材は、通電可能な導電線材と、導電線材に電力を供給可能な通電手段とを有する。そして布材は、導電線材を構成糸として用いた織物又は編物であり、例えば車両用シートの表皮材として使用することができる。そして通電手段により導電線材を通電状態とすることで、静電容量式センサの電極やヒータとして布材が機能するのであるが、この種の布材は、表皮材として使用可能な伸び特性を備えることが好ましい。
そこで本発明では、上述の導電線材が、伸縮可能な弾性を備える第一線材と、第一線材に撚り合された(第一線材の伸縮を許容するようにスパイラル状に配置した)第二線材を有する。そして第二線材が、炭素繊維からなる芯糸と、芯糸に撚り合された鞘糸を有することで、布材の通電性を確保する構成とした。
【0008】
第2発明の布材は、通電可能な導電線材と、導電線材に電力を供給可能な通電手段とを有する。そして布材は、導電線材を構成糸として用いた織物又は編物である。
そして本発明では、上述の導電線材が、伸縮可能な弾性を備える第一線材と、第一線材に撚り合された(第一線材の伸縮を許容するようにスパイラル状に配置した)第二線材を有する。そして第二線材が、炭素繊維からなる芯糸と、芯糸を被覆する樹脂層とを有することで、布材の通電性を確保する構成とした。
【0009】
第3発明の布材は、第1発明又は第2発明の布材であって、上述の導電線材が、炭素繊維とは異なる材質の第三線材を有する。そして本発明では、この第三線材を、第二線材の上から第一線材に撚り合わせる(第一線材の伸縮を許容するようにスパイラル状に配置する)構成とした。こうすることで導電線材の耐久性が向上するとともに、第一線材に対する第二線材のズレを抑制するなどして、第二線材の撚り合せ状態(布材の導電性)を好適に維持することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る第1発明及び第2発明によれば、表皮材として使用可能な伸び特性を極力維持しつつ、布材を導電化することができる。また第3発明によれば、布材の耐久性を向上させるとともに、導電線材の導電性を好適に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車両用シートの斜視図である。
【図2】表皮材裏面の一部透視正面図である。
【図3】導電線材の側面図である。
【図4】第二線材の側面図である。
【図5】布材側部の正面図である。
【図6】車両用シート一部の縦断面図である。
【図7】第二の実施形態に係る第二線材の断面図である。
【図8】(a)は、布材の正面図であり、(b)は、布材の縦断面図である。
【図9】縫目ジワ評価試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図9を参照して説明する。各図では、便宜上、一部の導電線材にのみ符号を付すことがある。
また各図には、適宜、車両用シート前方に符号F、車両用シート後方に符号B、車両用シート側方に符号L、車両用シート上方に符号UP、車両用シート下方に符号DWを付すこととする。
【0013】
<第一の実施形態>
図1の車両用シート2は、シートクッション4とシートバック6とヘッドレスト8を有する。これら部材は、各々、シート外形をなすクッション材(4P,6P,8P、図示省略)と、クッション材を被覆する表皮材(4S,6S,8S)を有する。
そして本実施形態では、シートクッション4の表皮材4Sが布材10(後述)を有しており、静電容量式センサの電極又はヒータとして機能することができる。この種の構成では、表皮材4Sとして使用可能な伸び特性を極力維持しつつ、布材10を導電化できることが望ましい。
そこで本実施形態では、後述の導電線材20を用いて、布材10を導電化することとした。以下、各構成について詳述する。
【0014】
[布材]
本実施形態の布材10は、導電線材20及び他の線材からなる織物であり、後述の通電手段18を備える(図2を参照)。織物として、平織物、斜文織物、朱子織物又はこれらの複合体を例示することができる。
また布材10の裏面側に、パッド材14と裏基布16をこの順で積層して一体化することができる(図2及び図6を参照)。パッド材14は、柔軟性を備える多孔性の部材であり、好ましくはクッション材よりも柔軟な部材である。パッド材14として、例えば含気率の高いウレタンパッドや、軟質ウレタンフォームからなるスラブウレタンフォームを用いることができる。また裏基布16は、表皮材4Sの裏側(着座側とは異なる側)を構成する部材であり、例えば、織編物、不織布又は樹脂フィルム(例えばDOW社製のポリオレフィンフィルム(DAF780))にて構成することができる。
【0015】
[導電線材]
導電線材20は、第一線材20aと、第二線材20bと、第三線材20cを有する(図3を参照)。この導電線材20を、布材10の構成糸に使用することにより、布材10自体が、静電容量式センサの電極やヒータとして機能する。
そして本実施形態では、導電線材20の伸縮性を第一線材20aにて確保するとともに、布材10の通電性を第二線材20bにて確保する。さらに第三線材20cによって、導電線材20の耐久性等を向上させることとした。
【0016】
(第一線材)
第一線材20aは、伸縮可能な弾性を有する線材であり、例えば弾性糸(後述)を使用することができる。この第一線材20aによって導電線材20の伸縮性を確保することにより、表皮材4Sとして使用可能な伸び特性を布材10に付与することができる。
そして第一線材20aは、後述する各種伸び特性(20%伸長時の伸長弾性率、初期引張抵抗度、伸度)の少なくとも一つを備えることが好ましく、各種伸び特性の全てを備えることがより好ましい。
【0017】
なお第一線材20aの繊度(太さ)は特に限定しないが、繊度167〜1000dtexの線材を用いることが好ましい。繊度が167dtex未満の第一線材20aは張力が弱く(剛性に劣り)、後述する第二線材20bの撚り合わせに耐えられないおそれがある。また繊度が1000dtexよりも大きい第一線材20a(やや太い線材)は、乗員に対して異物感を与える原因となる。
また第一線材20aのフィラメント数は特に限定しない。すなわち本実施形態では、モノフィラメント又はマルチフィラメントの第一線材20aを使用することができる。
【0018】
(20%伸長時の伸長弾性率)
第一線材20aは、20%伸長時の伸長弾性率が85〜100%の線材であることが好ましい。伸長弾性率が85%未満の線材では、伸長時に十分に回復できず伸びた状態になるため、布材10にシワが生じやすい。
