説明

廃棄物の溶融処理方法及び装置

【課題】 廃棄物を容器に密閉して溶融炉に投入して処理する場合、溶融スラグからの伝熱により廃棄物の溶融を促進し、かつ、可燃物の急速な揮発に起因する問題等を起こすことのない廃棄物の溶融処理方法及び装置を提供すること。
【解決手段】 本方法は、溶融炉1の炉床に溶融スラグ20を溜めてその深さを所定範囲内に調整する第1工程と、この第1工程で溶融スラグ20の深さを調整した溶融炉1の炉床に容器22を投入して該溶融スラグ20に浸しながらこの容器22及び当該容器22内の廃棄物を溶融させる第2工程とを含み、前記第1工程では、前記第2工程で溶融スラグ20に容器22が浸された状態でその容器22の高さを溶融スラグ20の深さが超えないように該溶融スラグ20の深さを調整するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物を封入した容器を溶融炉に投入して溶融処理する方法及び装置に関するものであって、例えば都市ごみ、金属くず、有害廃棄物、産業廃棄物等の固形廃棄物の溶融処理に好適である。
【背景技術】
【0002】
これまで、コンクリート片、金属片、ガラス等、多種の不燃物が混合された廃棄物を溶融炉で溶融処理する場合、その溶融処理には一定の時間を必要とすることから、一定量の廃棄物を溶融処理後、適宜溶融炉本体を傾動させることにより、溶融炉本体に溜まった溶融スラグを出口から一時に排出する、所謂バッチ式の溶融炉を用いることが多い(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−5424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、有害物質等を含む廃棄物では、廃棄物を容器に密閉した状態で溶融炉に投入することが通常である。しかしながら、特許文献1の溶融炉で、この容器を溶融処理しようとすると、溶融炉の炉床に形成される溶融スラグの深さによって容器と溶融スラグとの接触面積が変動し、ひいてはその容器の加熱速度が変動して良好でかつ安定した溶融処理ができなくなるおそれがある。例えば廃棄物に可燃物が含まれている場合、その容器の加熱速度が高すぎると、容器が溶融して孔があく前に内部の可燃物の揮発による著しい体積膨張が起こることにより、溶融処理中に容器が破裂して、溶融処理が困難となるおそれがあった。したがって、特許文献1の溶融炉では、廃棄物を封入した容器について、安定した溶融処理を行うことが困難であった。
【0004】
本発明は、以上のような課題を考慮してなされたものであり、廃棄物を封入した容器について、安定した溶融処理を行うことのできる廃棄物の溶融処理方法及び装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、廃棄物を封入した容器を溶融炉に投入して溶融処理する方法であって、溶融炉の炉床に溶融スラグを溜めてその深さを所定範囲内に調整する第1工程と、この第1工程で溶融スラグの深さを調整した溶融炉の炉床に容器を投入して該溶融スラグに浸しながらこの容器及び当該容器内の廃棄物を溶融させる第2工程とを含み、前記第1工程では、前記第2工程で溶融スラグに容器が浸された状態でその容器の高さを溶融スラグの深さが超えないように該溶融スラグの深さを調整することを特徴とするものである。
【0006】
請求項2記載の発明のように、第1工程では、溶融スラグに容器が浸された状態で、その容器の高さの1/4以上となるように該溶融スラグの深さを調整することが好ましい。
【0007】
請求項3記載の発明のように、第1工程では、溶融スラグに容器が浸された状態で、その容器の高さの1/2以下となるように該溶融スラグの深さを調整することが好ましい。
【0008】
請求項4記載の発明のように、第2工程では、プラズマトーチで発生させたプラズマを用いて、前記溶融スラグ中に投入された容器を溶融処理することが好ましい。
【0009】
請求項5記載の発明は、廃棄物を封入した容器を溶融炉に投入して溶融処理する装置であって、溶融炉の炉床に溶融スラグを溜めてその深さを所定範囲内に調整する調整手段と、この調整手段で溶融スラグの深さを調整した溶融炉の炉床に容器を投入して該溶融スラグに浸しながらこの容器及び当該容器内の廃棄物を溶融させる溶融手段とを含み、前記調整手段では、前記溶融手段で溶融スラグに容器が浸された状態でその容器の高さを溶融スラグの深さが超えないように該溶融スラグの深さを調整することを特徴とするものである。
