説明

帯電防止チューブ

【課題】 従来よりも帯電防止効果を発揮させ易い帯電防止チューブを提供する。
【解決手段】 電気絶縁性の合成樹脂チューブの表面に導電性樹脂を被覆して被膜を形成した。導電性樹脂をチューブ表面に被覆して被膜を形成したことにより帯電した静電気は表面(チューブ内周面、若しくはチューブ外周面、又はチューブ内周面と外周面の両面)の被膜を通じて移動することができ、カーボンブラックなどの帯電防止剤をチューブの肉厚全体にわたって分散させる場合と比較して導電性樹脂の被膜は薄くても導電効率に優れる。また、被膜厚を薄くすることで透明性がより高いものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工場設備その他で使用される各種配管用の帯電防止チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、工場設備その他で各種配管用に合成樹脂製のチューブが使用されている。
【0003】
合成樹脂製のチューブは一般的に電気絶縁性であって(体積固有抵抗1011〜1017Ωcm)静電気を発生し易い性質があり、帯電すると埃が付着し易くまたスパークが発生することもあり得る。
【0004】
よって、前記合成樹脂製チューブに帯電防止性を発現させるため、カーボンブラック(例えば、非特許文献1参照)などの導電性の帯電防止剤を原料樹脂に練り込んで成型することによりチューブ内部に分散させたものがある。
【0005】
しかしこの場合、帯電防止効果を得るためには10〜10Ωcmの体積固有抵抗が必要とされかなりの量の帯電防止剤を分散させなければならず、なかなか十分な帯電防止効果を発揮させ難いという問題があった。
【非特許文献1】平凡社 大百科事典、1984年11月2日初版発行、第3巻p.611
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこでこの発明は、従来よりも帯電防止効果を発揮させ易い帯電防止チューブを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためこの発明では次のような技術的手段を講じている。
【0008】
(1)この発明の帯電防止チューブは、電気絶縁性の合成樹脂チューブの表面に導電性樹脂を被覆して被膜を形成したことを特徴とする。前記合成樹脂チューブは、単層構造であっても多層構造であってもよい。
【0009】
この帯電防止チューブは、導電性樹脂をチューブ表面に被覆して被膜を形成したことにより帯電した静電気は表面(チューブ内周面、若しくはチューブ外周面、又はチューブ内周面と外周面の両面)の被膜を通じて移動することができ、カーボンブラックなどの帯電防止剤をチューブの肉厚全体にわたって分散させる場合と比較して導電性樹脂の被膜は薄くても導電効率に優れる。また、被膜厚を薄くすることで透明性がより高いものとすることができる。
【0010】
ここで、前記導電性樹脂として、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン、ポリナフタレン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチオナフテンなどを例示することができる。
【0011】
前記の導電性樹脂には必要に応じて各種ドープ材を添加することができ、また必要に応じて前処理を行うことができる。
【0012】
(2) 前記導電性樹脂をチューブ内周面とチューブ外周面との一方のみに被覆し、チューブ内周面とチューブ外周面のうち片面が帯電防止性を有し他面が電気絶縁性を有するようにしたこととしてもよい。
【0013】
このように構成し、内周面帯電防止又は外周面帯電防止のように片側面だけの帯電防止を図ると、例えば引火性気体雰囲気中での配管等のような特殊な用途にも好適に適用することができる。
【0014】
(3) 前記導電性樹脂をチューブ内周面のみに被覆したこととしてもよい。
【0015】
このように構成し、流体接触面であるチューブ内周面のみに帯電防止性を付与し、外周面は電気絶縁性とすると、流体との間で発生する静電気を効率的に除去することができると共にチューブ材から流体中への不純物の溶出をガードすることができる。
【0016】
(4) 前記導電性樹脂をチューブ外周面のみに被覆したこととしてもよい。
【0017】
