説明

希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法、及び得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末、並びにそれを用いたボンド磁石用組成物、並びにボンド磁石

【課題】原料混合物を還元拡散反応し安価で高特性の磁石粉末を安定的に生産できる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法および、及び得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末、それを用いたボンド磁石用組成物、並びにボンド磁石を提供する。
【解決手段】遷移金属合金粉末、希土類酸化物粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合して反応容器に装入し、非酸化性雰囲気中で加熱焼成する還元拡散法により、前記希土類酸化物を希土類金属に還元した後、これを前記遷移金属粉末に拡散させて所望の希土類−遷移金属系母合金を含む還元拡散反応生成物を得る工程を具備する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法において、原料混合物3を反応容器1に装入する工程で、反応容器中で原料混合物を加圧することなく、振動付与装置10により体積を3%以上低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法及び得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末並びにそれを用いたボンド磁石用組成物、並びにボンド磁石に関し、より詳しくは、原料混合物を還元拡散反応し安価で高特性の磁石粉末を安定的に生産できる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法および、及び得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末、それを用いたボンド磁石用組成物、並びにボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のさまざまな電気機器類、例えば携帯電話やデジタルカメラ、デジタルビデオなどほとんどの家電製品は、小型化、軽量化、高性能化が要求され、その要求は高まるばかりである。このような小型化、軽量化を実現するためには、そこで使用される永久磁石の小型化、高特性化が重要な課題の一つとなっている。さらに一方ではコスト競争も激しさを増すばかりであり、磁石に要求される事項としは、軽量化、高特性化、さらには価格(安価)が挙げられる。磁石業界において、価格面では従来から使われているフェライト磁石が最も有利であるとされているが、最大エネルギー積(BH)maxが15〜20kJ・m−3(数MGOe)と非常に低く、軽量化、高特性化の要求には到底応えきれない。
【0003】
特性面では、フェライトなどの低特性磁石に比較し、数10倍の磁気特性を有する希土類磁石が知られているが、希土類磁石需要も上記背景のもと伸びており、1993年にはフェライト磁石を抜いて使用量が最も多い磁石となっている。このうちNd−Fe−B系焼結磁石は、440kJ・m−3(55MGOe)を超える最大エネルギー積(BH)maxを有し、希土類磁石の中でも最も需要が高い磁石の一つである。さらに、磁石粉末の磁気特性では、理論上Nd−Fe−B系磁石に並ぶ磁石として、菱面体晶系、六方晶系、正方晶系、又は単斜晶系の結晶構造を有する金属間化合物に窒素を導入した希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末が、特に永久磁石材料として優れた磁気特性を有することから注目され、需要を伸ばしている。
【0004】
例えば、R−Fe−N(R:Y、Th、及び全てのランタノイド元素からなる群の中から選ばれた1種または2種以上)で表される永久磁石(特許文献1参照)、また、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H(R:イットリウムを含む希土類元素のうちの少なくとも1種)で表される磁気異方性材料が知られている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、菱面体晶系、六方晶系、又は正方晶系の結晶構造を有するThZn17型、TbCu型、又はThMn12型金属間化合物に窒素等を含有させた希土類磁石材料が知られ、これらの磁石材料の磁気特性等を改善するために、種々の添加物を用いることも検討されている。
例えば、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H−M(R:Yを含む希土類元素のうちの少なくとも1種;M:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Pd、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Pb、Biの元素、及びこれらの元素並びにRの酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、水素化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硝酸塩のうち少なくとも1種)で表される磁石粉末が知られている(特許文献3参照)。
また、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H−O−M(R:Yを含む希土類元素のうちの少なくとも1種;M:Mg、Ti、Zr、Cu、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Biの元素、及びこれらの元素並びにRの酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、水素化物のうち少なくとも1種)で表される磁性材料が知られている(特許文献4参照)。
【0005】
これらの希土類−遷移金属−窒素系磁性材料の多くは、保磁力発生機構がニュークリエーションタイプであるため、平均粒径1〜10μmの微細な粉末として使用される。この理由は、平均粒径が10μmを超えると、必要な保磁力が得られないか、ボンド磁石にしたとき該ボンド磁石の表面が粗くなって磁石粉末の脱落が起こりやすくなってしまうためである。ただし、平均粒径が1μm未満では、磁石粉末の酸化による発熱やそれに伴う発火、さらにThZn17型結晶構造を有する主相の分解による磁気特性の低下が起こるため好ましくないとされている。
このような希土類−遷移金属−窒素系磁性材料は、数〜数10μmを超える平均粒径を有する希土類−遷移金属系の母合金粉末を製造した後、窒素原子を導入するため、窒素やアンモニア、又はこれらと水素との混合ガス雰囲気中で200〜700℃に加熱する窒化処理を行い、次いで、上記所定の粒度に微粉化して製造されている。