【0010】
請求項6記載の発明のように、調整手段は、溶融スラグに容器が浸された状態で、その容器の高さの1/4以上となるように該溶融スラグの深さを調整することが好ましい。
【0011】
請求項7記載の発明のように、調整手段は、溶融スラグに容器が浸された状態で、その容器の高さの1/2以下となるように該溶融スラグの深さを調整することが好ましい。
【0012】
請求項8記載の発明のように、溶融手段は、プラズマトーチを備え、このプラズマトーチで発生させたプラズマを用いて前記溶融スラグ中に投入された容器を溶融処理することが好ましい。
【0013】
ところで、バッチ式の溶融炉では、溶融処理後に溶融スラグを一時に排出するために、その溶融スラグの深さを溶融処理中とは異なる深さに調整する必要がある。そこで、請求項9記載の発明のように、調整手段は、溶融炉の炉床に形成された溶融スラグの出口の高さを変化させることにより、該溶融スラグの深さを調整するものであることが好ましい。
【0014】
請求項10記載の発明のように、調整手段は、溶融炉の炉床を水平状態から所定角度だけ傾斜させて傾斜状態とすることにより、前記溶融スラグの出口の高さを変化させることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
請求項1,5記載の発明によれば、溶融炉の炉床に溶融スラグを溜められてその深さが所定範囲内に調整される。この溶融スラグの深さが調整された溶融炉の炉床に容器が投入されて該溶融スラグに浸されながらこの容器及び当該容器内の廃棄物が溶融される。この際に、前記溶融スラグに容器が浸された状態でその容器の高さを溶融スラグの深さが超えないように該溶融スラグの深さが調整される。したがって、容器と溶融スラグとの接触面積が確保されるから、その溶融スラグから容器への伝熱によりその容器及び部の廃棄物の溶融が促進されて、それらの効率的な溶融処理を行うことができるようになる。また、廃棄物に可燃物が含まれている場合でも、容器内部の温度上昇を抑えつつその底部は加熱されて前記可燃物の揮発による著しい体積膨張が起こる前に溶融して孔があくから、溶融処理中に容器が破裂するおそれがなくなり、廃棄物を封入した容器について安定した溶融処理を行うことができるようになる。
【0016】
請求項2,6記載の発明によれば、溶融スラグに容器が浸された状態で、その容器の高さの1/4以上となるように該溶融スラグの深さが調整されるので、容器と溶融スラグとの必要最小限度の接触面積が確保されるから、その溶融スラグから容器への伝熱によりその容器及び内部の廃棄物の溶融が一層促進されて、それらのより効率的な溶融処理を行うことができるようになる。
【0017】
請求項3,7記載の発明によれば、溶融スラグに容器が浸された状態で、その容器の高さの1/2以下となるように該溶融スラグの深さが調整されるので、廃棄物に可燃物が含まれている場合でも、容器内部の温度上昇を抑えつつその底部は加熱されて前記可燃物の揮発による著しい体積膨張が起こる前に溶融して孔があくことが保障されるから、溶融処理中に容器が破裂するおそれが全くなくなり、廃棄物を封入した容器についてより安定した溶融処理を行うことができるようになる。
【0018】
請求項4,8記載の発明によれば、プラズマトーチで発生させたプラズマを用いて、前記溶融スラグ中に投入された容器が溶融処理されるので、高温のプラズマによる廃棄物の効率的な溶融処理が行われるようになる。
【0019】
請求項9記載の発明によれば、溶融炉の炉床に形成される溶融スラグの出口の高さを変化させることにより、該溶融スラグの深さが調整されるので、溶融スラグの深さを所定範囲に確実に維持できるようになる。
【0020】
請求項10記載の発明によれば、溶融炉の炉床を水平状態から所定角度だけ傾斜させて傾斜状態とすることにより、溶融スラグの出口の高さが変化させられるので、常時高温に曝される溶融スラグの出口の高さを調整するための複雑な機構が不要となり、比較的簡単な構成で、溶融スラグの深さを確実に維持できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明の一実施形態に係る廃棄物の溶融炉の全体構成を示す図であって、(a)は縦断面図、(b)は(a)におけるA−A線断面図である。
【0022】
図1(a)(b)に示すように、本実施形態に係る廃棄物の溶融炉1は、負圧下で廃棄物を溶融処理できるバッチ式の溶融炉であって、主として炉本体(その下部の炉床を含む。)10と、排ガス出口11と、溶融スラグ出口12と、容器投入口13とから構成されている。
