説明

布繊維吸音部材及び吸音体

【課題】 構造が比較的簡単であって、広い周波数範囲の騒音を効率よく吸収減衰して騒音を軽減し得るとともに、雨水等の浸入があっても吸音性能が速やかに回復し得る上に、リサイクル性のよい布繊維吸音部材を提供する。
【解決手段】 一定間隔の空間7を有する所定厚みの矩形枠体3と、該矩形枠体3を収容し得る大きさの袋2に形成された布4とを備え、袋2に矩形枠体3を収容して矩形枠体3の両面に布4を張設してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布繊維吸音部材及び吸音体に関し、詳細には、例えば一般道路、高速道路あるいは鉄道等から発生する騒音を軽減するための吸音技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路騒音や鉄道騒音に対する規制や世論が厳しくなってきており、これに対処するために、種々の吸音部材を備えた吸音体が提案され、実用されているものもある(特開2002−69940号公報(特許文献1)参照)。図7は、特許文献1の従来技術として説明されているように、一般的に汎用されている吸音体の構造例を示すもので、以下この図7を参照して説明する。
【0003】
図7に示す吸音体21は、ルーバー構造のアルミニウムなどの金属製板材からなる表面板22と、表面を合成樹脂フィルム23で被覆したガラス繊維不織布(グラスウール)24からなる吸音部材25と、この吸音部材25の背面に空間(空気層)26を設けて配設された金属製板材の背面板27とを備えて構成されているものであって、表面板22を道路等の騒音発生側に臨ませ、そのルーバー開口28より内部に入射した騒音音波を吸音部材25にて吸収減衰させ、もって道路等の外側周辺に伝播する騒音を軽減するようになっている。
【0004】
ところで、上記吸音体で採用されている吸音部材25は、ガラス繊維不織布24を合成樹脂フィルム23で被覆したものが用いられ、合成樹脂フィルム23によって雨水や洗浄水等が吸音部材25中に滲み込むのを防止する防水機能が図られているが、長期の使用中に合成樹脂フィルム23が破れ内部に雨水等が滲入し、全体が垂れ下がってしまう問題、更にはガラス繊維不織布24の形態を保持しているバインダーの効力が失われ、繊維質が飛散する問題などが使用現場において懸念、一部報告もされており、改善が望まれている。また、近年、省資源の観点からリサイクル性が問われ、再処理技術が確立されつつあるものの、コストが嵩むため現実的な再処理技術とはなりにくいといった問題もある。
【0005】
一方、特許文献1に提案の遮音壁パネルでは、表面板の開口部からの侵入水を捕捉して当該層(防水層)内を流下させる合成繊維不織布からなる防水層を併用して、この防水層よりも層厚の大きい合成繊維不織布からなる吸音層(吸音部材)を採用しており、これにより、上記問題点等を改善し得る他、上述の従来の吸音部材よりも吸音効果を高め騒音を低減し得ることが期待されるが、吸音部材として合成繊維不織布を層厚く成形するのに、合成繊維不織布を断面葛籠折に積層して矩形板状に成形するのでは、成形の困難さ及びコスト高が懸念される。その上、吸音層の前方に空気層を介して表面板の背面に防水層を形成しており、雨水等の侵入水を防止し得る効果は期待できるものの、その取付けは表面板と押え手段の多孔板とでサンドイッチ状に挟持する形態であり、この点でも成形の困難さ及びコスト高が懸念される。
【特許文献1】特開2002−69940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の如き事情に鑑みてなしたものであって、その目的は、構造が比較的簡単であって、広い周波数範囲の騒音を効率よく吸収減衰して騒音を軽減し得るとともに、雨水等の浸入があっても吸音性能が速やかに回復し得る上に、リサイクル性のよい布繊維吸音部材及び吸音体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明(請求項1)に係る布繊維吸音部材は、一定間隔の空間を有する所定厚みの矩形枠体と、該矩形枠体を収容し得る大きさの袋に形成された布とを備え、袋に矩形枠体を収容して矩形枠体の両面に布を張設してなるものである。
【0008】
上記構成の布繊維吸音部材では、矩形枠体の両面に張られた布と矩形枠体の空間とが相俟って広い周波数範囲の騒音を効率よく吸収減衰して騒音を軽減し得るとともに、雨水等の浸入水があっても織物の布であり乾燥がしやすく吸音性能が速やかに回復できる。また、矩形枠体の両面に布を袋に構成して張った構造であり、構造が比較的簡単であるとともに、リサイクルがしやすい。そして、このような作用効果をより効果的に得るには、前記布は、主に合成繊維による織物であることが好ましく(請求項2)、PET(ポリエチレンテレフタレート)などを繊維に加工した樹脂繊維などが耐候性や耐経年劣化性(繊維形状の変形、繊維の変質等が起こり難い。)などの面から推奨される。
【0009】
