説明

平版印刷版材料の画像修正方法、印刷機

【課題】画像の修正を容易にしかも精度よく、更に非接触での修正が可能となる平版印刷版材料の画像修正方法、及び該画像修正方法を可能にする印刷機を提供する。
【解決手段】非感脂性表面に感脂性画像を有する平版印刷版上の特定の感脂性画像領域を選択的に非感脂化するための修正液をインクジェット方式により供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平版印刷版材料(以下、単に印刷版材料ともいう)の画像修正方法、特にコンピューター・トゥー・プレート(CTP)方式により画像形成が可能な平版印刷版材料の画像修正方法、及び該画像修正方法を可能にする印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、印刷の分野においては、印刷画像データのデジタル化に伴い、CTP方式による印刷が行われるようになってきているが、この印刷においては安価で取り扱いが容易で、従来の所謂PS版と同等の印刷適性を有するCTP方式用印刷版材料が求められている。
【0003】
特に近年、特別な薬剤(例えば、アルカリ、酸、溶媒)を含む処理液による現像処理を必要とせず、従来の印刷機に適用可能である印刷版材料が求められており、例えば、全く現像処理を必要としない相変化タイプの印刷版材料、水もしくは水を主体とした実質的に中性の処理液で処理をする印刷版材料、印刷機上で印刷の初期段階で現像処理を行い、特に現像工程を必要としない印刷版材料などのケミカルフリータイプ印刷版材料やプロセスレスタイプ印刷版材料と呼ばれる印刷版材料が知られている。
【0004】
プロセスレスタイプの印刷版材料の画像形成に主として用いられるのは、近赤外〜赤外線の波長を有するサーマルレーザー記録方式であり、この方式で画像形成可能なサーマルプロセスレスプレートには、大きく分けてアブレーションタイプと熱融着画像層機上現像タイプ、及び相変化タイプが知られているが、露光時のアブレーションによる画像部の飛散での汚染がないこと、精細な画像が得られることなどから熱融着画像層機上現像タイプ(例えば、特許文献1、2参照。)が比較的有利に用いられる。
【0005】
しかしながら、このようなプロセスレスの印刷版材料は、印刷機内の印刷版胴においてレーザー等で画像露光を経た後、印刷版材料の非画像領域の画像形成層を印刷インキ、湿し水を介して除去することにより印刷可能になるが、容易に除去しやすいように極力薄膜化されることが一般的であり、そのため印刷版材料の製造時や搬送時、製版時に表面が擦られることにより不慮の擦過傷が発生しやすく、この傷による汚れが発生したり、印刷物上の画像再現不良を招く場合があった。
【0006】
また、上記以外のプロセスレスCTPプレートとして、親水性を有するアルミニウム基材の表面にインクジェット方式で画像を記録して製版する、GLUNZ&JENSEN社のPlate Writer4200などが知られている。このシステムは、親水性を有する陽極酸化されたアルミニウム砂目表面にインクジェットのインクにより画像を形成し、インク付着部分に印刷インキが付着できるように製版する方式である。
【0007】
この場合、製版工程において、従来のような現像液による処理が不要となり、コストや時間を軽減すると同時に廃液など環境への負荷を低減でき、更に画像形成前の砂目に圧力が加わった場合もこれによる印刷時の汚れが発生する可能性は低い。
【0008】
しかしながら、画像形成においてインクジェット方式は網点がインクジェット液滴の集合体で表現されるため、上記の熱融着画像層機上現像タイプの印刷版材料を用いるサーマルレーザー記録方式で製版する方法などと比較すると、網点の解像度や鮮鋭性が不十分であり、微細な文字や線画等を必要とする高精細印刷用には適していなかった。
【0009】
また、平版印刷版材料を用いた製版工程、検版工程、印刷工程において、版面の画像を修正するために、画像を選択的に非感脂化する消去ペンを用いられることがある。
【0010】
この場合、ペン型先端に消去成分を有する部材を消去部に接触させて、感脂性の画像を非感脂化するため、画像部成分がペン先に移行することで汚染されることがある。この汚れにより、その次の消去工程で非感脂化したい画像領域に更に移行することで、印刷物に不要な汚れが生じたりする場合があった。また、フェルト等からなるペン先を接触させて擦ることで画像の消去が行われるためペン先が徐々に太くなったり、手での修正のため細かな文字や複雑な画像の消去を行うことが困難であった。
【特許文献1】特開平9−123387号公報
【特許文献2】特開2003−231374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、画像の修正を容易にしかも精度よく、更に非接触での修正が可能となる平版印刷版材料の画像修正方法、及び該画像修正方法を可能にする印刷機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
【0013】
1.非感脂性表面に感脂性画像を有する平版印刷版上の特定の感脂性画像領域を選択的に非感脂化するための修正液をインクジェット方式により供給することを特徴とする平版印刷版材料の画像修正方法。
【0014】
2.前記非感脂性表面が支持体上の親水性層であることを特徴とする前記1に記載の平版印刷版材料の画像修正方法。
【0015】
3.前記特定の感脂性画像領域を選択的に非感脂化するための位置情報が記録される画像情報に基づき決定されることを特徴とする前記1または2に記載の平版印刷版材料の画像修正方法。
【0016】
4.非感脂性表面に感脂性画像を有する平版印刷版材料の印刷機であって、特定の感脂性画像領域を読み取る位置情報読取装置(スキャナ)と該特定の感脂性画像領域を非感脂化するための液体をインクジェット方式により供給する装置とを有することを特徴とする平版印刷版材料の印刷機。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、画像の修正を容易にしかも精度よく、更に非接触での修正が可能となる平版印刷版材料の画像修正方法、及び該画像修正方法を可能にする印刷機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明は、非感脂性表面を有する平版印刷版材料から露光、現像されて得られる平版印刷版において、汚れ等の不必要な特定の感脂性画像領域を選択的に非感脂化するための修正液をインクジェット方式により供給することを特徴とする。ここで、非感脂性表面は砂目立てしたアルミニウム支持体そのもの、あるいは支持体上の親水性層であってもよいが、好ましくは支持体上の親水性層である。また、不必要な感脂性画像領域は記録される画像情報、または位置情報読取装置(スキャナ)から特定することができる。前者の場合は、記録画像データに修正が必要な場合に同一データに基づいた消去手段を用いることで精度の高い修正が可能であり、後者の場合は、印刷版面に不規則に発生した汚れや傷に基づく要修正領域の位置を正確に決定することができる。