【0023】
炉本体10は、耐火物によって内張りされた縦円筒形の筐体を有し、図1(a)における筐体の左右方向の略中央から前後に向けてそれぞれ突設された回動軸19(図1(b)では左右に突設している。)が、ベースG上に立設された支持部材18によって回動自在に支持されている。そして、炉本体10の下部左側とベースG上とでそれぞれピン結合された伸縮シリンダ14の伸縮動作により、その炉本体10が回動軸19回りに回動して水平状態から所定角度だけ傾斜した傾斜状態とすることができるようになっている(図2(b)参照)。
【0024】
この所定角度は、水平状態で容器22の投入後の所定時間だけ溶融処理をしてから傾斜状態とされた炉本体10をもとの水平状態に戻したときに、後述する溶融スラグ出口12手前のスロープ12aで規制されて炉本体10内の溶融スラグ20の深さが投入状態の容器22の高さの1/2程度から1/4程度まで減少するように設定される。したがって、この伸縮シリンダ14と溶融スラグ出口12手前のスロープ12aとが調整手段を構成する。
【0025】
この炉本体10の天井部には、容器20に封入して容器投入口13から投入された廃棄物をその容器22とともに溶融するためのプラズマトーチ16と、その溶融の様子を監視するための計測機器17とが設置されている。したがって、このプラズマトーチ16が溶融手段を構成する。なお、炉本体10内は負圧にされており、この炉本体10のシール部分等から容器22に封入された廃棄物が溶融する際に発生する有害ガスが外部にリークしないようになっている。
【0026】
排ガス出口11は、図1(a)における炉本体10の後側の回動軸19(図1(b)では右側にある。)の中心部分を軸方向に貫通しており、炉本体10の回動の影響を受けることなく排ガスを外部に導けるようになっている。この排ガス出口11は、炉本体10内で、容器22とともに廃棄物を溶融した溶融スラグ20面の上方の雰囲気21中に開口されている。そして、この炉本体10内の雰囲気21が排ガスとして図外の誘引ファンで誘引され外部に排出されるようになっている。
【0027】
溶融スラグ出口12は、図1(a)における炉本体10の右側にあって、横長の長方形断面を有しており、その炉本体10の回動により、溶融スラグ20を下部に設置したスラグ容器15内に排出できるように、その溶融スラグ20の表面よりも若干上方に設けられている。この溶融スラグ出口12は、炉本体10に内張りされた耐火物の一部を抜き出して形成されるが、この溶融スラグ出口12の手前(炉内側)と直後(炉外側)とにそれぞれスロープ12a,12bが形成されている。
【0028】
溶融スラグ出口12の手前のスロープ12aは、比較的緩い上り傾斜となっており、これは炉本体10内に投入された容器22がプラズマトーチ16のほぼ真下で止まるようにし、プラズマトーチ16で容器22を廃棄物とともに溶融させてなる溶融スラグ20を所定高さに滞留させるための堰を構成し、この堰を越える溶融スラグ20を溶融スラグ出口12にスムーズに案内するためのものである。
【0029】
また溶融スラグ出口12の直後のスロープ12bは、比較的急な下り傾斜となっており、これは溶融スラグ出口12から排出される溶融スラグ20をスラグ容器15内に重力落下させるためのものである。なお、スロープ12bから落下する溶融スラグ20を正確にスラグ容器15に案内するためのガイド12cをも設けている。溶融スラグ20は、スラグ容器15に入ると、ここで冷却されて固体のスラグ15aとなり、その後に外部に搬出される。なお、溶融スラグ出口12からスラグ容器15までの溶融スラグ20の搬送経路は例えば蛇腹で覆われた気密構造となっている。
【0030】
容器投入口13は、図1(a)における炉本体10の左側にあって、正方形断面を有しており、溶融スラグ20の表面よりも上方に設けられている(図1(b)では手前側にある)。この容器投入口13は、外部で廃棄物が封入された容器22を負圧状態の炉本体10に投入するためのものであるが、そのために容器投入口13は、例えば同時に開かない二重蓋を設けた気密構造となっている。なお、容器投入口13から炉本体10内に投入される容器22の姿勢(投入状態)は任意であるが、例えばドラム缶の場合には、炉本体10内で転動させてプラズマトーチ16のほぼ真下にもってくることができるように、横向きにして投入される。
【0031】