ここで20%伸長時の伸長弾性率は、「JIS L 1013 8.9」に準拠して測定できる。伸長弾性率の試験では、つかみ間隔:200mm、引張速度:20mm/minに設定する。またつかみ間隔の20%である40mmまで引き伸ばす。
【0019】
(初期引張抵抗度)
第一線材20aは、初期引張抵抗度が3〜40cN/dtexの線材であることが好ましい。初期引張抵抗度が3cN/dtex未満の線材は、乗員の着座動作によって極端に伸長するため、表皮材4Sの座り心地(特に安定感)が悪化する。また初期引張抵抗度が40cN/dtexよりも大きい線材は、乗員の着座動作時にほとんど伸長しないため、表皮材4Sの座り心地(柔軟性等)が悪化する。
初期引張抵抗度は、「JIS L 1013 8.10」に準拠して測定できる。
【0020】
(伸度)
第一線材20aは、伸度が40〜150%の線材であることが好ましい。伸度が40%未満の線材は、乗員の着座動作時に伸長しにくく、乗員に対してツッバリ感を感じさせるなどして表皮材4Sの座り心地を悪化させることがある。また伸度が150%よりも大きい線材は過度に伸長するため、製織しにくくなる(布材10の作製に手間取る)とともに、表皮材4Sの座り心地(特に安定感)が悪化する。
伸度は、「JIS L 1013 8.5.1」に準拠して測定し、定速伸長型、つかみ間隔200mm、引張速度200mm/minとする。またEとして最高荷重時の伸びとする。
【0021】
(弾性糸)
第一線材20aとして各種の弾性糸を例示することができる。弾性糸とは、ゴム弾性を有する線材であり、天然ゴム系の天然繊維又は合成繊維の線材である。
合成繊維として、ポリエステル系エラストマ繊維、ポリウレタン系繊維、ポリアミド系エラストマ繊維、ポリエーテル系エラストマ繊維、合成ゴム系繊維、ブタジエン系繊維を例示できる。
なかでもポリエステル系エラストマ繊維は好適な伸び特性を有するため、同繊維の線材又は同繊維を一部に用いた線材(複合糸)を、本実施例の第一線材20aとして好適に使用することができる。ポリエステル系エラストマ繊維として、ポリトリメチレンテレフタレート繊維(PTT繊維)、ポリブチレンテレフタレート繊維(PBT繊維)や、エチレンテレフタレート単位を含有するエチレンテレフタレート系重合体、トリメチレンテレフタレート単位を含有するトリメチレンテレフタレート系重合体、ブチレンテレフタレート単位を含有するブチレンテレフタレート系重合体からなる繊維を例示できる。
【0022】
例えば東洋紡株式社製の「ダイヤフローラ(登録商標)」(330dtex−1f−CS0330M)はポリエステル系エラストマ繊維の弾性糸である。同弾性糸は、好適な伸び特性(20%伸長弾性率:91%、初期引張抵抗度:6cN/dtex、伸度:69%)を有する。そして同社製「ダイヤフローラ(登録商標)」(500dtex−1f−BD0500M)も好適な伸び特性(20%伸長弾性率:92%、初期引張抵抗度:10cN/dtex、伸度:101%)を有する。
またソロテックス社製の「ソロテックス(登録商標)」(200dtex−1f−SBR)はPTT繊維の弾性糸である。同弾性糸も、好適な伸び特性(20%伸長弾性率:90%、初期引張抵抗度:20cN/dtex、伸度:49%)を有する。
【0023】
(第二線材)
第二線材20bは、導電線材20の導電性を確保するための部材(後述の炭素繊維のカバリング糸)である。そして第二線材20bは、典型的に比抵抗(体積抵抗率とも呼ぶ)が10−1〜10−5Ω・cmであることが望ましい(図3及び図4を参照)。この第二線材20bを布材10に取付けることで、布材10(表皮材4S)自体を、静電容量式センサの電極及びヒータとして用いることができる。
ここで「比抵抗(体積抵抗率)」とは、どのような材料が電気を通しにくいかを比較するために用いられる物性値であり、例えば「JIS K−7194」に準拠して測定することができる。
【0024】
そして本実施形態では、第二線材20bを第一線材20aに撚り合わせて、第一線材20aの伸縮を許容するようにスパイラル状に配置する。このように第一線材20aの伸縮を許容することで、布材10の伸び特性を好適に維持することができる。なお第二線材20bの撚り方向はS撚又はZ撚のいずれでもよい。
ここで第二線材20bの撚数は、第一線材20aや第二線材20bの太さ(繊度)やフィラメント数などに応じて適宜設定することができる。このとき第二線材20bの撚り数を適宜調節するなどして、第一線材20aを均一にカバリングできることが望ましい。
例えば各線材20a,20bの太さ(繊度)等に応じて、第二線材20bの撚数を50〜1000T/mに設定することにより、導電線材20(布材10)に所望の導電性を付与できる。ここで第二線材20bの撚数が50T/m未満であると、伸縮時に変化を吸収できなくなりやすい傾向がある。また第二線材20bの撚数が1000T/mより多いと、多重撚となりやすく撚の均一性を得にくい。
【0025】
本実施形態では、第二線材20bとして、炭素繊維のカバリング糸を使用することができる(図4を参照)。
炭素繊維のカバリング糸は、炭素繊維からなる芯糸22(例えば複数の炭素繊維のフィラメントからなる束)と、この芯糸22に撚り合された鞘糸24(後述)を有することが好ましい。芯糸22中の炭素繊維のフィラメント数は特に限定しないが、400〜3000フィラメントであることが望ましい。
そして炭素繊維の芯糸22を鞘糸24でカバリングすることで、着座時の応力(繊維軸に対する垂直方向のせん断力や圧縮力)が特定の炭素繊維に集中することを防止又は低減できる。このように第二線材20bの耐久性を向上させることで、着座時の押圧や摩擦による断線を防止又は低減できる。
【0026】
ここで炭素繊維として、ポリアクリロニトリル系炭素繊維(PAN系炭素繊維)やピッチ系炭素繊維を例示できる。PAN系炭素繊維とは、ポリアクリロニトリル(PAN)を炭化焼成してなる繊維であり、耐炎化繊維、炭素化繊維及び黒鉛化繊維を例示できる。またピッチ系炭素繊維とは、石油ピッチや石炭ピッチを炭化焼成してなる繊維であり、不融化繊維、炭素化繊維及び黒鉛繊維を例示できる。なかでも焼成温度1000℃以上の炭素繊維(炭素化繊維、黒鉛化繊維、黒鉛繊維)のフィラメントは良好な電気伝導性を有するため、本実施形態の芯糸22として使用することが好ましい。
【0027】
(鞘糸)
上述の鞘糸24として、動物系又は植物系の天然繊維、合成繊維又はこれらの混紡繊維を例示することができる(図4を参照)。