【0020】
本発明によって、特に高精細印刷物の修正に関して、従来の画像消去ペンなどによる修正作業をインクジェット方式にすることでより精度の高い修正(IJヘッドの解像度レベル)が可能となる。また、印刷機にスキャナと消去用インクジェットユニットを搭載することで、印刷開始後でも印刷の過程で生じた傷や印刷開始後に気付いた修正点を容易に精度良く、画像の修正が可能となる。また、消去液を非接触で付与できるため感脂性物質が非感脂性領域に拡がることを抑制でき、更には消去のための部材の接触面(ペン先等)の汚染がない。
【0021】
《修正液》
本発明における画像修正は、修正液を不必要な感脂性画像領域に供給して、かかる不必要な感脂性画像領域を非感脂性表面から除去、もしくは非感脂性成分で被覆することで行われる。本発明に好ましく用いられる修正液は特に限定はないが、例えば、後述の平版印刷版の親水性層を再構成するようなものが好ましく、特に塗布性、乾燥性、硬膜性を考慮すると、ゾルゲル反応性を有する有機溶剤で分散されたオルガノシリカゾル、アルコキシシラン、少なくとも1種の親水性樹脂を含有するものが好ましい。
【0022】
(アルコキシシラン)
本発明におけるアルコキシシランは、ゾルゲル法により含水酸化物ゾルを脱水処理してゲルとし、このゲルを画像部上の皮膜として形成することができるものをいう。アルコキシシランとしては、Si(OCH34、Si(OC254、Si(OC374、Si(OC494が挙げられる。これらは安価で入手しやすく、それから得られる金属酸化物の被覆層の親水性に優れており特に好ましい。また、これらの珪素のアルコキシド化合物を部分加水分解して縮合したオリゴマーも好ましい。この例としては、約40質量%のSiO2を含有する平均5量体のエチルシリケートオリゴマーが挙げられる。
【0023】
また、その他にゾルゲル反応性を有する結合剤としては、シリカ以外の金属アルコキシド、アセチルアセトナト錯体、金属酢酸塩、金属蓚酸塩、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属炭酸塩、金属オキシ塩化物等を添加することができる。
【0024】
アルコキシシラン含有量は1〜50質量%であることが好ましく、特に好ましくは10〜40質量%の範囲である。含有量が1質量%よりも少ないとシラン反応の効果が出ず、膜が弱くなり、耐刷性が劣化し汚れが発生する。一方、50%より多いと未反応のアルコキシシランが残り親水性が不足し、フリンジ汚れが発生し、好ましくない。
【0025】
アルコキシシランのゾルゲル反応性を有する反応液とするために、触媒、水及び有機溶媒を含有させることが好ましい。触媒としては有機酸、無機酸またはアルカリが用いられる。その例としては、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、フッ素、リン酸、亜リン酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、フロロ酢酸、ブロモ酢酸、メトキシ酢酸、オキサロ酢酸、クエン酸、蓚酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、アスコルビン酸、安息香酸、3,4−ジメトキシ安息香酸のような置換安息香酸、フェノキシ酢酸、フタル酸、ピクリン酸、ニコチン酸、ピコリン酸、ピラジン、ピラゾール、ジピコリン酸、アジピン酸、p−トルイル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキセン−2,2−ジカルボン酸、エルカ酸、ラウリン酸、n−ウンデカン酸、アスコルビン酸などの有機酸、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカリが挙げられる。
【0026】
これらの触媒は単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。触媒はゾルゲル反応を有する結合剤(金属化合物)に対して0.001〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜5質量%の範囲である。触媒量がこの範囲より少ないとゾルゲル反応の開始が遅くなり、この範囲より多いと反応が急速に進み、不均一なゾルゲル粒子ができるため印刷中に修正部が脱落したり、汚れたりする。
【0027】
また、ゾルゲル反応を開始させるには適量の水を存在させることが好ましい。水の好ましい添加量は、ゾルゲル反応を有する結合剤(金属化合物)を完全に加水分解するのに必要な水の量の0.05〜50倍モルが好ましく、より好ましくは0.5〜30倍モルである。水の量がこの範囲より少ないと加水分解が進みにくく、この範囲より多いと原料が薄められるためか、やはり反応が進みにくくなる。
【0028】
有機溶媒はゾルゲル反応性を有する結合剤(金属化合物)を溶解し、反応で生じたゾルゲル粒子を溶解または分散するものであればよく、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類が用いられる。これらの溶媒の中で水と混合可能な低級アルコール類が好ましい。有機溶媒の含有量は、ゾルゲル反応性を有する結合剤に対して100〜5000質量%(1〜50倍)の範囲が好ましく、200〜2000質量%(1〜20倍)がより好ましい。
【0029】
(オルガノシリカゾル)
本発明に係るオルガノシリカゾルは表面に多くの水酸基を持ち、内部はシロキサン結合(−Si−O−Si−)を構成しており、表面水酸基によって粒子径1〜100nmのシリカ超微粒子が極性溶媒中に分散した状態で存在するもので、一般的にコロイダルシリカとも称されているものである。
【0030】
平均粒径は10〜50nmのものが好ましいが、より好ましい平均粒径は10〜40nmのものである。ここで、平均粒径における粒径とは金属酸化物微粒子の形状が球形のときはその直径、それ以外の場合は同体積の球に換算したときの直径である。また、形状は必ずしも球状である必要はなく、針状、羽毛状、棒状であっても構わない。
【0031】
他の親水性ゾル状無機粒子を混合してもよく、例えば、アルミナゾル、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウム、酸化チタンであり、親水性を助長したり、皮膜強度強化などに効果的である。より好ましくはアルミナゾル、アルギン酸カルシウムゾルまたはこれらの混合物である。
【0032】
オルガノシリカゾルの修正液中の含有量は30〜90質量%が好ましく、特に50〜80質量%がより好ましい。30質量%よりも含有量が低いと親水性が不足し、修正個所が汚れやすい。一方、90%よりも高いと造膜性が不足し、膜が脆くなり、耐刷性が劣化し、修正個所が汚れやすい。