ところで、図3に示すように、溶融対象物である容器22の表面からの伝熱を考慮すると、溶融スラグ20に浸漬している部分は、溶融スラグ20からの熱伝達H1を受ける。一方、溶融スラグ20の表面よりも上にある部分は、炉本体10内の雰囲気21からの熱伝達H2を受ける。溶融スラグ20および雰囲気21の温度はほぼ等しいが、液体である溶融スラグ20から受ける熱伝達H1の方が、気体である雰囲気21から受ける熱伝達H2よりも数十〜百数十倍も大きい。このため、炉本体10内の溶融スラグ20の深さを溶融対象物である容器22の高さと同等程度まで深くして溶融効率を向上させることが考えられる。
【0032】
しかし、溶融対象物である廃棄物は、不燃物が主であるものの、その組成には、若干の炭素分等の可燃分が含まれていることがある。そのような場合に、炉本体10内に投入される容器22の高さと同等の深さの溶融スラグ20中に、廃棄物を封入した容器22を投入したのでは、廃棄物に可燃物が含まれている場合、その容器22の加熱速度が高くなりすぎて、容器22が溶融して孔があく前に内部の可燃物が加熱されて極めて短時間に揮発し、容器22が炉本体10内で破裂して溶融スラグ20が飛び散り、プラズマトーチ16や計測機器17、あるいは炉本体10内面の耐火物を破損するおそれがある。
【0033】
さらには、本実施形態のように負圧下で廃棄物を溶融するような場合には、容器22の破裂とともに、大量の可燃ガスが炉本体10内に放散され、炉本体10内の酸素と急激に結合して大量の熱を瞬時に発生して容積が膨張し、炉本体10内の圧力が急上昇して正圧となって、炉本体10体のシール部分等から炉本体10内の有害ガスがリークするおそれもある。
【0034】
そこで、本発明者は、炉本体10内の溶融スラグ20の深さを調整することにより、容器22の破裂等を生じない範囲で溶融スラグ20からの伝熱を有効利用することに着目し、本実施形態に係る溶融炉1を用いて、以下のような実験を行った。
【0035】
図4は溶融スラグの深さと容器の溶融に要する時間との関係を示す説明図である。図4において、溶融スラグ20が深いほど、溶融スラグ20と溶融対象物である容器22との接触面積が大きくなり、その溶融対象物への伝熱が促進されて、短時間で溶融が完了している様子がわかる。
【0036】
その一方で、溶融スラグ20の深さが容器22の高さの1/2を越えると、容器22の破裂が観察されるようになる。すなわち、図4において、S2は容器22内からガスの急激な噴出しがあった領域であり、S3は溶融スラグ20の飛散や容器22の破裂があった領域である。
【0037】
一方、溶融スラグ20の深さが容器22の高さの1/4よりも小さいと、溶融対象物である容器22への伝熱が十分でなくなり、溶融に要する時間が急激に大きくなる。すなわち、図4において、S4は溶融に時間がかかりすぎた領域である。
【0038】
この実験結果から、溶融スラグ20の深さを、図4のS1の領域で示すように、容器22の高さの1/4〜1/2の範囲(S1)内とすることにより、容器22の破裂が炉本体10内で起こらず、かつ溶融速度を好適に保持できることができることがわかった。
【0039】
図2は本実施形態の溶融炉の動作を示す側断面図であって、(a)は投入容器の溶融時の様子、(b)は溶融スラグの排出時の様子をそれぞれ示す。以下、図2(a)(b)を参照して本実施形態の溶融炉1の動作を説明する。
【0040】
初期状態では、炉本体10は、伸縮シリンダ14が縮小した状態にあって、その炉本体10は水平状態となっている。なお、容器投入口13から最初の容器22を投入するまでは、溶融処理が行われていないため、炉本体10内に溶融スラグ20が形成されていない。ここでは、最初の容器22が溶融して炉本体10内に溶融スラグ20が滞留した状態であるものとする。
【0041】
すなわち、図2(a)に示すように、廃棄物を封入した容器(例えばドラム缶)22が、容器投入口13から炉本体10に横向きにして投入されると、この投入された容器22は、炉本体10内の底面上を転動していき、一旦溶融スラグ出口12手前のスロープ12aを上りかけるが、重力で逆方向に戻され、その結果プラズマトーチ16のほぼ真下に停止されることとなる。停止した容器22は、内部の廃棄物とともに、プラズマトーチ16から発生する高温のプラズマによって効率よく溶融され、液体の溶融スラグ20となる。
【0042】
この溶融時に発生する排ガスは、炉本体10の回動軸19を挿通する排ガス出口11から炉外に排出される。