【0006】
上記希土類−遷移金属−窒素系磁性材料の原料として用いられる希土類−遷移金属系母合金粉末は、溶解鋳造法、液体急冷法、還元拡散法等により製造される。このうち溶解鋳造法では、希土類金属、遷移金属、必要に応じてその他の金属を所定の比率で調合して不活性ガス雰囲気中で高周波溶解し、得られた合金インゴットを均一化熱処理した後、ジョークラッシャー等で所定の粒度に粉砕して製造されている(例えば、特許文献5参照)。また、液体急冷法では、上記合金インゴットを用い液体急冷で合金薄帯を作製し、これを粉砕して製造されている(例えば、特許文献6参照)。
また、還元拡散法では、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤からなる混合物を非酸化性雰囲気下で加熱処理し、前記希土類酸化物を希土類金属に還元した後、これを前記遷移金属粉末に拡散させて所望の希土類−遷移金属系母合金を含む還元拡散反応生成物を得る還元、拡散反応を起こさせる。その後、還元拡散反応生成物(以下、還元物と記す場合がある)は非常に硬く取り扱いずらいため、場合により崩壊させ粉状または小さな塊状にする。例えば、還元物を密閉容器に装入し、密閉容器内を減圧して雰囲気ガスを排出し、水素を充填させて大気圧よりも0.01〜0.11MPa高い圧力とし合金を自己発熱させ、合金が実質的に発熱しなくなるまで水素で大気圧より高くなるように加圧を続けることにより崩壊させる(特許文献7)。さらにその崩壊物から還元剤を取り除くために湿式処理し、続いて窒化、微粉砕を行い磁石粉末とする。
【0007】
溶解鋳造法、液体急冷法などは原料に高価な希土類金属を用いるため価格を低く抑えることは難しく、それに比較して、還元拡散法は原料に安価な希土類酸化物を使うため有利とされている。
しかし、安価な製造方法である還元拡散法においても問題はある。例えば、希土類酸化物を還元剤で還元し遷移金属内に拡散させる際、希土類元素は蒸気圧が高いため、どうしても炉上部の方が希土類元素リッチになってしまい、組成のばらつき、特性低下が避けられない。そこで、温度分布の狭い範囲で還元拡散を行うようにしたり、還元拡散時間を短くしたりすることにより組成のばらつきを少なくする方法が考えられているが、温度範囲や加熱時間の制御は容易ではない。
【0008】
また、原料粉末を予め加圧成形しておくことで、還元拡散反応中に生成した溶体の移動を制限し、母合金組成のばらつきを防止することを提案されている(特許文献8参照)。これにより、かかる問題はある程度解消されたが、工程が一層複雑になり、コスト的に不利となることに加えて、還元拡散反応生成物中の希土類−遷移金属系母合金粉末には凝集・融着部が多く存在し、窒化処理後も合金粉末同士が強く凝集・融着しているため、粉末を磁界中で配向させた際の配向性(粉末配向度)が劣り、磁化が低くなるという問題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60−131949号公報
【特許文献2】特開平2−57663号公報
【特許文献3】特開平6−279915号公報
【特許文献4】特開平3−153852号公報
【特許文献5】特開平5−258928号公報
【特許文献6】特開平5−13207号公報
【特許文献7】特開2004−204285号公報
【特許文献8】特開平10−280002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記希土類−遷移金属−窒素系磁性材料の原料として用いられる希土類−遷移金属系母合金粉末を還元拡散法により製造する従来技術の問題点に関し、還元拡散法において、製造方法および、それを用いたボンド磁石用組成物、並びにボンド磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ね、希土類−遷移金属−窒素系磁性材料の原料として用いられる希土類−遷移金属系母合金粉末を還元拡散法により製造する製造方法において、遷移金属合金粉末、希土類酸化物粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤からなる原料混合物を反応容器に詰めて、加圧せずに振動させて原料混合物の体積を特定量低減させてから還元拡散すると、炉内の、高温で温度分布が狭い領域で還元拡散反応を起こすことができ、さらには原料粒子間の距離を縮めることにより熱伝導がよくなるため、これによって反応時間が短縮でき、従来よりも安価で高特性の磁石粉末を安定的に製造できるようになることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、遷移金属合金粉末、希土類酸化物粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合して反応容器に装入する工程、その後、該原料混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成する還元拡散法により、前記希土類酸化物を希土類金属に還元した後、これを前記遷移金属粉末に拡散させて所望の希土類−遷移金属系母合金を含む還元拡散反応生成物を得る工程、次いで、得られた該還元拡散反応生成物を崩壊させる工程、その後、得られた該希土類−遷移金属系母合金を窒素含有雰囲気中で加熱して窒化処理して下記の一般式(1)で表される希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を得る工程を具備する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法において、原料混合物を反応容器に装入する工程で、反応容器中で原料混合物を加圧することなく、体積を3%以上低減させることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
(100−a−b) …(1)
(式(1)中、Rは1種または2種以上の希土類元素、Xは1種または2種以上の遷移金属元素であり、また、a、bは原子%で、4≦a≦18、10≦b≦17を満たす。)
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、原料混合物が、反応容器中で振動を受けて、体積が3〜20%低減されることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、還元拡散時間が2〜8時間であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、希土類−遷移金属合金粉末の平均粒径が5〜100μmであることを特徴とする希土類−遷移金属粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、希土類−遷移金属−窒素合金粉末の平均粒径が1〜40μmであることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、得られた希土類−遷移金属−窒素合金粉末をさらに微粉砕または解砕することを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
