説明

平版印刷版用支持体および平版印刷版原版

【課題】Cu量が少ないアルミニウム合金板から得た平版印刷版用支持体であって、フォトポリマータイプの感光層を設けた場合にも、ハイライト領域において網点サイズが小さくなったり、耐刷性に劣ったりする問題が生じにくい平版印刷版用支持体の提供。
【解決手段】アルミニウム合金板に、硝酸を含有する水溶液中での交流を用いた電気化学的粗面化処理を含む表面処理を施して得られる平版印刷版用支持体であって、前記アルミニウム合金板におけるCuの含有量が50ppm以下であり、前記電気化学的粗面化処理により形成されたピットの平均ピット径が1.1〜1.4μmであり、原子間力顕微鏡を用いて求められる実面積Sxと、幾何学的測定面積S0とから、下記式(1)により求められる表面積差ΔSが40%以上である、平版印刷版用支持体。
ΔS=(Sx−S0)/S0×100(%) (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版用支持体および平版印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷版原版に用いられるアルミニウム合金板には、一般的に、1050材が用いられている。この1050材においては、その合金成分の中でも、Cuが特に電解粗面化処理に影響を与えることから、その含有量を調整すること、例えば、Cu量が150ppmのものを用いることにより、良好な電解粗面化処理性(砂目立て性)と印刷性能とを確保することが行われている。
【0003】
しかしながら、一般的な1050材はCuを意図的に添加していないもの、例えば、Cu量が10ppm未満のものが多く、Cuを一定量以上含有するアルミニウム合金板を調達するのに、余計なコストがかかる。
また、Cu量が10ppm未満の1050材を用いたアルミニウム合金板から得た平版印刷版用支持体に、フォトポリマータイプの感光層を設けた平版印刷版原版は、露光および現像処理を施して平版印刷版としたときに、ハイライト領域において設定値より網点サイズが小さくなり、また、耐刷性に劣るという問題があった。
【0004】
これに対し、特許文献1においては、粗面化したアルミニウム板上に、密度が100〜550個/μm2であり、かつ平均ポア径が6nm以上20nm以下であるマイクロポアを有する陽極酸化被膜が形成された支持体上に、付加重合可能なエチレン性二重結合を含む化合物及び重合開始剤を含有し、かつフィルム原稿を用いずレーザー光走査により直接版面上に画像形成可能な感光層を形成してなることを特徴とする平版印刷版が記載されている。この平版印刷版は、マイクロポアのポア径を拡大することにより、感光層との密着力を向上させることを目的としている。
【0005】
また、特許文献2においては、Cuの含有量が0〜0.005質量%であるアルミニウム板に粗面化処理、アルカリエッチング処理および陽極酸化処理を行って得られる平版印刷版用支持体であって、表面に、波長が2〜10μmの大波構造と、平均直径が0.1〜1.5μmのピットからなる中波構造と、ピット内部の微細な凹凸からなる小波構造とを有し、かつ、該陽極酸化処理によって生成する陽極酸化皮膜において、マイクロポアの平均ポア径が0〜15nm、平均ポア密度が0〜400個/μm2である平版印刷版用支持体、および、その上にフォトポリマータイプの画像記録層を設けてなる平版印刷版原版が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−65096号公報
【特許文献2】特開2003−1956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者が検討した結果、特許文献1に記載されている方法では、Cu量の少ないアルミニウム合金板を用いた場合、平版印刷版としたときに、ハイライト領域において設定値より網点サイズが小さくなり、また、耐刷性に劣るという問題に対して、十分な改善が得られないことが分かった。また、特許文献2に記載されているように、平版印刷版用支持体の表面を大中小三重構造の形状とするには、表面処理のコストが高くなるという問題があった。
【0008】
したがって、本発明は、Cu量が少ないアルミニウム合金板から得た平版印刷版用支持体であって、フォトポリマータイプの感光層を設けた場合にも、ハイライト領域において網点サイズが小さくなったり、耐刷性に劣ったりする問題が生じにくい平版印刷版用支持体、および、これを用いた平版印刷版原版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、硝酸を含有する水溶液中での交流を用いた電気化学的粗面化処理を施して得られる平版印刷版用支持体であって、前記電気化学的粗面化処理により形成されるピットの平均ピット径が1.1〜1.4μmであり、原子間力顕微鏡を用いて表面の50μm×50μmの範囲を512×512点測定して得られる3次元データから近似三点法により求められる実面積Sxと幾何学的測定面積S0とから求められる表面積差ΔSが所定値以上である平版印刷版用支持体に、フォトポリマータイプの感光層を設けた平版印刷版原版が、Cuの含有量が少ないアルミニウム合金板を用いた場合であっても、露光および現像処理を施して平版印刷版としたときに、ハイライト領域において設定値より網点サイズが小さくなり、また、耐刷性に劣るという問題がないうえ、耐汚れ性に優れることならびに安価に製造することができることを見出した。
本発明者は、更に、そのような平版印刷版用支持体を、電気化学的粗面化処理における硝酸を含有する水溶液の硝酸濃度および温度ならびに電気量を特定の範囲にすることにより、得ることができることを見出した。
本発明者は、これらの知見に基づき、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(4)を提供する。
(1)アルミニウム合金板に、硝酸を含有する水溶液中での交流を用いた電気化学的粗面化処理を含む表面処理を施して得られる平版印刷版用支持体であって、
前記アルミニウム合金板におけるCuの含有量が50ppm以下であり、
前記電気化学的粗面化処理により形成されたピットの平均ピット径が1.1〜1.4μmであり、
原子間力顕微鏡を用いて、表面の50μm×50μmの範囲を512×512点測定して得られる3次元データから近似三点法により求められる実面積Sxと、幾何学的測定面積S0とから、下記式(1)により求められる表面積差ΔSが40%以上である、平版印刷版用支持体。
ΔS=(Sx−S0)/S0×100(%) (1)
(2)前記電気化学的粗面化処理が、硝酸濃度11〜17g/Lおよび温度30〜40℃の前記硝酸を含有する水溶液中で、電気量がアルミニウム合金板が陽極時の電気量の総和で210〜270C/dm2となるように行われる、上記(1)に記載の平版印刷版用支持体。
(3)上記(1)または(2)に記載の平版印刷版用支持体上に、付加重合可能なエチレン性不飽和結合含有化合物と光重合開始剤とを含有する感光層を有する、平版印刷版原版。
(4)アルミニウム合金板に、硝酸を含有する水溶液中での交流を用いた電気化学的粗面化処理を含む表面処理を施して、平版印刷版用支持体を得る、平版印刷版用支持体の製造方法であって、
前記アルミニウム合金板におけるCuの含有量が50ppm以下であり、
前記電気化学的粗面化処理が、硝酸濃度11〜17g/Lおよび温度30〜40℃の前記硝酸を含有する水溶液中で、電気量がアルミニウム合金板が陽極時の電気量の総和で210〜270C/dm2となるように行われ、
前記電気化学的粗面化処理により形成されたピットの平均ピット径が1.1〜1.4μmであり、
前記平版印刷版用支持体において、原子間力顕微鏡を用いて、表面の50μm×50μmの範囲を512×512点測定して得られる3次元データから近似三点法により求められる実面積Sx50と、幾何学的測定面積S050とから、下記式(1)により求められる表面積差ΔS50が40%以上である、平版印刷版用支持体の製造方法。
ΔS50=(Sx50−S050)/S050×100(%) (1)
【発明の効果】
【0011】
本発明の平版印刷版用支持体を用いた本発明の平版印刷版原版は、露光および現像処理を施して平版印刷版としたときに、ハイライト領域において設定値より網点サイズが小さくなり、また、耐刷性に劣るという問題がなく、かつ、安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
[平版印刷版用支持体]
本発明の平版印刷版用支持体は、アルミニウム合金板に、硝酸を含有する水溶液中での交流を用いた電気化学的粗面化処理を含む表面処理を施して得られる平版印刷版用支持体であって、
前記アルミニウム合金板におけるCuの含有量が50ppm以下であり、
前記電気化学的粗面化処理により形成されたピットの平均ピット径が1.1〜1.4μmであり、
原子間力顕微鏡を用いて、表面の50μm×50μmの範囲を512×512点測定して得られる3次元データから近似三点法により求められる実面積Sxと、幾何学的測定面積S0とから、下記式(1)により求められる表面積差ΔSが40%以上である、平版印刷版用支持体である。
【0013】
ΔS=(Sx−S0)/S0×100(%) (1)
【0014】
<アルミニウム合金板(圧延アルミ)>
本発明の平版印刷版用支持体に用いられるアルミニウム合金板は、Cuの含有量が50ppm以下であれば、特に限定されない。例えば、一般的なCuの含有量が50ppm以下の1050材を用いることができる。
