説明

帰還型発振装置

【課題】設計および製造が容易で、装置のサイズが小さい帰還型発振装置を提供すること。
【解決手段】帰還型発振装置1において、入力端子から入力された信号を増幅して出力端子から出力するバイポーラトランジスタ10と、マイクロストリップラインによって構成され、バイポーラトランジスタの出力端子と入力端子とを結合して出力端子から入力端子に所定の周波数の信号を帰還してバイポーラトランジスタを発振させる結合回路15と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帰還型発振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電界効果トランジスタのゲート端子にマイクロストリップラインを介して誘電体共振器を結合させた発振装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−42010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載された技術では、誘電体共振器を動作させるためには、誘電体共振器をシールドケース(キャビティ)によってシールドする必要がある。誘電体共振器自体のサイズもある程度大きいことから、このような誘電体共振器とシールドケースは基板上の大きなスペースを占有するため、回路規模が大きくなるという問題点がある。
【0005】
また、特許文献1に記載された発振装置の発振周波数は、前述したシールドケースの形状、誘電体共振器の形状、電界効果トランジスタに流す電流、誘電体共振器とマイクロストリップラインとの結合度等によって変化することから、調整のパラメータが非常に多く、また、個々の部品のバラツキも大きいため、設計および製造に時間と労力を要するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は設計および製造が容易で、装置のサイズが小さい帰還型発振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、帰還型発振装置において、入力端子から入力された信号を増幅して出力端子から出力するバイポーラトランジスタと、マイクロストリップラインによって構成され、前記バイポーラトランジスタの前記出力端子と前記入力端子とを結合して前記出力端子から前記入力端子に所定の周波数の信号を帰還して前記バイポーラトランジスタを発振させる結合回路と、を有することを特徴とする。
このような構成によれば、設計および製造が容易で、装置のサイズが小さい帰還型発振装置を提供することができる。
【0008】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記出力端子および前記入力端子は前記バイポーラトランジスタのそれぞれコレクタ端子およびベース端子であり、前記結合回路は前記コレクタ端子および前記ベース端子をマイクロストリップラインによって結合し、前記コレクタ端子から前記ベース端子へ前記所定の周波数の信号を帰還することを特徴とする。
このような構成によれば、熱雑音が少なく、また、位相雑音特性が良好な帰還型発振装置を提供することができる。
【0009】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記結合回路に接続され、印加される電圧に応じて前記結合回路が有する容量成分を変化させることで前記発振周波数を調整するバラクタダイオードを有することを特徴とする。
このような構成によれば、発振周波数を容易かつ広帯域に調整することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、設計および製造が容易で、装置のサイズが小さい帰還型発振装置を提供することが可能となる。また、機構的な制約がほとんど無い回路規模が小さく省スペース化にて構成可能である事は勿論の事、回路構成が自己完結している帰還型発振回路は、特に位相同期をする必要が無い車載レーダ等に用いた場合には有効的である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る帰還型発振装置の構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
(A)実施形態の構成の説明
図1は、本発明の実施形態に係る帰還型発振装置の構成例を示す回路図である。この図1に示すように、帰還型発振装置1は、バイポーラトランジスタ10、抵抗素子11〜13、キャパシタ素子14、結合回路15、および、バラクタダイオード16を有している。
【0014】
