説明

床敷き材用接着剤

以下a)ラジカル重合により得られるポリマー、b)三環式ジテルペン誘導体又は三環式ジテルペン誘導体の混合物(端的にまとめて三環式ジテルペンと呼称する)、c)有機酸の金属塩、d)場合により充填剤を含有する水性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下
a)ラジカル重合により得られるポリマー
b)三環式ジテルペン誘導体又は三環式ジテルペン誘導体の混合物(端的にまとめて三環式ジテルペンと呼称する)
c)有機酸の金属塩
d)場合により充填剤
を含有する水性組成物に関する。
【0002】
更に、本発明は、接着剤としての、特に床敷き材の接着のための該組成物の使用に関する。
【0003】
床敷き材用水性接着剤は一般に高分子バインダー及び充填剤を含有する。EP−A743965及びEP−A1201691から、有機溶剤又は可塑剤不含の接着剤は公知である。
【0004】
US6,706,789から、オキサゾリン基を有する架橋剤を含有する床敷き材用接着剤は公知であり;該接着剤は更に、乾性油(即ち不飽和油)及び金属カルボキシラートを乾燥促進剤として含有することができる。オキサゾリン基はバインダーの架橋をもたらし、金属カルボキシラートは付加的に乾性油の架橋(乾燥)を触媒する。
【0005】
従って、US6,706,789による接着剤は2種の架橋系及び多数の成分を含有する。
【0006】
少なくとも同じ良好な応用技術的特性をもたらす単純な架橋系が望まれている。
【0007】
可撓性床敷き材の場合、特に良好な湿態強度及びオープンタイムが応用技術的に重要である。良好な湿態強度とは、接着剤で被覆した支持体上に絨毯裏地を敷設した後で、最初はまだ調整及び位置の修正ができるが、しかし次いで直に滑らない接着が生じ、その強度は乾燥が進むと共に増大することを意味している。
【0008】
良好なオープンタイムとは、比較的長い換気時間の後でも、絨毯裏地をその時点で既に乾燥している支持体上に敷設した後に、強固な結合を生じることを意味する。
【0009】
従って、上記の要求を出来る限り十分に満たす接着剤が望まれる。
【0010】
これに応じて、冒頭で定義した組成物が見出された。接着剤としての、特に床敷き材用接着剤としての該組成物の使用も見出された。
【0011】
水性組成物は、少なくとも以下の成分:
a)ラジカル重合により得られるポリマー
b)三環式ジテルペン誘導体又は三環式ジテルペン誘導体の混合物(端的にまとめて三環式ジテルペンと呼称する)
c)有機酸の金属塩
d)場合により充填剤
を含有する。
【0012】
ポリマーa)に関して
ポリマーはエチレン性不飽和化合物(モノマー)のラジカル重合により得られる。
【0013】
ポリマーは有利に少なくとも40質量%までが、有利に少なくとも60質量%までが、特に有利に少なくとも80質量%までが、いわゆる主モノマーからなる。
【0014】
主モノマーは、C1〜C20アルキル(メタ)アクリラート、20個までのC原子を有するカルボン酸のビニルエステル、20個までのC原子を有するビニル芳香族化合物、エチレン性不飽和ニトリル、ハロゲン化ビニル、1〜10個のC原子を有するアルコールのビニルエーテル、2〜8個のC原子と1個又は2個の二重結合とを有する脂肪族炭化水素又は前記モノマーの混合物から選択される。
【0015】
アルキル(メタ)アクリラートとして、例えばC1〜C10−アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えばメチルメタクリラート、メチルアクリラート、n−ブチルアクリラート、エチルアクリラート及び2−エチルヘキシルアクリラートを挙げることができる。
【0016】
特に(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合物も好適である。
【0017】
1〜20個のC原子を有するカルボン酸のビニルエステルは、例えばビニルラウラート、ビニルステアラート、ビニルプロピオナート、バーサチック酸ビニルエステル及びビニルアセテートである。
【0018】
ビニル芳香族化合物として、ビニルトルエン、α−メチルスチレン及びp−メチルスチレン、α−ブチルスチレン、4−n−ブチルスチレン、4−n−デシルスチレン及び有利にはスチレンが該当する。ニトリルに関する例は、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルである。
【0019】
ハロゲン化ビニルは、塩素、フッ素又は臭素で置換されたエチレン性不飽和化合物、有利には塩化ビニル及び塩化ビニリデンである。
【0020】
