説明

帯状体や柱状体の周期性疵検出方法およびその装置

【課題】複雑・面倒な設定や調整を行うことなく周期性疵有無を高精度・迅速に判定する帯状体等の周期性疵検出技術を提供すること。
【解決手段】被検査体の表面を連続的に撮像する撮像手段と、撮像された画像を記憶する手段と、記憶された撮像画像から画像を切り出してパターンマッチングにより周期性疵の周期Lrを求める基準周期疵検出手段と、周期Lrを基に複数の所定のピッチLt(長さ)で、記憶された撮像画像を長手方向に切り出して、複数パターンの画像の組Ptを生成する複数パターン作成手段と、画像の組Pt切り出した各画像の輝度値を加算して合成画像を生成する合成画像生成手段と、画像の組Ptの各合成画像のうち最大の分散値を与える合成画像を選択する画像選択手段と、最大の分散値の合成画像を基にして、疵の周期性や周期性疵を検出する主周期疵検出手段とを有すること帯状体や柱状体の周期性疵検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、長手方向に移動している金属、プラスチックその他材料からなる帯状体や柱状体の表面疵、特に周期的に発生する周期性疵を光学的に検出する帯状体や柱状体の周期性疵検出方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製品の品質を向上すべく、移動している帯状体や柱状体(以下では帯状体等と記す)の表面を光学的に検査する表面疵検査が広く行われている。ここで、帯状体には、厚さがミクロンオーダーの薄物から数十cm以上にも及ぶ厚い物が含まれる。また、柱状体には内部が中空の管状体も含まれる。表面疵検査は、帯状体等をこれの長手方向に送りながら、その表面を撮像装置で撮像し、画像処理により撮像画像から疵候補を抽出し、最終的には前記疵候補の位置、大きさ、形状、輝度、周期性などの特徴量または画像に基づいて、前記疵候補が有害か無害かを判定するものである。
例えば、鋼板などの圧延ラインにおいては、油、水滴、軽い汚れなどが鋼板表面に付着する場合が多くあり、これらの油等は製品の品質に影響のない限り、無害判定すべきものである。一方、圧延ロールの表面に欠けや凹みが生じたり異物が付着したりして、これが被圧延材に転写されて生じる周期性疵の一例であるロール疵は、圧延ロールが回転するごとに被圧延材の長手方向に発生し続けるため、有害判定すべきものである。そして、通常このロール疵及びその周期性が検出されたときは、アラームがオペレータに通報され、圧延ロールの交換作業が行われる。
このように圧延ラインを移動する鋼板表面には様々な疵や汚れ等が付着しているので、抽出した疵候補の中から如何に精度よく、そして如何に迅速にロール疵及びその周期性を検出するかは、表面疵検査の信頼性、ひいては製品の品質を向上させるための重要な要因となる。
【0003】
従来、このロール疵の検出方法として、ロール疵の周期性に着目した検出方法が数多く提案されている。例えば、周期性を利用した最も簡単な方法は、ロール疵は被圧延材の長手方向に一定の間隔で発生するため、疵候補の間隔を比較し、これが一致するならば、周期性があるとしてロール疵が発生していると判定するものである。
同じくロール疵の周期性に着目した検出方法として、自己相関を利用した検出方法が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2の第2頁を参照のこと)。自己相関は、信号処理分野、特に画像処理分野で広く活用されているものであり、自己相関の演算結果によって得られるピーク間の距離が周期信号成分の周期を表すことから、処理すべき信号系列に含まれる周期信号成分の周期が未知であっても、ノイズに埋もれた信号系列から周期信号成分のみを選択的に抽出できるものである。
すなわち、上記いずれの方法も、はじめに撮像画像から疵候補を抽出し、この抽出した疵候補に対して所定の演算処理(疵候補間隔の比較や自己相関)を行うことにより、周期性疵を検出する方法である。
【0004】
しかし、実際の鋼板などの圧延工程においては、被圧延材の厚さばらつきに起因する圧下率の変動等に伴い、圧延ロールに生じた疵が常に一定のレベルで被圧延材に転写されるとは限らない。すなわち、一般に圧下率が小さいときは製品の品質に影響を与えるようなロール疵は発生せず、また、発生したとしても軽微な周期性疵の場合には、画像上での輝度変化が小さいことから疵候補として抽出され難いため、間引的に疵候補が抽出される抽出抜け(いわゆる未検出)が生じる場合がある。
