説明

希土類−鉄−窒素系合金材及びその製造方法

【課題】磁気特性に優れる希土類磁石が得られる希土類-鉄-窒素系合金材及びその製造方法、上記希土類磁石の原料に適した希土類-鉄系合金材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】希土類-鉄系合金粉末を水素含有雰囲気で熱処理して、鉄含有物の相2中に希土類元素の水素化合物の相3が離散して存在する多相粉末1を作製する。多相粉末1を圧縮成形して得られた粉末成形体4を真空中、3T以上の磁場を印加した状態で熱処理して、希土類-鉄系合金材5を形成する。希土類-鉄系合金材5を窒素雰囲気中、3.5T以上の磁場を印加した状態で熱処理して、希土類-鉄-窒素系合金材6を形成する。希土類-鉄系合金材5は、希土類-鉄系合金の結晶がc軸方向に配向した組織を有する。この配向組織の希土類-鉄系合金材5に磁場を印加した状態で窒化することで、希土類-鉄-窒素系合金材6は、理想的な窒化物により構成され、磁気特性に優れる希土類磁石7が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石の素材に利用される希土類-鉄-窒素系合金材及びその製造方法、この希土類-鉄-窒素系合金材の原料に利用される希土類-鉄系合金材及びその製造方法に関する。特に、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる希土類-鉄-窒素系合金材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機などに利用される永久磁石として、希土類磁石が広く利用されている。希土類磁石は、Nd(ネオジム)-Fe-BといったR-Fe-B系合金(R:希土類元素、Fe:鉄、B:ホウ素)からなる焼結磁石やボンド磁石が代表的である。ボンド磁石では、Nd-Fe-B系合金からなる磁石よりも更に磁気特性に優れるものとして、Sm(サマリウム)-Fe-N(窒素)系合金からなる磁石が検討されている。
【0003】
ボンド磁石は、代表的には、R-Fe-B系合金やSm-Fe-N系合金からなる合金粉末と結合樹脂とを混合した混合物を圧縮成形したり、射出成形することで製造される。特に、ボンド磁石に利用される合金粉末では、保磁力を高めるために、HDDR処理(Hydrogenation−Disproportionation−Desorption−Recombination、HD:水素化及び不均化、DR:脱水素及び再結合)を施すことが行われている。特許文献1には、希土類-鉄合金からなる粉末にマイクロ波を照射して窒化処理を施して、希土類-鉄-窒素合金からなる合金粉末を作製し、この合金粉末をボンド磁石に用いることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-283141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の希土類磁石では、磁力が小さく、磁気特性の向上が望まれている。
ボンド磁石は、結合樹脂といった介在物が存在することで磁性相の割合が低く、せいぜい80体積%程度であり、磁性相の割合が少ないことで磁気特性に劣る。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる希土類-鉄-窒素系合金材、及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、磁気特性に優れる希土類磁石の原料に適した希土類-鉄系合金材、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
焼結磁石は、磁性相の割合を高め易いものの、形状の自由度が小さい。そこで、本発明者らは、焼結することなく、磁性相の割合が高く、磁気特性に優れる希土類磁石を得るために、ボンド磁石のように結合樹脂を利用した成形ではなく、粉末成形体を利用することを検討した。従来、希土類磁石に利用されている原料粉末は、Sm-Fe-N系合金などからなる合金粉末や、上記合金粉末にHDDR処理を施した処理粉末である。これらの原料粉末は、硬くて変形能が小さく、圧縮成形時の成形性に劣り、粉末成形体の密度を向上させることが難しく、その結果、磁性相の割合が高い磁石を得難い。そこで、本発明者らは、成形性を高めるために種々検討した結果、希土類-鉄-窒素系合金などのように、希土類元素と鉄とが結合したものではなく、希土類元素と鉄とが結合せず、言わば鉄成分と希土類元素成分とが独立的に存在する組織の粉末とすると、変形能が高く成形性に優れて、相対密度が高い粉末成形体が得られるとの知見を得た。また、この特定の組織を有する粉末は、希土類-鉄系合金からなる合金粉末に特定の熱処理を施すことで製造できるとの知見を得た。そして、上記熱処理後に得られた粉末を圧縮成形した粉末成形体に特定の条件の熱処理を施すことで、特定の配向組織を有する希土類-鉄系合金材が得られ、この希土類-鉄系合金材に、更に特定の条件で窒化処理を施すことで、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる希土類-鉄-窒素系合金材が得られるとの知見を得た。本発明は、上記知見に基づくものである。
【0008】
本発明の希土類-鉄系合金材は、希土類磁石の原料に用いられるものであり、希土類元素を含有する希土類-鉄系合金からなる複数の合金粒子から構成される成形体であり、更に、以下の特定の配向性を有する。具体的には、上記成形体の外表面を構成する任意の平面、又は上記成形体の任意の断面を測定面とし、上記測定面におけるX線回折の最大ピーク強度をImax、上記測定面に存在する上記合金粒子を構成する結晶格子の軸におけるX線回折のピーク強度をI(a,b,c)、上記最大ピーク強度に対する上記軸のピーク強度の比をI(a,b,c)/Imaxとするとき、I(a,b,c)/Imax≧0.83を満たす。I(a,b,c)においてa,b,cは面指数に相当し、I(a,b,c)は、n≠0の整数とするとき、(n00),(0n0),(00n)の結晶面のいずれかに相当する回折ピーク強度である。
【0009】
上記特定の配向性を有する本発明希土類-鉄系合金材は、例えば、以下の本発明希土類-鉄系合金材の製造方法により、製造することができる。本発明の希土類-鉄系合金材の製造方法は、希土類磁石の原料に用いられる希土類-鉄系合金材を製造する方法に係るものであり、以下の準備工程と、成形工程と、脱水素工程とを具える。
準備工程:希土類元素を含有する希土類-鉄系合金粉末に、水素元素を含む雰囲気中、当該希土類-鉄系合金の不均化温度以上の温度で熱処理を施して、Feを含む鉄含有物の相中に上記希土類元素の水素化合物の相が離散して存在し、この希土類元素の水素化合物の相の含有量が40体積%以下である多相粒子からなる多相粉末を準備する工程。
成形工程:上記多相粉末を圧縮成形して粉末成形体を成形する工程。
脱水素工程:上記粉末成形体に、不活性雰囲気中又は減圧雰囲気中、当該粉末成形体の再結合温度以上の温度で熱処理を施して、希土類-鉄系合金材を形成する工程。
そして、上記脱水素工程の熱処理は、上記粉末成形体に3T(テスラ)以上の磁場を印加して行う。
【0010】
上述の特定の配向性を有する本発明希土類-鉄系合金材は、希土類磁石の素材に用いられる希土類-鉄-窒素系合金材の原料に好適に利用することができ、以下の特定の配向性を有する本発明希土類-鉄-窒素系合金材が得られる。本発明の希土類-鉄-窒素系合金材は、希土類磁石の素材に用いられるものであり、希土類元素を含有する希土類-鉄-窒素系合金からなる複数の合金粒子から構成される成形体であり、更に、以下の特定の配向性を有する。具体的には、上記成形体の外表面を構成する任意の平面、又は上記成形体の任意の断面を測定面とし、上記測定面におけるX線回折の最大ピーク強度をImax、上記測定面に存在する上記合金粒子を構成する結晶格子の軸におけるX線回折のピーク強度をI(a,b,c)、上記最大ピーク強度に対する上記軸のピーク強度の比をI(a,b,c)/Imaxとするとき、I(a,b,c)/Imax≧0.83を満たす。I(a,b,c)においてa,b,cは面指数に相当し、I(a,b,c)は、n≠0の整数とするとき、(n00),(0n0),(00n)の結晶面のいずれかに相当する回折ピーク強度である。
【0011】
上記特定の配向性を有する本発明希土類-鉄-窒素系合金材は、例えば、以下の本発明希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法により、製造することができる。本発明の希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法は、希土類磁石の素材に用いられる希土類-鉄-窒素系合金材を製造する方法に係るものであり、上述の本発明希土類-鉄系合金材の製造方法における準備工程と、成形工程と、脱水素工程とを具え、更に、以下の窒化工程を具える。