ビニルエーテルとして、例えばビニルメチルエーテル又はビニルイソブチルエーテルを挙げることができる。1〜4個のC原子を有するアルコールのビニルエーテルは有利である。
【0021】
2〜8個のC原子と1個又は2個のオレフィン性二重結合とを有する脂肪族炭化水素として、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン及びクロロプレンが挙げられる。
【0022】
主モノマーとして、C1〜C20−アルキルアクリラート及びC1〜C20−アルキルメタクリラート、特にC1〜C10−アルキルアクリラート及びC1〜C10−アルキルメタクリラート及びビニル芳香族化合物、特にスチレン及びアルキル(メタ)アクリラートとスチレンとの混合物が有利である。
【0023】
メチルアクリラート、メチルメタクリラート、エチルアクリラート、n−ブチルアクリラート、n−ヘキシルアクリラート、オクチルアクリラート及び2−エチルヘキシルアクリラート、スチレン並びに前記モノマーの混合物は極めて特に有利である。
【0024】
特に有利に、ポリマーは少なくとも40質量%までが、特に少なくとも60質量%までが、極めて特に有利に少なくとも80質量%までが、C1〜C20、特にC1〜C10−アルキル(メタ)アクリラートからなる。
【0025】
主モノマーの他に、ポリマーは他のモノマー、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基又はホスホン酸基を有するモノマーを含有してよい。カルボン酸基は有利である。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸又はフマル酸が挙げられる。
【0026】
他のモノマーは、例えばヒドロキシル基を有するモノマー、特にC1〜C10−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリラート、(メタ)アクリルアミドである。
【0027】
他のモノマーとして、更に、フェニルオキシエチレングリコールモノ−(メタ−)アクリラート、グリシジルアクリラート、グリシジルメタクリラート、アミノ−(メタ−)アクリラート、例えば2−アミノエチル−(メタ−)アクリラートが挙げられる。
【0028】
他のモノマーとして、架橋性モノマーも挙げられる。
【0029】
極めて特に有利に、ポリマーはカルボン酸基を有するモノマー0.1〜5質量%を含有する。
【0030】
ポリマーのガラス転移温度は、有利に−60〜0℃、特に有利に−60〜−10℃、極めて特に有利に−60〜−20℃である。
【0031】
ガラス転移温度は、通例の方法、例えば示差熱分析又は示差走査熱分析(例えばASTM3418/82、いわゆる「中心点温度(midpoint temperature)」を参照のこと)により測定することができる。
【0032】
ポリマーの製造は、有利な実施態様において乳化重合により行われるため、該ポリマーはエマルションポリマーである。
【0033】
しかしながら、例えば溶液重合及び引き続く水中への分散により製造を行うこともできる。
【0034】
乳化重合の場合、イオン性及び/又は非イオン性乳化剤及び/又は保護コロイドないし安定剤が界面活性化合物として使用される。
【0035】
適した保護コロイドはHouben-Weyl, Methoden der organischen Chemie, 第XIV/1巻, Makromolekulare Stoffe, Georg-Thieme-Verlag, Stuttgart, 1961, 第411〜420頁に詳細に記載されている。乳化剤として、アニオン性、カチオン性並びに非イオン性乳化剤が該当する。有利に、随伴する界面活性物質として、専ら、分子量が保護コロイドとは異なって通常2000g/モル未満である乳化剤のみが使用される。勿論、界面活性物質の混合物を使用する場合には、個々の成分が互いに相溶性でなければならず、このことが疑わしい場合には少しの予備試験に基づいて検査してよい。有利に、アニオン性及び非イオン性乳化剤が界面活性物質として使用される。慣用の随伴する乳化剤は、例えばエトキシ化された脂肪アルコール(EO度:3〜50:アルキル基:C8〜C36)、エトキシ化されたモノ−、ジ−及びトリ−アルキルフェノール(EO度:3〜50:アルキル基:C4〜C9)、スルホコハク酸のジアルキルエステルのアルカリ金属塩、並びにアルキルスルファート(アルキル基C8〜C12)のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、エトキシ化されたアルカノール(EO度:4〜30、アルキル基:C12〜C18)のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、エトキシ化されたアルキルフェノール(EO度:3〜50:アルキル基:C4〜C9)のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、アルキルスルホン酸(アルキル基:C12〜C18)のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、及びアルキルアリールスルホン酸(アルキル基:C9〜C18)のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩である。