ここで、バイポーラトランジスタ10は、コレクタ端子が電源Vc、抵抗素子11の一端、および、結合回路15の端子Cに接続され、ベース端子が結合回路15の端子A、抵抗素子11の他端、および、抵抗素子12の一端に接続され、エミッタ端子が抵抗素子13およびキャパシタ素子14の一端に接続されている。抵抗素子11は一端がコレクタ端子、電源Vc、および、結合回路15の端子Cに接続され、他端がバイポーラトランジスタ10のベース端子、結合回路15の端子A、および、抵抗素子12の一端に接続されている。抵抗素子12は一端がバイポーラトランジスタ10のベース端子、抵抗素子11の他端、および、結合回路15の端子Aに接続され、他端が接地されている。抵抗素子13は一端がバイポーラトランジスタ10のエミッタ端子およびキャパシタ素子14の一端に接続され、他端が接地されている。キャパシタ素子14は一端がバイポーラトランジスタ10のエミッタ端子および抵抗素子13の一端に接続され、他端が接地されている。なお、抵抗素子11〜13は、電流帰還バイアス回路を構成し、抵抗素子11,12によって電源Vcが分圧された電圧がベース端子に印加され、抵抗素子13はエミッタ端子に流れる電流に応じた電圧を生じ、負帰還動作を行う。キャパシタ素子14は、交流成分に対するバイパスコンデンサとして機能する。
【0015】
結合回路15は、マイクロストリップラインによって構成される結合回路であり、例えば、ウィルキンソン型、ブランチライン型、分布結合型、または、ラットレース型結合回路によって構成される。ここで、結合回路15の端子Aはバイポーラトランジスタ10のベース端子、抵抗素子11の他端、および、抵抗素子12の一端に接続され、端子Bは出力端子とされ、端子Cはバイポーラトランジスタ10のコレクタ端子、電源Vc、および、抵抗素子11の一端に接続され、端子Dはバラクタダイオード16のカソード端子および電源Vfに接続されている。結合回路15は、端子Cから端子Aへ発振周波数の信号を選択的に通過するように、これらの間で誘導性および容量性の結合を行っている。これにより、バイポーラトランジスタ10のコレクタ端子からベース端子に向けて、発振周波数の信号を帰還させて発振を励起および持続する。端子Bは、端子Cに印加された信号の一部を出力する。端子Dは、端子Cと端子Aの間の容量性の結合に対して、バラクタダイオード16が有する容量成分を追加的に結合させることにより、端子Cと端子Aの間の容量成分を変化させ、発振周波数を調整する。
【0016】
バラクタダイオード(Varactor Diode)16は、カソード端子に印加される電圧Vfによってその静電容量が変化するダイオードであり、アノード端子が接地され、カソード端子が電源Vfおよび結合回路15の端子Dに接続されている。
【0017】
電源Vcは、バイポーラトランジスタに対して電源電圧を供給する。電源Vfは、バラクタダイオード16に電圧を印加し、その容量を変化させることにより、発振周波数を変更する。
【0018】
(B)実施形態の構成の説明
つぎに、図1に示す実施形態の動作について説明する。電源Vcの供給が開始されると、電流帰還回路を構成する抵抗素子11〜13に電圧が印加され、バイポーラトランジスタ10に対してバイアス電圧が供給されてバイポーラトランジスタ10が動作可能の状態になる。
【0019】
バイポーラトランジスタ10が動作可能の状態になると、コレクタ端子には、ノイズ成分を含む信号(例えば、ホワイトノイズ成分)が出力される。このコレクタ端子に現れた信号は、結合回路15の端子Cに印加される。結合回路15は、端子Cに印加された信号のうち、発振周波数に対応する信号を選択的に端子Aに出力するので、コレクタ端子からベース端子に対して信号が帰還される。このとき、帰還される信号は、所定の周波数において入力信号と同位相となるように帰還(正帰還)がなされるので、バイポーラトランジスタ10はこの周波数において発振が励起される。そして、コレクタ端子から出力された発振信号は、結合回路15の端子Bを介して取り出すことができる。なお、発振周波数は、結合回路15の端子Cと端子Aの間の結合に係るパラメータ、すなわち、容量性および誘導性のパラメータによって決定される。これらのパラメータは、結合回路15を構成するマイクロストリップラインの物理的な長さ、幅、距離等によって一意に定まるので、発振周波数の安定性が高い。また、設計時には結合回路15を構成するマイクロストリップラインの物理的な長さ、幅、距離等を計算することで、所望の周波数を得ることができるので、設計を容易に行うことができる。
【0020】
なお、電源Vfの電圧を調整することにより、バラクタダイオード16の容量を変化させ、結合回路15の端子Cと端子Aの間の結合に係るパラメータのうち、容量性のパラメータを変化させることで、発振周波数を調整することができる。