アルミニウム合金板に含まれる異元素としては、例えば、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンが挙げられる。アルミニウム合金中の異元素の含有量は0.5質量%以下である。
【0015】
また、アルミニウム合金がラミネートされまたは蒸着されたプラスチックフィルムまたは紙を用いることもできる。更に、特公昭48−18327号公報に記載されているようなポリエチレンテレフタレートフィルム上にアルミニウム合金シートが結合された複合体シートを用いることもできる。
【0016】
アルミニウム合金板の厚さは、通常、0.1〜0.6mm程度である。この厚さは、印刷機の大きさ、印刷版の大きさ、ユーザーの希望等により適宜変更することができる。
【0017】
<表面処理>
本発明の平版印刷版用支持体は、上記アルミニウム合金板に、硝酸を含有する水溶液中での交流を用いた電気化学的粗面化処理を含む表面処理を施して得られる。その他の表面処理は、その他の電気化学的粗面化処理を含まないものであれば特に限定されず、機械的粗面化処理、化学的エッチング処理、陽極酸化処理、親水化処理等から適宜選択して行うことができる。
以下に、表面処理の一態様を例示する。
【0018】
<機械的粗面化処理>
機械的粗面化処理としては、例えば、所望の毛径を有する回転するナイロンブラシロールと、アルミニウム合金板表面に供給される研磨剤を含むスラリー液とにより、アルミニウム合金板表面を機械的に粗面化処理する方法が挙げられる。研磨剤は、特に限定されず、公知のものを用いることができるが、ケイ砂、石英、水酸化アルミニウムまたはこれらの混合物が好ましい。この方法については、特開平6−135175号公報および特公昭50−40047号公報に記載されている方法を用いることができる。
ナイロンブラシロールの毛の直径、毛長等を調整することおよび/または研磨剤の粒径を調整することにより、機械的粗面化処理後のアルミニウム合金板の表面形状を制御することができる。ナイロンブラシロールの毛の直径は、0.15〜0.45mmであるのが好ましい。研磨剤の平均粒径は、15〜50μmであるのが好ましい。
【0019】
また、機械的粗面化処理としては、上記方法のほかに、スラリー液を吹き付ける方法、ワイヤーブラシを用いた方法、凹凸を付けた圧延ロールの表面形状を金属基体表面に転写する方法(転写法)等が挙げられる。
転写法としては、例えば、特開平7−205565号公報の[0004]に記載されている方法を用いることができる。
これらの機械的粗面化処理は、単独でまたは組み合わせて用いられる。
【0020】
<酸水溶液またはアルカリ水溶液での化学的エッチング処理>
化学的エッチング処理は、その前に機械的粗面化処理を施した場合は、機械的粗面化処理によって生成したアルミニウム合金板の表面の凹凸のエッジ部分を溶解し、滑らかなうねりを持つ表面を得て、優れた耐汚れ性を得る目的で施される。この場合、アルミニウム合金板の溶解量は、3〜20g/m2であるのが好ましい。
また、化学的エッチング処理は、その前に機械的粗面化処理を施さない場合は、後述する電気化学的粗面化処理で均一な凹部を形成させること、および、アルミニウム合金板(圧延アルミ)の表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜等を除去することを目的として行われる。
化学的エッチング処理は、酸性水溶液またはアルカリ水溶液でアルミニウム合金板の表面を化学的にエッチングする処理である。具体的には、酸性水溶液またはアルカリ水溶液を、浸せき法、スプレー法等により、アルミニウム合金板の表面に接触させる。
酸水溶液としては、例えば、リン酸、硝酸、硫酸、クロム酸、塩酸、またはこれらの2種以上の混酸を含有する水溶液が挙げられる。酸水溶液の濃度は、1〜50質量%であるのが好ましい。酸水溶液の温度は、20〜100℃であるのが好ましい。
アルカリ水溶液としては、例えば、カセイソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム、またはこれらの2種以上の混合物の水溶液が挙げられる。アルカリ水溶液の濃度は、1〜50質量%であるのが好ましい。アルカリ水溶液の温度は、20〜100℃であるのが好ましい。
【0021】
化学的エッチング処理が終了した後には、処理液を次工程に持ち込まないために、また、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために、ニップローラによる液切りとスプレーによる洗浄とを行うのが好ましい。スプレーによる洗浄には、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ酸、ホウフッ化水素酸等の酸を用いることができる。
【0022】
<硝酸を含有する水溶液中での交流を用いた電気化学的粗面化処理>
硝酸を含有する水溶液を用いた電気化学的粗面化処理(硝酸交流電解)は、後述する平均ピット径を有するピットをアルミニウム合金板の表面に形成させ、かつ、表面積差の値を後述する範囲にするために行われる。
硝酸を含有する水溶液は、硝酸濃度が11〜17g/Lであるのが好ましく、11.5〜14g/Lであるのがより好ましく、11.5〜12.5g/Lであるのが更に好ましい。
硝酸を含有する水溶液は、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸イオンを有する硝酸化合物の少なくとも一つを1g/Lから飽和するまでの範囲で添加して使用することができる。
また、硝酸を含有する水溶液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、ケイ素等のアルミニウム合金板中に含まれる元素が溶解していてもよい。次亜塩素酸や過酸化水素が1〜100g/L含有されていてもよい。
【0023】
硝酸を含有する水溶液は、温度が30〜40℃であるのが好ましく、32〜38℃であるのがより好ましく、34〜36℃であるのが更に好ましい。
【0024】
硝酸交流電解においては、電解反応が終了した時点でのアルミニウム合金板のアノード反応にあずかる電気量の総和(アルミニウム合金板が陽極時の電気量の総和)が、210〜270C/dm2であるのが好ましく、220〜260C/dm2であるのがより好ましく、230〜250C/dm2であるのが更に好ましい。
この際の電流密度は、電流のピーク値で20〜100A/dm2であるのが好ましい。
【0025】
硝酸交流電解は、例えば、特公昭48−28123号公報および英国特許第896,563号明細書に記載されている電気化学的グレイン法(電解グレイン法)に従うことができる。この電解グレイン法は、正弦波形の交流電流を用いるものであるが、特開昭52−58602号公報に記載されているような特殊な波形を用いて行ってもよい。また、特開平3−79799号公報に記載されている波形を用いることもできる。また、特開昭55−158298号、特開昭56−28898号、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭54−85802号、特開昭60−190392号、特開昭58−120531号、特開昭63−176187号、特開平1−5889号、特開平1−280590号、特開平1−118489号、特開平1−148592号、特開平1−178496号、特開平1−188315号、特開平1−154797号、特開平2−235794号、特開平3−260100号、特開平3−253600号、特開平4−72079号、特開平4−72098号、特開平3−267400号、特開平1−141094号の各公報に記載されている方法も適用することができる。また、前述のほかに、電解コンデンサーの製造方法として提案されている特殊な周波数の交番電流を用いて電解することも可能である。例えば、米国特許第4,276,129号明細書および同第4,676,879号明細書に記載されている。
【0026】
電解槽および電源については、種々提案されているが、米国特許第4,203,637号明細書、特開昭56−123400号、特開昭57−59770号、特開昭53−12738号、特開昭53−32821号、特開昭53−32822号、特開昭53−32823号、特開昭55−122896号、特開昭55−132884号、特開昭62−127500号、特開平1−52100号、特開平1−52098号、特開昭60−67700号、特開平1−230800号、特開平3−257199号の各公報等に記載されているものを用いることができる。
また、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭53−12738号、特開昭53−12739号、特開昭53−32821号、特開昭53−32822号、特開昭53−32833号、特開昭53−32824号、特開昭53−32825号、特開昭54−85802号、特開昭55−122896号、特開昭55−132884号、特公昭48−28123号、特公昭51−7081号、特開昭52−133838号、特開昭52−133840号、特開昭52−133844号、特開昭52−133845号、特開昭53−149135号、特開昭54−146234号の各公報等に記載されているものも用いることができる。
【0027】
電気化学的粗面化処理に用いられる交流電源波は、特に限定されず、サイン波(正弦波)、矩形波、台形波、三角波等が用いられる。
【0028】