また、鋼板の表面には、酸化膜(スケール)のむら、肌荒れ等によるノイズが多く、本来無害疵と判定すべき油、水滴等を疵候補として過剰に検出(いわゆる過剰検出)してしまう場合がある。特に、周期性疵の検出精度を上げるべく軽微な周期性疵を検出しようとすると、過剰検出の爆発的増大を招来する。
加えて、有害疵ではあるが、周期性がなく単発的に発生する単発疵も疵候補として抽出される。
【0005】
したがって、疵候補の間隔を単純に比較して周期性を判定する方法においては、疵候補の未検出あるいは過剰検出や単発疵等のノイズにより疵候補の間隔が一致せず、ロール疵及びその周期性を正確に検出することができないという問題があった。
同様に自己相関を利用した検出方法においても、抽出した疵候補に過剰検出等によるノイズ成分が多く含まれている場合は、周期性疵の判定精度が低下するのみならず、自己相関の演算量が爆発的に増大しオンライン処理(リアルタイム処理)が困難になるという問題があった。また、この過剰検出による弊害を解消すべく検出感度を下げると、今度は軽微な周期性疵の検出不能に陥るという問題があった。
このように、はじめに撮像画像から疵候補を抽出し、この抽出した疵候補に対し所定の演算を行う方法においては、軽微な周期性疵の検出と過剰検出とがトレードオフの関係になるため、軽微な周期性疵を検出するためには、抽出した疵候補から過剰検出によるノイズ成分を除去する操作が必要不可欠であった。
【0006】
一方、ロール疵の周期性に着目する点においては一致するが、上記方法のように撮像画像から疵候補を抽出し、この抽出した疵候補に対し所定の演算を行うのではなく、(1)ロールの回転に同期させて鋼板表面の画像(ロール1回転分に相当する画像)を撮像し、あるいはロールの回転に同期させないで撮像した画像からロール1回転分に相当する画像を切り出し、(2)撮像したあるいは切り出した複数の画像を重ね合せて、(3)合成画像の輝度値を検出しきい値と比較して、周期性疵を検出する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
すなわち、この方法の特徴ないし原理は、ロール疵は圧延ロールが回転するごとに被圧延材の長手方向に発生するため、圧延ロールが1回転して得られる被圧延材の表面画像、すなわちロール1回転分に相当する画像を重ね合せると、ノイズ成分を低減でき、軽微な周期性疵を顕在化させることができるというものである。
したがって当該原理に従う検出方法によれば、上述したような軽微な周期性疵の検出と過剰検出とのトレードオフの問題が生じることなく、また、周期性疵以外のノイズ成分が多く含まれている場合であっても特段のノイズ除去処理操作を行うことなく、軽微な周期性疵を検出することが可能である。
【0007】
しかし、ロール1回転分に相当する画像を撮像あるいは切り出す際には、一般にロールの回転変位を計測するロータリエンコーダからの信号又はデータを使用するが、ロータリエンコーダの出力には誤差がある。また、検査対象の移動速度によってこの誤差が変化する場合もある。
また、ロール1回転分に相当する長さ、すなわち、周期性疵のピッチをロール径、圧下率、先進率等によって特定する方法が開示されているが(例えば、特許文献3参照)、これらのパラメータによって算出したピッチと実際に現れる周期性疵のピッチとの間には誤差が生じた。
さらには、ロール1回転分に相当する画像を撮像するための、あるいは撮像した画像から重ね合せるべき画像を切り出すための、そして、このように切り出した画像を重ね合せるための基本単位となるピッチ(以降、単位ピッチと称する)を時間や手間をかけて正確に特定したとしても、ロール交換を行うと周期性疵のピッチが変わるので、ロール交換を行うたびに単位ピッチの再設定をしなければならなかった。
加えて、周期性疵のピッチは圧延ロールの磨耗により変化するため、疵検査開始直後においては特定した単位ピッチと周期性疵のピッチが一致していても、圧延距離が進むにつれてこれらピッチの間に差が生じてくるため、疵検査を中断して単位ピッチの再調整をしなければならなかった。
一方、近年における圧延技術の進展に伴い、鋼板の圧延速度はますます高速化しているため、疵検査装置においても高速化への対応ならびに検査時間の短縮が強く求められている。