合成繊維として、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、セルロース系繊維又はこれらの混紡繊維を例示できる。なかでもポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリトリエチレンテレフタレート,ポリ乳酸など)のフィラメントや、ポリアミド系繊維(ナイロン6,ナイロン66など)のフィラメントは、使用時の耐久性に優れるため、鞘糸24として好適に使用することができる。
【0028】
ここで第二線材20b中の鞘糸24の本数は特に限定しないが、1本(シングルカバリング)、2本(ダブルカバリング)であることが好ましい。
シングルカバリングすることで、芯糸22の露出性(通電手段18との接触性)を好適に確保することができる(図4及び図6を参照)。一方、ダブルカバリングすることにより、第二線材20bの耐久性を向上させることができる。なお鞘糸24の撚り方向はS撚又はZ撚のいずれでもよい。なおダブルカバリングの場合は、カバリングによるトルクを防ぐために、各鞘糸24を異なる撚り方向とすることが好ましい。
【0029】
また鞘糸24の撚数は、芯糸22や鞘糸24の太さ(繊度)、鞘糸24のフィラメント数(シングルカバリング、ダブルカバリング)などによって適宜設定される。
例えばシングルカバリングの場合、鞘糸24の繊度に応じて、鞘糸24の撚数を20〜2000T/mに設定することで、第二線材20bに所望の耐久性を付与することができる。ここで鞘糸24の撚数が20T/m未満であると、所望の第二線材20bの耐久性が得られない傾向にある。また鞘糸24の撚数が2000T/mより多いと、多重撚となりやすく撚の均一性を得にくい。
また導電線材20の接続性を考慮すると、鞘糸24の撚数の上限値を1000T/mに設定することが好ましい。すなわち鞘糸24の撚数が1000T/mより多いと、芯糸22(炭素繊維)の露出面積が低下して、後述する通電手段18との接触が阻害されるおそれがある。そして鞘糸24の撚数を150〜500T/mに設定することで、所望の耐久性と接触性を備えた第二線材20bとすることができる。
【0030】
(第三線材)
第三線材20cとして、植物系及び動物系の天然繊維、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる化学繊維及びこれらの混繊糸を例示することができる(図3を参照)。
合成繊維として、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、セルロース系繊維又はこれらの混紡繊維を例示できる。なかでもポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリトリエチレンテレフタレート,ポリ乳酸など)のフィラメントや、ポリアミド系繊維(ナイロン6,ナイロン66など)のフィラメントは、使用時の耐久性に優れるため、第三線材20cとして好適に使用することができる。
そして第三線材20cは、上記材質の線状部材であればよく、例えば紡績糸、フィラメント、延伸糸又は伸縮加工糸(仮撚加工糸や座屈糸)を例示することができる。
【0031】
そして本実施形態では、第三線材20cを、第二線材20bの上から第一線材20aに撚り合わせて、第一線材20aの伸縮を許容するようにスパイラル状に配置する。こうすることで導電線材20の耐久性が向上するとともに、第一線材20aに対する第二線材20bのズレを抑制するなどして、第二線材20bの撚り合せ状態(布材10の導電性)を好適に維持することができる。
ここで第三線材20cの撚り方向は特に限定しないが、カバリングによるトルクを防ぐために、第二線材20bとは異なる撚り方向であることが好ましい(図3を参照)。
【0032】
また第三線材20cの撚数は、各線材20a,20b,20cの太さ(繊度)やフィラメント数などに応じて適宜設定することができる。このとき第三線材20cの撚り数を適宜調節するなどして、第一線材20aと第二線材20bを均一にカバリングできることが望ましい。また第三線材20cの撚り数と、第二線材20bの撚り数を略同一として、カバリングによるトルクを、より確実に防止してもよい。
例えば上記各線材の太さ(繊度)等に応じて、第三線材20cの撚数を50〜2000T/mに設定することにより、導電線材20(布材10)に所望の耐久性を付与できる。ここで第三線材20cの撚数が50T/m未満であると、導電線材20(布材10)が所望の耐久性を得られない傾向にある。また第三線材20cの撚数が2000T/mより多いと、多重撚となりやすく撚の均一性を得にくい。
【0033】
[他の線材]
他の線材(材質)として、植物系及び動物系の天然繊維、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる化学繊維及びこれらの混繊糸を例示することができる。他の線材は、上記材質の線状部材であればよく、例えば紡績糸、フィラメント、延伸糸又は伸縮加工糸(仮撚加工糸や座屈糸)を例示することができる。なかでもフィラメントは、工程安定性が高く好ましい。
なお天然繊維では、綿、麻又は羊毛が風合いに優れるため、布材10の構成として用いることが好ましい(図2を参照)。また化学繊維では、ポリエステル繊維やナイロン繊維のフィラメントが耐久性と風合いと強度に優れるため、布材10の構成として用いることが好ましい。他の線材の繊度は特に限定しないが、例えば8〜1000dtex程度の他の線材を使用することができる。
【0034】
[布材の作製]
本実施形態では、布材10の一部を導電線材20で構成するとともに、布材10の他部を他の線材にて構成することができる(図2を参照)。
例えば布材10の製織に際して、緯糸(経糸)の一部又は全部を導電線材20で構成するとともに、残りの緯糸と経糸を他の線材で構成する。このとき導電線材20(緯糸)を、複数又は単数の他の線材(緯糸)毎に打込むことができる。また導電線材20(経糸)を、複数又は単数の他の線材(経糸)毎に配置することもできる。本実施形態では、経糸としての他の線材を整経したのち、導電線材20(緯糸)を、複数又は単数の他の線材(緯糸)毎に打込むこととした(図2を参照)。
なお布材10(織物)の組織構成は特に限定しないが、例えば朱子組織を用いることで、布材10裏面に導電線材20(緯糸)の大部分を配置することができる。このように布材10の表面(着座)側に導電線材20が極力露出しない構成として、摩擦や摩耗に対する導電線材20の耐久性を向上させることができる。
【0035】