窒化工程:上述の脱水素工程を経て得られた上記希土類-鉄系合金材に、窒素元素を含む雰囲気中、当該希土類-鉄系合金材の窒化温度以上窒素不均化温度以下の温度で熱処理を施して、希土類-鉄-窒素系合金材を形成する工程。
そして、上記脱水素工程の熱処理は、上述の成形工程を経て得られた上記粉末成形体に3T(テスラ)以上の磁場を印加して行う。かつ、上記窒化工程の熱処理は、上記希土類-鉄系合金材に3.5T(テスラ)以上の磁場を印加して行う。
【0012】
或いは、本発明希土類-鉄-窒素系合金材は、例えば、上述した本発明希土類-鉄系合金材を準備する工程と、上述の窒化工程とを具える製造方法により製造することができる。この窒化工程の熱処理も、上述のように特定の磁場を印加して行う。
【0013】
本発明製造方法において、粉末成形体の原料に用いられる多相粉末を構成する各多相粒子は、R-Fe-N系合金やR-Fe-B系合金のように単一相の希土類合金から構成されるのではなく、FeやFe化合物といった鉄含有物からなる相と希土類元素の水素化合物からなる相との複数相から構成される。この鉄含有物の相は、上記R-Fe-N系合金やR-Fe-B系合金、上記希土類元素の水素化合物に比較して、柔らかく成形性に富む。また、各多相粒子は、Fe(純鉄)を含む鉄含有物を主成分(60体積%以上)とすることで、圧縮成形時、当該鉄含有物の相が十分に変形可能である。更に、上記鉄含有物の相は、多相粒子中に偏在せず均一的に存在する。これらのことから、本発明製造方法は、圧縮成形時、各多相粒子の変形を十分に、かつ均一的に行え、相対密度が高い粉末成形体を成形可能である。相対密度が高い粉末成形体を利用することで、本発明製造方法は、焼結することなく、磁性相が高割合な希土類磁石が得られる希土類-鉄-窒素系合金材や、この素材に適した希土類-鉄系合金材を製造できる。また、本発明製造方法は、Feなどの鉄含有物が十分に変形して多相粒子同士が結合可能であるため、ボンド磁石のように結合樹脂といった介在物を存在させることなく、磁性相の割合が80体積%以上、更に90体積%以上といった希土類磁石が得られる希土類-鉄-窒素系合金材や、この素材に適した希土類-鉄系合金材を製造できる。加えて、多相粉末が成形性に優れる上に、本発明製造方法は焼結しないため、形状の自由度が大きく、例えば、円筒状や円柱状、ポット形状(有底筒状)といった種々の形状や複雑な形状の成形体であっても、切削加工などの別加工を実質的に行うことなく、所望の形状の成形体を容易に成形できる。また、切削加工などの別加工を不要とすると、原料の歩留まりの向上、希土類磁石の生産性の向上に寄与することができる。
【0014】
そして、本発明製造方法では、上記粉末成形体から水素を除去して希土類-鉄系合金材を形成するにあたり、3T以上といった強磁場を印加する。ここで、上記粉末成形体から水素を除去することで希土類元素とFeとが結合し、この反応により生成される結晶核の周囲に、希土類元素の含有量が高い液相(希土類リッチ相)が存在した状態になっている。このとき、上述の特定の強磁場を印加すると、結晶核の結晶方位が一定の方向に向き易くなる。その結果、上記反応の完了時、各結晶粒は、その結晶方位が配向し、上述の特定の配向組織を有する本発明希土類-鉄系合金材が得られる。
【0015】
また、本発明製造方法では、上述の特定の配向組織を有する希土類-鉄系合金材を窒化して希土類-鉄-窒素系合金材を形成するにあたり、3.5T以上といった強磁場を印加する。窒化工程でも特定の強磁場を印加することで、希土類-鉄系合金材を構成する結晶粒の結晶格子は、磁歪効果により歪む。具体的には、結晶格子を構成するFe原子-Fe原子間が磁場の印加方向に引き伸ばされる。また、窒化工程に供する素材に上述の特定の配向組織を有する希土類-鉄系合金材を利用することで、窒化工程で特定の強磁場を印加すると、上記結晶格子において特定の方向(代表的には、配向している方向)のFe原子-Fe原子間を引き伸ばし易くなる。そして、この引き伸ばされたFe原子-Fe原子間にN原子が入り易くなる。つまり、窒化工程では、N原子の侵入方向を規制することができる。そのため、結晶格子の理想の位置にN原子を配置し易く、理想状態の原子比を有する希土類-鉄-窒素系合金からなる希土類-鉄-窒素系合金材を形成することができる、と考えられる。この理想状態の合金(例えば、Sm2Fe17N3)は、異方性窒化物であり、従来のボンド磁石に利用されていた等方性窒化物からなる希土類-鉄-窒素系合金を用いた場合と比較して、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる。
【0016】
本発明希土類-鉄系合金材は、上述のように特定の配向組織を有することで、理想状態の原子比を有する希土類-鉄-窒素系合金材の素材に好適に利用することができる。本発明希土類-鉄-窒素系合金材は、上記素材を利用することで、素材(代表的には、本発明希土類-鉄系合金材)の配向性を実質的に維持して上述のように特定の配向組織を有する。この本発明希土類-鉄-窒素系合金材は、上述のように理想状態の窒化物から構成され易くなるため、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる。
【0017】
本発明希土類-鉄系合金材、及び本発明希土類-鉄-窒素系合金材の一形態として、上記結晶格子のc軸におけるX線回折のピーク強度をIcとするとき、Ic/Imax≧0.83を満たす形態が挙げられる。Icは、n=2〜6の整数とするとき、(00n)の結晶面に相当する回折ピーク強度である。
【0018】
上記形態は、c軸方向に配向している、即ち、c軸が磁気容易軸である。c軸方向に配向し、かつIc/Imax≧0.83を満たす希土類-鉄系合金材や希土類-鉄-窒素系合金材を利用することで、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる。
【0019】
本発明希土類-鉄系合金材、及び本発明希土類-鉄-窒素系合金材の一形態として、上記希土類元素は、Smである形態が挙げられる。
【0020】
上記形態の希土類-鉄系合金は、例えば、Sm-Fe系合金、Sm-Fe-Ti系合金が挙げられ、上記形態の希土類-鉄-窒素系合金は、例えば、Sm-Fe-N系合金、Sm-Fe-Ti-N系合金が挙げられる。Sm-Fe-N系合金材やSm-Fe-Ti-N系合金材といったSmを含有する上記形態は、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる。
【0021】
本発明希土類-鉄系合金材、及び本発明希土類-鉄-窒素系合金材の一形態として、上記合金がSm及びTiを含有する形態が挙げられる。
【0022】
上記形態の希土類-鉄系合金は、Sm-Fe-Ti系合金が挙げられ、上記形態の希土類-鉄-窒素系合金は、Sm-Fe-Ti-N系合金が挙げられる。ここで、希土類-鉄-窒素系合金材として、例えば、Sm2Fe17N3からなるものを製造するにあたり、Sm2Fe17からなる希土類-鉄系合金材を原料に利用することが考えられる。Sm2Fe17を窒化して理想状態の窒化物、即ち、窒素元素の原子比が3であるSm2Fe17N3を形成するには、窒素元素の比率を高精度に制御する必要があり、この制御により、希土類-鉄-窒素系合金材の生産性の低下を招く。しかし、希土類-鉄系合金としてSm及びTiを含むもの、即ち、Sm-Fe-Ti系合金、より具体的にはSm1Fe11Ti1を利用すると、Sm1Fe11Ti1は窒化処理を安定かつ均一的に行える。また、Sm1Fe11Ti1は、希土類元素:Smに対して、鉄含有物(代表的にはFe,FeTi)の比率が、Tiを含まない希土類-鉄系合金、例えばSm2Fe17よりも高い。具体的には、Sm2Fe17がSm:Fe=2:17であるのに対し、Sm1Fe11Ti1は、Sm:Fe:Ti=1:11:1、即ち、Sm:(Fe+FeTi)=1:12である。従って、Sm1Fe11Ti1からなる希土類-鉄系合金材の原料に、FeやFeTi化合物を含有する鉄含有物の相とSmの水素化合物の相とを含む多相粒子から構成される多相粉末を利用すると、成形性に富む鉄含有成分が多く存在するため、成形性にも優れる。また、この多相粉末を利用すると、高密度な粉末成形体を安定して、かつ容易に得られる。更に、上記Tiを含む原料を利用することで、希少資源であるSmの使用量の抑制にもつながる。以上の知見から、Sm及びTiを含有する形態を提案する。
【0023】
上記形態は、上述のように粉末成形体の成形性、窒化の安定性及び均一性に優れることから、希土類-鉄-窒素系合金材(代表的には、Sm1Fe11Ti1N1からなるもの)の生産性に優れる。また、上記形態は、高密度な粉末成形体を利用できるため、磁性相の割合が高く、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる。
【0024】
本発明製造方法の一形態として、上記脱水素工程や上記窒化工程における磁場の印加に高温超電導磁石を用いる形態が挙げられる。
【0025】