交流のduty比は特に限定されず1:2〜2:1のものが好適に用いられるが、特開平5−195300号公報に記載されているように、アルミニウムにコンダクタロールを用いない間接給電方式においてはduty比が1:1のものがより好ましい。
交流の周波数は0.1〜120Hzのものを用いるのが好ましいが、50〜70Hzが設備上より好ましい。50Hzよりも低いと、主極のカーボン電極が溶解しやすくなり、また、70Hzよりも高いと、電源回路上のインダクタンス成分の影響を受けやすくなり、電源コストが高くなる。
【0029】
電解槽は、縦型、フラット型、ラジアル型等の公知の表面処理に用いる電解槽が使用可能であるが、特開平5−195300号公報に記載されているようなラジアル型電解槽が特に好ましい。電解槽内を通過する電解液は、アルミニウムウェブの進行方向に対してパラレルであってもカウンターであってもよい。
【0030】
本発明においては、硝酸交流電解における硝酸を含有する水溶液の硝酸濃度および温度ならびに電気量を上述した好適範囲にすることにより、アルミニウム合金板のCu量が少ない場合であっても、得られる平版印刷版用支持体のピットの平均ピット径および表面積差を後述する範囲にすることが容易となる。
【0031】
<酸水溶液またはアルカリ水溶液での化学的エッチング処理>
化学的エッチング処理は、硝酸交流電解で生成したスマット成分を除去し、かつ、生成したビットのエッジ部分を滑らかにして平版印刷版としたときの耐汚れ性を優れたものにするために行われる。
硝酸交流電解後の化学的エッチング処理は、上述した硝酸交流電解前の化学的エッチング処理と基本的に同じであるが、好ましい方法として、特開昭53−12739号公報に記載されているような濃度15〜65質量%、温度50〜90℃の硫酸水溶液と接触させる方法、および、特公昭48−28123号公報に記載されているアルカリエッチング処理が挙げられる。また、アルミニウム合金板の溶解量は、0.05〜5g/m2であるのが好ましく、0.1〜3g/m2であるのがより好ましい。
【0032】
<陽極酸化処理>
以上のように処理されたアルミニウム合金板には、更に、陽極酸化処理を施すことができる。陽極酸化処理はこの分野で従来行われている方法で行うことができる。この場合、例えば、硫酸濃度50〜300g/Lで、アルミニウム濃度5質量%以下の溶液中で、直流電解または交流電解により、アルミニウム合金板を陽極として通電して陽極酸化皮膜を形成させることができる。陽極酸化処理に用いられる溶液としては、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、ホウ酸/ホウ酸ナトリウム、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いた水溶液を挙げることができる。
【0033】
この際、少なくともアルミニウム合金板、電極、水道水、地下水等に通常含まれる成分が電解液中に含まれていても構わない。更には、第2、第3の成分が添加されていても構わない。ここでいう第2、第3の成分としては、例えば、Na、K、Mg、Li、Ca、Ti、Al、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の金属のイオン;アンモニウムイオン等の陽イオン;硝酸イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、亜硫酸イオン、チタン酸イオン、ケイ酸イオン、ホウ酸イオン等の陰イオンが挙げられ、0〜10000ppm程度の濃度で含まれていてもよい。
【0034】
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度30〜500g/L、電解液温度10〜70℃、電流密度0.1〜40A/dm2、電圧1〜100V、電解時間15秒〜50分であるのが適当であり、所望の陽極酸化皮膜量となるように調整される。
陽極酸化皮膜の厚さは、0.5〜1.5μmであるのが好ましく、0.5〜1.0μmであるのがより好ましい。
陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアは、ポア径が5〜10nmであるのが好ましく、また、ポア密度が8×1015〜2×1016個/m2であるのが好ましい。
【0035】
<親水化処理>
親水化処理は、特に限定されず、例えば、従来公知の方法を用いることができる。中でも、シリケート処理、ポリビニルホスホン酸による処理が好ましい。
シリケート処理は、アルカリ金属ケイ酸塩(シリケート)を好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜15質量%含有し、15〜80℃の水溶液(25℃でpH10〜13であるのが好ましい。)に、陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム合金板を、好ましくは0.5〜120秒浸せきさせることにより行うことができる。
アルカリ金属ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられる。水溶液のpHを高くするために用いられる水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが挙げられる。
【0036】
アルカリ金属ケイ酸塩を含有する水溶液は、アルカリ土類金属塩および/または第4族(第IVA族)金属塩を1種以上含有することができる。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩等の水溶性の塩が挙げられる。第4族(第IVA族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。水溶液中のこれらの金属塩の含有量は、0.01〜10質量%であるのが好ましく、0.05〜5.0質量%であるのがより好ましい。
【0037】
シリケート処理によって吸着するSi元素量は蛍光X線分析装置により測定することができ、その吸着量は2〜40mg/m2であるのが好ましく、4〜30mg/m2であるのがより好ましい。
【0038】
また、シリケート処理としては、米国特許第3,658,662号明細書に記載されているようなシリケート電着も好適に用いることができる。
特公昭46−27481号、特開昭52−58602号および特開昭52−30503号の各公報に記載されているような電解グレインを施した支持体と、上記陽極酸化処理および親水化処理を組み合せた表面処理も好適である。
【0039】
ポリビニルホスホン酸による処理は、ポリビニルホスホン酸を好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜15質量%含有し、15〜80℃の水溶液(25℃でpH10〜13であるのが好ましい。)に、陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム合金板を、好ましくは0.5〜120秒浸せきさせることにより行うことができる。
ポリビニルホスホン酸による処理によって吸着するP元素量は蛍光X線分析装置により測定することができ、その吸着量は2〜40mg/m2であるのが好ましく、4〜30mg/m2であるのがより好ましい。
【0040】
<表面形状>
上述したようにして得られる平版印刷版用支持体は、上記硝酸交流電解により形成されたピットの平均ピット径が1.1〜1.4μm、好ましくは1.15〜1.30であり、かつ、原子間力顕微鏡を用いて、表面の50μm×50μmの範囲を512×512点測定して得られる3次元データから近似三点法により求められる実面積Sxと、幾何学的測定面積S0とから、下記式(1)により求められる表面積差ΔSが40%以上、好ましくは42%以上、より好ましくは44%以上である。
【0041】
ΔS=(Sx−S0)/S0×100(%) (1)
【0042】
平版印刷版用支持体がこのような表面形状を有すると、フォトポリマータイプの感光層を設けた平版印刷版原版が、露光および現像処理を施して平版印刷版としたときに、ハイライト領域において設定値より網点サイズが小さくなり、また、耐刷性に劣るという問題がないうえ、耐汚れ性に優れる。
【0043】
本発明において、平均ピット径を求める方法は、以下の通りである。
SEMを用いて平版印刷版用支持体の表面を傾斜角0°、倍率2000倍で撮影する。得られたSEM写真をスキャナー等でコンピュータに画像データとして取り込み、画像処理ソフト等を用いて、画像調整および二値化処理を行い、各ピットの等価円直径を求め、その平均値を平均ピット径とする。
【0044】
本発明において、ΔSを求める方法は、以下の通りである。
(1)原子間力顕微鏡による表面形状の測定
本発明においては、ΔSを求めるために、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)により表面形状を測定し、3次元データを求める。
測定は、例えば、以下の条件で行うことができる。即ち、平版印刷版用支持体を1cm角の大きさに切り取って、ピエゾスキャナー上の水平な試料台にセットし、カンチレバーを試料表面にアプローチし、原子間力が働く領域に達したところで、XY方向にスキャンし、その際、試料の凹凸をZ方向のピエゾの変位でとらえる。ピエゾスキャナーは、XY方向について150μm、Z方向について10μm、走査可能なものを使用する。カンチレバーは共振周波数120〜400kHz、バネ定数12〜90N/mのもの(例えば、SI−DF20およびSI−DF40、いずれもセイコーインスツルメンツ社製;NCH、NANOSENSORS社製;または、AC−160TS、オリンパス社製)を用い、DFMモード(Dynamic Force Mode)で測定する。また、求めた3次元データを最小二乗近似することにより試料のわずかな傾きを補正し基準面を求める。