このように構成し、取り扱い面であるチューブ外周面のみに帯電防止性を付与し、内周面は電気絶縁性とすると、導電性の流体を移送する際に外周面の埃が付着を抑制することができると共にチューブ材からのアウトガスの抑制も図ることができる。
【0018】
(5) 前記導電性樹脂をチューブ内周面及びチューブ外周面の両方に被覆したこととしてもよい。
このように構成し、流体接触面であるチューブ内周面及び取り扱い面であるチューブ外周面の両方に帯電防止性を付与すると、内周面は帯電防止、外周面は埃の付着の防止を図ると共に両方の導電性を必要に応じて異ならしめることができる。
【0019】
(6) 前記導電性樹脂の表面抵抗率を10〜1012Ω/sqに設定したこととしてもよい。被膜の表面抵抗率が10(Ω/sq)であると導電性であってアースが不要であり、10〜10(Ω/sq)であると静電気拡散性であってアースが必要であり、10〜1014(Ω/sq)であると電気絶縁性であるが、導電性樹脂樹脂の厚みを変えることにより所望の電気特性を発現させることができ、このうち10〜1012Ω/sqの範囲に設定すると様々な表面抵抗率が要求される部位に対応することができるという利点がある。
【0020】
(7) 前記導電性樹脂の被膜の厚みを0.1〜300μmに設定したこととしてもよい。
導電性樹脂の被膜の厚み(膜厚)を制御することにより表面抵抗率を調整して帯電防止性能を変化させることができるが、厚みを0.1〜300μmに設定すると同じ導電性樹脂を用いても用途に応じた所望の表面抵抗率に設定することができる。
【0021】
(8) 前記合成樹脂チューブの材質をポリアミド樹脂又はエラストマーとしたこととしてもよい。
【0022】
このように構成すると、ポリアミド樹脂又はエラストマー中の可塑剤の流出やアウトガスの問題で使用できなかったクリーン分野への展開が可能となり、ポリアミド樹脂又はエラストマーの特性を生かしたより高耐圧で透明性を有するチューブの提供が可能となる。
【0023】
(9) 前記合成樹脂チューブの材質をポリオレフィン樹脂又はエラストマーとしたこととしてもよい。
このように構成すると、柔軟で透明という特性を生かしてクリーン分野への適用の拡大を図ることができる。前記ポリオレフィン樹脂として具体的にポリプロピレンやポリエチレンなどを例示することができる。
【0024】
(10) 前記合成樹脂チューブの材質をポリウレタン樹脂又はエラストマーとしたこととしてもよい。
このように構成すると、被覆することによりポリウレタン樹脂又はエラストマーからのアウトガスや溶出物が抑えられ、より柔軟で透明性が高いチューブが得られる。
【0025】
(11) 前記合成樹脂チューブの材質をフッ素樹脂としたこととしてもよい。
このように構成すると、フッ素樹脂のクリーンな特性を生かしつつ帯電防止を図ることができる。
【0026】
(12)前記合成樹脂チューブの材質をポリエステルエラストマーとしたこととしてもよい。
このように構成すると、被覆することによりポリエステル樹脂又はエラストマーからのアウトガスや溶出が抑えられ高温性に優れるチューブが得られる。
【発明の効果】
【0027】
この発明は上述のような構成であり、次の効果を有する。
【0028】
カーボンブラックなどの帯電防止剤をチューブの肉厚全体にわたって分散させる場合と比較して導電性樹脂の被膜は薄くても導電効率に優れるので、従来よりも帯電防止効果を発揮させ易い帯電防止チューブを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
【0030】
この実施形態の帯電防止チューブは、電気絶縁性の合成樹脂チューブの表面に導電性樹脂を被覆して被膜を形成している。前記導電性樹脂として、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフェニルアセチレン、ポリジアセチレン、ポリナフタレン、ポリチエニレンビニレン、ポリアズレン、ポリイソチオナフテンなどを例示することができる。
【0031】