上記形態は、3T以上や3.5T以上といった強磁場を安定して印加できる上に、磁場の変動を高速で行えるため、熱処理時の結晶構造の変動に合わせて、適切な磁場強度を設定し易く、作業性に優れる。また、処理時間が短縮できるため、本発明希土類-鉄系合金材や本発明希土類-鉄-窒素系合金材の生産性を高められる。
【0026】
本発明希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法の一形態として、上記窒化工程において磁場を印加する方向と上記脱水素工程における磁場の印加方向とを同じ方向とする形態が挙げられる。
【0027】
上記形態は、磁場の印加方向が同じであるため、上記脱水素工程における磁場の印加により一方向に向いた結晶方位を、上記窒化工程でも同じ方向に引き伸ばすことができる。従って、上記形態は、N原子の進入方向をより規制し易く、理想状態な窒化物を効率よく形成し易い。
【発明の効果】
【0028】
本発明希土類-鉄-窒素系合金材を素材に用いることで、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる。本発明希土類-鉄系合金材は、上記本発明希土類-鉄-窒素系合金材の原料に好適に利用することができる。本発明希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法、本発明希土類-鉄系合金材の製造方法は、上記本発明希土類-鉄-窒素系合金材、上記本発明希土類-鉄系合金材の製造に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明希土類-鉄-窒素系合金材の製造工程の一例を模式的に示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明をより詳細に説明する。
[希土類-鉄系合金材の製造方法]
(準備工程)
上記多相粉末の原料となる希土類-鉄系合金粉末(以下、出発合金粉末と呼ぶ)は、所望の組成の多相粉末が得られるように、希土類-鉄系合金(以下、出発合金と呼ぶ)の構成元素を選択するとよい。出発合金は、REを希土類元素(例えば、RE=Y,La,Pr,Nd,Sm,Dy及びCeから選択される1種以上の元素)、MeをFe又はFeとFe以外の元素(例えば、Co,Ni,Mn及びTiから選択される1種以上の元素)、x=2.0〜2.2とするとき、RExMe17、REx/2Me12が挙げられる。
【0031】
出発合金粉末は、例えば、所望の希土類-鉄系合金からなる溶解鋳造インゴットや急冷凝固法で得られた箔状体を粉砕装置により粉砕することで製造できる。粉砕装置は、ジョークラッシャー、ジェットミル、ボールミルなどが挙げられる。或いは、出発合金粉末は、ガスアトマイズ法といったアトマイズ法を利用したり、アトマイズ法により製造した粉末を更に粉砕したりすることでも製造できる。ガスアトマイズ法では、非酸化性雰囲気とすると、実質的に酸素を含有しない粉末(酸素濃度:500質量ppm以下)を製造できる。出発合金粉末の製造には、公知の製造方法を利用できる。また、粉砕の条件や製造条件を適宜変更することで、出発合金粉末の粒度分布や粒子の形状を調整でき、球状の粒子の他、異形状粒子や薄片などを利用してもよい。アトマイズ法を利用すると、真球度が高く、圧縮成形時の充填性に優れた粉末を製造し易い。出発合金粉末を構成する各粒子は多結晶体でも単結晶体でもよい。多結晶体からなる粒子に適宜熱処理を加えて単結晶体からなる粒子とすることができる。
【0032】
出発合金粉末の大きさは、後工程の熱処理(水素化)時に実質的に大きさを変えないように当該熱処理(水素化)を施した場合、その大きさが維持される。熱処理(水素化)後に得られる多相粉末は、上述のように特定の複数相の組織を有することで成形性に優れることから、例えば、多相粒子の平均粒径が100μm程度といった比較的粗大なものとすることができる。従って、出発合金粉末も平均粒径が100μm程度のものを利用することができる。このような粗大な出発合金粉末は、例えば、溶解鋳造インゴットに粗粉砕のみを行ったり、溶湯噴霧法といったアトマイズ法を利用したりすることで製造できる。粗大な出発合金粉末を利用すると、ボンド磁石に用いる原料粉末のように微細にするための微粉砕工程を不要にでき、製造工程の短縮などにより、製造コストの低減を図ることができる。出発合金粉末の平均粒径(得られる多相粉末の平均粒径)は、10μm以上500μm以下とすると、相対密度が高い粉末成形体を得易く、30μm以上200μm以下がより好ましい。
【0033】
上記出発合金粉末に水素元素を含む雰囲気中、特定の温度で熱処理(水素化)を施すことで多相粉末が得られる。上記水素元素を含む雰囲気は、水素(H2)のみの単一雰囲気、或いは水素(H2)とArやN2といった不活性ガスとの混合雰囲気が挙げられる。熱処理(水素化)時の温度は、出発合金粉末を構成する希土類-鉄系合金の不均化反応が進行する温度、即ち不均化温度以上とする。不均化反応とは、希土類元素の優先水素化により、希土類元素の水素化合物と、Fe(或いはFe及び鉄化合物)とに分離する反応であり、この反応が生じる下限温度を不均化温度と呼ぶ。上記不均化温度は、上記希土類-鉄系合金の組成や希土類元素の種類により異なる。例えば、希土類-鉄系合金がSm2Fe17,Sm1Fe11Ti1の場合、600℃以上が挙げられる。熱処理(水素化)時の温度を不均化温度近傍とすると、希土類元素の水素化合物が層状になり易く、当該温度を不均化温度+100℃以上に高めると、希土類元素の水素化合物が粒状になり易い。熱処理(水素化)時の温度は、高めるほど鉄含有物の相のマトリックス化が進行して成形性に優れる多相粉末が得られるが、高過ぎると出発合金粉末の溶融固着などの不具合が発生するため、1100℃以下が好ましい。希土類-鉄系合金がSm2Fe17やSm1Fe11Ti1の場合、熱処理(水素化)時の温度を700℃以上900℃以下の比較的低めにすると、後述する相間の間隔が小さい微細な組織となり易い。熱処理(水素化)時の保持時間は、0.5時間以上5時間以下が挙げられる。この熱処理(水素化)は、上述したHDDR処理の不均化工程までの処理に相当し、公知の不均化条件を適用することができる。熱処理(水素化)には、一般的な加熱炉の他、ロータリーキルン炉といった揺動式炉を利用することができる。揺動式炉を利用すると、鋳造塊などの比較的大きな素材を利用しても、水素化の進行に伴って脆化により粉砕され、粉末になる。
【0034】
熱処理(水素化)により得られた多相粉末を構成する各粒子(以下、多相粒子と呼ぶ)は、主成分を鉄含有物とし、その含有量を60体積%以上とする。鉄含有物の含有量が60体積%未満であると、硬質である希土類元素の水素化合物が相対的に多くなり、圧縮成形時、鉄含有物を十分に変形することが難しく、多過ぎると最終的に磁気特性の低下を招くことから90体積%以下が好ましい。
【0035】
鉄含有物は、(1)Fe(純鉄)のみの形態、(2)Feの一部がCo,Ga,Cu,Al,Si及びNbから選択される少なくとも一種の元素に置換され、Feと当該置換元素とからなる形態、(3)FeとFeを含む鉄化合物(例えば、FeTi化合物、FeMn化合物など)とからなる形態、(4)Feと上記置換元素又はFe以外の元素(例えば、Ni,Mn,Tiなど)と上記鉄化合物とからなる形態が挙げられる。鉄含有物が上記置換元素やFe以外の元素を含む形態では、磁気特性や耐食性を向上することができ、FeTiといった鉄化合物を含む形態では、上述のように(1)希土類元素に対して相対的に鉄含有物の割合を高めて成形性に優れ、高密度な粉末成形体が得られる、(2)熱処理(脱水素)後の窒化処理を安定して行い易い、(3)磁性相の割合が高い希土類-鉄-窒素系合金材や希土類磁石が得られる、といった優れた効果を奏する。
【0036】
希土類元素の水素化合物の含有量は、0体積%超とし、10体積%以上が好ましく、40体積%未満とする。
【0037】
鉄含有物の含有量、鉄含有物を構成する各元素の含有量、希土類元素の水素化合物の含有量は、出発合金の組成や多相粉末を製造する際の熱処理条件(主に温度)を適宜変化させることで調整できる。上述した置換元素やFe以外の元素を含む形態とする場合、出発合金に置換元素を含むものを利用する。なお、各多相粒子は、不可避不純物の含有を許容する。
【0038】
各多相粒子に含有される希土類元素は、Sc(スカンジウム),Y(イットリウム),ランタノイド及びアクチノイドから選択される1種以上の元素とする。特に、ランタノイドのSmであると、Sm-Fe系合金材やSm-Fe-Ti系合金材が得られる。Sm-Fe系合金材を原料に用いることでSm-Fe-N系合金材やSm-Fe-Ti-N系合金材が得られ、Sm-Fe-N系合金材やSm-Fe-Ti-N系合金材を素材にすることで磁気特性に優れる希土類磁石が得られる。Smに加えて別の希土類元素を含有する場合、例えば、Pr(プラセオジム),Dy(ジスプロシウム),La(ランタン)及びYの少なくとも1種の元素が好ましい。希土類元素の水素化合物は、例えば、SmH2が挙げられる。
【0039】
