説明

平面パッドの製造方法

【課題】各種電子機器の入力操作部分として搭載され、指やペンなどによって入力操作される平面パッドに関し、操作エリア内の操作荷重のばらつきが少なく安定した出力を得られるものにできる平面パッドの製造方法を提供する。
【解決手段】対向配置基板10を、その対辺の幅より狭くした所定の幅の溝18Aを有する強制変形用治具18の溝18A部分に、上基板14側に中央部が凸状に湾曲するように撓めてはめ込んだ状態で熱処理を行い、塑性変形をさせ、その後、下基板11を固定基板16へ平板状に取り付ける製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器の入力操作部分として搭載され、指やペンなどによって入力操作される平面パッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器は高機能化が進み、これに伴い入力操作のし易さも要求されるようになっている。また、携帯用機器の普及に伴って、上記の良好な操作性を有し、かつ軽量な入力用電子部品として、平面パッドが好まれて使用されるようになってきた。
【0003】
このような従来の平面パッドについて、図6を用いて説明する。
【0004】
図6は従来の平面パッドの断面図であり、同図において、1は略方形で絶縁樹脂フィルムからなる下基板で、その上面には導電層1Aが形成されており、4は上記下基板1と同形状である略方形の絶縁樹脂フィルム製の上基板で、下面に上記下基板1と同様の導電層4Aが形成されている。
【0005】
そして上記下基板1と上基板4との間に所定間隔を維持するように、上下両面に粘着層2を備えた外形枠状の絶縁スペーサ3が略方形の下基板1と上基板4それぞれの外縁部に粘着されて両基板1、4を対向配置させている。
【0006】
この外形枠状の絶縁スペーサ3によって囲まれた内側の範囲が、指またはペンによって押圧操作される入力可能範囲(操作エリア)となる。
【0007】
そして、下基板1の導電層1Aと上基板4の導電層4Aそれぞれに所定の電圧を印加できるように、導電層1Aには導出部1Bが、導電層4Aには導出部4Bが電気的に接続されてそれぞれの基板1、4の端部に導出されている。
【0008】
そして、上記下基板1の下面を粘着層5で固定基板6上に粘着させて、平面パッド7が構成されている。
【0009】
以上の構成において、下基板1の導電層1Aと上基板4の導電層4Aにそれぞれ所定の電圧を印加した状態で、上基板4の上面を指またはペンで押圧操作すると、上基板4の操作された箇所が部分的に下方に撓んで、その下面の導電層4A部分が下基板1の導電層1Aに接触して、導電層4Aと導電層1Aが電気的に接続され、導出部1Bと導出部4B間で上記押圧位置に応じた所定の出力が得られるものであった。
【0010】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1、特許文献2が知られている。
【特許文献1】特開2002−202855号公報
【特許文献2】特開2003−216316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら上記従来の平面パッド7において、外形枠状の絶縁スペーサ3の配された操作エリアの外縁部近傍では、絶縁樹脂フィルムである上基板4の撓みが得られ難くなるため、操作エリアの中央部に比べて操作荷重が重くなり、操作エリア内で操作荷重が不均一となって、操作性が悪く安定した出力が得られ難いという課題があった。
【0012】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、操作エリア内の操作荷重のばらつきがなく、操作性の良い安定した出力が得られるものにできる平面パッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、以下の構成を有するものである。
【0014】
本発明の請求項1に記載の発明は、絶縁樹脂フィルムからなり、対向面に導電層が各々設けられた上基板と下基板が絶縁スペーサを介して所定間隔で対向配置され、上記下基板の下面が固定基板上に取り付けられた平面パッドにおいて、上記下基板の上記固定基板への取り付け前に、上記対向配置された上下基板を上記上基板側に凸形になるように強制変形させた状態で熱処理を行い、凸形に塑性変形をさせた後、上記固定基板上に上記下基板を強制的に平板状に取り付ける平面パッドの製造方法としたものであり、下基板を固定基板に強制的に平板状に取り付けることにより、上基板の塑性変形だけが現れたものにできる。