【0043】
そして、容器22及び廃棄物の溶融が進み、やがて溶融スラグ20の深さが容器22の溶融前高さの1/2(ドラム缶であれば、もとの直径の1/2)に到達すると、容器投入口13から次の容器22を投入するのを一旦停止する。この停止のタイミングは、例えば先の容器22の投入後の時間で設定される。
【0044】
しかる後、図2(b)に示すように、伸縮シリンダ14が伸長されて炉本体10の底部左側が押し上げられる。すると、炉本体10は回動軸19を中心として時計まわりに回動して、炉本体10は、前記所定角度だけ傾斜した傾斜状態となる。この傾斜状態の炉本体10においては、溶融スラグ20は手前のスロープ12aを越えて溶融スラグ出口12から排出され、さらに、その直後のスロープ12bとガイド12cとに案内されてスラグ容器15に向かって正確に重力で流れ落ちることとなる。
【0045】
溶融スラグ20のスラグ容器15への重力落下が止まった後に、伸縮シリンダ14が縮小されて炉本体10の底部右側が押し下げられる。すると、炉本体10は回動軸19を中心として反時計まわりに回動して、炉本体10は、水平状態に戻る。この水平状態の炉本体10においては、その炉本体10内に滞留する溶融スラグ20の深さが容器22の溶融前高さの1/4(ドラム缶であれば、もとの直径の1/4)まで減少している。この状態で、炉本体10内への容器22の投入が再開される。上記各工程を繰り返す。
【0046】
本実施形態によれば、溶融炉1の炉床に溶融スラグ20を溜められてその深さが所定範囲内に調整される。この溶融スラグ20の深さが調整された溶融炉1の炉床に容器22が投入されて該溶融スラグ20に浸されながらこの容器22及び当該容器22内の廃棄物が溶融される。この際に、前記溶融スラグ20に容器が浸された状態でその容器22の高さを溶融スラグ20の深さが超えないように該溶融スラグ20の深さが調整される。したがって、容器22と溶融スラグ20との接触面積が確保されるから、その溶融スラグ20から容器22への伝熱によりその容器22及び内部の廃棄物の溶融が促進されて、それらの効率的な溶融処理を行うことができるようになる。また廃棄物に可燃物が含まれている場合でも、容器22内部の温度上昇を抑えつつその底部は加熱されて前記可燃物の揮発による著しい体積膨張が起こる前に溶融して孔があくから、溶融処理中に容器22が破裂するおそれが全くなくなり、廃棄物を封入した容器22について安定した溶融処理を行うことができるようになる。
【0047】
本発明の変形例を以下説明する。
【0048】
この変形例に係る溶融炉1aでは、図5に示すように、溶融スラグ20を炉本体10から排出するにあたり、その炉本体10にタッピングマシン30で機械的に孔31をあけ、その下方に設置されたスラグ容器32に炉本体10からその孔31を介して溶融スラグ20を排出するものである。溶融スラグ20の排出を止めるには、図示しないマッドガンを用いて孔31に粘土を詰めると、溶融炉1の炉本体10が高熱であるためにその粘土が焼結して孔31が塞がれるようになる。次回に溶融スラグ20を外部に排出する際には、この粘土部分にタッピングマシン30で孔31をあければよい。
【0049】
この場合にも、溶融スラグ20の深さが、溶融対象物である容器22の高さの1/4〜1/2の範囲内となるように、タッピングマシン30を操作すれば、好適な溶融特性が得られるようになる。
【0050】
なお、上記実施形態及びその変形例では、プラズマトーチ16を1本だけ設けて、容器22を1個ずつ間欠的に炉本体10に投入して溶融処理する、所謂バッチ式の溶融炉を例示しているが、プラズマトーチ16をさらに多数本設けてもよい。また、容器22を同時に複数個ずつ炉本体10内に投入して溶融処理するようにしてもよい。さらに、容器22の溶融処理時間をさらに短縮できれば、その溶融スラグを連続して排出する、所謂連続式の溶融炉を採用することとしてもよい。
【0051】
なお、上記実施形態及びその変形例では、容器22は円筒形のドラム缶を例示したが、その他の形状の容器であってもよい。また、容器22の投入状態は、必ずしも横向きとなっている必要はなく、例えば縦向きとなっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係る廃棄物の溶融炉の全体構成を示す図であって、(a)は縦断面図、(b)は(a)におけるA−A線断面図である。
【図2】本実施形態の溶融炉の動作を示す側断面図であって、(a)は投入容器の溶融時の様子、(b)は溶融スラグの排出時の様子をそれぞれ示す。