各多相粒子は、上記希土類元素の水素化合物の相と上記鉄含有物の相とが均一的に離散して存在した組織を有する。離散した状態とは、各多相粒子中において、上記希土類元素の水素化合物の相と上記鉄含有物の相との両相が隣接して存在し、上記鉄含有物の相を介して隣り合う上記希土類元素の水素化合物の相間の間隔が3μm以下であることを言う。代表的には、上記両相が多層構造となった層状形態、上記希土類元素の水素化合物の相が粒状であり、上記鉄含有物の相を母相として、この母相中に上記粒状の希土類元素の水素化合物が分散して存在する粒状形態が挙げられる。
【0040】
上記粒状形態は、希土類元素の水素化合物の粒子の周囲に鉄含有物が均一的に存在するため、上記層状形態よりも鉄含有物を変形させ易く、複雑な形状の粉末成形体や、相対密度が85%以上、更に90%以上、特に95%以上といった高密度の粉末成形体を得易い。上記粒状形態において希土類元素の水素化合物の相と鉄含有物の相とが隣接するとは、代表的には、多相粒子の断面をとったとき、希土類元素の水素化合物の粒子の周囲を覆うように鉄含有物が存在し、隣り合う各希土類元素の水素化合物の粒子間に鉄含有物が存在する状態をいう。また、上記粒状形態の場合、隣り合う希土類元素の水素化合物の相間の間隔とは、上記断面において隣り合う二つの希土類元素の水素化合物の粒子の中心間の距離をいう。
【0041】
上記間隔が3μm以下であることで、脱水素工程において過度なエネルギーを投入しなくて済む上に、脱水素工程で生成される希土類-鉄系合金の結晶の粗大化を抑制でき、最終的に、保磁力が高い希土類磁石を得易い。希土類元素の水素化合物の相間に鉄含有物が十分に存在するためには、上記相間の間隔は、0.5μm以上、特に1μm以上が好ましい。上記相間の間隔は、例えば、上述の出発合金の組成や多相粉末を製造する際の熱処理(水素化)の条件を変化させることで調整することができる。例えば、出発合金を構成する希土類-鉄系合金における鉄の比率(原子比)を多くしたり、上記熱処理(水素化)時の温度を高くしたりすると、上記相間の間隔が大きくなる傾向にある。
【0042】
多相粉末は、各多相粒子の全周を覆うように酸化防止層や絶縁被覆を具える形態とすることができる。酸化防止層を具える形態は、圧縮成形時に生じた新生面の酸化を防止でき、酸化物によって磁性相の割合が低下することを抑制できる。絶縁被覆を具える形態は、電気抵抗が高く渦電流損が小さい希土類磁石が得られる。
【0043】
酸化防止層は、酸素の透過係数(30℃)が1.0×10-11m3・m/(s・m2・Pa)未満、特に0.01×10-11m3・m/(s・m2・Pa)以下の酸素低透過材料からなる酸素低透過層を少なくとも具えることが好ましい。酸素低透過材料は、例えば、ナイロン6(酸素の透過係数(30℃):0.0011×10-11m3・m/(s・m2・Pa))といったポリアミド系樹脂、その他、ポリエステル、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。また、酸化防止層は、酸素低透過層に加えて、透湿率(30℃)が1000×10-13kg/(m・s・MPa)未満、特に10×10-13kg/(m・s・MPa)以下の湿気低透過材料からなる湿気低透過層を具えると、多湿状態(例えば、気温30℃程度/湿度80%程度など)で圧縮成形した場合でも酸化を効果的に防止できて好ましい。湿気低透過材料は、透湿率(30℃):7×10-13kg/(m・s・MPa)〜60×10-13kg/(m・s・MPa)であるポリエチレン、その他、フッ素樹脂、ポリプロピレンなどが挙げられる。酸素低透過層を多相粒子側とし、湿気低透過層を酸素低透過層の上に具えることが好ましい。酸化防止層を構成する各層の厚さは10nm以上500nm以下が好ましい。
【0044】
酸化防止層の形成には、例えば、湿式乾燥塗膜法やゾルゲル法といった湿式法、粉体塗装といった乾式法を利用できる。
【0045】
絶縁被覆は、例えば、Si,Al,Tiなどの酸化物の結晶性被膜や非晶質のガラス被膜、Me-Fe-O(X=Ba,Sr,Ni,Mnなどの金属元素)といったフェライトやマグネタイト(Fe3O4)、Dy2O3といった金属酸化物、シリコーン樹脂といった樹脂、シルセスキオキサン化合物などといった有機無機ハイブリッド化合物からなる被膜が挙げられる。これら結晶性被膜やガラス被膜、酸化物被膜などは、酸化防止機能を有する場合があり、この場合、多相粒子の酸化も防止できる。また、熱伝導性を向上する目的で、Si-N、Si-C系のセラミックス被覆を多相粒子に施してもよい。
【0046】
上記絶縁被覆やセラミックス被覆と上記酸化防止層との双方を具える形態は、多相粒子の表面に接するように絶縁被覆を形成した後、絶縁被覆の上にセラミックス被覆や上記酸化防止層を形成することが好ましい。絶縁被覆や酸化防止層などを具える形態では、多相粒子が真球に近いと、(1)酸化防止層や絶縁被覆などを均一的な厚さで形成し易い、(2)圧縮成形時に酸化防止層や絶縁被覆などの破損を抑制できる、といった効果が得られて好ましい。
【0047】
(成形工程)
上記多相粉末を圧縮成形して粉末成形体が得られる。粉末成形体は、その相対密度(粉末成形体の真密度に対する実際の密度)が高いほど、最終的に磁性相の割合が高い希土類磁石を得易い。従って、粉末成形体は、その相対密度が85%以上であることが好ましい。粉末成形体の相対密度を90%〜95%程度にすると、上述した酸化防止層を具える形態でも、後工程で酸化防止層の除去を行い易い。
【0048】
上記多相粉末を構成する多相粒子がSmの水素化合物と、Fe及びFeTi化合物を含む鉄含有物とを含む形態は、上述のように成形性により優れ、相対密度が90%以上である粉末成形体を安定して製造することができる。
【0049】
上記多相粉末は、成形性に優れるため、圧縮成形時の圧力を比較的小さくできる。例えば、上記圧力は、8ton/cm2以上15ton/cm2以下が挙げられる。また、各多相粒子が十分に変形可能なため、当該多相粒子同士の接合性に優れる(粒子表面の凹凸の噛み合いによって生じる強度(所謂ネッキング強度)の発現)ことから、上記多相粉末は、強度が高く、製造中に崩壊し難い粉末成形体を得られる。
【0050】
圧縮成形は、非酸化性雰囲気で行うと、多相粒子の酸化を防止できて好ましい。上述した酸化防止層を具える形態では、大気雰囲気といった酸素含有雰囲気で圧縮成形を行ってもよい。
【0051】
その他、圧縮成形時、成形用金型を適宜加熱することで、変形を促進することができ、高密度の粉末成形体や複雑な形状の粉末成形体が得られ易い。
【0052】
(脱水素工程)
脱水素工程は、上記多相粒子と反応せず、かつ水素を効率よく除去できるように非水素雰囲気にて熱処理を行う。非水素雰囲気には、不活性雰囲気や減圧雰囲気が挙げられる。不活性雰囲気は、例えば、ArやN2が挙げられる。減圧雰囲気は、標準の大気雰囲気よりも圧力を低下させた真空状態をいい、最終真空度は、10Pa以下、更に1Pa以下が好ましい。減圧雰囲気で希土類元素の水素化合物から水素の除去を行うと、希土類元素の水素化合物が残存し難く、希土類-鉄系合金化を完全に起こさせることができ、得られた希土類-鉄系合金材を素材とすることで、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる。
【0053】
脱水素工程における熱処理(脱水素)の温度は、上記粉末成形体の再結合温度(分離していた鉄含有物と希土類元素とが化合する温度)以上とする。再結合温度は、粉末成形体を構成する多相粒子の組成により異なるものの、代表的には、600℃以上が挙げられる。この温度が高いほど水素を十分に除去できる。但し、熱処理(脱水素)時の温度は、高過ぎると、蒸気圧が高い希土類元素が揮発して減少したり、当該熱処理により生成される希土類-鉄系合金の結晶が粗大化して希土類磁石の保磁力が低下したりする恐れがあるため、1000℃以下が好ましい。熱処理(脱水素)時の保持時間は、10分以上600分以下が挙げられる。温度条件は、公知のHDDR処理におけるDR処理の条件を適用できる。
【0054】
そして、脱水素工程では、上記粉末成形体に磁場を印加した状態で熱処理(脱水素)を行う。磁場は、3T以上の強磁場とする。このような強磁場は、高温超電導磁石を用いることで安定して形成することができる。また、高温超電導磁石は、磁場の変動を高速で行える。低温超電導磁石を用いた場合、磁場変動速度は、一般に、1T当たり5分〜10分程度であるのに対し、高温超電導磁石では、例えば、1T当たり10秒以内と非常に短時間で行える。つまり、熱処理時間を短くしても、所望の強磁場を容易に得られることから、高温超電導磁石を利用すると、熱処理時間の短縮を図ることができる。熱処理時間の短縮化により、成形体を構成する粒子内の結晶粒の成長を抑制して粗粒化を低減できることから、保磁力が大きな希土類磁石が得られ易い。更に、磁場変動速度が速いため、素材の投入時や取出時に磁場の印加を停止(OFF)したり、熱処理中に磁場の印加を開始(ON)したり、といった磁場の印加の制御も速やかに行える。従って、高温超電導磁石を利用すると、連続的に熱処理が行え、希土類-鉄系合金材の生産性にも優れる。高温超電導磁石は、代表的には、酸化物超電導体により構成された超電導コイルを例えば冷凍機による伝導冷却で冷却して使用される(動作温度はおよそ-260℃以上)。上記磁場の大きさが3T未満では、水素の除去により形成される希土類元素とFeとを含む結晶核の結晶方位を磁歪により一方向に配向させることが難しい。この磁場の大きさは、大きいほど結晶方位を一方向に配向させ易く、最終的に磁気特性に優れる希土類磁石が得られることから、3.2T以上、更に4T以上が好ましい。この磁場の印加方向は、上記粉末成形体を成形するときの成形方向(圧縮方向)と同じであることが好ましい。