つまり、上基板側は、外縁部の膨らみが少なく、中央部の膨らみが大きいドーム状に膨らんだ状態のものとなり、その膨らみが大きいほど操作荷重が大きくなるため、操作エリアの中央部と外縁部での操作荷重がほぼ均一なものにでき、操作性が良く安定した出力が得られるものにできる平面パッドの製造方法を提供できるという作用を有する。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において、対向配置された上下基板の幅より狭い幅の溝を有する強制変形用治具の上記溝内に、上記上下基板を撓ませながらはめ込んで強制変形させるようにしたものであり、簡易な方法で安定して凸形の塑性変形させたものに形成できるという作用を有する。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項2記載の発明において、上下基板の幅としての対辺間隔Aと強制変形用治具の溝幅Bとの比(B/A)を0.999〜0.980で設定したものであり、上記範囲で強制変形させた状態で熱処理を行うことにより、操作エリア内の操作荷重が均一的で、操作性が良く安定した出力が得られる最適な塑性変形形状のものを製造することができるという作用を有する。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1記載の発明において、熱処理の条件として、温度が50〜75℃、時間が0.5〜2時間で行うようにしたものであり、上記基板を上記熱処理条件のもとで塑性変形させると、長期に亘って上基板の凸形ドーム状の形状が安定して維持される平面パッドとすることができるという作用を有する。
【発明の効果】
【0018】
以上のように本発明によれば、絶縁樹脂フィルム製の上下基板を入力操作側となる上基板側に凸状に塑性変形させた後、下基板を固定基板へ平板状に取り付けるようにしたため、上基板が凸形のドーム状に緩やかな膨らみが維持されるものが実現でき、その膨らみによって操作エリアの中央部と外縁部での操作荷重の均一化が図れ、操作性の良い安定した出力が得られるものにできる平面パッドの製造方法を実現することができるという有利な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について、図1〜図5を用いて説明する。
【0020】
(実施の形態)
図1は本発明の一実施の形態による平面パッドの断面図である。
【0021】
同図において、11は、略方形で絶縁樹脂フィルム製の下基板で、その上面には導電層11Aが形成されており、上記下基板11と同形状の絶縁樹脂フィルム製の上基板14は、下基板11と同様の導電層14Aが下面に形成されている。そして、上記それぞれの導電層11A、14Aには各々導出部11B、14Bが接続されている。
【0022】
そして、13は、上下両面に粘着層12を備えた枠状の絶縁スペーサで、この絶縁スペーサ13で粘着固定されることにより、上記上下基板14,11は所定の間隔を維持するように上下位置で対向配置されている。なお、上記上基板14の絶縁スペーサ13より内側となる範囲が指またはペンによって入力操作される範囲(操作エリア)となることは、従来の技術の場合と同じである。
【0023】
そして、その対向配置された上下基板14、11の下基板11の下面は、粘着層15を介して固定基板16上に粘着固定されて、平面パッド17としてなされている。
【0024】
なお、以下の説明では、上記上下基板14、11が絶縁スペーサ13を介して所定間隔を維持して対向配置された状態のものを、対向配置基板10として説明する。
【0025】
そして、本発明による対向配置基板10の下基板11は、上記固定基板16上に設けられた粘着層15により平板状に粘着固定されている。一方、上基板14は枠状の絶縁スペーサ13に粘着された部分より内側の範囲において、その中央部が最も高くなるように上方に凸形のドーム状に膨らんでいるところが従来のものとは異なっている。
【0026】
なお、上記のように構成された平面パッド17は、上基板14の上面を指またはペンで押圧操作すると、操作箇所が部分的に撓んで、操作箇所の上基板14の導電層14A部分と下基板11の導電層11Aが接触導通して、それぞれの導出部11B、14B間で出力が得られる等の動作状態は従来のものと同様であるので詳細な説明は省略する。
【0027】
次に、このように構成された対向配置基板10を上基板14側に凸状に膨らんだ形状に強制変形させる製造方法について図2〜図4を用いて説明する。
【0028】
図2〜図4において、18は、上面に直線的に設けられた溝18Aを複数本備えている強制変形用治具であり、その溝18Aの幅B(図2参照)は、対向配置基板10の対辺間の幅A(図2参照)より狭い幅で配設されている。
【0029】
そして、この強制変形用治具18に対し、まず図2に示すように、対向配置基板10を、その対辺間の幅Aより狭い溝幅Bとした強制変形用治具18の溝18A部分に、上基板14側に中央部が凸状に湾曲するように全体的にアーチ状に撓めてはめ込む。