【0014】
一方、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、請求記載の製造方法によって得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末が提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明に係り、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末に、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれかを樹脂バインダーとして配合したことを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石用組成物が提供される。
さらに、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、ボンド磁石用組成物を圧縮成形又は射出成形してなる希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法によれば、遷移金属合金粉末、希土類酸化物粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合して得られる原料混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成する還元拡散法において、原料混合物を加圧せずに、反応容器に詰めて適度な振動を与えて原料混合物の体積を低減させてから還元拡散するために、還元拡散反応が炉内の高温で温度分布が狭い領域で起こり、原料粒子間の距離が縮まって熱伝導がよくなり、これによって反応時間が短縮でき、安価で高特性の磁石粉末を安定的に生産することが可能となる。この製造方法を用いて得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を用いてボンド磁石用組成物を作製すれば、高特性で安価なボンド磁石を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】還元拡散反応装置の外観を示す概略図である。
【図2】本発明の方法により、原料混合物を圧縮処理して、図1に示した還元拡散反応装置に装入する工程を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法、及び得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末並びにこれを用いたボンド磁石用組成物、およびボンド磁石について、以下に詳細に説明する。
【0018】
1.希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、後で詳述する製造方法で得られ、希土類元素、遷移金属元素、及び窒素から構成されている。
【0019】
すなわち、本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、次の一般式(1)で表される希土類−遷移金属−窒素系合金からなるニュークリエーションタイプの磁石粉末である。
(100−a−b) …(1)
(式(1)中、Rは1種または2種以上の希土類元素、Xは1種または2種以上の遷移金属元素であり、また、a、bは原子%で、4≦a≦18、10≦b≦17を満たす。)
【0020】
(希土類元素)
希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を構成する主要成分の希土類元素(R)は、磁気異方性を発現させ、保磁力を発生させる上で本質的な役割を果たす元素である。
希土類元素としては、Yを含むランタノイド元素のいずれか1種または2種以上であり、例えば、Y、La、Ce、Pr、Nd、およびSmの群から選ばれる少なくとも1種以上の元素が挙げられる。これらの中でも、Sm及び/又はNdが好ましい。また、これらとEu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbの群から選ばれる少なくとも1種の元素とを組み合わせれば、磁気特性を高めることができる。
希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の希土類元素は、4原子%以上18原子%以下であることが必要である。4原子%よりも少なければ、合金中に軟磁性相であるα−Feが多く存在するようになり高い保磁力が得にくくなり、18原子%を超えると主相となる合金相の体積が減少してしまい飽和磁化が低下するため好ましくない。
希土類元素の中では、特に、Smが好ましく、Smが希土類元素の50原子%以上含むと高い保磁力を持つ材料が得られる。ここで用いる希土類元素は、工業的生産により入手可能な純度でよく、製造上、混入が避けられない元素、例えば、O、H、C、Al、Si、F、Na、Mg、Ca、Liなどが含まれていても差し支えない。
【0021】
(遷移金属元素)
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を構成する主要な遷移金属元素としては、鉄(Fe)が挙げられ、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の必須成分であるが、磁気特性を損なうことなく温度特性や耐食性を改善する目的で、その一部をCoまたはNiの1種以上で置換してもよい。このように、Fe単独、またはFeの一部をCoまたはNiの1種以上で置換した合金をまとめて以下、Fe成分と称する。
Fe成分は、強磁性を担う基本元素であり、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末としたとき、65原子%以上、約86原子%以下含有する必要がある。Fe成分が、65原子%より少ないと磁化が低くなり好ましくない。86原子%を超えると希土類元素の割合が少なくなり過ぎ、高い保磁力が得られず好ましくない。Fe成分の組成範囲が70〜80原子%であれば、保磁力と磁化のバランスのとれた材料となり特に好ましい。
【0022】
(窒素)
窒素は、後で詳述する本発明の方法で得られた希土類−遷移金属系母合金を窒化して、磁石化するために必要な元素であり、10〜17原子%含有する必要がある。窒素が10原子%未満では9eサイトに窒素が埋まりきらず高い磁気特性が得られず、窒素が17原子%より多く入ってしまうと結晶構造が壊れ磁気特性が下がってしまう。
【0023】