【0055】
上述した酸化防止層を具える形態であって、当該酸化防止層が樹脂といった加熱により除去可能な材質から構成されている場合、脱水素工程における熱処理は、当該酸化防止層の除去を兼ねることもできる。酸化防止層を除去するための熱処理(被覆除去)を別途施してもよい。この熱処理(被覆除去)は、酸化防止層の材質にもよるが、例えば、加熱温度:200℃以上400℃以下、保持時間:30分以上300分以下が挙げられる。この熱処理(被覆除去)を行うことで、酸化防止層の残滓を効果的に防止できる。
【0056】
上述した粉末成形体を利用すると、脱水素工程の前後で体積の変化度合い(熱処理(脱水素)後の収縮量)が少なく、例えば、体積変化率を5%以下とすることができる。従って、形状調整のための切削加工などの後加工を省略でき、希土類-鉄系合金材や希土類-鉄-窒素系合金材の生産性を高められる。
【0057】
[希土類-鉄系合金材]
上記熱処理(脱水素)により、上記粉末成形体を構成していた各多相粒子は希土類-鉄系合金からなる粒子(以下、原料合金粒子と呼ぶ)となり、多相粉末の粉末粒界が残存した成形体からなる希土類-鉄系合金材(代表的には、本発明希土類-鉄系合金材)が得られる。例えば、RE=Y,La,Pr,Nd,Sm,Dy及びCeから選択される1種以上の元素、Me=Fe又はFeとCo,Ni,Mn及びTiから選択される1種以上の元素、x=2.0〜2.2とするとき、RExMe17、REx/2Me12が挙げられる。RExMe17は、Sm2Fe17などのSm-Fe系合金、Y2Fe17などのY-Fe系合金、REx/2Me12は、Sm1(Fe11Ti1)などのSm-Fe-Ti系合金、Sm1(Fe11Mn1)などのSm-Fe-Mn系合金、Y1(Fe11Ti1)などのY-Fe-Ti系合金、Y1(Fe11Mn1)などのY-Fe-Mn系合金が挙げられる。この成形体は、上記原料合金粒子を構成する結晶のa軸,b軸,c軸の少なくとも一つの軸におけるピーク強度が大きい。つまり、この成形体は、上記結晶の結晶方位が結晶格子の軸方向に平行に配向した組織、より具体的には、I(a,b,c)/Imax≧0.83を満たす組織を有する。上述のSm-Fe系合金、Y-Fe系合金、Sm-Fe-Ti系合金、Sm-Fe-Mn系合金、Y-Fe-Ti系合金、Y-Fe-Mn系合金はいずれも、c軸方向に配向し、c軸が磁化容易軸である希土類合金であり、Ic/Imax≧0.83を満たす。希土類-鉄系合金の組成によっては、a軸方向やb軸方向に配向する場合も有り得る。
【0058】
最大ピーク強度比に対する軸のピーク強度の比:I(a,b,c)/Imaxは、大きいほど配向性が強く、0.90以上が好ましく、1が最も好ましい。熱処理(脱水素)時に印加する磁場の大きさを大きくするほど、I(a,b,c)/Imaxが大きくなる傾向にある。
【0059】
上記成形体が直方体といった平面から構成される形状、円柱といった平面を有する形状である場合、任意の平面を測定面とし、X線回折を行う。上記成形体が曲面から構成される形状、円柱といった平面と曲面とを有する形状である場合、任意の断面をとり、この断面を測定面とし、X線回折を行う。測定面のI(a,b,c)は、a軸のピーク強度、b軸のピーク強度及びc軸のピーク強度のうち、ピーク強度が最大である軸のピーク強度とする。測定面を平面とした場合、測定面を断面とした場合のうち、ピーク強度が最大である方をI(a,b,c)に採用する。上記測定面は、代表的には、磁場の印加方向を法線とする面が挙げられる。このX線回折に関する事項は、後述する希土類-鉄-窒素系合金材についても同様である。
【0060】
上記成形体は、実質的に希土類-鉄系合金から構成される単一形態、或いは実質的に希土類-鉄系合金と鉄とから構成される混合形態が挙げられる。単一形態では、後述する熱処理(窒化)を施すことで磁気特性に優れるSm2Fe17N3が得られることから、Sm2Fe17からなる形態が好ましい。或いは、単一形態では、Sm1Fe11Ti1からなる形態であると、成形体の全体に亘って均一的に、かつ安定して窒化できる上に、熱処理(窒化)後に磁気特性に優れるSm1Fe11Ti1N1が得られて好ましい。
【0061】
上記混合形態は、上述した出発合金粉末を構成する希土類-鉄系合金の組成により変化する。例えば、鉄の比率(原子比)が高い粉末を用いると、鉄相と、希土類-鉄系合金の相とが存在する成形体(希土類-鉄系合金材)が得られる。
【0062】
[希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法]
上述の脱水素工程を経て得られた希土類-鉄系合金材に、特定の条件で熱処理(窒化)を施すことで、希土類-鉄-窒素系合金材(代表的には、本発明希土類-鉄-窒素系合金材)が得られる。
【0063】
窒化工程における窒素元素を含む雰囲気は、窒素(N2)のみの単一雰囲気、或いはアンモニア(NH3)雰囲気、或いは窒素(N2)やアンモニアといった窒素元素を含むガスとArといった不活性ガスとの混合ガス雰囲気、或いは上記窒素元素を含むガスと水素(H2)との混合ガス雰囲気が挙げられる。特に、水素ガスを含有する雰囲気は還元雰囲気であるため、生成した窒化物の酸化や過剰窒化を防止できて好ましい。
【0064】
熱処理(窒化)の温度は、希土類-鉄系合金材を構成する希土類-鉄系合金が窒素元素と反応する温度(窒化温度)以上、窒素不均化温度(鉄含有物と希土類元素とがそれぞれ分離・独立して、窒素元素と反応する温度)以下とする。上記窒化温度や窒素不均化温度は、上記希土類-鉄系合金の組成により異なる。例えば、希土類-鉄系合金がSm2Fe17,Sm1Fe11Ti1の場合、熱処理(窒化)時の温度は、200℃以上550℃以下(好ましくは300℃以上)が挙げられる。熱処理(窒化)時の保持時間は、10分以上600分以下が挙げられる。
【0065】
そして、窒化工程も、上記希土類-鉄系合金材に磁場を印加した状態で熱処理(窒化)を行う。磁場は、3.5T以上の強磁場とする。このような強磁場は、高温超電導磁石を用いることで安定して形成することができる。この磁場の大きさが3.5T未満では、希土類-鉄系合金材を構成する結晶の結晶格子を一方向に引き伸ばすことが難しい。この磁場の大きさは、大きいほど結晶格子を一方向に引き伸ばし易く、引き伸ばされたFe原子-Fe原子間にN原子を侵入させ易くなって理想状態の原子比の窒化物が得られ易くなるため、3.7T以上、更に4T以上が好ましい。
【0066】
本発明希土類-鉄系合金材を利用すると、窒化工程の前後でも体積の変化度合いを少なくでき、例えば、体積変化率を5%以下とすることができる。従って、本発明希土類-鉄系合金材を利用すると、最終形状のための切削加工などの後加工を省略でき、希土類-鉄-窒素系合金材の生産性を高められる。
【0067】
[希土類-鉄-窒素系合金材]
上記熱処理(窒化)により、上記希土類-鉄系合金材を構成していた各原料合金粒子は、希土類-鉄-窒素系合金からなる合金粒子(以下、素材合金粒子と呼ぶ)となり、原料合金粒子の粒界が残存した成形体からなる希土類-鉄-窒素系合金材(代表的には、本発明希土類-鉄-窒素系合金材)が得られる。希土類-鉄-窒素系合金は、具体的には、上述のREとMeとを用いて(但し、x=1.5〜3.5)、RE2Me17Nx、RE1Me12Nxが挙げられる。より具体的には、Sm2Fe17N3、Y2Fe17N3、Sm1(Ti1Fe11)N2、Sm1(Mn1Fe11)N2、Y1(Ti1Fe11)N2、Y1(Mn1Fe11)N2が挙げられる。そして、この成形体は、上述のように希土類-鉄系合金材の配向性を実質的に維持しており、上記素材合金粒子を構成する結晶のa軸,b軸,c軸の少なくとも一つの軸におけるピーク強度が大きい。つまり、この成形体も、上記結晶の結晶方位が結晶格子の軸方向に平行に配向した組織、より具体的には、I(a,b,c)/Imax≧0.83を満たす組織を有する。上述のSm-Fe-N系合金、Y-Fe-N系合金、Sm-Fe-Ti-N系合金、Sm-Fe-Mn-N系合金、Y-Fe-Ti-N系合金、Y-Fe-Mn-N合金はいずれも、c軸方向に配向した組織を有し、Ic/Imax≧0.83を満たす。希土類-鉄-窒素系合金の組成によっては、a軸方向やb軸方向に配向する場合も有り得る。
【0068】
