説明

平面トライボ研磨方法、およびその装置

【課題】IT向け液晶パネル、ハードディスク、光学機器向け周波数カット用フィルター等に使用されるガラス基板や医療機器産業に用いられるガラスや次世代パワーデバイス向け半導体基板材料であるSiC基板やLED照明用基板として用いられているサファイア基板、発信器基板の水晶基板など多くの高脆性材料を、高品位に高速に仕上げることができ、更にはレアアースの一種である酸化セリウム等の使用量を抑制することも可能な平面トライボ研磨方法、およびその装置を提供する。
【解決手段】本発明は、自転運動しつつ摺動又は楕円運動を行う複数の上定盤を、それぞれの下面を同一面状上に並設して上定盤群を構成し、前記上定盤群に対向間隔を隔てて回転運動可能に下定盤を構成し、前記上定盤群及び下定盤をそれぞれ独立に回転させながら、その対向間隔に上方から電界を印加しつつキャリアに保持した被加工物を臨ませ、誘電性砥粒を水に分散させたスラリーを供給することにより被加工物の表面を研磨することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IT向け液晶パネル、ハードディスク、光学機器向け周波数カット用フィルター等に使用されるガラス基板や医療機器産業に用いられるガラスや次世代パワーデバイス向け半導体基板材料であるSiC基板やLED照明用基板として用いられているサファイア基板、発信器基板の水晶基板など多くの高脆性材料を、高品位に短時間に仕上げることができ、更にはレアアースの一種である酸化セリウム等の使用量を抑制することも可能なる平面トライボ研磨方法、およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高機能なガラス基板や半導体基板の製造工程に、表面の研磨加工は必要不可欠な工程である。例えばハードディスク用の平面ガラス基板や液晶用のガラス基板、その特性上、平坦性や小さな表面粗さ及び無欠陥が要求されるため高精度な表面研磨が求められている。
このような高精度の表面研磨の要求に対し、砥石を用いる研磨方法では、微細なスクラッチ痕が発生するという欠点があった。
これに対し、遊離砥粒(スラリー)を用いる研磨方法では、前記欠点を生じないが、研磨定盤によって発生する遠心力によって、砥粒が研磨外へと飛散するという問題が生じていた。このように、遊離砥粒(スラリー)を用いる研磨方法は、加工効率の低い工法であることが知られていた。
【0003】
従来、研磨砥粒を分散させた流体、すなわちスラリーを用いて表面を仕上げるためには遊離砥粒を用いる研磨を行う方法が知られていたが、前述のように高い生産性が得られていないという現状がある。これは、スラリーに含まれる砥粒が研磨試料に十分に良好に作用していないためと見込まれる。
ガラスの研磨に用いられる砥粒は、二酸化ケイ素、酸化鉄、酸化ジルコニウム等が知られ、特に希土類酸化物を主成分とする酸化セリウムが多用されている。この酸化セリウムは、輸入品のため価格の変動が生じ易く、その結果、研磨工程におけるランニングコスト変動要因を含んでいる。
酸化セリウムが多用される理由には、他の素材に比べて研磨速度が優れていること、また試料との化学的な反応による研磨特性を有し、かつ比較的やわらかいため素材のため、試料にダメージを与える原因が抑えられていることが挙げられる。現状では、これらの砥粒の溶媒には、純水等が用いられている。
【0004】
しかしながら、酸化セリウム(セリウム系研磨材)を用いても、従来のガラス基板の研磨速度は、一般に0.6〜1μm/分程度であり、研磨スピードが遅いという問題があった(特許文献1)。その原因は、前述のように回転する研磨定盤が発生する遠心力によって、砥粒が研磨外へと飛散するため、研磨時に作用する砥粒が散逸し、良好に機能してないためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3949147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようにスラリーに含まれる砥粒が研磨試料に十分に作用していない理由は、砥粒自体よりもむしろ研磨システム(研磨装置)にその原因があると見込まれる。従来の研磨装置による研磨メカニズムは、主に中心軸が配備され、その周りを遊星回転するキャリア治具に被加工物が取り付けられ、上下の定盤上のポリシングパッドが挟みながら、砥粒が転動するように相対運動を与える事で試料面は研磨加工が進行する。