【0030】
なお、図3に、対向配置基板10を強制変形用治具18の溝18Aにはめ込んだ状態の断面図、図4にその外観斜視図を示す。
【0031】
次に、対向配置基板10を強制変形させた上記状態のまま、熱処理を行い、その熱処理によって可撓性を有する上下基板14、11に上方凸形の塑性変形を生じさせ、その形状を維持させる。
【0032】
そして、その塑性変形により上方凸形となった対向配置基板10を、図5に示すように、上面に粘着層15を備えた平板状の固定基板16に下基板11の下面を粘着固定する。
【0033】
このとき、対向配置基板10の塑性変形を戻す、つまり下基板11が平たくなるようにしながら、その下面全面を上記粘着層15で粘着固定させる。その下基板11の固定基板16上への粘着固定時に、上記下基板11の中間部分は、上方に向かう凸状の塑性変形状態であるが、上記粘着層15の粘着力により強制的に塑性変形部分を平板状に矯正しつつ固定基板16上に粘着固定させる。
【0034】
このとき、上基板14は絶縁スペーサ13で粘着された外周部を除いて中間部分に塑性変形が矯正されるほどの外力が加わらないため、上記枠状の絶縁スペーサ13により囲まれた範囲(操作エリア)は、中央部が最も高くなった凸形の緩やかな球面的なドーム状に膨らんだ状態が維持されたものとなる。
【0035】
このように、平板状の固定基板16に粘着固定された対向配置基板10において、下基板11は、固定基板16上の粘着層15により強制的に平板状に粘着固定されているものの、上基板14は、絶縁スペーサ13で粘着固定された外縁部を除いて下基板11との粘着状態になっていないため、結果として図1に示したように、上基板14が、上記下基板11に対して中央部が最も間隔が大きく、外周部が最も間隔が小さくなるように上方に凸状に撓んだ状態となった平面パッド17に構成することができる。
【0036】
そして、強制変形用治具18の溝18Aの幅寸法Bを可変することで自由に対向配置基板10の凸状の撓み量を可変することができるが、撓ませていない状態での対向配置基板10の対辺の幅寸法Aと強制変形用治具18の溝18の幅寸法Bとの比B/Aは、0.999〜0.980の範囲とするのが好ましく、操作エリアの中央部と外縁部近傍での操作荷重が均一的で安定した出力が得られるものにできる。
【0037】
なお、上記寸法比B/Aが、0.999より大きな値である場合は、中央部の膨らみ高さC(図2参照)が低くなり、操作エリアの中央部の操作荷重が大きくならないために外縁部近傍の操作荷重との差が小さくならず均一さに劣るものとなる。
【0038】
また逆に、寸法比B/Aが0.980より小さい場合は、中央部の膨らみ高さCが高くなり過ぎて、それに応じて操作荷重も大きくなるため、中央部を膨らませる前の操作荷重とは逆に、外縁部より中央部の操作荷重の方が大きくなりすぎて、この場合も均一さが劣るものとなる。
【0039】
そして、熱処理条件としては、対向配置基板10を強制変形用治具18にはめ込んだままで、温度は50〜75℃、時間は0.5〜2時間で行うことが望ましく、本来可撓性を有する上下基板14、11が塑性変形を生じ、上方に凸形の形状が安定して維持されるようにできる。そして、その対向配置基板10を固定基板16上に装着したものは、長時間の室温での放置または高温、高湿度環境下などへの放置をしても、上基板14が上方に凸状に膨らんだ形状を長期に亘って維持されたものとなる。
【0040】
また、熱処理の温度が50℃未満、また0.5時間未満の場合、対向配置基板10の塑性変形が十分促進されないため、撓み部分が復元してしまい、所定の膨らみ形状が得られなくなり、操作エリアの中央部と外縁部での操作荷重に差が多く、操作性がよくないものとなる。
【0041】
そして逆に、熱処理の温度が75℃を超える、また2時間を越える場合、熱処理後の膨らみ形状を所定の形状に保持することは十分可能となるが、このような高温、また長時間で熱処理した場合、導電層11A,14Aに通常用いられるカーボンペースト等の炭素系皮膜導電層の抵抗値が変化し、所定の出力が得られなくなる恐れがある。
【0042】
また、上下基板14、11を固定している粘着層12は比較的低温で軟化するアクリル系接着剤で形成されているものが多いため、75℃を超えるような高温で長時間加熱すると、熱処理中にその粘着保持力が低下し、上下基板14、11の剥離やズレが発生し易くなることも考慮する必要がある。
【0043】