計測の際は、表面の50μm□を512×512点測定する。XY方向の分解能は0.1μm、Z方向の分解能は0.15nm、スキャン速度は50μm/secとする。
【0045】
(2)表面積差ΔSの算出
上記(1)で求められた3次元データ(f(x,y))を用い、隣り合う3点を抽出し、その3点で形成される微小三角形の面積の総和を求め、実面積Sxとする。表面積比ΔSは、得られた実面積Sxと幾何学的測定面積S0とから、上記式(1)により求められる。
【0046】
従来、Cu量が少ないアルミニウム合金板を用いた平版印刷版用支持体にフォトポリマータイプの感光層を設けた平版印刷版原版は、露光および現像処理を施して平版印刷版としたときに、ハイライト領域において設定値より網点サイズが小さくなり、また、耐刷性に劣るという問題があった。
これに対し、本発明の平版印刷版用支持体は、上述した表面形状を有するため、ハイライト領域において設定値より網点サイズが小さくなり、また、耐刷性に劣るという問題が抑制されている。また、本発明の平版印刷版用支持体は、理由は明らかではないが、耐汚れ性に優れるという効果を奏する。
【0047】
[平版印刷版原版]
本発明の平版印刷版用支持体には、以下に例示する感光層、感熱層等の画像記録層を設けて本発明の平版印刷版原版とすることができる。画像記録層は、例えば、コンベンショナルポジタイプ、コンベンショナルネガタイプ、フォトポリマータイプ、サーマルポジタイプ、サーマルネガタイプ、機上現像可能な無処理タイプが好適に挙げられる。中でも、フォトポリマータイプの感光層が好ましい。以下、フォトポリマータイプの感光層について詳細に説明する。
【0048】
<下塗層>
本発明の平版印刷版用支持体と画像記録層との間には、必要に応じて、下塗層を設けることができる。
下塗層としては、例えば、有機下塗層が挙げられる。有機下塗層に用いられる有機化合物としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、アラビアガム、2−アミノエチルホスホン酸等のアミノ基を有するホスホン酸類;置換基を有してもよいフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アルキルホスホン酸、グリセロホスホン酸、メチレンジホスホン酸およびエチレンジホスホン酸等の有機ホスホン酸;置換基を有してもよいフェニルリン酸、ナフチルリン酸、アルキルリン酸およびグリセロリン酸等の有機リン酸エステル;置換基を有してもよいフェニルホスフィン酸、ナフチルホスフィン酸、アルキルホスフィン酸およびグリセロホスフィン酸等の有機ホスフィン酸;グリシン、β−アラニン等のアミノ酸類;トリエタノールアミン塩酸塩等のヒドロキシ基を有するアミンの塩酸塩が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0049】
また、下塗層として、水溶性樹脂(例えば、特開昭59−101651号公報に記載されているポリビニルホスホン酸、スルホン酸基等を側鎖に有する重合体および共重合体)、ポリアクリル酸、水溶性金属塩(例えば、ホウ酸亜鉛)、黄色染料、アミン塩等を設けることもできる。
更に、特開平7−159983号公報に記載されているようなラジカルによって付加反応を起こしうる官能基を共有結合させたゾル−ゲル処理層も好適に用いられる。
【0050】
また、下塗層の好適例として、特開2003−021908号公報に記載されているオニウム基を有する下塗層、耐水性の親水性層も挙げられる。このような表面層としては、例えば、米国特許第3055295号明細書および特開昭56−13168号公報に記載されている無機顔料と結着剤とからなる層、特開平9−80744号公報に記載されている親水性膨潤層、特表平8−507727号公報に記載されている酸化チタン、ポリビニルアルコール、ケイ酸類からなるゾルゲル膜が挙げられる。
親水性層は、平版印刷版用支持体の表面を親水性とするという目的以外に、画像記録層に用いられる感光性組成物の有害な反応を防ぐこと、画像記録層と支持体との密着性を向上させること等の目的で設けられる。
【0051】
下塗層の量は、乾燥後の被覆量で、0.5〜500mg/m2であるのが好ましく、1〜100mg/m2であるのがより好ましい。
【0052】
<バックコート層>
平版印刷版用支持体の裏面には、必要に応じて、バックコート層を設けることができる。バックコート層は、表面処理を施した後または下塗層もしくは画像記録層を形成させた後に行うことができる。
バックコート層としては、例えば、特開平5−45885号公報に記載されている有機高分子化合物、特開平6−35174号公報に記載されている有機金属化合物または無機金属化合物を加水分解および重縮合をさせて得られる金属酸化物からなる被覆層が好適に挙げられる。中でも、Si(OCH34、Si(OC254、Si(OC374、Si(OC494等のアルコキシシラン化合物を用いるのが、原料が安価で入手しやすい点で好ましい。
【0053】
<フォトポリマータイプの感光層>
フォトポリマータイプの感光層は、特に限定されず、例えば、従来公知のものを用いることができる。
フォトポリマータイプの感光層に好適に用いられる光重合型感光性組成物(以下、「光重合性組成物」という。)は、付加重合可能なエチレン性不飽和結合含有化合物(以下、単に「エチレン性不飽和結合含有化合物」という。)と、光重合開始剤とを必須成分として含有し、必要に応じて、高分子結合剤、着色剤、可塑剤、熱重合禁止剤等の種々の化合物を含有する。
【0054】
エチレン性不飽和結合含有化合物は、光重合性組成物が活性光線の照射を受けた時、光重合開始剤の作用により付加重合し、架橋し硬化するようなエチレン性不飽和結合を有する化合物である。エチレン性不飽和結合含有化合物は、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物の中から任意に選択することができ、例えば、モノマー、プレポリマー(即ち、2量体、3量体およびオリゴマー)、これらの混合物、これらの共重合体等の化学的形態を有する。モノマーの例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸)と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミドが挙げられる。またウレタン系付加重合性化合物も好適である。
【0055】
不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステルの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エ−テル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー;
【0056】
メタクリル酸エステルとして、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタアクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス[p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]ジメチルメタン、ビス−[p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル]ジメチルメタン;
【0057】
イタコン酸エステルとして、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,5−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等がある。クロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネート等がある。イソクロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネート;
【0058】
マレイン酸エステルとして、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレートが挙げられる。
【0059】
また、これらのエステルの混合物も挙げられる。
【0060】
また、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミドの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレシビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミドが挙げられる。
【0061】
エチレン性不飽和結合含有化合物のその他の例としては、特公昭48−41708号公報に記載されている、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に下記式(A)で示されるヒドロキシ基を含有するビニルモノマーを付加せしめた、1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物が挙げられる。