しかし、このような従来技術では、試料に一般的なガラスの研磨レートは、高価な砥粒である酸化セリウムを砥粒として用いても、前述のように0.6〜1.0μm/分程度であった。ここで、従来のスラリー固体濃度としては、5〜15wt%が用いられている。そのため高いランニングコストが掛かるという問題もあった。しかも、ここで主に用いられる希少金属である酸化セリウムは高価な砥粒である。これらをより有効に作用させてその使用量を大幅に減らすこと、さらに高い要求としてそれらを不要化する技術開発が希求されている。
【0007】
そこで、前記従来の研磨システムにおける数々の問題点を解消でき、少ない砥粒で高い研磨効率を実現でき、被加工物、特にガラスや水晶等の高脆性材料を、高品位に高速に仕上げることができ、さらにはレアアースの一種である酸化セリウム等の使用量を抑制することも可能な平面トライボ研磨方法、およびその装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、研磨時に砥粒と試料が接触作用し易い環境を整える環境を作成する、すなわち砥粒が活発に転動機能を生じ易い環境を整えることが重要と考えた。そのために、外部よりスラリーに上方から電界を与えてクーロン力の作用によって、スラリーが吸引され見かけ上スラリーの重量が低下する。これにより回転する研磨定盤が発生する遠心力の作用が見かけ上低下し、スラリーの飛散を抑制することや研磨定盤へのスラリー流入作用、研磨面にスラリー分布が均一化することを見出した。
すなわち外部より与える電界は交番電界にて、例えば0V時には、通常の遠心力が作用し、研磨屑を研磨領域外へ排出が可能である。すなわちスラリーの流れを制御することが可能である。
また、砥粒の転動作用性を高め、良好な研磨レートを得るためには、研磨各定盤における試料と工具である研磨パッド間における回転速度の比を従来よりも5〜50倍程度高速化させることが有効であることを見出した。
この時、スラリーが試料面に容易に供給できるように、与える加工圧力は従来(通常加工圧力80〜150gr/cm2)の5〜50%程度に低下させることで良好な研磨レートを得るためには有効であることを見出した。このように低い加工圧のため、形成される加工変質層も抑制される。
また、用いたスラリー砥粒濃度は、従来方法の10〜50%程度、砥粒濃度は1〜5wt%である(通常濃度5〜10wt%)が貴重な砥粒を有効に作用することを見出した。
このような条件下で得られた研磨レートは従来方法に比べて約1.5〜3倍の研磨レートを得た。従来の一般的なガラスの研磨レートは、1.0μm/分以下である。本発明によると1.5〜3.0μm/分に向上させる事が可能なことを見出した。
すなわち、本発明は、上下に対向させた研磨定盤間に、キャリアに保持した被加工物を臨ませ、上方から電界を与えながら研磨定盤を高速に回転し、低加工圧下における研磨条件にて、用いるスラリー濃度は、従来の10〜50%程度の砥粒濃度でも高い研磨レートが得られる平面トライボ研磨方法、およびその装置を提案するものである。
【0009】
本発明は、上記に鑑み提案されたものであり、自転運動しつつ摺動又は楕円運動を行う複数の上定盤を、それぞれの下面を同一面状上に並設して上定盤群を構成し、前記上定盤群に対向間隔を隔てて回転運動可能に下定盤を構成し、前記上定盤群及び下定盤をそれぞれ独立に回転させながら、その対向間隔に上方から電界を印加しつつキャリアに保持した被加工物を臨ませ、誘電性砥粒を水に分散させたスラリーを供給することにより被加工物の表面を研磨することを特徴とする平面トライボ研磨方法に関するものである。
【0010】
より具体的には、後述する図示実施例に示すように被加工物を保持するための保持用窪みを備えるキャリアを上定盤に設け、下定盤には絶縁性ポリシングパッドを全面に張り、スラリーを上定盤の側面から供給するようにしてもよいし、両面研磨を行う場合には 下定盤の上にキャリアを設け 上・下定盤に穴あきパッドを張り、その穴を使ってスラリーを供給するようにしてもよい。
【0011】
また、本発明は、前記平面トライボ研磨方法において、用いるスラリー濃度は1〜5wt%とすることを特徴とする平面トライボ研磨方法をも提案する。
【0012】