2.希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法は、遷移金属合金粉末、希土類酸化物粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合して反応容器に装入する工程、その後、該原料混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成する還元拡散法により、前記希土類酸化物を希土類金属に還元した後、これを前記遷移金属粉末に拡散させて所望の希土類−遷移金属系母合金を含む還元拡散反応生成物を得る工程、次いで、得られた該還元拡散反応生成物を崩壊させる工程、その後、得られた該希土類−遷移金属系母合金を窒素含有雰囲気中で加熱して窒化処理して下記の一般式(1)で表される希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を得る工程を具備する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法において、原料混合物を反応容器に装入する工程で、反応容器中で原料混合物を加圧することなく、体積を3%以上低減させることを特徴とする。
【0024】
(100−a−b) …(1)
(式(1)中、Rは1種または2種以上の希土類元素、Xは1種または2種以上の遷移金属元素であり、また、a、bは原子%で、4≦a≦18、10≦b≦17を満たす。)
【0025】
本発明では、得られた窒化物を必要により微粉砕又は解砕して所定の粒径を有する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造する工程を含むことができる。以下、各工程について、説明していく。
【0026】
(希土類−遷移金属合金粉末の製造)
本発明では、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合して原料混合物を得た後、該原料混合物を反応容器中で、原料混合物を加圧することなく、体積を3%以上低減させてから、この反応容器を反応装置に装入し、非酸化性雰囲気中で加熱焼成する還元拡散法により、前記希土類酸化物を希土類金属に還元した後、これを前記遷移金属粉末に拡散させて所望の希土類−遷移金属系母合金を含む還元拡散反応生成物を得る。
【0027】
さらに詳しくは、還元拡散法では、特定量の希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を出発原料として用いて、下記に詳述すると同様な条件で加熱焼成して製造する。原料として用いる遷移金属の粒度分布は、目標製品の粒度に近い分布のものを用いることが好ましい。
希土類酸化物は、目標組成より2〜20%程度多く入れることが好ましい。これは希土類の投入量が少ないと還元剤を除去する際の湿式処理時に希土類成分がより多く溶けてしまうため目標組成以下となって希土類が不足し軟磁性相が出現してしまい保磁力を下げてしまうからである。一方、希土類成分が上記範囲より多すぎると非磁性相が多くなり磁化が下がってしまうため好ましくない。
【0028】
(希土類酸化物)
希土類酸化物は、前記希土類元素、すなわち、例えば、Y、La、Ce、Pr、Nd、およびSmの群から選ばれる少なくとも1種以上の元素の酸化物である。
希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の希土類元素は、4原子%以上18原子%以下であることが必要である。4原子%よりも少なければ、合金中に軟磁性相であるα−Feが多く存在するようになり高い保磁力が得にくくなり、18原子%を超えると主相となる合金相の体積が減少してしまい飽和磁化が低下するため好ましくない。
希土類元素の中では、特に、Smが好ましく、Smが希土類元素の50原子%以上含むと高い保磁力を持つ材料が得られる。
【0029】
(還元剤)
還元剤は、希土類酸化物を還元する機能を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属である。例えばLi及び/又はCa、あるいはこれらの元素とNa、K、Mg、Sr又はBaから選ばれる少なくとも1種が使用できる。
これら還元剤は、その投入量と粉体性状、希土類酸化物の粉体性状、各種原料粉末の混合状態、還元拡散反応の温度と時間を注意深く制御して使用することが望ましい。なお、上記還元剤の中では、取り扱いの安全性とコストの点から、金属Li又はCaが好ましく、特にCaが好ましい。
還元剤の投入量は、該希土類酸化物を還元するに足るように、反応当量よりも若干過剰とすることが好ましい。還元剤を当量より過剰にしないと容器内の残存酸素や水分により還元剤が酸化し、希土類酸化物を十分還元できなくなり磁石粉末特性を低下させてしまう。
【0030】
上記各原料の混合方法は、特に限定されないが、Sブレンダー、Vブレンダー、各種ミキサー等を用いて行うことができる。例えば、各原料を所定の量、秤量し、Vブレンダーで1時間混合すれば良い。
【0031】
本発明において、反応装置は、特に制限されるわけではなく、例えば、図1に示すように、原料混合物を装填した反応容器1を収容する密閉型の容器と、その内部の雰囲気ガスをアルゴンなどの非酸化性ガスに置換し、非酸化性ガスを流通する手段、反応容器1を所定の温度に加熱するヒーター6が煉瓦5の中に組込まれた電気炉などから構成されている。
【0032】
反応容器の構造は、その内部が円筒状、角筒状など様々な形状のものが採用され、材質はステンレスなど耐食性のものが好ましい。反応容器の底部形状は、半球状、角のとれた筒状など、いかなる形状であっても良く特に制限されない。
まず、図1に示すように反応容器内に、希土類酸化物粉末、鉄を含む遷移金属粉末、及び還元剤が配合されている原料混合物を装填する。原料混合物は、反応容器底部に略均一な厚さの層になる。
【0033】
上記原料混合物を反応容器に移す際には、希土類酸化物などは平均粒径が数μmと細かいため粉が飛散しやすい。飛散を防止するために蓋2やカバー等を取り付けるか、落し蓋などを入れることが好ましく、これにより合金粉に組成ずれを起こすことが抑制できる。
【0034】
(原料混合物の圧縮処理)
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法においては、上記のようにして原料混合物を得た後、原料混合物を加圧することなく、体積を3%以上低減させてから還元拡散を行う。以下、この処理を原料混合物の圧縮処理という。
【0035】
上記原料混合物を、圧縮処理するために使用する装置は、とくに限定されないが、例えば、ノッカー、バイブレーターなどの振動付与装置やプレス機などが挙げられる。このうち、ノッカー、バイブレーターなどの振動付与装置が好ましい。
【0036】
ノッカーは、反応容器を槌打ちして振動を付与する装置であり、槌打ち手段によってエアーを用いるエアー式ノッカー、電気を用いる電動式ノッカーがある。槌打ちの位置は、振動させる反応容器の大きさや原料混合物の量等によって最適な振幅が得られるように選択する。