【0062】
CH2=C(R)COOCH2CH(R′)OH (A)
【0063】
(式中、RおよびR′は、それぞれ独立に、HまたはCH3を示す。)
【0064】
また、特開昭51−37193号公報および特公平2−32293号公報に記載されているようなウレタンアクリレート類、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号および特公昭52−30490号の各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能の(メタ)アクリレートが挙げられる。
更に、日本接着協会誌、20巻7号、p.300−308(1984年)に、光硬化性モノマーおよびオリゴマーとして紹介されているものも好適に使用することができる。
【0065】
エチレン性不飽和結合含有化合物の量は、感光層全体に対し、5〜80質量%であるのが好ましく、30〜70質量%であるのがより好ましい。
【0066】
光重合性組成物に含有される光重合開始剤としては、使用する光源の波長により、種々の光重合開始剤または2種以上の光重合開始剤の併用系(光開始系)を適宜選択して用いることができる。以下、このような光重合開始剤および光開始系について説明する。
【0067】
波長400nm以上の可視光線、Arレーザー、半導体レーザーの第2高調波またはSHG−YAGレーザーを光源とする場合にも、種々の光開始系が提案されており、例えば、米国特許第2,850,445号明細書に記載されている、ある種の光還元性染料(例えば、ローズベンガル、エオシン、エリスロシン);染料と開始剤との組み合わせによる系、例えば、染料とアミンの複合開始系(特公昭44−20189号公報)、ヘキサアリールビイミダゾールとラジカル発生剤と染料との併用系(特公昭45−37377号公報)、ヘキサアリールビイミダゾールとp−ジアルキルアミノベンジリデンケトンの系(特公昭47−2528号公報および特開昭54−155292号公報)、環状シス−α−ジカルボニル化合物と染料の系(特開昭48−84183号公報)、環状トリアジンとメロシアニン色素の系(特開昭54−151024号公報)、3−ケトクマリンと活性剤の系(特開昭52−112681号公報および特開昭58−15503号公報)、ビイミダゾール、スチレン誘導体、チオールの系(特開昭59−140203号公報)、有機過酸化物と色素の系(特開昭59−1504号公報、特開昭59−140203号公報、特開昭59−189340号公報、特開昭62−174203号公報、特公昭62−1641号公報および米国特許第4766055号明細書)、染料と活性ハロゲン化合物の系(特開昭63−258903号公報、特開平2−63054号公報等)、染料とボレート化合物の系(特開昭62−143044号公報、特開昭62−150242号公報、特開昭64−13140号公報、特開昭64−13141号公報、特開昭64−13142号公報、特開昭64−13143号公報、特開昭64−13144号公報、特開昭64−17048号公報、特開平1−229003号公報、特開平1−298348号公報、特開平1−138204号公報等)、ローダニン環を有する色素とラジカル発生剤の系(特開平2−179643号公報および特開平2−244050号公報)、チタノセンと3−ケトクマリン色素の系(特開昭63−221110号公報)、チタノセンとキサンテン色素更にアミノ基あるいはウレタン基を含む付加重合可能なエチレン性不飽和化合物を組み合わせた系(特開平4−221958号公報および特開平4−219756号公報)、チタノセンと特定のメロシアニン色素の系(特開平6−295061号公報)、チタノセンとベンゾピラン環を有する色素の系(特開平8−334897号公報)等を挙げることができる。
中でも、チタノセン化合物やヘキサアリールビイミダゾールを用いた系が好ましい。
【0068】
また、波長400〜410nmの波長のレーザー(バイオレットレーザー)が開発され、それに感応する波長450nm以下の光に高感度を示す光開始系が開発されている。例えば、カチオン色素/ボレート系(特開平11−84647号公報)、メロシアニン色素/チタノセン系(特開2000−147763号公報)、カルバゾール型色素/チタノセン系(特開2001−42524号公報)等の光開始系が挙げられる。
中でも、チタノセン化合物を用いた系が、感度の点で優れており好ましい。
【0069】
チタノセン化合物としては、種々のものを用いることができるが、例えば、特開昭59−152396号公報および特開昭61−151197号公報に記載されている各種チタノセン化合物から適宜選んで用いることができる。更に具体的には、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ジ−クロライド、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−フェニル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4,6−トリフルオロフエニ−1−イル、ジシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジ−フルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,4−ジ−フルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,3,4,5,6−テトラフルオロフェニ−1−イル、ジ−メチルシクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロフェニ−1−イル、ジ−シクロペンタジエニル−Ti−ビス−2,6−ジフルオロ−3−(ピル−1−イル)−フェニ−1−イル等を挙げることができる。
【0070】
更に、本発明に用いられる光重合開始剤に、必要に応じて、2−メルカプトベンズチアゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズオキサゾール等のチオール化合物;N−フェニルグリシン、N,N−ジアルキルアミノ芳香族アルキルエステル等のアミン化合物等の水素供与性化合物を加えることにより、更に光開始能力が高められる。
これらの光重合開始剤(系)の添加量は、エチレン性不飽和結合含有化合物100質量部に対し、0.05〜100質量部であるのが好ましく、0.1〜70質量部であるのがより好ましく、0.2〜50質量部であるのが更に好ましい。
【0071】
共増感剤を用いることで、感光層の感度を更に向上させることができる。その作用機構は、明確ではないが、多くは次のような化学プロセスに基づくものと考えられる。
即ち、先述の光重合開始系の光吸収により開始される光反応と、それに引き続く付加重合反応の過程で生じる様々な中間活性種(ラジカル、過酸化物、酸化剤、還元剤等)と、共増感剤とが反応し、新たな活性ラジカルを生成するものと推定される。
【0072】
共増感剤は、大きくは、以下の(a)〜(c)に分類されるが、個々の化合物がいずれに属するかに関しては、通説がない場合も多い。
(a)還元されて活性ラジカルを生成しうる化合物
(b)酸化されて活性ラジカルを生成しうる化合物
(c)活性の低いラジカルと反応し、より活性の高いラジカルに変換させ、または連鎖移動剤として作用する化合物
【0073】
(a)還元されて活性ラジカルを生成する化合物
還元されて活性ラジカルを生成する化合物としては、例えば、炭素−ハロゲン結合を有する化合物、窒素−窒素結合を有する化合物、酸素−酸素結合を有する化合物、オニウム化合物、フェロセン、鉄アレーン錯体類が挙げられる。
【0074】
炭素−ハロゲン結合を有する化合物は、還元的に炭素−ハロゲン結合が開裂し、活性ラジカルを発生すると考えられる。具体的には、例えば、トリハロメチル−s−トリアジン類や、トリハロメチルオキサジアゾール類が好適に挙げられる。
窒素−窒素結合を有する化合物は、還元的に窒素−窒素結合が解裂し、活性ラジカルを発生すると考えられる。具体的には、例えば、ヘキサアリールビイミダゾール類が好適に挙げられる。
酸素−酸素結合を有する化合物は、還元的に酸素−酸素結合が解裂し、活性ラジカルを発生すると考えられる。具体的には、例えば、有機過酸化物類が好適に挙げられる。
オニウム化合物は、還元的に炭素−ヘテロ結合や、酸素−窒素結合が解裂し、活性ラジカルを発生すると考えられる。具体的には、例えば、ジアリールヨードニウム塩類、トリアリールスルホニウム塩類、N−アルコキシピリジニウム(アジニウム)塩類が好適に挙げられる。
フェロセンおよび鉄アレーン錯体類は、いずれも還元的に活性ラジカルを生成しうる。
【0075】
(b)酸化されて活性ラジカルを生成する化合物
酸化されて活性ラジカルを生成する化合物としては、例えば、アルキルアート錯体、アルキルアミン化合物、含硫黄化合物、含スズ化合物、α−置換メチルカルボニル化合物、スルフィン酸塩類が挙げられる。
【0076】
アルキルアート錯体は、酸化的に炭素−ヘテロ結合が解裂し、活性ラジカルを生成すると考えられる。具体的には、例えば、トリアリールアルキルボレート類が好適に挙げられる。
アルキルアミン化合物は、酸化により窒素に隣接した炭素上のC−X結合が解裂し、活性ラジカルを生成するものと考えられる。Xとしては、水素原子、カルボキシ基、トリメチルシリル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。具体的には、例えば、エタノールアミン類、N−フェニルグリシン類、N−トリメチルシリルメチルアニリン類が挙げられる。