【特許文献1】特開昭58−156842号公報
【特許文献2】特開平2−74852号公報
【特許文献3】特開平6−324005号公報
【非特許文献1】電気工学ハンドブック第6版、電気学会、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決すべき課題は、ロール交換やロール磨耗により周期性疵のピッチが変化しても、複雑・面倒な設定や調整を行うことなく周期性疵、特に軽微な周期性疵の有無を高精度かつ迅速に判定することができる帯状体等の周期性疵検出方法およびその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、画像を重ね合せることによってノイズ成分を低減し周期性疵を顕在化させる方法における上記課題を解決すべく、当該方法および装置について数多くの理論検討および実験検討を行った結果、以下の知見を得た。
【0010】
(1)従来方法のように1つの単位ピッチを設定・調整し、当該単位ピッチに基づいて画像を重ね合せる方法においては、当該単位ピッチには精度が要求されることになるため、その設定や調整には時間や手間を要するが、図1に示すように数パターンの単位ピッチを設定し、当該数パターンの単位ピッチに基づいて画像を重ね合せたときに最大の輝度値の分散を与える単位ピッチを選択するようにすれば、複雑・面倒な設定や調整が不要となり検査時間の短縮が図られること。
【0011】
(2)従来方法においては、ロール交換やロール磨耗により周期性疵のピッチが変化するたびに単位ピッチの再調整を要するが、図1に示すように数パターンの単位ピッチを設定し、当該数パターンの単位ピッチに基づいて画像を重ね合せたときに最大の輝度値の分散を与える単位ピッチを選択するようにすれば、複雑・面倒な再設定や再調整が不要となり検査時間の短縮が図られること。
【0012】
(3)従来方法のように単位ピッチに基づいて画像を重ね合せるのみで、各画像が正確な位置関係で重ね合っているか否かを一切評価しない方法においては、ロール磨耗により周期性疵のピッチが変化した場合に、間隔の一致しない画像同士を重ね合せたままの状態になり周期性疵を顕在化させることができないが、図1に示すように複数パターンの単位ピッチを設定し、当該数パターンの単位ピッチに基づいて画像を重ね合せたときに最大の輝度値の分散を与える単位ピッチを選択するようにすれば、正確な位置関係で画像を重ね合せることができ、疵判定精度の向上が図られること。
【0013】
(4)さらに、図1に示す重ね合わせ処理は、想定する単位ピッチの変動幅によっては数十パターンを要することもあり、この場合、計算量が膨大になる可能性があるが、前処理として図2に示すように、画像間のパターンマッチングによって単位ピッチの変動幅を限定すると、必要とする単位ピッチのパターン数、ひいては計算量を大幅に削減することができること。
【0014】
上記の知見に基づき、本発明者は、ロール交換やロール磨耗により周期性疵のピッチが変化しても、複雑・面倒な設定や調整を行うことなく周期性疵、特に軽微な周期性疵の有無を高精度かつ迅速に判定することができる帯状体等の周期性疵検出方法およびその装置に想到した。その要旨とするところは以下のとおりである。
【0015】
(1)本発明の帯状体や柱状体の周期性疵検出方法は、移動する帯状体や柱状体の表面を連続的に撮像して撮像画像を記憶装置に記憶させ、記憶された撮像画像を画像処理して、該帯状体や柱状体の表面の周期性疵を検出する周期性疵検出方法において、記憶された撮像画像から所定長の画像を切り出してパターンマッチングにより周期性疵の周期Lrを求め、前記周期Lrを基にした複数の所定のピッチLt(長さ)で、記憶された撮像画像を長手方向に分割して切り出して、複数パターンの画像の組Ptを生成し、前記画像の組Ptそれぞれについて、切り出した画像の輝度値を加算して合成画像を生成し、前記画像の組Ptそれぞれの合成画像のうち最大の分散値を与える合成画像を基にして、疵の周期性や周期性疵を検出することを特徴とする。
【0016】