【0037】
また、バイブレーターには、エア式バイブレーター、電動式バイブレーターの他に、例えば、圧電振動素子を用いた超音波式バイブレーターがある。何れを用いてもよく、振動させる反応容器の大きさや原料混合物の量等によって最適な振幅、加速度、周波数が得られるように選択する。
【0038】
振動付与装置で振動させる方向は、左右方向だけでなく上下方向でもよく、左右・上下方向を組み合わせても良い。振動は連続的に加えても、あるいは間欠的に加えるようにしても良い。バイブレーターを使用する際は、原料突き刺し棒を、反応容器に入れた原料に突き刺すようにすると効率的である。原料混合物に振動を付与すると、原料混合物が流動し、粒径が大きな原料粉末の隙間に粒径が小さな原料粉末が入り込み、全体が均一に充填される。
【0039】
原料混合物の圧縮される割合(圧縮度)は、原料混合物の体積が3%以上低減する程度が好ましい。原料混合物の圧縮度が、3%以上であれば、原料粒子間の距離が適度に縮まることにより熱伝導が良好となり、還元拡散反応を効率的に起こさせることができ、反応時間が短縮し、安価で高特性の磁石粉末を安定的に生産できるようになる。
【0040】
原料混合物の圧縮度は、原料混合物が、反応容器中で振動を受けて、体積が3〜20%低減されることがさらに好ましい。原料混合物のより好ましい体積低減量は、5〜15%である。ノッカー、バイブレーターなどの振動付与装置を用いれば、この範囲に調整することが容易であるが、プレス機を用いると、その使用条件によっては、原料混合物の体積低減量が20%を超えてしまうことがある。原料混合物の体積低減量が20%を超えると、還元拡散反応中に生成した溶体の移動が大幅に制限されるので、母合金組成のばらつきが防止されるものの、得られた合金の粉砕が困難になり、コスト的に不利となる場合がある。
【0041】
(還元拡散方法)
その後、上記原料混合物を投入した反応容器を反応装置に装填した後、還元拡散炉に入れ、酸素が実質的に存在しない非酸化性雰囲気とする。反応容器中の原料混合物は、非酸化性雰囲気中、例えば、アルゴンを流しながら電気炉で上記還元剤が溶融状態になる温度まで昇温保持し加熱焼成する。
【0042】
加熱温度は、還元剤としてCaを選定した場合、1000〜1250℃とすることが好ましい。Caの融点が838℃、沸点が1480℃であるため、この温度範囲内であれば還元剤は溶解するが、蒸気にはならずに処理することができる。還元拡散は、温度条件だけでなく、前記還元剤の投入量、還元剤および希土類酸化物の粉体性状、各種粉末の混合状態、還元拡散反応の時間を注意深く制御して行う。これにより、上記希土類酸化物が希土類元素に還元されるとともに、該希土類元素が遷移金属合金粉中に拡散され、希土類−遷移金属系母合金が合成される。
【0043】
この還元拡散反応が起きる際、原料が上記のように圧縮処理されていると、原料が炉内の底部、つまり高温部の狭く温度分布の小さい範囲に置かれ均一に熱がかかることになる。これにより場所による反応のばらつきが小さくなり、組成ばらつきが小さい希土類−遷移金属系母合金粉末が得られ、ひいては磁気特性の高い粉末が得られることになる。さらに原料が適度に圧縮処理されており、各原料粒子間の距離が短いため熱伝導がよく、短時間で反応し昇温時間も短くなる。還元拡散時間が長い場合、蒸気圧の高い希土類元素は高温部で揮発し、低温部に濃縮し組成のばらつき原因になる。したがって、上記のように短時間で還元拡散反応できることは特性を上げる大きな要因となる。還元拡散を6〜12時間行った後、速やかに反応装置内を室温まで冷却し、得られた希土類−遷移金属系母合金を含んだ塊状の反応生成物(以下、還元物という場合がある)を反応容器から取り出す。
【0044】
その後、必要により希土類−遷移金属合金を水素処理してから、水中に投入しデカンテーションを行った後、酸洗を行い、固液分離して希土類−遷移金属合金粉末を得る。
【0045】
(水素処理)
還元拡散法で得られた希土類−遷移金属系母合金粉末を含有する還元拡散反応生成物は非常に硬いうえ、反応容器に溶着しており取り扱いづらい。また還元拡散反応生成物を水砕する際、水中での崩壊性を改善するためには、水中投入前に水素処理等を行うことが好ましい。水素処理を行わずに水砕を行うと、還元物の塊が残り、篩収率が悪く、特性低下にも繋がってしまう。
希土類−遷移金属系母合金粉末を含有する還元拡散反応生成物の水素処理は、以下のように行う。上記希土類−遷移金属系母合金を含有する還元拡散反応生成物を真空引きできる密閉式のステンレス製容器に入れ、該容器を0.001MPa以下まで真空引きし、リークチェックを行う。その後、アルゴンガスを0.14MPaまで封入し、加圧でのリークチェックを行う。その後、0.001MPa以下まで真空引きし容器内に水素を入れる。水素は、水素吸蔵合金である希土類−遷移金属系母合金に吸収され、希土類リッチ相と主相の膨張率の違い、還元剤の酸化、母合金の表面酸化等により崩壊する。容器内温度が40℃以下になったら希土類−遷移金属系母合金を含有する還元拡散反応生成物を取り出す。
【0046】
(水砕)
次いで、希土類−遷移金属系母合金を含有する還元拡散反応生成物を水中に投入(水砕)し、デカンテーションにより洗浄し、次いで酸洗、固液分離、乾燥を行い、希土類−遷移金属系母合金粉末を得る。
水砕では、例えば、得られた粉状還元拡散反応生成物を、還元拡散反応生成物1kgあたり約1リットルの水の割合で水中に投入し、1〜3時間攪拌し還元物を崩壊させ、スラリー化させる。得られたスラリーを粗い篩を通し水洗槽に移入する。このときスラリー溶液のpHは11〜12程度であり、還元拡散反応生成物はほとんど崩壊しており、篩上に残るロス分は非常に少なくなり、還元拡散反応生成物を水で処理し、過剰還元剤を酸化させていると水と反応し水素がでることなく安全に作業できる。
【0047】
(水洗、デカンテーション、酸洗)
この後、デカンテーションを5〜10回程度繰り返す。デカンテーション条件は、例えば、該スラリー溶液に注水し、攪拌1分、静置分離2分、排水することを1回とすることが好ましい。その後、スラリーのpHが5〜6になるように酢酸を添加し、酸洗を行うことで固液分離し、固相分を乾燥して希土類−遷移金属系母合金粉末を得る。還元剤として用いたCaは非磁性であり、希土類−遷移金属系母合金粉末の粒界や粒子表面に存在するCaは磁気特性を下げるので、できるだけ除去することが好ましい。
【0048】
(窒化処理)
希土類−遷移金属系母合金粉末を窒化処理するには、予め窒素ガス又はアンモニア、あるいはアンモニア−水素混合ガスのいずれかを含む含窒素雰囲気とした後、特定の温度で加熱を行う。
窒化処理は、該希土類−遷移金属系母合金粉末を含窒素雰囲気中で、例えば、200〜700℃、好ましくは300〜600℃、さらに好ましくは350〜550℃に加熱する方法が採られる。200℃未満では十分に母合金の窒化速度が遅く、700℃を超える温度では希土類の窒化物と鉄とに分解してしまうので好ましくない。