【0033】
(親水性樹脂)
親水性樹脂としては、例えば、アラビアゴム、ポリビニルアルコール(PVA)類、デンプン及びその誘導体、カルボキシメチルセルローズ及びそのナトリウム塩やヒドロキシエチルセルローズあるいはセルロースアセテートのようなセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アルギン酸及びそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、ポリアクリル酸及びそれらの塩、ポリメタクリル酸及びそれらの塩、ポリ(エチレンオキシド)、水溶性ウレタン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシプロピルアクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ヒドロキシブチルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ポリエチレングリコールジアクリレート系ポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、ポリエチレングリコール類、ポリ(ヒドロキシプロピレン)類等の親水性樹脂が挙げられる。
【0034】
修正液中の親水性樹脂の含有量は0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%範囲がより好ましい。0.1質量%よりも含有量が少ないとシリカゾルとの接着性が不足し、耐刷性が劣化し、修正個所が汚れやすい。一方、30質量%よりも含有量が多いと、印刷中に湿し水によって樹脂が溶解または膨潤しやすくするため、膜が柔らかくなり、耐刷性が劣化し、修正個所が汚れやすい。
【0035】
(溶剤)
本発明に係る修正液は、画像形成層を溶解または膨潤する機能を有する溶剤を含んでもよい。この溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、上記のケトン類、アルコール類、エステル類等が挙げられ、また上記のインク溶剤がこの機能を有していてもよい。
【0036】
本発明に係る修正液には、粘度を調整するための粘度調節剤を含有させることができる。
【0037】
(粘度調節剤)
更に粘度調節剤としては、例えば、ケイ酸微粉末、シリカ粒子、ゼオライト等の無機粒子、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース・Na塩等の改質セルロース、アラビアガム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体等の高分子化合物が挙げられる。
【0038】
(その他)
本発明に係る修正液は、シリカ粒子を含むことが好ましい態様である。また、本発明に係る修正液は界面活性剤も含有できる。界面活性剤としては公知のものを利用でき、例えば、長脂肪酸塩、長鎖スルホン酸塩、長鎖リン酸塩などの長鎖脂肪族系、アセチレングリコール類、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤が利用できる。
【0039】
《修正》
本発明では、不必要な感脂性画像領域、即ち修正部位を精度良く修正するために、修正液を充填したインクジェットユニットで修正部位に供給する方法が用いられる。
【0040】
本発明の塗布された修正液の皮膜は、修正液の溶媒の乾燥により数秒〜2分程度で形成される。修正液の塗布量は、通常、乾燥後の皮膜の厚さとして好ましくは0.1〜5.0μmの範囲、より好ましくは0.3〜3.0μmである。0.1μmよりも薄いと親水性が不足し、修正個所が汚れやすい。一方、5μmよりも厚いと乾燥が遅くなり、有機溶媒が残留するため疎水性が強くなり、修正個所が汚れやすい。
【0041】
このようにして不要な感脂性画像領域が修正された平版印刷版は、通常の方法で印刷に供することができる。
【0042】
本発明においては、インクジェット方式の場合、デジタルの画像データに基づき、修正液を画像パターンに合わせて選択的に供給できる点で好ましい。
【0043】
修正液の平版印刷版への供給量は通常0.1〜150g/m2であり、好ましくは1〜70g/m2である。親油性成分を含む液の粘度としては、1mPa・s以上50mPa・s以下が好ましい。
【0044】
本発明における製版方法においては、予め高解像度である画像を作成しておくことで、親油性成分を含む液は特に高い解像度を必要とせず、安価なインクヘッドが使用可能であり、従来のインクジェット方式での画像形成に比べて、画像形成に要する時間を短縮することができる。
【0045】
《平版印刷版材料》
(基材)
本発明に係る非感脂性表面とは、印刷時に親油性成分が付着せず画像形成層が除去された部分が水保持性を有し、印刷インキ反撥性を有する非画像部となりうる表面であり、本発明に係る非感脂性表面を有する基材は、基材の表面を親水化処理する方法あるいは基材上に親水性物質を含む親水性層を設ける方法により得られる。本発明に係る平版印刷版材料は、非感脂性表面を有する側に画像形成層を有し、他方の面に必要に応じ裏塗り層等を有する。
【0046】
本発明に係る基材としては、従来の印刷版材料に用いられる公知の基材使用することができる。基材としては、例えば、金属板、プラスチックフィルム、ポリオレフィン等で処理された紙、上記材料を適宜貼り合わせた複合支持体等が挙げられる。
【0047】
基材の厚さとしては、印刷機に取り付け可能であれば特に制限されるものではないが、通常50〜500μmのものが一般的に取り扱いやすい。
【0048】
上記金属板を用いる場合の金属としては、鉄、ステンレス、アルミニウム等が挙げられるが、比重と剛性との関係から特にアルミニウムまたはアルミニウム合金(以下、アルミニウムとする)が好ましい。
【0049】
アルミニウム基材は、非感脂性表面を形成するために粗面化処理、陽極酸化処理などを施されて使用される。アルミニウム基材は、粗面化処理に先立ってアルミニウム表面の圧延油を除去するために脱脂処理を施すことが好ましい。脱脂処理としては、トリクレン、シンナー等の溶剤を用いる脱脂処理、ケシロン、トリエタノール等のエマルジョンを用いたエマルジョン脱脂処理等が用いられる。また、脱脂処理には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等のアルカリの水溶液を用いることもできる。脱脂処理にアルカリ水溶液を用いた場合、上記脱脂処理のみでは除去できない汚れや酸化皮膜も除去することができる。
【0050】
基材の粗面化としては、化学的粗面化処理や機械的粗面化、あるいはこれらを適宜組み合わせた粗面化処理により行うことができる。
【0051】
粗面化処理の次に、陽極酸化処理を行うことが好ましい。
【0052】