【図3】溶融スラグから容器への伝熱の様子を模式的に示す説明図である。
【図4】溶融スラグの深さと容器の溶融に要する時間との関係を示す説明図である。
【図5】溶融深さと溶融に要する時間との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1,1a 溶融炉
10 炉本体(炉床)
11 排ガス出口
12 溶融スラグ出口
12a スロープ(調整手段)
12b スロープ
12c ガイド
13 容器投入口
14 伸縮シリンダ(調整手段)
15 スラグ容器
16 プラズマトーチ(溶融手段)
17 計測機器
18 支持部材
19 回動軸
20 溶融スラグ
21 雰囲気
22 容器
30 タッピングマシン
31 孔
32 スラグ容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物を封入した容器を溶融炉に投入して溶融処理する方法であって、
溶融炉の炉床に溶融スラグを溜めてその深さを所定範囲内に調整する第1工程と、
この第1工程で溶融スラグの深さを調整した溶融炉の炉床に容器を投入して該溶融スラグに浸しながらこの容器及び当該容器内の廃棄物を溶融させる第2工程とを含み、
前記第1工程では、前記第2工程で溶融スラグに容器が浸された状態でその容器の高さを溶融スラグの深さが超えないように該溶融スラグの深さを調整することを特徴とする廃棄物の溶融処理方法。
【請求項2】
第1工程では、溶融スラグに容器が浸された状態で、その容器の高さの1/4以上となるように該溶融スラグの深さを調整することを特徴とする請求項1記載の廃棄物の溶融処理方法。
【請求項3】
第1工程では、溶融スラグに容器が浸された状態で、その容器の高さの1/2以下となるように該溶融スラグの深さを調整することを特徴とする請求項1又は2記載の廃棄物の溶融処理方法。
【請求項4】
第2工程では、プラズマトーチで発生させたプラズマを用いて、前記溶融スラグ中に投入された容器を溶融処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の廃棄物の溶融処理方法。
【請求項5】
廃棄物を封入した容器を溶融炉に投入して溶融処理する装置であって、
溶融炉の炉床に溶融スラグを溜めてその深さを所定範囲内に調整する調整手段と、
この調整手段で溶融スラグの深さを調整した溶融炉の炉床に容器を投入して該溶融スラグに浸しながらこの容器及び当該容器内の廃棄物を溶融させる溶融手段とを含み、
前記調整手段では、前記溶融手段で溶融スラグに容器が浸された状態でその容器の高さを溶融スラグの深さが超えないように該溶融スラグの深さを調整することを特徴とする廃棄物の溶融処理装置。
【請求項6】
調整手段は、溶融スラグに容器が浸された状態で、その容器の高さの1/4以上となるように該溶融スラグの深さを調整することを特徴とする請求項1記載の廃棄物の溶融処理装置。
【請求項7】
調整手段は、溶融スラグに容器が浸された状態で、その容器の高さの1/2以下となるように該溶融スラグの深さを調整することを特徴とする請求項1又は2記載の廃棄物の溶融処理装置。
【請求項8】
溶融手段は、プラズマトーチを備え、このプラズマトーチで発生させたプラズマを用いて前記溶融スラグ中に投入された容器を溶融処理することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の廃棄物の溶融処理装置。
【請求項9】
調整手段は、溶融炉の炉床に形成された溶融スラグの出口の高さを変化させることにより、該溶融スラグの深さを調整するものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の廃棄物の溶融処理装置。
【請求項10】
調整手段は、溶融炉の炉床を水平状態から所定角度だけ傾斜させて傾斜状態とすることにより、前記溶融スラグの出口の高さを変化させることを特徴とする請求項9記載の廃棄物の溶融処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−300420(P2006−300420A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123142(P2005−123142)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】