なお、上記に説明した寸法比や熱処理条件などは、上下基板14と11の各々がポリエチレンテレフタレートの樹脂フィルムで、一辺が15mm〜100mm程度の略方形の対向配置基板10の場合に特に有用で、上記上下基板14、11が上方に凸状に膨らんだ形状に強制塑性変形されたものを容易に形成できる。その対向配置基板10の外形は、例えば、35mm×25mm等の長方形のものであってもよい。
【0044】
そして、上記対向配置基板10の上基板14上面に、絶縁樹脂シートを基材とするELシートやグラフィックシート等を貼り付けた状態のものとし、上記説明のように上方に凸状に膨らみをもたせるように強制変形をさせて、塑性変形状態のものに形成することも可能であり、このものとすると、操作エリア内における操作荷重のばらつきの少ない操作性に優れ、しかも貼り合わされたものの機能が付加されたものが実現できる。
【0045】
さらに、導電層11A、14Aを導電ペーストなどにより印刷形成するものであれば、上記導電ペーストの樹脂バインダとして、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることが望ましく、このような凸状に膨らんだ形状に強制変形させたり、熱処理を行っても導電層11A、14Aの割れや断線の発生を防止できる。
【0046】
また、上記の強制塑性変形された対向配置基板10の下基板11と固定基板16との間の固定方法は、粘着層15を介して粘着固定させるものに限られず、下基板11を固定基板16に強制的に平板状にするように取り付ける方法であればよい。
【0047】
以上のように本実施の形態によれば、対向配置基板10を上方に凸形状になるように強制変形した状態で加熱処理を行って塑性変形をさせ、下基板11を固定基板16に強制的に平板状に取り付けるのみで、指やペンでの入力側となる上基板14側が、外縁部の膨らみが少なく、中央部の膨らみが大きいドーム状に膨らんだ状態のものを容易に製造することができ、当該製造方法で製造した平面パッドは、操作エリア全面にわたってばらつきの少ない操作荷重で操作でき、安定した出力が得られるものにできる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明による平面パッドの製造方法は、絶縁樹脂フィルム製の上下基板を入力操作側となる方向に凸状に塑性変形させ、その後、下基板を固定基板へ平板状に取り付けるようにしたので、上基板に凸形のドーム状の緩やかな膨らみが維持されて、指やペンで入力した場合、操作エリアの中央部と外縁部近傍の操作荷重が均一的で、安定した出力が得られる平面パッドが製造できるという有利な効果を有し、各種電子機器の入力操作部分として搭載される平面パッド等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施の形態による平面パッドの断面図
【図2】同強制変形用治具にはめ込む状態を示す図
【図3】同はめ込んだ状態の断面図
【図4】同外観斜視図
【図5】同対向配置した上下基板を固定基板に装着する状態を示す断面図
【図6】従来の平面パッドの断面図
【符号の説明】
【0050】
10 対向配置基板
11 下基板
11A、14A 導電層
11B、14B 導出部
12、15 粘着層
13 絶縁スペーサ
14 上基板
16 固定基板
17 平面パッド
18 強制変形用治具
18A 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁樹脂フィルムからなり、対向面に導電層が各々設けられた上基板と下基板が絶縁スペーサを介して所定間隔で対向配置され、上記下基板の下面が固定基板上に取り付けられた平面パッドにおいて、上記下基板の上記固定基板への取り付け前に、上記対向配置された上下基板を上記上基板側に凸形になるように強制変形させた状態で熱処理を行い、凸形に塑性変形をさせた後、上記固定基板上に上記下基板を強制的に平板状に取り付ける平面パッドの製造方法。
【請求項2】
対向配置された上下基板の幅より狭い幅の溝を有する強制変形用治具の上記溝内に、上記上下基板を撓ませながらはめ込んで強制変形させるようにした請求項1記載の平面パッドの製造方法。
【請求項3】
上下基板の幅としての対辺間隔Aと強制変形用治具の溝幅Bとの比(B/A)を0.999〜0.980で設定した請求項2記載の平面パッドの製造方法。
【請求項4】
熱処理の条件として、温度が50〜75℃、時間が0.5〜2時間で行うようにした請求項1記載の平面パッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−18417(P2006−18417A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193648(P2004−193648)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】