本発明(請求項3)に係る布繊維吸音部材は、上記請求項1又は2に記載の布繊維吸音部材において、矩形枠体を収容し得る大きさの袋が2つ以上層状に成形されてなる布を用いるものである。このように矩形枠体と布の層を交互に2つ以上の層に積層状態で構成することにより、上記の作用効果が得られ、特に布と矩形枠体の空間とが相俟ってより広い周波数範囲の騒音を効率よく吸収減衰して騒音を軽減し得る。
【0010】
本発明(請求項4)に係る布繊維吸音部材は、上記請求項1〜3に記載の布繊維吸音部材において、矩形枠体が、外枠とその外枠の内部に設けられた桟とを備え、桟により小分けにされた空間を有するものである。このように矩形枠体の内部空間を桟により小分けにすることにより、上記の作用効果が得られ、特に布と矩形枠体の空間とが相俟ってより広い周波数範囲の騒音を効率よく吸収減衰して騒音を軽減し得る。
【0011】
本発明(請求項5)に係る吸音体は、請求項1〜4のいずれかに記載の布繊維吸音部材を、表面板と背面板との間に設けてなるものである。この吸音体によれば、上述した布繊維吸音部材を用いて構成されており、道路や鉄道などの防音壁として設置することで、広い周波数範囲の騒音を効率よく吸収減衰して騒音を軽減し得るとともに、雨水等の浸入水があっても乾燥がしやすく吸音性能が速やかに回復できる。また、表面板と背面板との間に布繊維吸音部材を設ける構成であり、構造が比較的簡単であるとともに、リサイクルがしやすい。なお、本吸音体は、請求項1〜4のいずれかに記載の布繊維吸音部材を表面板と背面板との間に1つ設けたものであってもよいし、又は2つ以上を所定間隔を開けて設けたものであってもよい。あるいは、請求項1〜4のいずれかに記載の布繊維吸音部材を表面板と背面板との間に組合せて設けてもよい。このように表面板と背面板との間に布繊維吸音部材を設ける構成の吸音体とすることにより、道路や鉄道などの防音壁として設置した場合、より広い周波数範囲の騒音を効率よく吸収減衰して騒音を軽減し得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る布繊維吸音部材及び吸音体によれば、広い周波数範囲の騒音を効率よく吸収減衰して騒音を軽減し得るとともに、雨水等の浸入水があっても乾燥がしやすく吸音性能が速やかに回復できる。また、構造が比較的簡単であるとともに、リサイクルがしやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る布繊維吸音部材の正面図、図2は、本発明に係る矩形枠体の正面図、図3は、図1のA−A断面図である。
【0014】
図において、1は布繊維吸音部材、2は布袋、3は矩形枠体である。布袋2は、合成繊維を織物加工した布4を、矩形枠体3を収容し得る大きさの矩形状に裁断し、その2枚を重ね3辺を縫合した袋である。なお、布袋2は、合成繊維を織物加工した布4を、矩形枠体3を収容し得る約倍の大きさの矩形状に裁断し、その布4を二つ折りに重ね向い合う2辺を縫合して袋としてもよい。また、縫合に変えて接着剤などで接合してもよいし、あるいは合成繊維のみの織物であればヒートシールなどにより接合してもよい。
【0015】
矩形枠体3は、溝形鋼を溶接して製作され、本例では外枠5の内部に3本の桟6が施行され、4つの空間7を有する。なお、素材として溝形鋼を用いたが、他の形鋼や軽量形鋼であってもよく、また材質もアルミニウムなどの金属や繊維強化樹脂などであってもよい。要は、矩形枠体3の空間7の両面に布4がほぼ平衡状態を保持し得る状態に張り得る材質及び断面形状の強度部材であればよい。また、空間7は、本例では4つを例としたが、一般的には布繊維吸音部材1の大きさや厚さ及びシミュレーションなどを基に所望の吸音効果が得られる空間数が設定される。
【0016】
布繊維吸音部材1は、布袋2内に矩形枠体3を装入し、装入後に装入口を縫合して製作される。この場合、布袋2の大きさは、矩形枠体3を装入した後に空間7の両面に布4がほぼ平衡状態を保持し得る状態に張り得る大きさが好ましい。しかし、布袋2内への矩形枠体3の装入しやすさからは、布袋2の大きさを矩形枠体3の大きさより大きく成形しておき、装入後に矩形枠体3の辺側に弛み分を引き寄せ、その弛み分を縫合、接合あるいは留め金具などを用いてまとめることで矩形枠体3の両面に布4を張るようにしてもよい。あるいは、布袋2が合成繊維のみの織物であれば、矩形枠体3を装入後に真空蒸気熱処理を施してシュリンクさせて矩形枠体3の両面に布4を張るようにしてもよい。要は、矩形枠体3の両面に張られた布4が空間7において大きく弛むことなく張られることが肝要であって、望ましくは両面の布4が平行状態を保持するように張ることが望ましい。
【0017】
上記構成の布繊維吸音部材1は、矩形枠体3の両面に張られた布4と矩形枠体3の空間7とが相俟って広い周波数範囲の騒音を効率よく吸収減衰して騒音を軽減できる。また、雨水等の浸入水があっても織物の布4と空間7であり、従来のようなグラスウールなどを充填した構造と異なり乾燥がしやすく吸音性能が速やかに回復できる。また、矩形枠体3の両面に布4を袋に構成して張った構造であり、構造が比較的簡単である。また、損傷した場合には、矩形枠体3を布袋2から抜き出して、矩形枠体3と布4とをそれぞれリサイクルすることができる。