【0036】
他の好適な乳化剤は、一般式II
【化1】

[式中、
5及びR6は水素又はC4〜C14−アルキルを表し、かつ同時に水素となることはなく、かつX及びYはアルカリ金属イオン及び/又はアンモニウムイオンであってよい]の化合物である。有利に、R5及びR6は6〜18個のC原子を有する直鎖又は分枝鎖アルキル基又は水素を表し、特に6、12及び16個のC原子有する直鎖又は分枝鎖アルキル基を表し、その際、R5及びR6の双方が同時に水素となることはない。X及びYはナトリウム、カリウム又はアンモニウムイオンであることが好ましく、その際ナトリウムが特に好ましい。X及びYがナトリウムであり、R5が12個のC原子を有する分枝鎖アルキル基であり、かつR6が水素又はR5である化合物IIが特に有利である。50〜90質量%のモノアルキル化生成物の割合を有する工業用混合物、例えばDowfax(R)2A1(Dow Chemical Company社の商標)がしばしば使用される。
【0037】
好適な乳化剤は、Houben-Weyl, Methoden der organischen Chemie, 第14/1巻, Makromolekulare Stoffe, Georg Thieme Verlag, Stuttgart, 1961, 第192〜208頁にも供覧されている。
【0038】
乳化剤の商品名は、例えばDowfax(R)2 A1、Emulan(R) NP 50、Dextrol(R) OC 50、Emulgator 825、Emulgator 825 S、Emulan(R) OG、Texapon(R) NSO、Nekanil(R) 904 S、Lumiten(R) I-RA、Lumiten E 3065、Disponil FES 77、Lutensol AT 18、Steinapol VSL、Emulphor NPS 25である。
【0039】
界面活性物質は、通常、重合すべきモノマーに対して0.1〜10質量%の量で使用される。
【0040】
乳化重合のための水溶性開始剤は、例えばペルオキソ二硫酸のアンモニウム塩及びアルカリ金属塩、例えばペルオキソ二硫酸ナトリウム、過酸化水素又は有機ペルオキシド、例えばt−ブチルヒドロペルオキシドである。
【0041】
いわゆるレドックス酸化(Red-Ox)開始剤系も好適である。
【0042】
レドックス開始剤系は、少なくとも1種の大抵無機還元剤と無機又は有機酸化剤とからなる。
【0043】
酸化成分は、例えば乳化重合のための上記開始剤である。
【0044】
還元成分は、例えば亜硫酸のアルカリ金属塩、例えば亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、二亜硫酸のアルカリ金属塩、例えば二亜硫酸ナトリウム、脂肪族アルデヒド及びケトンの亜硫酸水素塩付加化合物、例えばアセトン亜硫酸水素塩又は還元剤、例えばヒドロキシメタンスルフィン酸及びその塩、又はアスコルビン酸である。レドックス開始剤系は、金属成分が複数の原子価で生じ得る可溶性金属化合物の併用下に使用されてよい。
【0045】
通常のレドックス開始剤系は、例えばアスコルビン酸/硫酸鉄(II)/ペルオキソ二硫酸ナトリウム、t−ブチルヒドロペルオキシド/二亜硫酸ナトリウム、t−ブチルヒドロペルオキシド/ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムである。個々の成分、例えば還元成分は、混合物、例えばヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩と二亜硫酸ナトリウムとからの混合物であってもよい。
【0046】
上記化合物は、大抵は水溶液の形で使用され、その際、下方濃度は、分散液中に存在し得る水の量により決定され、かつ上方濃度は当該化合物の水中での溶解性により決定される。一般に、濃度は溶液に対して0.1〜30質量%、有利に0.5〜20質量%、特に有利に1.0〜10質量%である。
【0047】