含硫黄化合物および含スズ化合物は、それぞれ、上述のアミン類の窒素原子を硫黄原子またはスズ原子に置き換えたものが、同様の作用により活性ラジカルを生成しうる。また、S−S結合を有する化合物もS−S解裂による増感が知られている。
α−置換メチルカルボニル化合物は、酸化により、カルボニル−α炭素間の結合解裂により、活性ラジカルを生成しうる。また、カルボニルをオキシムエーテルに変換したものも同様の作用を示す。具体的には、例えば、2−アルキル−1−[4−(アルキルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロノン−1類、これらとヒドロキシアミン類とを反応させた後、N−OHをエーテル化したオキシムエーテル類が挙げられる。
スルフィン酸塩類は、還元的に活性ラジカルを生成しうる。具体的には、例えば、アリールスルフィン酸ナトリウムが挙げられる。
【0077】
(c)活性の低いラジカルと反応し、より活性の高いラジカルに変換させ、または連鎖移動剤として作用する化合物
活性の低いラジカルと反応し、より活性の高いラジカルに変換させ、または連鎖移動剤として作用する化合物としては、例えば、分子内にSH、PH、SiH、GeHを有する化合物群が用いられる。これらは、低活性のラジカル種に水素供与して、ラジカルを生成させ、または酸化された後、脱プロトンすることによりラジカルを生成しうる。具体的には、例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール類が挙げられる。
【0078】
より具体的な共増感剤は、例えば、特開平9−236913号公報に、感度向上を目的とした添加剤として、多く記載されている。以下に、その一部を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
【化1】

【0080】
共増感剤に関しても、更に、感光層の特性を改良するための種々の化学修飾を行うことが可能である。
共増感剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
共増感剤の量は、エチレン性不飽和結合含有化合物100質量部に対し、0.05〜100質量部であるのが好ましく、1〜80質量部であるのがより好ましく、3〜50質量部であるのが更に好ましい。
【0081】
高分子結合剤は、光重合性組成物の皮膜形成剤として機能する。高分子結合剤としては、感光層がアルカリ現像液に溶解する必要があるため、アルカリ現像液に対し可溶性または膨潤性である有機高分子重合体が使用される。
有機高分子重合体は、例えば、水可溶性有機高分子重合体を用いると水現像が可能になる。このような有機高分子重合体としては、側鎖にカルボン酸基を有する付加重合体、例えば、特開昭59−44615号、特公昭54−34327号、特公昭58−12577号、特公昭54−25957号、特開昭54−92723号、特開昭59−53836号および特開昭59−71048号の各公報に記載されているもの、即ち、メタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0082】
また、同様に、側鎖にカルボキシ基を有する酸性セルロース誘導体が挙げられる。そのほかに、ヒドロキシ基を有する付加重合体に環状酸無水物を付加させたものが好適に挙げられる。
【0083】
中でも、ベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸と必要に応じて用いられるその他の付加重合性ビニルモノマーとの共重合体、アリル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸と必要に応じて用いられるその他の付加重合性ビニルモノマーとの共重合体が好ましい。
そのほかに、水溶性有機高分子重合体として、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド等が有用である。
また、硬化皮膜の強度を上げるためにアルコール可溶性ポリアミドや2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンとエピクロロヒドリンのポリエーテル等も有用である。
また、特公平7−120040号、特公平7−120041号、特公平7−120042号、特公平8−12424号、特開昭63−287944号、特開昭63−287947号、特開平1−271741号および特開平11−352691号の各公報に記載されているポリウレタン樹脂も有用である。
特に、(メタ)アクリル構造単位またはウレタン構造単位を有する重合体が好ましい。
【0084】
有機高分子重合体は、側鎖にラジカル反応性基(架橋性基)を導入することにより、硬化皮膜の強度を向上させることができる。付加重合反応しうる官能基としては、エチレン性不飽和結合基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。光照射によりラジカルになりうる官能基としては、メルカプト基、チオール基、ハロゲン原子、トリアジン構造、オニウム塩構造等が挙げられる。極性基としては、カルボキシ基、イミド基等が挙げられる。
付加重合反応しうる官能基としては、アクリル基、メタクリル基、アリル基、スチリル基等エチレン性不飽和結合基が好ましい。また、アミノ基、ヒドロキシ基、ホスホン酸基、リン酸基、カルバモイル基、イソシアネート基、ウレイド基、ウレイレン基、スルホ基、アンモニオ基から選ばれる官能基も有用である。
特に、(メタ)アクリル構造単位またはウレタン構造単位を有する重合体であり、側鎖に架橋性基を有するものが好ましい。
【0085】
高分子結合剤は、光重合性組成物の現像性を維持するために、重量平均分子量が5000〜30万であるのが好ましく、また、酸価が20〜200であるのが好ましい。
高分子結合剤は、光重合性組成物中に任意な量を含有させることができるが、画像強度等の点で、感光層全体に対し、90質量%以下であるのが好ましく、10〜90質量%であるのがより好ましく、3〜80質量%であるのが更に好ましい。
また、エチレン性不飽和結合含有化合物と高分子結合剤の質量比は、1/9〜9/1であるのが好ましく、2/8〜8/2であるのがより好ましく、3/7〜7/3であるのが更に好ましい。
【0086】
本発明においては、光重合性組成物の製造中または保存中においてエチレン性不飽和結合含有化合物の不要な熱重合を防止するために、光重合性組成物が少量の熱重合禁止剤を含有するのが好ましい。
熱重合禁止剤としては、例えば、ハロイドキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン第一セリウム塩、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩が好適に挙げられる。
熱重合禁止剤の含有量は、感光層全体に対し、約0.01〜約5質量%であるのが好ましい。
【0087】
また、必要に応じて、酸素による重合阻害を防止するために、ベヘン酸、ベヘン酸アミド等の高級脂肪酸誘導体等を含有させて、光重合性組成物の塗布後の乾燥の過程で感光層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸誘導体等の含有量は、感光層全体に対し、約0.5〜約10質量%であるのが好ましい。
【0088】
更に、感光層の着色を目的として、着色剤を含有してもよい。着色剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料(例えば、C.I.Pigment Blue 15:3、15:4および15:6)、アゾ系顔料、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料;エチルバイオレット、クリスタルバイオレット、アゾ染料、アントラキノン系染料、シアニン系染料等の染料が挙げられる。光重合性組成物における着色剤の含有量は、約0.5〜約20質量%であるのが好ましい。
更に、硬化皮膜の物性を改良するために、無機充填剤;ジオクチルフタレート、ジメチルフタレート、トリクレジルホスフェート等の可塑剤等の添加剤を含有してもよい。光重合性組成物におけるこれらの添加剤の含有量は、10質量%以下であるのが好ましい。
【0089】
感光層の形成に際しては、上記各成分を溶媒に溶解させ、または分散させ、感光層用塗布液を調製する。
溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、エチレンジクロライト、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシプロパノール、メトキシメトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート−3−メトキシプロピルアセテート、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル等の有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは2種以上を混合させて用いることができる。
感光層用塗布液は、固形分濃度が1〜50質量%であるのが好ましい。