最大ピーク強度比に対する軸のピーク強度の比:I(a,b,c)/Imaxは、大きいほど配向性が強く、磁気特性に優れる希土類磁石が得られることから、0.90以上が好ましく、1が最も好ましい。熱処理(窒化)時に印加する磁場の大きさを大きくするほど、I(a,b,c)/Imaxが大きくなる傾向にある。
【0069】
[希土類磁石]
上記本発明希土類-鉄-窒素系合金材を適宜着磁することで、希土類磁石が得られる。特に、上述した相対密度が高い粉末成形体を利用することで、磁性相の比率が80体積%以上、更に90体積%以上といった希土類磁石が得られる。
【0070】
Sm1Fe11Ti1N1といったSm-Fe-Ti-N系合金からなる希土類-鉄-窒素系合金材を着磁して得られた希土類磁石は、Smの含有量がSm2Fe17N3といったSm-Fe-N系合金よりも少なくても、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる。
【0071】
以下、試験例を挙げて、本発明のより具体的な実施形態を説明する。説明は、適宜図面を参照しながら行う。なお、図1では、分かり易いように希土類元素の水素化合物や合金粒子などを誇張して示す。
【0072】
[試験例1]
希土類-鉄系合金材を作製し、この希土類-鉄系合金材に窒化処理を施して希土類-鉄-窒素系合金材を作製し、得られた希土類-鉄-窒素系合金材を用いて希土類磁石を作製し、磁気特性を調べた。この試験では、特に、希土類-鉄系合金材の製造にあたり、磁場の影響を調べた。
【0073】
希土類-鉄-窒素系合金材は、準備工程:多相粉末の作製→成形工程:粉末成形体の成形→脱水素工程:希土類-鉄系合金材の形成→窒化工程という手順で作製した。
【0074】
SmとFeとの原子比(at%)がSm:Fe≒10:90であるSm2Fe17の合金インゴットを用意し、この合金インゴットをAr雰囲気中で超硬合金製乳鉢により粉砕して、平均粒径100μmの合金粉末(図1(I))を作製した。上記平均粒径は、レーザ回折式粒度分布装置により、積算重量が50%となる粒径(50%粒径)を測定した。
【0075】
上記合金粉末(出発合金粉末)に水素(H2)雰囲気中、850℃×3時間で熱処理(水素化)を施した。この熱処理(水素化)により得られた粉末をエポキシ樹脂で固めて、組織観察用のサンプルを作製した。このサンプルの内部の粉末が酸化しないように当該サンプルを任意の位置で切断又は研磨し、この切断面(又は研磨面)に存在する上記粉末を構成する各粒子の組成をEDX(エネルギー分散型X線分光法)装置により調べた。また、上記切断面(又は研磨面)を光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡:SEM(100倍〜10000倍)で観察し、上記粉末を構成する各粒子の形態を調べた。その結果、熱処理(水素化)により得られた粉末は、複数相の組織からなることを確認した(以下、当該粉末を多相粉末と呼ぶ)。具体的には、図1(II)に示すように、多相粉末は、鉄含有物の相2(ここではFe相)を母相とし、この母相中に複数の粒状の希土類元素の水素化合物の相3(ここではSmH2)が分散して存在した多相粒子1から構成されており、隣り合う希土類元素の水素化合物の粒子間に鉄含有物の相2が介在していることを確認した。
【0076】
上記エポキシ樹脂を混練して作製したサンプルを用いて、各多相粒子における希土類元素の水素化合物:SmH2,鉄含有物:Feの含有量(体積%)を求めた。上記含有量は、後述するシリコーン樹脂が一定の体積割合(0.75体積%)で存在する場合を想定し、原料に用いた出発合金粉末の組成、及びSmH2,Feの原子量を用いて体積比を演算により求めた。その結果、希土類元素の水素化合物:26.8体積%、鉄含有物:72.6体積%であった。なお、希土類元素の水素化合物及び鉄含有物の含有量は、少数第2位を四捨五入した概算値としている。その他、上記含有量は、例えば、上記サンプルの切断面(或いは研磨面)の面積におけるSmH2,Feの面積割合をそれぞれ求め、得られた面積割合を体積割合に換算したり、X線分析を行ってピーク強度比(ピーク面積の積分強度比)を利用したりすることで求めることができる。
【0077】
上記EDX装置による多相粉末の組成の面分析(マッピングデータ)を利用して、隣り合う希土類元素の水素化合物の粒子間の間隔=相間の間隔を測定した。ここでは、上記切断面(或いは研磨面)に面分析を行って、SmH2のピーク位置を抽出し、隣り合うSmH2のピーク位置間の間隔を測定し、全ての間隔の平均値を相間の間隔(上述した中心間の距離)とした。その結果、相間の間隔は、2.4μmであった。なお、上記相間の間隔の測定は、上記切断面(或いは研磨面)をエッチングして、鉄含有物の相、或いは希土類元素の水素化合物の相を抽出して行うことができる。
【0078】
上記多相粒子に、絶縁被膜として、Si-O被膜の前駆体となるシリコーン樹脂を被覆し、この絶縁被覆(図示せず)を有する多相粉末を用意した。用意した多相粉末を油圧プレス装置により圧縮成形したところ(図1(III))、面圧10ton/cm2で十分に圧縮可能であり、外径10mmφ×高さ10mmの円柱状の粉末成形体4を形成できた。圧縮成形時の成形方向(圧縮方向)は、円柱の高さ方向とした。
【0079】
得られた粉末成形体の実際の密度(成形密度)、及び相対密度(真密度に対する実際の密度の割合)を求めた。実際の密度は、市販の密度測定装置を利用して測定した。真密度は、SmH2の密度:6.51g/cm3,Feの密度:7.874g/cm3,シリコーン樹脂の密度:1.1g/cm3とし、上記体積比を利用して演算により求めた。その結果、真密度:7.47g/cm3、成形密度:6.89g/cm3、相対密度:92.2%であった。
【0080】
得られた粉末成形体を水素雰囲気中で900℃まで昇温し、900℃に達した時点で表1に示す磁場(T)を適宜印加しながら、水素雰囲気から真空(VAC)に切り替えて減圧し、真空中(最終真空度:1.0Pa)、900℃×10minで熱処理(脱水素)を施した。昇温を水素雰囲気とすることで、十分に高い温度になってから脱水素反応を開始することができ、反応斑を抑制できる。この熱処理(脱水素)は、表1に示す磁場(T)を印加した状態で行った。磁場の印加は、高温超電導磁石を用いて行った。磁場の印加方向は、粉末成形体の成形方向(ここでは、上述の円柱の高さ方向)と同じ方向とした。試料No.100は、磁場を印加せずに熱処理(脱水素)を行った。
【0081】
熱処理(脱水素)後に得られた成形体の組成をEDX装置により調べたところ、実質的にSm2Fe17という希土類-鉄系合金が主相(85体積%以上)である複数の合金粒子により構成された希土類-鉄系合金材5(図1(IV))であった。従って、上記熱処理(脱水素)により水素が除去されたことが分かる。
【0082】
また、熱処理(脱水素)後に得られた円柱状の成形体に具える一対の円形面(圧縮成形時において加圧パンチに接触して加圧された平面)の少なくとも一面を測定面とし、この測定面についてX線回折を行い、最大ピーク強度:Imaxと、c軸におけるピーク強度とを調べ、最大ピーク強度におけるc軸のピーク強度の比を求めた。ここでは、(006)面の積分強度:I(006)をc軸におけるピーク強度とし、上記ピーク強度の比は、I(006)/Imaxとした。その結果を表1に示す。なお、測定面は、磁場の印加方向を法線とする面に相当する。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示すように、脱水素工程において、磁場を印加すると、希土類-鉄系合金からなる結晶粒がc軸方向に配向し易いことが分かる。特に、3T以上の強磁場を印加すると、c軸方向に配向した組織、より具体的には、I(006)/Imax≧0.83以上、更にI(006)/Imax=1を満たす組織を有する希土類-鉄系合金材が得られることが分かる。
【0085】
得られた各希土類-鉄系合金材に、窒素(N2)雰囲気中、425℃×3時間で熱処理(窒化)を施した。この熱処理(窒化)後に得られた円柱状の成形体の組成をEDX装置により調べたところ、各成形体は、Sm-Fe-N合金といった希土類-鉄-窒素系合金からなる希土類-鉄-窒素系合金材6(図1(V))であり、熱処理(窒化)により窒化物が形成されたことが分かる。
【0086】
上記熱処理(窒化)により得られた各希土類-鉄-窒素系合金材を2.4MA/m(=30kOe)のパルス磁界で着磁した後、得られた各試料(希土類-鉄-窒素系合金からなる希土類磁石7(図1(VI)))の磁気特性を、BHトレーサ(理研電子株式会社製DCBHトレーサ)を用いて調べた。その結果を表2に示す。ここでは、磁気特性として、飽和磁束密度:Bs(T)、残留磁束密度:Br(T)、固有保磁力:iHc(kA/m)、磁束密度Bと減磁界の大きさHとの積の最大値:(BH)max(kJ/m3)を求めた。これらの磁気特性は、磁場の印加方向、即ち粉末成形体の成形方向(上記円柱の高さ方向)について求めた。また、得られた円柱状の成形体からなる各試料について、上述した希土類-鉄系合金材と同様に、各試料に具える一対の円形面(平面)の少なくとも一面を測定面とし、この測定面についてX線回折を行い、最大ピーク強度:Imaxと、c軸におけるピーク強度とを調べ、最大ピーク強度におけるc軸のピーク強度の比を求めた。ここでは、(006)面の積分強度:I(006)をc軸におけるピーク強度とし、上記ピーク強度の比は、I(006)/Imaxとした。その結果を表2に示す。なお、測定面は、磁場の印加方向を法線とする面に相当する。