陽極酸化処理の方法には特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。陽極酸化処理された基材は、必要に応じ封孔処理を施してもよい。これら封孔処理は熱水処理、沸騰水処理、水蒸気処理、重クロム酸塩水溶液処理、亜硝酸塩処理、酢酸アンモニウム処理等公知の方法を用いて行うことができる。また、陽極酸化処理された基材は、適宜上記封孔処理以外の表面処理を行うこともできる。
【0053】
表面処理としては、ケイ酸塩処理、リン酸塩処理、各種有機酸処理、PVPA処理、ベーマイト化処理といった公知の処理が挙げられる。また、特開平8−314157号公報に記載の炭酸水素塩を含有する水溶液による処理や、炭酸水素塩を含有する水溶液による処理に続けてクエン酸のような有機酸処理を行ってもよい。
【0054】
また、塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下塗り層塗布を行うことが好ましい。例えば、ケイ酸塩やシランカップリング剤等のカップリング剤を含有する液に浸漬するか、液を塗布した後、十分な乾燥を行う方法が挙げられる。
【0055】
基材として用いられるプラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、セルロースエステル類等のフィルムを挙げることができる。
【0056】
本発明では、これらのプラスチックフィルムのうち、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルムが基材として好ましく用いられる。更に、特開平10−10676号公報に記載の方法で得られた120℃、30秒での熱寸法変化率が、0.001%以上0.04%以下の支持体を用いることが好ましい。
【0057】
好ましいポリエステルフィルムとしては、未延伸ポリエステルフィルム、一軸延伸ポリエステルフィルムまたは二軸延伸ポリエステルフィルムである。この内、フィルムの押出し方向(縦方向)に一軸延伸した縦延伸ポリエステルフィルムが特に好ましい。
【0058】
(基材への下引き層塗布)
ポリエステルフィルム基材においては、各種の機能を持たせるために易接着処理や下引き層塗布を行うことができる。易接着処理としては、コロナ放電処理や火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。
【0059】
下引き層としては、ゼラチンやラテックスを含む層等をポリエステルフィルム支持体上に設けること等が好ましい。その中でも、特開平7−191433号公報段落番号0044〜0116に記載の帯電防止下塗り層が好ましく用いられる。また、特開平7−20596号公報段落番号0031〜0073に記載の導電性ポリマー含有層、特開平7−20596号公報段落番号0074〜0081に記載の金属酸化物含有層のような導電性層を設けることが好ましい。
【0060】
導電性層はポリエステルフィルム支持体上であればいずれの側に塗設されてもよいが、好ましくは支持体に対し画像形成層の反対側に塗設するのが好ましい。この導電性層を設けると帯電性が改良されてゴミなどの付着が減少し、印刷時の白抜け故障などが大幅に減少する。
【0061】
(親水性層)
本発明においては、基材として上記のようなプラスチックフィルムを用いる場合には、基材上に親水性層を設けて非感脂性表面を有する基材とする。この場合、親水性層は多孔質構造を有することが好ましい。多孔質構造を有する親水性層を形成するためには、下記に記載の親水性マトリクスを形成する素材が好ましく用いられる。親水性マトリクスを形成する素材としては、金属酸化物が好ましい。
【0062】
(金属酸化物)
金属酸化物としては金属酸化物微粒子を含むことが好ましく、例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物のゾルが挙げられる。該金属酸化物微粒子の形態としては、球状、針状、羽毛状、その他のいずれの形態でもよく、平均粒径としては3〜100nmの範囲が好ましく、平均粒径が異なる数種の金属酸化物微粒子を併用することもできる。また、粒子表面に表面処理がなされていてもよい。
【0063】
上記金属酸化物微粒子は、その造膜性を利用して結合剤としての使用が可能である。有機の結合剤を用いるよりも親水性の低下が少なく、親水性層への使用に適している。
【0064】
(コロイダルシリカ)
中でも、コロイダルシリカが特に好ましく使用できる。コロイダルシリカは比較的低温の乾燥条件であっても造膜性が高いという利点があり、良好な強度を得ることができる。コロイダルシリカとしては、後述するネックレス状コロイダルシリカ、平均粒径20nm以下の微粒子コロイダルシリカを含むことが好ましく、更にコロイダルシリカはコロイド溶液としてアルカリ性を呈することが好ましい。
【0065】
ネックレス状コロイダルシリカとは、一次粒子径がnmのオーダーである球状シリカの水分散系の総称であり、一次粒粒子径が10〜50nmの球状コロイダルシリカが50〜400nmの長さに結合した「パールネックレス状」のコロイダルシリカを意味する。パールネックレス状(即ち真珠ネックレス状)とは、コロイダルシリカのシリカ粒子が連なって結合した状態のイメージが真珠ネックレスのような形状をしていることを意味している。
【0066】
本発明において、親水性層マトリクス構造の多孔質化材として、粒径が1μm未満の多孔質金属酸化物粒子を含有することができる。
【0067】
(多孔質金属酸化物粒子)
多孔質金属酸化物粒子としては、以下に記載の多孔質シリカ粒子、多孔質アルミノシリケート粒子、またはゼオライト粒子を好ましく用いることができる。
【0068】
多孔質シリカ粒子は、一般に湿式法または乾式法により製造される。湿式法では、ケイ酸塩水溶液を中和して得られるゲルを乾燥、粉砕するか、もしくは中和して析出した沈降物を粉砕することで得ることができる。乾式法では、四塩化珪素を水素と酸素と共に燃焼し、シリカを析出することで得られる。これらの粒子は製造条件の調整により、多孔性や粒径を制御することが可能である。多孔質シリカ粒子としては、湿式法のゲルから得られるものが特に好ましい。
【0069】
多孔質アルミノシリケート粒子は、例えば、特開平10−71764号公報に記載されている方法により製造される。即ち、アルミニウムアルコキシドと珪素アルコキシドを主成分として加水分解法により合成された非晶質な複合体粒子である。粒子中のアルミナとシリカの比率は1:4〜4:1の範囲で合成することが可能である。また、製造時にその他の金属のアルコキシドを添加して、3成分以上の複合体粒子として製造したものも本発明に使用できる。これらの複合体粒子も製造条件の調整により、多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0070】