感光層用塗布液は、塗布面質を向上するために界面活性剤を含有することができる。
【0090】
感光層の乾燥後の被覆量は、約0.1〜約10g/m2であるのが好ましく、0.3〜5g/m2であるのがより好ましく、0.5〜3g/m2であるのが更に好ましい。
【0091】
<保護層>
感光層の上には、水溶性ポリマーを含有する保護層を設けるのが好ましい。保護層が含有する水溶性ポリマーとしては、例えば、比較的、結晶性に優れた水溶性高分子化合物を用いるのが好ましい。具体的には、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリアクリル酸等の水溶性ポリマーが挙げられる。中でも、ポリビニルアルコールを主成分として用いるのが、酸素しゃ断性、除去性等の基本特性が優れたものになる点で好ましい。
ポリビニルアルコールは、必要な酸素しゃ断性と水溶性を付与するため、未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテルおよびアセタールで置換されていてもよい。また、同様に一部が他の共重合成分を有していてもよい。ポリビニルアルコールの好ましい具体例としては、71〜100%加水分解され、分子量が300〜2400の範囲のものが挙げられる。
【0092】
具体的には、クラレ社製のPVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117H、PVA−120、PVA−124、PVA−124H、PVA−CS、PVA−CST、PVA−HC、PVA−203、PVA−204、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−217EE、PVA−217E、PVA−220E、PVA−224E、PVA−405、PVA−420、PVA−613およびL−8が挙げられる。
【0093】
保護層の成分、塗布量等は、酸素しゃ断性および除去性のほか、カブリ性、密着性、耐傷性等を考慮して選択される(例えば、PVAの選択、添加剤の使用)。
一般的には、使用するPVAの加水分解率が高いほど(即ち、保護層中の未置換ビニルアルコール単位含率が高いほど)、また、膜厚が厚いほど、酸素しゃ断性が高くなり、感度の点で有利である。しかしながら、極端に酸素しゃ断性を高めると、製造時や保存時に不要な重合反応が生じたり、また画像露光時に、不要なカブリや画線の太りが生じたりするという問題を生じうる。また、画像記録層との密着性や、耐傷性も版の取り扱い上極めて重要である。即ち、水溶性ポリマーからなる親水性の層を親油性の重合層に積層すると、接着力不足による膜はく離が発生しやすく、はく離部分が酸素の重合阻害により膜硬化不良等の欠陥を引き起こしうる。
【0094】
保護層における水溶性ポリマーの量は、保護層全体に対し、40〜100質量%であるのが好ましく、80〜95質量%であるのがより好ましい。
【0095】
保護層の乾燥後の被覆量は、0.1〜10g/m2であるのが好ましく、0.5〜5g/m2であるのがより好ましい。
【0096】
保護層については、従来公知の技術を用いることができ、例えば、以下に述べるような技術を挙げることができる。
保護層は、感光層中で露光により生じる画像形成反応を阻害する大気中に存在する酸素や塩基性物質等の低分子化合物の感光層への混入を防止し、大気中での露光を可能とする。したがって、このような保護層に望まれる特性は、酸素等の低分子化合物の透過性が低いことであり、更に、露光に用いる光の透過は実質阻害せず、感光層との密着性に優れ、かつ、露光後の水洗により容易に除去することができることが好ましい。この点について、米国特許第3,458,311号明細書および特開昭55−49729号公報に記載されている保護層に関する技術を応用することができる。
【0097】
また、感光層と保護層との接着性を改善すべく種々の提案がなされている。例えば、十分な接着性を得るために、主にポリビニルアルコールからなる親水性ポリマー中に、アクリル系エマルジョンまたは水不溶性ビニルピロリドン−ビニルアセテート共重合体等を20〜60質量%混合させ、重合層の上に積層することが提案されている。
【0098】
保護層の塗布方法については、例えば、米国特許第3,458,311号明細書および特開昭55−49729号公報に詳しく記載されている方法を用いることができる。
【0099】
更に、保護層に他の機能を付与することもできる。例えば、露光に使用する光の透過性に優れ、かつ、波長550nm以上の光を効率よく吸収しうる着色剤(例えば、水溶性染料)を含有させることにより、感度低下を起こすことなく、セーフライト適性を更に高めることができる。
【0100】
<平版印刷版の製造方法>
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層に応じた種々の処理方法により、平版印刷版とされる。
一般には、像露光を行う。像露光に用いられる活性光線の光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプが挙げられる。レーザビームとしては、例えば、ヘリウム・ネオンレーザ(He−Neレーザ)、アルゴンレーザ、クリプトンレーザ、ヘリウム・カドミウムレーザ、KrFエキシマーレーザ、半導体レーザ、YAGレーザ、YAG−SHGレーザが挙げられる。
上記露光の後、画像記録層がフォトポリマータイプである場合は、露光した後、現像液を用いて現像して平版印刷版を得るのが好ましい。現像液は、アルカリ現像液であるのが好ましい。
【実施例】
【0101】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
1.平版印刷版用支持体の作製
(実施例1〜5および比較例1〜5)
Si:0.06質量%、Fe:0.30質量%、Mn:0.001質量%、Mg:0.001質量%、Zn:0.001質量%、Ti:0.03質量%を含有し、Cu量が第1表に示される量であり、残部はAlと不可避不純物のアルミニウム合金を用いて溶湯を調製し、溶湯処理およびろ過を行った上で、厚さ500mm、幅1200mmの鋳塊をDC鋳造法で作成した。表面を平均10mmの厚さで面削機により削り取った後、550℃で、約5時間均熱保持し、温度400℃に下がったところで、熱間圧延機を用いて厚さ2.7mmの圧延板とした。更に、連続焼鈍機を用いて熱処理を500℃で行った後、冷間圧延で、厚さ0.24mmのアルミニウム板に仕上げた。このアルミニウム板を幅1030mmにした後、以下に示す表面処理(a)〜(f)を連続的に行った。
【0102】
(a)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液(温度70℃)でスプレーによるエッチング処理を行い、アルミニウム板を6g/m2溶解した。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0103】
(b)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマットに用いた硝酸水溶液としては、電気化学的粗面化処理工程の廃液を用いた。
【0104】
(c)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、第1表に示される濃度および温度の硝酸水溶液中であった。交流電源波形は、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、DUTY比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電気量(アルミニウム合金板が陽極時の電気量の総和)は、第1表に示されるとおりであった。電流密度は電流のピーク値で30A/dm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0105】
(d)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度1質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液(温度32℃)でスプレーによるエッチング処理を行い、アルミニウム板を0.20g/m2溶解し、電気化学的粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0106】
(e)デスマット処理
温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
【0107】
(f)陽極酸化処理
その後、温度33℃の15質量%硫酸水溶液中で、電流密度5A/dm2で、45秒間直流電解して陽極酸化皮膜を形成させ、平版印刷版用支持体を得た。
【0108】
2.平版印刷版用支持体の表面形状
(1)平均ピット径
上記で得られた平版印刷版用支持体の表面について、以下のようにして平均ピット径を算出した。結果を第1表に示す。
SEMを用いて平版印刷版用支持体の表面を傾斜角0°、倍率2000倍で撮影した。得られたSEM写真をスキャナー等でコンピュータに画像データとして取り込み、画像処理ソフト等を用いて、画像調整および二値化処理を行い、各ピットの等価円直径を求め、その平均値を平均ピット径とした。
【0109】
(2)表面積差
上記で得られた平版印刷版用支持体の表面について、以下のようにして表面積差ΔSを算出した。結果を第1表に示す。
【0110】
(i)原子間力顕微鏡による表面形状の測定