また、窒化反応を行う反応装置は、特に限定されず、横型、縦型の管状炉、回転式反応炉、密閉式反応炉などが挙げられる。何れの装置においても、本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を調製することが可能であるが、特に窒素組成分布の揃った粉体を得るためにはキルンのような回転式反応炉を用いるのが好ましい。
窒化を効率よく行うためには、通常100μm程度以下の希土類−遷移金属系母合金粉末粒子を用いることが好ましい。粒子の大きさは特に制限されないが、凝集・融着部を実質的に含まない平均粒径10〜100μmの粉末であればなお好ましい。このため、希土類−遷移金属系母合金粉末の凝集・融着部をなくすために、必要により解砕しておくことが好ましく、粒径の大きな希土類−遷移金属系合金粉末をさらに微粉化(解砕を含む)して製造してもよい。粒径が10μmよりも細かいと発火し易く取り扱いが難しくなる。また、粒径が100μmよりも粗いと粒子内を均一に窒化することが行いずらくなり、磁気特性が低くなってしまう。
希土類−遷移金属系母合金粉末を粉砕、解砕する方法は、特に制限されず、例えば、湿式粉砕法ではボールミル粉砕や媒体攪拌型ミル粉砕等を、乾式粉砕法では不活性ガスによるジェットミル粉砕等を用いることができる。これらの中でも、粉末の凝集を少なくできるジェットミル粉砕が特に好ましい。
また、希土類−遷移金属系母合金粉末の凝集をさらに少なくするため、例えば、ジェットミル粉砕では、不活性ガス中に5vol%以下の酸素を導入することで微粉化することができる。また、ボールミル粉砕や媒体攪拌ミル粉砕等では、小径の粉砕ボール、あるいはステンレス鋼等ではなくジルコニア等の低比重のセラミックス粉砕ボールを用いることによって微粉化することができる。
【0049】
(窒化処理前の熱処理)
なお、窒化処理前の上記希土類−遷移金属系母合金粉末の粒径が粗大である場合に粉砕処理を行うと、得られた母合金粉末には粉砕により生じた結晶の歪みが残留し、次の窒化工程においてα−Fe等の軟磁性相が発生する原因となる場合がある。α−Fe等の軟磁性相が発生すると保磁力や角型性が低下するため、磁気特性を向上させるためには、粉砕により得られた母合金微粉末を、窒化処理に先立って、アルゴン、ヘリウム、真空等の非酸化性かつ非窒化性雰囲気中、600℃以下で熱処理し、結晶の歪みを除去しておくことが好ましい。
特に、窒化処理と同時に400〜600℃で熱処理を行うと処理コストを下げられるためメリットが大きい。窒化処理と同時の場合は、熱処理温度が400℃未満であると、残留する結晶の歪みを除去する効果が十分でなく、一方、600℃を超えると、合金が希土類元素の窒化物と鉄に分解するので好ましくない。
【0050】
(水素アニール、アルゴンアニール)
上記窒化処理の終了後、水素アニール、アルゴンアニールをすることが好ましい。例えば、水素アニールを0.5〜2時間、アルゴンアニールを0.3〜1時間行い、アルゴンを流した状態で室温まで自然または強制冷却をすればよい。
水素アニールは、希土類−遷移金属−窒素系合金主相に過剰に入った窒素を抜きだす効果があり、また、アルゴンアニールは希土類−遷移金属−窒素系合金主相に過剰に入った水素を抜く効果がある。これにより該合金粉末の過剰な窒素、水素が抜け、理論上、最も磁気特性の高い組成に近づかせることができる。
なお、上記のように、アンモニア−水素混合ガス中で窒化した後の合金粉中には水素が高含有量で残留している場合があり、水素残留量が多いままでは磁気特性が低下するため、必要によって真空加熱を行うなどの方法で十分に水素除去しておく必要がある。
【0051】
(解砕又は微粉砕)
ニュークリエーションタイプの磁石粉末は、上記の方法で得られた粗粉末では高い保磁力を得ることができないため、10μm以下になるように微粉砕を行うことが必要になる。微粉砕を行う方法は特に限定されないが、例えば湿式粉砕機、乾式粉砕機、ジェットミル、アトライターなどが挙げられる。アトライターは適当な粉砕溶媒を選択することにより合金粉末を安価に微粉砕できるので好ましい装置といえる。この際、微粉末を乾燥する必要があるが、真空中で乾燥すれば短時間で効率的に乾燥できるので好ましい。
【0052】
(磁石粉末の表面処理)
得られた希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、空気中、温度や湿度の高い雰囲気中に置かれると錆びたり劣化したりして磁気特性が低下する場合があるため、燐酸や有機燐酸エステル系化合物、亜鉛などの金属粉末、シリルイソシアネート系化合物、あるいはチタネート系、アルミニウム系、シラン系など各種カップリング剤によって表面処理することが望ましい。
例えば、希土類−鉄−窒素系磁石粉末に亜鉛粉末とカップリング剤を加えたものを、有機溶媒を媒液として湿式粉砕することにより表面処理することができる。磁石粉末の粉砕時に亜鉛粉末及びカップリング剤が存在すると、粉砕された磁石粉末表面にカップリング剤及び亜鉛粉末がコ−ティングされ、粒子同士の付着が防止されて粉砕速度が早くなる。また、亜鉛粉末がコ−ティングされることにより、磁石粉末表面近傍の変質層が磁気的に無害なものになるため、高磁気特性が得られる。また、表面処理剤として有機燐酸エステル系化合物あるいはシリルイソシアネート系化合物を用いる場合、被覆または塗布手段は特に限定されないが、例えば、まず処理剤を磁性粉100重量部に対して約5〜10重量部の溶媒に溶解した後、磁性粉と充分に混合撹拌し、24時間以上真空または減圧乾燥することにより行うことができる。この時、溶媒としては、アルコール類、ケトン類、低級炭化水素類、芳香族類、またはこれらの混合系有機溶媒等が用いられる。
【0053】
3.ボンド磁石用組成物
本発明のボンド磁石用組成物は、上記製造方法により得られた希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末に、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれかを樹脂バインダーとして配合したことを特徴とする。すなわち、前記した本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、バインダー成分として熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれかを配合し、混合することにより、優れた特性を有するボンド磁石用組成物となる。
熱可塑性樹脂としては、4−6ナイロン、12ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトンなどを用いることができる。