粒子の多孔性としては細孔容積で0.5ml/g以上であることが好ましく、0.8ml/g以上であることがより好ましく、1.0〜2.5ml/gであることが更に好ましい。細孔容積は塗膜の保水性と密接に関連しており、細孔容積が大きいほど保水性が良好となって印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなるが、2.5ml/gよりも大きくなると粒子自体が非常に脆くなるため塗膜の耐久性が低下する。逆に、細孔容積が0.5ml/g未満の場合には、印刷性能がやや不十分となる場合がある。
【0071】
ここで、上記の細孔容積の測定はオートソーブ−1(カンタクローム社製)を使用し、定容法を用いた窒素吸着測定により、粉体の空隙が窒素により、充填されていると仮定して相対圧力が0.998における窒素吸着量から算出されるものである。
【0072】
ゼオライトは結晶性のアルミノケイ酸塩であり、細孔径が0.3〜1nmの規則正しい三次元網目構造の空隙を有する多孔質体である。
【0073】
また、親水層を構成する親水性層マトリクス構造は、層状粘土鉱物粒子を含有することができる。該層状鉱物粒子としては、例えば、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サボナイト等)、バーミキュライト、マイカ(雲母)、クロライトといった粘土鉱物及び、ハイドロタルサイト、層状ポリケイ酸塩(カネマイト、マカタイト、アイアライト、マガディアイト、ケニヤアイト等)等が挙げられる。特に、単位層(ユニットレイヤー)の電荷密度が高いほど極性が高く、親水性も高いと考えられる。好ましい電荷密度としては0.25以上、更に好ましくは0.6以上である。このような電荷密度を有する層状鉱物としては、スメクタイト(電荷密度0.25〜0.6;陰電荷)、バーミキュライト(電荷密度0.6〜0.9;陰電荷)等が挙げられる。特に、合成フッ素雲母は粒径等安定した品質のものを入手することができ好ましい。また、合成フッ素雲母の中でも膨潤性のものが好ましく、自由膨潤であるものが更に好ましい。
【0074】
また、上記の層状鉱物のインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)やイオン交換処理を施したもの、表面処理(シランカップリング処理、有機バインダとの複合化処理等)を施したものも使用することができる。
【0075】
平板状層状鉱物粒子のサイズとしては、層中に含有されている状態で(膨潤工程、分散剥離工程を経た場合も含めて)、平均粒径(粒子の最大長)が1μm未満であり、平均アスペクト比が50以上であることが好ましい。粒子サイズが上記範囲にある場合、薄層状粒子の特徴である平面方向の連続性及び柔軟性が塗膜に付与され、クラックが入りにくく乾燥状態で強靭な塗膜とすることができる。また、粒子物を多く含有する塗布液においては、層状粘土鉱物の増粘効果によって、粒子物の沈降を抑制することができる。粒子径が上記範囲より大きくなると、塗膜に不均一性が生じて、局所的に強度が弱くなる場合がある。また、アスペクト比が上記範囲以下である場合、添加量に対する平板状の粒子数が少なくなり、増粘性が不十分となり、粒子物の沈降を抑制する効果が低減する。
【0076】
層状鉱物粒子の含有量としては、層全体の0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。特に、膨潤性合成フッ素雲母やスメクタイトは少量の添加でも効果が見られるため好ましい。層状鉱物粒子は、塗布液に粉体で添加してもよいが、簡便な調液方法(メディア分散等の分散工程を必要としない)でも良好な分散度を得るために、層状鉱物粒子を単独で水に膨潤させたゲルを調製した後、塗布液に添加することが好ましい。
【0077】
親水性層を構成する親水性層マトリクスにはその他の添加素材として、ケイ酸塩水溶液も使用することができる。ケイ酸Na、ケイ酸K、ケイ酸Liといったアルカリ金属ケイ酸塩が好ましく、そのSiO2/M2O比率は、ケイ酸塩を添加した際の塗布液全体のpHが13を超えない範囲となるように選択することが無機粒子の溶解を防止する上で好ましい。
【0078】
また、金属アルコキシドを用いた、所謂ゾルゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーも使用することができる。ゾルゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーの形成については、例えば、「ゾル−ゲル法の応用」(作花済夫著/アグネ承風社発行)に記載されているか、または本書に引用されている文献に記載されている公知の方法を使用することができる。
【0079】
(水溶性樹脂)
また、本発明では水溶性樹脂を含有してもよい。水溶性樹脂としては、例えば、多糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられるが、本発明に用いられる水溶性樹脂としては、多糖類を用いることが好ましい。
【0080】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。これは親水性層に多糖類を含有させることにより、親水性層の表面形状を好ましい状態形成する効果が得られるためである。
【0081】
親水性層の表面は、PS版のアルミ砂目のように0.1〜20μmピッチの凹凸構造を有することが好ましく、この凹凸により保水性や画像部の保持性が向上する。このような凹凸構造は、親水性層マトリクスに適切な粒径のフィラーを適切な量含有させて形成することも可能であるが、親水性層の塗布液に前述のアルカリ性コロイダルシリカと前述の水溶性多糖類とを含有させ、親水性層を塗布、乾燥させる際に相分離を生じさせて形成することが、より良好な印刷適性を有する構造を得ることができ好ましい。
【0082】
凹凸構造の形態(ピッチ及び表面粗さなど)は、アルカリ性コロイダルシリカの種類及び添加量、水溶性多糖類の種類及び添加量、その他添加材の種類及び添加量、塗布液の固形分濃度、ウエット膜厚、乾燥条件等で適宜コントロールすることが可能である。
【0083】
本発明において、親水性マトリクス構造部に添加される水溶性樹脂は、少なくともその一部が水溶性の状態のまま、水に溶出可能な状態で存在することが好ましい。水溶性の素材であっても、架橋剤等によって架橋し水に不溶の状態になると、その親水性は低下して印刷適性を劣化させる懸念があるためである。また、更にカチオン性樹脂を含有してもよく、カチオン性樹脂としては、例えば、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン等のようなポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。カチオン性樹脂は微粒子状の形態で添加してもよく、例えば、特開平6−161101号公報に記載のカチオン性マイクロゲルが挙げられる。
【0084】