(2)本発明の帯状体や柱状体の周期性疵検出装置は、移動する帯状体や柱状体の表面を連続的に撮像して撮像画像を記憶装置に記憶させ、記憶された撮像画像を画像処理して、該帯状体や柱状体の表面の周期性疵を検出する周期性疵検出装置において、移動する帯状体や柱状体の表面を連続的に撮像する撮像手段と、撮像装置により撮像された画像を記憶する手段と、記憶された撮像画像から所定長の画像を切り出してパターンマッチングにより周期性疵の周期Lrを求める基準周期疵検出手段と、前記周期Lrを基にした複数の所定のピッチ(長さ)Ltで、記憶された撮像画像を長手方向に分割して切り出して、複数パターンの画像の組Ptを生成する複数パターン作成手段と、前記画像の組Ptそれぞれについて、切り出した画像の輝度値を加算して合成画像を生成する合成画像生成手段と、前記画像の組Ptそれぞれの合成画像のうち最大の分散値を与える合成画像を選択する画像選択手段と、前記最大の分散値を与える合成画像を基にして、疵の周期性や周期性疵を検出する主周期疵検出手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロール交換やロール磨耗により周期性疵のピッチが変化しても、複雑・面倒な設定や調整を行うことなく周期性疵、特に軽微な周期性疵の有無を高精度かつ迅速に判定することができる。これは、表面疵検査の信頼性ひいては製品の品質を向上させるものであり、その経済的効果は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1〜図5を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。図1は本発明に係る周期性疵の検出方法の原理を概念的に示す模式図、図2は本発明に係るパターンマッチングによる周期性疵の周期の検出方法の原理を概念的に示す模式図、図3は帯状体の製造ラインに設置された本実施の形態の表面疵検査装置の概略図、図4は当該装置の主要部のブロック図、および図5は当該装置内の画像処理装置で行なわれる画像処理の1形態を示すフローチャートである。以下、帯状体等が帯状鋼板である場合について説明する。
【0019】
通板方向に移動する帯状鋼板1の表面を撮像装置4で撮影する。なお、図示しないが撮影に際して帯状鋼板を照明しても良い。撮像装置4としては、画像をフレーム単位で読み取るエリアカメラ(センサ)方式や、画像をライン単位で読み取るラインカメラ(センサ)方式があり、双方とも使用することができる。また、撮像画像としては、白黒濃淡画像やカラー画像があり、双方とも使用することができる。
以下、白黒濃淡画像を出力するラインカメラを使用した場合について説明する。撮像装置4は、帯状鋼板1の板幅方向(X方向)の濃淡画像を撮像し、例えば白黒256階調の情報を撮像画像として出力する。画像処理装置9は例えばコンピュータで構成され、この場合、本発明に係る周期疵検出のための画像処理は、コンピュータ上のプログラムで実現される。
【0020】
パルスジェネレータ3は、撮像装置4が長手方向(Y方向)に移動する帯状鋼板1の表面を所定の空間分解能で隙間なく連続して撮像することができるように、撮像装置4に対して圧延速度に応じた制御タイミング信号を出力する。なお、パルスジェネレータ3は、圧延ラインに設置された通板速度計内に装着されている。
撮像装置4は、パルスジェネレータ3から出力される制御タイミング信号で、撮像と撮像画像の転送を繰り返す。
データ入出力制御装置12は、撮像装置4から出力される画像のライン要素を、例えば2048(幅)×512(高さ)の画素数の画像に構成し、主記憶装置11に転送される。
【0021】
コンピュータでもって画像処理装置9を実現するための画像処理プログラムは、例えばハードディスクなどの補助記憶装置8に保存しておく。
画像処理に必要なしきい値などの設定項目は、キーボードなどの入力装置5から入力し、補助記憶装置8に保存しておく。
撮像装置4による撮像画像および画像処理された撮像画像のデータは補助記憶装置8に保存し、またグラフィックスボード6を介して表示装置7に出力する。
表示装置7は、鋼板面の画像と共に有害/無害などの判定、周期性の判定結果を表示する。
以下、本実施の形態における周期疵検出のための画像処理(信号処理)について、図5のフローチャートに従って説明する。
【0022】
ステップS11
撮像装置4によって撮像した白黒濃淡画像を、撮像した順番に所定のサイズ、例えば、2048(幅)×512(高さ)の画素数で画像処理装置9に入力する。