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、キシレン樹脂、ユリア樹脂、メラニン樹脂、熱硬化型シリコーン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、熱硬化型フッ素樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂などを用いることができる。
さらに、バインダー成分の種類にもよるが、重合禁止剤、低収縮化剤、反応性樹脂、反応性希釈剤、未反応性希釈剤、変性剤、増粘剤、滑剤、カップリング剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、無機充填剤や顔料などを添加することができる。
本発明のボンド磁石用組成物を調製する際に用いられる混合機としては、特に制限がなく、リボンミキサー、V型ミキサー、ロータリーミキサー、ヘンシェルミキサー、フラッシュミキサー、ナウターミキサー、タンブラー等が挙げられる。また、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ウェットミル、ジェットミル、ハンマーミル、カッターミル等を用いることができる。各成分を粉砕しながら混合する方法も有効である。
【0054】
4.ボンド磁石
本発明のボンド磁石は、上記ボンド磁石用組成物を圧縮成形又は射出成形してなる希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石である。すなわち、上記希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を含むボンド磁石用組成物は、混練後、下記の要領で成形してボンド磁石とすることができる。
上記熱硬化性樹脂を配合したボンド磁石用組成物を用いる場合は、圧縮成形または射出成形によることが好ましい。圧縮成形の場合は、得られるボンド磁石全重量に対する樹脂量としては1〜5重量%、射出成形では、樹脂粘度の調整や金型の温度等の最適条件を選択する必要があるが、7〜15重量%が好ましい。
圧縮成形する場合は、前記混合比で、例えば、混合機(例えば、井上製作所(製))で混合し、金型に磁界を印加するための電磁石を具備したプレス装置を用い、金型に800kA/m(10kOe)以上の磁界を印加しながら、4ton/cmの圧力でプレス成形する。
また、射出成形の場合では、前記混合比で加熱加圧ニーダー装置を用いて混合し、金型に磁界を印加するための電磁石を具備したプレス装置を用いて成形する。組成物を、例えば、30〜80℃の成形温度に加温したシリンダー中で溶融し、800kA/m(10kOe)以上の磁界が印加された金型中に射出成形して、樹脂の硬化温度まで加熱し、一定時間保持して硬化させる。
一方、熱可塑性樹脂を配合したボンド磁石用組成物を用いる場合は、射出成形によることが好ましく、樹脂量としては5〜20重量%が好ましい。熱可塑性樹脂を配合したボンド磁石用組成物は、溶融温度、例えば210℃以上に加温したシリンダー中で組成物を溶融し、800kA/m(10kOe)以上の磁界が印加された金型中に射出成形し、冷却後、固化した成形物を取り出せば良い。
【実施例】
【0055】
次に実施例、比較例を用いて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0056】
<磁気特性評価>
希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末試料の磁気特性は、次のように測定した。まず、パラフィンを詰めたサンプルケースを準備し、それに磁石粉末を詰め、その後、加熱配向、冷却固化を行い、振動試料型磁力計(VSM)(東英工業(株)製)を用い、ヒステリシスループを描かせた(最大印加磁場1190kA/m(15kOe))。
射出成形ボンド磁石に関しては、cioffi型自記磁束計(東英工業(株)製)を用いて磁気特性を測定した。
【0057】
<平均粒径の測定>
磁石粉末の平均粒径はレーザー回折式粒度分布計(Sympatec社製)を用いて行った。
【0058】
(実施例1)
次に示す製造方法でSm−Fe−N合金磁石を作製した。まず、出発原料として、Fe粉(平均粒径:39.5μm、純度:99.0%以上、酸素<0.1%)、Sm(平均粒径:3.2μm、純度:99.0wt%以上、炭素<0.05wt%、SiO<0.01wt%)を準備した。上記原料に、還元剤として、このSmを還元するに足るCa(粒度:5mm以下、純度99.1%以上)を加え混合機で1時間混合した。
次に、得られた原料混合物を反応容器に入れ、振動部が棒状のバイブレーター(エクセン(株)製、軽便電棒、振動棒長さ:約70cm、振動周波数:約250Hz)で、8分間振動を与え、圧縮処理を行った。原料混合物は、体積が10%低減した。なお、原料混合物の体積は、反応容器は円筒状であるため原料混合物の高さを圧縮前後にメジャーで測定した。この試料を還元拡散反応装置の電気炉(還元拡散炉)に装入し、アルゴン置換した後、アルゴン流量0.5〜1L/分として、1200℃で所定の10時間保持し、希土類酸化物を還元しFe中に拡散させSm−Fe還元物を製造した。
次に、還元拡散反応生成物1kgを真空引きできるステンレス製容器に入れ、0.001MPaまで真空引きしたのち、水素を入れ反応させた。塊状の反応生成物は、容易に崩壊させることができた。
次に、還元拡散反応生成物1kgに対し10Lの水とともに水槽に入れ、10分攪拌後、上澄みを抜き、この作業を10回繰り返してCaを除去し、酢酸を用いて酸洗処理を行った。その後、アルコールでデカンテーションし、真空中100℃、5時間乾燥し、Sm−Fe母合金粉末を得た。
次に、得られた母合金粉末を、アンモニア−水素混合ガス中、480℃で8時間、窒化処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を製造した。
次に、このSm−Fe−N合金粗粉末1kgをアトライター(三井鉱山(株)製)でアルコールを溶媒として用い、200rpm、2時間粉砕を行った。その後ろ過し、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製)で攪拌しながら真空加熱乾燥を行い、Sm−Fe−N微粉末を製造した。Sm−Fe粉末、Sm−Fe−N粗粉末の平均粒径を表1、Sm−Fe−N粗粉末の組成、Sm−Fe−N微粉末の磁気特性を表2に示す。
【0059】
(比較例1、2)
比較例1では、実施例1とは異なり、得られた混合物を反応容器に入れ、圧縮処理を行わずに、そのまま反応装置に入れて還元拡散を行った。還元拡散保持時間は、実施例1と同じく10時間とした。
比較例2では、実施例1とは異なり、得られた混合物を反応容器に入れ、プレスにより圧縮処理し原料混合物を10%圧縮した。その後、反応装置に入れて還元拡散を行った。還元拡散保持時間は、実施例1と同じく10時間とした。
各還元拡散反応生成物から1kgを真空引きできるステンレス製容器に入れ、0.001MPaまで真空引きしたのち、水素を入れ反応させ崩壊させた。