また、親水性層を塗設するために用いられる塗布液には、塗布性改善等の目的で水溶性の界面活性剤を含有させることができ、Si系またはF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0085】
また、親水性層にはリン酸塩を含むことができる。本発明では、親水性層の塗布液がアルカリ性であることが好ましいため、リン酸塩としてはリン酸三ナトリウムやリン酸水素二ナトリウムとして添加することが好ましい。リン酸塩を添加することで、印刷時の網の目開きを改善する効果が得られる。リン酸塩の添加量としては、水和物を除いた有効量として0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%が更に好ましい。
【0086】
(画像形成層)
本発明に係る画像形成層は、上記のように画像露光により発生する熱によって画像を形成する感熱画像形成層であることが好ましく、この場合、感熱画像形成層は熱可塑性物質を含有することが好ましい。
【0087】
熱可塑性物質は、感熱画像形成層中に分散状態で含有されていることが好ましく、分散状態とは熱可塑性物質が粒子状で含まれる状態をいう。熱可塑性物質としては、例えば、以下のような熱溶融性粒子を用いることができる。
【0088】
熱溶融性粒子としては、熱可塑性素材の中でも特に溶融した際の粘度が低く、一般的にワックスとして分類される素材で形成された粒子が好ましく用いられる。
【0089】
熱溶融性粒子の物性としては、保存性、画像形成能力の面から軟化点40℃以上120℃以下、融点60℃以上150℃以下であることが好ましく、軟化点40℃以上100℃以下、融点60℃以上120℃以下であることが更に好ましい。
【0090】
熱溶融性粒子の素材としては、パラフィン、ポリオレフィン、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸系ワックス等が挙げられ、これらの数平均分子量は800から10000程度のものが好ましい。
【0091】
また、乳化しやすくするためにこれらのワックスを酸化し、水酸基、エステル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ペルオキシド基などの極性基を導入することもできる。
【0092】
更には、軟化点を下げたり作業性を向上させるために、これらのワックスにステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリステルアミド、硬化牛脂肪酸アミド、パルミトアミド、オレイン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミド、またはこれらの脂肪酸アミドのメチロール化物、メチレンビスステラロアミド、エチレンビスステラロアミドなどを添加することも可能である。
【0093】
また、クマロン−インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、アミノ変性シリコーンジメチルポリシロキサン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、α,ω−ジヒドロキシジメチルポリシロキサン系のワックスや樹脂、あるいはこれらの樹脂の共重合体も使用することができる。これらの中でも、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸塩類を含有することが好ましい。
【0094】
これらの素材は融点が比較的低く、溶融粘度も低いため高感度の画像形成を行うことができる。
【0095】
熱溶融性粒子の粒径としては、機上現像性、地汚れ防止性、解像度などの面からその平均粒径が0.01〜3μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜1μmである。
【0096】
熱溶融性粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していても、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法等が使用できる。
【0097】
画像形成層中の熱溶融性粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%が更に好ましい。
【0098】
(画像形成層に含有可能なその他の素材)
本発明に係る画像形成層には、更に以下のような素材を含有させることができる。
【0099】
画像形成層には光熱変換素材を含有させることができる。
【0100】
画像形成層は印刷工程の初期段階で機上現像され除去されることが好ましく、このため、可視光での着色の少ない素材を用いることが好ましく、色素を用いることが好ましい。
【0101】
画像形成層には水溶性樹脂、水分散性樹脂を含有させることができる。水溶性樹脂、水分散性樹脂としては、オリゴ糖、多糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられる。
【0102】
これらの中では、オリゴ糖、多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩(Na塩等)、ポリアクリルアミドが好ましい。オリゴ糖としては、ラフィノース、トレハロース、マルトース、ガラクトース、スクロース、ラクトースといったものが挙げられるが、特にトレハロースが好ましい。多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。ポリアクリル酸、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩(Na塩等)、ポリアクリルアミドとしては、分子量3000〜500万であることが好ましく、5000〜100万であることがより好ましい。
【0103】
これらの水溶性の素材は、画像形成層の機上現像性を促進するためには多く含有された方が好ましいが、その反面、親油性成分を含有する液に水が含まれる場合は、浸透性を確保できる程度にその添加量を制限する必要があり、好ましく0〜50質量%、より好ましくは0〜30質量%で含まれることが好ましい。
【0104】
また、画像形成層には水溶性の界面活性剤を含有させることができる。Si系またはF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく好ましい。この界面活性剤の含有量は親水性層全体の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0105】
更に、pH調整のための酸(リン酸、酢酸等)またはアルカリ(水酸化ナトリウム、ケイ酸塩、リン酸塩等)を含有していてもよい。
【0106】
画像形成層の付き量としては0.01〜10g/m2が好ましく、更に好ましくは0.1〜3g/m2であり、特に好ましくは0.2〜2g/m2である。