さらに、本発明は、自転運動しつつ摺動又は楕円運動を行う機構を備える複数の上定盤を、それぞれの下面を同一面状上に並設して回転運動を行う機構を備える上定盤群を構成し、前記上定盤群に対向間隔を隔てて回転運動可能な機構を備える下定盤を構成し、前記対向間隔に上方から電界を印加する機構を臨ませ、前記複数の上定盤の下面又は前記下定盤の上面に、被加工物を保持可能なキャリアを取り付け、誘電性砥粒を水に分散させたスラリーの供給機構を前記対向間隔に臨ませてなることを特徴とする平面トライボ研磨装置をも提案する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の平面トライボ研磨方法及び装置は、上方から研磨領域(被加工物の表面近傍)に電界を印加することによって、電界で発生する吸引力によってスラリーに作用する遠心力が抑制され、定盤回転数を高速化してもスラリーが研磨領域に留まり易くなると共に、その飛散性が見かけ上抑制されることで、スラリーの配置分布の改善につながり、効率的且つ短時間に研磨が進行する。
また、研磨時におけるスラリー中の砥粒は、定盤回転数の高速化及び与える加工圧力の低減化によってより大きな相対運動が果たされ、砥粒が転動し易くなるため、摩擦摩耗によって研磨が進行し易い環境を提供する。さらに、スラリー砥粒濃度を薄くすることによってスラリー粘度が抑えられ、流動性が向上することで、砥粒の動き、すなわち転動性が良好に作用し、加工性が向上、合わせて加工屑の排出性も容易となり研磨品位並びに加工性の向上が得られる。そして、このような条件にて、得られる研磨レートは従来に比べて飛躍的に向上することができ、スラリー中の砥粒量を従来の1/5〜1/2に使用量を低下させることが可能となる。
さらに、与える電界は交流電界のため、その極性がマイナスまたはゼロの場合には、電界による吸引力が無くなるため、通常の遠心力が作用する。そのため、スラリーの遠心力による飛散性は維持されるので、この時、スラリーと共に加工屑を研磨領域外へ排出することができ、これによって効率的且つ迅速な研磨を継続でき、より迅速な研磨スピードが得られ、使用する砥粒は有効活用されるために砥粒の使用量、ならびにその寿命が大幅に延伸されるものである。また、スラリーに分散剤を2〜10wt%入れることにより、スラリー中の砥粒の沈降が避けられ、研磨箇所以外の不要部への砥粒の付着による砥粒の無駄を避ける効果並びに、電界による試料へのスラリー配置制御が可能となり、研磨効率が20〜50%程度向上する。また攪拌効果が生まれるため、砥粒が有効に作用し、長寿命効果も30〜50%得られる。
従来の研磨装置は上定盤が単独の構成となっているが、本発明ではこれを複数に増やした構成であり、各々の上下の定盤間において相対運動も確保できることから、各定盤にて差の無い研磨量が可能である。
【0014】
特にスラリー濃度を従来の1〜5wt%とした場合には、砥粒の研磨領域への侵入が容易になり、また砥粒の付着や凝集(固着)も解消でき、研磨領域における砥粒の転動性も高くなることが見込まれるため、従来技術の1.5〜3.0倍の研磨レートを得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電界印加0〜3kV時の被加工物と研磨パッド間における回転速度の比と研磨レートの関係を示すグラフである。
【図2】スラリー濃度における与えた印加電圧と研磨レートとの関係を示すグラフである。
【図3】スラリー濃度とその粘度特性との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の研磨装置の一例を原理的に示す斜視図である。
【図5】(a)本発明の研磨装置の上定盤の略円板状の電極形状を示す平面図、(b)略十字状の電極形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、上下に対向させた研磨定盤間に、キャリアに保持した被加工物を臨ませ、上方から電界を与えながら研磨定盤を高速に回転し、低加工圧下に、誘電性砥粒を水に分散させたスラリーを供給することによりスラリーが研磨領域(被加工物の表面近傍)に留まり易くなると共に、その飛散性が見かけ上抑制されることで、スラリーの配置分布の改善につながり、効率的且つ高速の研磨が進行し、高い研磨レートが得られるものである。
【0017】
上下に対向させる研磨定盤としては、自転運動しつつ摺動又は楕円運動を行う複数の上定盤を、それぞれの下面を同一面状上に並設して上定盤群を構成し、前記上定盤群に対向間隔を隔てて回転運動可能に下定盤を構成し、前記上定盤群及び下定盤をそれぞれ独立に回転させる態様を採用した。
【0018】
前記複数の上定盤は、それぞれ個別に(独立した)自転運動しつつ摺動又は楕円運動を行う機構を備え、絶縁板の下面に導体と絶縁体とを交互に配した電極板を固定し、その下面に絶縁性ポリシングパッドを取り付けてなる。