xおよびS0を求めるために、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)により表面形状を測定し、3次元データを求めた。
平版印刷版用支持体を1cm角の大きさに切り取って、ピエゾスキャナー上の水平な試料台にセットし、カンチレバーを試料表面にアプローチし、原子間力が働く領域に達したところで、XY方向にスキャンし、その際、試料の凹凸をZ方向のピエゾの変位でとらえた。ピエゾスキャナーは、XY方向について150μm、Z方向について10μm、走査可能なものを使用した。カンチレバーは共振周波数120〜400kHz、バネ定数12〜90N/mのもの(SI−DF20、セイコーインスツルメンツ社製、NCH−10、NANOSENSORS社製、または、AC−160TS、オリンパス社製)を用い、DFMモード(Dynamic Force Mode)で測定した。また、求めた3次元データを最小二乗近似することにより試料のわずかな傾きを補正し基準面を求めた。
計測の際は、表面の50μm□を512×512点測定した。XY方向の分解能は0.1μm、Z方向の分解能は0.15nm、スキャン速度は50μm/secとした。
【0111】
(ii)表面積差ΔSの算出
上記(i)で求められた3次元データ(f(x,y))を用い、隣り合う3点を抽出し、その3点で形成される微小三角形の面積の総和を求め、実面積Sxとした。表面積差ΔSは、得られた実面積Sxと幾何学的測定面積S0とから、上記式(1)により求めた。
【0112】
3.平版印刷版原版の作製
(1)下塗層の形成
上記で得られた平版印刷版用支持体に、下記組成の下塗層用塗布液をワイヤーバーで塗布し、温風式乾燥装置により90℃で30秒間乾燥させ、下塗層を形成させた。乾燥後の被覆量は10mg/m2であった。
【0113】
<下塗層用塗布液組成>
・エチルメタクリレート/2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム塩共重合体(モル比75/25、重量平均分子量1.8万) 0.1g
・2−アミノエチルホスホン酸 0.1g
・メタノール 50g
・イオン交換水 50g
【0114】
(2)感光層の形成
上記下塗層上に、下記組成の感光層用塗布液を、乾燥後の被覆量が0.15g/m2になるように、ホイラーで塗布し、100℃で1分間乾燥させて感光層を形成させた。
【0115】
<感光層用塗布液組成>
・ペンタエリスリトールテトラアクリレート(エチレン性不飽和結合含有化合物) 1.5g
・下記式で表される高分子結合剤 1.8g
【0116】
【化2】

【0117】
・下記式で表される増感色素 0.1g
【0118】
【化3】

【0119】
・下記式で表される重合開始剤 0.15g
【0120】
【化4】

【0121】
・下記式で表される増感助剤 0.2g
【0122】
【化5】

【0123】
・下記組成の着色顔料分散物 1.5g
・N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン(熱重合禁止剤) 0.01g
・界面活性剤(メガファックF176、大日本インキ化学工業社製) 0.02g
・メチルエチルケトン 20.0g
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 20.0g
【0124】
<着色顔料分散物組成>
・Pigment Blue 15:6 15質量部
・アリルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(モル比83/17) 10質量部
・シクロヘキサノン 15質量部
・メトキシプロピルアセテート 20質量部
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 40質量部
【0125】
(3)保護層の形成
上記感光層上に下記組成の保護層用塗布液を、乾燥後の被覆量が2g/m2となるように塗布し、100℃で2分間乾燥させて保護層を形成させ、平版印刷版原版を得た。
【0126】
<保護層用塗布液組成>
・ポリビニルアルコール(ケン化度98モル%、重合度550) 4g
・ポリビニルピロリドン(重量平均分子量10万) 1g
・水 95g
【0127】
4.露光および現像処理
波長405nmのバイオレットLD(FFEI社製バイオレットボクサー)で90μJ/cm2の露光量で、2438dpiにて300線/インチの条件で、平版印刷版原版に、網点画像を走査露光した。
ついで、現像液(DV−2、富士写真フイルム(株)製)をpH11.95に調整し、フィニッシングガム液(FP−2W、富士写真フイルム(株)製)を仕込んだ自動現像機(LP−850P2、富士写真フイルム(株)製)で標準処理により、現像処理を行い、平版印刷版を得た。プレヒートの条件は、版面到達温度が100℃、現像液温が30℃、現像液への浸せき時間が約15秒であった。
【0128】
5.平版印刷版の評価
上記で得られた平版印刷版の耐汚れ性、耐刷性および2%網点サイズを下記の方法で評価した。
【0129】
(1)耐汚れ性
ハイデルベルグ社製印刷機SOR−Mで、大日本インキ化学工業社製のGEOS−G(N)墨のインキを用いて印刷し、1万枚印刷した後におけるブランケットの汚れを目視で評価した。
結果を第1表に示す。耐汚れ性をブランケットの汚れの程度が少ない方からA、B、C、Dの4段階で評価した。
【0130】
(2)耐刷性
小森コーポレーション社製のリスロン印刷機で、大日本インキ化学工業社製のDIC−GEOS(N)墨のインキを用いて印刷し、ベタ画像の濃度が薄くなり始めたと目視で認められた時点の印刷枚数により、耐刷性を評価した。
結果を第1表に示す。
【0131】
(3)2%網点サイズ
上記で得られた平版印刷版において、露光した網点の面積率が2%である部分における画像部の面積をデジタルドットメータ(ccDot、センターファクス社製、測定値を0.5%刻みで表示)で測定し、その部分の全体の面積(画像部および非画像部の合計の面積)で除して、2%網点サイズを算出した。5箇所について2%網点サイズを算出し、平均値を求めた。
結果を第1表に示す。
【0132】
第1表から明らかなように、本発明の平版印刷版用支持体(実施例1〜5)を用いた本発明の平版印刷版原版は、アルミニウム合金板のCu量が多い場合(比較例5)と同等以上の耐汚れ性および耐刷性を有しており、また、2%網点サイズ(ハイライト領域にける網点サイズ)が設定値のとおりとなった。
これに対し、平均ピット径が小さすぎる場合(比較例1および2)、大きすぎる場合(比較例4)および表面積差が小さすぎる場合(比較例1〜4)は、いずれも耐刷性に劣り、また、2%網点サイズが設定値より小さかった。
【0133】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板に、硝酸を含有する水溶液中での交流を用いた電気化学的粗面化処理を含む表面処理を施して得られる平版印刷版用支持体であって、
前記アルミニウム合金板におけるCuの含有量が50ppm以下であり、
前記電気化学的粗面化処理により形成されたピットの平均ピット径が1.1〜1.4μmであり、
原子間力顕微鏡を用いて、表面の50μm×50μmの範囲を512×512点測定して得られる3次元データから近似三点法により求められる実面積Sxと、幾何学的測定面積S0とから、下記式(1)により求められる表面積差ΔSが40%以上である、平版印刷版用支持体。
ΔS=(Sx−S0)/S0×100(%) (1)
【請求項2】
前記電気化学的粗面化処理が、硝酸濃度11〜17g/Lおよび温度30〜40℃の前記硝酸を含有する水溶液中で、電気量がアルミニウム合金板が陽極時の電気量の総和で210〜270C/dm2となるように行われる、請求項1に記載の平版印刷版用支持体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の平版印刷版用支持体上に、付加重合可能なエチレン性不飽和結合含有化合物と光重合開始剤とを含有する感光層を有する、平版印刷版原版。
【請求項4】
アルミニウム合金板に、硝酸を含有する水溶液中での交流を用いた電気化学的粗面化処理を含む表面処理を施して、平版印刷版用支持体を得る、平版印刷版用支持体の製造方法であって、
前記アルミニウム合金板におけるCuの含有量が50ppm以下であり、
前記電気化学的粗面化処理が、硝酸濃度11〜17g/Lおよび温度30〜40℃の前記硝酸を含有する水溶液中で、電気量がアルミニウム合金板が陽極時の電気量の総和で210〜270C/dm2となるように行われ、
前記電気化学的粗面化処理により形成されたピットの平均ピット径が1.1〜1.4μmであり、
前記平版印刷版用支持体において、原子間力顕微鏡を用いて、表面の50μm×50μmの範囲を512×512点測定して得られる3次元データから近似三点法により求められる実面積Sx50と、幾何学的測定面積S050とから、下記式(1)により求められる表面積差ΔS50が40%以上である、平版印刷版用支持体の製造方法。
ΔS50=(Sx50−S050)/S050×100(%) (1)

【公開番号】特開2007−196626(P2007−196626A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20788(P2006−20788)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】