布材10に取付ける導電線材20は単数でもよいが、複数の導電線材20を平行に取付けることが好ましい(図2を参照)。複数の導電線材20同士の間隔寸法(W1)は特に限定しないが、例えば布材10にヒータ機能を持たせる場合、導電線材20同士の間隔寸法(W1)を1mm〜60mmに設定することができる。
また布材10にセンサ(電極)機能を持たせる場合、導電線材20同士の間隔寸法を60mmの範囲内に設定することが望ましい。導電線材20同士の間隔寸法が60mmを超えると、布材10のセンサ機能が悪化(静電容量が低下)して電極として機能しないおそれがある。好ましくは導電線材20の間隔寸法の上限値を30mmとすることで、布材10がより好適なセンサ機能(静電容量)を備える。
【0036】
そして上述の布材10とパッド材14と裏基布16をこの順で積層して接合することで、布材10の原反(平面状)を形成する(図6を参照)。接合手段は特に限定しないが、ラミネート加工(溶着)、縫着及び接着などの手法を例示できる。なお布材10は、その裏面側(裏基布16側)に、適宜バッキングを施す(樹脂層を形成する)ことができる。
そして布材10の原反を略矩形状(座面形状の表皮ピース)にカットしたのち、通電手段18(後述)を取付けることで布材10を形成する。原反をカットする手法は特に限定しないが、刃物による切断、せん断による切断、加熱手段(後述)による切断及びこれらの複合手段による切断を例示することができる。
【0037】
[通電手段]
通電手段18は、導電線材20と電源9を電気的につなげる部材であり、線状の部材(導線等)や帯状の部材(導電テープ、導電化された布体等)を例示することができる(図2を参照)。この通電手段18によって、導電線材20と電源9を電気的につなげることで、導電線材20を通電状態とすることができる。
例えば本実施形態では、導線18aと、帯状の布体18bと、メッキ層18cを備える通電手段18を好適に用いることができる(図5及び図6を参照)。
【0038】
導線18aは、導電性を有する線状部材であり、導電線材20よりも比抵抗が低いことが好ましい。導線18aの電気抵抗を導電線材20よりも低くすることで、通電時における通電手段18の発熱を防止又は低減することができる。
ここで導線18aの比抵抗は、導電線材20の比抵抗によって適宜設定することができる。典型的には、導線18aの比抵抗の範囲を1.4〜15×10−8Ω・mに設定することで、通電時における通電手段18の発熱を防止又は低減することができる。
【0039】
導線18a(材質)として、金、銀、銅、黄銅、白金、鉄、鋼、亜鉛、錫、ニッケル、アルミニウム及びタングステンを例示できる。なかでも銅製の導線18a(銅線)は、作製しやすく安価であることから、本実施形態の導線18aとして好適に使用できる。
また導線18aに、上記材質のメッキ層を形成することができる。メッキ層を導線18aに形成することで、導電線材20との接触抵抗を低減できるとともに、導線18aの耐腐食性を向上させることができる。なおメッキ層の材質は特に限定しないが、比較的安価である錫や銀のメッキ層を好適に使用することができる。
また他の線材表面にメッキ層を形成してなる線材を、本実施形態の導線18aとして用いることもできる。
【0040】
ここで導線18aの太さは特に限定しないが、例えばφ0.01mm〜φ2.0mmの導線18aを使用することができる。
また導線18aは単糸で用いてもよく、導線18aを2〜1000本撚り合わせた撚糸を用いることもできる。なお撚糸の撚り数は、30〜200回/mであることが好ましい。ここで撚り数が30回/m未満であると、縫製時などに導線18aが分解する(隣り合う導線18a同士が擦れ合うことで撚糸がバラける)ことがある。また、撚り数が200回/mを超える導線18aは集束性が高いため、導電線材との接触面積が少なくなりやすい。そして撚糸の撚り数を50〜150回/m(ピッチ:7〜10mm)に設定することで、縫製時の導線18aの分解をより確実に防止又は低減できる。
【0041】
また布体18bは、導線18aの配索方向に長尺な帯状(例えばシート前後方向に長尺な帯状)であり、布帛(織物、編物、不織布又はこれらの複合体)にて構成することができる。布体18bは、接着や縫製などの手法で布材10に取付けることができる(図5の縫合線SEWを参照)。このとき導電線材20と布体18b等の接触をより広くするために、例えば縫製を複数本とすることが好ましく、より好ましくは縫製を3本以上とする。この布体18bによって導電線材20とより広い面積で接着することができ、両者の接触抵抗を低減できる。
そしてメッキ層18cは、電気伝導性を有する金属又は合金を有する層であり、布体18b(被めっき体)に設けられる。メッキ層18cは、布体18b全体に形成してもよく、布体18bの一面(布材10を臨む面)にのみ形成してもよい。
【0042】
(通電手段の配設)
図2、図5及び図6を参照して、布材10両端部からパッド材14と裏基布16を除去して、導電線材20の両端を露出させる。次に加熱手段(後述)や溶剤処理によって、芯糸以外の構成(他の線材、第一線材20a、鞘糸24、第三線材20c、バッキング剤)を除去することで、導電線材20の両端から芯糸22(炭素繊維)を露出させる。そして一対の通電手段18,18を複数の導電線材20の両端に各々配置したのち、通電手段18を布材10の裏面に縫着して、複数の芯糸22の両端を電気的に並列につなげる。そして一対の通電手段18,18に、各々電源ケーブル9aの端子をつなげて、複数の導電線材20の並列回路を布材10に形成する。
本実施形態では、一対の通電手段18,18によって、複数の導電線材20の並列回路を形成することにより、比較的低電圧で複数の導電線材20を発熱させる(布材10をヒータとして使用する)ことができる。
【0043】
(布材の伸び特性)
そして本実施形態では、表皮ピースとしての布材10(座面形状)と、他の表皮ピース(織編物、不織布又は皮革)を、縫製により一体化して袋状の表皮材4Sを形成する(図1及び図2を参照)。
ところで表皮材4Sの縫製にはミシンが使用されることが多いが、近年の縫製の高速化及び軽量化の要請から、縫製ミシン糸の使用量が削減される傾向にある。そして縫製ミシン糸の削減に応じて縫目の間隔(縫目ピッチ)が広がるのであるが、そうすると表皮材4S(特に伸び特性に劣る表皮材)に縫目ジワが生じて、表皮材4Sの仕立て映えが悪化することが懸念される。
【0044】