開始剤の量は、重合すべきモノマーに対して一般に0.1〜10質量%、有利に0.5〜5質量%である。複数の異なる開始剤を乳化重合の際に使用することもできる。
【0048】
重合の際に、調節剤を、重合すべきモノマー100質量部に対して例えば0〜0.8質量部の量で使用することができ、該調節剤により分子量が低下される。例えば、チオール基を有する化合物、例えばt−ブチルメルカプタン、チオグリコール酸エチルアクリルエステル、メルカプトエチノール、メルカプトプロピルトリメトキシシラン又はt−ドデシルメルカプタンが適切である。
【0049】
乳化重合は通常30〜130℃、有利に50〜90℃で行われる。重合媒体は、水のみからなっていてもよいし、水及び水と混和性の液体、例えばメタノールからの混合物からなってもよい。有利に水のみが使用される。乳化重合は、バッチプロセスとしてのみならず、段階法又は勾配法を含むフィードプロセスの形で実施されてよい。重合バッチの一部を装入し、重合温度に加熱して重合を開始し、次いで重合バッチの残りを、通常は複数の空間的に別個のフィード(該フィードのうち1つ以上は、モノマーを純粋な形か又は乳化された形で含む)を介して、連続的に、段階的に、又は濃度勾配の重複下に重合の保持下に重合帯域に供給するフィードプロセスは有利である。重合の際、例えば、粒径のより良好な調節のために、ポリマーシードを装入することもできる。
【0050】
開始剤をラジカル水性乳化重合の進行中に重合容器に供給する様式は、通常の当業者に公知である。開始剤は完全に重合容器中に装入されてもよいし、消費量に応じてラジカル水性乳化重合の進行中に連続的に、又は段階的に添加されてもよい。特に、これは開始剤系の化学的性質及び重合温度に依存する。有利には一部が装入され、残りは消費量に応じて重合帯域に供給される。
【0051】
残留モノマーを除去するために、通常は、本来の乳化重合の終了後に、即ち少なくとも95%のモノマーの変換後に開始剤が添加される。
【0052】
フィードプロセスの場合、個々の成分は、上方から、側方で、又は下方から反応器底部を介して反応器に添加されてよい。
【0053】
乳化重合の場合、通常15〜75質量%、有利に40〜75質量%の固体含分を有するポリマーの水性分散液が得られる。
【0054】
本発明の範囲内で、50〜75質量%、特に55〜75質量%の固体含分が有利である。
【0055】
反応器の高い空時収率のために、出来る限り高い固体含分を有する分散液が有利である。60質量%を上回る固体含分を達成し得るためには、双峰性又は多峰性の粒径が確立されるのが有利であり、それというのも、さもなくば粘度が高過ぎ、分散液はもはや取扱いできなくなってしまうためである。新規の粒径の発生は、例えばシードの添加により(EP81083)、過剰量の乳化剤の添加により、又はミニエマルションの添加により行われてよい。高い固体含分での低い粘度に伴う更なる利点とは、高い固体含分での改善された被覆特性である。一以上の新規の粒径の発生は、任意の時点で行われてよい。これは、低い粘度のために望まれる粒径分布に依存する。
【0056】
そのように製造されたポリマーは、有利に水性分散液の形で使用される。
【0057】
b)に関して
組成物は更に、三環式ジテルペン誘導体又は三環式ジテルペン誘導体の混合物(端的にまとめて三環式ジテルペンと呼称する)を含有する。
【0058】
テルペンは、10個のC原子(2つのイソプレン単位)を有する炭化水素であり、ジテルペンは20個のC原子(4つのイソプレン単位)を有する炭化水素である。三環式ジテルペンにおいて、4つのイソプレン単位は、3つの結合された脂肪族6員環及び脂肪族置換基(アルキル基及びカルボン酸基)を有する3環系を形成する。有利な基本構造はアビエタン構造である。
【0059】
三環式ジテルペンにおいて、基本構造は例えば化学反応により変性されていてよい。特に、水素原子は化学反応により他の有機基に置換されていてよく(誘導体);特にカルボン酸基のエステル化が挙げられる。
【0060】
三環式ジテルペンは非芳香族二重結合を含有し、一般に1又は2個の二重結合を含有する。二重結合は水素化されて単結合であってもよく、三環式ジテルペン中の二重結合の含分は、三環式ジテルペン100gに対して有利に少なくとも0.01モル、特に有利に少なくとも0.05モル、極めて特に有利に少なくとも0.1モルないし少なくとも0.2モルであり、最大含分は、一分子当たりの二重結合において、約0.6モル/三環式ジテルペン100gである。
【0061】
環式ジテルペンの分子量は、置換基の数及び種類に応じて一般に264(C20三環系)〜400である。
【0062】