なお、以降は、発明を理解しやすくするために、1画素は帯状鋼板表面の1mm×1mmの撮像画像を表すものとして説明する。すなわち、2048(幅)×512(高さ)の画素数で構成される画像は、幅が2048mm、長さが512mmの範囲の撮像画像を表すものとする。
【0023】
ステップS12
撮像装置4に使用される撮像素子、例えば、CCDセンサやCMOSセンサなどで各画素の感度が不均一であったり、照明の光量や方向が不均一であったりすると、本来の撮像対象の輝度は一様であるのに、撮像画像内のある部分は明るく、また別のある部分は暗くなるなど、いわゆる輝度むらが生じる場合がある。この輝度むらが生じると後の処理の演算において誤差が生じることになるので、必要に応じて画像全体が一様な明るさになるように前記画像に対してシェーディング補正を行う。
【0024】
ステップS13
予め設定した一定の長さのシェーディング補正後の画像を主記憶装置11に記憶する。例えば、鋼板3m分の画像を保存するとすると、シェーディング補正が行われる度に、記憶していた最も古い、長さ512mm分の画像を破棄し、補正が終わった長さ512mm分の画像を追加する。このようにすることで、常に最新の3m分のシェーディング補正後の画像が記憶されることになる。
【0025】
ステップS14
本ステップでは、画像から圧延ロールの周囲長、つまり周期性疵の周期を算出する。ここで算出した周期Lrは、次のステップS15において加算処理する単位ピッチの範囲を算出するための基準となる。
圧延ロールの表面には、圧延によって模様上の肌荒れが形成され、この模様が鋼板に転写される。画像上で見るとこの転写された模様による輝度の変化は一見すると分からない程度の小さなものであるが、詳細に分析すると画像上に周期的な輝度変化が見られるという知見を、実験検討を通して本発明者は見出した。この画像上に存在する軽微な輝度変化の周期性を検出するために、パターンマッチングを用いる。
【0026】
パターンマッチングを用いたロール周囲長の検出方法を図2を用いて説明する。シェーディング補正された後に、画像内に予め設定した大きさの小領域Rを設定する。ここでは小領域Rの大きさを128(幅)×128(高さ)画素とする。一方で、ロール周囲長の想定範囲を画素に換算した値として最小値D、最大値Dを設定しておく。そして図2に示すように、S14で記憶しているシェーディング補正後の画像の中に、幅方向位置が小領域Rと同じであり、かつ小領域RからそれぞれD、D遡った間に領域Rを設定する。よって前述のステップS13における記憶する画像の高さは少なくともD−Dよりも大きく設定する必要がある。ここではDを3000画素、Dを1000画素とする。このとき領域Rの大きさは128(幅)×2000(高さ)画素となる。
【0027】
次に領域Rの中で小領域Rと最も相関が高い位置を、パターンマッチングを使って検出する。つまり、領域Rの上に小領域Rが重なるように置き、重なった画素間の相関を計算する。RとRの幅は同じなので、RとRの重ね方は、画素をずらせると(Rの高さ)−(Rの高さ)+1通りあり、この全てに対して画素間の相関を計算し、最も相関の高い位置を検出すると、その位置とRの元の位置との距離がロール周囲長Lrに一致する。
【0028】
ステップS15
まず、本ステップにおいては、図1に示すようにシェーディング補正した画像から、ステップS14で求めたロール周囲長Lrを基準に設定した単位ピッチLtで重ね合せるべき画像を複数枚切り出す。この枚数をS枚とする。
ここで、単位ピッチLt(t=0、・・・、n−1)は、前述したようにロール1回転分に相当する画像を撮像するための、あるいは撮像した画像から重ね合せるべき画像を切り出すための、そして、このように切り出した画像を重ね合せるための基本単位となるピッチであり、S14で求めたロール周囲長Lrを中心に前後の長さで複数パターンを用意する。ここでS14で求めた値のみを使用しないのは、誤差を考慮しているためであり、設定するパターン数nは計算精度を考慮して決定する。
【0029】
シェーディング補正した画像からの重ね合せるべき画像の切り出し方法については、図1に示すように画像処理装置9に順次入力される2048×512のサイズの画像(a、b、c、・・・)を画像処理装置内で長手方向に結合した画像を生成し、この生成した画像から設定した各単位ピッチLtで複数の画像、例えば5〜10枚を切り出して、それぞれの組をPt(t=0、・・・、n−1)とする。