そこで本実施形態では、布材10のヨコ糸方向(導電線材20の配索方向)の5%モジュラスを100N以下に設定することとした(図2を参照、5%モジュラスの測定方法は後述する)。
このように上記5%モジュラスを100N以下とすることで、表皮ピースとしての布材10を、シート形状に追従させて伸縮させつつ、他の表皮ピースと縫製することができる(図1を参照)。そして布材10を適宜伸縮させて縫製することにより、縫製時の縫目ジワ等の発生を好適に抑制して、表皮材4Sの仕立て映えを向上させることができる。
そして本実施形態では、布材10(織物)を製織する際に、導電線材20の伸び特性や配設数を調節するなどして(比較的簡単な手法にて)、上記5%モジュラスを100N以下に設定することができる。
【0045】
以上説明したとおり本実施形態では、上述の導電線材20が、第一線材20aと第二線材20bを有することで、優れた伸び特性と通電性を備える。また本実施形態では、上述の導電線材20が第三線材20cを有することで、導電線材20の耐久性が向上する。また第三線材20cにより、第二線材20bの撚り合せ状態(布材10の導電性)を好適に維持することができる。
そして本実施形態によれば、比較的簡単に、布材10のヨコ糸方向の5%モジュラスを100N以下として、表皮材4Sの仕立て映えを向上させることができる。そして車両用シート2に、伸縮性のある表皮材4Sを見栄え良く張り込むことで、優れた座り心地と、極力シワのないきれいな意匠性を備えるシートとなる。また表皮材4Sは、特定の場所(シワの発生個所)に応力が集中することがほとんどなく耐久性に優れる。そして表皮材4Sは、その表面に導電線材20が浮いていない(ほとんど露出しない)ため、引っ掛かりによる導電線材20の断線がほとんど起こらず耐久性に優れる。
このため本実施形態によれば、表皮材4Sとして使用可能な伸び特性を極力維持しつつ布材10を導電化することができる。
【0046】
<第二の実施形態>
本実施形態の布材等は、第一の実施形態の布材等とほぼ同一の基本構成を備えるため、共通の構造等は対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
そして本実施形態の第二線材20bは、炭素繊維の芯糸22と、芯糸22を被覆する樹脂層25とを有するコーティング糸である(図7を参照)。このように樹脂層25にて芯糸22を被覆することで、炭素繊維の耐久性(特に垂直方向のせん断力や圧縮力に対する耐久性)を向上させることができる。また本実施形態の第二線材20bを使用することにより、導電線材20の製編織性や使用時の耐久性を向上させることができる(図3を参照)。
【0047】
そして第二線材20bの単位長さ当たりの炭素繊維重量をr、単位長さ当たりのコーティング糸重量をRとしたとき、重量比R/r=1.03〜7.00であることが好ましい。重量比R/rが1.03未満の場合には、炭素繊維に対する樹脂層25の補強効果が薄れるなどして、炭素繊維に所望の耐久性を付与できない傾向にある。
また重量比R/rが7.00より大きい場合(樹脂層25の重量が嵩む場合)には、導電線材20の意匠性や肌触り感に違和感が生じやすく、また製織時の取扱性が悪化する傾向にある。
【0048】
(第二線材の断面形状)
第二線材20b(樹脂層25)の断面形状として、円形や楕円形状などの略円状、三角や四角などの多角形状、扁平形状を例示できる。なかでも扁平形状の第二線材20bは、その面方向に柔軟に曲がることができるため、トルクを制御しながら第一線材20aに均一に巻き付けることができる。
ここで扁平形状とは、外接円と内接円の直径比(R2/R1)が2〜10となる断面形状であり、直径比R2/R1が2.5〜5であることが好ましい。直径比R2/R1が2未満であると、第二線材20bに所望の柔軟性を付与しにくくなる。また直径比R2/R1が10より大きいと、扁平面に対する垂直方向の力に第二線材20bが脆くなるなどして、導電線材20の耐久性が得られにくい。
なお第二線材20b(扁平形状)の厚み寸法D1は、典型的に0.05mm〜1mmであり、0.1〜0.5mmであることが好ましい。また第二線材20b(扁平形状)の幅寸法D2は、典型的に0.5mm〜3mmであり、0.7〜1.5mmであることが好ましい。
【0049】
(樹脂層の形成)
樹脂層25の形成手法は特に限定しないが、典型的には芯糸22に対してコーティング剤を付与したのち、扁平形状などの断面形状に成形する。
コーティング剤として、塩化ビニルなどの溶融樹脂や、分散溶液を例示できる。分散溶液は、例えば脂肪族ポリカーボネートポリウレタンを水系溶媒に分散することで調製できる。そしてコーティング剤の付与手法は、コーティング剤の種類に応じて、ドライ(溶融樹脂で芯糸をコートする)又はウェット(分散溶液を芯糸に付与したのち乾燥する)を適宜選択できる。
【0050】
(巻き付け作業)
第一線材20aに対する第二線材20bのカバリング手法は特に限定しない。例えば扁平形状の第二線材20bを用いる場合、第二線材20bに撚を入れないようにHボビンに巻き取ったのち、第一線材20aに巻き付けることが好ましい。
【0051】
<第三の実施形態>
本実施形態の布材等は、第一の実施形態の布材等とほぼ同一の基本構成を備えるため、共通の構造等は対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
そして本実施形態では、下記の2工程によって通電手段18と導電線材20を電気的につなげることとした(図8を参照)。
第1工程:加熱手段によって、芯糸以外の構成を溶融又は燃焼除去して、布材10端部から芯糸22を露出させる。
第2工程:通電手段18を、露出した芯糸22に電気的につなげる。
【0052】
(芯糸以外の構成)
芯糸以外の構成として、他の線材、第一線材20a、鞘糸24、第三線材20c、バッキング剤及び樹脂層25を例示することができる。
本実施形態では、芯糸以外の構成が、炭素繊維(芯糸22)よりも燃焼又は溶融しやすい材質であることが好ましい。すなわち芯糸以外の構成は、炭素繊維(芯糸22)よりも低融点であるか、又は限界酸素指数(LOI)が26未満の材質であることが望ましい。
ここで限界酸素指数(LOI)とは、天然繊維な合成繊維などの線材が燃焼を持続するために必要な最小酸素量から求めた酸素濃度の指数(O%)である。限界酸素指数(LOI)は、「JIS K 7201 高分子材料の酸素指数燃焼試験方法」や、「JIS L 1091(1999) 8.5E−2法(酸素指数法試験)」に準拠して測定することができる。
【0053】
(加熱手段)