三環式ジテルペンは合成により製造されてよいが、有利に天然物質が使用される。天然物質として、特にアビエチン酸、ネオアビエチン酸、レボピマル酸、ピマル酸、イソピマル酸及びパラストリン酸が挙げられる。アビエチン酸ないしアビエチン酸誘導体は、主にロジンとしても公知である。
【0063】
特に化学的に異なる三環式ジテルペンの混合物も好適であり、このような混合物を意図的に製造することができるが、特に天然に存在するか又は天然の原料を後処理することにより得られるような天然の混合物を使用することができる。特に、マツから取得されるトール樹脂が挙げられる。
【0064】
三環式ジテルペンは、有利に0〜90℃、特に有利に40〜85℃のガラス転移温度を有する。
【0065】
三環式ジテルペンの量は、ポリマー100質量部当たり有利に1〜300質量部、特に有利に10〜150質量部、極めて特に有利に30〜120質量部である。
【0066】
c)に関して
水性組成物は、更に、有機酸の金属塩を含有する。
【0067】
このような金属塩は、酸化的な皮膜硬化のための促進剤として使用され、かつ「乾燥剤」という概念でも公知である。
【0068】
金属として、典型金属元素及び遷移金属元素が挙げられる。典型金属元素として、例えばアルカリ土類金属、特にカルシウム、また鉛も挙げられる。遷移金属元素は有利であり、例えば鉄、コバルト、バナジウム及びマンガンが挙げられる。コバルト及びマンガンは特に有利であり、マンガンは極めて特に有利である。金属は金属塩中でカチオンとして存在する。
【0069】
有機酸は有利に、塩中でカルボキシラートアニオンとして存在するカルボン酸である。カルボキシラートアニオンは有利に少なくとも4個のC原子、特に少なくとも6個のC原子、特に有利に少なくとも8個のC原子、極めて特に有利に少なくとも10個のC原子を有する。これは、脂肪族カルボキシラート、特に脂環式カルボキシラート及び不飽和脂肪族カルボキシラート又はその混合物であってよい。例えばいわゆるナフテン酸(これはシクロヘキサンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸又はその混合物である)又は8〜24個のC原子を有する直鎖脂肪族脂肪酸、例えばオレイン酸又はリノール酸が挙げられる。
【0070】
金属塩の量は、三環式ジテルペンに対して有利に0.001〜10質量部、特に有利に0.005〜1質量部、極めて特に有利に0.01〜0.5質量部である。
【0071】
d)に関して
有利な実施態様において、接着剤は充填剤を含有する。
【0072】
充填剤として、特に無機充填剤、特に有利に白色顔料が該当する。例えば炭酸カルシウム又はシリカートが挙げられる。微粒状又は沈降炭酸カルシウム(白亜)又は石英粉末は、例えば一般に2〜100μmの平均粒径を有するが、より粗い粒子も挙げられる。
【0073】
充填剤の量は、例えばポリマー100質量部に対して10〜400質量部であってよい。
【0074】
組成物の更なる詳細
水性組成物は成分a)〜d)に加えて他の成分を含有してよく、例えば増粘剤、消泡剤、保存剤又は湿潤剤ないし分散助剤が挙げられる。
【0075】
湿潤剤は例えば脂肪アルコールエトキシラート、アルキルフェノールエトキシラート、スルホコハク酸エステル、ノニルフェノールエトキシラート、ポリオキシエチレン/−プロピレン又はナトリウムドデシルスルホナートである。
【0076】
ポリマー(固体、溶剤なし)100質量部に対して、湿潤剤は例えば0〜5質量部の量で、増粘剤は0〜10質量部の量で、保存剤は0〜3質量部の量で、及び消泡剤は0〜10質量部の量で、水性組成物中に含有されていてよい。
【0077】
水性組成物は、多くの適用に関して、有機溶剤及び可塑剤、例えばブチルアセタート、トルエン又はフタル酸エステルを、有利にはほとんど含有していないか、好ましくは含有していない。従って該水性組成物は、標準圧力(1バール)で300℃未満の沸点を有する有機化合物を、ポリマー(固体、溶剤なし)100質量部に対して、有利には0.5質量部未満、特に有利には0.1質量部未満、さらに特に有利には0.05質量部未満及び殊には0.01質量部未満の量で含有している。特に有利には、該組成物は、床敷き材設置用の製品における放出物の制御のためのドイツ協会(German Association for the Control of Emissions in Products for Flooring Installation)により規定されているとおりに、無放出物の要求を満足する。
【0078】