前記合成樹脂チューブの材質をポリアミド樹脂又はエラストマーとすると、ポリアミド樹脂又はエラストマー中の可塑剤の流出やアウトガスの問題で使用できなかったクリーン分野への展開が可能となり、ポリアミド樹脂又はエラストマーの特性を生かしたより高耐圧で透明性を有するチューブの提供が可能となるという利点があった。前記合成樹脂チューブの材質をポリオレフィン樹脂又はエラストマーとすると、柔軟で透明という特性を生かしてクリーン分野への適用の拡大を図ることができるという利点があった。前記ポリオレフィン樹脂として具体的にポリプロピレンやポリエチレンなどを例示することができる。前記合成樹脂チューブの材質をポリウレタン樹脂又はエラストマーとすると、被覆することによりポリウレタン樹脂又はエラストマーからのアウトガスや溶出物が抑えられ、より柔軟で透明性が高いチューブが得られるという利点があった。前記合成樹脂チューブの材質をフッ素樹脂とすると、フッ素樹脂のクリーンな特性を生かしつつ帯電防止を図ることができるという利点があった。なお、密着性の差異はあるが、チューブ母材の材質に関係なく被覆され帯電防止性能が発現された。
【0032】
また、前記導電性樹脂をチューブ内周面とチューブ外周面との一方のみに被覆し、チューブ内周面とチューブ外周面のうち片面が帯電防止性を有し他面が電気絶縁性を有するようにすることができる。前記導電性樹脂は、チューブ内周面のみに被覆してもよい。前記導電性樹脂は、チューブ外周面のみに被覆してもよい。前記導電性樹脂は、チューブ内周面及びチューブ外周面の両方に被覆してもよい。
【0033】
前記導電性樹脂の表面抵抗率は、10〜1012Ω/sqに設定してもよい。被膜の表面抵抗率が10(Ω/sq)であると導電性であってアースが不要であり、10〜10(Ω/sq)であると静電気拡散性であってアースが必要であり、10〜1014(Ω/sq)であると電気絶縁性であるが、導電性樹脂樹脂の厚みを変えることにより所望の電気特性を発現させることができ、このうち10〜1012Ω/sqの範囲に設定すると様々な表面抵抗率が要求される部位に対応することができるという利点がある。
【0034】
前記導電性樹脂の被膜の厚みは、0.1〜300μmに設定してもよい。導電性樹脂の被膜の厚み(膜厚)を制御することにより表面抵抗率を調整して帯電防止性能を変化させることができるが、厚みを0.1〜300μmに設定すると同じ導電性樹脂を用いても用途に応じた所望の表面抵抗率に設定することができるという利点がある。
【0035】
次に、この実施形態の帯電防止チューブの使用状態を説明する。
【0036】
この帯電防止チューブは、導電性樹脂をチューブ表面に被覆して被膜を形成したことにより帯電した静電気は表面(チューブ内周面、若しくはチューブ外周面、又はチューブ内周面と外周面の両面)の被膜を通じて移動することができ、カーボンブラックなどの帯電防止剤をチューブの肉厚全体にわたって分散させる場合と比較して導電性樹脂の被膜は薄くても導電効率に優れ、従来よりも帯電防止効果を発揮させ易いという利点がある。すなわち、導電性樹脂を被覆すると練り込みの場合のようなチューブの厚みの影響を受けない。
【0037】
また、前記導電性樹脂をチューブ内周面とチューブ外周面との一方のみに被覆し、チューブ内周面とチューブ外周面のうち片面が帯電防止性を有し他面が電気絶縁性を有するようにし、内周面帯電防止又は外周面帯電防止のように片側面だけの帯電防止を図ると、例えば引火性気体雰囲気中での配管等のような特殊な用途にも好適に適用することができるという利点がある。
【0038】
前記導電性樹脂をチューブ内周面のみに被覆し、流体接触面であるチューブ内周面のみに帯電防止性を付与し、外周面は電気絶縁性とすると、流体との間で発生する静電気を効率的に除去することができると共にチューブ材から流体中への不純物の溶出をガードすることができるという利点がある。
【0039】
前記導電性樹脂をチューブ外周面のみに被覆し、取り扱い面であるチューブ外周面のみに帯電防止性を付与し、内周面は電気絶縁性とすると、導電性の流体を移送する際に外周面の埃が付着を抑制することができると共にチューブ材からのアウトガスの抑制も図ることができるという利点がある。
【0040】
前記導電性樹脂をチューブ内周面及びチューブ外周面の両方に被覆し、流体接触面であるチューブ内周面及び取り扱い面であるチューブ外周面の両方に帯電防止性を付与すると、内周面は帯電防止、外周面は埃の付着の防止を図ると共に両方の導電性を必要に応じて異ならしめることができるという利点がある。
【実施例】
【0041】
次の電気絶縁性の合成樹脂チューブの表面(外周面のみ)に導電性樹脂(ポリピロール樹脂)を被覆して被膜を形成し、帯電防止チューブを得た。
(1)外径×内径が8mm×6mmのフッ素樹脂(PFA)チューブ。
(2)外径×内径が8mm×6mmのオレフィン(ポリプロピレン)樹脂チューブ。
(3)外径×内径が8mm×5mmのウレタン樹脂チューブ。
【0042】
そして、それぞれの導電性樹脂の膜厚と表面抵抗率とを測定した。なお、前記表面抵抗率は以下のようにして測定した。