これらの上定盤を、それぞれの下面を同一面状上に並設して上定盤群を構成し、この上定盤群には独立に回転可能な機構が具備される。この上定盤は、下定盤の大きさに応じて任意の機構数を搭載可能とする。
前記下定盤は、絶縁板の上面に導体と絶縁体とを交互に配した電極板を固定し、その上面に絶縁性ポリシングパッドを取り付けてなり、独立に回転可能な機構が具備される。
また、何れか一方の定盤をアースに接地しても良い。
【0019】
キャリアは、上定盤に設けても下定盤に設けてもよいが、被加工物の大きさによって加工空間にて任意の枚数(複数枚)の被加工物を保持するものであればよい。
【0020】
スラリーの供給は、各定盤の内部から行うようにしてもよいし、外周部から研磨領域に行うようにしてもよく、或いは研磨定盤外から行うようにしてもよく、何れか一種以上を併用してもよい。
【0021】
スラリーとしては、誘電性砥粒を水に分散させたスラリーを使用する。
分散媒としての水は、廃液の処理の容易さ、安定性に優れ、環境に配慮したものであって、被加工物としてのガラスと親和性が高い点でも好適である。また、分散剤を用いて砥粒の沈降を抑制しても良い。
なお、本発明者らは、それまでシリコーンオイルに砥粒を分散させた流体を用いて研究してきたが、本発明では環境に配慮し、ガラスと親和性の高い水を使用した。また、シリコーンオイルは誘電率が3程度であるが、水は誘電率80と高く、メカノケミカル効果を出すことにより、研磨効率の向上が見込まれた。即ち水と砥粒を混合したスラリーを研磨に用いることで、メカノケミカル現象による研磨援用効果と砥粒による研磨現象により、合理的な研磨効果が得られることが見込まれた。また、砥粒を含んだスラリーは、電界を用いることにより誘電率が高い水に吸引力が作用し、この溶媒である水が砥粒の飛散を抑えることが見込まれた。これに対し、分散媒としてシリコーンオイルを用いた場合には、ガラスと同じ成分Siを含むため、シリコーンオイルのSiがガラスに付着し、砥粒の飛散は抑えられるが、研磨効率が低下する。
誘電性砥粒としては、硬度が被加工物の硬度と同等或いはそれ以上であるか、被加工物とメカノケミカル作用を有するものが用いられる。具体的には酸化セリウム、ダイアモンドやコランダム、エメリー、ザクロ石、珪石、焼成ドロマイト、溶融アルミナ、人造エメリー、炭化珪素、酸化ジルコニウムなど、或いはメカノケミカル研磨に使用される酸化クロムや酸化珪素、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、炭化マグネシウム、炭酸バリウム、酸化マンガンなどが挙げられる。
【0022】
本発明では、前述のように水を分散媒に用いるので、研磨過程、すなわちCMP(ケミカル・メカニカル・ポリシング)において、水ベースのスラリーの配置制御に必要な電界環境として電界の短絡を避ける必要がある。
そこで、上下定盤の材質は、金属製(導電性材料)を用い、絶縁処理を施して電極の役割を持たせる。さらに研磨装置本体とは絶縁部材にて締結することで、電界印加環境を整える。または、上定盤に絶縁処理を施し、下定盤は接地する方法でも良い。また、水ベーススラリー自体が電線となるため、両者定盤間でスラリーがクラスターを形成しないような処理を施す必要がある。すなわち、スラリーが連続して流れ、上定盤と下定盤間に掛かることで、同電位が形成され、電界の印加が困難となり、したがってスラリーを電界下に引き寄せる吸引力が発生しなくなる。
そのため、ポリシングパッド内に電極を形成することで、その交換が容易になることが見出された。
また、電極の形状は、図5(a)に示すように円形状でもよいし、さらにスラリーの流れを考慮して、図5(b)に示すように放射状の電極形状でも良好である。
定盤の構成については、研磨パッドの裏面に絶縁した薄片電極を配置し、これらを上下電極に配置する構成とする。
【0023】
なお、この方法では、例えば被加工物の厚みが増加すると、電極間距離もそれに応じて変化し、スラリーに効果的な砥粒配置特性を与えるためには高電圧を供給する必要があるケースが生じた。このようなケースを起こさないためには、導体と絶縁体とを交互に配して電極板とすればよい。
このように導体と絶縁体とを交互に配して電極板とする場合、絶縁被覆した2本の導線に絶縁体を挟み、円状に巻き付けて電極を構成する。そして、上定盤の下面や下定盤の上面にそれぞれ絶縁層及び前記構成の電極板を形成すればよい。
そして、導体及び絶縁体を交互に配して同心円状に配してもよいし、導体と絶縁体とを交互に配して小環状に配したものを、一つの大径の回転面に複数配してもよい。