【0107】
図1は、本発明の画像修正方法の実施態様の一例を示す模式図である。非感脂性表面を有する基材上の修正前の画像データABCであり、その中のBは不要な感脂性画像で、これを画像情報から特定し、インクジェット方式によって修正液を吹き付けて消去し、不要なBが消去されたACが得られる。
【0108】
従来のペン型の修正部材による場合は、修正可能な最小領域はペン先の接触面積以下にすることは不可能であるのに対して、インクジェット方式においてはインクジェットヘッドから射出される液滴1ドットサイズ単位の修正が可能である。
【0109】
《印刷方法》
本発明に係る平版印刷版材料では、露光過程において形成された画像に従い親油性成分が供給された部分が画像部となる。続いて印刷工程の初期段階において、未露光部及び露光部の一部、もしくは全部の画像形成層が印刷機上で湿し水、及び/またはインクを用いて除去される。
【0110】
(印刷機)
本発明において、印刷機としては印刷版面上に湿し水を供給する部材、インクを供給する部材を有する公知の平版印刷機に、更に特定の感脂性画像領域を読み取る位置情報読取装置(スキャナ)と該特定の感脂性画像領域を非感脂化するための液体をインクジェット方式により供給する装置とを備えたものである。
【0111】
(印刷インキ)
本発明に係る印刷で用いることができるインクは、平版印刷に使用できるインクであればいずれのインクでもよいが、具体的にはロジン変性フェノール樹脂と植物油(アマニ油、桐油、大豆油等)、石油系溶剤、顔料、酸化重合触媒(コバルト、マンガン、鉛、鉄、亜鉛等)等の成分よりなる油性インキ、及びアクリル系オリゴマー、アクリルモノマー、光重合開始剤、顔料等の成分よりなる紫外線硬化型のUVインキ、更に油性インキの性質とUVインキの性質を併せ持つハイブリッドインキが挙げられる。
【0112】
(画像露光)
本発明に係る画像露光は、印刷版材料の画像形成層を有する面から画像データに応じてレーザー光を照射することにより行われる。
【0113】
本発明においては、より具体的には赤外及び/または近赤外領域で発光する、即ち700〜1500nmの波長範囲で発光するレーザーを使用した走査露光が好ましい。レーザーとしてはガスレーザーを用いてもよいが、近赤外領域で発光する半導体レーザーを使用して、走査露光を行うことが特に好ましい。
【0114】
本発明に用いることができる走査露光に好適な装置としては、半導体レーザーを用いてコンピューターからの画像信号に応じて印刷版材料表面に画像を形成可能な装置であればどのような方式の装置であってもよい。
【0115】
一般的には、(1)平板状保持機構に保持された印刷版材料に1本もしくは複数本のレーザービームを用いて2次元的な走査を行って印刷版材料全面を露光する方式、(2)固定された円筒状の保持機構の内側に円筒面に沿って保持された印刷版材料に、円筒内部から1本もしくは複数本のレーザービームを用いて円筒の周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて印刷版材料全面を露光する方式、(3)回転体としての軸を中心に回転する円筒状ドラム表面に保持された印刷版材料に、円筒外部から1本もしくは複数本のレーザービームを用いてドラムの回転によって周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて印刷版材料全面を露光する方式が挙げられる。
【0116】
本発明に係る平版印刷版材料を用いた印刷方法においては、特に(3)の走査露光方式が好ましく、特に印刷装置上で露光を行う装置においては、(3)の走査露光方式が用いられる。
【0117】
このようにして画像形成がなされた印刷版材料は、親油性成分を付着させる工程を経た後、現像処理を行うことなく印刷を行うことができる。
【0118】
製版後の印刷版材料をそのまま印刷機の版胴に取り付けるか、あるいは印刷版材料を印刷機の版胴に取り付けた後に画像形成を行い、版胴を回転させながら湿し水供給ローラー及び/またはインク供給ローラーを印刷版材料に接触させることで画像形成層の非画像部を除去することが可能である。
【0119】
本発明に係る印刷方法において、平版印刷版材料の画像形成層の除去工程としては、PS版を使用した通常の印刷シークエンスで行うことができるものであり、所謂機上現像処理によりなされる工程である。
【0120】
印刷機上での画像形成層の除去は、版胴を回転させながら水付けローラーやインクローラーを接触させて行うことができるが、下記に挙げる例のような、もしくはそれ以外の種々のシークエンスによって行うことができる。また、その際には印刷時に必要な湿し水水量に対して水量を増加させたり、減少させたりといった水量調整を行ってもよく、水量調整を多段階に分けて、もしくは無段階に変化させて行ってもよい。
【0121】
(1)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いでインクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで印刷を開始する。
【0122】
(2)印刷開始のシークエンスとして、インクローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで、水付けローラーを接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで、印刷を開始する。
【0123】
(3)印刷開始のシークエンスとして、水付けローラーとインクローラーとを実質的に同時に接触させて版胴を1回転〜数十回転させ、次いで印刷を開始する。
【実施例】
【0124】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0125】
実施例1
(基材1の作製)
厚さ240μmのアルミ基材を、3%水酸化ナトリウム水溶液で50℃、20秒間処理して脱脂した後、希硫酸溶液で中和し、水洗した。次に、日産化学社製リチウムシリケートLSS−45のSiO2濃度として0.1質量%水溶液となるように純水希釈した液を、50℃に加温した浴に30秒浸漬した後、水洗、60℃で3分乾燥した。
【0126】
(下層塗布液の調製)
下記表1に示す組成の素材の内、界面活性剤を除いた素材をホモジナイザを用いて、回転数10000回転で10分間混合分散した後、界面活性剤を添加して、回転数200回転で1分間混合した。次いで、これをろ過して固形分15質量%の下層塗布液を得た。
【0127】
下層塗布液組成(表中の単位指定のない数字は質量部を表す)
【0128】
【表1】

【0129】
(親水性層塗布液の調製)
下記表2に示す組成の素材を、ホモジナイザを用いて回転数10000回転で10分間混合分散した。次いで、これをろ過して固形分20質量%の親水性層塗布液を得た。
【0130】
親水性層塗布液組成(表中単位記載のない数値は質量部を示す)