【0018】
なお、上記実施形態では、布袋2が一重の袋の場合を例に説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、図4に図3と同様の位置での断面図で示すように、布袋2を例えば三重の袋(二重、四重などであってもよい。)に成形し、その各袋部分に矩形枠体3を挿入したものであってもよい。
【0019】
図5は、本発明に係る吸音体の縦断側面図である。この図5に示す吸音体11は、ルーバー構造のアルミニウムなどの金属製板材からなる表面板12と、上述した本発明に係る布繊維吸音部材1と、この布繊維吸音部材1の背面に空間(空気層)13を設けて配設された金属製板材の背面板14とを備えて構成されているものであって、上記背景技術の項で説明した図7に示す従来の吸音体21における、表面を合成樹脂フィルム23で被覆したガラス繊維不織布24からなる吸音部材25に変えて上述した本発明に係る布繊維吸音部材1を組入れた外は実質的に図7に示す従来の吸音体21と同じ構成である。
【0020】
上記吸音体11は、吸音部材として上述した布繊維吸音部材1を内部に組入れているので、道路や鉄道などの防音壁として設置した場合、広い周波数範囲の騒音を効率よく吸収減衰して騒音を軽減し得るとともに、雨水等の浸入水があっても乾燥がしやすく吸音性能が速やかに回復できる。
【0021】
因みに、上記図5に示す構成の吸音体11と比較のため図7に示す従来の吸音体21とを用いて残響室法による吸音率及び音響透過損失の測定の2種類の音響測定を行った。その測定結果を図6に示す。図6aは残響室法による吸音率、図6bは音響透過損失の測定のグラフ図である。なお、図5の吸音体11における背面の空気層Aは33mm、布繊維吸音部材1の布間隔B、C、Dの間隔は等間隔である。また、各層の面積は4mである。また、吸音体21の吸音部材25の厚みは30mm、背面の空気層は33mmである。
【0022】
図6から明らかなように、本発明に係る吸音体11は、図7に示す従来の吸音体21と同様に日本道路公団等の定める基準数値(吸音率で400Hz−70%以上・1000Hz−80%以上、透過損失で400Hz−25dB以上・1000Hz−30dB以上)を満たすものであった。
【0023】
また、上記の結果とは別に、吸音部材1の吸音枠体3の厚さ、桟6の設置数(桟がない場合も含む)などを変えて吸音率を測定したが、それぞれは図6aと同等レベルの吸音結果が得られた。これにより、使用場所や使用目的などに応じて適宜の吸音部材1を製作し吸音体11に組入れて騒音を軽減できることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る布繊維吸音部材の正面図である。
【図2】本発明に係る矩形枠体の正面図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】本発明に係る別の布繊維吸音部材の、図1のA−A断面に当る断面図である。
【図5】本発明に係る吸音体の縦断側面図である。
【図6】吸音体の音響測定グラフ図であって、aは残響室法による吸音率の測定グラフ図、bは音響透過損失の測定グラフ図である。
【図7】従来の吸音体の縦断側面図である。
【符号の説明】
【0025】
1:布繊維吸音部材 2:布袋 3:矩形枠体
4:布 5:外枠 6:桟
7:空間 11:吸音体 12:表面板
13:空気層 14:背面板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定間隔の空間を有する所定厚みの矩形枠体と、該矩形枠体を収容し得る大きさの袋に形成された布とを備え、袋に矩形枠体を収容して矩形枠体の両面に布を張設してなることを特徴とする布繊維吸音部材。
【請求項2】
布が合成繊維による織物である請求項1に記載の布繊維吸音部材。
【請求項3】
矩形枠体を収容し得る大きさの袋が2つ以上層状に成形されてなる布を用いる請求項1又は2に記載の布繊維吸音部材。
【請求項4】
矩形枠体が、外枠とその外枠の内部に設けられた桟とを備え、桟により小分けにされた空間を有する請求項1〜3のいずれかに記載の布繊維吸音部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の布繊維吸音部材が、表面板と背面板との間に設けられてなることを特徴とする吸音体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−241847(P2006−241847A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59266(P2005−59266)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(595132441)▲蔦▼井株式会社 (10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000192615)神鋼建材工業株式会社 (61)
【Fターム(参考)】