なお、画像の切り出し方法については、これに限定されるものではなく、撮像装置4により帯状鋼板1の板幅方向の表面画像をライン単位で撮像し、当該撮像画像をライン単位で順次画像処理装置9に入力していき、シェーディング補正した画像を画像処理装置内で順次長手方向に結合し、長手方向の長さが設定した単位ピッチとなったときの画像を切り出し画像としてもよい。
【0030】
次に、本ステップにおいては、(1)式による切り出した画像の組Ptについて各画像の加算処理を行う。なお、(1)式において、Sは切り出した画像の枚数を、F(i,j)は切り出した画像を、G(i,j)は前記加算処理により生成された合成画像を、(i,j)は画像中の各画素を示す。
【0031】
【数1】

【0032】
次に、本ステップにおいては、(2)式による合成画像Gの輝度値の分散σを演算する。なお、(2)式において、Mは幅方向の画素数を、Nは長手方向の画素数、すなわち、設定した単位ピッチを、(i,j)は画像中の各画素を示す。
【0033】
【数2】

【0034】
以降、図5のフローチャートに示すように、あらかじめ定めたパターン数nについて、すなわち、n通りのピッチLt(t=0、・・・、n−1)で切り出した画像の組Pt(t=0、・・・、n−1)それぞれについて、輝度値の加算による合成画像Gの生成および生成した合成画像Gの輝度値の分散の演算からなる一連の処理を実施する。
【0035】
ステップS16
上記一連の処理により得られたn個の合成画像Gから、最大の分散値を与える画像を選択する。ここで最大の分散値を与える画像を選択するのは、合成するピッチがロール周囲長とかけ離れる程、ランダムな輝度値をもつ画素同士を合成することになり、その結果、合成後の画像は一様な輝度値をもつ画像となる。よって一様な輝度値をもつ画像の分散は小さくなり、逆に言えば最大の分散を与える画像を選択することは、ロール周囲長に最も合致した画像を選択することを意味する。また、ここで選択した画像の高さ方向の画素数に分解能を乗じて長さに変換した値が、画像上での圧延ロールの周囲長、つまり疵のピッチに一致する。
【0036】
ステップS17
以降のラベリング処理や特徴量計算を容易にすべく、選択された白黒濃淡画像に対して2値化処理を行い、濃度値として0か1しか持たない2値画像に変換する。
しきい値の選択方法としては、P−タイル法や画像の濃度ヒストグラムを利用するモード法があるが、経験的または実験的によってしきい値を選択してもよい(例えば非特許文献1参照のこと)。
【0037】
ステップS18
上記の2値画像に対してラベリング処理および特徴量計算を行い、疵候補を抽出する。
ラベリング処理とは、特徴量計算の前に行う処理であり、2値画像中において幾何的に連結して一つの塊となっている図形(連結図形)ごとに、異なった番号(ラベル)を割り当てる処理である。
また、特徴量計算とは、特徴抽出とも呼ばれ、図形の形状に関する特徴量を求める処理であり、求める特徴量は、疵候補の位置、外接長方形の幅、長さ、長さと幅の比、最大長、周囲長などから選択される1又は2以上の組み合わせである(例えば非特許文献1参照のこと)。
【0038】
ステップS19
抽出した疵候補に対して最終的な疵判定を行う。例えば、製品の品質に影響を与えるロール疵であれば有害疵と判定するとともに疵検査装置のオペレータにアラームを通報する。一方、油、水滴、軽い汚れなどが鋼板表面に付着したものであり、製品の品質に影響を与えないものであれば無害疵と判定する。
なお、疵判定は、疵候補の位置、大きさ、形状、輝度などの特徴量または画像に基づいて判定する。
【0039】
以上が図5のフローチャートに従った本実施の形態における画像処理(信号処理)方法であるが、図3及び図4に示したような、移動する帯状体や柱状体の表面を連続的に撮像する撮像手段である撮像装置4、並びに、撮像装置4により撮像された画像を記憶する手段である主記憶装置11や補助記憶装置8と、記憶された撮像画像から所定長の画像を切り出してパターンマッチングにより周期性疵の周期を求める基準周期疵検出手段と、前記周期Lrを基にした複数の所定のピッチLt(長さ)で、記憶された撮像画像を長手方向に分割して切り出して、複数パターンの画像の組Ptを生成する複数パターン作成手段と、前記画像の組Ptそれぞれについて、切り出した画像の輝度値を加算して合成画像を生成する合成画像生成手段と、前記画像の組Ptの各合成画像のうち最大の分散値を与える合成画像を選択する画像選択手段と、前記最大の分散値を与える合成画像を基にして、疵の周期性や周期性疵を検出する主周期疵検出手段とを有することを特徴とする画像処理装置9から構成される帯状体や柱状体の周期性疵検出装置も、本発明の一つである。