放出物を、チャンバ試験法により測定する。床用接着剤もしくは本発明による組成物を、その大きさをチャンバ体積に合わせたガラスプレート上に300g/m2で塗布する。チャンバの負荷は、チャンバ体積1m3当たり、被覆したガラスプレート0.4m2である。特殊鋼試験室の放出条件(体積は少なくとも125リットル)は、23℃、相対空中湿度50%及び1時間ごとの空気の交換であり、これは2時間ごとの全空気の交換をもたらす。10日後に、長期放出を測定する。このために空気流の規定の体積を吸着剤に通過させる。脱着後、放出された物質をガスクロマトグラフィー(GC−MS−カップリング)又は液体クロマトグラフィーにより測定する。長期放出をmg/m3で測定し、その際、トルエンを標準物質として使用する。そのチャンバ濃度が20mg/m3より大である放出物質を同定し、かつ同定された純物質を用い、かつキャリブレーションする。そのチャンバ濃度が20mg/m3よりも小である放出物質は、個別的に同定しない。この場合、トルエンでキャリブレーションを行う。
【0079】
全ての物質の値を加算する。
【0080】
本発明による組成物の場合、全ての有機化合物の合計に関する放出値は、最大で有利には1500mg/m3、及び特に最大500mg/m3である。
【0081】
該水性組成物は他の架橋剤の含分を必要としない。有利には、該組成物はオキサゾリン基を有しておらず、特に有利には、乾性油も、又は他の架橋剤も含有しない。
【0082】
水性接着剤の製造は、単純な方法で、例えば、乳化重合の際に得られたポリマーの水性ポリマー分散液に、成分b)〜d)及び場合により他の添加剤を撹拌下に添加することにより行われることができる。
【0083】
水性分散液の固体含分は有利に50〜95質量%、特に有利に60〜90質量%、極めて特に有利に70〜85質量%であり、水性組成物の水含分は相応して有利に5〜50質量%、特に有利に10〜40質量%、極めて特に有利に15〜30質量%である。
【0084】
使用に関して
本発明による組成物は特に接着剤として好適である。
【0085】
特に、該組成物は、単一成分(1K)接着剤として、即ち使用前に他の架橋剤又は他の反応性化合物の添加を必要としない接着剤として好適である。従って、接着剤は必要な成分を既に全て含有しており、かつ貯蔵安定性である。
【0086】
本発明による組成物は任意の成形部材の持続的な結合のために使用されることができる。結合すべき成形部材は、種々の材料から、例えば木材、金属、プラスチック、皮革、セラミック又は他の材料からなってよく、結合すべき成形部材は同じか又は異なる材料からなっていてもよい。この種の接着剤は工業用接着剤又は二次接着剤としても公知である。
【0087】
該組成物は、床敷き材用接着剤として極めて好適である。この場合、可撓性床敷き材、例えば絨毯裏地のみならず、非可撓性床敷き材、例えば寄木張り床材又は貼合せ床材も挙げられる。
【0088】
接着すべき床敷き材は、極めて特に有利に可撓性床敷き材である。
【0089】
可撓性床敷き材とは、特に、絨毯裏地、又は、例えばPVCからなる他の床敷き材(実施例中では多層の床敷き材又は同質の床敷き材として)、繊維織物支持体(例えばジュート)を有する発泡材料床敷き材、ポリエステルフリース、ゴム製床敷き材、例えば種々の裏地(例えばポリウレタンフォーム、スチレン−ブタジエン−フォーム、繊維織物の第二の裏地)を有する繊維織物床敷き材、ニードルフェルト床敷き材、ポリオレフィン床敷き材又はリノリウム床敷き材である。
【0090】
前記可撓性床敷き材は、例えば木材、プラスチック、鉱物支持体、例えばモルタル、コンクリート、セラミックタイル、金属支持体等からなる支持体上に接着することができる。
【0091】
該接着剤は、例えばくし形塗布装置(toothed applicator)を用いて支持体上に塗布することができ、その後、床敷き材を敷設する。
【0092】
本発明による使用の場合、応用技術的特性、例えば剥離強度、剪断強度、湿態強度、オープンタイム及び耐熱性の良好な水準に達する。組成物ないし接着剤は容易に製造可能であり(乾燥剤c)は混入撹拌のみを必要とするに過ぎない)、かつ適用の際にそのレオロジーに基づき良好に使用可能である。特に該接着剤は貯蔵安定性でもあり、接着剤の表面上での皮膜形成は数日後であっても認められないか、又はほとんど認められない。
【実施例】
【0093】
1.乳化重合によるポリマーの製造
種々のポリマーA)を、通常の乳化重合により、ポリスチレンシード(モノマー100質量部に対して0.2質量部)及び開始剤としての過硫酸ナトリウム0.5質量部及びDisponil(R) FES 77(エトキシ化された硫酸ナトリウム、Cognis Deutschland GmbH & Co. KG, デュッセルドルフ在)1質量部及び乳化剤としてのLumiten(R) ISC(コハク酸エステル、BASF AG)0.5質量部の使用下に製造した。
【0094】
ポリマーの組成物を第1表に示す:
【表1】

【0095】
EA:エチルアクリラート
MA:メチルアクリラート
MMA:メチルメタクリラート
AS:アクリル酸
AN:アクリロニトリル
BA:n−ブチルアクリラート
tDMK:分子量調節剤t−ドデシルメルカプタン
(モノマー100質量部に対する質量部での表記)
FG:固体含分
【0096】
2.水性接着剤の組成物
ポリマー分散液1〜5を55%の固体含分に調節し、他の成分を該ポリマー分散液に添加し、撹拌した。
【0097】
接着剤は以下の組成を有していた:
NaOHでpH8に調節されたポリマー分散液 27.3質量%
Latekoll(R) D溶液(3%)、(増粘剤、BASF AG) 9.3質量%
アビエチン酸誘導体(Willers, Engel & Co.,ハンブルグ在のDercol M10-B 45質量%並びにRobert Kraemer GmbH & Co. KG, ラステーデ在のBremasin 1205 55質量%からなる混合物) 19.0質量%
Agitan(R) 282(消泡剤、Muenzing Chemie GmbH, ハイルブロン在) 0.2質量%
Pigmentverteiler(R) NL(分散助剤、BASF AG) 1.0質量%
炭酸カルシウム(Ulmer Weiss XM, Eduard Merkle GmbH & Co., ブラウボイレン在) 43.2質量%
Soligen Mangan(R) 6 aqua(乾燥剤、Borchers GmbH, ランゲンフェルト在) 0.1又は0.5質量%
【0098】
II.応用技術的試験
湿態強度(NAV)
DINナイフを用いてセメントファイバーボード(20×50cm)上に搬出方向に接着剤を塗布する。塗布量は約350〜400g/m2である。ニードルフェルト床敷き材(NBBストリップ)を10分間の換気後に接着剤床に敷設し、かつ2.5kgのローラーで3回往復して圧着する。記載されている時間間隔で、該床敷き材を搬出装置から取り出し、かつその際、剥離抵抗の増加をN5cmで測定する。
【0099】
オープンタイム(TAV)
DINナイフを用いてセメントファイバーボード(20×50)上に搬出方向に接着剤を塗布する。塗布量は約250〜300g/m2である。PVCストリップを異なる換気後に接着剤床に敷設し、かつ2.5kgのローラーで3回往復して圧着する。次いで、該ストリップを搬出装置から取り出し、剥離抵抗をN5cmで測定する。
【0100】
耐熱性
セメントファイバーボードをPVC床敷き材(接着表面5×2cm)と共に、標準気候条件(1バール、23.5℃)で14日間貯蔵した。その後、これを循環空気棚中で50℃で30分間熱処理し、次いで吊下げて2kgの負荷をかけた。接着が分離するまでの時間を耐熱性の尺度とする。
【0101】
動的剪断強度
オーク材のブロックを接着剤で被覆し(ナイフ:間隙幅3.3mm、間隙深さ3mm)、重ね合わせて接着させ(接着面26×23mm)、2キロの重りで1分間圧着した。標準気候条件(1バール、23.5℃)での記載された貯蔵時間の後に、剪断強度(N/mm2)を引張り試験装置で測定した。
【0102】
結果を第3表に示す。
【0103】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下
a)ラジカル重合により得られるポリマー
b)三環式ジテルペン誘導体又は三環式ジテルペン誘導体の混合物(端的にまとめて三環式ジテルペンと呼称する)
c)有機酸の金属塩
d)場合により充填剤
を含有する水性組成物。
【請求項2】
ポリマーは少なくとも40質量%までが、C1〜C20アルキル(メタ)アクリラート、20個までのC原子を有するカルボン酸のビニルエステル、20個までのC原子を有するビニル芳香族化合物、エチレン性不飽和ニトリル、ハロゲン化ビニル、1〜10個のC原子を有するアルコールのビニルエーテル、2〜8個のC原子と1個又は2個の二重結合とを有する脂肪族炭化水素又は前記モノマーの混合物から選択されるいわゆる主モノマーからなる、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ポリマーは少なくとも40質量%までが、C1〜C20アルキル(メタ)アクリラートからなる、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
ポリマーのガラス転移温度が−60〜0℃である、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
ポリマーがエマルションポリマーであり、かつポリマーが水性ポリマー分散液の形で存在する、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