そして、スラリーにクーロン力を作用させることにより、前記誘電性砥粒を含んだスラリーは研磨領域に集まり、砥粒に加工圧を提供しやすく、さらに砥粒が転動するように、相対速度を提供することで、滑らかに仕上ることができる。
このように、導体と絶縁体とを交互に配して電極板とする場合、誘電性砥粒を分散したスラリーが電極の絶縁体に集まり、被加工物の厚みが増加しても研磨領域に砥粒が安定に供給される。そのため、研磨定盤の回転によって生じる遠心力によって通常飛散する砥粒の飛散性が抑制され、それによって被加工物に与える加工圧は砥粒を介して供給が容易となる。被加工物とスラリー等によるメカニケミカル反応作用が合わさって、合理的な仕上げ技術が提供できる。
【0024】
特に砥粒が有効に転動作用を生じるための条件としては、各定盤の回転数を400〜1200rpmに高速化させると共に、加工圧力は研磨面に対して5〜60gr/cm2とし、用いるスラリー濃度は1〜5wt%程度に低濃度化する。
これらによって、砥粒濃度が1wt%にても、5wt%でも良好な研磨レートが得られた。すなわち従来の1.5倍〜3倍以上に向上することが見出された砥粒含有量は1wt%から5wt%では5倍異なるが、しかしながら研磨レートの向上は16%の増加であった。如何に砥粒が試料に作用しにくいかがここからも理解できる。(図1参照)
【0025】
被加工物と研磨パッド間における回転速度の比を従来よりも5〜50倍程度に高速化させることで、砥粒の転動作用性を高めることができる。すなわち、従来よりも定盤の回転を高速化させ、砥粒と被加工物とが摩擦摩耗によって研磨が進行し易い状態を呈するものである。
また、この時、前述の加工圧力は研磨面に対して5〜60gr/cm2すなわち、従来の5〜50%程度に低下させた条件にする。これによりスラリーが研磨領域に容易に供給することができ、砥粒の転動性が向上しし易くなる。これによって装置の剛性を低下させること可能になり装置の軽量化が可能となり、装置全体の価格低減化も図れる。
さらに、前述のようにスラリー内の砥粒濃度が1〜5wt%は、従来方法(スラリー濃度5〜10wt%)の10〜50%程度に低濃度化することによって、砥粒が研磨領域へその供給が容易化できる。また砥粒の付着や凝集(固着)も抑制でき、研磨領域における砥粒の転動性も高くなる。さらに電界を印加することによって、例えば回転速度比15において印加電圧3kV印加することで、無電界時の研磨レートより17%向上することを得た。これより電界を印加することで、砥粒濃度を1から5wt%に引き上げた時の研磨レートにほぼ等しいことがこれより得られたことになる。(図2参照)
【0026】
本発明に使用する砥粒としては、前述のように誘電性を有するものであれば酸化セリウムに限定するものではなく各種の誘電性砥粒を用いることができるが、酸化セリウムを用いてその使用量を抑える実験を行ったところ、従来技術のスラリー濃度は5〜10wt%であったが、本発明では1〜5wt%程度のスラリー濃度にて従来技術の1.5倍〜3.0倍の研磨レートを得られることを見出した。(図2参照)
【0027】
また、このときのスラリー温度の上昇は1.0度以下と低く、研磨時における試料が熱による形状変化が生じにくい環境であると考えられる。さらに、用いたスラリーの粘度はスラリーが1wt%の時にこれを1とすると、5wt%、では5倍10wt% 10倍(図3)と高くなることから、研磨時すなわち加工圧力下におけるスラリー供給は、スラリー濃度が濃いほど、研磨領域への侵入が困難になり、逆にスラリー濃度の低減化は研磨領域への侵入が容易になり、前述の高い研磨レートを得られたものと推察される。
【0028】
比重が大きく沈降し易い砥粒である酸化セリウムは、スラリー濃度が高い(濃い)場合では研磨に作用する以外の研磨装置の供給パイプや定盤下部に付着し易く、研磨時に発生したガラス加工屑と相俟って凝集性が高まり固着し、不要な研磨砥粒を発生している。また清掃作業に不要な負荷を与えている。逆にスラリー濃度が低い(薄い)場合にはこれらの問題を解消できるものと推察される。
また、粘度が大きくなると、研磨領域における摩擦抵抗が大きくなり、砥粒の転動性も抑制される。逆に粘度が小さいと砥粒の転動性も高い。
ここで、研磨パッドとしては、スエードパッドやポリウレタンパッドの表面を400番以下のドレス等で荒らすことで、その表面積を得ると事で、スラリー内の砥粒の巻き込みを容易にする処理が必要である。
このようにスラリー濃度を従来よりも低下させることで砥粒の運動性を向上し、高い研磨レートが得られ、研磨時の加工圧力が低いことから研磨による加工変質層の厚みも低下することが考えられる。電界下にて研磨定盤の運動性が優れると濃度が低いスラリーでも高い研磨特性が得られる。