なお、当該画像処理装置9は、CPU、主記憶装置、ディスプレー、及びデータ入出力装置からなるコンピュータを用いて、上記のステップを実行するコンピュータプログラムをインストールすることにより実現することができる。
【0040】
本実施の形態の帯状体や柱状体の周期性疵検出装置を用いて、実際の鋼板の周期疵を検出した一例を図6に示す。鋼板の幅は1200mm、厚さ2mm、通板速度1200m/分、検査長800mであった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る加算処理による周期性疵の検出方法の原理を概念的に示す模式図である。
【図2】本発明に係るパターンマッチングによる周期性疵の周期の検出方法の原理を概念的に示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態の表面疵検査装置の概略図である。
【図4】本発明の実施の形態の表面疵検査装置の主要部のブロック図である。
【図5】本発明における画像処理の1形態を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態の表面疵検査装置によって検出した鋼板の周期疵の検出結果の一例である。
【符号の説明】
【0042】
1 帯状鋼板 2 搬送ローラ
3 パルスジェネレータ 4 撮像装置
5 入力装置 6 グラフィックボード
7 表示装置 8 補助記憶装置
9 画像処理装置 10 CPU
11 主記憶装置 12 データ入出力制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する帯状体や柱状体の表面を連続的に撮像して撮像画像を記憶装置に記憶させ、記憶された撮像画像を画像処理して、該帯状体や柱状体の表面の周期性疵を検出する周期性疵検出方法において、
記憶された撮像画像から所定長の画像を切り出してパターンマッチングにより周期性疵の周期Lrを求め、
前記周期Lrを基にした複数の所定のピッチ(長さ)Ltで、記憶された撮像画像を長手方向に分割して切り出して、複数パターンの画像の組Ptを生成し、
前記画像の組Ptそれぞれについて、切り出した画像の輝度値を加算して合成画像を生成し、
前記画像の組Ptそれぞれの合成画像のうち最大の分散値を与える合成画像を基にして、疵の周期性や周期性疵を検出することを特徴とする帯状体や柱状体の周期性疵検出方法。

【請求項2】
移動する帯状体や柱状体の表面を連続的に撮像して撮像画像を記憶装置に記憶させ、記憶された撮像画像を画像処理して、該帯状体や柱状体の表面の周期性疵を検出する周期性疵検出装置において、
移動する帯状体や柱状体の表面を連続的に撮像する撮像手段と、
撮像装置により撮像された画像を記憶する手段と、
記憶された撮像画像から所定長の画像を切り出してパターンマッチングにより周期性疵の周期Lrを求める基準周期疵検出手段と、
前記周期Lrを基にした複数の所定のピッチ(長さ)Ltで、記憶された撮像画像を長手方向に分割して切り出して、複数パターンの画像の組Ptを生成する複数パターン作成手段と、
前記画像の組Ptそれぞれについて、切り出した画像の輝度値を加算して合成画像を生成する合成画像生成手段と、
前記画像の組Ptそれぞれの合成画像のうち最大の分散値を与える合成画像を選択する画像選択手段と、
前記最大の分散値を与える合成画像を基にして、疵の周期性や周期性疵を検出する主周期疵検出手段とを有することを特徴とする帯状体や柱状体の周期性疵検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−278757(P2007−278757A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103217(P2006−103217)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】