上述の加熱手段として、布材10と物理的に接触可能な加熱装置(パンチ機構やハサミ機構等)や、レーザなどの光学的な加熱手段を例示できる。なかでもレーザは正確な温度(出力)制御が可能であり、本実施形態の加熱手段として好適に用いることができる。
ここでレーザの種類は特に限定しないが、COレーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ、UVレーザ、半導体レーザ、ファイバレーザ、LDレーザ、LD励起固体レーザを例示できる。なかでも有機物(他の線材等)への吸収が高いCOレーザが好ましい。
【0054】
またレーザは、布材10の表裏面のいずれからも照射可能である。布材10の表面側(表材としての布材側)からレーザを照射する場合には、導電線材20(芯糸22)の位置をセンシングしつつレーザを照射することが望ましい。なかでも布材10の裏面側(パッド材14又は裏基布16側)からレーザを照射し、表面側を固定面に固定させることで、レーザの焦点を布材10に合わせやすいため好ましい。
またレーザの照射とともに不活性ガスを布材10に吹付けることもできる。不活性ガス(窒素やヘリウムなど)の存在下で第1工程を行うことで、芯糸22の燃焼(溶融)を好適に防止又は低減することができる。
【0055】
そして加熱手段の設定温度などを適宜調節することで、芯糸22を残存させつつ芯糸以外の構成だけを燃焼(溶融)させたり、芯糸22を燃焼(溶融)させたりすることができる。
例えば三菱炭酸ガスレーザ加工機(形式:2512H2、発信機形式名:25SRP、レーザ定格出力:1000W)を加熱手段として使用する。このときレーザ加工機の照射条件を、出力15W以上25W未満(周波数200Hz,加工速度1500mm/min)に設定することで、芯糸22を極力残存させつつ、芯糸以外の構成を燃焼(溶融)させることができる。また照射条件を、出力25W(周波数200Hz,加工速度500mm/min)以上に設定することで、芯糸22を燃焼(溶融)又は切断することができる。
【0056】
[第1工程]
そして本実施形態では、加熱手段によって外周部を芯糸を含めて溶融(燃焼)させて、編物10から表皮ピースを切り出す。表皮ピースを切り出した後、接続させたい芯糸長さに相当する幅にレーザを照射して芯糸以外の構成だけを溶融(燃焼)させる。このとき芯糸以外の構成は加熱手段に燃焼されるが、芯糸22は燃焼されることなくそのままの状態で残存する。これにより編物10の側部から芯糸22を露出させることができる。
なお布材10が、パッド材14と裏基布16を有する場合には、これらパッド材14と裏基布16を加熱手段にて同時に切断することができる。
【0057】
[第2工程]
第2工程では、布材10の側部から露出した芯糸22に、通電手段18(導線18a,布体18b,メッキ層18c)を取付ける(図8を参照)。
例えば通電手段18を布材10の両端に各々配置したのち、芯糸22に電気的に並列につなげる。このときメッキ層18c及び導線18aを芯糸22と接触させて取付ける(芯糸22を布体10bに縫着する)。そして布材10側部に布体18bを縫着する(取付ける)ことにより、通電手段18と芯糸22の相対的な位置関係が好適に維持されて、両者の電気的な接続安定性が向上する。そして通電手段18に電源ケーブル9aの端子をつなげて、複数の導電線材20の電気回路を布材10に形成する(図2を参照)。
【0058】
[変形例]
また第1工程(変形例)では、加熱手段によって芯糸以外の構成をスポット状に溶融又は燃焼して、芯糸22を露出させることができる。そして導線を、スポットを横切るように布材に配置したのち、芯糸に固定する。
【0059】
以下、本実施形態を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されない。
[実施例1]
本実施例では、下記の導電線材を構成糸に用いて、織物としての布材を製織した。
第一線材として、弾性糸(東洋紡株式会社製「ダイヤフローラ(登録商標)」560dtex、DB500M)を使用した。
第二線材(巻き糸下糸)として、炭素繊維(東レ社製「トレカ(登録商標)T300−1K−50A」)の芯糸と、ポリエチレンテレフタレート(PET)の仮撚糸(167dtex−48フィラメント)の鞘糸を用いた。そして鞘糸を芯糸に対して、撚数1000T/mのS撚及びZ撚のダブルカバリングを行ったものを第二線材とした。
第三線材(巻き糸上糸)として、PETの仮撚加工糸(167dtex−48フィラメント)を使用した。
そして第一線材に対して第二線材と第三線材を、撚数200T/mのS撚及びZ撚のダブルカバリングを行ったものを本実施例の導電線材(第1緯糸)とした。
【0060】
(布材の作製)
また他の線材として、先染め(ライトグレー)PETの仮撚加工糸(167dtex/2−144フィラメント)の経糸と、先染め(ライトグレー)PETの仮撚加工糸(167dtex/2−144フィラメント)の第2緯糸を用いた。
そしてジャガード織機を用いて、経糸を整経(124本/2.5cm)したのち、導電線材(第1緯糸)と第2緯糸を打ち込むことで、本実施例の布材原反を製織した(緯糸密度50本/2.54cm)。
【0061】
上述の布材原反に、湯通し(80℃)と、中間セット(150℃×1min)を行ったのち、バッキング剤を裏面に付与して乾燥して、本実施例の布材(原反)を作製した。バッキング剤として、ブチルアクリレートとアクリロニトリルから合成されたアクリル系ポリマーと難燃剤を主成分とするものを用いた。そしてバッキング剤の付与量は45g/mとし、乾燥温度は150℃×1minとした。
本実施例では、布材(原反)の仕上げ密度が、経/緯=135/55本/2.54cmであり、布材の5%モジュラスが、経98N、緯33Nであった。また導電線材(第1緯糸)同士の間隔寸法(W1)は3mmであった(図2を参照)。そして導電線材(第1緯糸)の配置箇所では、経糸が2:1の割合で表面側に配置された。
そして布材の裏面に、パッド材(厚み5mmのウレタンシート)と、裏基布(15dtexナイロン6のハーフトリコット)を配置したのち、フレームラミネーションにより一体化した。
【0062】
そして布材にレーザを照射して、シート座面メイン用に、所定寸法の表皮ピースを切り出した(図2を参照)。除去手段として、三菱炭酸ガスレーザ加工機(形式:2512H2、発信機形式名:25SRP、レーザ定格出力:1000W)を使用した。レーザの照射条件は、速度500mm/分、出力30W、Duty7.7%、周波数200Hzとした。