【実施例】
【0029】
以下、図面の実施例に基づいて説明する。
図4に、本発明の研磨方法を実施する研磨装置の原理模式図を示す。
本発明の平面研磨装置を用いて研磨実験条件は表1に基づいて実施した。
上定盤は、回転しつつ中心位置よりX軸方向に0〜±25mmの直線上に往復移動するものとし、その摺動往復速度としては、10〜100mm/secの範囲とした。すなわち上定盤自体は、楕円軌道を描く旋回運動を行うものとした。
用いた酸化セリウム砥粒は、昭和電工製F-05(平均粒径0.5μm)固体濃度は1〜5w%にて実験した。
また、ここで、研磨加工圧としては53gr/cm2を用いた。
さらに、上定盤1の回転スピードは、400〜1200rpmとした。研磨パッドには酸化セリウム砥粒を含む発泡ポリウレタンパッド(ニッタハース製MH-C14)を用いた。このときの下定盤2の回転数は80rpm一定とし、上定盤1の大きさは上φ80、下定盤はφ140mmとした。
被加工物には ガラス板(無アルカリガラス基板 旭ガラス製)40×40×0.7mmを用いた。研磨時間は10分間とした。
既存の平面研磨装置における研磨除去量は、10分で6〜10μm程度の除去量が得られたのに対し、本発明の装置に電界3kVを印加しながら研磨することで、上定盤1の回転速度は、800〜1200rpmにて10分で15〜27μmの研磨除去量が得られることを確認できた。よって、研磨能力としては、2.5倍の研磨能力を有する平面研磨方法ならびに装置であることを確認した。仕上げ精度に関しては、粗さ200nmRaから1nmRaに仕上げることが可能であった。
上定盤は、自転運動しつつ旋回を行うものであり、それらの複数の上定盤群は、一体的に回転し、個々の上定盤はそれぞれ400〜1200rpmにて回転する。
【表1】

【0030】
以上本発明を図4の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない限りどのようにでも実施することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 上定盤公転駆動部(モータ)
2 上定盤自転主軸部(ビルトインモータ)
3 上定盤+キャリア+試料
4 上定盤公転方向
5 上定盤公転部
6 研磨パッド+下定盤
7 下定盤回転機構部
8 上定盤自転方向
9 上定盤公転動力伝達部
10 下定盤回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転運動しつつ摺動又は楕円運動を行う複数の上定盤を、それぞれの下面を同一面状上に並設して上定盤群を構成し、前記上定盤群に対向間隔を隔てて回転運動可能に下定盤を構成し、
前記複数の上定盤群及び下定盤をそれぞれ独立に回転させながら、その対向間隔に上方から電界を印加しつつキャリアに保持した被加工物を臨ませ、誘電性砥粒を水に分散させたスラリーを供給することにより被加工物の表面を研磨することを特徴とする平面トライボ研磨方法。
【請求項2】
用いるスラリー濃度は1〜5wt%とすることを特徴とする請求項1に記載の平面トライボ研磨方法。
【請求項3】
自転運動しつつ摺動又は楕円運動を行う機構を備える複数の上定盤を、それぞれの下面を同一面状上に並設して回転運動を行う機構を備える上定盤群を構成し、前記上定盤群に対向間隔を隔てて回転運動可能な機構を備える下定盤を構成し、前記対向間隔に上方から電界を印加する機構を臨ませ、
前記複数の上定盤の下面又は前記下定盤の上面に、被加工物を保持可能なキャリアを取り付け、誘電性砥粒を水に分散させたスラリーの供給機構を前記対向間隔に臨ませてなることを特徴とする平面トライボ研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−81529(P2012−81529A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227347(P2010−227347)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・部材イノベーションプログラム/環境安心イノベーションプログラム/希少金属代替材料開発プロジェクト」における委託研究,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【出願人】(510269263)株式会社小林機械製作所 (1)
【Fターム(参考)】