次に、還元拡散反応生成物からSm−Fe−N微粉末を製造する条件も実施例1〜4と同様とした。Sm−Fe粉末、Sm−Fe−N粗粉末の平均粒径を表1、Sm−Fe−N粗粉末の組成、Sm−Fe−N微粉末の磁気特性を表2に示す。
【0060】
(実施例2〜4)
実施例2では、得られた原料混合物を反応容器に入れ、実施例1と同様にバイブレーターで3分間振動を与え、体積が4%低減するように圧縮処理した。また、実施例3では得られた混合物を反応容器に入れ、バイブレーターで8分間振動を与え、体積が10%低減するように圧縮処理し、実施例4では得られた混合物を反応容器に入れ、バイブレーターで11分間振動を与え、体積が12%低減するように圧縮処理した。原料混合物を還元拡散する際に、保持時間を実施例1よりも短い5時間とした。
次に、実施例1と同様の工程、同じ条件で、還元拡散反応生成物からSm−Fe−N微粉末を製造した。Sm−Fe母合金粉末、Sm−Fe−N粗粉末の平均粒径を表1、Sm−Fe−N粗粉末の組成、Sm−Fe−N微粉末の磁気特性を表2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
(比較例3、実施例5〜7)
比較例1で製造したSm−Fe−N微粉末をそれぞれ90.7重量%採り、これに熱可塑性樹脂12ナイロン(PA12(宇部興産(株)製)を9.3重量%の割合で混合し、ボンド磁石用組成物を調製した。同様にして、実施例1〜4で製造したSm−Fe−N微粉末に熱可塑性樹脂12ナイロン(PA12(宇部興産(株)製)を混合し、ボンド磁石用組成物を調製した。
次に、これらのボンド磁石用組成物をナカタニ混練機(ナカタニ製)で190℃−1パス、その後、シリンダー温度210℃、成形圧力1tonでφ20×13mmの形状に射出成形した。比較例1、実施例1〜4のSm−Fe−N微粉末を用いて、得られた射出成形物を、それぞれ成形体1〜5とした。
得られた射出成形物(ボンド磁石)の磁気特性を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
「評価」
上記の表1、2から明らかなように、実施例1は、原料混合物を圧縮処理したので、圧縮処理をしない比較例1と比べると、粉末の磁気特性が高くなっており、圧縮処理することにより高特性化できることが分かる。さらに実施例1を比較例2と比較すると還元物を取り出す際、比較例2は硬く取り出しづらいのに対し、実施例1は容易に取り出して回収できた。また、実施例2〜4は、原料混合物の圧縮処理条件を変えたが、圧縮度が大きくなるほど粉末の磁気特性が高なっており、圧縮処理により還元時間を短くしても高特性化できることが分かる。
また、上記の表3によって、実施例5は、実施例1の条件で原料混合物を圧縮処理した粉末を用いた射出成形体であるが、原料混合物を圧縮処理しない粉末を用いた比較例3の射出成形体に比較し、成形体の磁気特性が高くなっている。また、実施例6〜8を比較例3と比較すると、原料混合物を圧縮処理した粉末を用いた射出成形体では、成形体の磁気特性が高くなっており、原料混合物を圧縮処理することにより還元時間を短くしても高特性化できることが分かる。
【符号の説明】
【0066】
1 反応容器
2 蓋
3 原料混合物
5 煉瓦
6 ヒーター
10 振動付与装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属合金粉末、希土類酸化物粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合して反応容器に装入する工程、その後、該原料混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成する還元拡散法により、前記希土類酸化物を希土類金属に還元した後、これを前記遷移金属粉末に拡散させて所望の希土類−遷移金属系母合金を含む還元拡散反応生成物を得る工程、次いで、得られた該還元拡散反応生成物を崩壊させる工程、その後、得られた該希土類−遷移金属系母合金を窒素含有雰囲気中で加熱して窒化処理して下記の一般式(1)で表される希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を得る工程を具備する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法において、
原料混合物を反応容器に装入する工程で、反応容器中で原料混合物を加圧することなく、体積を3%以上低減させることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
(100−a−b) …(1)
(式(1)中、Rは1種または2種以上の希土類元素、Xは1種または2種以上の遷移金属元素であり、また、a、bは原子%で、4≦a≦18、10≦b≦17を満たす。)
【請求項2】
原料混合物が、反応容器中で振動を受けて、体積が3〜20%低減されることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項3】
還元拡散時間が、2〜8時間であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項4】
希土類−遷移金属合金粉末の平均粒径が、5〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属粉末の製造方法。
【請求項5】
希土類−遷移金属−窒素合金粉末の平均粒径が1〜40μmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項6】
得られた希土類−遷移金属−窒素合金粉末をさらに微粉砕または解砕することを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法によって得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末。
【請求項8】
請求7に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末に、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれかを樹脂バインダーとして配合したことを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石用組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のボンド磁石用組成物を圧縮成形又は射出成形してなる希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−265488(P2010−265488A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115225(P2009−115225)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】