【0087】
【表2】

【0088】
表2に示すように、特定の配向組織(ここではc軸配向組織であり、I(006)/Imax≧0.83を満たす組織)を有する希土類-鉄系合金材を窒化することで、得られた希土類-鉄-窒素系合金材も、同様の配向組織(ここではc軸配向組織であり、I(006)/Imax≧0.83を満たす組織)を有すること、換言すれば、素材に用いた希土類-鉄系合金材の配向組織を実質的に維持していることが分かる。また、I(006)/Imax≧0.83を満たす希土類-鉄-窒素系合金材を素材に用いた希土類磁石は、I(006)/Imax<0.83である希土類-鉄-窒素系合金材を素材に用いた場合に比較して、保磁力が高く、磁気特性により優れることが分かる。
【0089】
[試験例2]
試験例1の試料No.1-2と同様にして作製した希土類-鉄系合金材を用意し、この希土類-鉄系合金材に窒化処理を施して希土類-鉄-窒素系合金材を作製し、試験例1と同様に希土類磁石を作製して、磁気特性を調べた。この試験では、特に、窒化処理時の磁場の影響を調べた。
【0090】
用意した希土類-鉄系合金材は、上述のように実質的にSm2Fe17という希土類-鉄系合金からなる複数の合金粒子から構成された成形体であり、I(006)/Imax:1.0である(熱処理(脱水素)時の印加磁場:3.2T、磁場の印加方向:圧縮成形時の成形方向と同じ方向、外径10mmφ×高さ10mmの円柱)。この希土類-鉄系合金材に、窒素(N2)雰囲気中、425℃×3時間で熱処理(窒化)を施した。この熱処理(窒化)は、表3に示す磁場(T)を印加した状態で行った(図1(V))。磁場の印加は、高温超電導磁石を用いて行った。磁場の印加方向は、脱水素工程における磁場の印加方向と同じ方向(=粉末成形体の成形方向=円柱の高さ方向)とした。試料No.2-1は、磁場を印加せずに熱処理(窒化)を行った。
【0091】
熱処理(窒化)後に得られた成形体の組成をEDX装置により調べたところ、各成形体は、Sm-Fe-N合金という希土類-鉄-窒素系合金からなる希土類-鉄-窒素系合金材6(図1(V))であり、熱処理(窒化)により窒化物が形成されたことが分かる。
【0092】
上記熱処理(窒化)により得られた各希土類-鉄-窒素系合金材を試験例1と同様の条件で着磁して得られた各試料(希土類-鉄-窒素系合金からなる希土類磁石7(図1(VI)))について、試験例1と同様にして磁気特性を調べた。その結果を表3に示す。また、円柱状の成形体からなる各試料について、試験例1と同様に、各試料に具える一対の円形面(平面)の少なくとも一面を測定面とし、測定面における最大ピーク強度:Imax、(006)面の積分強度:I(006)を測定し、ピーク強度の比:I(006)/Imaxを求めた。その結果を表3に示す。なお、測定面は、磁場の印加方向を法線とする面に相当する。
【0093】
【表3】

【0094】
表3に示すように、試験例1と同様に、特定の配向組織(ここではc軸配向組織であり、I(006)/Imax≧0.83を満たす組織)を有する希土類-鉄系合金材を窒化することで、得られた希土類-鉄-窒素系合金材も、同様の配向組織(ここではc軸配向組織であり、I(006)/Imax≧0.83を満たす組織)を有することが分かる。特に、熱処理(窒化)時に3.5T以上の強磁場を印加して得られた希土類-鉄-窒素系合金材を素材に用いた希土類磁石は、熱処理(窒化)時に磁場を印加しない場合や3.5T未満の磁場を印加した場合に比較して、保磁力が高く、磁気特性により優れることが分かる。この理由は、熱処理(窒化)時に3.5T以上の強磁場を印加することで、希土類-鉄-窒素系合金(ここではSm-Fe-N合金)が理想状態の原子比の合金、即ち、Sm2Fe17N3になり易くなったことが考えられる。また、この試験では、熱処理(脱水素及び窒化)時の磁場の印加方向を同じ方向としたことで、理想状態の原子比の合金が更に形成され易かったと考えられる。実際、試料No.2-7の組成を調べたところ、実質的にSm2Fe17N3から構成されていた。
【0095】
上記試験例1,2により、鉄含有物の相中に希土類元素の水素化合物の相が離散して存在する組織を有する合金粉末で作製した粉末成形体に3T以上の強磁場を印加して熱処理(脱水素)を施すと共に、この熱処理(脱水素)後に得られた希土類-鉄系合金材に3.5T以上の強磁場を印加して熱処理(窒化)を施すことで、磁気特性に優れる希土類磁石が得られることが分かる。
【0096】
[試験例3]
試験例2と同様にして希土類磁石を作製し、磁気特性を調べた。この試験では、出発材料となる希土類-鉄系合金粉末(出発合金粉末)として、Sm1Fe11Ti1からなる粉末を利用した。
【0097】
この試験では、平均粒径100μmのSm1Fe11Ti1合金粉末(図1(I))をガスアトマイズ法(Ar雰囲気)により作製した。上記平均粒径は、試験例1と同様にして測定した。ここでは、ガスアトマイズ法により、上記合金粉末を構成する各粒子が多結晶体からなるものを作製した。
【0098】
上記合金粉末(出発合金粉末)に水素(H2)雰囲気中、800℃×1時間で熱処理(水素化)を施した。この熱処理(水素化)により得られた粉末を試験例1と同様にして、その形態を調べた。その結果、この粉末は、図1(II)に示すように、鉄含有物の相2(ここではFe及びFeTi化合物)を母相とし、この母相中に複数の粒状の希土類元素の水素化合物の相3(ここではSmH2)が分散して存在した多相粒子1から構成されており、隣り合う希土類元素の水素化合物の粒子間に鉄含有物の相2が介在していることを確認した。
【0099】
上記多相粒子について、試験例1と同様にして、隣り合う希土類元素の水素化合物の粒子間の間隔(相間の間隔)を測定したところ、2.3μmであった。また、試験例1と同様にして、多相粒子の希土類元素の水素化合物(SmH2)、鉄含有物(Fe,FeTi化合物)の含有量(体積%)を求めたところ、希土類元素の水素化合物:22体積%、鉄含有物:77体積%であった。
【0100】
上記多相粒子に試験例1と同様にシリコーン樹脂からなる絶縁被覆を形成し、絶縁被覆を具える多相粉末を用意した。用意した多相粉末を油圧プレス装置により圧縮成形したところ(図1(III))、面圧10ton/cm2で十分に圧縮可能であり、外径10mmφ×高さ10mmの円柱状の粉末成形体4を形成できた。圧縮成形時の成形方向(圧縮方向)は、円柱の高さ方向とした。
【0101】
試験例1と同様にして、得られた粉末成形体の相対密度を求めたところ(シリコーン樹脂の含有量:0.75体積%)、93%であった。このことから、試験例3で作製した多相粉末も、試験例1と同様に、複雑な形状の粉末成形体や、相対密度が90%以上といった高密度な粉末成形体が得られることが分かる。特に、試験例3では、鉄含有物の含有量が77体積%であり、試験例1で作製したTiを含まない形態(鉄含有物の含有量:72.6体積%)と比較して、成形性に優れる鉄含有成分の割合が高いことで、成形性に更に優れており、上述のような高密度な粉末成形体を精度よく作製できた。
【0102】
得られた粉末成形体を水素雰囲気中で825℃まで昇温し、825℃に達した時点で表4に示す磁場(T)を適宜印加しながら、水素雰囲気から真空(VAC)に切り替えて減圧し、真空(VAC)中(最終真空度:1.0Pa)、825℃×10minで熱処理(脱水素)を施した(図1(IV))。この試験では、この熱処理(脱水素)時、表4に示す磁場(T)を印加した状態で行った。磁場の印加は、高温超電導磁石を用いて行った。磁場の印加方向は、粉末成形体の成形方向(ここでは、上述の円柱の高さ方向)と同じ方向とした。試料No.300は、磁場を印加せずに熱処理(脱水素)を施した。
【0103】
上記熱処理(脱水素)後に得られた成形体の組成をEDX装置により調べたところ、Sm1Fe11Ti1という希土類-鉄系合金が主相(92体積%以上)である複数の合金粒子により構成された希土類-鉄系合金材5(図1(IV))であり、当該熱処理(脱水素)により水素が除去されたことが分かる。
【0104】
また、熱処理(脱水素)後に得られた円柱状の成形体について、試験例1と同様に、成形体に具える円形面(平面)を測定面とし、測定面における最大ピーク強度:Imax、c軸におけるピーク強度として(002)面の積分強度:I(002)を測定し、ピーク強度の比:I(002)/Imaxを求めた。その結果を表4に示す。なお、測定面は、磁場の印加方向を法線とする面に相当する。
【0105】