【0131】
【表2】

【0132】
(下層塗布液、親水性層塗布液の塗布、乾燥)
コーター/乾燥部を2基有する塗布ラインで、ラインスピード30m/minの搬送速度で上述の基材1の上に親水性層を塗布形成し、親水性層を内側としてロール状に巻き取った。親水性層に関しては、第一コーターで下層を塗布形成した後、第二コーターで下層上に親水性層を塗布形成した。
【0133】
下層は乾燥付量で2g/m2なるように、公知の方法でワイヤーバーを用いて塗布した。親水性層は乾燥付量で1.5g/m2となるように、公知の方法でワイヤーバーを用いて塗布した。乾燥条件は下層、親水性層共に125℃、45秒であった。
【0134】
(エイジング処理)
親水性層を塗布形成し、巻き取ったサンプルのロールを60℃の恒温炉に入れ、48時間のエイジング処理を行った。
【0135】
(画像形成層塗布液の調製)
下記に示す組成の素材を十分に混合攪拌し、ろ過して、固形分5質量%の画像形成層塗布液を調製した。
【0136】
画像形成層塗布液組成(表中の単位指定のない数字は質量部を表す)
【0137】
【表3】

【0138】
(画像形成層塗布液の塗布、乾燥)
親水性層を塗布形成したラインを用い、親水性層まで形成したサンプルのウエブを30m/minで搬送して、親水性層上に画像形成層塗布液を第二コーターで塗布乾燥して、画像形成層を形成し、画像形成層を外側にして巻き取った。画像形成層は乾燥付量で0.3g/m2となるように、公知の方法でワイヤーバーを用いて塗布した。乾燥条件は60℃、45秒であった。
【0139】
画像形成層を塗布形成したサンプルを、50℃24時間のエイジング処理を行った。
【0140】
(赤外線レーザー露光による画像形成)
上記各平版印刷版材料を露光ドラムに巻付け固定した。露光には波長830nm、スポット径約18μmのレーザービームを用い、露光エネルギーを250mJ/cm2として、2400dpi(dpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す)のラインアンドスペース画像(線画)を16ドットから2048ドット間隔、長さ10cmの画像を形成した。
【0141】
印刷方法
印刷機:三菱重工業(株)製DAIYA1F−1を用いて、上質紙、湿し水:アストロマーク3(日研化学研究所製)2質量%、インク(東洋インク社製TKハイユニティ紅)を使用して印刷を行った。平版印刷版材料は露光後そのままの状態で版胴に取り付け、PS版と同じ刷り出しシークエンスを用いて印刷を開始し、100枚後に停止した。なお、印刷終了時にインク呼び出しローラーをOFFにしてインク供給を停止して、印刷を30枚続けることで印刷版面のインクを除去した。
【0142】
(インクジェットによる画像の修正:本発明)
上記印刷工程後の平版印刷版材料を印刷機から外し、その表面に下記組成からなる液をJet Plate Systems社 Jet Plate 4200インクジェットプリンターを用いて、赤外レーザー露光の画像データに対して、記録後の画像部を1ラインおきに消去を行った。
【0143】
インクカートリッジ内には、下記組成の修正液を充填した。修正液の供給量は、乾燥前の液の付着量が20g/m2になるように調整して供給した。その後、45℃環境下で送風しながら2分乾燥を行った。修正液の粘度は15mPa・sであった。
【0144】
コロイダルシリカ(メタノールスノーテックス、固形分30%;日産化学工業(株)製) 33.4質量部
イソプロピルアルコール 66.6質量部
(修正ペンによる画像の修正:比較)
液体透過性を有するように加工されたポリエステル樹脂を、押出成型により断面の直径が約2.0mmの円柱状の長尺物に成型し、断裁後、断裁面を筆記線幅が1.0mmになるように磨石で半球状に加工してペン先を成型した。得られたペン先を使用して、中に上記修正液を充填した。
【0145】
同様に1ラインおきの消去を上記修正ペンで3回なぞって修正液を付着させた後、自然乾燥させた。
【0146】
上記の様にして修正を施した平版印刷版を再度印刷機に取り付けて印刷を再開し、更に100枚印刷後の印刷物に関して下記の様に評価を行った。
【0147】
(評価)
100枚目の印刷物の消去部の画像の消え具合、残った線画の画質、及び非画像部の汚れを比較した。
【0148】
○:消去したラインは印刷されず、残したラインはきれいに印刷可能であった
△:消去するライン、残すラインとも断続的な部分が発生した
×:1ラインおきの消去が不可能。
【0149】
【表4】

【0150】
表4より、本発明の画像修正方法では、1mm未満の線画を容易に修正、消去可能であることが分かる。
【0151】
実施例2
実施例1で用いたインクジェットプリンターを改造し、ヘッド部分を前述の印刷機の版胴部に取り外し可能な状態で固定した。実施例1において、印刷開始後の平版印刷版を取り外すことなく、印刷機上で元画像データに基づき、インクジェットプリンターより修正液を供給した以外は同様にして画像の修正を行った。結果は、実施例1同等に良好な修正画像が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】インクジェット方式による画像修正を示すフロー図である。
【図2】本発明の印刷機の実施態様の一例である。
【符号の説明】
【0153】
1 版胴
2 平版印刷版
3 版面スキャナ部
4 インクジェットユニット
5 修正部(画像、傷)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非感脂性表面に感脂性画像を有する平版印刷版上の特定の感脂性画像領域を選択的に非感脂化するための修正液をインクジェット方式により供給することを特徴とする平版印刷版材料の画像修正方法。
【請求項2】
前記非感脂性表面が支持体上の親水性層であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版材料の画像修正方法。
【請求項3】
前記特定の感脂性画像領域を選択的に非感脂化するための位置情報が記録される画像情報に基づき決定されることを特徴とする請求項1または2に記載の平版印刷版材料の画像修正方法。
【請求項4】
非感脂性表面に感脂性画像を有する平版印刷版材料の印刷機であって、特定の感脂性画像領域を読み取る位置情報読取装置(スキャナ)と該特定の感脂性画像領域を非感脂化するための液体をインクジェット方式により供給する装置とを有することを特徴とする平版印刷版材料の印刷機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−276251(P2007−276251A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105029(P2006−105029)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】