つぎに表皮ピース(裏面側)にレーザを照射して、その両側に一対の切れ目を形成した。レーザの照射条件は、速度1500mm/分、出力20W、Duty7.7%、周波数200Hzとした。このときPET糸(他の線材)は除去手段によって溶融して切断されたが、炭素繊維は切断されることなく残存した。
つぎに表皮ピースから端部側を剥き取ることにより(他の線材とパッド材と裏基布を除去することにより)、炭素繊維の側部を露出させた。そして表皮ピースの表面に通電手段(帯状)を縫製したのち、炭素繊維と通電手段を縫製によって密着させて接続した。
【0063】
[実施例2]
本実施例では、下記の導電線材を構成糸に用いて、織物としての布材を製織した。
第一線材として、弾性糸(東洋紡株式会社製「ダイヤフローラ(登録商標)」330dtex、CS0330M)を使用した。
また第二線材(巻き糸下糸)として実施例1の第二線材を使用し、第三線材(巻き糸上糸)として実施例1の第三線材を使用した。
そして第一線材に対して第二線材と第三線材を、撚数200T/mのS撚及びZ撚のダブルカバリングを行ったものを本実施例の導電線材(第1緯糸)とした。
【0064】
(布材の作製)
また他の線材として、実施例1の経糸と、実施例1の第2緯糸を用いた。そして本実施例では、導電線材(第1緯糸)の挿入割合を実施例1の1/3に設定した。あとは実施例1と同様の手法にて経糸を整経したのち、導電線材(第1緯糸)と第2緯糸を打ち込むことで、本実施例の布材原反を製織した(緯糸密度50本/2.54cm)。
上述の布材原反に、実施例1と同一条件にて、湯通しと中間セットを行ったのち、バッキング剤を裏面に付与して乾燥して、本実施例の布材を作製した。
本実施例では、布材の仕上げ密度が、経/緯=132/55本/2.54cmであり、布材の5%モジュラスが、経98N、緯92Nであった。また導電線材(第1緯糸)同士の間隔寸法(W1)は9mmであった。そして導電線材(第1緯糸)の配置箇所では、経糸が2:1の割合で表面側に配置された。
そして布材の裏面に、実施例1同様に、パッド材と裏基布を配置したのち、フレームラミネーションにより一体化した。
【0065】
[実施例3]
本実施例では、第一線材として、実施例2の弾性糸(「ダイヤフローラ(登録商標)」)を使用した。また第三線材として、PET加工糸(167dtex−48フィラメント)を使用した。
そして本実施例では、第二線材として、炭素繊維(東レ社製「トレカ(登録商標)T300−1K−50B」)の芯糸と、塩化ビニルの樹脂層を有するコーティング糸を用いた。第二線材の断面形状は扁平形状(R1=0.3mm、R2=1.0mm)とし、炭素繊維とコーティング糸の重量比(R/r)は6.11に設定した(図7を参照)。芯糸のコーティングに際しては、炭素繊維を横取りして解除撚りが入らないよう引き出して加工した。
そして第一線材に対して第二線材を、撚数150T/mのZ撚のカバリングを行ったのち、第三線材を、撚数150T/mのS撚のカバリングを行い、実施例3の導電線材を得た。なおカバリングに際しては、第二線材(コーティング糸)を横取りしてHボビンに巻き取り、解除撚りが入らないようにした。
あとの製織の組織や条件は、実施例1と同様とした。
【0066】
[実施例4]
本実施例では、第一線材として、実施例2の弾性糸(「ダイヤフローラ(登録商標)」)を使用した。また第三線材として、PET加工糸(167dtex−48フィラメント)を使用した。
そして本実施例の第二線材では、実施例3の炭素繊維の芯糸と、脂肪族ポリカーボネートポリウレタン分散溶液(RU−40−350、スタール社製)を30重量%に希釈したコーティング剤とを用いた。
そしてディップローラーでコーティング剤を芯糸に付与してコーティングしたのち、ドライ(150℃)してコーティング糸(実施例4の第二線材)を得た。第二線材の断面形状は扁平形状(R1=0.2mm、R2=0.9mm)とし、炭素繊維とコーティング糸の重量比(R/r)は1.06に設定した。芯糸のコーティングに際しては、炭素繊維を横取りして解除撚りが入らないよう引き出して加工した。
そして第一線材に対して第二線材を、撚数250T/mのZ撚のカバリングを行ったのち、第三線材を、撚数250T/mのS撚のカバリングを行い、実施例4の導電線材を得た。なおカバリングに際しては、第二線材(コーティング糸)を横取りしてHボビンに巻き取り、解除撚りが入らないようにした。
あとの製織の組織や条件は、実施例1と同様とした。
【0067】
[比較例1]
本比較例では、炭素繊維のカバリング糸(実施例1の第二線材)と、他の線材を構成糸に用いて、織物としての布材を製織した。他の線材として、実施例1の経糸と、実施例1の第2緯糸を用いた。
そして本比較例では、実施例1と同様の手法にて経糸を整経したのち、導電線材(第1緯糸)と第2緯糸を打ち込むことで、本比較例の布材原反を製織した(緯糸密度50本/2.54cm)。この布材原反に、実施例1と同一条件にて、湯通しと中間セットを行ったのち、バッキング剤を裏面に付与して乾燥して、本比較例の布材を作製した。
本比較例では、布材の仕上げ密度が、経/緯=128/55本/2.54cmであり、布材の5%モジュラスが、経130N、緯220Nであった。また導電線材(第1緯糸)同士の間隔寸法(W1)は5mmであった。そして導電線材(第1緯糸)の配置箇所では、経糸が2:1の割合で表面側に配置された。
そして布材の裏面に、実施例1同様に、パッド材と裏基布を配置したのち、フレームラミネーションにより一体化した。
【0068】
[比較例2]
本比較例では、比較例1と同一の手法にて布材原反を作製した。この布材原反を、湯通しの代わりに、乾熱リラックス収縮工程(京都機械(株)社製「ルシオール」)に通して収縮させた。つぎに布材原反に、実施例1と同一条件にて中間セットを行ったのち、バッキング剤を裏面に付与して乾燥して、本比較例の布材を作製した。
本比較例では、布材の仕上げ密度が、経/緯=131/55本/2.54cmであり、布材の5%モジュラスが、経110N、緯108Nであった。また導電線材(第1緯糸)同士の間隔寸法(W1)は5mmであった。そして導電線材(第1緯糸)の配置箇所では、経糸が2:1の割合で表面側に配置された。
そして布材の裏面に、実施例1同様に、パッド材と裏基布を配置したのち、フレームラミネーションにより一体化した。
【0069】
[縫目ジワ評価試験]
本評価試験では、実施例1の布材を、緯糸方向に本縫いにて縫い合わせた(図9を参照)。試験サンプル(X1,X2)として、正方形状の実施例1の布材を二枚使用した(横(W2):100mm、縦(W3):100mm)。そして試験サンプル(X1,X2)を、ミシンにて縫合した(縫合線SEW、縫い代(W4):8mm)。