得られた各希土類-鉄系合金材に、窒素(N2)雰囲気中、425℃×180minで熱処理(窒化)を施した。この熱処理(窒化)は、表4に示す磁場(T)を印加した状態で行った(図1(V))。磁場の印加は、高温超電導磁石を用いて行った。磁場の印加方向は、脱水素工程における磁場の印加方向と同じ方向(=粉末成形体の成形方向=円柱の高さ方向)とした。試料No.300〜330,3-1,3-2,3-11,3-12は、磁場を印加せずに熱処理(窒化)を行った。
【0106】
熱処理(窒化)後に得られた成形体の組成をEDX装置により調べたところ、各成形体は、Sm-Fe-Ti-N合金といった希土類-鉄-窒素系合金からなる希土類-鉄-窒素系合金材6(図1(V))であり、熱処理(窒化)により窒化物が形成されたことが分かる。
【0107】
上記熱処理(窒化)により得られた各希土類-鉄-窒素系合金材を試験例1と同様の条件で着磁して得られた各試料(希土類-鉄-窒素系合金からなる希土類磁石7(図1(VI))について、試験例1と同様にして磁気特性を調べた。その結果を表4に示す。また、円柱状の成形体からなる各試料について、試験例1と同様に、各試料に具える一対の円形面(平面)の少なくとも一面を測定面とし、測定面における最大ピーク強度:Imax、上述した希土類-鉄系合金と同様に(002)面の積分強度:I(002)を測定し、ピーク強度の比:I(002)/Imaxを求めた。その結果を表4に示す。なお、測定面は、磁場の印加方向を法線とする面に相当する。
【0108】
【表4】

【0109】
表4に示すように、試験例1と同様に、Sm-Fe-Ti合金といった希土類-鉄系合金からなり、特定の配向組織(ここではc軸配向組織であり、I(002)/Imax≧0.83を満たす組織)を有する希土類-鉄系合金材を窒化することで、Sm-Fe-Ti-N合金といった希土類-鉄-窒素系合金からり、同様の配向組織(ここではc軸配向組織であり、I(002)/Imax≧0.83を満たす組織)を有する希土類-鉄-窒素系合金材が得られることが分かる。特に、試験例2と同様に、熱処理(脱水素)時に3T以上の強磁場を印加し、かつ熱処理(窒化)時に3.5T以上の強磁場を印加することで、希土類元素の使用量を低減しても磁気特性に優れる希土類磁石が得られることが分かる。この理由は、試験例2と同様に理想状態の原子比の合金、即ち、Sm1Fe11Ti1N1になり易くなったことが考えられる。実際、試料No.3-9の組成を調べたところ、実質的にSm1Fe11Ti1N1から構成されていた。試料No.3-11,3-12についても、熱処理(脱水素)時に加えて熱処理(窒化)時にも磁場を印加することで、磁気特性に更に優れる希土類磁石が得られると期待できる。
【0110】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能である。例えば、出発合金粉末の組成・平均粒径、多相粉末の組成・相間の間隔、絶縁被覆の材質、酸化防止層の有無、粉末成形体の形状・大きさ・相対密度、圧縮成形時の成形圧力、各種の熱処理条件(雰囲気、温度、保持時間、印加磁場)などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明希土類-鉄-窒素系合金材は、各種のモータ、特に、ハイブリッド自動車(HEV)やハードディスクドライブ(HDD)などに具備される高速モータに用いられる永久磁石の素材に好適に利用することができる。本発明希土類-鉄系合金材は、上記本発明希土類-鉄-窒素系合金材の原料に好適に利用することができる。本発明希土類-鉄系合金材の製造方法、本発明希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法は、上記本発明希土類-鉄系合金材、本発明希土類-鉄-窒素系合金材の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0112】
1 多相粒子 2 鉄含有物の相 3 希土類元素の水素化合物の相
4 粉末成形体 5 希土類-鉄系合金材 6 希土類-鉄-窒素系合金材
7 希土類磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類磁石の原料に用いられる希土類-鉄系合金材であって、
希土類元素を含有する希土類-鉄系合金からなる複数の合金粒子から構成される成形体であり、
前記成形体の外表面を構成する任意の平面、又は前記成形体の任意の断面を測定面とし、前記測定面におけるX線回折の最大ピーク強度をImax、前記測定面に存在する前記合金粒子を構成する結晶格子の軸におけるX線回折のピーク強度をI(a,b,c)、前記最大ピーク強度に対する前記軸のピーク強度の比をI(a,b,c)/Imaxとするとき、I(a,b,c)/Imax≧0.83を満たすことを特徴とする希土類-鉄系合金材。
【請求項2】
希土類磁石の素材に用いられる希土類-鉄-窒素系合金材であって、
希土類元素を含有する希土類-鉄-窒素系合金からなる複数の合金粒子から構成される成形体であり、
前記成形体の外表面を構成する任意の平面、又は前記成形体の任意の断面を測定面とし、前記測定面におけるX線回折の最大ピーク強度をImax、前記測定面に存在する前記合金粒子を構成する結晶格子の軸におけるX線回折のピーク強度をI(a,b,c)、前記最大ピーク強度に対する前記軸のピーク強度の比をI(a,b,c)/Imaxとするとき、I(a,b,c)/Imax≧0.83を満たすことを特徴とする希土類-鉄-窒素系合金材。
【請求項3】
前記結晶格子のc軸におけるX線回折のピーク強度をIcとするとき、Ic/Imax≧0.83を満たすことを特徴とする請求項2に記載の希土類-鉄-窒素系合金材。
【請求項4】
前記希土類元素は、Smであることを特徴とする請求項2又は3に記載の希土類-鉄-窒素系合金材。
【請求項5】
前記合金は、Sm及びTiを含有することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の希土類-鉄-窒素系合金材。
【請求項6】
希土類磁石の原料に用いられる希土類-鉄系合金材の製造方法であって、
希土類元素を含有する希土類-鉄系合金粉末に、水素元素を含む雰囲気中、当該希土類-鉄系合金の不均化温度以上の温度で熱処理を施して、Feを含む鉄含有物の相中に前記希土類元素の水素化合物の相が離散して存在し、この希土類元素の水素化合物の相の含有量が40体積%以下である多相粒子からなる多相粉末を準備する準備工程と、
前記多相粉末を圧縮成形して粉末成形体を成形する成形工程と、
前記粉末成形体に、不活性雰囲気中又は減圧雰囲気中、当該粉末成形体の再結合温度以上の温度で熱処理を施して、希土類-鉄系合金材を形成する脱水素工程とを具え、
前記脱水素工程の熱処理は、前記粉末成形体に3T以上の磁場を印加して行うことを特徴とする希土類-鉄系合金材の製造方法。
【請求項7】
前記磁場の印加は、高温超電導磁石を用いて行うことを特徴とする請求項6に記載の希土類-鉄系合金材の製造方法。
【請求項8】
希土類磁石の素材に用いられる希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法であって、
希土類元素を含有する希土類-鉄系合金粉末に、水素元素を含む雰囲気中、当該希土類-鉄系合金の不均化温度以上の温度で熱処理を施して、Feを含む鉄含有物の相中に前記希土類元素の水素化合物の相が離散して存在し、この希土類元素の水素化合物の相の含有量が40体積%以下である多相粒子からなる多相粉末を準備する準備工程と、
前記多相粉末を圧縮成形して粉末成形体を成形する成形工程と、
前記粉末成形体に、不活性雰囲気中又は減圧雰囲気中、当該粉末成形体の再結合温度以上の温度で熱処理を施して、希土類-鉄系合金材を形成する脱水素工程と、
前記希土類-鉄系合金材に、窒素元素を含む雰囲気中、当該希土類-鉄系合金材の窒化温度以上窒素不均化温度以下の温度で熱処理を施して、希土類-鉄-窒素系合金材を形成する窒化工程とを具え、
前記脱水素工程の熱処理は、前記粉末成形体に3T以上の磁場を印加して行い、
前記窒化工程の熱処理は、前記希土類-鉄系合金材に3.5T以上の磁場を印加して行うことを特徴とする希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法。
【請求項9】
前記窒化工程において磁場を印加する方向は、前記脱水素工程における磁場の印加方向と同じ方向とすることを特徴とする請求項8に記載の希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法。
【請求項10】
前記脱水素工程及び前記窒化工程における磁場の印加は、高温超電導磁石を用いて行うことを特徴とする請求項8又は9に記載の希土類-鉄-窒素系合金材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−241280(P2012−241280A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116016(P2011−116016)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】