【0043】
すなわち、チューブの両端を黄銅電極で把持し抵抗値を測定した。測定器はアドバンテスト株式会社「デジタル超抵抗計R8340」であり、印加電圧500V、印加時間1分である。そして、この測定値を次式によって表面抵抗率に換算した。
【0044】
表面抵抗率(Ω)=測定抵抗値(Ω)×(チューブ内径×3.14)/(チューブサンプル長さ−電極挿入長さ)
【0045】
(1)フッ素樹脂(PFA)チューブの外周面に被覆されたポリピロール樹脂の厚みは0.0095mmであり、表面抵抗率は1.25×10Ω/sq(被覆前は1×1014Ω/sq)であった。
【0046】
(2)オレフィン(ポリプロピレン)樹脂チューブの外周面に被覆されたポリピロール樹脂の厚みは0.060mmであり、表面抵抗率は6.12×10Ω/sq(被覆前は1×1014Ω/sq)であった。
【0047】
(3)ウレタン樹脂チューブの外周面に被覆されたポリピロール樹脂の厚みは0.012mmであり、表面抵抗率は9.5×10Ω/sq(被覆前は1×1014Ω/sq)であった。
【0048】
前記各チューブについて、ポリピロールの被覆膜厚(mm)と表面抵抗率(Ω/sq)との関係を図1のグラフに示す。なお、グラフ中「1.E+5」は「1×10」を示す。このグラフに示されるように、ポリピロール樹脂の被覆厚み(膜厚)によりチューブの表面抵抗率を調整することが可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
カーボンブラックなどの帯電防止剤をチューブの肉厚全体にわたって分散させる場合と比較して導電性樹脂の被膜は薄くても導電効率に優れ、従来よりも帯電防止効果を発揮させ易いことによって、種々の帯電防止チューブの用途に適用することができる。また、電気絶縁性の樹脂性継手についてその表面に導電性樹脂を被覆して被膜を形成するという展開も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】ポリピロール樹脂(導電性樹脂)の膜厚と表面抵抗率との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性の合成樹脂チューブの表面に導電性樹脂を被覆して被膜を形成したことを特徴とする帯電防止チューブ。
【請求項2】
前記導電性樹脂をチューブ内周面とチューブ外周面との一方のみに被覆し、チューブ内周面とチューブ外周面のうち片面が帯電防止性を有し他面が電気絶縁性を有するようにした請求項1記載の帯電防止チューブ。
【請求項3】
前記導電性樹脂をチューブ内周面のみに被覆した請求項2記載の帯電防止チューブ。
【請求項4】
前記導電性樹脂をチューブ外周面のみに被覆した請求項2記載の帯電防止チューブ。
【請求項5】
前記導電性樹脂をチューブ内周面及びチューブ外周面の両方に被覆した請求項2記載の帯電防止チューブ。
【請求項6】
前記導電性樹脂の表面抵抗率を10〜1012Ω/sqに設定した請求項1乃至5のいずれかに記載の帯電防止チューブ。
【請求項7】
前記導電性樹脂の被膜の厚みを0.1〜300μmに設定した請求項1乃至6のいずれかに記載の帯電防止チューブ。
【請求項8】
前記合成樹脂チューブの材質をポリアミド樹脂又はエラストマーとした請求項1乃至7のいずれかに記載の帯電防止チューブ。
【請求項9】
前記合成樹脂チューブの材質をポリオレフィン樹脂又はエラストマーとした請求項1乃至7のいずれかに記載の帯電防止チューブ。
【請求項10】
前記合成樹脂チューブの材質をポリウレタン樹脂又はエラストマーとした請求項1乃至7のいずれかに記載の帯電防止チューブ。
【請求項11】
前記合成樹脂チューブの材質をフッ素樹脂とした請求項1乃至7のいずれかに記載の帯電防止チューブ。
【請求項12】
前記合成樹脂チューブの材質をポリエステルエラストマーとした請求項1乃至7のいずれかに記載の帯電防止チューブ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−322576(P2006−322576A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147734(P2005−147734)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000247258)ニッタ・ムアー株式会社 (61)
【Fターム(参考)】