ミシンがけの条件(縫製条件)は、下記のように設定した。
(1)ミシン糸:ポリエステル#8(167dtex/2×3)
(2)ミシン針:#21−S(スリムポイント)
(3)縫目ピッチ:33±2目/100mm
また実施例1と同様の条件にて、実施例2の布材と、比較例1及び比較例2の布材の縫目ジワ評価試験を行った。
【0070】
[5%モジュラスの測定試験]
各実施例と比較例の布材の5%モジュラスを下記の(a)〜(c)の手順で測定した。
(a)仕上がり後の織物(パッド材のラミネーション前の織物)より、直径300mmの大きさの試験片(円形状)を3枚切り出した。
(b)定速度伸長型の引っ張り試験機を用い、掴み冶具として上下とも表側は24.5mm角、裏側はタテ25.4mm、ヨコ50.8mmを取付け、掴み間隔を200mmとした。試験片は、緯糸が伸長されるように円の中心が掴み冶具間の中心となるようにセッティングした。
(c)引張速度200mm/minにて試験片を伸張し、初期荷重として1.96Nとなる位置から10mm伸長した位置での荷重を読み取った。3枚の試験片を測定し、その平均値を5%モジュラス値とした。
【0071】
そして各実施例と比較例の布材における縫目ジワの発生を観察して、下記の基準で官能評価した。評価が「○」と「△」の布材を合格とし、「×」の布材を不合格とした。
○:縫目ジワが全くみられない。
△:縫目ジワが若干みられるが、ほとんど目立たない。
×:縫目ジワが目立ち、品位に劣る。
【0072】
試験結果を、下記の[表1]に示す。
【表1】

【0073】
[結果及び考察]
[表1]及び図9を参照して、比較例1の布材は、比較的大きな縫目ジワが発生し、表皮材としての伸び特性に欠けていた。また比較例2の布材は、表皮材としての伸び特性に欠けるとともに、表面に導電線材が露出していた(表面意匠性が悪化した)。
これに対して実施例1及び2の布材は、縫目ジワがほとんど生じず、表皮材として使用可能な伸び特性を有していた。また実施例1及び2の布材は、表面に導電線材がほとんど現れず、表面意匠性に優れていた。また実施例1の布材に電力(12W)を供給したところ、速やかに昇温した。
このことから実施例1及び2によれば、表皮材として使用可能な伸び特性を極力維持しつつ、布材を導電化できることがわかった。
【0074】
実施例3及び4では、得られた導電線材(カバリング糸)には、第二線材(コーティング糸)の捩れが入っていなかった。
そして実施例3及び4の第二線材(コーティング糸)よれば、比較的簡単に第一線材に撚り合わせることができた。
【0075】
本実施形態の布材は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。
(1)本実施形態では、専ら織物としての布材10を例示した。これとは異なり、布材10は、導電線材20を有する編物であってもよい。編物として、経編、丸編、横編又はこれらの複合体などの各種編物を例示することができる。
この場合、布材10の一部を導電線材20で構成するとともに、布材10の他部を他の線材にて構成することができる。例えばコース方向又はウェール方向の糸(全部又は一部)に導電線材20を用いて、編物としての布材10を編成することができる。
【0076】
(2)また本実施形態では、布材10に対して導電線材20を直線状に配設した。この導電線材20は、波状やジグザグ状などの各種状態で表材に配設できる。
(3)また本実施形態では、布材10に対して、複数の導電線材20をシート幅方向に並列配置する例を説明した。複数の導電線材20の配置関係は特に限定されるものではなく、例えばシート前後方向に並列配置してもよい。この場合には一対の通電手段をシート前後に配置する。
(4)また本実施形態では、第三線材20cを有する導電線材20を例示した。導電線材は、耐久性の極端な悪化がない限り、第一線材と第二線材で形成することができる。
【0077】
(5)また本実施形態では、布材10を着座部に使用する例を説明した。本実施形態の布材10は、天板メイン部、天板サイド部、かまち部、背裏部、及びヘッドレストなどの車両用シートの各種構成の表皮ピース(表皮材)として使用することができる。
また布材10は、車両用シート2のほか、天井部、ドア部、ハンドル、コンソールボックスなどの車両内装品の表皮ピース(表皮材)として使用することができる。
(6)また本実施形態では、専らヒータとして機能する表皮材4Sの例を説明した。表皮材4Sは、静電容量式センサの電極として使用することができる。この場合、布材10の末端部(片側)にのみ単数の通電手段を取付けることができる。
【符号の説明】
【0078】
2 車両用シート
4 シートクッション
10 布材
18 通電手段
20 導電線材
20a 第一線材
20b 第二線材
20c 第三線材
22 芯糸
24 鞘糸
25 樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電可能な導電線材と、前記導電線材に電力を供給可能な通電手段とを有する布材において、
前記布材が、前記導電線材を構成糸として用いた織物又は編物であり、
前記導電線材が、伸縮可能な弾性を備える第一線材と、前記第一線材に撚り合された第二線材を有するとともに、前記第二線材が、炭素繊維からなる芯糸と、前記芯糸に撚り合された鞘糸を有する布材。
【請求項2】
通電可能な導電線材と、前記導電線材に電力を供給可能な通電手段とを有する布材において、
前記布材が、前記導電線材を構成糸として用いた織物又は編物であり、
前記導電線材が、伸縮可能な弾性を備える第一線材と、前記第一線材に撚り合された第二線材を有するとともに、前記第二線材が、炭素繊維からなる芯糸と、前記芯糸を被覆する樹脂層とを有する布材。
【請求項3】
前記導電線材が、前記炭素繊維とは異なる材質の第三線材を有するとともに、前記第三線材が、前記第二線材の上から前記第一線材に撚り合された請求項1又は請求項2に記載の布材。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−74538(P2011−74538A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228335(P2009−228335)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】