水性ポリマー分散液の固体含分が50〜75質量%、特に55〜70質量%である、請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
三環式ジテルペンがアビエチン酸である、請求項1から6までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
三環式ジテルペンがジテルペンの天然混合物、特にトール樹脂である、請求項1から7までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
ジテルペンが三環式ジテルペン100g当たり少なくとも0.01モルの二重結合含分を有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
三環式ジテルペンの量がポリマー100質量部当たり1〜300質量部である、請求項1から9までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
金属塩がカルボン酸の塩、即ちカルボキシラートである、請求項1から10までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
金属塩が少なくとも6個のC原子を有するカルボン酸の塩である、請求項1から11までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
金属塩がコバルト又は特にマンガンの塩である、請求項1から12までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項14】
金属塩の量がジテルペン100質量部当たり0.001〜10質量部である、請求項1から13までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項15】
組成物がポリマー100質量部当たり10〜400質量部の充填剤を含有する、請求項1から14までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項16】
組成物中での300℃未満の沸点(1バール)を有する有機化合物の含分が0.5質量%未満である、請求項1から15までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項17】
組成物がオキサゾリン基を有しない、請求項1から16までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項18】
他の架橋剤を含有しない、請求項1から17までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項19】
組成物の固体含分が50〜95質量%である、請求項1から18までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項20】
接着剤としての、請求項1から19までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項21】
単一成分(1K)接着剤としての、即ち使用前に他の架橋剤又は他の反応性化合物の添加を必要としない接着剤としての、請求項1から19までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項22】
床敷き材用接着剤としての、請求項1から19までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項23】
可撓性床敷き材用接着剤、特に絨毯裏地用接着剤としての、請求項1から19までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項24】
接着剤を支持体に塗布し、次いで床敷き材を敷設することを特徴とする、床敷き材用接着剤としての、請求項1から19までのいずれか1項記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2009−540034(P2009−540034A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513655(P2009−513655)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055374
【国際公開番号】WO2007/141198
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】