【0021】
以上に説明したように、本実施形態では、マイクロストリップラインによる結合回路15を用いて発振装置を構成するようにしたので、誘電体共振器を使用する場合に比較して、結合回路15自体のサイズが誘電体共振器に比較して小さく、また、シールドケース等を使用しなくてもよいので、回路のサイズを縮小するとともに、構造を簡略化することができる。
【0022】
また、結合回路15は、マイクロストリップラインを用いて構成していることから、マイクロストリップラインの物理的な長さ、幅、距離等を調整することにより、発振周波数およびQ値を設定できることから、設計を容易に行うことができる。また、これらのパラメータは、温度等による変化が少ないことから、安定した発振状態を得ることができる。さらに、マイクロストリップラインは、エッチングによって形成することができ、その加工精度は一般に高いことから、発振周波数を精度よく設定することができる。
【0023】
また、以上の実施形態では、増幅素子としてバイポーラトランジスタ10を用いていることから、例えば、GaAs等の増幅素子を用いる場合に比較して、熱雑音を低減することができ、また、これによって位相雑音特性を改善することができる。また、例えば、FET(Field Effect Transistor)やHEMT(High Electron Mobility Transistor)を用いる場合には、ゲート端子にマイナス電源を印加する必要があるので、正負2系統の電源が必要になるが、バイポーラトランジスタを用いる場合には1系統の電源だけでよいので、電源を簡略化することで回路構成を簡略化することができる。
【0024】
また、以上の実施形態では、誘電体共振器およびシールドケースを使用する必要がなく、また、高い周波数での安定した発振が可能となることから、特に、携帯無線通信装置や車載レーダなど小型化の望まれる装置に使用する場合に好適である。
【0025】
(D)変形実施形態の説明
以上の実施形態は一例であって、本発明が上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、以上の実施形態では、バラクタダイオード16を付加して発振周波数を調整可能としたが、バラクタダイオード16は除外するようにしてもよい。その場合、電源Vfおよび結合回路15の端子Dは除外することができる。
【0026】
また、以上の実施形態では、バイポーラトランジスタ10のバイアス回路としては、電流帰還バイアス回路を用いるようにしたが、これ以外にも、例えば、固定バイアス回路または自己バイアス回路を用いることも可能である。
【0027】
また、以上の実施形態では、バイポーラトランジスタ10としてNPN型のトランジスタを用いているが、高周波用としてはキャリアの移動度の大きなNPN型が用いられる。
【符号の説明】
【0028】
1 帰還型発振装置
10 バイポーラトランジスタ
11〜13 抵抗素子
14 キャパシタ素子
15 結合回路
16 バラクタダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帰還型発振装置において、
入力端子から入力された信号を増幅して出力端子から出力するバイポーラトランジスタと、
マイクロストリップラインによって構成され、前記バイポーラトランジスタの前記出力端子と前記入力端子とを結合して前記出力端子から前記入力端子に所定の周波数の信号を帰還して前記バイポーラトランジスタを発振させる結合回路と、
を有することを特徴とする帰還型発振装置。
【請求項2】
前記出力端子および前記入力端子は前記バイポーラトランジスタのそれぞれコレクタ端子およびベース端子であり、
前記結合回路は前記コレクタ端子および前記ベース端子をマイクロストリップラインによって結合し、前記コレクタ端子から前記ベース端子へ前記所定の周波数の信号を帰還する、
ことを特徴とする請求項1記載の帰還型発振装置。
【請求項3】
前記結合回路に接続され、印加される電圧に応じて前記結合回路が有する容量成分を変化させることで前記発振周波数を調整するバラクタダイオードを有することを特徴とする請求項1または2に記載の帰還型発振装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−213089(P2012−213089A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78307(P2011−78307)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】